日本看護科学会誌
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原著
統合失調症入院患者の身体活動と睡眠指標の関連
武内 玲川田 美和柴田 真志
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2019 年 39 巻 p. 68-73

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Abstract

目的:本研究の目的は,慢性期統合失調症患者の日中の身体活動と睡眠指標の関連を明らかにすることであった.

方法:対象者は慢性期統合失調症入院患者27名(男性17名,女性10名,平均年齢58.3 ± 11.6歳)であった.客観的睡眠指標として小型体動計を用いて,総睡眠時間(TST),入眠潜時(SL),中途覚醒時間(WASO)および睡眠効率(SE)を評価した.また,主観的睡眠指標としてピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を実施した.身体活動指標は歩数を採用し,一軸加速度計を用いて客観的睡眠指標とともに1週間測定した.

結果:歩数は,SE(r = .629, p < .01)およびTST(r = .406, p < .05)と有意な正の関連が,またWASO(r = –.615, p < .01)と有意な負の相関関係が認められた.一方,歩数とPSQIスコアに関連は見られなかった.

考察:身体活動の多い統合失調症入院患者は客観的睡眠指標が良好であり,身体活動を高めることが睡眠の改善に結びつく可能性が示唆された.

Translated Abstract

Purpose: The purpose of this study was to examine the correlations between daily physical activity and objective/subjective sleep variables in schizophrenic patients.

Methods: Twenty-seven schizophrenia patients (male 17, female 10, mean age: 58.3 ± 11.6 years, no change in medicine for one month of the study) were evaluated with regard to their physical activity and objective sleep variables for one week. Total sleep time (TST), sleep latency (SL), waking after sleep onset (WASO), and sleep efficiency (SE) were determined by wrist actigraphy. Daily physical activity (steps per day) was assessed with the help of a waist pedometer. Subjective sleep quality was also assessed using the Pittsburgh Sleep Quality Index (PSQI).

Results: Physical activity showed significant correlation with SE (r = .629, p < .01), TST (r = .406, p < .05), and WASO (r = –.615, p < .01). On the other hand, there was no correlation between physical activity and PSQI score.

Conclusion: Our results suggest that objective sleep quality index in schizophrenia inpatients may be more effectively improved by increasing the amount of daily physical activity.

Ⅰ. 緒言

睡眠障害は多くの精神疾患患者にみられ,急性期で8割以上,慢性期や外来患者で約4割とされている(井上,2010).また,壮年期の統合失調症患者(Afonso et al., 2014)では,健常者に比べて就床時間が長く,夜間の睡眠障害が著明であり,高齢期(Martin et al., 2005)においても睡眠・覚醒リズムが不明確などの特徴が認められている.さらに,地域で生活する壮年期の統合失調症患者においても,睡眠・覚醒リズムやメラトニン分泌リズムの乱れが確認されている(Wulff et al., 2012).そして,統合失調症外来患者と健常者の客観的および主観的睡眠の質と生活の質(QOL)について調査した研究では,健常者より統合失調症外来患者の方が有意に睡眠の質およびQOLが低いことが明らかにされている(Afonso et al., 2014).また,主観的に睡眠不足を感じている統合失調症患者では症状や薬物による副作用と関係なくQOLが低いことも報告されている(Ritsner et al., 2004).これらの結果から,睡眠は統合失調症患者のQOLを考える上で非常に重要な要因であると言える.

統合失調症の症状は,幻覚・妄想・滅裂思考などの陽性症状と感情の平板化・意欲減退などの陰性症状に分けられるが,陽性症状と睡眠効率,陰性症状と深い睡眠の指標となる徐波睡眠出現量,および精神症状の重症度と総睡眠時間の間には,それぞれ有意な負の関連が認められている(Cohrs, 2008).統合失調症患者における陽性症状は主に急性期にみられ,陽性症状が活発で不眠が続く患者にとって薬物療法は効果を得やすく,睡眠導入剤による睡眠時間の確保によって症状安定を図れると考えられる.しかし,副作用や薬剤耐性などの問題から長期間の薬物継続使用は患者のQOLを損ねる可能性があるため,薬物療法以外の介入方法の検討が重要な課題の一つと言える.

我が国の精神および行動の障害のうち,統合失調症,統合失調症型障害および妄想性障害の入院推計患者数は約6割を占めており,その在院日数は平均500日以上で推移している(厚生労働省,2015).入院患者のQOLを良好に保つことは看護の重要な役割であるが,近年,統合失調症患者における可動性の制限すなわち日常の身体活動の減少そのものが健康を損ね,QOL低下を助長していると指摘されている(Viertiö et al., 2009).これは,統合失調症患者の身体活動の確保が身体機能の低下を抑制し,QOLの維持・向上に貢献することを示唆している.加えて,日中の身体活動はメラトニン分泌リズムに影響を及ぼすため(Miyazaki et al., 2001),時差ぼけ症状の緩和や睡眠・覚醒リズムの同調にも有効であるとされている(Waterhouse et al., 2007).しかしながら,統合失調症入院患者の日中の身体活動と睡眠指標の関連について,客観的指標を用いた報告はほとんど見られない.

そこで,本研究は,統合失調症入院患者の睡眠について客観的および主観的指標を用いて評価するとともに,日中の身体活動との関連を明らかにすることを目的に実施した.

Ⅱ. 研究方法

1. 対象者

対象は,次の6つの条件をすべて満たすものとした.6つの条件とは,1)DSM-5で統合失調症と診断され病名を認識している,2)急性期症状が安定し不穏や興奮等が見られない,3)入院期間が1年以上でここ1ヶ月転棟がない,4)研究についての説明内容を理解できる,5)質問紙等の記入が行える,6)計測機器の装着について身体機能的な問題がない,であった.

2. 測定項目

日常の身体活動および客観的睡眠指標は1週間測定機器を装着し評価した.また,その測定期間内に質問紙を用いて主観的睡眠評価を行った.

1) 身体活動

本研究では身体活動の量的指標として歩数を採用した.本研究の対象者は入院患者であるため,病棟内で高強度の身体活動を実施することは極めて稀と考えられる.したがって,活動強度や体重に大きく影響を受けず,また,臨床における看護介入の際にも用いやすいと考えられる歩数を身体活動の指標とした.対象者に小型の一軸加速度計(ライフコーダGS,スズケン)を朝起床時から夜就床時まで入浴時間を除いて腰部に1週間装着し,メモリ機能を用いて機器回収後に1週間分の歩数を得た.得られた歩数データから1日あたりの歩数平均値を算出し,対象者の代表値とした.

2) 客観的睡眠指標

睡眠評価の標準的方法は睡眠ポリグラムであるが,脳波計をはじめ高額な測定分析機器を必要とするばかりか多種多数の電極装着による対象者の負担など課題も多く,日常生活における睡眠覚醒周期や睡眠変数の把握には不向きと言える.したがって,本研究では,簡便に装着可能な腕時計型のアクチグラフィを用いて客観的睡眠指標を求めることとした.対象者の非利き手の手首に小型体動計(AW-L, Mini-Mitter)を入浴時間以外1週間連続装着するとともに,起床および就床時刻を記録してもらった.小型体動計に1エポック1分で記録された体動データおよび就床・起床時刻から,解析ソフトActiware(Ver 5.57, Mini-Mitter)を用いて,総就床時間(就床から起床までの時間),総睡眠時間(総就床時間のうち睡眠と判定された時間の総和),入眠潜時(就床から入眠までの時間),中途覚醒時間(総就床時間のうち覚醒していた時間の総和)および睡眠効率(総睡眠時間と総就床時間の比)の各睡眠変数を求めた.

3) 主観的睡眠指標

ピッツバーグ睡眠質問票日本語版(以下,PSQI)を用い,過去1ヶ月の睡眠障害の有無を評価した.PSQIは,主観的睡眠の質,入眠時間,睡眠時間,有効睡眠時間(就床時間に対する睡眠時間の割合),睡眠障害(中途覚醒の程度),睡眠剤の使用および日常生活における支障(睡眠問題に伴う眠気など)の7つの要素から構成されており,総合得点(0~21点)が高いほど睡眠が障害されていると判定される.先行研究(Doi et al., 2000)に従って,PSQI得点5.5点以上を睡眠障害が示唆される基準とした.

3. 分析方法

すべてのデータは平均値±標準偏差(SD)で示した.歩数と客観的睡眠指標との関連は,ピアソンの相関係数を用いて分析を行った.また,PSQIでグループ分けした群比較には,対応のないt検定を用い,母分散が等しくない場合には Cochran Cox法で検定した.いずれの場合にも有意水準は5%未満とした.

4. 倫理的配慮

兵庫県立大学看護学部・地域ケア開発研究所研究倫理委員会および研究協力施設の倫理審査委員会の承認を得て実施した.研究対象候補者は,上述した6つの条件を満たし,かつ自由意思で研究協力の意思決定が可能と主治医が判断した者とした.研究対象候補者に,データ収集に伴う負担をイメージしやすいように実際の測定機器を提示しながら,研究の目的,意義,方法,匿名性の維持,研究参加の任意性と中断の自由および不利益の回避,個人情報の守秘,研究者による診療録の閲覧,データの保管と管理,結果の公表,研究終了後のデータの破棄について文書と口頭で十分な説明を行い,署名による同意の得られた者を研究対象者とした.なお,本研究参加によって精神症状の悪化や体調不良などが生じた場合には直ちに測定を中止し,必要に応じて診察依頼ができるよう主治医および看護師と連絡が取れる体制を整えた.

Ⅲ. 結果

1. 対象者の概要

本研究への参加のインフォームドコンセントが得られた31名のうち,測定データに欠損のなかった27名を分析対象とした.27名の入院歴は平均13.9 ± 13.6年であった.なお,測定期間中,いずれの対象者においても変薬はなかった.

2. 身体活動と睡眠指標

対象者27名の1週間の歩数と客観的睡眠指標の平均値は表1に示した通りである.歩数と有意に関連した客観的睡眠指標は,睡眠効率(r = .629,p < .01,図1),中途覚醒時間(r = –.615,p < .01,図2)および総睡眠時間(r = .406,p < .05,図3)であり,歩数が多い慢性統合失調症入院患者ほど総睡眠時間が長く,客観的睡眠指標が良好であった.なお,歩数と入眠潜時の間には有意な関連は認められなかった(r = –.322, NS).

表1 全体およびPSQI別の歩数と客観的睡眠指標
全体(n = 27) PSQI 5.5以上(n = 17) PSQI 5.5未満(n = 10) 両群の差
年齢(才) 58.3 ± 11.6 54.8 ± 12.7 64.2 ± 6.4 p < .05
身長(cm) 163.5 ± 8.4 164.5 ± 9.7 161.7 ± 5.3 NS
体重(kg) 61.9 ± 10.9 62.8 ± 11.1 60.2 ± 10.8 NS
PSQI 6.7 ± 2.8 8.2 ± 2.3 4.2 ± 1.6 p < .001
歩数 6,845 ± 4,251 6,273 ± 3,858 7,818 ± 4,906 NS
就床時刻 21:29 ± 1:07 21:53 ± 1:06 20:50 ± 0:49 p < .05
起床時刻 6:07 ± 0:45 6:15 ± 0:53 5:53 ± 0:26 NS
総就床時間(分) 519 ± 56 502 ± 56 543 ± 53 p = .07
総睡眠時間(分) 442 ± 60 428 ± 62 466 ± 50 NS
入眠潜時(分) 16.1 ± 9.5 16.1 ± 9.3 15.9 ± 10.3 NS
睡眠効率(%) 85.1 ± 5.9 84.6 ± 5.4 86.0 ± 6.8 NS
中途覚醒時間(分) 58.8 ± 24.6 58.8 ± 23.1 58.7 ± 28.2 NS

NS = Not Significant

図1

歩数と睡眠効率の関係

図2

歩数と中途覚醒時間の関係

図3

歩数と総睡眠時間の関係

全対象者のPSQIの平均値は6.7 ± 2.8点であり,睡眠障害が示唆されるPSQI 5.5点以上は17名(全体の約63%)に認められた.PSQI 5.5点以上群(n = 17,女性6名),PSQI 5.5点未満群(n = 10,女性4名)に分けて歩数および客観的睡眠指標を比較したところ,PSQI 5.5点以上群よりPSQI 5.5点未満群で就床時刻が有意に早かった(p < .05)が,歩数およびその他の客観的睡眠指標に両群間で有意な差は認められなかった(表1).

Ⅳ. 考察

本研究の目的は,客観的および主観的睡眠指標を用いて統合失調症入院患者の睡眠を評価するとともに,日中の身体活動との関連を明らかにすることであった.客観的睡眠指標と歩数について,本研究で得られた主な結果は,歩数は睡眠効率および総睡眠時間と有意な正の関連があり,さらに歩数と中途覚醒時間の間には有意な負の相関関係が認められたことである.この結果は,統合失調症入院患者の日中の身体活動は夜間睡眠と関連し,身体活動を高めることが夜間睡眠の改善に結びつく可能性を示唆している.不眠の症状を抱える精神科患者において,運動介入によって主観的不眠の改善が認められた研究が存在する.寛解していない大うつ病患者に週3回12週間の運動介入を行い,睡眠症状を主観的に評価させた研究(Rethorst et al., 2013)において,早朝や夜間の不眠症状に改善が見られたことが報告されている.この研究では,週あたりの運動時間の多寡で2つの群(約132分間vs約60分間)が設定されているが,運動時間には関わりなく両群ともに不眠症状の改善が認められていることから,日中の運動の実施自体が不眠問題に対して好影響を与えていると考えられる.また,一般成人を対象にした研究ではあるが,光の影響を極力排除した環境(10ルクス未満)において睡眠時間を8時間に固定し,そのスケジュールを1日20分ずつ前進させたところ,日中にあたる時間帯に運動した群でメラトニンリズムは睡眠スケジュールに同期するよう前進したことが示されている(Miyazaki et al., 2001).このように日中の身体活動はメラトニンリズムの同調に有効であり,睡眠・覚醒リズムの乱れや睡眠症状を改善させる可能性がある.

また,精神疾患入院患者の睡眠問題は,疲労と関連すると報告されている.Waters et al.(2013)は,統合失調症患者67名を含む精神科病棟入院患者93名において,自覚的な睡眠の質と疲労尺度が関連し,疲労の程度が重篤であるほど睡眠に関する不満足度が高かったことを報告した.さらに,全体の約67%に睡眠問題(PSQI > 5)が,約60%に疲労がそれぞれ見られ,その両方が認められる患者(約28%)は,そのどちらか一方を持っているか,どちらもない患者に比べ,SF36調査における身体の健康に関する下位尺度スコアが有意に低値であることが示されている.このように,精神疾患入院患者の睡眠問題は疲労と関わりが深く,その易疲労性は身体機能や体力の低下によって助長されると考えられる.したがって,日常の身体活動を高めることによって身体機能や体力の維持・向上が期待されるとともに,身体の健康や不眠の改善に結びつくと推察される.Vancampfort et al.(2013)は,統合失調症患者80名と年齢,性別およびBMIを一致させた健康なボランティア40名に立ち幅跳びテスト(SBJ)と6分間歩行テスト(6MWT)を実施し,統合失調症患者は健康なボランティアに比べ健康関連体力の指標であるSBJが約14%,6MWTが約18%有意に低値であることを報告している.また,同様に肺活量や1秒率など呼吸機能も同年齢の一般人に比べ有意に低下していることを示している(Vancampfort et al., 2014).さらに,統合失調症入院患者のみの調査においても,6MWTの結果は質問紙法による日常の身体活動と有意な正の関連が示されている(Martín-Sierra et al., 2011).これらのことから,日常の身体活動を高めることは健康関連体力の向上や,疲労や不眠問題の改善と強く関連すると考えられた.

本研究の全対象者のPSQI平均値は6.7点であり,近年報告されている統合失調症患者の先行研究(Afonso et al., 20112014Waters et al., 2013)の平均6.0~6.6点とほぼ一致している.その一方で,本研究においてPSQIによって群分けし,歩数や客観的睡眠指標を比較した結果では,睡眠障害が示唆されるPSQI 5.5点以上群はPSQI 5.5点未満のグループよりも客観的に評価された身体活動や睡眠指標が必ずしも劣るとは言えなかった.統合失調症入院患者148名の夜間睡眠について睡眠ポリグラムを用いて調査し,その翌日にインタビューを実施して睡眠を主観的に評価させ,睡眠ポリグラムデータと比較した研究(Bian et al., 2016)によれば,総睡眠時間や睡眠効率の過大評価や,入眠潜時の過小評価など,実態との認識のずれが約4割の患者に認められると報告されている.特に総睡眠時間においては,実際よりも平均75分長く寝ていると過大評価するなど,睡眠状況の実態は本人の主観よりもかなり悪いことが示されている.このように,統合失調症入院患者における睡眠の評価は,PSQIなどの質問紙よりも客観的指標を用いる方が適切と言えるかもしれない.

本研究において,歩数が多い慢性期統合失調症入院患者ほど総睡眠時間が長く,中途覚醒時間が短く,夜間睡眠効率が高いという結果が得られた.このことから,日中の身体活動を高めることによって入院患者の睡眠に改善が見られる可能性が示唆された.現実的な看護介入として,病棟での体操やウォーキング,レクリエーション活動などが考えられ,今後睡眠の改善に特化した身体活動プログラムの検討が課題と思われた.

Ⅴ. 結論

本研究は,慢性期統合失調症入院患者の身体活動と睡眠指標の関連を検討し,その結果,歩数が多い患者ほど有意に総睡眠時間が長く,中途覚醒時間が短く,夜間睡眠効率が高かった.入院中の統合失調症患者は,日中の身体活動を高めることで客観的睡眠指標が改善される可能性が示唆された.

謝辞:本稿をまとめるにあたり,ご助言,ご討論頂いた大阪大学大学院教授遠藤淑美先生に感謝する.本研究は,JSPS科研費 JP15K20772およびJP18K17529の助成を受けて実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:すべての著者は,研究の構想およびデザイン,データ収集・分析および解釈に寄与し,論文の作成に関与し,最終原稿を確認した.

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