日本看護科学会誌
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
総説
日本の訪問看護師の行う訪問看護実践における判断の概念分析
仁科 祐子長江 弘子谷垣 靜子
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2019 年 39 巻 p. 74-81

詳細
Abstract

目的:日本の訪問看護師の行う訪問看護実践における判断について定義することを目的とした.

方法:日本国内で発表された33文献を対象として,Rodgersの概念分析方法を用い分析を行った.

結果:4つの属性:【生活者としての対象をよく知る】【先を見通す】【対象者の生活に即したケアを共に考える】【対象者中心思考で熟考する】,3つの先行因子:【生活の場での看護の特徴】【専門職的判断への意志】【看護師個人の能力】,2つの帰結【判断の内容】【対象者に最適なケアの実施】が抽出された.

結論:日本の訪問看護師の行う訪問看護実践における判断は,対象者中心思考で熟考することを基盤とし,生活者としての対象をよく知り,先を見通しつつ,対象者の生活に即したケアを共に考えるプロセスである,と定義した.このプロセスにより対象者の状態,ケア,関わり方が決定され,対象者に最適なケアの実施に至る.

Translated Abstract

Objective: To obtain a definition of nursing judgment in home healthcare nursing practice as performed by home healthcare nurses in Japan.

Methods: A total of 33 literature references published in Japan were assessed. Rodger’s method was employed for concept analysis.

Results: The following four attributes were extracted: “understanding patients as individuals with their own lifestyles, opinions, and values”, “proactive perspective”, “discussing care for patients to meet their lifestyle needs”, and “careful patient-centered consideration”. In addition, 3 antecedents were extracted: “characteristics of nursing in daily life”, “intention to exercise professional judgment”, and “ability of each nurse”. Finally, 2 consequences were extracted: “contents of judgment” and “conduct of appropriate care for patients”.

Conclusion: Nursing judgment in home healthcare nursing practice by home healthcare nurses in Japan was defined as the process of understanding patients as individuals with their own lifestyles, opinions, and values and discussing the care required to meet their lifestyle needs with the patients as well as the people surrounding them. This process should be performed proactively and should be based on careful patient-centered consideration. Through this process, the patient’s condition, care, and involvement are determined, so that appropriate care for each patient can be provided in nursing practice.

Ⅰ. 緒 言

人間の判断・意思決定に関しては長く心理学分野における関心事である(Pitz & Sachs, 1984).看護師の行う臨床判断・意思決定(clinical judgment・decision making:以下,臨床判断等とする)に関しては1960年代から研究が始まり,心理学の理論を借りて,情報処理モデルやintuitive-humanist model,cognitive continuum theory等により臨床判断等が説明されてきた(Banning, 2008Thompson, 1999).近年では臨床判断等は多角的に捉えられ,論理的思考と直観の両者が関与し(Thompson et al., 2013),taskやcontextの影響を受ける(Lauri & Salanterä, 1995),複雑な構造だと捉えられている.医療における臨床判断等は不確かさを扱うが(Thompson, 2001),看護ケアの質は臨床判断により決定づけられる(Standing, 2017)ため重要度は高く,それぞれのtask,contextに応じた臨床判断等の探求が望まれる.

臨床判断等の定義に関してはCorcoran(1990)Tanner(2006)の定義がよく知られており,臨床判断等の概念分析(Manetti, 2018Johansen & O’Brien, 2016;他)により概念の探求が進んでいる.臨床判断と意思決定の違いについては,ほぼ同義とみる見解(Manetti, 2018)や,相互に補完的な関係にある(Thompson, 2001)とする見解もあるが,現在に至るまで両者が使用されていることや,Dowieの定義(判断:いくつかの選択肢をアセスメントする;決定:いくつかの選択肢から選択する)(Thompson, 2001)をみると,両者が並存する理由がわかる.McCaughan(2001)Cioffi(2001)は臨床判断プロセスの理解は進んだがその本質理解や包括的理解には至っていないと述べ,臨床判断研究は発展途上にあるといえる.

日本における看護師の臨床判断等に関する研究をみると,病院看護師を対象としたものが多く,意思決定よりも臨床判断についての研究が多い.また多くの論文でCorcoranやTannerの定義が引用され,日本独自の統一された定義はみあたらない.研究対象を訪問看護師に絞ると「臨床判断」の使用は減り,「看護師の判断」や「判断」と表記されるものが多い.これは臨床の意味が「病床に臨むこと」(新村,2018)であり病院のイメージが強く,訪問看護には馴染まないからだと思われる.訪問看護師の判断に関する研究では,判断の内容(廣部・飯田,2001小原・森下,2012小笠原,2003辻村ら,2010),特徴(廣部・飯田,2001葛西,2006),影響要因(Hayakawa, 2013山本・小郷,2014),判断理由(古瀬,2005b齋藤ら,2012),拠り所(小原・森下,2013),判断プロセス(中野・川村,2018),意思決定プロセス(松村・川越,2001)等が明らかにされているが,いずれも判断の一側面を明らかにしたものである.さらに訪問看護師は「1人で看護判断をして実践する責任がある」(木下,2005)が,「自己の判断能力への不安」(仁科ら,2009)があるという報告がある.よって一人訪問が基本の訪問看護師の行う訪問看護実践における判断を定義することは,訪問看護師の判断能力育成のため必要である.

以上より本研究の目的は,日本の訪問看護師の行う訪問看護実践における判断について概念分析し,定義することである.

Ⅱ. 方法

1. 研究方法

Rodgers & Knafl(2000)の概念分析の方法を用いた.訪問看護実践は時代の変化や地域特性の影響を受けやすく可変的である.Rodgersの概念分析では,概念は時間の経過や社会背景などにより変化するものであるという哲学的基盤をもつため,Rodgersの方法が本研究に適していると考えた.

2. 文献収集方法

日本国内で発表された訪問看護実践に関する論文を対象とした.データベースは医学中央雑誌web版を使用し,「判断」or「臨床判断」or「実践能力」and「訪問看護師」and「原著」で検索したところ,該当論文は128件であった(検索日:2018年1月29日).まず該当論文の要約を精読し,訪問看護実践における判断について記述されていると判断した論文を選定した.入手可能な論文は26件でありこれらを分析対象とした.この他,分析対象論文の引用文献として用いられた論文やハンドサーチにより集めた論文7件も対象とした.以上より本研究の概念分析に使用した論文は計33件であった.

3. データ分析方法

論文を精読し,訪問看護実践における判断の属性,先行因子,帰結に該当する箇所をそのまま抽出し,抽出箇所(データ)を分析用のマトリクスシートに記入した.次にデータの共通性と相違性に沿ってカテゴリ化した.さらにカテゴリの関連性を構造化し概念モデルを作成した.この過程をふまえ日本の訪問看護師の行う訪問看護実践における判断の定義を行った.

Ⅲ. 結果

分析の結果,4つの属性,3つの先行因子,2つの帰結が明らかとなった.以下,カテゴリは【 】,サブカテゴリは[ ],コード(内容)は〈 〉,データは「 」で示し説明する.

1. 属性(表1

1) 【生活者としての対象をよく知る】

このカテゴリは,対象者を,その人特有のライフスタイル,意思,価値観をもち生活している生活者としての,その人本来の姿を知ろうとする訪問看護師の行動を表していた.サブカテゴリは[観察する][意思を確認する][直感を使う][推察する][家族の介護力を知る][個性や価値観を知る][生活者として捉える][状況を見守る]であった.[状況を見守る]には〈様子をみる〉〈療養者・家族を尊重して待つ〉等の内容が含まれるが,この時看護師は「起こりうる危険を予測し緊急時に備える」(深田恵ら,2012)等の積極的関与が伴う行為と読み取れた.

表1 日本の訪問看護師の行う訪問看護実践における判断の属性
カテゴリ サブカテゴリ 内容 文献
生活者としての対象をよく知る 観察する 変化に気づく 藤田ら(2007)池口(2016)中野・川村(2018)齋藤ら(2012)
観察する 深田順ら(2012)嘉手苅・金城(2007)二瓶ら(2000)小笠原(2003)
意思を確認する 療養者・家族の意思・意向を確認する 伴ら(2006)深田恵ら(2012)池口(2016)冨安・山村(2009)
療養者・家族の認識を確認する 葛西(2006)園田・石垣(2009)高橋・布施(2013)
療養者・家族の思いや考えを把握する 深田恵ら(2012)中村(2013)白柿(2010)園田・石垣(2009)高橋・布施(2013)冨安・山村(2009)横山・舟島(2010)
直観を使う 直観でいつもと違うと感じ取る 平賀(2008)池口(2016)森山ら(2015)髙藤ら(2009)山本・小郷(2014)
推察する 家庭状況を察知する 深田恵ら(2012)葛西(2006)森山ら(2015)園田・石垣(2009)王ら(2008)
療養者の心身の状態を推察する 深田恵ら(2012)廣岡ら(2016)森山ら(2015)小笠原(2003)髙藤ら(2009)山本・小郷(2014)
家族の介護力を知る 介護力を評価する 古瀬(2005ab),池口(2016)二瓶ら(2000)
家族の介護を肯定する 深田恵ら(2012)廣岡ら(2016)
個性や価値観を知る その人らしさや価値観を知る 深田恵ら(2012)廣岡ら(2016)葛西(2006)高橋・布施(2013)山本・小郷(2014)
介護者の個性を知る 深田恵ら(2012)森山ら(2015)中野・川村(2018)王ら(2008)山本・小郷(2014)
生活者として捉える 療養者を幅広く把握する 伴ら(2006)齋藤ら(2012)辻村ら(2010)
訪問看護以外の時間の状態を把握する 山本・小郷(2014)
生活・生き方を捉える 深田恵ら(2012)池口(2016)
状況を見守る リスクを見極めながら見守る 藤田ら(2007)深田恵ら(2012)古瀬(2005a)池口(2016)葛西(2006)髙藤ら(2009)
療養者と家族を見守る 葛西(2006)松村・川越(2001)
様子をみる 伴ら(2006)
療養者・家族に任せる 藤田ら(2007)葛西(2006)白柿(2010)
療養者・家族を尊重して待つ 伴ら(2006)松村・川越(2001)
先を見通す 療養者・家族の心身の変化を予測する 療養者の今後の身体状態の変化を予測する 深田順ら(2012)深田恵ら(2012)廣岡ら(2016)池口(2016)小原・森下(20122013),小笠原(2003)辻村ら(2010)横山・舟島(2010)
身体状態の悪化を予測する 伴ら(2006)深田恵ら(2012)廣部・飯田(2001)廣岡ら(2016)二瓶ら(2000)齋藤ら(2012)髙藤ら(2009)
介護者の心身の変化を予測する 藤田ら(2007)葛西(2006)森山ら(2015)小笠原(2003)園田・石垣(2009)
ケアの効果を予測する 嘉手苅・金城(2007)山本・小郷(2014)
リスクを予測する 危険を予測し予防する 深田順ら(2012)木下(2005)小原・森下(2013)中野・川村(2018)二瓶ら(2000)
今後の変化を見通す 今後を見通す視点をもつ 藤田ら(2007)小笠原(2003)髙藤ら(2009)
訪問後を見通す 伴ら(2006)白柿(2010)山本・小郷(2014)
状況の変化を見通す 廣岡ら(2016)松村・川越(2001)
在宅療養継続可能性を見極める 葛西(2006)小原・森下(2012)小笠原(2003)髙藤ら(2009)
対象者の生活に即したケアを共に考える 共に考える 療養者・家族と共に考える 深田恵ら(2012)古瀬(2005a)廣岡ら(2016)葛西(2006)嘉手苅・金城(2007)中村(2013)中野・川村(2018)小笠原(2003)髙藤ら(2009)冨安・山村(2009)
看護師の考えを療養者・家族に伝える 葛西(2006)嘉手苅・金城(2007)中村(2013)小笠原(2003)園田・石垣(2009)髙藤ら(2009)
ステーション内で相談する 深田順ら(2012)廣岡ら(2016)中野・川村(2018)白柿(2010)横山・舟島(2010)
医師に相談する 深田順ら(2012)葛西(2006)嘉手苅・金城(2007)蒔田(2013)中野・川村(2018)辻村ら(2010)山本・小郷(2014)横山・舟島(2010)
多職種と一緒に考える 廣岡ら(2016)池口(2016)蒔田(2013)森山ら(2015)中野・川村(2018)髙藤ら(2009)王ら(2008)
看護ケアとチームケアを検討する ケア内容や方法を検討する 葛西(2006)小笠原(2003)
他サービス導入を検討する 葛西(2006)二瓶ら(2000)髙藤ら(2009)
ケアチーム体制を検討する 小原・森下(2012)蒔田(2013)小笠原(2003)
他サービスを調整する 平賀(2008)廣岡ら(2016)蒔田(2013)
生活にあわせてケアを調整する 看護ケアを療養者にあわせて調整する 藤田ら(2007)嘉手苅・金城(2007)小原・森下(2012)白柿(2010)辻村ら(2010)
優先する事柄を決める 嘉手苅・金城(2007)王ら(2008)
ケアの方法を選択する 松村・川越(2001)辻村ら(2010)王ら(2008)
意思の違いを調整する 藤田ら(2007)廣部・飯田(2001)
経済状態を考慮する 葛西(2006)蒔田(2013)二瓶ら(2000)高橋・布施(2013)冨安・山村(2009)横山・舟島(2010)
家族の体調や思い,負担を考慮する 森山ら(2015)辻村ら(2010)王ら(2008)山本・小郷(2014)
安全性に配慮する 二瓶ら(2000)
試行錯誤する 試行錯誤する 藤田ら(2007)深田恵ら(2012)廣部・飯田(2001)白柿(2010)
創意工夫する 藤田ら(2007)二瓶ら(2000)横山・舟島(2010)
折り合いをつける 藤田ら(2007)
看護を評価する 看護ケアを評価する 平賀(2008)廣岡ら(2016)木下(2005)小原・森下(2012)松村(2004)二瓶ら(2000)
自分の看護を振り返る 廣部・飯田(2001)木下(2005)松村・川越(2001)冨安・山村(2009)
療養者・家族から評価を受ける 深田順ら(2012)平賀(2008)
対象者中心思考で熟考する 価値観をおき看護師の役割を自覚する 訪問看護師の役割を見極める 廣岡ら(2016)小原・森下(2013)蒔田(2013)松村・川越(2001)中村(2013)二瓶ら(2000)冨安・山村(2009)
看護師の価値観をおいておく 廣岡ら(2016)嘉手苅・金城(2007)
看護師の力量を知る 木下(2005)中村(2013)
療養者・家族の意思を重視する 療養者の意思を重視する 廣岡ら(2016)園田・石垣(2009)高橋・布施(2013)山本・小郷(2014)
療養者・家族の意思を大切にする 深田順ら(2012)廣部・飯田(2001)木下(2005)小原・森下(2013)松村(2004)松村・川越(2001)中村(2013)二瓶ら(2000)横山・舟島(2010)
介護者の思いを尊重する 森山ら(2015)山本・小郷(2014)
療養者・家族との関係を大切にする 療養者・家族をかけがえのない一人と認識する 池口(2016)葛西(2006)中村(2013)
療養者・家族との関係を深める 平賀(2008)廣部・飯田(2001)池口(2016)木下(2005)小原・森下(2013)中野・川村(2018)白柿(2010)園田・石垣(2009)山本・小郷(2014)横山・舟島(2010)
療養者・家族に合わせたコミュニケーションをとる 嘉手苅・金城(2007)小原・森下(2012)森山ら(2015)中村(2013)白柿(2010)高橋・布施(2013)
家族関係に配慮する 葛西(2006)二瓶ら(2000)園田・石垣(2009)
療養者・家族と主治医や他職種との関係に配慮する 松村(2004)高橋・布施(2013)
対象者が求めていることを考えぬく この利用者にとって何を行えばよいのか考える 廣岡ら(2016)小笠原(2003)
常に療養者・家族がどう思っているのかを考える 白柿(2010)園田・石垣(2009)
最期の最期はどうやって過ごせたらいいのか考える 白柿(2010)

2) 【先を見通す】

このカテゴリは,対象者のこれまでと今の状況から今後を予測し,先の見通しをもって今できることを考えるという訪問看護師の視点を表していた.サブカテゴリは[療養者・家族の心身の変化を予測する][リスクを予測する][今後の変化を見通す]であった.

3) 【対象者の生活に即したケアを共に考える】

このカテゴリは,対象者の生活に即した看護ケアとチームケアを,対象者や家族,多職種と共に試行錯誤しながら創りあげていく訪問看護師の行動を表していた.サブカテゴリは[共に考える][看護ケアとチームケアを検討する][生活にあわせてケアを調整する][試行錯誤する][看護を評価する]であった.

4) 【対象者中心思考で熟考する】

このカテゴリは,対象者の意思や希望,対象者との関係を大切にしながら,対象者の本当の思いに常に考えを巡らせている訪問看護師の姿勢を表していた.サブカテゴリは[価値観をおき看護師の役割を自覚する][療養者・家族の意思を重視する][療養者・家族との関係を大切にする][対象者が求めていることを考えぬく]であった.

2. 先行因子

先行因子として3つのカテゴリ,【生活の場での看護の特徴】【専門職的判断への意志】【看護師個人の能力】を抽出した(表2).

表2 日本の訪問看護師の行う訪問看護実践における判断の先行因子
カテゴリ サブカテゴリ 内容 文献
生活の場での看護の特徴 一人で訪問する 医療者がいつも近くにいない環境 葛西(2006)小原・森下(2013)中村(2013)小笠原(2003)髙藤ら(2009)王ら(2008)
一人で訪問する 小原・森下(2013)齋藤ら(2012)髙藤ら(2009)王ら(2008)横山・舟島(2010)
訪問時間が限られる 訪問時間が限られている 深田順ら(2012)嘉手苅・金城(2007)小笠原(2003)王ら(2008)横山・舟島(2010)
生活を重視した看護をする 生活を重視した看護を提供する 伴ら(2006)深田順ら(2012)中村(2013)小笠原(2003)
生活の場でケアを提供する 木下(2005)松村・川越(2001)冨安・山村(2009)王ら(2008)山本・小郷(2014)横山・舟島(2010)
家族・介護者の存在 家族の介護者としての存在の大きさ 古瀬(2005ab),小原・森下(2013)松村・川越(2001)中村(2013)二瓶ら(2000)
多職種によるチームケアが不可欠 医師との協働 廣岡ら(2016)小原・森下(2013)辻村ら(2010)
医師の指示をタイムリーにもらえない 齋藤ら(2012)白柿(2010)
医師の包括的指示 齋藤ら(2012)辻村ら(2010)山本・小郷(2014)
多職種チームによる支援体制が不可欠 深田順ら(2012)廣岡ら(2016)池口(2016)小原・森下(2013)蒔田(2013)王ら(2008)
専門職的判断への意志 最良の判断が求められる 対象者に最良の判断をする 松村・川越(2001)
判断を要する場面の多さ 白柿(2010)
一人判断への覚悟 一人判断への覚悟 廣部・飯田(2001)嘉手苅・金城(2007)木下(2005)白柿(2010)
相談がすぐにできない 白柿(2010)山本・小郷(2014)
看護師個人の能力 知識 看護師の知識 深田順ら(2012)二瓶ら(2000)小笠原(2003)山本・小郷(2014)
経験知 人生経験 池口(2016)松村・川越(2001)
訪問看護師としての経験知 池口(2016)小原・森下(2013)森山ら(2015)中野・川村(2018)山本・小郷(2014)
その対象者に対する経験知 二瓶ら(2000)齋藤ら(2012)山本・小郷(2014)
自律性 自律性 廣岡ら(2016)松村・川越(2001)山本・小郷(2014)
主体性 松村・川越(2001)齋藤ら(2012)
使命感 責任感 深田順ら(2012)小原・森下(2013)松村・川越(2001)横山・舟島(2010)
倫理的使命感 小原・森下(2013)山本・小郷(2014)
専門職としての自覚 深田恵ら(2012)中村(2013)中野・川村(2018)山本・小郷(2014)
自信 自信 平賀(2008)齋藤ら(2012)白柿(2010)
向上心 松村(2004)横山・舟島(2010)
学習の継続 深田順ら(2012)木下(2005)白柿(2010)横山・舟島(2010)
価値観 価値観 廣部・飯田(2001)松村・川越(2001)山本・小郷(2014)
看護観 嘉手苅・金城(2007)松村(2004)二瓶ら(2000)横山・舟島(2010)

3. 帰結

帰結として2つのカテゴリ,【判断の内容】【対象者に最適なケアの実施】を抽出した(表3).

表3 日本の訪問看護師の行う訪問看護実践における判断の帰結
カテゴリ サブカテゴリ 内容 文献
判断の内容 状態の判断 健康状態 中村(2013)中野・川村(2018)二瓶ら(2000)齋藤ら(2012)
状態の変化・悪化 藤田ら(2007)池口(2016)髙藤ら(2009)
緊急性・重症度 廣岡ら(2016)松村(2004)二瓶ら(2000)
日常生活自立度 廣部・飯田(2001)小原・森下(2012)高橋・布施(2013)冨安・山村(2009)
介護力 古瀬(2005a)小原・森下(2012)森山ら(2015)
利用者・家族のセルフケア能力 松村・川越(2001)
ケアの判断 排便コントロール方法 伴ら(2006)辻村ら(2010)
下剤の量,種類,必要性 齋藤ら(2012)辻村ら(2010)
ケアの実施時期,タイミング 池口(2016)二瓶ら(2000)
優先順位 二瓶ら(2000)王ら(2008)
ケアの有効性 藤田ら(2007)
介護者の介護方法 深田恵ら(2012)小笠原(2003)
心のケア 葛西(2006)
行為の決定 小原・森下(2012)森山ら(2015)白柿(2010)山本・小郷(2014)
関わり方の判断 関わり方 森山ら(2015)二瓶ら(2000)小笠原(2003)
関わりを継続するか 平賀(2008)
家族や他職種に何をどのように伝えるべきか 中村(2013)
対象者に最適なケアの実施 最適なケアの実施 最適なケアを実施 藤田ら(2007)中村(2013)齋藤ら(2012)白柿(2010)
療養者・家族の望むケアの提供 療養者・家族の望むケアを提供する 廣部・飯田(2001)白柿(2010)高橋・布施(2013)横山・舟島(2010)
療養者・家族との協働 療養者・家族と協働してケアを実施する 廣部・飯田(2001)髙藤ら(2009)冨安・山村(2009)
チームケアの提供 チームケアを提供する 伴ら(2006)小原・森下(2013)蒔田(2013)中村(2013)二瓶ら(2000)王ら(2008)山本・小郷(2014)

4. 概念モデル

本概念の概念モデルを図1に示す.【生活者としての対象をよく知る】【先を見通す】【対象者の生活に即したケアを共に考える】は相互に行き来する循環プロセスとして捉えられた.またこれら3つの属性と【対象者中心思考で熟考する】は,相互に影響しあう関係として捉えられた(図1).

図1

日本の訪問看護師の行う訪問看護実践における判断の概念モデル

Ⅳ. 考察

1. 日本の訪問看護師の行う訪問看護実践における判断の定義

日本の訪問看護師の行う訪問看護実践における判断は,対象者中心思考で熟考することを基盤とし,生活者としての対象をよく知り,先を見通しつつ,対象者の生活に即したケアを共に考えるプロセスである.このプロセスにより対象者の状態,ケア,関わり方が決定され,対象者に最適なケアの実施に至る.

2. 日本の訪問看護師の行う訪問看護実践における判断の特徴

臨床判断等の概念分析(Johansen & O’Brien, 2016Manetti, 2018)の属性と比較すると,臨床推論,直感,リフレクションは,本概念のサブカテゴリにこれらに相当するものが含まれるため,世界のあらゆる場の看護実践における判断に共通する属性といえる.一方本概念の特徴は,‘生活’‘共に考える’‘先を見通す’にある.対象者の生活は訪問看護師だけでなく他の支援者や家族,地域の人等に支えられて成り立つ.よって訪問看護師は対象者を取り巻く人々にも視野を広げ,様々な人と共に考えて判断することが必要になる.また訪問看護師は対象者の生活の一時に関わり,その時の状況から変化を予測し予防的ケアを行う.このように先の見通しをもって,対象者の生活と必要な医療とを統合して判断することは,訪問看護師に求められる重要な役割だと考えられる.

3. 本概念の訪問看護師の判断能力育成への活用可能性と課題

まず,表13に示される本概念の属性,先行因子,帰結のサブカテゴリや内容は,訪問看護師が判断する際のチェックリストとしての活用可能性がある.次に属性の【対象者の生活に即したケアを共に考える】に含まれる内容は,訪問看護師が一人で実施するのではなく,療養者や家族,他の訪問看護師,多職種等と共に実施する必要がある.よって訪問看護師には,協働するために誰にどのように働きかけるのかを判断し行動する能力が求められるといえる.Decision makingは他者と協働する社会的行為であり(McCaughan, 2001),訪問看護ではcollaborative decision making(Dalton, 2005)の在り方が検討されている.日本ではより多くの人が関与する意思決定が主流と考えられるため,今後は効果的な協働的意思決定の方法が検討される必要がある.【対象者中心思考で熟考する】の[対象者が求めていることを考えぬく]は,訪問看護師が「療養者・家族をかけがえのない一人と認識」(中村,2013)しているからこそ,対象者がどうしたいか,どう生きたいか,どう最期を過ごしたいかといった,可変的で掴みにくい対象者の本当の思いに考えを巡らせていることを表している.医療と生活(加えてその人の人生)を支援する訪問看護師が【対象者中心思考で熟考する】ことを基盤とした判断ができるよう,その姿勢がどのように育まれ醸成されていくのかを明らかにし,学修支援や組織文化の在り方に活かしていく必要がある.

本概念の課題としては,判断のtaskとcontextを日本の訪問看護という範囲に設定した.よって本概念は日本の訪問看護実践におけるあらゆる場面に対応しうるものである.しかし訪問看護師が実践する場面は,急変時や慢性期,終末期など,あらゆるtask,contextを含む.今後は訪問看護実践における様々なtaskやcontextに応じた判断の方法を明らかにし,より実践に活用しやすい根拠を示すことが必要である.

Ⅴ. 結論

日本の訪問看護師の行う訪問看護実践における判断は,対象者中心思考で熟考することを基盤とし,生活者としての対象をよく知り,先を見通しつつ,対象者の生活に即したケアを共に考えるプロセスである.このプロセスにより対象者の状態,ケア,関わり方が決定され,対象者に最適なケアの実施に至る.

謝辞:本研究にご協力いただきました全ての皆様に感謝いたします.なお本研究は,平成25~30年度科学研究費補助金基盤研究(C)(課題番号:25463550,研究代表者仁科祐子)の助成を受けて行った研究の一部である.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:NYは研究の着想,デザイン,文献の収集,分析,解釈,論文作成の研究プロセス全てを主導し執筆した.NHとTSは研究プロセスへの助言,分析と考察,論文作成に関与し,全ての著者は最終原稿を確認し承認した.

付記:本論文の内容の一部を,第24回日本在宅ケア学会学術集会で発表した.

文献
 
© 2019 公益社団法人日本看護科学学会
feedback
Top