日本看護科学会誌
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原著
大学病院に勤務する看護師の職場コミュニティ感覚と看護師長の変革型リーダーシップとの関連
野中 雅人服部 ユカリ
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2019 年 39 巻 p. 108-115

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Abstract

目的:大学病院に勤務する看護師が捉えた看護師長による変革型リーダーシップと職場コミュニティ感覚との関連を明らかにする.

方法:国公私立大学病院に勤務する病棟勤務看護師275名に対し,自記式質問紙調査を実施した.項目は基本属性,看護師用職場コミュニティ感覚尺度,変革型リーダーシップ尺度とし,重回帰分析を行った.

結果:職場コミュニティ感覚を従属変数,変革型リーダーシップを独立変数とし,重回帰分析を行ったところ,変革型リーダーシップ(β = 0.515, p < 0.01)とに有意な関連が認められた.さらに変革型リーダーシップの下位尺度である個別的配慮(β = 0.400, p < 0.01)が職場コミュニティ感覚と有意に関連していた.

結論:スタッフの捉える看護師長の変革型リーダーシップは,病棟におけるスタッフの職場コミュニティ感覚を高めることが示唆された.

Translated Abstract

Purpose: To understand the relationship between ward nurses’ perceptions about the chief nurse’s transformational leadership at university hospitals and their sense of community

Methods: A self-administered survey was completed by 275 ward nurses at private and public university hospitals. The questionnaire items consisted of basic characteristics, a scale for sense of community among nurses, and a transformational leadership scale. Multiple regression was used to assess the relationship between these items.

Results: Multiple regression with sense of community score for nurses as the dependent variable showed a significant relationship between sense of community and transformational leadership (β = 0.515, p < 0.01). Furthermore, individual consideration, which is a subscore of the transformational leadership score, was also significantly associated with sense of community among ward nurses (β = 0.400, p < 0.01).

Conclusion: These results suggest that ward nurses’ perceptions about the chief nurse’s transformational leadership improves their sense of community.

Ⅰ. はじめに

高度急性期機能を有する大学病院に勤務する看護師は,生命に関わる重大な責務と高度医療に伴う多忙な業務によるストレスを抱えている.国立大学法人における2015年の常勤看護師離職率は2014年と比較し4.7%増加し10.8%である(日本看護協会,2015).看護職員の離職要因には,結婚や出産といった個人状況に関する要因の他,上司や同僚との関係,責任の重さ,医療事故への不安といった職場環境に関する要因がある(日本看護協会,2011).環境要因については,看護師長のスタッフへの配慮が離職意図と負の関連がある事が指摘されている(塚本・野村,2007).

病棟勤務看護師は,病院における看護単位の構成員として,一般に共同体といわれるコミュニティを形成している.コミュニティとは,ある一定の場所に生活しているという生活環境を共有していることから生まれる地理的コミュニティばかりではなく,共通の規範や価値,関心,目標,同一視と信頼の感情を共有していることから生まれる社会・心理的な場に基づく関係的コミュニティを含む(植村,2007).このコミュニティを構成する成員は,メンバーが所属感を抱きメンバー同士が互いの存在の重要性を感じ,ニーズが互いの関わりによって満たされていると信じる(McMillan & Chavis, 1986)というコミュニティ感覚(sense of community among nurses:以下,SC)を形成する.コミュニティ感覚は,組織への愛着や職場満足度に正の相関があり,離職願望とに負の相関がある事が示唆されている(Royal & Rossi, 1996).本邦においても,山口らが看護師用職場コミュニティ感覚尺度(A scale for sense of community among nurses:以下,SC尺度)を作成し,看護職のストレス反応との相関について報告している(山口ら,2002).

一方,コミュニティ感覚に影響する因子の一つとしてリーダーシップがある.企業組織に勤務する就労者における職場へのコミュニティ感覚と上司のリーダーシップについて,上司のPM理論における集団維持機能(M行動)が職場への愛着やメンバーシップに影響するとの報告がある(荒井・久田,2014).また変革型リーダーシップ(Transformational Leadership:以下,TL)を奨励したり開発するための組織的,個人的な努力は看護職の満足度,職場への定着,職場環境及び個人の生産性を向上させることが示唆されている(Cummings et al., 2010).

リーダーシップは,フィードラーの状況呼応モデル(Hersey & Blanchard, 1972/2010)やTL等,数多く論じられてきた.TLは,大規模な環境変化に対して組織全体としてどのように対処すべきか,組織が成長を続けるために,非連続的組織変革の必要性について広く認識される(東,2005)中,注目されてきた.TL(Burns, 1978)は,不確実な環境の中で組織をいかにして導いていくかに注目し,フォロワーの価値観や態度を変化させるリーダーシップである(東,2005).現在の我が国は超高齢化が急速に進み,社会保障制度の大変革期であり,組織を変革しスタッフを導くTLは,臨床においても重要なリーダーシップスタイルであると考える.

看護におけるTLに関する海外の報告は多く認められており(Cummings et al., 2010),看護師長のTLと組織コミットメントに関連があったとの報告(McGuire & Kennerly, 2006)やTLが職務満足につながる部下の心理的エンパワーメントと関連しているとの報告(Larrabee, 2003),看護師長のTLが急性期病院における看護ユニットの組織文化(適応性,方向性,一貫性,自律性)に関連しているとの報告がある(Casida & Pinto-Zipp, 2008).

本邦においては,ビジネスパーソンにおけるTLの有用性に関し,日本企業研究開発部門の上級管理者におけるTL行動が,チームの活性度,組織コミットメントに有意な正の相関があるとの報告(今井,2014)やTLの習得に関して内省経験が影響するとの報告がある(八木,2010).看護に関しては,TLの個別的配慮が仕事意欲に高い正の相関が認められたという報告(野中ら,2009)があるが,SCとの関連については明らかにされていない.そこで本研究は,大学病院に勤務する看護師が捉えた看護師長によるTLとSCとの関連を明らかにすることを目的とする.

Ⅱ. 研究方法

1. 調査対象およびデータ収集方法

職場コミュニティ感覚に影響する病床機能(高度急性期),看護体制(7対1),看護管理者研修の有無などの外部変数を考慮し,全国の国公私立大学病院(79病院)から,乱数表を用い単純無作為標本抽出により施設を選定した.内科,外科,混合病棟に勤務する病棟勤務看護師(副看護師長以下)795名を対象者とした.対象施設の看護部門長へ説明文書を送付し,協力の得られた施設へ質問紙を郵送した.看護部から対象者へ質問紙を配布し,回答後対象者が返信用封筒に厳封のうえ,郵送により回収した.回答をもって本研究に対する同意とする事を明記した説明文書,同意書を添付した.調査期間は,平成29年7月11日から同年9月24日までであった.

2. 概念枠組み

概念枠組みを図1に示す.本研究では,TL及び基本属性が,SCに関連すると考えた.

図1

概念枠組み

3. 用語の定義

1)TL:組織の成果を達成させるために,フォロワーが自律的に行動するように働きかけるリーダーシップ.

2)SC:コミュニティの構成員が,所属するコミュニティに対して抱く,所属感や信頼感といった感情.

4. 調査項目

1)基本属性:性別,年齢,職位,勤務病棟,勤務形態,経験年数,部署経験年数,上司(看護師長)との就業年数,最終学歴,大学院への進学,離転職の意思,職場環境,生活状況.

2)TL:TLの測定尺度は,多因子リーダーシップ質問票(Multifactor Leadership Questionnaire:以下,MLQ)である.この尺度は,理想化された影響(特性),理想化された影響(行動),鼓舞的動機づけ,知的刺激,個別的配慮の5つの下位尺度20項目5件法の質問からなる(Avolio & Bass, 2004).MLQは,リーダー用と評価者用があり,スタッフからみたリーダーシップを測定する評価者用を使用した.評価者用MLQにより,スタッフが捉えた看護師長のTLを調査した.得点が高いほど,TL行動が実践できていると評価した.MLQのライセンスは,Mind Garden社にライセンス料を支払い使用した.

3)SC:この尺度は,良好なコミュニケーション,職場志向性,同僚への信頼感の3つの下位尺度28項目5件法の質問からなる(山口,2003).得点が高いほど,スタッフのSCが良好であると評価した.SC尺度は,尺度開発者に使用許可を得た.

5. サンプルサイズ

TLに関する研究(野中ら,2009)等から質問紙票の回収率を30~50%程度と予測すると共に,線形回帰モデルにおいて症例数は曝露因子数の15倍必要(新谷,2016)とされている事から質問紙票を約800部配付した.

6. 分析方法

SCを従属変数,TLと基本属性を独立変数とし,VIF(Variance Inflation Factor)により多重共線性を確認した後,重回帰分析(強制投入法)を行った.SCとTLの解析後,SCとTLの下位尺度間,SCとTLの両下位尺度間で重回帰分析を行った.有意水準は,5%とした.統計学的解析は,IBM SPSS Statistics Ver. 24を使用した.

Ⅲ. 倫理的配慮

以下の内容および質問紙の返送をもって同意とすることを明記した文書を送付した.(1)無記名アンケートにより調査を行うため,個人は特定されない.(2)研究への参加は自由意思であり,参加拒否による不利益はない.(3)USBに保存したデータは,自施設で厳重に管理し施設外に持ち出さない.(4)研究終了後は,この研究に関するデータはすべて研究者が10年間保存した後,廃棄または消去する.本研究は,旭川医科大学倫理委員会の承認を得た(承認番号16195).

Ⅳ. 結果

1. 対象者の概要

全国の国公私立大学病院から単純無作為標本抽出した14大学へ795名分の質問紙を配付し,その内8大学から283名の回答があった.回収率は35.6%であった.そのうち無回答や重複回答がない有効回答数は275名,有効回答率は97.2%であった.

2. 基本属性

研究対象者の概要を表1に示す.性別は,女性が251名(91.3%),男性が24名(8.7%)であった.年代別では20歳代107名(38.9%),30歳代75名(27.2%),40歳代61名(22.2%),50歳代29名(10.6%),および60歳代3名(1.1%)であった.20歳代と30歳代で全体の66.1%を占めていた.職位は,副看護師長が50名(18.2%),スタッフが225名(81.8%)であった.勤務病棟では,内科が80名(29.1%),外科が102名(37.1%),混合病棟が93名(33.8%)で,同程度の人数であった.離転職の希望については,このまま継続したいが154名(56.0%)であったのに対し,離転職希望が121名(44.0%)と全体の4割以上を占めていた.

表1 基本属性 N = 275
項目 人数(%)
性別 24(8.7)
251(91.3)
年齢 20歳代 107(38.9)
30歳代 75(27.2)
40歳代 61(22.2)
50歳代 29(10.6)
60歳代 3(1.1)
職位 副看護師長 50(18.2)
スタッフ 225(81.8)
勤務病棟 内科 80(29.1)
外科 102(37.1)
混合 93(33.8)
勤務形態 常勤 269(97.8)
非常勤 6(2.2)
最終学歴 専門学校 134(48.7)
短期大学 38(13.8)
看護系大学 96(34.9)
大学院 7(2.6)
大学院への進学 進学予定 3(1.1)
在学中 1(0.4)
予定なし 271(98.5)
離転職の意思 このまま継続したい 154(56.0)
離転職希望 121(44.0)
項目 平均値±SD
年齢(歳) 35.24 ± 10.11
副看護師長 44.68 ± 6.74
スタッフ 33.14 ± 9.53
経験年数 12.71 ± 9.93
部署経験年数 3.65 ± 3.45
上司との就業年数 1.20 ± 1.33

平均年齢は,35.24 ± 10.11歳であった.経験年数は平均12.71 ± 9.93年であった.部署経験年数は,平均3.65 ± 3.45年であった.上司との就業年数は,平均1.20 ± 1.33年であった.

3. SCとTLの関連

SCとTLの重回帰分析を表2に示す.年齢と経験年数に多重共線性が認められたため年齢を除き,さらにデータに偏りのある勤務形態と大学院への進学を除外してSCを従属変数とし,TLと基本属性を独立変数として重回帰分析を行った.分析の結果,TL(β = 0.515, p < 0.01)とに有意な関連が認められた.また離転職の意思(β = –0.171, p < 0.01)とに有意な関連が認められた.

表2 職場コミュニティ感覚に対する影響因子の検討
因子 非標準化係数B 標準化係数β P
定数 65.149 .000
基本属性
性別 3.713 0.063 .226
職位 –0.964 –0.022 .700
勤務病棟 –1.437 –0.042 .421
経験年数 –0.140 –0.084 .191
部署経験年数 0.429 0.089 .092
上司との就業年数 0.249 0.020 .697
最終学歴 –1.466 –0.031 .566
離転職の意思 –5.723 –0.171 .001*
職場環境 0.193 0.014 .797
生活状況 –0.025 –0.001 .988
変革型リーダーシップ 0.512 0.515 .000*

重回帰分析:強制投入法,調整済みR2 = 0.303,分散分析:p < 0.001,Durbin-Watson = 1.655

*:p < .05

4. SCとTLの下位尺度の関連

SCとTLの下位尺度の重回帰分析を表3に示す.SCを従属変数とし,TLの下位尺度を独立変数として重回帰分析を行ったところ,個別的配慮(β = 0.400, p < 0.01)とに有意な関連が認められた.

表3 職場コミュニティ感覚に対する影響因子の検討(変革型リーダーシップの下位尺度との関連)
因子 非標準化係数B 標準化係数β P
定数 61.907 .000
基本属性
性別 4.344 0.074 .149
職位 –0.918 –0.021 .708
勤務病棟 –1.025 –0.030 .569
経験年数 –0.125 –0.075 .237
部署経験年数 0.446 0.093 .074
上司との就業年数 –0.017 –0.001 .979
最終学歴 –1.531 –0.032 .543
離転職の意思 –4.972 –0.149 .005*
職場環境 0.586 0.042 .433
生活状況 0.746 0.024 .651
変革型リーダーシップ(下位尺度)
理想化された影響(特性) 0.731 0.162 .071
理想化された影響(行動) 0.127 0.030 .729
鼓舞的動機づけ –0.134 –0.030 .740
知的刺激 0.212 0.048 .612
個別的配慮 1.688 0.400 .000*

重回帰分析:強制投入法,調整済みR2 = 0.334,分散分析:p < 0.001,Durbin-Watson = 1.613

*:p < .05

5. SCとTLの両下位尺度の関連

SCの3下位尺度とTLの5下位尺度の重回帰分析を表4に示す.SCの下位尺度の良好なコミュニケーションは,個別的配慮(β = 0.297, p < 0.01)とに有意な関連が認められた.職場志向性は,個別的配慮(β = 0.431, p < 0.01),理想化された影響(特性)(β = 0.240, p < 0.01)とに有意な関連が認められた.また離転職の意思(β = –0.202, p < 0.01)とに有意な関連が認められた.同僚への信頼感では,個別的配慮(β = 0.339, p < 0.01)とに有意な関連が認められた.

表4 職場コミュニティ感覚の下位尺度に対する影響因子の検討
良好なコミュニケーション 職場志向性 同僚への信頼感
因子 非標準化係数B 標準化係数β P 非標準化係数B 標準化係数β P 非標準化係数B 標準化係数β P
定数 10.362 .000 23.569 .000 27.977 .000
基本属性
性別 0.485 0.035 .534 0.201 0.011 .834 3.657 0.109 .039*
職位 0.499 0.049 .433 –1.259 –0.093 .110 –0.159 –0.006 .912
勤務病棟 –0.626 –0.078 .181 0.334 0.031 .562 –0.733 –0.037 .487
経験年数 –0.026 –0.066 .345 –0.005 –0.010 .881 –0.094 –0.098 .129
部署経験年数 0.137 0.121 .034* 0.074 0.049 .351 0.235 0.085 .107
上司との就業年数 0.162 0.055 .323 –0.359 –0.091 .077 0.180 0.025 .627
最終学歴 –0.446 –0.039 .495 –0.928 –0.061 .250 –0.157 –0.006 .915
離転職の意思 –0.154 –0.020 .737 –2.125 –0.202 .000* –2.692 –0.141 .010*
職場環境 0.058 0.018 .766 0.348 0.079 .147 0.180 0.023 .680
生活状況 0.220 0.030 .607 0.880 0.088 .097 –0.354 –0.020 .714
変革型リーダーシップ(下位尺度)
理想化された影響(特性) 0.144 0.136 .171 0.340 0.240 .009* 0.247 0.096 .296
理想化された影響(行動) –0.069 –0.069 .467 0.094 0.070 .421 0.102 0.042 .635
鼓舞的動機づけ 0.012 0.012 .907 –0.114 –0.082 .380 –0.032 –0.013 .891
知的刺激 0.103 0.098 .342 –0.177 –0.126 .185 0.286 0.112 .242
個別的配慮 0.295 0.297 .001* 0.547 0.431 .000* 0.819 0.339 .000*

重回帰分析:強制投入法 調整済みR2 = .190,分散分析:p < .001 調整済みR2 = .314,分散分析:p < .001 調整済みR2 = .306,分散分析:p < .001

*:p < .05 Durbin-Watson = 1.774 Durbin-Watson = 1.760 Durbin-Watson = 1.636

Ⅴ. 考 察

スタッフのSCと看護師長のTLに関連が認められた.SCは,共同体を構成する成員が抱く職員間の関係性や職場志向性を内包しており,看護師長によるTLの発揮が,これらに関連していることが明らかになった.リーダーシップは,「集団・組織のメンバーが目的達成に向かって積極的・自発的にその活動に参加・貢献するように誘導し,さらに構成員相互の連帯性を維持・向上させる機能である」(井部・中西,2012)と言われるように,看護師長のスタッフへの働き掛けが所属感や信頼感といった感情に影響していると考える.特にTLは,チーム意識を持ち,自分の頭で考え行動するような意欲の高い積極的な部下を育てるカリスマ性を持ったリーダーシップ(Bass, 1990)であるとされ,スタッフのモチベーションの向上や能力開発を支持する関わりを通じ目標を達成する.このような看護師長の働きかけが,スタッフのSCに影響しているものと考えられる.またSCとTLの下位尺度の個別的配慮に関連が認められた.個別的配慮とは,フォロワーの多様性をリーダーが認め,それに応じてフォロワーの成長を促すようにコーチングやサポートを実践する(小野,2014)ことである.TLの個別的配慮に相応する配慮的リーダーシップが,組織コミットメントと職務コミットメントに関連していたとの報告があり(今井,2014),本研究の結果と合わせて考えると,組織に対する愛着や所属感を形成し,仕事に対する意味や価値等を見出すことを促す看護師長のスタッフへの個別的な配慮がSCにとって重要であることを示しているといえる.

SCの下位尺度である職場志向性とTLの理想化された影響(特性)とに関連を認めた.看護師長の理想化された影響(特性)とは,フォロワーが一体感を抱き,ロールモデルとなるように振る舞う態度や姿勢をいう.この関連については,看護師長がスタッフに対してモデルとなるような看護実践を見せ,成長へとつながる評価や助言をすることで,スタッフから尊敬される存在になるとの報告(野田,2010)があり,看護師長がスタッフから理想の看護師像として,同一化されていく存在であることを示唆している.看護師長のTLの発揮は,スタッフからロールモデルとして認知され職場志向性を高めていると考えられた.また職場志向性とは,組織活動の目標や価値観を共有し共同体から必要とされ,自分の仕事に有意味性があり,重要な役割を果たしていると感じることである.看護師長のビジョンを示しスタッフを導く姿勢が,スタッフの目標や価値の共有という職場志向性に関連しているものと考える.さらに職場志向性と離転職の意思に負の関連が認められた.これは組織コミットメントの愛着や同一化といった情動的要素が低いほど離職意向が強かったとの報告(難波ら,2009)を支持するものである.

Bassによれば理想化された影響と個別的配慮を通じて変革型リーダーは,フォロワーに一層の努力を刺激し,知的刺激によって高めの努力を呼び起こすと言われている(長谷川,2016).知的刺激については,急性期病院の看護師を対象とした横断研究において,知的刺激と情緒的コミットメントに関連があったとする報告(Kodama et al., 2016)があるが,本研究では知的刺激とSCに関連は認められなかった.これは病院機能や病床数の違いの他に,先の報告では看護師の平均経験年数が7.4年であり,本研究は12.7年であった事が関係していると考える.情緒的コミットメントと経験年数1年以上5年未満の看護師は能力開発のチャンスと関連し,5年以上の看護師は上司のサポートと関連があったとの報告(能見ら,2010)がある.また5~10年目の看護師は,看護師長をタイミングよく教育してくれたり,成長を後押ししてくれていると捉え(山根・岡,2017),一方30歳代以降の中堅看護師は,能力開発を継続するためにキャリア形成に対する不安や中堅看護師に期待される役割と自己認識とのズレによる葛藤等に対し,内省や承認が重要(小山田,2009)であるとされ,経験年数や年齢により看護師長に求められるサポートに違いがある.またSCと情緒的コミットメントの項目を比較すると,SCの下位尺度である同僚への信頼感に情緒的コミットメントと類似した質問項目があるものの,SCは組織のビジョンの理解や価値の共有,同僚との良好な関係等に関する内容であり,情緒的コミットメントは組織に対する所属意識等の内容である事もSCと知的刺激に関連を認めなかった理由と考える.TLについては,組織の目標や対象者の特性との関連からも検討する必要性が示唆された.

Ⅵ. 看護への示唆

中小企業の経営者を対象にした報告によると,TLは経験や内省によって習得できるとされている(八木,2010).それは個人特性だけではなく,看護師長の看護管理の経験や内省によっても身に付き,意識的に発揮されるものと推察する.個人特性などのパーソナルパワーや,看護師長の職位というポジションパワー(Hersey & Blanchard, 1972/2010)と共に,経験や内省によって得られたTL行動が,スタッフの意欲や組織への貢献に影響を与える可能性がある.そのため看護部は個別的配慮や鼓舞的動機づけ等を備えた看護師長の育成のための研修や職場環境を調整し,経験と内省によりTLスタイルが習得できる研修システムを構築することが重要である.

Ⅶ. 研究の限界

対象選択の妥当性について,全国の国公私立大学病院から,単純無作為標本抽出で選択した14大学病院へ質問紙を郵送したが,回答数は275部だった.本研究は横断研究のため,因果関係は特定できない.また本研究は,対象者を大学病院に勤務する病棟看護師としており,そのまま一般病院に当てはめることは難しいと考えられるため,今後さらに対象を広げ,縦断研究により因果関係を明らかにしていく必要がある.

Ⅷ. 結論

1.スタッフのSCは,看護師長のTLと有意な関連が認められた.

2.看護師長によるTLの「個別的配慮」は,SCの全ての下位尺度に関連していた.

3.看護師長によるTLの「理想化された影響(特性)」は,スタッフが描く理想的な看護師長としての発言や態度を,ロールモデルとして認知し,SCの職場志向性に内包される所属感等を高めることが示唆された.

4.TLは,看護管理の経験や内省により看護師長に備わる可能性があり,社会保障制度の変革期を乗り越えるために,「個別的配慮」等を備えた看護師長の育成が重要である.

付記:本研究は平成30年度旭川医科大学大学院医学系研究科修士論文の一部を加筆・修正したものである.

謝辞:本研究にご協力いただきました皆様に深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MNは研究の着想およびデザイン,データ収集,結果の分析と解釈,原稿の作成を行った.YHは原稿への示唆およびプロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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