日本看護科学会誌
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原著
特別支援学校の学校看護師が医療的ケアを要する子どもの急変に備えるプロセス
清水 史恵
著者情報
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2019 年 39 巻 p. 137-146

詳細
Abstract

目的:特別支援学校の看護師(以下,学校看護師)が,医療的ケアを要する子どもの急変に備えるプロセスを明らかにする.

方法:学校看護師18名に半構造化面接を実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.

結果:学校看護師は,急変対応を経験し,重責を伴う急変対応の判断に迷い,急変にチームで対応する必要性を感じる中で,急変時に関わる人たちと信頼関係を築き,その子を知るように努めていた.そして,その子に起こりうる体調の変化や急変を予測し,教諭と共に,急変時に動けるように備え,急変に至らないよう先手を打っていた.その際,学校看護師は,親や教諭の思いや学校のルールにそわなければいけないことで葛藤を抱くと,教諭や親の思いと折り合いをつけていた.学校看護師は,教諭と共に急変に備えながら教諭の急変対応力を高めていた.

結論:急変に備えるため,学校看護師と教諭が経験を共有し学ぶ場の必要性が示唆された.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to describe the process of nurses’ preparing for sudden health deterioration in children with medical technology dependence in special needs schools.

Method: Semi-structured interviews were conducted with 18 nurses with work experience of more than 3 years at special needs schools, and obtained data were analyzed using the modified grounded theory approach.

Results: Nurses felt a strong sense of responsibility and expressed difficulty in assessing and responding to children’s sudden health deterioration; therefore, they tried to know each child individually. After getting to know the children, nurses could predict how a child’s health could change, including sudden health deterioration. Nurses were prepared to work together with teachers when sudden health deterioration occurred, and they made plans to prevent it. While preparing for sudden health deterioration, nurses faced conflicts because of accepting requests of parents and teachers and school rules. In such situations, nurses reconciled these requests while maintaining children’s health and safety. Nurses expressed the necessity of working with school staff as a team to address sudden health deterioration. Therefore, nurses built mutual relationships with school staff and parents, improved skills of teachers in caring for the children, and prepared to work together with teachers.

Conclusion: To prepare for sudden deterioration in a child’s health, it is necessary for nurses and teachers to learn by sharing their experiences.

Ⅰ. 背景

全国の特別支援学校で学ぶ医療的ケアを要する子ども(以下,医療的ケア児)の数は2017年に8,218名と,その数は年々増加しており,複数の医療的ケアを要する子どもも増加している(文部科学省,2018).全国の肢体不自由養護学校(現,特別支援学校)に勤務する看護師(以下,学校看護師)を対象とした質問紙調査で,学校看護師の44.4%が医療的ケア児の緊急事態に遭遇していたと報告されている(日本小児看護学会,2008).教諭は,学校看護師の緊急時に対応できる力のばらつきを感じており(小室・加藤,2008),学校看護師も,体調急変時の対応に不安を感じ(中村ら,2017),医療的ケア児の緊急時対応に関する研修を希望している(柳本ら,2016中村ら,2017).中村ら(2017)は,緊急時対応に備えて,医師による指導管理を受けながら,教職員に対して指導助言することは,特別支援学校看護師の重要な役割であると述べている.緊急時に対応する力,緊急時に備える力といった医療的ケア児の急変に対する学校看護師の実践力を高める必要がある.しかし,特別支援学校の学校看護師に対する現任教育の機会は十分ではなく(柳本ら,2016),学校看護師の急変対応力を向上させる現任教育プログラムを構築していくことが望まれる.

これまで,特別支援学校で働く学校看護師のためのガイドラインにおいて,急変時対応の例が示されているが(日本小児看護学会,2010),学校看護師が医療的ケア児の急変に対して,実際にどのようなケアを実施しているのかに関する報告はみられない.医療的ケア児の急変に対し,学校看護師がどのように考え,どのようなケアを実施しているのかというケアの構造を明らかにする必要がある.本研究は,特別支援学校で医療的ケア児の急変に対し,学校看護師が提供するケアの構造を明らかにすることを目的とした.本稿では,ケアの構造のうち普段の学校生活に焦点をあて,医療的ケア児の急変対応を経験した学校看護師が,普段の学校生活において,どのように急変に対し備えているのかというプロセスを明らかにすることを目的とした.

Ⅱ. 研究方法

1. 用語の定義

急変とは,緊急事態にいたるような,医療的ケア児の状態の急激な変化を意味する.緊急事態とは,子どもの生命を脅かす状態で,例えば,痰がつまったことによる急激な呼吸状態の悪化である.

ケアの構造とは,医療的ケア児の急変に対して,急変時や普段の学校生活において学校看護師が考え実施している内容である.

2. 研究デザイン

質的帰納的研究である.

3. 研究対象者

特別支援学校に3年以上勤務し,医療的ケア児の急変に対応した経験のある学校看護師とした.特別支援学校での勤務経験を3年以上としたのは,ベナーの看護論で,意識的に立てた長期の目標や計画をふまえて看護実践を始めるという「一人前のレベル」が,似た状況下で2~3年働いた経験のある看護師であったことや(Benner, 2001/2005),実務経験3年以上で同様の状況下の経験を繰り返し持つ看護師に臨床判断の発展がみられていた(尾形,2012)ためである.学校看護師の配置等の医療的ケアの体制整備に早期から取り組んできた近畿圏内の教育委員会に研究協力を依頼し,勤務3年以上の学校看護師の勤務する特別支援学校名の情報を得た.学校長あてに研究協力依頼書類を郵送し,学校長からの紹介で研究対象者に研究協力を依頼した.

4. データ収集方法(期間:2016年9月~2017年1月)

一人につき一回,半構造化面接を実施した.面接は,学校看護師の勤務校内のプライバシーが確保できる個室で,35~97分間(平均55分間)行った.面接内容は,学校でのケア体制,急変対応した医療的ケア児の普段の様子,急変時の状況,急変時にどのように考えてどのように行動したのか,急変対応する際に心がけていること,急変対応のために普段から心掛けていることについてであった.面接内容を,許可を得た上で録音し,匿名性を保持し逐語録とした.1名からは録音の許可が得られず,研究者が面接内容をノートに筆記し,面接終了後3時間以内にノートのメモをもとに想起し,逐語録を作成した.

5. データ分析方法

修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(木下,2003)を用いた.本稿は,特別支援学校の医療的ケア児の急変に対して,急変対応を経験した学校看護師が,普段の学校生活において周囲の人々との社会的相互作用を生じながら,どのように考え備えているのかという一連のプロセスを明らかにすることを目的としている.修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(木下,2003)は,実践的なヒューマンサービス領域における限定された範囲での人間行動の予測と説明ができる理論生成を目指していることから,本稿の目的に合致しており適していると考えた.

分析焦点者を「医療的ケア児の急変対応の経験のある特別支援学校の学校看護師」,分析テーマを「特別支援学校の医療的ケア児の急変対応の経験を経て,学校看護師が医療的ケア児の急変に備えるプロセス」とした.分析テーマを意識し,逐語録を何度も読み込み,学校看護師の急変の備えに関する考えや行動を表すデータ部分を抽出した.データは継続的に類似と対極の両方向での比較をし,類似するデータを具体例として概念を生成し,概念ごとに分析ワークシートを作成した.概念間の関係を考え,カテゴリーを生成した.概念間の関係を検討する際,類似する概念,対極する概念の可能性を考え,データに戻り確認した.学校看護師18名のデータ分析を行った時点で,学校看護師の語りから新たな概念が見いだされなくなったため,理論的飽和に至ったと判断した.カテゴリー間の関係を検討した結果をストーリーラインとして文章化し,結果図を作成した.真実性の確保のため,質的研究の経験を有する小児看護学領域の研究者からスーパーバイズを受け分析結果の検討を重ね,研究対象者にデータ解釈に誤りがないかを郵送にて確認した.

6. 倫理的配慮

研究対象者に,研究の趣旨,目的,研究協力の自由性,匿名性の保持,研究目的以外に得た情報は使用しないこと,データの保存方法および破棄の時期,研究結果を学会等で発表することを,口頭・書面で説明し,同意書への署名で研究協力の同意を確認した.京都大学大学院医学研究科の医の倫理委員会の承認を得て,研究に着手した(承認番号:R0627).

Ⅲ. 結果

1. 研究対象者の概要

研究対象者は18名で,全員女性,年齢は40~63歳(平均52.7歳)であった.臨床経験は9.7~41.6年(平均24.5年),小児看護の経験ありは14名で1~17.5年(平均7.5年)であった.特別支援学校での学校看護師の経験は3.3~21年(平均9.1年)であった.正規雇用1名,非正規雇用17名であった.非正規雇用17名のうち,週2日勤務が1名,週3日勤務と週4日勤務が各3名,週5日勤務が10名であった.研究対象者の勤務校は,近畿地方の8市の病院併設のない10校であった.1校あたり医療的ケア児4~67名が在籍していた.研究対象者1名は学校看護師が1名勤務の特別支援学校,17名は学校看護師が複数勤務の特別支援学校に勤務していた.学校看護師が複数勤務している特別支援学校9校では,1日に学校看護師2名~9名が勤務し,学校看護師間で医療的ケア児を複数名ずつ分担して受け持っていた.学校看護師のみが医療的ケアを実施する体制の特別支援学校に勤務する者が4名,教諭も医療的ケアを実施する体制の特別支援学校に勤務する者が14名であった.

2. インタビューで語られた急変内容

インタビューで語られた急変内容には,気管カニューレが移動や更衣の際に引っ張られ抜けてしまう事故抜去や,痰が気道内で詰まることによる呼吸状態の悪化に関するものがあった.

3. 特別支援学校の学校看護師が医療的ケア児の急変に備えるプロセス(図1

分析の結果,26概念,10カテゴリーが見いだされた.【 】はカテゴリー,〈 〉は概念,斜体は学校看護師の語り,補足説明は( )で示し,末尾のアルファベットは研究対象者のIDである.以下にストーリーラインを記述する.

図1

特別支援学校の学校看護師が医療的ケア児の急変に備えるプロセス

ストーリーライン

学校看護師は,医療的ケア児の急変対応を経験し,【重責を伴う急変対応の判断に迷いを感じる】や【急変にチームで対応する必要性を感じる】ことで,医療的ケア児や親や教諭らと【信頼関係を築く】とともに【その子を知る】ように努めていた.学校看護師は,【その子を知る】ことで,その子に起こりうる急変の予測や学校で管理できる体調かの見極めといった【先を見通す】ことができるようになっていた.そして,【急変に至らないように教諭と共に先手を打つ】や【急変時に教諭と共に動けるように備える】ことで,【教諭の急変対応力を高める】ように努めていた.そのような動きをする中,学校看護師は,【親や教諭の思いや学校のルールにそうことで葛藤を抱く】と,学校としての見解の提示や医師からの助言により親の納得を得ることや,親や教諭の思いを受け止め譲歩することで【教諭や親の思いと折り合いをつける】ようにしていた.そのように折り合いをつけながら,学校看護師は,【急変に至らないように教諭と共に先手を打つ】や【急変時に教諭と共に動けるように備える】ことを続けていた.

以下,カテゴリーを説明していく.各概念の定義と具体例は,表1に示す.

表1 プロセスを構成するカテゴリーおよび概念の定義と具体例
カテゴリー 概念 定義と具体例
重責を伴う急変対応の判断に迷いを感じる 医師のいない場で判断対応する重責や恐怖を感じる 医師のいない学校という場で,唯一の医療職として,医療的ケア児の急変時に状況を判断し対応しなければならない責任の重さや恐怖を感じること.
ドクターがいるわけじゃないし,それこそ,そうは思っていても,本当に,何かあったら,やっぱ,立ち会ったものの責任になるので,そういう怖さっていうのは,いつもありますよね.(H)
急変対応の判断に迷いを感じる 急変対応を振り返り,医療機関への救急搬送の時期などの判断が良かったのかどうかと迷いを感じること.
その時は,送ったほうがいいっていうので,SpO2も上がらないので,看護師二人と相談して,送ったほうがいいよねっていうことで,救急車で運んでもらったことがあるんですけれども.そのあとも,本当に,よかったのかな,でも,落ち着かなかったよねっていう感じはありますよね.(G)
急変にチームで対応する必要性を感じる 急変にチームで対応する必要性を感じる 急変時に素早く対応する,急変に至らないようにするため,教諭や養護教諭や管理職らと共にチームとして対応する必要があると考えること.
私が最初に来た頃はね,緊急対応になったら,先生たち怖いから,全部,私たちに丸投げしてたんですよ.もう,看護師さんおる(いる)から,看護師さんに任そうって.でも,私たち,一人二人で,できるわけないじゃないですか.そういうので,シミュレーションを先生方も入れてしないといけないっていう流れになって,今のそういう形になっていますね.(J)
信頼関係を築く 信頼関係を築く 教諭,親,医療的ケア児,急変時に関わる人々とコミュニケーションをとり,誠実に対応し,彼らに安心し信頼してもらえる関係を築くこと.
不信感を抱かれないように,連絡,ちゃんと,連絡帳にしても,やっぱり,ちゃんと謝るべきことは謝ったりとか,ありのまま,お母さんによるんだろうけど,なるべくわかりやすい言葉でお伝えしておいて,学校に来られた時は,ちょっと,一緒で,先生たちと一緒だけれど,やっぱり,その時その時,なんでもないコミュニケーションから,言ってもらいやすい雰囲気を自分の中に作っておくっていうか,かな.(P)
その子を知る 急変対応の振り返りを共有する 経験した急変時の対応を振り返り,学校看護師間や教諭と共有をはかること.
あとからなんか,振り返りで.先生方とも話し合ったり.(B)
体調安定に向けたケアの注意点やコツをつかむ その子への最適なケア方法について情報共有し,その子へのケアの経験をつむことで,その子へのケアで注意するポイントやコツをつかむこと.
痰とかも,鼻から気管まで(吸引チューブを)入れないと絶対にだめっていう子がいるのも,本当,処置を覚えてっていう感じですよね.気管まで入れないことには吸引,そういう状況(吸引チューブを気管に入れないと痰が取れない)でずっとおられたら,口だけの吸引だけじゃ,絶対改善しないし.(C)
体調について情報共有し意見交換する その子のいつもの状態がわからない時,必要なケアの判断に迷った時に,教諭や親や同僚看護師と情報意見交換すること.
あれ,普段と違うとかっていうのを,いつも一週間見ていないので,なんか違う,いや,いつもこんなんかなあ,いや,違うような気もするなあっていうのが,思っていても,いままでは言えなかったりとかっていうのがあったけれど,3年たって,ちょっと先生にも慣れてきて,いつもこんなんでしたっけとか,ここはこうでしたっけとかっていうのが,自分のふっとした疑問がそのまま聞けるようになったかなとは思います.(L)
その子の普通を知っておく いつもの体調との違いを察知できるように,五感を通しての観察や,同僚看護師や教諭や保護者からの情報から,体調の変化の仕方など,その子の普通の状態を知っておくこと.
全身パッとみて,なんかいつもとちょっと違うかなあって思ったりもするときはありますよね.元気な時だったら,やっぱり口唇色もきれいだし,顔もつやつやしていたりとか.あのう,休み明けでも,楽しんでゆっくりしてきたのかなって思うようなのが,パッと見るのと.全身観察するのと,あと連絡帳とか,お母さんが送ってこられた時には,お母さんからの情報とか.(G)
先を見通す 学校で管理できる体調かを見極める その子と接する中で,その子の体調がケアや時間の経過の中でどう変化するかがわかり,その子の体調が学校で管理できる範囲のものかを見極めること.
朝のHR(心拍数)50台,60台の時は,やっぱり昼注入してもそんなに(心拍数が)上がらないっていうのを経験してですね.でも,朝から(心拍数が)120台でっていうので,とりあえず,昼過ぎまではいけたけど,注入したら,(心拍数が)200とか上がってくるようだったら,今日はたぶん絶対無理と思うと,お母さんに電話して,もう今日はたぶん無理だと思いますっていうので来てもらうっていう感じ.(C)
起こりうる急変を予測し対応をイメージする 急変事例やその子を知ることで得た情報,医学知識をあわせ,常日頃から,その子に起こりうる急変を予測し,どう対応するかをイメージしておくこと.
側彎もきついし,肺の音も,こっちはよくて,こっちは悪くてってなったら,この痰がとれたら,ひっかかるかもしれないなって思ったら,ほぐすだけでなく,取れるときに注意するとか,吸引の時も注意するとか,薬剤吸入かけたら,痰が動くから,急変に至らないように,先生にこういうふうに,痰が動き出してくるから,そばにいますねとかね,そういうふうにして.(H)
急変に至らないように教諭と共に先手を打つ 急変を予防する対応の具体的な指示を得ておく 医療的ケア児の学校生活での様子や体調に関する情報を提供し,医師や理学療法士や親から,急変予防に向けた対応について具体的に指示を得ておくこと.
あまり(体を)そらせすぎたら危ないので,(気管カニューレが)抜けるだけじゃなくて,腕頭動脈にあたったら怖いから,ちょっとね,やや前傾もしくはフラットに(体位を)しながら,ここにかませられへんって(タオルなどを挟み込めないかと主治医が)言われたんですよ.(K)
急変予防の対応策を話し合う 急変に至らないようにどう対応するかについて,教諭や養護教諭や同僚看護師らと話し合うこと.
それ(気管カニューレの事故抜去)を予防するために,いろいろヒヤリハットで,こうしたら,ああしたらっていうような話し合いは何度もしているんですけど.(F)
教諭と協力して子どもを見守る 急変を予測し,急変に至らないように医療的ケア児の状態を確認し,急変にすぐ対応できるように教諭や同僚看護師と共に医療的ケア児を見守ること.
(教室の)外からは見ていて,あ,顔色悪なったなって思ったら,(教室内に)飛び込めるようにはしていたんですけど.(I)
急変を予防するケアを教諭と協力して提供する 経験をもとに,その子の体調の変化の原因を推測し,体調の悪化をきたさないように,急変を予防するケアを教諭とともに協力して提供すること.
短い時間にちょっと見に行く,様子を見に行くのと,先生のちょっとした言葉をまあ聞いていくのと,その子自体,返事が返ってくる子やったら,声掛けとかをちゃんとやって,痰が多いとか,粘いとかやったら,それに対して,体を動かすように先生に協力していただいたり,生食とか吸入したり.その(急変に)至らないように,体,姿勢を変えていくだとか.(P)
子どものことを親につなぐ 医療的ケア児の体調が悪いと判断し,親に医療的ケア児の体調が悪いことを早目に伝え,親に判断を仰いだり,学校に迎えに来てもらうよう依頼すること.
なるべく早めに,お母さんにこんな状態ですっていうのを言っていて,あんまりあれやったら,お迎えにきてくれはるんやったら,来てもらったり.(B)
急変時に教諭と共に動けるように備える 急変対応の具体的な指示を得ておく 医療的ケア児の学校生活での様子や体調に関する情報を提供し,学校看護師皆ができるように,医師から急変時の対応について具体的に指示を得ておくこと.
主治医に指示書をもらいに行くときに,指示を細かく細かくもらうようにしています.(N)
急変対応策を話し合う 急変事例を振り返り,急変時にどう対応するかについて,教諭や養護教諭や同僚看護師らと話し合うこと.
すぐすぐすぐ(主治医に急変対応の指示を)聞き取りに行って,学校でも,先生と話し合いをして,また,緊急時にどういった対応をするかっていうのを話し合って.(B)
急変対応策を書面化し教諭と共有する 急変時にどう対応するかを学校看護師や教諭が書面化しお互いに共有しておくこと.
先生たちの中でも,あのう,この子の急変時,この子の急変時っていってマニュアルみたいなのを作ってくださっているので.(O)
急変時に必要な物品を教諭と共に備えておく 急変時に必要な物がすぐに使用できるよう,教諭に一緒に備えること.
先生に用意をしてもらいましょうねっていうような感じになってきてるので,そんなに.だから,もう,Cちゃんなんかでも酸素しないといけないけど,普段の(人工)鼻とは違うってなったら,あのう,吸引の袋の所に入れときましょう,とかっていうふうに変わってきました.(S)
学内メンバーで急変時のシミュレーションをする 急変時に教諭や同僚看護師や養護教諭や管理職らと共に役割分担して動けるように,学内のメンバーで急変時の動きをシミュレーションすること.
担任の先生たちも,急変のリスクがある子どものところは,緊急時マニュアルを作っているので.先生たちもどう動くかっていうのは,年に一回か二回シミュレーションをしているので,わかってくださっているから,それぞれの子で,この子の急変はこういう状況の時っていうのは,みんな,しっかり理解してくださっているので.(D)
教諭の急変対応力を高める 教諭の急変対応力を判断する 急変時に対応する力,急変に至らないように,体調の変化を予測しながら,医療的ケア児を安全にケアする力を教諭が有しているかを判断すること.
専門的な話になると,慣れている先生はわかるけれども,先生もどんどん新しい先生に入れ替わるので.(気管)カニューレひとつにしても,何,カニューレっていうところからの先生になると,何をどう触っていいかわからないとなると,その先生に対しては,こういう時(新学期に物品をそろえる際)にまず,そういう説明(カニューレの事故抜去のリスクや事故抜去の際に必要なものの説明)をしたり,だから,これとこれとが必要ですよっていうのを先生のほうに説明したりとか,そういうやりとりですね.(Q)
教諭に観察ポイントやケアの注意点や急変対応の動きを教える 実際に医療的ケア児を一緒にみて説明することで,観察ポイント,ケアする際の注意点,その子に起こりうること,その子の体調がどんな時に学校看護師を呼ぶべきかなど,急変対応の動きを理解してもらえるように教諭に教えること.
一人一人の子どもさんで,考えられることは全部考えて,そしたら,その対応はどうするかって.それは,全部,書き出すわけです.先生にももちろん教える.(A)
親や教諭の思いや学校のルールにそうことで葛藤を抱く 親や教諭の思いや学校のルールにそうことで葛藤を抱く 医療的ケア児に危険が及ぶかもしれないと感じつつ,親や教諭の思いや学校のルールにそうことで,葛藤を抱くこと.
カニューレ(事故抜去)の時もですけど.そら,(カニューレの再挿入を)待つことはできるかもしれないですけども,苦しんでいるんやったら,早くしてあげたい.病院やったら,絶対しているやろうに.何もわからない先生に,ちょっと待ってって言われることが私としては困るというか,でも,立場上,待てと言われたら,待たないわけにいかないですしっていう,その葛藤はありますね.(M)
教諭や親の思いと折り合いをつける 学校としての見解を示し親の納得を得る 学校看護師のみの意見を示すのではなく,学校としての見解を示して,親の納得を得ること.
私たちが,直接,保護者にこうですね,ああですねっていうようなことだけはしてないです.やっぱり,それは指示になったり,意見は,看護師がこういった,あとで何かした時に,看護師がこういったからっていうことになっては,学校の組織としてはこう違うかなっていうことで,保健室としてはとか,学校としては,こういうふうに感じますよ,こうしてったほうがいいんじゃないんですかっていうもっていきかたを.教員の立場もありますしね.(H)
医師からの助言により親の納得を得る 親が学校に対し希望することについて医師から助言をもらい,親の納得を得ること.
保護者から,唾液が噴出してくるときは,(口鼻腔内吸引で)気管内の方まで吸引してもらえたらっていうことで,そういうことしてもらえますかっていうことで来られたんですけど.私たちも,どこまで受け入れていいのかっていうか,わからないので,一応,校医の先生に,私たちはどこまでできるんでしょうかっていうのを聞いて,どこまで要望を聞けるのかっていうのを,ちょっと相談させてもらったら,気管内の吸引は手技が難しくって,確実性がないからできないよって言われて,で,そのまま(保護者に)お答えしたんですけれども.(E)
親や教諭の思いを受け止めて譲歩する 教諭や親の医療的ケア児の学校生活への思いを傾聴し,その思いを受け止め,学校看護師が納得できるラインまで譲歩すること.
お母さんの思いもわかるというか,くんで,全く,水あげない,食事をあげないんではなくって,ちょっとずつ,様子を見て.ちょっとずつあげるほうが,逆に誤嚥したりするのでね.ある程度の量をあげたほうが,ごくってなるんやっていうお母さんの助言を聞いて,実際,それ,担任の先生にやってもらったら,これぐらいのスプーン三分の一のほうが,変に誤嚥する,スプーン半分以上のほうがきっちり飲み込めるとかね.だからまあ,私たちの思いだけを言うんではなくて,私たちも言いすぎたことはちょっと反省しながら,お母さんのやり方をしっかり聞いてっていう感じでしたかね.(J)

斜体は具体例( )は著者による補足

1) 重責を伴う急変対応の判断に迷いを感じる

学校看護師が,医療的ケア児の急変時に,医師がいない場で唯一の医療職として判断し対応しなくてはならない責任の重さや恐怖を感じ,救急搬送をいつ依頼するかといった自分の行った判断に迷いを感じることである.〈医師のいない場で判断し対応する重責や恐怖を感じる〉〈急変対応の判断に迷いを感じる〉の2つの概念から構成された.

学校看護師が,迷いを感じるのは,医療的ケア児の学校や家庭での普段の様子がわからないためや,学校看護師の判断と親の判断とのずれが生じていたためであった.

「発作の対応が,こういう(発作が起きた)時は,こう(発作が)続いたら,あの,座薬を入れるっていうんですけど,発作の状況がわかりにくい.いったん,終わってしまったりとか,ずっと続いて重積になったら困るし,お母さんに連絡したら,様子見てください.でも,やっぱり,(病院へ)運んだ方がいいんちゃうかとか,あいまいな状態が続くとき.(I)」

2) 急変にチームで対応する必要性を感じる

学校看護師が,医療的ケア児の急変に素早く対応する,急変に至らないようにするため,教諭,養護教諭,管理職らの学内メンバーと共にチームで対応する必要があると感じることである.

学校看護師は,医療的ケア児の急変に迅速に対応するには,学校看護師だけでは人手が足りないこと,急変対応において複数での判断が必要であることから,急変時にチームで対応する必要性を感じていた.また,学校看護師は,教諭に医療的ケア児の観察ポイントやケアの注意点が十分に伝わっていなかったことが急変につながったと考え,急変に至らないようにするためにもチームで対応する必要性を感じていた.

3) 信頼関係を築く

学校看護師が,教諭,親,医療的ケア児,急変時に関わる人々とコミュニケーションをとり,誠実に対応し,彼らに安心し信頼してもらえる関係を築くことである.学校看護師は,医療的ケア児の急変時に,教諭から信頼してもらえず,スムーズに対応できなかった経験をしていた.

「私たちとしたら,とにかく救急搬送したいのに,先生がストップかけるしね.それは,やっぱり,私たちと先生との信頼関係ができてない.海のものとも山のものともわからへん(わからない)看護師が来たばっかりっていうね,認識でおられたのでね.先生の絶対の人は,お母さんなんですよ.その時の看護師は,お母さんより下なんです,先生からしたら.だから,私たちがどんだけ言っても,やってくれなかったですね.(J)」

学校看護師は,経験を通して,教諭や親と信頼関係を築いておくことが医療的ケア児の急変にスムーズに対応できるためには大切であると考え,日々,信頼関係を築くことを心掛けていた.

4) その子を知る

医療的ケア児の体調の悪化の兆しに早期に気づき,体調の悪化をきたさないようにするため,医療的ケア児であるその子に関する情報を共有し,実際にその子をみることで,学校看護師が教諭と共に医療的ケア児のことをよく知っておくことである.〈体調について情報共有し意見交換する〉〈急変対応の振り返りを共有する〉〈体調安定に向けたケアの注意点やコツをつかむ〉〈その子の普通を知っておく〉の4つの概念から構成された.

学校看護師は,医療的ケア児の〈急変対応の振り返りを共有する〉,普段のケアの実施,教諭や親や同僚看護師らと〈体調について情報共有し意見交換する〉ことを通して,その子の〈体調安定に向けたケアの注意点やコツをつかむ〉ようにしていた.複数の学校看護師が医療的ケア児に関わっている場合には,「慣れている看護師は,(咽頭よりも)奥を吸引しに行けるんですけど,まだ,奥を超えて,吸引することに抵抗のある看護師もいるので.その人によって,ちょっとしたさじ加減によっても,生徒の状態って変わってくるので,みんなが,この子はこうしないとだめなんだよとか,みんながおんなじようなレベルで,関われるようには.(Q)」のように,どの学校看護師も同じレベルのケアを提供できるようにしていた.学校看護師は,〈急変対応の振り返りを共有する〉,五感による観察,教諭や親や同僚看護師などと〈体調について情報共有し意見交換する〉ことで,ケアや時間の経過に伴う体調の変化,体調が悪いサインも含め,医療的ケア児のいつもの体調との違いを察知できるよう〈その子の普通を知っておく〉よう努めていた.

5) 先を見通す

学校看護師が,医療的ケア児に今後起こりうる体調の変化や急変を予測し,必要な対応をイメージすることである.〈学校で管理できる体調かを見極める〉〈起こりうる急変を予測し対応をイメージする〉の2つの概念から構成された.

学校看護師は,〈学校で管理できる体調かを見極める〉にあたり,普段の体調と今の体調を比較し,ケアや時間の経過でどのように体調が変化するかを予測していた.また,学校看護師は,その子を知ることで得た情報と医学知識をあわせ,医療的ケア児に〈起こりうる急変を予測し対応をイメージする〉ことをしていた.

6) 急変に至らないように教諭と共に先手を打つ

学校看護師が,医療的ケア児に予測される急変が起こらないように,急変を予防する対応策を教諭と共に実施することである.〈急変を予防する対応の具体的な指示を得ておく〉〈急変予防の対応策を話し合う〉〈教諭と協力して子どもを見守る〉〈急変を予防するケアを教諭と協力して提供する〉〈子どものことを親につなぐ〉の5つの概念から構成された.

学校看護師は,医療的ケア児の主治医や理学療法士や親から〈急変を予防する対応の具体的な指示を得ておく〉,教諭や養護教諭や同僚看護師らと〈急変予防の対応策を話し合う〉ことをしていた.学校看護師は,医療的ケア児の気管カニューレや胃ろうボタンの事故抜去,人工呼吸器の故障といったトラブルや体調悪化を早期に発見し対応できるように,〈教諭と協力して子どもを見守る〉ようにしていた.学校看護師は,医療的ケア児の体調に合わせ,〈急変を予防するケアを教諭と協力して提供する〉ようにしていた.急変を予防するケアを提供しても体調が改善せず,医師からの指示の範疇を超えた対応が必要となることが予測される場合には,医療的ケア児の体調について親に情報提供し,対応の判断を仰ぎ,迎えを依頼するなど〈子どものことを親につなぐ〉ようにしていた.

7) 急変時に教諭と共に動けるように備える

学校看護師が,急変対応の動きを明確にし,教諭と共に理解しておくことで,急変時に教諭と共に動けるように備えることである.〈急変対応の具体的な指示を得ておく〉〈急変対応策を話し合う〉〈急変の対応策を書面化し教諭と共有する〉〈急変時に必要な物品を教諭と共に備えておく〉〈学内メンバーで急変時のシミュレーションをする〉の5つの概念から構成された.

学校看護師は,どの学校看護師も同じように急変に対応できるよう備えるため,これまでの急変対応や〈起こりうる急変を予測し対応をイメージする〉中での不明瞭な点について,主治医から〈急変対応の具体的な指示を得ておく〉,教諭や養護教諭や同僚看護師らと〈急変対応策を話し合う〉ことをしていた.学校看護師は,教諭が急変時の動きを理解しやすいように,〈急変の対応策を書面化し教諭と共有する〉,〈急変時に必要な物品を教諭と共に備えておく〉,〈学内メンバーで急変時のシミュレーションをする〉ようにしていた.

8) 教諭の急変対応力を高める

医療的ケア児が急変に至らないように先手を打つ,急変時にスムーズに動けるといった教諭の医療的ケア児の急変に対応する力を,学校看護師が高めることである.〈教諭の急変対応力を判断する〉〈教諭に観察ポイントやケアの注意点や急変対応の動きを教える〉の2つの概念から構成された.

学校看護師は,【急変に至らないように教諭と共に先手を打つ】や【急変時に教諭と共に動けるように備える】ことをする中で,医療的ケア児の体調の変化を予測しながら安全にケアする力や急変に対応する力といった〈教諭の急変対応力を判断する〉ことをしていた.そして,教諭の急変対応力を高めるため,医療的ケア児を一緒にみて説明することで〈教諭に観察ポイントやケアの注意点や急変対応の動きを教える〉ことをしていた.

9) 親や教諭の思いや学校のルールにそうことで葛藤を抱く

学校看護師が,医療的ケア児の健康安全保持と親や教諭の思いや学校のルールにそうことの間で葛藤を抱くことである.学校看護師は,【急変に至らないように教諭と共に先手を打つ】,【急変時に教諭と共に動けるように備える】中,親や教諭の思いや学校のルールにそうことが,医療的ケア児に危険を及ぼすと感じ,葛藤を抱いていた.例えば,学校看護師は,誤嚥のリスクの高い子に経口摂取を望む親の思いにそうこと,学校のルールで気管カニューレ事故抜去後の再挿入を学校看護師の判断ですぐに実施できないこと,親が学校看護師に医師の指示内容とは異なる対応を希望することに葛藤を抱いていた.「親の思いとのずれの中で,もうこれ(経口摂取)をしたら悪くなるのわかっているのに,こう,ダメだと言えない場面の多さのジレンマみたいな葛藤はずっとありますね.(H)」のように,学校看護師は,医療者の目から見てその子に危険が及ぶと予測されることを受け入れざるを得ない状況に置かれていた.

10) 教諭や親の思いと折り合いをつける

学校看護師が,医療的ケア児の体調に悪影響を及ぼさず,教諭や親の学校生活や急変対応への思いにそえるラインで折り合いをつけることである.〈学校としての見解を示し親の納得を得る〉〈医師からの助言により親の納得を得る〉〈親や教諭の思いを受け止めて譲歩する〉の3つの概念から構成された.

学校看護師は,学校看護師のみの意見ではなく,〈学校としての見解を示し親の納得を得る〉よう努めていた.また,学校看護師は,親が学校に対し希望することが,学校で安全に実施することが可能か,子どもの体調悪化につながらないかを,親や教諭と共に医師に確認し,〈医師からの助言により親の納得を得る〉ようにしていた.一方,学校看護師は,親の納得を得るように努めるだけではなく,教諭や親の話を傾聴し,学校看護師が納得できるラインまで〈親や教諭の思いを受け止めて譲歩する〉ようにしていた.

Ⅳ. 考察

今回,学校看護師は,医療的ケア児の急変対応の経験から,その子を知り,先を見通し,教諭や親の思いと折り合いをつけ,教諭の急変対応力を高めながら,教諭と共に急変に備えていることが明らかとなった.医療的ケア児の急変に備えるために,学校看護師がどのような力を高める必要があるのか,また,そのための支援策について考察した.

1. 先を見通す力

学校看護師は,先を見通すことで,教諭と共に急変に備え,急変に至らないよう先手を打っていた.ゆえに,学校看護師にとって,先を見通す力は急変対応の要となる力である.学校看護師は,その子を知ることで,先を見通せるようになっていた.そのことから,その子を知るということは,先を見通すために,とても重要である.学校看護師が,普段のその子を知り,普段との違いを察知することで,起こりうる急変を予測していたことは,救命救急センターや循環器病棟に勤務経験のある看護師に関する報告(大野ら,2008照屋ら,2009)と類似している.Benner(1999/2005)は,『患者を知ること』がすぐれた臨床把握や推移を見通すうえで重要であると述べている.学校看護師は自分の五感を通して観察し,子どもの体調の悪いサインも含めてその子の体調を把握しており,子どもの出すサインを細やかに観察する力が重要であると考えられる.85.5%の子どもたちに急変に至る前24時間以内に何らかの兆候が見られていたという報告もあり(Akre et al., 2010),急変を予測するには,子どもを細かに観察するとともに,学校看護師自身が観察していない時間帯も含め,その子のことをよく知っておけるよう,親や教諭から子どもの情報を得る情報収集力も必要である.

学校看護師は,その子について自身が直接知り得たことだけではなく,同僚看護師や教諭らと情報共有し意見交換すること,急変対応の振り返りを共有することでも,その子のことをより深く知り,先を見通していた.看護師は,実践を通じて経験的に学んでいくにつれ,患者の状況の推移を予測できるようになる(Benner, 1999/2005).学校看護師が,先を見通す力を高めるためには,医療的ケア児の体調やケアに関する情報を得て自身で判断するだけではなく,子どもの体調や急変対応の経験について,教諭や学校看護師らと意見交換し互いに学べる場が必要である.

2. 教諭や親の思いと折り合いをつける力

学校看護師は,親や教諭の思いや学校のルールにそうことで抱く葛藤に対し,教諭や親の思いと折り合いをつけるようにしていた.そのことは,今までの看護師の急変対応に関する研究では報告されていない.特別支援学校が,医療の場ではなく,病気や障害を抱える子どもを教育する教育職と共に働く場の特性によって,そのような結果が得られたと考える.教諭や親の思いと折り合いをつけることは,職種間の役割葛藤に対し,建設的な問題解決を促す方法であるwin-win戦略(勝田,2008)に該当すると考えられる.教諭や親の思いと折り合いをつけるため,学校看護師は,主治医や学校組織からの意見を親に提示する策,その子を知り,親や教諭の思いを聴き,医療者として受け止められる部分は受け止め譲歩する策をとっていた.そのことから,医療だけではなく教育の視点も含めてその子を総合的にとらえ判断する力や,主治医も巻き込んでの教諭や親との交渉力が学校看護師に必要と考える.

今回,学校のルールにそうことへの葛藤の解決に向かう概念は見いだされなかった.また,葛藤を抱いていた学校看護師が皆,折り合いをつけていたわけではなかった.学校看護師が,葛藤を抱いたまま,急変に備えていることが考えられる.急変時対応は,自責感,無力感,ストレス,さらには心的外傷体験となり,ソーシャルサポートの必要性が指摘されている(木村ら,2010).学校看護師は,葛藤だけでなく,医師がいない場で判断対応する重責や恐怖も感じており,学校のルールが適切であるかを主治医らと共に検討するなど,主治医ら医療者に必要時に相談できる体制の整備や,学校看護師の精神面へのサポートも必要である.

3. 教諭らと協働する力

学校看護師は,教諭らと信頼関係を築き,教諭の急変対応力を高めながら,急変への備えを教諭と共に行っていた.教諭の急変対応力を高め,教諭と共に急変に備えるためには,教諭らと協働する力が重要である.

学校看護師は,急変時に必要な物品を教諭と共に備え,急変対応策を書面化し教諭と共有するなど様々な方法で,教諭が急変時の動きをわかるように働きかけていた.非医療者である教諭に適切に指導できる力が,学校看護師には求められる.学校看護師が教諭への急変対応に関する指導力を高めるには,学校看護師が教諭への指導方法を学べる機会が必要である.また,学校看護師が,教諭とともにシミュレーションを実施し,急変対応策を話し合うなどの時間を十分に確保できる勤務体制の整備も不可欠である.

Ⅴ. 研究の限界と今後の課題

全研究対象者の実践を観察できていないといった研究の限界はあるが,本研究の結果は,特別支援学校の医療的ケア児への急変対応に向けた学校システムや,急変対応に関する教育プログラムを検討する資料として活用できる.今回,研究対象者の勤務地では,病院勤務の看護師や訪問看護師らが学校に派遣されるのではなく,学校看護師が学校に配置されている体制であったこと,研究対象者が病院併設のない特別支援学校に勤務していたことが,結果に影響していた可能性がある.今後は対象地域を広げさらに検討を加える必要がある.また,学校看護師が教諭と共に急変に備えていることが明らかとなったことから,今後,教諭の立場から急変にどう備えているかを明らかにし,その結果も併せて検討していくことが必要である.

謝辞:研究にご協力いただいた教育委員会,学校長,学校看護師の皆様,分析にあたり,助言いただいた京都大学大学院の鈴木真知子先生,東北医科薬科大学の家髙洋先生,兵庫県立大学大学院の勝田仁美先生,元大阪府立箕面支援学校の久保田牧子様に,深く感謝いたします.本研究は,第6回日本小児看護学会研究助成を受けて実施しました.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

付記:本研究の一部を第27回日本小児看護学会学術集会で発表しました.

文献
  •  Akre,  M.,  Finkelstein,  M.,  Billman,  G. (2010): Sensitivity of the pediatric early warning score to identify patient deterioration, Pediatrics, 125(4), e763–e769.
  • Benner, P. (1999)/井上智子(2005):ベナー看護ケアの臨床知 行動しつつ考えること,医学書院,東京.
  • Benner, P. (2001)/井部俊子(2005):ベナー看護論新訳版 初心者から達人へ,医学書院,東京.
  •  勝田 仁美(2008):他職種チームアプローチにおける役割葛藤の調整,小児看護,31(9), 1199–1204.
  •  木村 千代子, 長牛 由美, 村山 志津子(2010):過去10年間の急変についての研究の動向と今後の課題―看護師に焦点をあてた文献研究から―,青森中央短期大学研究紀要,24, 237–244.
  • 木下康仁(2003):グラウンデッド・セオリー・アプローチの実践―質的研究への誘い,弘文堂,東京.
  •  小室 佳文, 加藤 令子(2008):医療的ケア実施校の教員からみた医療的ケア実施の現状,小児保健研究,67(4), 595–601.
  • 文部科学省(2018):平成29年度特別支援学校等の医療的ケアに関する調査結果について,Retrieved from http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/__icsFiles/afieldfile/2018/03/29/1402845_04_1.pdf(検索日:2018年11月24日)
  •  中村 信弘, 斎藤 孝, 藤井 慶博,他(2017):特別支援学校における医療的ケアの課題と今後の方向性~看護師へのアンケート調査結果から~,秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要,39, 149–158.
  • 日本小児看護学会(2008):「特別支援学校において医療的ケアを実施する看護師の機能と専門性の明確化」プロジェクト研究報告書,14–57.
  • 日本小児看護学会(2010):特別支援学校看護師のためのガイドライン改訂版,21–28.
  •  尾形 裕子(2012):状況の把握に焦点をあてた臨床判断のパターン―経験3年以上の看護師における臨床判断の特徴―,北海道医療大学看護福祉学部学会誌,8(1), 11–20.
  •  大野 千鶴, 東 恵実, 高橋 愛,他(2008):熟練看護師の急変場面における意思決定に関する研究,日本看護学会論文集 看護総合,38, 86–88.
  •  照屋 理奈, 金城 芳秀, 池田 明子(2009):救急初療の場における看護師の初期アセスメントに関する研究~K病院における中堅看護師のインタビューから~,沖縄県立看護大学紀要,10, 45–53.
  •  柳本 朋子, 田中 千絵, 松原 まなみ,他(2016):特別支援学校の医療的ケア実施体制を支える学校看護師配置と課題,聖マリア学院大学紀要,7, 27–34.
 
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