日本看護科学会誌
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原著
生体肝移植後の高齢レシピエントの自己管理行動の現状と自己管理行動に影響する要因
堀部 光宏赤澤 千春
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ジャーナル オープンアクセス HTML

2019 年 39 巻 p. 147-156

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Abstract

目的:高齢レシピエントの自己管理行動の現状と自己管理行動に影響する要因を明らかにすることである.

方法:「日本肝移植研究会」に登録された移植実施施設67か所のうち,18施設の移植コーディネーターや医師に研究協力を依頼した.協力が得られた7施設で外来受診時の65歳以上の生体肝移植レシピエントに無記名自記式質問紙を配布し,回収された167人分を分析した.

結果:91.6%のレシピエントが免疫抑制剤を内服していたが,49.7%は副作用の理解が不十分であった.女性レシピエントは「移植後の期間」が経過すると日々の観察に関する自己管理行動を疎かにしていた.また,フレイルの女性は「健康増進実行度」が低かった.

結論:高齢レシピエントは免疫抑制剤の副作用自体の理解は不十分であったが,自己管理行動はできていた.女性レシピエントでは「移植後の期間」が「日々の観察実行度」,フレイルが「健康増進実行度」に影響していた.

Translated Abstract

Objective: This study aims to examine the current state of self-management behavior in elderly living donor-liver transplant recipients (LRs) and determine the factors correlated with such behavior.

Methods: We requested the transplant coordinators and doctors from 18 of the 67 transplant hospitals identified by Japanese Liver Transplantation Society for the enrollment of LRs. A total of 167 Japanese LRs aged ≥65 years were enrolled, who answered anonymous self-administered questionnaires at seven hospitals.

Results: We found that 91.6% LRs were administered with immunosuppressant medication, although 49.7% could not adequately comprehend the corresponding side effects. Female LRs gradually ignored the daily-life observation of self-management behavior following transplantation. Furthermore, females who experienced frailty exhibited lower “health-promotion scores.”

Conclusions: Although LRs could not adequately comprehend the side effects of their medications, overall, they performed self-management behavior. In female LRs, the factor that correlated with “daily-observation scores” was “the periods following transplantation” and the factor that correlated with “health-promotion scores” was frailty.

Ⅰ. はじめに

日本肝移植研究会(2018)によると,1964年から2017年までに生体肝移植を受けたレシピエント(18歳以上)は5,620人で,50代で手術を受けた人が最も多く,次いで60代であった.国内では移植による生体侵襲を考慮し,適応年齢を65歳未満としている施設が多いため,70代で受けた人はわずかである.1年生存率は82.2%であり(日本肝移植研究会,2018),施設によっては1年生存率を91%と報告しており(山敷ら,2016),1996年の在院死亡率が55.6%であったことを考えると(Kaido et al., 2009),約20年間で短期予後は大きく改善したと言える.それによって,移植後に10年,15年と生存するレシピエントが増え,65歳以上になったレシピエントも多くなってきている.現在,生体肝移植後で65歳以上のレシピエント(以下,高齢レシピエント)は約2,500人と推定され(日本肝移植研究会,2018),今後もその数は増加していくと考えられる.長期予後をみると,50代・60代で移植を受けたレシピエントの10年生存率は65.4%・63.8%,15年生存率は58.9%・55.1%である(日本肝移植研究会,2018).また,75 歳までの標準化死亡比(SMR:Standard Mortality Ratio,ここでは×100していない値)は5.8,死因別ではがんSMR 5.47,感染症SMR 75.7,腎疾患SMR 35.1とされているが(Åberg et al., 2015),これらの死因は免疫抑制剤の副作用による影響が大きい.しかし,拒絶反応を予防するために免疫抑制剤の内服は避けられないため,日々の自己管理行動を継続し,副作用を予防することが重要である.ところが高齢になるにつれて,身体的・精神的・社会的な機能の低下が生じてくるため,高齢者で内服薬の自己管理をしているのは39%のみで,日常生活動作や嚥下機能の低下が内服を困難にしていることや(戒田ら,2006),高齢糖尿病患者ではセルフケア能力に手段的サポートや情緒的サポートが影響してることが報告されている(作並・服部,2011).高齢レシピエントでも同様に考えられるが,これまでの研究で焦点は当てられていない.また,肝移植後患者の自己管理行動には項目によって男女差があり,食事や栄養管理,感染予防行動では女性,運動では男性の方が実施できているという指摘がなされている(熊野ら,2014Xing et al., 2015).

そこで,本研究の目的は高齢レシピエントの自己管理行動の現状や身体的・精神的・社会的な機能の低下,またそれらの関係を男女差に着目して明らかにすることである.それによって,今後の高齢レシピエントの自己管理行動の継続やこれから高齢レシピエントとなるレシピエントへの教育的介入に貢献できると考える.

Ⅱ. 研究方法

1. 用語の定義

移植後の自己管理行動:免疫抑制剤の内服のみならず,それによる副作用を予防するために有効な行動を中心とした健康管理を自身で実行すること

2. 研究デザイン

無記名自記式質問紙による横断的調査研究

3. 研究対象者

一般的に国内において生体肝移植後のレシピエントの入院療養期間は術後2~3か月間であるため,術後3か月以上経過した高齢レシピエント(満65歳以上)とした.また,認知症と診断されている者,日本語を母国語としない者,医師や移植コーディネーターが身体的・精神的などの理由で不適当と判断した者は除外した.

4. 研究期間

2018年2月6日~2019年3月31日までとした.

5. 質問紙の配布期間・配布方法・回収方法

質問紙の配布期間は2018年2月6日~11月30日とした.「日本肝移植研究会」に登録された移植実施施設67か所のうち18施設(累積症例数100例未満1施設,100~500例未満13施設,500例以上4施設)の移植コーディネーターや医師に研究協力を依頼した.協力が得られた7施設(累積症例数100例未満1施設,100~500例未満4施設,500例以上2施設)へ推定される対象者分の質問紙を郵送,または持参した.移植コーディネーターや医師が対象者の外来受診時やその待ち時間に質問紙への回答を依頼し,同意が得られた場合は質問紙を配布した.質問紙の回収は,原則郵送法とし,質問紙の回収箱の設置が許可された1施設では留め置き法も併用した.留め置き法を希望した対象者が質問紙の記入を行うために許可された場に回収箱を設置した.回収箱は研究者の監視下に置き,盗難を予防し,対象者が質問紙を投函した後は速やかに回収した.

6. 質問紙の作成

構成は,対象者属性,自己管理行動について,心身などに関する機能評価とした.対象者属性は,年齢や性別,原因疾患,拒絶反応による入院経験,現在の肝機能障害に関する質問などとした.自己管理行動については複数の病院の患者指導パンフレットや堀部(2018)を参考にし,一般的に肝移植後のレシピエントに指導されている内容である「内服管理」,「感染予防」,「食事管理」,「日々の観察」,「健康増進」,「がん予防」,「医療者との関係」の7項目に分類した質問とした.また,これら合計40項目の回答を集約し,便宜的に0か1として,0~40までの値をとる「自己管理行動実行度」を作成し,その値が大きいと自己管理行動ができていると判断した(表1).心身などに関する機能の評価は,厚生労働省(2006)の要介護状態になる可能性の高い高齢者のスクリーニングに使用されている「基本チェックリスト」を用いた.これには「日常生活関連動作」,「運動器の機能」,「低栄養状態」,「口腔機能」,「閉じこもり」,「認知機能」,「抑うつ気分」の7項目,合計25項目の質問があり,身体的・精神的・社会的な機能の低下が評価できる.各質問項目は「はい」か「いいえ」で回答し,0~25点で数値化され,点数が高くなると機能の低下を示す.

表1 「自己管理行動」の質問項目および「自己管理行動実行度」の作成方法
下位項目 質問項目
内服管理実行度 合計10 ここ2週間の免疫抑制剤の内服状況はどうですか? 「全て飲んだ」に1,「1回忘れた,2回忘れた,3回以上忘れた,不明」に0
ここ2週間,決められた時間に免疫抑制剤を飲んでいますか? 「はい」に1,「いいえ」に0
免疫抑制剤は自分で用意して飲んでいますか? 「はい」に1,「いいえ」に0
誰かに免疫抑制剤を飲んだか確認してもらっていますか? 「いいえ」に1,「はい」に0
免疫抑制剤の副作用がないか確認していますか? 「はい」に1,「いいえ」に0
免疫抑制剤を飲み忘れた時に適切な対処ができますか? 「はい」に1,「いいえ」に0
外出や旅行に免疫抑制薬剤などの薬を持って行きますか? 「はい」に1,「いいえ」に0
他の病院や歯医者で免疫抑制剤を飲んでいると伝えていますか? 「はい」に1,「いいえ」に0
普段,グレープフルーツやグレープフルーツの入った食品を食べますか? 「いいえ」に1,「はい」に0
過去に医師や看護師,薬剤師などから指導された免疫抑制剤の副作用はどれですか? 提示した副作用の選択や記述回答ができた人に1,「特に指導されていない,覚えていない」に0
感染予防実行度 合計11 水道水や井戸水は煮沸して飲んでいますか? 「はい,水道水や井戸水を飲むことはない」に1,「いいえ」に0
ガーデニングや畑仕事などの土に触れる作業をする時,手袋をしていますか? 「はい,土に触れることはない」に1,「いいえ」に0
人混みを避けるようにしていますか? 「している,時々している」に1,「あまりしていない,していない」に0
室内の清潔を保つようにしていますか? 「はい」に1,「いいえ」に0
鮮度の良い食品を意識して選んで食べていますか? 「はい」に1,「いいえ」に0
歯みがきや入れ歯の手入れをしていますか? 「1日1回,1日2回,1日3回以上」に1,「していない」に0
食事前,排泄後,帰宅時などに手洗いをしていますか? 「している,時々している」に1,「あまりしていない,していない」に0
帰宅時,うがいをしますか? 「している,時々している」に1,「あまりしていない,していない」に0
外出時,マスクをしていますか? 「している,時々している」に1,「あまりしていない,していない」に0
毎年,インフルエンザ予防接種を受けていますか? 「はい」に1,「いいえ」に0
過去5年以内に肺炎球菌ワクチン接種を受けましたか? 「はい」に1,「いいえ,不明」に0
食事管理実行度 合計3 バランスの取れた食事を意識していますか? 「している,時々している」に1,「あまりしていない,していない」に0
主に誰が料理をしますか? 「自分」と回答した人のみ1
理想BMIの範囲か(60歳代BMI 20.0~24.9,70歳以上BMI 21.5~24.9) 左記の基準内の人に1
日々の観察実行度 合計4 血圧を測定していますか? 「毎日,週1~2回」に1,「月1~2回,していない」に0
体重を測定していますか? 「毎日,週1~2回」に1,「月1~2回,していない」に0
免疫抑制剤を飲む前に体温を測定していますか? 「はい」に1,「いいえ」に0
排便後には大便の色や性状を観察していますか? 「毎日,週1~2回」に1,「月1~2回,していない」に0
健康増進実行度 合計6 現在の飲酒習慣について教えてください 「飲まない,移植前は飲んでいたが今は飲まない」に1,「週3回以上,週1~2回,付き合い程度」に0
積極的に水分を摂取していますか? 「している,時々している」に1,「あまりしていない,していない」に0
市販のかぜ薬や痛み止め薬などを飲むことがありますか? 「いいえ」に1,「はい」に0
年に1回以上,歯医者へ検診に行きますか? 「はい」に1,「いいえ」に0
よく眠れていますか? 「眠れている,だいたい眠れている」に1,「ほとんど眠れていない,眠れていいない」に0
30分以上の散歩や運動をしていますか? 「週1日,週2日,週3日以上」に1,「していない」に0
がん予防実行度 合計3 ここ2年間で,がん検診を受けたことがありますか? 「はい」に1,「いいえ」に0
現在の喫煙習慣について教えてください 「吸わない,移植前は吸っていたが今は吸わない」に1,「吸っている」に0
日焼けをしないように日焼け止めや帽子などを使用していますか? 「はい」に1,「いいえ」に0
医療者との関係実行度 合計3 体調の悪い時は病院や移植コーディネーターに連絡していますか? 「はい」に1,「いいえ」に0
受診時は,医師や看護師などに質問できるように事前に用意をしていますか? 「している,時々している」に1,「あまりしていない,していない」に0
医師や看護師などにしたい質問はできていますか? 「できている,時々できている」に1,「あまりできていない,できていない」に0

7. 分析方法

統計解析ソフトは主にIBM® SPSS® Statistics 23を使用し,Brunner–Munzel検定,Steel & Dwass法,2 × 3以上のFisherの直接確率検定はR version 3.5.1で統計学的に分析した.正規性はShapiro–Wilk検定を用い,対象者属性と自己管理行動についてや,対象者属性と「基本チェックリスト」の分析をクロス検定(χ2検定やFisherの直接確率検定),正規性のある2群間の検定にはWelch検定,正規性のない2群間の検定にはBrunner–Munzel検定を使用した.正規性のない3群以上の検定ではKruskal–Wallis検定を用い,多重検定はSteel & Dwass法で行った.相関関係はPearsonの相関係数やSpearmanの順位相関係数を用いた.なお,検定力はG*Power 3.1を使用した.

1) 対象者属性

記述統計で平均値,標準偏差などを算出した.

2) 自己管理行動について

記述統計で分析し,「自己管理行動実行度」を算出した.

3) 心身などに関する機能の評価

「基本チェックリスト」の点数を記述統計で分析した.それに加えて,Satake et al.(2016)が「基本チェックリスト」で8点以上がフレイル,4~7点がプレフレイル,3点以下が健常と分類できることを明らかにしているため,それをもとにフレイルの評価も行った.

8. 倫理的配慮

大阪医科大学研究倫理委員会で承認を受け(承認番号:看-90),必要に応じて研究協力施設の倫理委員会でも承認を得た.対象者には文書によって,自由意思による研究への参加,無記名での調査,直接的に移植コーディネーターや医師が記入後の質問紙を見ないこと,研究への参加・不参加による今後の診療への影響はないこと,個人情報の取り扱いについて示した.質問紙の結果は電子化し,そのデータはパソコン本体ではなくロック付きのUSBに保存した.そのUSBや質問紙自体は鍵の掛かるキャビネットで厳重に管理し,一定期間経過後に質問紙はシュレッダー処理し,電子化したデータは消去することとした.

Ⅲ. 結果

1. 質問紙の配布と回収

研究協力の得られた7施設で推定された対象者は262人であったため,その部数の質問紙の配布を依頼した.回収された質問紙は186部(回収率71.0%)で,対象者として不適当なものや欠損率10%以上のものを19部除外して,最終的に167部を分析対象とした.なお,7施設で質問紙の配布対象除外基準となった者は10人以下であった.

2. 対象者属性

対象者は男性79人,女性88人であった.年齢の中央値(IQR)は男性69.0(4)歳,女性69.0(5)歳,前期高齢者が150人,後期高齢者が17人であった.平均移植時の年齢は男性59.5歳,女性59.2歳で,65歳以上で移植を受けた人は29人いた.平均移植後の期間は男性10.0年,女性10.7年であった.拒絶反応での入院経験者は18人で,現在,主治医から肝機能障害を指摘されている人は13人であった.既婚者は126人,再婚者は5人で,男性の既婚率と再婚率は女性より高く,女性の「死別」の割合は男性より高かった(Fisherの直接確率検定,p < .001).同居者のある人が145人(87.3%)で,男性の方が同居している人の割合は高かった(χ2(1) = 7.5, p = .006, φ = .213).地域での役割やボランティア活動をしている人は全体の37.7%,仕事による収入のある人は36.5%,医療費による生活への負担がある人は10.9%であった.男性の方が仕事による収入のある人の割合が高かったが(「仕事による収入の有無」χ2(1) = 14.0,p < .001,φ = .302),医療費による生活への負担があると回答していた(「医療費による生活への負担の有無」χ2(1) = 6.2,p = .013,φ = .214).学歴は女性と比較し,男性の方が「高校より上」に進学していた(χ2(1) = 4.1, p = .044, φ = –.168).移植のドナーは「子ども」が最多で,次いで「配偶者」であった.「現在,ドナーとの関係性はうまくいっていると思いますか?」で「うまくいっていると思う」が94.0%で,2人はドナーと死別していた.また,「現在の健康状態はどうですか?」で「よい」と回答した人が88.6%いた(表2).

表2 対象者属性(N = 167,男性n = 79,女性n = 88)
項目 内訳 全体(人 %) 男性(人) 女性(人)
年齢(歳) 中央値(IQR) 69.0(5) 69.0(4) 69.0(5)
65~69歳 87 (52.1) 42 45
70~74歳 63 (37.7) 30 33
75歳以上 17 (10.2) 7 10
移植時の年齢(歳) 平均値(SD) 59.4(5.4) 59.5(5.2) 59.2(5.5)
65歳未満 138 (82.6) 67 71
65歳以上 29 (17.4) 12 17
通院時間(分)(n = 164) 中央値(IQR) 82.5(71) 90.0(104) 65.0(66)
通院頻度 月に1回以上 27 (16.2) 16 11
2か月に1回 52 (31.1) 23 29
3か月に1回 88 (52.7) 40 48
主要な原因疾患名 肝硬変(ウイルス性)劇症肝炎除外 94 54 40
肝硬変(アルコール性+NASH) 10 6 4
劇症肝炎 15 6 9
併存疾患数(n = 166) 中央値(IQR) 1.0(2) 1.0(2) 1.0(2)
移植後の期間(年) 平均値(SD) 10.4(4.7) 10.0(4.2) 10.7(5.1)
3か月~4年 23 (13.8) 10 13
5~9年 48 (28.7) 27 21
10~14年 66 (39.5) 31 35
15年以上 30 (18.0) 11 19
拒絶反応での入院経験の有無(n = 164) あり 18 (11.0) 7 11
なし 146 (89.0) 72 74
現在の肝機能障害の有無(n = 165) あり 13 (7.9) 7 6
なし 152 (92.1) 71 81
婚姻 既婚 126 (75.4) 70 56 ***a
再婚 5 (3.0) 5 0
死別 29 (17.4) 3 26
独身 7 (4.2) 1 6
同居者の有無(n = 166) あり 145 (87.3) 74 71 *b
なし 21 (12.7) 4 17
地域での役割やボランティア活動の有無 あり 63 (37.7) 33 30
なし 104 (62.3) 46 58
仕事による収入の有無 あり 61 (36.5) 41 20 *b
なし 106 (63.5) 38 68
医療費による生活への負担の有無(n = 165) あり 18 (10.9) 14 4 *b
なし 147 (89.1) 64 83
学歴 高校卒業まで 95 (56.9) 38 57 *b
高校より上 72 (43.1) 41 31
移植のドナー 配偶者 38 (22.8) 24 14
同胞 5 (3.0) 3 2
子ども 119 (71.3) 50 69
その他 5 (3.0) 2 3
現在,ドナーとの関係性はうまくいっていると思いますか? うまくいっていると思う 157 (94.0) 76 81
うまくいっていると思わない 8 (4.8) 3 5
死別 2 (1.2)
今の健康状態はどうですか?(n = 166) よい 147 (88.6) 72 75
よくない 19 (11.4) 7 12

* p < .05,** p < .01,*** p < .001

a:Fisherの直接確率検定 b:χ2検定

NASH:非アルコール性脂肪肝炎

3. 自己管理行動について

直近の2週間において免疫抑制剤を忘れずに内服できた人は全体の91.6%であった.また,全体の97.0%は免疫抑制剤を自分で用意して内服していた.誰かに内服状況を確認してもらっている人は12.0%おり,女性より男性の割合が高かった(χ2(1) = 5.7, p = .017, φ = .203).過去に医師や看護師,薬剤師などから指導された免疫抑制剤の副作用を「特に指導されていない」,あるいは「覚えていない」と回答した人が51.9%で,副作用の理解は不十分であった.53.6%はここ2年間でがん検診を受診していた.女性の方が男性よりうがいの実施(「帰宅時うがいをしますか?」χ2(1) = 4.1,p = .042,φ = .171)とマスクの着用ができていた(「外出時マスクをしていますか?」χ2(1) = 8.0,p = .005,φ = .232).また,女性は男性より自身で料理をつくり(「主に誰が料理をしますか?」χ2(1) = 108.6,p < .001,φ = .821),日焼け対策もしていたが(「日焼けをしないように日焼け止めや帽子などを使用していますか?」χ2(1) = 11.7,p = .001,φ = .277),男性より体重測定をしていなかった(「体重を測定していますか?」χ2(1) = 6.3,p = .012,φ = –.207)(表3).Brunner–Munzel検定で「自己管理行動実行度」(BM = 2.56, df = 164.1, p = .011, ES = –0.406)に加えて,その下位項目の「感染予防実行度」(BM = 2.56, df = 155.0, p = .011, ES = 0.411),「食事管理実行度」(BM = 7.63, df = 160.8, p < .001, ES = –1.059),「がん予防実行度」(BM = 3.34, df = 152.6, p = .001, ES = –0.539)でも女性の方が値は高く,自己管理行動ができており,「自己管理行動実行度」以外の3つの「実行度」は検定力が.8以上であった(表4).

表3 「自己管理行動実行度」の下位項目(0と1の人数)
下位項目 質問項目 全体(人 %) 男性(人) 女性(人)
n 0 1 0 1 0 1
内服管理実行度 合計10 ここ2週間の免疫抑制剤の内服状況はどうですか? 167 14 (8.4) 153 (91.6) 4 75 10 78
ここ2週間,決められた時間に免疫抑制剤を飲んでいますか? 166 10 (6.0) 156 (94.0) 2 77 8 79
免疫抑制剤は自分で用意して飲んでいますか? 167 5 (3.0) 162 (97.0) 3 76 2 86
誰かに免疫抑制剤を飲んだか確認してもらっていますか? 166 20 (12.0) 146 (88.0) 15 64 5 82 *a
免疫抑制剤の副作用がないか確認していますか? 162 91 (56.2) 71 (43.8) 39 35 52 36
免疫抑制剤を飲み忘れた時に適切な対処ができますか? 151 36 (23.8) 115 (76.2) 21 52 15 63
外出や旅行に免疫抑制薬剤などの薬を持って行きますか? 167 1 (0.6) 166 (99.4) 1 78 0 88
他の病院や歯医者で免疫抑制剤を飲んでいると伝えていますか? 164 8 (4.9) 156 (95.1) 5 71 3 85
普段,グレープフルーツやグレープフルーツの入った食品を食べますか? 167 3 (1.8) 164 (98.2) 3 76 0 88
過去に医師や看護師,薬剤師などから指導された免疫抑制剤の副作用はどれですか? 156 81 (51.9) 75 (48.1) 32 41 49 34
感染予防実行度 合計11 水道水や井戸水は煮沸して飲んでいますか? 167 61 (36.5) 106 (63.5) 32 47 29 59
ガーデニングや畑仕事などの土に触れる作業をする時,手袋をしていますか? 165 48 (29.1) 117 (70.9) 28 52 22 65
人混みを避けるようにしていますか? 167 112 (67.1) 55 (32.9) 57 22 55 33
室内の清潔を保つようにしていますか? 167 24 (14.4) 143 (85.6) 10 69 14 74
鮮度の良い食品を意識して選んで食べていますか? 166 22 (13.3) 144 (86.7) 14 65 8 79
歯みがきや入れ歯の手入れをしていますか? 167 0 (0.0) 167 (100.0) 0 79 0 88
食事前,排泄後,帰宅時などに手洗いをしていますか? 166 7 (4.2) 159 (95.8) 4 74 3 85
帰宅時,うがいをしますか? 166 50 (30.1) 116 (69.9) 30 48 20 68 *a
外出時,マスクをしていますか? 166 87 (52.4) 79 (47.6) 51 28 36 51 **a
毎年,インフルエンザ予防接種を受けていますか? 166 72 (43.4) 94 (56.6) 36 42 36 52
過去5年以内に肺炎球菌ワクチン接種を受けましたか? 165 79 (47.9) 86 (52.1) 38 39 41 47
食事管理実行度 合計3 バランスの取れた食事を意識していますか? 165 21 (12.7) 144 (87.3) 8 70 13 74
主に誰が料理をしますか? 166 84 (50.6) 82 (49.4) 74 5 10 77 ***a
理想BMIの範囲か(60歳代BMI 20.0~24.9,70歳以上BMI 21.5~24.9) 165 75 (45.5) 90 (54.5) 33 45 42 45
日々の観察実行度 合計4 血圧を測定していますか? 167 85 (50.9) 82 (49.1) 40 39 45 43
体重を測定していますか? 166 66 (39.8) 100 (60.2) 23 56 43 44 *a
免疫抑制剤を飲む前に体温を測定していますか? 165 152 (92.1) 13 (7.9) 72 6 80 7
排便後には大便の色や性状を観察していますか? 166 22 (13.3) 144 (86.7) 15 64 7 80
健康増進実行度 合計6 現在の飲酒習慣について教えてください 167 33 (19.8) 134 (80.2) 19 60 14 74
積極的に水分を摂取していますか? 167 16 (9.6) 151 (90.4) 6 73 10 78
市販のかぜ薬や痛み止め薬などを飲むことがありますか? 167 126 (75.4) 41 (24.6) 54 25 72 16
年に1回以上,歯医者へ検診に行きますか? 166 59 (35.5) 107 (64.5) 26 52 33 55
よく眠れていますか? 166 13 (7.8) 153 (92.2) 6 72 7 81
30分以上の散歩や運動をしていますか? 165 48 (29.1) 117 (70.9) 19 59 29 58
がん予防実行度 合計3 ここ2年間で,がん検診を受けたことがありますか? 166 77 (46.4) 89 (53.6) 39 39 38 50
現在の喫煙習慣について教えてください 166 9 (5.4) 157 (94.6) 7 71 2 86
日焼けをしないように日焼け止めや帽子などを使用していますか? 167 67 (40.1) 100 (59.9) 43 36 24 64 **a
医療者との関係実行度 合計3 体調の悪い時は病院や移植コーディネーターに連絡していますか? 165 78 (47.3) 87 (52.7) 39 39 39 48
受診時は,医師や看護師などに質問できるように事前に用意をしていますか? 167 57 (34.1) 110 (65.9) 25 54 32 56
医師や看護師などにしたい質問はできていますか? 165 23 (13.9) 142 (86.1) 9 68 14 74

* p < .05,** p < .01,*** p < .001

a:χ2検定

表4 「自己管理行動実行度」と下位項目
男性(n = 79) 女性(n = 88)
中央値 IQR 中央値 IQR
自己管理行動実行度 27.0 6 29.0 6 *
内服管理実行度 8.0 2 8.0 1
感染予防実行度 7.0 3 8.0 2 *
食事管理実行度 2.0 1 2.0 1 ***
日々の観察実行度 2.0 2 2.0 2
健康増進実行度 4.5 1 4.0 2
がん予防実行度 2.0 2 2.0 1 **
医療者との関係実行度 2.0 2 2.0 2

* p < .05,** p < .01,*** p < .001

Brunner–Munzel検定

4. フレイルについて

「基本チェックリスト」の女性の中央値(IQR)は5.0(6)でプレフレイルにあたる点数であった.Brunner–Munzel 検定で「基本チェックリスト」の点数と性別に有意差(BM = 3.02, df = 165.0, p = .003, ES = 0.452)があり,女性は男性よりも機能低下があった.下位項目である「運動器の機能」(BM = 3.63, df = 164.9, p < .001, ES = –0.561),「閉じこもり」(BM = 2.36, df = 155.5, p = .019, ES = –0.398),「抑うつ気分」(BM = 2.32, df = 164.7, p = .021, ES = –0.347)でも女性は男性より機能低下があった(表5).フレイルの評価をすると,年齢による有意差はなく,健常には男性の割合が高く,プレフレイルとフレイルには女性の割合が高かった(χ2(2) = 10.4,p = .006,CramerのV = .249)(表6).

表5 「基本チェックリスト」と下位項目
男性(n = 79) 女性(n = 88)
中央値 IQR 中央値 IQR
「基本チェックリスト」の点数 3.0 4 5.0 6 **
日常生活関連動作 1.0 1 0.0 1
運動器の機能 1.0 2 2.0 2 ***
低栄養状態 0.0 1 0.0 1
口腔機能 1.0 1 1.0 2
閉じこもり 0.0 0 0.0 1 *
認知機能 0.0 1 0.0 1
抑うつ気分 0.0 1 0.0 2 *

* p < .05,** p < .01,*** p < .001

Brunner–Munzel検定

表6 フレイルの評価と年齢
男性(人 %) 女性(人 %) 年齢 中央値(IQR)
男性 女性
健常(n = 67) 41(24.6) 26(15.6) 69.0(4) 69.0(4)
プレフレイル(n = 60) 26(15.6) 34(20.4) 70.0(6) 69.0(6)
フレイル(n = 40) 12(7.2) 28(16.8) 69.0(5) 70.0(5)

5. 対象者属性の自己管理行動への影響

Spearmanの順位相関係数で,男性では「年齢」は「感染予防実行度」(rho = .259, p = .021),「日々の観察実行度」(rho = .231, p = .040),「健康増進実行度」(rho = .262, p = .020)と有意な相関があった.また,「移植時の年齢」は「自己管理行動実行度」(rho = .249, p = .027),「感染予防実行度」(rho = .231, p = .040)と有意な相関が認められた.「通院時間」と「内服管理実行度」(rho = .251, p = .026),「移植後の期間」と「医療者との関係実行度」(rho = –.240, p = .033),「併存疾患数」と「内服管理実行度」(rho = .241, p = .034)でも有意な相関があった.一方,女性では「移植時の年齢」が「日々の観察実行度」(rho = .249, p = .019)と「健康増進実行度」(rho = –.213, p = .046)で有意な相関があった.また,「通院時間」と「食事管理実行度」(rho = .229, p = .033),「移植後の期間」と「日々の観察実行度」(rho = –.342, p = .011)とも有意な相関が認められた.しかし,これらで.8以上の検出力が得られたものは,女性で有意な負の弱い相関があった「移植後の期間」と「日々の観察実行度」のみであり,女性は移植後の期間が経つと日々の観察が疎かになっていた.

6. 心身などの機能低下による自己管理行動への影響

「自己管理行動実行度」と「基本チェックリスト」のSpearmanの順位相関係数から男女ともに有意な相関関係があるとは言えなかった(男性rho = –.085,p > .05;女性rho = –.106,p > .05).Kruskal-Wallis検定で,「自己管理行動実行度」の7つの下位項目と健常・プレフレイル・フレイルを分析すると,男性では有意差のある項目はなかった.しかし,女性では「健康増進実行度」(p = .005)と「食事管理実行度」(p = .045)で有意差があった.Steel & Dwass法を用い,「健康増進実行度」では健常とフレイル(p = .019),プレフレイルとフレイル(p = .009)で有意差があったため,フレイルの女性は健康増進に関する自己管理行動ができていなかったが(図1),「食事管理実行度」では有意差はなかった.

図1

女性の「健康増進実行度」と「フレイル」

Ⅳ. 考察

1. 日常生活における自己管理行動

免疫抑制剤の内服は対象者の91.6%が忘れずにできており,高齢レシピエントのみを対象とした研究ではないが,肝移植レシピエントの約50%が内服のノンアドヒアランスであったという報告(Lamba et al., 2012Stilley et al., 2010)と比較して高いアドヒアランス率であった.また,高齢レシピエントの92.7%が「薬を毎回欠かさずに服用している」と回答したという報告を支持する結果であった(熊野ら,2014).内閣府(2018)によると,男性の就業者の割合は65~69歳で54.8%,70~74歳で34.2%,女性は65~69歳で34.4%,70~74歳で20.9%とされている.対象者の就業率は男性が52%,女性が23%であったため,男性は同年代の男性よりも就業しており,仕事は「高齢者の生きがい」という概念の先行要件とされているため関連が考えられた(野村,2005).65歳以上の独居者の割合は27.1%だが(内閣府,2018),対象者では12.6%のみで一般の高齢者よりも同居率が高かった.これは日本国内では親族が生体肝移植ドナーとなる必要があり,本研究からもドナーの71.3%が子ども,22.8%が配偶者であるため,家族の凝集性が高かったということが推測された.しかし,これは一部の家族員にドナーになることが暗に強いられることも意味しており,生体肝移植における倫理的問題として指摘されている(習田,2011).「今の健康状態はどうですか?」という主観的健康感の質問で「よい」や「まあまあよい」と回答した70~74歳の割合は51.3%だが(内閣府,2018),対象者では88.6%であったため,一般の高齢者よりも現在の健康状態がよいと思っている人の割合が多かった.対象者の53.6%は2年以内にがん検診を受けており,市区町村が実施したがん検診の受診率は胃がん:8.6%,肺がん:7.7%,大腸がん:8.8%,子宮頸がん:16.4%,乳がん:18.2%(厚生労働省,2018)とされているため,一般よりもがん予防ができていると言えた.「感染予防実行度」,「食事管理実行度」は女性の方が男性より値が高く,感染予防行動や食事管理は男性より女性の方ができているという熊野ら(2014)Xing et al.(2015)の報告と符合した.女性では移植後の期間が経つと日々の観察が疎かになっており,回復に伴って自己管理行動を疎かにする(Akazawa et al., 2013)という指摘を支持した.

2. フレイルからみる日常生活について

一般的に心身などの機能の低下,つまり「基本チェックリスト」の点数が高くなり,プレフレイルやフレイルと診断されることは高齢になると生じ,Satake et al.(2016)の調査では健常,プレフレイル,フレイルの人の平均年齢はそれぞれ74.0歳,76.5歳,81.9歳であった.しかし,対象者では一般よりも年齢が低い状態で機能低下が生じていた.特に女性は機能低下があり,「基本チェックリスト」の点数以外に下位項目の「運動器の機能」,「閉じこもり」,「抑うつ気分」が男性よりも低下していたため,外来受診はできているが,普段は家にとどまるような生活を送っていることが考えられた.

3. 自己管理行動を支援するアセスメントツールの必要性

今回の調査で認知症と診断された対象者は除外されているが,高齢で認知機能が低下すると内服の自己管理行動ができなくなると言われている(芦川ら,2018).よって,対象者がさらに高齢となり,認知機能が低下すると,現在のように内服の自己管理ができなくなることが推測される.また,自宅に閉じこもり,社会とのつながりがなくなることによる認知機能の低下(Kuiper et al., 2017)も言われている.対象者の女性は男性より身体機能が低下し,閉じこもりがちであることが窺えたため,支援の必要性が考えられた.今後は,支援が必要な高齢レシピエントをスクリーニングするために,糖尿病高齢患者に対する自己管理行動のアセスメントツール(Seo et al., 2017)のようなアセスメントツールの開発が求められる.

Ⅴ. 結論

高齢レシピエントでは免疫抑制剤の内服は91.6%の人ができていたが,免疫抑制剤による副作用自体の理解は不十分であった.女性は男性よりも「自己管理行動実行度」などの値が高く,自己管理行動ができている傾向にあった.また,女性では「移植後の期間」が「日々の観察実行度」に影響する要因であり,移植後から期間が経つと日々の観察に関する自己管理行動を疎かにしていた.男女ともに 「基本チェックリスト」の点数と「自己管理行動実行度」の値には有意な相関関係があるとは言えなかったが,女性でフレイルの人は「健康増進実行度」の値が低く,健康増進に関する自己管理行動ができていなかった.

謝辞:本研究のために,ご協力してくださいましたレシピエントの皆様,医療機関の皆様に深く御礼申し上げます.(公財)政策医療振興財団の研究助成と大阪医科大学大学院看護学研究科大学院生研究費で実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MHは研究の着想から原稿執筆までの全過程を実施した.CAは研究の全過程において助言・示唆をした.両著者は最終原稿を読み,承認した.

付記:本研究は,大阪医科大学大学院看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.

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