2019 年 39 巻 p. 174-182
目的:抑うつ状態にある母親が子どもに感じる思いから辿る育児プロセスを探索する.
方法:産後1か月健診時または新生児家庭訪問時のエジンバラ産後うつ病自己調査票(EPDS)が9点以上の母親6名および,育児不安が強く育児指導を受けた母親6名,計12名の母親を対象に,半構成的面接法を実施した.研究方法はGrounded Theory Approachを用いた.
結果:抑うつ状態にある母親は,日々《子どもへの対応がわからずイライラ,悶々として過ごす》状況にあり,様々な思いと育児行動のプロセスを経て《思わず手が出る》《子どもを放置・子どもに近づけない》《子どもに感謝する》の3つの帰結に至っていた.
結論:子どもに否定的な感情を抱き負の帰結に至らないための支援として,母親を追い詰めない,孤立させないように,母親の元に直接出向いて必要な援助をすることの重要性が示唆された.
Purpose: The aim of this study was to investigate parenting processes led by feelings of mothers with depressed mood toward their children.
Methods: Semi-structured interviews were conducted with 12 mothers: six mothers who scored 9 or higher on the Edinburgh Postnatal Depression Scale at a 1-month postpartum checkup at their hospital or during a newborn baby home visit; other six mothers who exhibited high levels of anxiety about childrearing and who had received childrearing guidance. A grounded theory approach was used as the research method.
Results: These mothers, on a daily basis, “Did not understand their children and were irritated and distressed about them,” and over time experienced a variety of feelings while caring for their children. These feelings and behavioral processes resulted in the following consequences: “Impulsively resorting to violence,” “Neglecting or being incapable of attending to their child,” or, “Being thankful to their child.”
Conclusion: This study suggests that it is necessary to provide support not to lead the process to the negative consequences. To avoid worst-case scenarios where mothers with depressed mood are driven to extreme behaviors or isolation, having face-to-face meetings with mothers is significant.
産後うつ病は有病率の高い疾患であり,各国の調査結果を概観したKumar(1994)によるそれは3.1~26.0%である.岡野ら(2007)は日本における有病率は9.6%と報告している.また,厚生労働省の「健やか親子21」(2014)の調査によると産後うつ病の疑いのある母親は8.4%で,8万人余りである.エジンバラ産後うつ病自己調査票(Edinburgh Postnatal Depression Scale,以下EPDS)を用いた鈴宮ら(2008)の調査では,産後うつ病が疑われた母親のうち受診していた者は5.2%であったと報告されている.EPDSを用いて同様の調査をしている玉木(2007)は,産後うつ病が疑われる母親の内65.7%は専門家や専門機関に相談していなかったと述べている.産後うつ病の疑いのある母親の大多数は,専門の医療ケアを受けることなく自宅で育児をしていると考えられる.
産後うつ病は母親と乳幼児双方の感情および相互作用に悪影響を与えると考えられている.Murray et al.(2014)は産後うつ病の母親をもつ子どもたちは情緒,行動,認知発達においてより課題をもつ傾向があると述べている.Letourneau et al.(2013)は子どもが2~3歳のときの母親のうつ病は,子どもが10~11歳になった時の不安の危険因子であると報告している.産後うつ病と診断されていなくても母親のうつ傾向や抑うつ状態は子どもや育児に影響を及ぼしている.三品ら(2013)はある地域におけるEPDS 9点以上の産後うつ病の疑いのある母親の割合と児童虐待の認定割合には有意な正の相関があったと報告している.厚生労働省(2017)は虐待死した子どもは0歳児が最も多く,主たる加害者は実母であり,産後うつ状態あるいは育児不安を心理的要因として報告している.さらに松原ら(2012)は育児支援者がいないことや育児困難感が高いことがEPDS得点に有意な負の影響を与えると述べており,このような要因を抱えた母親の抑うつ状態はさらに続くリスクがあると考える.また徳弘ら(2015)は,1歳6か月と3歳6か月健診においてEPDSが高い母親のほうが児に対して否定的感情を抱えていたと報告しており,抑うつ状態にある母親は子どもに対して否定的な感情をもちやすいと考えられる.以上のことから,抑うつ状態にある母親は育児中何を感じどのように対処しているのか,検討する必要があると考えた.
産後うつ病の疑いのある母親の育児中の体験についての語りを分析した先行研究(Edhborg et al., 2005)では,母親がうつ状態に陥る過程を描写している.Katayama & Kitaoka(2017)は母親が育児中に感じる自身への思いとそれに続く育児行動を明らかにしているが,母親が育児中に感じる子どもに対する思いとその後に続く育児行動に焦点を置いては分析していない.母親の自分自身への思いとともに,子どもに対する思いから続く育児行動プロセスを描くという異なるアプローチを行うことによって,多様な知見が生まれ,支援の在り方がさらに検討できると考える.本研究の目的を以下とした.
抑うつ状態にある母親が子どもに感じる思いから辿る育児プロセスを探索すること.なお子どもに感じる思いには,その時の育児に対して感じる思いも含める.これにより地域で暮らす産後抑うつ状態にある母親に対する適切な支援の示唆を得る.
質的記述的研究デザインとし,研究方法はGrounded Theory Approach(以下GTA)(Glaser & Strauss, 1967/1996)を用いた.GTAを用いることによって,抑うつ状態にある母親の育児中に子どもに感じる思い,それに続く育児への思いとその対処方法といった変化のプロセスを明らかにできると考えた.
2. 研究参加者人口10万人の地方都市A市在住の母親を対象とした.A市では全褥婦に対し,EPDSを産後1か月健診時と新生児家庭訪問時の2回実施している.産後うつ病を疑うEPDS 9点以上の母親を候補とした.EPDSは産褥期のうつ病のスクリーニング・テストで,日本語版は岡野ら(1996)が作成している.得点は0~30点であるが9点以上の場合に産後うつ病が疑われる.A市のEPDS実施率は100%で,9点以上の母親の割合は8.8%と全国平均値に近い.さらに,新生児家庭訪問時または4か月児健診時に,育児困難の訴えがあり何らかの介入が必要で保健師により抑うつ状態の疑いがあると判断された母親も候補とした.母親の育児困難感は母親の不安・抑うつによって高まり(神崎,2014),育児困難感の高さは母親の不安・抑うつ傾向と相関する(茂本ら,2010).そのため育児困難感の高い母親は抑うつ傾向も高いと考えた.
育児休暇を取得し,育児に専念している出産後3年以内の母親を保健師が選定した.育児に専念している母親は,自身の生活の大部分を育児に占有されエネルギーを消耗しやすいとされている(藤野,2012).そのため抑うつ状態に陥りやすいと考えたためである.保健師とともに候補者が参加する育児教室に赴き,研究者が研究の趣旨と倫理的配慮等について直接説明した(表1).
| ID | 参加者の年齢層 | 夫の年齢層 | 子どもの数 | 子どもの年齢 | 家族の状況 | EPDS値※1 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 第1子 | 第2子 | ||||||
| A | 30代前半 | 30代前半 | 2 | 3歳 | 4か月 | 11 | |
| B | 30代後半 | 30代後半 | 1 | 4か月 | 義父母とは同じ敷地内に住む | 13 | |
| C | 30代後半 | 30代後半 | 1 | 6か月 | 11 | ||
| D | 30代後半 | 30代後半 | 1 | 8か月 | 夫は単身赴任中 | 5 | |
| E | 30代後半 | 30代前半 | 2 | 2歳 | 9か月 | 実母と交流なし | 10 |
| F | 40代前半 | 40代前半 | 1 | 8か月 | 8 | ||
| G | 30代後半 | 30代前半 | 2 | 3歳 | 10か月 | 両親は遠方 | 5 |
| H | 30代後半 | 40代前半 | 1 | 9か月 | 16 | ||
| I | 40代前半 | 40代前半 | 2 | 3歳 | 12か月 | 実家は遠方 | 16 |
| J | 30代前半 | 30代前半 | 1 | 8か月 | 両親とは死別 | 5 | |
| K | 30代前半 | 30代前半 | 2 | 4歳 | 12か月 | 夫は単身赴任中,実父母と交流なし | 5 |
| L | 30代後半 | 40代後半 | 1 | 2歳 | 8 | ||
※1 産後1か月健診時または4か月訪問時のEPDSの値
半構成的面接法を用いた.子どもが生まれてから面接時点までの子育てを振り返り,育児中の出来事と対応方法,その時の気持ちに関して自由に語ってもらった.30分から1時間程度,1回実施した.面接の日時や場所等は参加者の希望に応じ,育児教室または研究者の所属機関にある個室で行った.研究参加者の承諾が得られた場合はICレコーダーに録音し,得られなかった1名に対してはその場でノートに記録し当日中に語りを再現した.
分析はGTA(戈木,2016)の手順に厳密に従った.手順は次のとおりであった.a)データを丹念に読み込み,一内容ごとに切片データにした.b)切片データごとにプロパティ(切り口や視点)とディメンション(プロパティからみた時の位置づけ)を抽出しそれらをもとにラベル名をつけ,さらに類似のラベルをカテゴリーにまとめた.c)データの中に複数存在する現象を整理するためにカテゴリーを状況(現象の始まりの条件),行為/相互行為(状況の中で生じる出来事や対応),帰結(結果的に生じたこと)に分類した.d)我が子に対する思いと育児行動に関連する現象のみを集めカテゴリー関連図を描いた.カテゴリー同士をプロパティとディメンションで関係づけ,現象の中心となるカテゴリー1つを選び「カテゴリー」とし,他を「サブカテゴリー」にした.e)概念(プロパティとディメンション,カテゴリー,サブカテゴリー)を使ってカテゴリー関連図を説明したストーリーラインを生成した.f)理論的比較(データとアイデアの比較)をもとに次のデータを収集し,分析,統合を繰り返し,カテゴリー統合関連図を作成し,現象を説明するストーリーラインを述べた.
保健師に紹介された対象のみを研究参加者とするという制約があり理論的サンプリングはできなかった.データの信憑性を高めるために前述の研究参加者の選抜プロセスを実施した.また分析の真実味を確保するためにGTAの研修を受けるとともに,GTAを用いて研究を行っている複数の研究者,他の質的研究に精通した複数の研究者のスーパーバイズを受け,分析の妥当性を確認した.
4. 倫理的配慮研究参加者には文書と口頭で研究の趣旨等を説明し,研究協力は自由意思であること,研究参加中や参加後であってもいつでも参加の拒否ができること,拒否した場合でも一切の不利益をこうむらないことを保障し,同意文書を得た.本研究は金沢大学医学倫理委員会の承認(承認番号:682-1)を受けて行った.
母親が子どもに感じる思いから辿る育児プロセスの中で生じている現象および現象に関連する概念を抽出した.関連するカテゴリーは9つであった.これらのカテゴリーをプロパティとディメンションを用いて関連付け,カテゴリー統合関連図を作成した(図1).以下,ストーリーラインとカテゴリーを説明する.中核カテゴリーは【 】,サブカテゴリーは《 》,各参加者のデータから抽出したカテゴリーは〈 〉,プロパティは『 』,ディメンションは斜体で示す.

抑うつ状態にある母親が子どもに感じる思いから辿る育児プロセスのカテゴリー統合関連図
母親は《子どもへの対応がわからずイライラ,悶々として過ごす》という思いを日々抱いていることが出発点であった.そこから様々なプロセスを経て《思わず手が出る》《子どもを放置・子どもに近づけない》《子どもに感謝する》の3つの帰結に至っていた.そして再び《子どもへの対応がわからずイライラ,悶々として過ごす》状況に遭遇するという循環が見られた.母親はある状況において,プロパティとディメンションで示す条件がそろった時,次の行為/相互作用へとつながり,結果的には3つの帰結に至る9つのプロセスが認められた.以下にそれらのプロセスを説明する.加えて《周りの人からのサポートを受ける》ことはそれら帰結にどのように関連していたかについても述べる.
《思わず手が出る》帰結に至るプロセス
このプロセスは1つのみであった.母親は『日々の育児の辛さ』を強く感じながらも『育児しなければいけない気持ち』を有し,日々《子どもへの対応がわからずイライラ,悶々として過ごす》という状況にあった.『子どもの様子』が泣き止まない,ぐずる,寝ないといった『対応の困難度』が高いことが頻回に起こり,『自分の気持ち』として焦り,不安,悲しみ,怒りを感じ,『子どもの行動を許容する気持ち』や『子どもを思いやる気持ち』が無い場合,《自分は悪くないと自己防衛する》ことをしていた.この時『思い通りにならない度合』が高く,『子どもに感じること』は怒りや呆れであり,『子どもから非難されていると感じる度合』が高く,『子どもが悪いと思う度合』が高く,『子どもに自分の気持ちを言いたい度合』が高いと《思わず手が出る》に至っていた.
《子どもを放置・子どもに近づけない》帰結に至るプロセス
これに至るプロセスは5つあった.
プロセス1:抑うつ状態にある母親は,日々《子どもへの対応がわからずイライラ,悶々として過ごす》という状況から《自分は悪くないと自己防衛する》となった場合,『思い通りにならない度合』はやや高いが,『子どもに感じること』が申し訳なさやかわいそうといった感情で,『子どもから非難されていると感じる度合』が低く,『自分が悪いと思う度合』が高いと,【結局自分がやるしかない育児】に至っていた.そして,割に合わないやあきらめといった『育児に対する気持ち』を抱き,寂しい,悲しい,辛いといった『育児中の気持ち』となり,『自分の時間』が無く,『育児の納得度』が低く,『育児の達成感』が無いと《子どもを放置・子どもに近づけない》に至っていた.
プロセス2:《子どもへの対応がわからずイライラ,悶々として過ごす》状況から《自分は悪くないと自己防衛》し,【結局自分がやるしかない育児】と考えるに至る場合,自分しかいない,仕方ないといった『育児に対する気持ち』を抱き,落ち着きや開き直りといった『育児中の気持ち』となり,さらに『自分の時間』が有り,『育児の納得度』が高く,『育児の達成感』が有ると《自分の育児を立ち止まって振り返る》ことができていた.しかし『自分の育児の振り返り』が有っても,『気持ちの切り替え』が無く,『自分の育児の肯定感』が低く,『育児の義務感』が高く,『育児の充実感』が低く,『育児体験の有用性』を感じる度合が低いと《子どもを放置・子どもに近づけない》に至っていた.
プロセス3:《子どもへの対応がわからずイライラ,悶々として過ごす》という状況下で,『子どもの様子』が手を焼かせるといったいつもの出来事が起こり,『自分の気持ち』として苛立ちやあきらめを感じるが,『子どもの行動を許容する気持ち』や『子どもを思いやる気持ち』が有ると,《子どもの存在が励み》になっていた.他方《子どもの存在が励み》で子どもが我慢しているやお願いといった『子どもの行動への気づき度』が高いにもかかわらず,『子どもの成長の喜び』が無く,『育児の喜びを感じる度合』が低いと,【結局自分がやるしかない育児】と考え《子どもを放置・子どもに近づけない》に至っていた.
プロセス4:《子どもへの対応がわからずイライラ,悶々として過ごす》状況から《子どもの存在が励み》と感じるが,【結局自分がやるしかない育児】と考え,《自分の育児を立ち止まって振り返(る)》りながらも《子どもを放置・子どもに近づけない》に至るプロセスも認められた.
プロセス5:《子どもへの対応がわからずイライラ,悶々として過ごす》状況から《子どもの存在が励み》と感じた場合,子どもが我慢していることやお手伝いしているといった『子どもの行動』に気づき,『育児の喜びを感じる度合』が高いと《自分の育児を立ち止まって振り返る》が,《子どもを放置・子どもに近づけない》に至るプロセスも見られた.
《子どもに感謝する》帰結に至るプロセス
これには3つのプロセスがあった.
プロセス1:《子どもへの対応がわからずイライラ,悶々として過ごす》が《子どもの存在が励み》と感じ《自分の育児を立ち止まって振り返る》プロセスを辿った場合,『自分の育児の振り返り』や『気持ちの切り替え』が有り,『自分の育児の肯定感』が高く,『育児の義務感』は弱く,『育児の充実感』が高く,『育児体験の有用性』を感じる度合が高いと《子どもに感謝する》に至っていた.この時『家族に思うこと』は感謝であり,『子どもと過ごしたい気持ち』は高く,『子育ての自信』が高くなっていた.
プロセス2:《子どもへの対応がわからずイライラ,悶々として過ごす》が《子どもの存在が励み》と感じ,【結局自分がやるしかない育児】と考え,《自分の育児を立ち止まって振り返(る)》り《子どもに感謝する》に至っていた.
プロセス3:《子どもへの対応がわからずイライラ,悶々として過ごす》から《自分は悪くないと自己防衛(する)》し【結局自分がやるしかない育児】と考え,《自分の育児を立ち止まって振り返(る)》り《子どもに感謝する》に至るプロセスも認められた.
《周りの人からのサポートを受ける》と帰結との関連
ディメンションの違いによって,以下の2つにつながっていた.
『支援者』による『対面での支援』が有り,『育児に対する気持ちの変化』や『気持ちの余裕の出現』が有る場合,《自分の育児を立ち止まって振り返る》につながっていた.
『支援者』による『対面での支援』が無い場合は,上述が無い状態となり,【結局自分がやるしかない育児】につながっていた.
2. カテゴリー:母親が育児中に子どもに感じる思いから辿る育児プロセス【結局自分がやるしかない育児】:これが中核カテゴリーであった.
実母の支援も期待外れで育児は〈結局自分がする〉しかなく,〈割に合わない子どもの世話〉と感じていた.しかし〈この子には自分しかいない〉と親としての務めを果たさなければと思い〈毎日なんとか過ごす〉ことをしていた.
一方,なんとか育児はしていても心の中で悲哀感と寂しさを募らせ〈あきらめの育児〉を感じている場合もあった.
《子どもへの対応がわからずイライラ,悶々として過ごす》:母親は〈つらくてしんどい育児〉〈育児がすごくつらい〉と日々感じていた.
日々〈子どもへのかかわりは大変〉〈やりたいことができない〉といった悩みを感じながらも,ちゃんと育児したいと考え,子どもを心配し,育児の大変さは仕方がないとしていた.しかし〈子どもと二人で悶々と過ごす〉〈イライラして子どもの相手をする〉〈ずっと抱っこ常に抱っこ〉という中でイライラ,悶々といった感情ももっていた.さらに育児中〈子どもが泣き止まない〉〈どうしていいかわからなくて辛い〉という対応できない状況に遭遇すると,焦りや不安,苛立ちを強め,気持ちが追い詰められている様子があった.
《自分は悪くないと自己防衛する》:母親は〈どうにかしてあげたい〉と思いつつも〈寝かせて欲しい〉〈かまってやれない〉状況にあった.その時,どうにもならず〈うまく育児できなくて子どもに申し訳ない〉気持ちはあるが,〈いい加減にしてほしい〉と子どもに負の感情を感じ〈自分は悪くない〉,悪いのは自分ではなく子どもの方だと考え自己防衛していた.
《子どもの存在が励み》:育児中ふとしたきっかけで〈子どもに助けてもらう〉現実に気づき,子どもなりに自分を助けてくれていると知った時,〈自分の子どものかわいさ〉や〈子どもといて幸せを感じる〉こととなり〈子どもの成長が励み〉となり〈頑張ろうと思う〉ことにつながっていた.一方,イライラしている自分を〈わかっている子ども〉に指摘され落ち込むこともあった.
《自分の育児を立ち止まって振り返る》:母親は,毎日の育児から〈経験からの自分の育児〉の方法を構築していた.〈母親として未熟な自分に気づく〉ことがあっても〈育児にはいい日も悪い日もある〉と〈気持ちを切り替える〉ことができ,自分の〈子育ての態度を反省(する)〉し,他の母親のやり方を〈真似してみる〉余裕も出て〈自分ペースの育児〉や〈根を詰めない育児〉につながっていた.しかし,自分の未熟さを知ることにより〈自分は頑張っていない〉〈自分の育児はダメ〉と感じている場合もあった.
《思わず手が出る》:母親は育児が上手くいかない時,子どもにもその責任の一端があると感じ,何かの拍子に〈うまくやれなくて子どもに当たる〉〈怒鳴り散らす〉〈子どもを叩いて落ち込む〉行動をとってしまっていた.しかし子どもに当たった後はますます落ち込む状態となっていた.
《子どもを放置・子どもに近づけない》:母親は,〈子どもに対応できない〉状況となり〈子どもを放置〉〈子どもを泣かせておく〉しかできない状態で,母親は〈体も心もボロボロ〉と感じるまで疲弊しており〈子どもとは一緒にいない方がいい〉と感じるほど追い込まれていた.
《子どもに感謝する》:育児は完璧ではないが〈子どもの対応は大丈夫〉と自信を持ち,そのような自分を子どもが助けてくれていると〈主人と子どもに感謝〉し,子どもと過ごしたい気持ちを強く感じていた.そして,〈母親としての役割の自覚〉と〈子育ての使命感〉を感じていた.
《周りの人からのサポートを受ける》:母親は,〈実母の支援〉や〈夫の支援〉を受けていた.また,自治体の保健指導や育児教室を通して〈育児友達との出会い〉や〈支援者の存在〉を知り,〈育児のはけ口〉を得たり〈相談に乗ってもらう〉という〈周りの人からの支援〉を受けていた.他方〈親に頼りたくない〉〈育児の助けがない〉といった状態で〈一人の育児〉をしていたり,たとえ支援があったとしてもネットや書籍による〈育児の情報を手に入れる〉ことでは解決とはならず,自己の育児を考える余裕にはつながっていなかった.
本研究において,抑うつ状態にある母親は《子どもの対応がわからずイライラ,悶々として過ごす》状況にあり,徳弘ら(2015)と同様,このような母親は子どもに対して否定的な感情をもちやすいと考えられた.ただし,このような否定的な感情から始まるプロセスは多様で9つのプロセスが認められ,帰結も異なっていた.本考察では,子どもに対する否定的感情を経て否定的な育児行動に至るプロセスに特に注目し,そのような帰結に至ったプロセスを中心に考察する.それらのプロセスの中で,看護の立場からできうる援助を検討する.
1. 《思わず手が出る》母親の育児行動プロセス《思わず手が出る》状況の母親は,子どもを慈しみ思いやる気持ちより,《自分は悪くないと自己防衛》していた.そのため子どもから非難と受け取れる言葉や拒絶するような表情,自分の思いを汲み取ろうとしない行動を受けると,《思わず手が出る》ことになっていた.この叩く,怒鳴る,無理やりするといった行動をとってしまった後,母親は更なる情けなさや落ち込みを感じ,母親の抑うつ状態を悪化させていると考えられる.育児中の母親全般においても疲れていたり,イライラしている時,我が子を憎らしいと思うこと(藤田ら,2001)が明らかとなっている.抑うつ状態にある母親はもともと育児のつらさやイライラを感じており,《子どもへの対応がわからずイライラ.悶々として過ごす》状況から《思わず手が出る》帰結へのプロセスに至りやすいと考えられる.
《思わず手が出る》状況は,子どもと二人きりでいる場合に発生しており,その場に居合わせることは難しい.しかし《思わず手が出る》前段階である母親の《自分は悪くないと自己防衛する》気持ちや焦燥感への支援は有効だと考えられる.母親は実母には気遣い無用の身体的サポート,夫には精神的サポートを求めていた(Katayama & Kitaoka, 2017).そのことから,そもそもの《子どもへの対応がわからずイライラ,悶々として過ごす》状況の時,実母や夫の支援が適切にあることで,《自分は悪くないと自己防衛する》まで追い込まないと考えられる.実母や夫への適切な支援方法を指導助言することは重要であろう.しかし,抑うつ状態にある母親の中には,実母や夫に相談できない,適切かつ必要な支援を期待できない場合もあると考える.夫の育児参加が低い理由として多忙や育児への不慣れがあり(藤岡ら,2013),特に夫からのサポートは育児が進むにつれ減少しやすい(中林ら,2006).神崎(2014)は家族の「コミュニケーション」や「役割と責任」機能を強化することで,夫の家事・育児参加を促進する可能性があるとしている.これらのことから,実母や夫に対しては具体的な育児方法の指導,夫へは妻がサポ-トを受けていると感じられる伝達方法や態度の教育,夫婦間のコミュニケーション能力育成の場の設定や妊娠中から育児参加の話し合いをもてる場の提供が適切な支援となると考える.
2. 《子どもを放置・子どもに近づけなくなる》母親の育児行動プロセス《子どもを放置・子どもに近づけなくなる》母親は,悲哀感,抑うつ感,無力感を感じていた.藤野(2012)は他者へは気兼ねし,親世代は望まない支援者で夫は期待できない支援者と感じ,他者の支援が必要な産後の時期に他に助けを求めない傾向がみられたと述べている.母親は【結局自分がやるしかない育児】と感じ,日々何とか子どもに対応していた.しかし,自分の時間もなく,育児の達成感も持てぬまま,割に合わない,我慢,あきらめの心境で過ごす母親もいた.育児支援者がいないことや孤独感は母親の精神健康度を悪化させる(松原ら,2012).本研究でも母親は,悲しみや辛さ,寂しさといった気持ちを持っていた.そのような中,自分ではなんともできない対処困難な状況が続いた場合,子どもに近づけなくなってしまっていた.母親はどうしていいかわからない,自分がおかしくなる,子どもから離れたい,休みたいとパニックに近い状態となっていた.この状況は子どもを無視するというよりは,子どもに対応できない状況に恐怖を感じ,子どもに近づけない状況なのだと考えられる.また【結局自分がやるしかない育児】と母親としての使命感から育児を続けている場合,育児に対する義務感を強く感じ,自分の行っている育児に対する肯定感が低く,育児体験に有益性を見いだせず子どもを放置するに至っていた.自分に対し空虚感,無力感を感じ,子どもの要求を無視していると考えられる.
どちらの場合も,子どもに気持ちを向けることができず,さらなる《子どもへの対応がわからずイライラ,悶々として過ごす》状況から負の循環を辿っていると考えられる.
3. 抑うつ状態にある母親への必要なサポート本研究の結果を見ると《周りの人からのサポートを受ける》で描かれたように,支援者と対面で会う,あるいは直接話を聴いてもらうというサポートが得られた場合,その後《自分の育児を立ち止まって振り返る》に繋がり,《子どもに感謝する》帰結に辿り着く可能性があることが示された.同じ支援者による相談であっても,電話やメールでは母親の助けにはなっていない場合も見られたことから,母親に対して効果的な支援を行うためには,支援者による直接対面がカギと考えられた.母親は直接対面で支援を受けることによって,対応困難な育児場面から解放されたり,話を聞いてもらったり,助言をもらうなどして育児の辛さを解決していた.保健師や助産師による支援として,母親が育児困難感を抱えているその時に直接対面する家庭訪問は,母親へのサポートとしてより有効な支援である.また,ママ友は育児のつらさを分かち合う仲間として,ピアカウンセラーとして,重要な支援者となっていた.これは仲間からの支援は重要とする報告(Ni & Siew Lin, 2011)や気さくに話せる友人や仲間の存在がより重要とする報告(佐藤ら,2013)と一致している.支援者からの対面でのサポートによって母親は育児のつらさを解消し,《自分の育児を振り返る》時間をもつことができていた.そのうえで自分の育児を肯定的に捉え,育児の充実感や育児の意義を見いだし,《子どもに感謝(する)》していた.子育ては自分ひとりで頑張るものではなく,支援者や家族,子どもに助けられ,お互いの人格を尊重する形で進んでいくものだと実感できるのだと考える.
一方,藁にもすがる思いで相談してみても,対面でない場合は直接の問題解決や気持ちの慰安とはならず,【結局自分がやるしかない育児】と,孤独な一人ぼっちの育児となっていた.健康診断や育児教室は同じ育児中の母親との出会いの場である.しかし,抑うつ状態にある母親は自ら育児支援を求めることは少ない(藤野,2012).育児相談があった時,保健師や助産師が母親の自宅まで出向き支援した場合,母親は対応してくれた保健師や助産師に対し,感謝と信頼を深めていた.そのため,その保健師や助産師から勧められた場合は健康相談や育児教室に参加していると思われる.抑うつ状態にある母親はソーシャルサポートには孤独感・孤立感の解消を求めている(Katayama & Kitaoka, 2017).母親同士の出会いの場の提供や保健師・助産師からの対面での支援は,行政の母子保健事業として果たす役割は大きいと考えられる.
一地域の特性や保健指導を受けたことが影響していることは否めない.また,先に述べたように理論的サンプリングを行っておらず,飽和に至ったとはいえない可能性がある.研究参加者は産後1~3か月の時点で産後うつ病が疑われたあるいは抑うつ状態が疑われた母親で,保健師による継続支援対象者であった.これらの母親に対して育児期間3年未満の間に振り返って面接している.面接時点における母親の抑うつレベルは評価していない.また育児困難感を感じている母親の選定については保健師の判断に委ねている.今後は研究参加者の選定方法を精選する必要がある.また母親の抑うつ状態が育児中の家族成員間に影響を与えていることが考えられる.さらに支援者である夫や実母は,抑うつ状態にある母親との育児をどのように感じ,どのように行動しているのか,双方の育児体験の思いと行動のプロセスを明らかにしていくことは今後の課題である.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:MKおよびKKは研究の構想およびデザイン,データ収集・分析および解釈,草稿の作成;AN,MK,HM,MKは研究のデータ分析および解釈,原稿への示唆および作成.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.