2019 年 39 巻 p. 245-253
目的:クリティカルケア領域における浅い鎮静深度で管理されている人工呼吸器装着患者に対する看護実践の特徴を明らかにする.
方法:急性・重症患者看護専門看護師および集中ケア認定看護師を対象に半構造化面接を実施し,質的帰納的に分析した.
結果:対象者13名から【患者の複数の情報を統合し苦痛を読み取り積極的に緩和を試みる】【患者に医療機器・装着物を繰り返し見せたり触らせたりすることでその存在を示す】【患者に急激な身体状況の変化や今後の見通しについて繰り返し説明する】【患者の自発的な行動を尊重すると同時にその危険度を見極める】【患者の同意を得ながらケアやリハビリに取り組めるよう導く】【患者-家族間を仲介し相互の距離を調整する】の6つの看護実践が明らかとなった.
結論:看護師は浅い鎮静において,患者の力を引き出しながら,患者と協働して看護実践を組み立てていく必要があることが示唆された.
Purpose: To identify the characteristics of nursing practice for mechanically ventilated and lightly sedated patients in critical care.
Methods: Semi-structured interviews were conducted with Critical Care Nurse Specialists and Certified Intensive Care Nurses. The data derived from the interviews were qualitatively analyzed by using an inductive approach.
Results: Responses were obtained from 13 subjects, which revealed the following six characteristics related to nursing practice in critical care: “integrating multiple data of individual patients and inferring their pain, and actively trying to ease the pain,” “making sure that patients are aware of the medical devices and wearable objects that are being used on them by letting them see or touch devices and objects repeatedly,” “repeatedly explaining to patients that there has been a sudden change in their condition and informing them of their prognosis,” “respecting patients’ voluntary behavior and at the same time determining if it could be a danger to the patients,” “leading patients to work on care and rehabilitation while obtaining the patients’ consent,” and “mediating between patients and their family and adjusting their distance.”
Conclusions: The present study suggests that nurses should try to empower patients under light sedation to provide better-structured and well-informed nursing care through collaboration with patients.
2000年以降,クリティカルケア領域における人工呼吸器装着患者(以下,患者)は,浅い鎮静により人工呼吸器装着期間やICU滞在日数が短縮(Kress et al., 2000),早期リハビリテーションが可能となる(Schweickert et al., 2009)等の効果が報告されている.また,『日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄のためのガイドライン(Japanese Guidelines for the Management of Pain, Agitation, and Delirium in Intensive Care Unit:以下,J-PADガイドライン)』(日本集中治療医学会J-PADガイドライン作成委員会,2015)において浅い鎮静が推奨され,臨床現場に浸透しつつある.
これまでの深い鎮静において患者は意識が無く,看護師は医療機器を介して得られる数値をもとに人工呼吸器を安全に取り扱い,換気が確実に行われていることを確認することが中心であった.また,人工呼吸器装着および鎮静による不動で生じる合併症を予防するための体位ドレナージや喀痰吸引,体位変換等に重点が置かれていた(大西,2016).
浅い鎮静が推奨されるようになり,患者は深い鎮静に比べ苦痛を知覚しやすく(Samuelson et al., 2007),人工呼吸器装着中から周囲の状況を曖昧ながらも認識し,医療者から説明してもらえない,自分で出来そうなことを任せてもらえない等,1人の人間として扱われないことへの苦悩を抱いている(Karlsson & Forsberg, 2008;Karlsson et al., 2012;野口・井上,2016).また,患者のなかにはこれらの苦痛を感じながらも筋力を維持したい,自分になされていることを知りたいと願い,覚醒することを望んでいる者も存在する(Karlsson et al., 2012;野口・井上,2016).
一方,看護師は浅い鎮静により患者とコミュニケーションが可能となりやりがいを感じながらも,患者の予測不可能で曖昧なニーズへの対処に苦慮している(Tingsvik et al., 2013;Laerkner et al., 2015).また,浅い鎮静における疼痛評価指標の検討(Ito et al., 2017)や鎮静プロトコルの導入(若松ら,2018)等があるが,患者のニーズに対する具体的な看護実践の報告は見当たらない.
これらのことから,看護師は浅い鎮静によって顕在化した患者の苦痛やニーズに対処することが求められ,その看護実践を明らかにすることは浅い鎮静を維持し患者が回復へ向かうことを支えるために重要である.
本研究の目的は,クリティカルケア領域における浅い鎮静深度で管理されている人工呼吸器装着患者に対する看護実践の特徴を明らかにすることである.
本研究の意義は,浅い鎮静深度で管理されている患者の意識があり意思表示ができる状況を活用し,患者のもてる力を引き出す看護実践の示唆を得ることである.
浅い鎮静における人工呼吸器装着患者に対する看護実践が明らかにされていないことより,経験豊富なエキスパートである急性・重症患者看護専門看護師(以下,専門看護師),および集中ケア認定看護師(以下,認定看護師)の実践に焦点を当てることで現状が明らかになると考え,質的記述的研究デザインを用いた.
2. 用語の説明浅い鎮静とは,Richmond Agitation-Sedation Scale(以下,RASS)の–2から0の状態である.患者は意識清明な落ち着いている状態,または呼びかけに対してアイ・コンタクトで応じる状態である(日本呼吸療法医学会人工呼吸中の鎮静ガイドライン作成委員会,2007).
日本における鎮静に関する『J-PADガイドライン』(日本集中治療医学会J-PADガイドライン作成委員会,2015)は浅い鎮静を明確に定義していない.そこで,J-PADガイドラインの基となった米国集中治療医学会の『2013PADガイドライン』(Barr et al., 2013)に示されている浅い鎮静RASS –2~–1,および目標鎮静深度RASS –2~0を参考に決定した.
本研究における人工呼吸器装着患者とは,原疾患の治療過程において一時的に人工呼吸器を装着し,その後人工呼吸器からの離脱を目指す重症患者を指す.クリティカルケア領域では重症心不全患者や終末期患者等も対象となるが,人工呼吸器離脱を目指すことが困難な状況であることから,本研究から除外した.
3. 対象者および選定方法先述したとおり,浅い鎮静は浸透しつつあるが,その看護実践は明らかになっていない.そこで人工呼吸器装着患者看護のエキスパートであり,その看護実践経験が豊富な専門看護師,および認定看護師とした.
研究対象者(以下,対象者)は,専門看護師および認定看護師分野別都道府県別登録者名簿(日本看護協会,2016)より,便宜的に北陸,関西地方の医療施設に所属する者を検索した.これらの対象候補者に,研究協力依頼に関する書類を送付し,同意が得られた返信者を対象者とした.加えて,対象者から新たに人工呼吸器装着患者看護実践が豊かな専門看護師,認定看護師の紹介を得て,対象者として追加した.
4. データ収集期間・データ収集方法・その内容石川県立看護大学倫理委員会承認日(2016年2月18日)から2017年10月31日の期間に,半構造化面接法にてデータを収集した.面接内容は許可を得て録音し,逐語録を作成後,データとした.面接内容は,対象者に「浅い鎮静になり患者の状況はどのように変化したか」「患者の状況を踏まえ,どのような看護を実践したか」「その看護実践の結果,患者はどのように変化(反応)したか」について,これまで関わった患者の事例をもとに自由に語ってもらった.
面接開始時,対象者と研究者で患者の状況に齟齬が生じないよう鎮静深度,患者の状況について共通理解を図った.また,面接中も対象者が語った患者の状況が本研究に合致しないと考えられた場合,その都度患者の状況を確認した.看護実践による患者の変化について,対象者は患者のどのような表情や仕草から捉えたか具体的に語ってもらった.
5. 分析方法逐語録を以下の手順で読み取った.
最初に個別分析では,対象者ごとに看護師は浅い鎮静において患者の状況をどのように捉えているか,その患者の状況を踏まえ,看護師はどのように患者やその家族と関わったかを読み取り看護実践とした.その看護実践の結果,看護師は患者やその家族の反応をどのように捉えたかを読み取った.
次に全体分析では,個別分析で得られた看護実践について全対象者間で照合,類似するものを統合し看護実践の具体的内容とした.さらに,類似する看護実践の具体的内容を一括りに整理し,カテゴリー名をつけた.そして,カテゴリーを看護実践の具体的内容を用いて説明した.
6. 確実性・確証性の確保対象者にメールにてカテゴリー名とその説明を提示し,看護実践の状況にフィットしており了解可能かどうか意見や違和感の有無を尋ねた.その意見をもとに,再度対象者の語りを振り返りカテゴリー名を検討し最終的に決定した.また,すべての分析過程において,クリティカルケア看護に精通した質的研究の専門家にスーパーバイズを受けた.
本研究は,石川県立看護大学倫理委員会の承認(承認番号第1064号)を受けて実施した.加えて,対象者所属施設の倫理委員会等の許可が必要な場合,その指示に従った.対象者に研究の趣旨,個人情報保護,研究協力に伴う不自由や不利益に対する配慮,研究協力および途中辞退は自由意思により決定でき不利益が生じないことを文書および口頭にて説明し同意の直筆署名を得た.
対象者は女性9名,男性4名の計13名であり,専門看護師2名,認定看護師11名であった.専門看護師および認定看護師経験年数は1年未満から16年であった(表1).所属は北陸,関西および四国地方にある9施設であり,施設規模はおよそ400~750床であった.面接は対象者1名に1回実施し,1回あたりの面接時間は45~77分(1人あたり平均61分)であった.
| 対象者 | 性別 | CNS※1 CN※2 | 所属部署 | 看護師経験年数 | CC看護※3経験年数 | CNS/CN経験年数 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A | 女性 | CNS | ICU | 20 | 14 | 4 |
| B | 男性 | CN | 循環器センター | 18 | 16 | 6 |
| C | 女性 | CNS | 高度治療室 | 12 | 12 | 4 |
| D | 女性 | CN | ICU | 23 | 6 | 5 |
| E | 女性 | CN | ICU | 13 | 7 | 2 |
| F | 女性 | CN | ICU | 22 | 15 | 1 |
| G | 女性 | CN | ICU | 16 | 8 | 3 |
| H | 男性 | CN | ICU | 14 | 7 | 4 |
| I | 女性 | CN | ICU | 27 | 20 | 16 |
| J | 男性 | CN | ICU | 13 | 9 | 1 |
| K | 女性 | CN | 救命救急治療室 | 13 | 5 | 1 |
| L | 女性 | CN | ICU | 16 | 7 | 1年未満 |
| M | 男性 | CN | ICU | 19 | 19 | 5 |
※1 Certified Nurse Specialist:CNS:急性・重症患者看護専門看護師
※2 Certified Nurse:CN:集中ケア認定看護師
※3 critical care : CC : クリティカルケア
対象者の語りから抽出された46の看護実践の具体的内容から,【患者の複数の情報を統合し苦痛を読み取り積極的に緩和を試みる】【患者に医療機器・装着物を繰り返し見せたり触らせたりすることでその存在を示す】【患者に急激な身体状況の変化や今後の見通しについて繰り返し説明する】【患者の自発的な行動を尊重すると同時にその危険度を見極める】【患者の同意を得ながらケアやリハビリに取り組めるよう導く】【患者-家族間を仲介し相互の距離を調整する】の6カテゴリーが生成された(表2).以下にその内容を詳述する.【 】はカテゴリー,〈 〉は看護実践の具体的内容,( )は語った対象者であり,その一部を示しながら説明する.「 」は看護実践の結果を示す.
| カテゴリー | 看護実践の具体的内容 |
|---|---|
| 患者の複数の情報を統合し苦痛を読み取り積極的に緩和を試みる | 血圧,脈拍をモニタリングし,現在の鎮静深度が適切であるか判断する |
| 精神状態,呼吸の変化や血圧,発汗などから患者の苦痛をキャッチする | |
| 苦痛箇所を確認しながら体位を工夫する | |
| 苦痛の原因が気管チューブ,あるいは人工呼吸器設定によるのかを見極めながら対処する | |
| 患者に確かめながら気管吸引と体位ドレナージを組み合わせることで痰を確実に除去する | |
| 患者が求めたケアを実施した後に苦痛が除去できているか積極的に聞き出す | |
| 体力を消耗させないように要点を絞って聞き出す | |
| 何を言いたいのか解らない状況において辛抱強くコミュニケーションをとり苦痛箇所を追求する | |
| 処置や体位ドレナージ実施前,また活動する前に苦痛を予測して鎮痛薬または鎮静薬の使用について検討する | |
| 患者に薬剤投与後に起こり得る副作用症状を説明し,不快感等が出現していないか問う | |
| 患者に医療機器・装着物を繰り返し見せたり触らせたりすることでその存在を示す | ヘッドアップし鏡越しで口腔内や上腕にチューブが挿入されていること,ベッド周囲に置かれている医療機器を見せて説明する |
| 絵や筆談などを用いて,咽頭部の違和感の原因など患者の身体感覚に関連する装着物,現在の病状を関連づけて説明する | |
| 気管チューブやルート類を触ってもらい,触って良いもの,いけないものを繰り返し説明する | |
| 顔の清拭や含嗽時,チューブの位置を示しながらその方法や注意点を具体的に説明する | |
| 患者に急激な身体状況の変化や今後の見通しについて繰り返し説明する | 緊急入院に至った経緯や現在行われている治療の詳細について繰り返し説明する |
| 術後の経過について,術前説明したことを想起してもらいながら現在の状況を繰り返し説明する | |
| 緊急手術に至った説明を患者にするよう医師に依頼する | |
| 患者を交えたインフォームド・コンセントの場を設定する | |
| 数日前から抜管の目途について説明する | |
| 患者の自発的な行動を尊重すると同時にその危険度を見極める | 気管チューブ付近を触ろうとしても,すぐに制止せずそばに付き添い行動の意図を確認する |
| 抑制せずそばに付き添い,行って良い動作といけない動作を繰り返し説明する | |
| 気管チューブ,動脈ライン,中心静脈カテーテルなどを抜去しようとする動作の原因を探る | |
| 怪しげな行動の行方,声かけによる反応や視線の行方を観察しつつ,現状理解や不穏の兆候,現在の鎮静深度が適切であるかアセスメントする | |
| 危険行動が頻回,落ち着きが無い場合は,就眠前に睡眠導入剤の投与を検討する | |
| 看護師の促し以上に行動していないか見守る | |
| 不要なルートは抜去し自発的な行動を妨げない | |
| 患者の反応から理解度を把握し抑制の解除を検討する | |
| 興奮した時はそばに付き添い落ち着くように諭す | |
| 患者の同意を得ながらケアやリハビリに取り組めるよう導く | 鏡を用いて自分の姿を見てもらい,その表情や反応を確認しながら患者が自力で実施できそうな口腔ケアや整髪,髭剃りを促す |
| 実施するケアとその時期を伝え意向を確認する | |
| 1日のスケジュールと共にケアの目的やリハビリの効果について説明する | |
| 現状から実施可能な具体的目標を提案する | |
| リハビリ中のバイタルサインと患者の表情を関連づけ,リハビリの続行・中止を判断する | |
| 昨日実施したことを想起してもらいながら身体を動かす訓練をする | |
| 希望したときにヘッドアップするなど,患者の要望をリハビリに活用する | |
| 患者-家族間を仲介し相互の距離を調整する | 患者が家族を識別できることを強みに面会を頻回に取り入れる |
| 家族面会時,患者の身体状態に関する話題以外に患者とその家族が笑顔になるような話をする | |
| 家族が戸惑わないよう,患者が歯磨きや手浴を実施しても病状が悪化しないことを説明する | |
| 患者がリハビリに取り組む様子を写真や動画に撮って家族に見てもらう | |
| 患者とその家族のコミュニケーションが困難な場合は,その間に入って患者の言いたいことを引き出す | |
| 家族に対し患者に積極的に声をかけたり身体に触ったり,一緒にケアを行うことを促す | |
| 患者の傾向や好みを援助方法に活用するために,家族から情報収集する | |
| 患者が何を言っているか分からない場面に家族を巻き込み解明を試みる | |
| 患者が抱える心配事について,患者とその家族で解決するためのやりとりの場を作る | |
| 患者と関わることで家族が戸惑っていないか観察する | |
| 患者の疲労や精神状態を考慮し,家族に対して会話よりもスキンシップを促す |
この看護実践は,患者が声に出して訴えることができない苦痛をバイタルサインや循環モニタリング等の客観的データと患者の表情や発汗等の外観,看護師の問いかけに対する反応を基に諸側面から読み取り,患者個々に合わせて緩和方法を工夫し対処することである.また,患者の療養スケジュールを念頭に床上リハビリやケアに伴う苦痛が生じないよう鎮痛薬を投与することである.
具体的に看護師は,患者の〈血圧,脈拍をモニタリングし,現在の鎮静深度が適切であるか判断する〉(A/D/J),〈精神状態,呼吸の変化や血圧,発汗などから患者の苦痛をキャッチする〉(B)ことにより,患者の微妙な反応や変化に感度を高めている.また,〈苦痛箇所を確認しながら体位を工夫する〉(D/H/L),〈苦痛の原因が気管チューブ,あるいは人工呼吸器設定によるのかを見極めながら対処する〉(B),〈患者に確かめながら気管吸引と体位ドレナージを組み合わせることで痰を確実に除去する〉(J),〈患者が求めたケアを実施した後に苦痛が除去できているか積極的に(聞き出す)〉(A/D/G),時に〈体力を消耗させないように要点を絞って聞き出す〉(D)ことで,対処方法を微調整し効果的に緩和できるよう努めている.加えて,〈処置や体位ドレナージ実施前,また活動する前に苦痛を予測し鎮痛薬または鎮静薬の使用について検討(する)〉(B/D/M)しており,この看護実践は後述する看護実践の前,または同時に行われている.
看護師は,この実践により患者が「気管チューブの違和感や呼吸苦が軽減しパニックを起こすことなく医療者の説明や促しを聞き入れた」(B),「事前に鎮痛を図ることで安楽に体位変換やスムーズにリハビリを実施することが可能になった」(J)と評価している.
2) 【患者に医療機器・装着物を繰り返し見せたり触らせたりすることでその存在を示す】この看護実践は,患者が気管チューブの挿入と人工呼吸器装着により頸部の動きに制限が生じ周囲を見渡すことができない,また,鎮静薬投与により理解力・記憶力が安定しないことに対し,看護師が患者の手を誘導し気管チューブやドレーンを直接触ってもらう,あるいは鏡越しに見てもらうことで,その存在を具体的,かつ強調し状況を理解できるよう働きかけることである.
具体的に看護師は,〈ヘッドアップし鏡越しで口腔内や上腕にチューブが挿入されていること,ベッド周囲に置かれている医療機器を見せて説明する〉(B/E/G),〈絵や筆談などを用いて,咽頭部の違和感の原因など患者の身体感覚に関連する装着物,現在の病状を関連づけて説明する〉(E)ことで理解を促している.また,〈気管チューブやルート類を触ってもらい,触って良いもの,いけないものを繰り返し説明する〉(G),〈顔の清拭や含嗽時,チューブの位置を確認しながらその方法や注意点を具体的に説明(する)〉(C/B)しており,様々な場面で繰り返し説明することで患者が医療機器・装着物の存在を受け入れられるよう関わっている.
看護師は,この実践により患者が「気管チューブが挿入されていることを納得し,気管チューブに注意しながら洗面や口腔ケアを実施できるようになった」(B/E/G)と評価している.
3) 【患者に急激な身体状況の変化や今後の見通しについて繰り返し説明する】この看護実践は,患者が突然の健康問題発症や手術により馴染みのない環境で侵襲的治療を受けている状況において,先述の【患者に医療機器・装着物を繰り返し見せたり触らせたりすることでその存在を示(す)】しながら,これまでの経過や今後の見通しについて丁寧に時間をかけて繰り返し説明することである.
具体的に看護師は,患者へ〈緊急入院に至った経緯や現在行われている治療の詳細について繰り返し説明する〉(B),〈術後の経過について,術前説明したことを想起してもらいながら現在の状況を繰り返し説明(する)〉(J)している.状況次第では〈緊急手術に至った説明を患者にするよう医師に依頼(する)〉(L)し,時に〈患者を交えたインフォームド・コンセントの場を設定(する)〉(H)している.また,〈数日前から抜管の目途について説明(する)〉(C)し,今後の見通しを理解してもらうことで,ケアやリハビリに対し協力を得ようとしている.
看護師は,この実践により患者が「緊急手術に至った経緯を理解し医療者に握手を求めたり,納得したうえで気管切開術を受けた」(H/L),「治療方針に理解を示したことや,気管チューブ抜管に向けて患者自ら痰を出すことを取り組み始めた」(J/C)と評価している.
4) 【患者の自発的な行動を尊重すると同時にその危険度を見極める】この看護実践は,患者が身体を動かした際に直ちに制止せずに付き添い,呼吸・循環動態の悪化につながり得る気管チューブやライン類の事故抜去等が生じないよう安全を確保しながら行動を見守ることで,患者の行動を出来る限り認めようとするものである.そして,状況に合わせ患者にどのような意図で動いているのか聞き取り,危険行動につながりうる行動であるか否かを見極め対処することである.
具体的に看護師は,〈気管チューブ付近を触ろうとしていても,すぐに制止せずそばに付き添い行動の意図を確認(する)〉(F/L)し,患者が動く様子を一連の流れとして捉え危険行動であるか,合目的な行動であるかを見極めている.患者なりの合目的行動と思われる場合は,その行動の成り行きを見届けている.そして,危険と思われる〈気管チューブ,動脈ライン,中心静脈カテーテルなどを抜去しようとする動作の原因を探(る)〉(B)り,患者の理解不足や苦痛が原因と考えられた場合,患者に装着されている医療機器類の説明をしたり,原因となる苦痛を除去している.常に患者の〈怪しげな行動の行方,声かけによる反応や視線の行方を観察しつつ,現状理解や不穏の徴候,現在の鎮静深度が適切であるかアセスメントする〉(B/D/F),〈危険行動が頻回,落ち着きが無い場合は,就眠前に睡眠導入剤の投与を検討(する)〉(I)している.〈看護師の促し以上に行動していないか見守(る)〉(B)り,患者の行動の自由度を認めながらも危険に陥ることを未然に予防している.また,〈不要なルートは抜去し自発的な行動を妨げない〉(K/H),〈患者の反応から理解度を把握し抑制の解除を検討する〉(G),〈興奮した時はそばに付き添い落ち着くように諭す〉(C)等,鎮静以外の対処方法を試みている.
看護師は,この実践により患者が「看護師の説明や苦痛の除去により危険行動がなくなったり,患者のそばで話を聞くことで興奮が治まり,身体拘束や鎮静薬の増量に至らず経過した」(B/C/E)と評価している.
5) 【患者の同意を得ながらケアやリハビリに取り組めるよう導く】この看護実践は,患者の更なる回復を目指したケアやリハビリを提案することで,患者の“やってみようかな”という気持ちを高めることである.看護師は患者とやり取りしながらその反応に合わせて提案の仕方を変え,患者に強要することなく,看護師の促しに同意しつつ自ら行動するよう働きかけることである.
具体的に看護師は,〈実施するケアとその時期を伝え意向を確認(する)〉(A/F)し,〈現状から実施可能な具体的目標を提案する〉(G).〈リハビリ中のバイタルサインと患者の表情を関連づけ,リハビリの続行・中止を判断(する)〉(C/H/I/M)し,患者のペースや意思を尊重しケアを組み立てることでケアやリハビリが患者に苦痛体験として残らず,その後も患者の意思によって継続できるようにしている.そして〈昨日実施したことを想起してもらいながら身体を動かす訓練をする〉(C)ことで,患者が自らの力でできることを確実にしている.
看護師は,この実践により患者が「自らの意思で口腔ケアや整容,リハビリに取り組み自信や達成感を得た」(C/E/K),「前日のケアやリハビリを踏まえ,徐々に自らの力でできることを拡大していた」(C/G/H)と評価している.
6) 【患者-家族間を仲介し相互の距離を調整する】この看護実践は,家族が患者に接近することに躊躇する,または患者とコミュニケーションを図ることが難しい状況において,看護師が患者の変化しやすい身体および精神状況を考慮しながら仲介し両者の距離を調整することで,面会が患者・家族双方に効果的な影響を及ぼすよう関わることである.
具体的に看護師は,〈患者が家族を識別できることを強みに面会を頻回に取り入れる〉(J)ことで患者の安心感や回復への意欲を高めている.また,〈患者とその家族のコミュニケーションが困難な場合は,その間に入って患者の言いたいことを引き出す〉(E/F),〈家族に対し患者に積極的に声をかけたり身体に触ったり,一緒にケアを行うことを促(す)〉(E/I)し,患者と家族の距離が縮まるよう介入している.加えて〈患者の傾向や好みを援助方法に活用するために,家族から情報収集する〉(B/H)ことで,家族の力を看護実践に活用している.
一方,患者がせん妄や筆談困難な状況にあるとき,〈患者と関わることで家族が戸惑っていないか観察する〉(G/M).患者が家族を認識することで感情が高まり循環動態の乱れにつながることもあるため〈患者の疲労や精神状態を考慮し,家族に対して会話よりもスキンシップを促(す)〉(L)し,家族から患者への積極的な声かけを見合せている.
看護師は,この実践により患者が「家族と対面し喜んだ」(K/M),「興奮状態から表情が緩み落ち着きを取り戻した」(H/I),「家族に回復しつつある姿を見せようとリハビリに取り組んだ」(M)と評価している.家族については「患者とのやりとりを通して回復の兆しを実感し喜んだ」(E/F/H/I/J/K/M)こともあれば「せん妄の発症や筆談困難な様子を目の当たりにして今後の見通しに不安を抱いた」(G/M)と評価している.
浅い鎮静深度で管理されている人工呼吸器装着患者に対する6つの看護実践が明らかになった.本研究の対象者がクリティカルケア領域の専門看護師および認定看護師であり熟練技術を有する者であったことを踏まえ,看護実践の意味と繋がりについて考察する.
1. 患者の苦痛を緩和し治療・療養環境に馴染むことを支援する看護実践クリティカルケア領域における人工呼吸器装着患者は,身体機能の低下や倦怠感から筆談や文字盤等の代替手段を用い辛く,痛みや苦痛をありのままに伝えることが困難である(山口ら,2015).また,冒頭でも述べたように看護師も患者の予測不可能で曖昧なニーズへの対処に苦慮している(Tingsvik et al., 2013;Laerkner et al., 2015).これに対し本研究において看護師は,【患者の複数の情報を統合し苦痛を読み取り積極的に緩和を試み(る)】,時に患者の体力を消耗させないよう要点を絞った問いかけの工夫により患者から訴えを引き出していた.そして,患者から引き出した情報と患者の外観,生体情報モニターが示す数値を統合することで患者の苦痛を読み取り,体位の工夫や確実な痰の除去等,患者に合わせたきめ細やかな方法へとつなげていたことが明らかとなった.これにより患者は,苦痛が軽減し安楽が得られることで,医療者の説明を落ち着いて聞き入れ,スムーズな体位変換やリハビリの実施につながっていた.この看護実践は,他の看護実践の土台となっていたと考えられる.
浅い鎮静において患者は,見知らぬ集中治療の環境で自身になされる治療や配置されている医療機器等を把握し辛い.限られた視界のなかで視覚・聴覚を駆使して状況を捉えようとして,呼吸器装着に由来する違和感と時間・身体感覚の曖昧さに苦悩している(野口・井上,2016).本研究において看護師は,患者の理解力・記憶力は曖昧であっても【患者に医療機器・装着物を繰り返し見せたり触らせたりすることでその存在を示す】,【患者に急激な身体状況の変化や今後の見通しについて繰り返し説明する】ことで患者の活用可能な知覚機能に働きかけ,患者自身が非日常的な環境にいる現状とその必要性を理解できるよう関わっていた.これらの看護実践は,患者が侵襲的治療・療養環境に馴染む(その状況・環境に溶け込み安らぐ)ことを支援していたと考えられる.
2. 患者に同意を得ながらケアやリハビリを進める看護実践の意味【患者の自発的な行動を尊重すると同時にその危険度を見極める】ことは,深い鎮静では感知することのなかった患者の言葉にならない潜在する思いや行動の意図を汲み取り,患者の行動が回復へ向かうために意味あるものか,または容認することで患者の危険を招く可能性のあるものかを見極め,患者の行動を促す,あるいは制止する判断が内在している.先行研究において,患者は自分の身の回りのことを任せて貰えない,あるいはチューブを触らないように身体拘束されるなど自由に動くことが出来ないもどかしさを訴えている(野口・井上,2016).つまり,看護師の状況に対する見極め次第によって,患者は“自由に出来ないもどかしさ”が苦痛体験となり得ることが考えられる.本研究において看護師は,患者とのやり取りを通して状況を精査し,出来る限り患者の自発的な行動を妨げることがないよう不要なルートの除去や抑制解除を実施していた.この実践と関連して【患者の同意を得ながらケアやリハビリに取り組めるよう導く】ことは,患者の表情や反応,意向や要望を確認したうえでタイミングを見計らい行動拡大のスタートを仕掛けることである.本研究において,このタイミングの詳細について明らかではなかったが,看護師は患者に無理強いすることなく思いに沿うことで,患者がケアやリハビリを自身の事として受け入れ,それに挑戦しようとする気持ちが高まるよう関わっていた.これにより,患者は促されながら整容や口腔ケア等の実施を通して,自分で出来るという成功体験により達成感を得て回復を実感することに繋がったと考えられる.このように患者と看護師相互の関係性を構築しつつ患者の力を活用し行動の拡大を目指すことは,深い鎮静では実施し得ない看護実践である.
また,患者の行動拡大を目指すためには,患者の回復意欲が不可欠である.患者の状況に合わせて【患者の複数の情報を統合し苦痛を読み取り積極的に緩和を試みる】,【患者に医療機器・装着物を繰り返し見せたり触らせたりすることでその存在を示す】,【患者に急激な身体状況の変化や今後の見通しについて繰り返し説明する】ことを連続的に行うことで,患者にとって治療や療養環境が苦痛の無い自身の居場所であることを実感することにつながる.つまり,患者が療養生活の時間の流れの中で自身が安全であるという保証と肯定的変化の兆しを実感できることは,患者が行動拡大するためのエネルギーになると考えられる.
3. 患者-家族間を仲介し相互の距離を調整することの意味浅い鎮静において患者が家族を認識できることを強みに,患者は家族とのやり取りを通して喜びや安心の感覚を得ていた.患者は家族と関わることで自己像を確かめ,患者の社会背景に関連した近親者との関わりにより自尊心を強化する(Karlsson & Forsberg, 2008;Karlsson et al., 2012;野口・井上,2016).これは患者が,療養環境を自身の居場所であることを認識することや,行動拡大の原動力を高めることに繋がると考えられる.
一方で,患者と家族が関わる状況において,患者の感情が高まることによって循環動態の乱れに繋がることもある.循環動態の悪化は患者の最良の身体状況の維持,治療環境への適応を困難にする.患者が落ち着いた状態で過ごすことができる人的環境調整として,患者と家族の接触を見合わせる判断が必要である.また家族は,患者の回復状況が思わしくない場面を目の当たりにした時は苦悩を増幅することも考えられる.看護師は,患者と家族相互において効果的な面会となるよう家族と患者の情報を共有しながら,両者の接触方法等を検討することが重要である.
4. エキスパートナースによる看護実践浅い鎮静において看護師のアセスメント能力は,知識や経験によって差があり,看護ケアに影響を与える(Tingsvik et al., 2013).本研究において看護師は,浅い鎮静状況にある患者の理解が不安定であり記憶が定着しない状況においても患者に辛抱強く問いかけ,繰り返し説明し患者の行動を見守り予測をもって関わっていた.このような対応はエキスパートナースが患者を一人の人間として尊重するものであり,深い人間理解と精緻なアセスメント力があったと考えられる.また,エキスパートナースが情報を統合して苦痛を読み取る,今後の見通しを説明する,危険度を見極める,患者の同意を得ることは,患者の流動的な変化のなかで連続的に実施され有機的な繋がりを有していたと考えられる.つまり,患者を諸側面から看ることで患者のペースを壊すことなく(Laerkner et al., 2015)ケアを提供することが可能であった.これは,浅い鎮静深度で管理されている人工呼吸器患者が元の生活へ復帰できるよう“やる気”を引き出しながら,患者が自らの力で行動することを支援する卓越した実践であったと考えられる.このような看護実践過程は,Kolcaba(2003/2008)が述べるコンフォートの要素である緩和,安心,そして患者自身が問題を克服する超越として捉えることができ,患者へコンフォートを提供していたと考えられる.
以上より,浅い鎮静において看護師は,患者の表情や外観等ダイレクトに得られる反応を重視して精緻にアセスメントすること,侵襲的な人工呼吸器装着過程において患者と相互にやりとりすることによって複数の看護ケアを組み立てていた.これは深い鎮静では起こり得なかったことであり,侵襲的治療遂行中から患者が早期に生活者へ戻ることを目指す看護実践であったと考えられる.
本研究ではデータ収集において,対象者に対し看護実践後の患者の反応と変化を確認するための工夫と努力を行ったが,患者の帰結は看護師が捉えた事実である.今後は患者の生の声を聴くことにより看護実践の評価を確実にする必要がある.また,【患者の同意を得ながらケアやリハビリに取り組めるよう導く】タイミングを解明する等,看護実践指標を明らかにすることは,侵襲的治療を受ける患者の力を引き出す看護実践の充実につながると考えられる.
付記:本研究は,平成29年度石川県立看護大学大学院博士前期課程に提出した修士論文の一部を加筆・修正したものである.本論文の内容の一部は第14回日本クリティカルケア看護学会学術集会にて発表した.
謝辞:本研究にご協力下さいました対象者の皆様に謹んで御礼申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:YOは研究の着想からデータ収集,分析および論文作成;YMは研究プロセス全体への助言および原稿への示唆.両著者は最終原稿を読み承認した.