日本看護科学会誌
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原著
看護師のクリティカルシンキングと科学的根拠の利用の関連
二見 朝子野口 麻衣子山本 則子
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2019 年 39 巻 p. 261-269

詳細
Abstract

目的:看護師が利用する科学的根拠の利用頻度およびクリティカルシンキング(CT)との関連を明らかにする.

方法:病院の病棟師長および看護師を対象に自記式質問紙調査を実施した.組織特性,個人特性,CT,情報源の利用頻度等を尋ねた.情報源のうち,ガイドライン・論文データベースを科学的根拠と分類した.

結果:全国61病院の師長68名,看護師986名分の回答を分析対象とした(有効回答率:師長93.2%,看護師72.1%).ガイドラインは58.4%,論文データベースは32.8%が1年以内に1度以上利用していた.CTは,ガイドライン(オッズ比[OR]:1.97,95%信頼医区間[CI]:1.30~2.99)および論文データベース(OR: 2.47, 95%CI: 1.58~3.85)の利用共に有意に関連していた.その他の要因としてガイドラインの利用には学会参加回数が多いこと,論文データベースには一般病床,統計解析の院内研修がある,年齢が低い,臨床研究実施回数が多い,学会参加回数が多いことが有意に関連した.

結論:CTの高さは,科学的根拠の利用促進に寄与しうる要因であることが示唆された.

Translated Abstract

Aim: To clarify the use of research-based information and its relationship to critical thinking (CT) disposition among nurses.

Method: This cross-sectional study was conducted using a self-administered questionnaire delivered to unit managers and staff nurses working at various units across Japan. We collected data on the characteristics of the hospital/units and nurses, CT, and the frequencies of use of the information sources. We operationally defined research-based information as clinical practice guidelines and databases of research papers.

Results: Data from 68 unit managers and 986 nurses from 61 hospitals were analyzed. (valid response rate: managers 93.2%, nurses 72.1%). The percentages of nurses who used clinical practice guidelines and databases of research papers in the year prior to completing our surveys were 58.4% and 32.8%, respectively. Nurses’ CT was significantly related to the use of clinical practice guidelines (odds ratio [OR]: 1.97, 95% confidence interval [CI]: 1.30–2.99) and databases of research papers (OR: 2.47, 95% CI: 1.58–3.85). Another factor significantly related to the nurses’ use of clinical practice guidelines was higher numbers of participation of academic conferences. Other factors significantly related to database use were unit type (general), having seminars about statistics in the hospitals, nurses’ lower age, higher numbers of nursing research conducted, and higher numbers of participation of academic conferences.

Conclusion: Fostering nurses’ CT may promote evidence-based practice implementation in Japan.

Ⅰ. 背景

看護におけるEvidence-based Practice(以下EBP)の実践によって,ケアの質の向上,患者アウトカムの改善,コスト削減,看護師の満足度向上等の様々な利点がある事が明らかにされている(Titler, 2008).Sackett et al.(1996)はEBPを「患者のケアの意思決定における,用心深く,明確で,慎重な最善の科学的根拠の活用」と定義し,最善の研究根拠・患者の価値観・医療者の専門知識の3つを統合して実践する事と定義した.国際看護師協会(2012)は「私たちは,エビデンスに基づくアプローチを看護サービスに活用する努力を怠ってはならない」と言っている.しかし,前述のEBPの3要素のうち,研究成果等の最善の研究根拠を実践に活用することは,看護においてあまり進んでいない(Squires et al., 2011aYoder et al., 2014真壁ら,2014).

科学的根拠を臨床で活用するためには,まずは看護師が科学的根拠を把握する必要がある.諸外国では,臨床での疑問を解決するための情報源として,看護師は同僚に聞く行動を主に取っており,科学的根拠は利用されにくいことが報告されている(Thompson et al., 2001).国内においては病棟看護管理者が利用している情報源についての報告はあるものの(遠藤ら,2009),スタッフ看護師の情報源については明らかになっておらず,まずはどのような情報源を業務に用いているかを明らかにする必要がある.

また,EBP実践には,クリティカルシンキング(Critical Thinking,以下CT)が必須とされている(Canada, 2016).CTは「自分の推論過程を意識的に吟味する反省的な思考であり,何を信じ,主張し,行動するかの決定に焦点を当てる思考」と定義される(Ennis, 1987).EBPのいずれのステップにおいても,CTは重要であると言われ(Canada, 2016),看護師の情報探索行動にも関連していると考えられるが,本邦においてCTと科学的根拠の活用の関連は明らかでない.CTは教育によって向上する事が明らかとなっており(楠見ら,2012),CTと科学的根拠の利用に関連があるという我々の仮説が支持されれば,本邦におけるEBP推進に寄与する知見を得ることができると考えられる.

以上のことから,本研究は看護師の科学的根拠の利用実態を明らかにし,CTと科学的根拠の情報源としての利用との関連を明らかにする事を目的とする.

Ⅱ. 方法

1. デザイン

無記名自記式質問紙を用いた横断調査

2. 対象

対象者は,国内の病棟に勤務する看護師(准看護師を除く)とした.まず,国内の8,658病院が登録されている病院データベースから1,000病院を病床規模で層別に無作為抽出し,看護管理者宛てに調査の説明用紙および協力を依頼する旨の文書を送付した.その際,各病院1病棟の参加を依頼した.医療療養病棟とその他の病棟(一般病床,精神病床など)の両方を有する場合には,医療療養から1病棟,その他から1病棟の参加を依頼した.調査参加への同意が得られた病院の対象病棟へ調査票を郵送し,調査票を受け取った参加者は,研究説明用紙を読み参加へ同意する場合には調査票へ回答し,回答済みの調査票を封筒へ入れて封をし,病棟に設置された回収袋へ提出した.回収袋は質問紙配布から2週間設置してもらい,その後担当者から研究者へ返送してもらった.

3. 期間

2016年6月~9月

4. 調査項目

1) 目的変数:科学的根拠の利用

業務における利用頻度について情報源ごとに看護師に尋ね,その一部を科学的根拠の利用と定義した.設問では,ケアの内容・手順の根拠に対して疑問を持った際に用いる情報源の利用頻度(直近1年間)を尋ねた.提示した情報源は,インターネットの検索エンジン,病院・病棟の手順書,同僚の看護師,医師,薬剤師・栄養士・PT・OTなど他の専門職,書籍,医療系雑誌,ガイドライン,論文データベースの9種類で,各情報源の利用頻度について,利用していない,1年に1回,半年に1回,3か月に1回,1か月に1回,1~2週間に1回,それ以上の7段階で回答を求めた.

本研究では,以上9つの情報源のうち,ガイドラインと論文データベースを科学的根拠と定義した.なお,インターネットや医療系雑誌における情報は,科学的根拠とは言い難い情報も混在しているため,科学的根拠には含まないこととした.また,まずは科学的根拠を「利用すること」を支援するための示唆を得たいと考え,1年間に1回以上ガイドラインまたは論文データベースを利用したことを科学的根拠の利用ありとした.

2) 説明変数:CT

CTは上記Ennis(1987)の定義を採用し,測定には批判的思考態度尺度(平山・楠見,2004)を用いて師長および看護師に尋ねた.この尺度は以下の4因子で構成されている.論理的思考への自覚(13項目),探求心(10項目),客観性(7項目),証拠の重視(3項目).各項目は1(あてはまらない)~5(あてはまる)の5件法で測定され,得点が高いことはCT態度が高い事を示す.分析では,4因子の平均値を算出してCT全体得点として扱った.本研究における全体のCronbach’s αは0.90であった.

3) 調整変数

科学的根拠の利用には,CT以外にも様々な要因が関連していると考えられた.そのため,CTと科学的根拠の利用の関連をより厳密に検証するために以下の変数を調整変数として扱った.

(1) 組織特性:病院・病棟属性

以下の項目について師長に尋ねた.病院・病棟の病床数,特定機能病院指定,大学病院か否か,病棟の診療科,病床区分,看護提供方式,院内の研究に関する研修・研究委員会・研究発表会の有無,附属図書館の有無,専門看護師の所属の有無,研究における専門・認定看護師との連携の有無,年間で購入している医療系雑誌の数,院内での論文・診療データベースの利用可否.

(2) 組織特性:職場環境

職場環境に対する認識をThe Practice Environment Scale of the Nursing Work Index(PES-NWI)日本語版(緒方ら,2008緒方ら,2010)を用いて看護師に尋ねた.この尺度は以下の5因子で構成されている.病院全体の業務における看護師の関わり(9項目),ケアの質を支える看護の基盤(10項目),看護管理者の力量・リーダーシップ・看護師への支援(5項目),人的資源の適切性(4項目),看護師と医師との良好な関係(3項目).それぞれの項目は4(非常にそう思う)~1(全くそう思わない)の4件法で測定され,得点が高い事は良い看護実践環境である事を示す.各因子の病棟毎の平均値を算出して分析に用いた.本研究における各因子のCronbach’s αは0.80~0.87であった.

(3) 個人特性:属性

以下の項目について看護師に尋ねた.年齢,性別,専門・認定資格の有無,看護系最終学歴,看護師経験年数,現在の病棟での経験年数,職場(病院・施設)を変えた回数,看護基礎教育を受ける前の社会人経験の有無.

(4) 個人特性:看護研究に関する経験

以下の項目について看護師に尋ねた.基礎教育/継続教育で看護研究を学んだ経験,基礎教育での看護研究の実施経験,臨床での看護研究の実施回数,研究を実施する際に相談できる専門家(大学教員など研究に精通している者)との繋がりの有無,直近1年間における学会への参加回数・抄読会への参加頻度.

(5) 個人特性:仕事の忙しさの認識

National Institute for Occupational Safety and Health(NIOSH)の量的労働負荷尺度(原谷,2004)を用いて看護師に尋ねた.この尺度は1因子全4項目である.各項目は1(ほとんどない)~5(よくある)の5件法で測定され,得点が高いことは忙しさを強く感じていることを示す.本研究におけるCronbach’s αは0.90であった.

5. 分析方法

まず,記述統計によって看護師の各種情報源の利用実態を記述した.続いて,ガイドラインと論文データベースでは利用障壁が異なるために関連要因も異なると考えたため,単変量ロジスティック回帰分析によってそれぞれの科学的根拠の利用に関連する変数を探索した.単変量解析においてp < 0.2であった変数を投入して多重ロジスティック解析を行った(Katz, 2006/2008).投入する前に多重共線性の可能性を確認するため,説明変数間のPearsonの相関係数を算出し,r = 0.7以上の変数については,単変量解析においてp値が低いものを多変量解析で投入した.変数選択の方法はステップワイズ(変数減少)法とした.なお,論文データベースの利用をアウトカムとした分析では,院内の論文データベースの利用環境の有無を調整変数として強制投入した.本研究のデータは看護師個人が各病棟・病院に所属する階層構造になっているが,級内相関係数が低くマルチレベル分析の適応ではなかった(Heck et al., 2010).全ての検定において,p < 0.05を有意と判断した.統計解析はIBM SPSS ver. 24 for Windowsを用いた.

6. 倫理的配慮

研究の概要及び,参加は本人の自由意志に基づく事について記載された研究説明書を調査票に同封した.また,調査票は無記名のため,回収袋へ提出した後は参加同意の撤回が不可能となる事も研究説明書に記載した.本研究は東京大学大学院医学系研究科・医学部倫理委員会の審査で承認を受け(承認番号11220),各対象施設の看護管理者の許可を得て実施した.

Ⅲ. 結果

調査協力を依頼した1,000病院のうち,61病院73病棟が研究参加に同意した(応諾率6.1%).師長73名,看護師1,368名へ調査票を配布し,師長68名,看護師1,008名から調査票を回収した(回収率:師長93.2%,看護師73.7%).看護師から回収した調査票のうち,20名は20%以上の回答が欠損しており,2名は准看護師であったため,計22名の回答を分析から除外し,看護師の有効回答数は986名であった(有効回答率72.1%).

1. 参加者の特性(表1

参加者の平均年齢は37.6 ± 10.2歳,91%が女性,看護系最終学歴が大学卒業以上の者の割合は8.3%であった.参加者の中には8名の認定看護師資格保持者がいたが,専門看護師資格保持者はいなかった.

表1 参加病院・参加者の特性および単変量解析結果
n (%) or Mean ± SD オッズ比
ガイドライン 論文DB
組織特性 n = 61
病床数
20–99 15(24.6) 1.00 1.00*
100–199 11(18.0)
200–299 15(24.6)
300–399 7(11.5)
400–499 8(13.1)
500– 5(8.2)
大学病院 5(8.2) 1.16 1.97*
看護研究に関する院内研修
文献検索あり 23(37.7) 1.28 1.72*
統計解析あり 16(26.2) 1.32* 1.61*
研究方法あり 33(54.1) 0.98 1.23
研究に関する委員会あり 32(52.5) 1.27 1.44*
院内研究発表会あり 47(77.0) 1.17 1.87*
院内・附属図書館あり 40(54.1) 1.25 1.96*
職場環境(PES-NWI)
病院全体の業務における看護師の関わり 2.5 ± 0.2 1.08 1.72
ケアの質を支える看護の基盤 2.5 ± 0.3 1.57 2.85*
看護管理者の力量,リーダーシップ 2.7 ± 0.3 1.11 0.99
人的資源の適切性 2.2 ± 0.3 1.24 1.13
看護師と医師との良好な関係 2.5 ± 0.4 1.35 1.18
論文データベースの利用環境
なし 40(54.8) 基準 基準
あり 18(24.7) 1.12 1.70*
不明 10(13.7) 1.02 1.16
個人特性 n = 986
所属病棟の病床区分
一般 782(79.3) 基準 基準
精神 89(9.0) 0.73 0.80
医療療養 115(11.7) 0.79 0.49*
性別(女性) 897(91.0) 0.94 0.86
年齢 37.6 ± 10.2 1.00 0.98*
経験年数
看護師経験(年) 13.2 ± 9.6 1.00 1.00
現在の病棟での経験(年) 4.0 ± 4.5 1.00 1.00
資格(認定看護師) 8(0.8) 2.24 3.83*
看護系最終学歴
専門学校 655(66.4) 0.77 2.34*
大学 75(7.6)
大学院 7(0.7)
その他(高校・短大など) 245(24.8)
看護基礎教育を受ける前の社会人経験あり 194(19.7) 0.89 0.79
看護研究関連
基礎教育
学習経験あり 628(63.7) 1.19 1.57*
研究実施経験あり 555(56.3) 1.25 1.38*
継続教育で学習経験あり 600(60.9) 1.84* 1.67*
臨床での研究の実施回数 1.5 ± 2.0 1.06 1.10*
学会への参加回数(直近1年間) 0.4 ± 0.7 1.69* 1.70*
量的労働負荷 14.3 ± 4.0 1.01 1.03
看護師のクリティカルシンキング(範囲:1~5)
論理的思考への自覚 2.9 ± 0.5 2.27* 2.04*
探求心 3.5 ± 0.6 1.69* 1.97*
客観性 3.5 ± 0.5 1.42* 1.34
証拠の重視 3.4 ± 0.6 1.51* 1.39*
全体 3.3 ± 0.4 2.65* 2.57*

NOTE.Mean:平均値,SD:標準偏差,DB:データベース,*:p < 0.05,p < 0.2

病床数は連続値で単変量解析を行った

看護系最終学歴は大学を基準に2値で扱い,大学卒業未満を基準として単変量解析を行った

2. 科学的根拠利用の実態(表2

看護師がケアに疑問を持った際,最もよく利用していた情報源は同僚の看護師であった.半数以上の看護師が1週間に1回以上の頻度で同僚に尋ねていた.続いて,インターネットの検索エンジン,医師や他の専門職の頻度が高かった.一方,ガイドラインや論文データベースといった科学的根拠を参照する看護師は少なく,ガイドラインは約4割,論文データベースは7割近くが1年間に1度も利用していなかった.

表2 情報源利用の実態
情報源 n(%) 利用なし 利用あり 利用頻度
1年に1回 半年に1回 3ヶ月に1回 1ヶ月に1回 1,2週間に1回 それ以上
科学的根拠
ガイドライン 384(41.6) 538(58.4) 226(24.5) 123(13.3) 75(8.1) 68(7.4) 41(4.4) 5(0.5)
論文データベース 622(67.2) 303(32.8) 154(16.6) 66(7.1) 34(3.7) 28(3.0) 17(1.9) 4(0.4)
他の情報源
インターネットの検索エンジン 68(7.7) 815(92.3) 35(4.0) 85(9.6) 117(13.3) 206(23.3) 252(28.5) 120(13.6)
病院・病棟の手順書 25(2.7) 901(97.3) 61(6.6) 143(15.4) 173(18.7) 233(25.2) 231(25.0) 60(6.5)
同僚の看護師 19(2.0) 912(98.0) 20(2.1) 26(2.8) 64(6.9) 128(13.7) 385(41.3) 289(31.0)
医師 168(18.2) 756(81.8) 75(8.1) 86(9.3) 98(10.6) 165(17.9) 237(25.6) 95(10.3)
薬剤師・栄養士・PT/OTなどの専門職 112(12.1) 811(87.9) 53(5.7) 95(10.3) 116(12.6) 212(23.0) 259(28.1) 76(8.2)
書籍(教科書・専門書など) 59(6.4) 864(93.6) 101(10.9) 112(12.1) 159(17.2) 220(23.8) 196(21.2) 76(8.2)
医療系雑誌 142(15.4) 779(84.6) 134(14.5) 115(12.5) 167(18.1) 214(23.2) 112(12.2) 37(4.0)

3. 科学的根拠の利用の関連要因(表13

単変量解析の結果を表1に示した.多重共線性の確認のため,単変量解析においてp < 0.2であった変数間の相関係数を算出したところ,論文データベースの利用を目的変数とする分析においては,PES-NWIの下位尺度である病院全体の業務における看護師のかかわり,とケアの質を支える看護の基盤がr = 0.80,年齢と看護師経験年数がr = 0.88であったため,p値の低かったPES-NWI:ケアの質を支える看護の基盤,年齢を多変量解析に投入した.

表3 科学的根拠の利用に関連する要因
ガイドライン
n = 592
論文データベース
n = 593
オッズ比 95%信頼区間 p オッズ比 95%信頼区間 p
下限 上限 下限 上限
組織特性
病棟の病床区分(基準:一般) .064
精神 0.58 0.27 1.26 .169
医療療養 0.49 0.25 0.98 .043
院内研修あり:統計解析 1.51 1.01 2.26 .045
院内・附属の図書館あり 1.54 0.93 2.56 .096
論文データベース利用環境(基準:なし) .476
あり 1.29 0.81 2.05 .286
不明 0.97 0.57 1.64 .895
個人特性
年齢 0.97 0.95 0.99 .010
臨床での看護研究の学習経験あり 1.41 0.99 2.02 .056
臨床での看護研究の実施回数 1.25 1.10 1.42 <.001
直近1年間における学会への参加回数 1.67 1.25 2.23 <.001 1.49 1.16 1.92 .002
クリティカルシンキング全体 1.97 1.30 2.99 .001 2.47 1.58 3.85 <.001
定数 0.10 0.03

NOTE.―:単変量解析にてp>0.2のため投入されなかった変数

ガイドライン利用には学会参加回数(オッズ比[OR]1.67,95%信頼区間[CI]1.25~2.23)とCT得点(OR:1.97, 95% CI: 1.30~2.99)が有意に関連していた.論文データベース利用には,療養病床勤務でないこと(OR: 0.49, 95%CI: 0.25~0.98),統計解析の研修が院内にあること(OR: 1.51, 95%CI: 1.01~2.26),年齢が低いこと(OR: 0.97, 95%CI: 0.95~0.99),臨床研究実施回数(OR: 1.25, 95%CI: 1.10~1.42),学会参加回数(OR: 1.49, 95%CI: 1.16~1.92),CT得点(OR: 2.47, 95%CI: 1.58~3.85)が有意に関連していた.

Ⅳ. 考察

本研究では,看護師の業務における各種情報源の利用実態および,CTと科学的根拠(ガイドライン・論文データベース)の利用との関連を明らかにした.本調査の応諾率は6.1%と低く,回答者は全国統計と比較して病床数の多い病院の看護師がやや多かったが(厚生労働省,2017),女性割合および年齢の分布は全国の看護師の分布と同様であった(厚生労働省,2016).看護師が業務で利用する情報源は主に同僚やインターネットであり,ガイドラインや論文データベース等の科学的根拠を日常的に利用している者は非常に少なかった.また,CTの高さと科学的根拠の利用には正の関連が認められ,CTの高さは科学的根拠の利用促進に寄与しうる要因であることが示唆された.

1. 看護師の業務における科学的根拠の利用実態

本研究では,ケアに疑問を持った際,看護師は高頻度で同僚に尋ねており,情報源として科学的根拠が用いられることは稀であった.同様の傾向はアメリカやイギリスの看護師を対象とした調査でも報告されている(Thompson et al., 2001Yoder et al., 2014).Thompson et al.(2001)は,アクセスのし易さといった点から,看護師や医師といった同僚が,看護師にとって最も利用しやすい情報源であることを報告している.科学的根拠の利用については,ガイドラインを利用した者は6割近くおり,一次資料である論文よりも二次資料であるガイドラインの方が看護師にとって参照しやすい情報源である事がうかがえる.研究活用の阻害要因として,統計学的分析が理解できない,論文を読む時間がない,といった要因が高頻度で挙げられており(Kajermo et al., 2010),推奨として知見がまとめられたガイドラインは看護師にとって利用しやすいものであると考えられる.しかし,現状国内では看護に関するガイドラインは極めて数が少ないため,看護に活用できるガイドラインを増やしていく事は本邦における看護師の科学的根拠の利用を推進する一助となると思われる.

一方,論文データベースを利用した者は約3割であった.また,論文データベースの利用環境の有無は利用と有意な関連が見られなかった.論文データベース利用環境がないと回答した師長の病棟でも,1カ月~1週間に1度は利用している看護師が複数存在した.これは,病院がデータベースと契約をしていなくてもインターネットの利用環境があれば一部の機能は利用できるため,そのような利用が含まれていたのではないかと推察される.データベースの利用環境を整備する事は,看護師が必要な情報を得るために必要な事であるが,その利用を促進するためには,その他の要因が重要である事が示唆された.各々の要因について,以下に述べる.

2. CTと科学的根拠の利用

看護師のCTは科学的根拠の利用と有意に正の関連を示した.諸外国においてはCTとEBP実践の関連はすでに指摘されていたが(Canada, 2016),本研究によって本邦でも同様の関連が示唆された.さらに,科学的根拠の中でもガイドラインと論文データベースの利用障壁は異なると考えられたが,CTは両方に関連することが明らかとなった.CTは,EBPの第一歩である「実践に対して適切な疑問を持つこと」に大いに寄与すると考えられる.本調査におけるCTの得点は,同様に医療施設の看護師を対象とした先行研究と類似した値であり(高橋・本江,2014),本邦においてもCTを高めることがEBP実践の促進に寄与する可能性が示唆されたと言える.

看護師のCTを高める方法については,看護研究を学んだ経験のある看護師の方がCTが高い事が報告されている(Futami et al., 2019).また,科学的根拠を参照する事がCTを高めることにつながる可能性もあり,両者は影響し合っていると考えられる.メタ解析やシステマティックレビュー等の論文の読み方を学習する機会の提供によって,CTを高めるとともに科学的根拠の活用がより促進される可能性があると推測され,そのような学習機会の充足は支援の一つとなりうると考えられる.

3. 科学的根拠の利用に関連した他の要因

ガイドラインおよび論文データベース双方の利用と有意に正の関連を示したのは,学会への参加回数の多さであった.この要因に関しては,普段から科学的根拠を参照しているために,学会への参加回数が多いという因果関係になっている可能性がある.一方,野本ら(2004)は学会等の様々な機会を通して研究成果に出会う事が研究成果活用への興味を触発すると報告しており,学会に参加する機会を作り,研究成果に触れる事で,それらの利用が促進される可能性もあると考えられる.

論文データベースの利用のみと正の関連がみられたのは,統計解析に関する院内研修の有無,看護研究の実施回数であった.先行研究においても,研究に関連する経験は研究成果活用と概ね正の関連を示しており(Squires et al., 2011b),本研究でも同様の結果を得た.また,前述のように,研究成果活用の阻害要因として高頻度で上がるものには,統計学的分析が理解できない,看護職は研究に関する認識が低い,といった要因が挙げられており(清村・西阪,2003),統計解析の研修や看護研究を実施した経験は,これらの阻害要因を緩和させると推測される.したがって,論文の理解に供する知識を得る機会の充足は,看護師の科学的根拠の利用促進に寄与する可能性がある.

一方,年齢の高さおよび療養病床で勤務していることは,論文データベースの利用と負の関連が見られた.年齢については,海外の先行研究では研究成果活用と概ね関連が見られていない(Squires et al., 2011b).一方,清村・西阪(2004)は年齢が高い方が研究成果を活用していると報告しており,本研究の結果と一致しない.年齢が高い者の方が基礎教育において論文データベースの利用方法を学んでいない可能性が高いことが推察され,その影響が考えられるが,年齢と科学的根拠の利用の関連については更なる検討が必要である.

療養病床におけるEBPに関する先行研究は極めて少ないが,療養病床に勤務する看護師は学習に対する興味・関心が,特定機能病院や一般病院の看護師と比較して低めであるという報告がある(高橋ら,2012).また,療養病床ではIT関連機器の整備が一般病床ほどでないことが推察され,そのような環境も論文データベース利用の少なさに影響していると考えられる.療養病床で働く看護師の科学的根拠の利用促進には,一般病床とは異なる支援の必要性があると考えられ,更なる研究が必要である.

Ⅴ. 本研究の限界

本研究は,横断調査による結果であり,因果関係を明らかにすることは出来ない.本研究の応諾率は6.1%と低く,CTや科学的根拠の利用に関心のある看護管理者の病院の協力が多い可能性があり,科学的根拠の利用が実際よりも高くなっている可能性がある.また,対象者のうち療養病棟で勤務している看護師は約1割のみであり,療養病棟におけるEBP実践については知見も少ないため更なる研究が必要である.さらに,本研究では科学的根拠の利用頻度が高い看護師が少なかったために利用の有無をアウトカムとしており,利用頻度を細分化して分析するためには,より大規模な調査またはサンプリングの工夫が必要である.また,本研究におけるアウトカムは科学的根拠と定義された情報源(ガイドライン,論文データベース)の利用頻度であり,これらの科学的根拠を参照する事と看護実践との関連はまだ明らかではない.本研究で示唆された要因がEBP実践に寄与するか,因果関係の検討を進める必要がある.

Ⅵ. 結論

看護師が業務において科学的根拠(ガイドライン,論文データベース)を利用している頻度は,1年間に1度以上利用していた者がガイドラインで58.4%,論文データベースで32.8%であった.科学的根拠の中でもガイドラインは利用している者が比較的多く,論文データベースといった一次資料よりも二次資料の方が利用されやすいことが示唆された.また,看護師のCTの高さは科学的根拠の利用と有意に関連しており,その他の要因としては主に看護研究に関連する経験が多い者の方が科学的根拠を利用している事が明らかとなった.

謝辞:本研究の一連の過程で細部に渡りご助言いただき,多大なる貢献をいただいた元東京大学大学院医学系研究科の御子柴直子氏に対して深謝の意を表します.また,本調査にご協力くださった病院の看護管理者および看護師の皆様に心より感謝申し上げます.本研究は,公益財団政策医療振興財団の研究助成を受けて実施いたしました.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:AFは研究の着想およびデザイン,データ収集,分析,解釈,論文執筆;MNは分析,解釈および論文への助言;NYは研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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