2019 年 39 巻 p. 298-305
目的:大学病院に勤務するスタッフ看護師の新人教育への思いを,臨床経験年数,教育への関与状況,職場風土の視点から明らかにする.
方法:大学病院に勤務するスタッフ看護師1,281人を対象とし,2016年3~6月に新人教育に対する思いについて自記式質問紙調査を実施した.項目は新人教育への思い,関与状況,職場風土,属性とし,一元配置分散分析(ボンフェローニ法による多重比較)とt検定を用いて分析した.
結果:有効回答は746部であった(有効回答率58.2%).臨床経験年数が少ない場合は教育実施時の不安や緊張を,教育への関与が多い場合は教育に対する喜びと負担感を,一体感のある・ほめられる職場風土であると認識している場合は教育を通して喜びと自己の成長を感じていた.
結論:大学病院に勤務するスタッフ看護師の新人教育に対する思いは,臨床経験年数,教育への関与状況,職場風土の視点で異なっていた.
Aim: This study aims to investigate the feelings of senior nurses working in the university hospitals toward postgraduate education from the perspective of years of clinical experience, participation in postgraduate education, and workplace environment.
Methods: We conducted a self-administered questionnaire survey, including individual attributes, feelings and participation in postgraduate education, and workplace environment, among 1,281 senior nurses in two university hospitals between March and June 2016. Data was analyzed using one-way analysis of variance with Bonferroni adjustment for multiple comparisons and t-test.
Results: We obtained valid responses from 746 nurses (58.2%). Senior nurses who have fewer than five years of clinical experiences exhibited anxiety and nervousness during education implementation. Regarding numerous participations in postgraduate education, senior nurses inclined to experience pleasure for the growth of newly graduated nurses, while also feeling the burden. In a workplace with effective praising action and team spirit, senior nurses inclined to experience pleasure for the growth of newly graduated nurses and satisfaction with their growth.
Conclusions: This survey establishes that the feelings of senior nurses working in the university hospitals toward postgraduate education differ with regard to the years of clinical experience, participation in postgraduate education, and workplace environment.
看護学生が卒業時に一人で実施できる看護技術は多くない.看護教育基礎調査によれば,卒業生の80%以上が実施できると5割以上の学校が回答した項目は80項目中18項目と少ない(日本看護協会,2007).そのため新人看護職員(以下,新人とする)が患者に対するケアを安全かつ正確に行うには現場における教育が重要である.2010年の新人看護職員研修努力義務化に伴い策定された新人看護職員研修ガイドラインでは,部署スタッフ全員によるサポート体制が明記され(厚生労働省,2014),先輩看護師(以下,スタッフ看護師とする)の新人教育への参加が求められている.また,日々の看護業務を二人の看護師で行うパートナーシップナーシングシステム(PNS)の普及により,スタッフ看護師と新人が一緒にケアを行うことが増えるなど,プリセプターのような教育に対する特定の役割を持たないスタッフ看護師が新人教育に関与する機会が増えてきた.
しかし,新人教育に関する研究は,新人やプリセプターを対象にしたものが多く,スタッフ看護師と新人教育の関係について調査したものはほとんどみられない.看護の質を維持させるために今後も新人教育の充実が求められている.その実現のためには,新人教育への関与が増加しているスタッフ看護師の思いを把握し,適切に対応していくことが重要である.
そこで本研究では,スタッフ看護師が抱いている新人教育への思いを,臨床経験年数,新人教育への関与状況,職場風土の視点から定量的に調査し,新人教育への関与が増えているスタッフ看護師の支援を検討する資料を得ることを目的とした.
研究協力の得られた2つの大学病院の病棟に勤務する臨床経験年数2年目以上の看護師を対象とし,2016年3~6月に無記名自記式質問紙法による調査を行った.質問紙の配布は各部署の看護師長を通じて行い,記入後,回答者自身が厳封の上,1ヶ月の留め置き法にて回収した.なお新人教育とは,新人看護師を対象に行う全ての教育をさし,看護部主催の中央の集合研修だけでなく,部署での日々の指導も含むものであり,関与状況,職場風土は2015年度一年間についての回答を求めた.
2. 調査内容質問紙は,属性(性別,年齢,臨床経験年数),新人教育への思い,新人教育への関与状況,職場風土の項目で構成した.質問項目は先行研究をもとに研究者が作成し,項目作成過程では,看護教育を専門とする研究者らと協議を重ねた上で専門家のスーパーバイズを受け,新人教育の経験を有する看護師10人に対する予備調査を経て完成させた.
新人教育への思いに関する項目は,新人を指導することで得られる学び(御栗ら,2002)や喜び(寺本ら,2007),負担感(中村,2015)や指導への不安(巽・福山,2007)といった思いを明らかにした先行研究を参考にして,ポジティブ,ネガティブの2側面から計8項目を作成した.回答は「非常にそう思う」5点から「ほとんどそう思わない」1点までの5段階リッカート法とした.
新人教育への関与状況に関する項目は,日高(2015)の新人看護師が求める先輩看護師の関わり尺度,新人教育に対する認知度と指導状況の関連についての山中ら(2011)の調査,東雲(2013)の先輩看護師の新人に対する支援行動の内容についてのインタビュー調査,さらに,吉富・舟島(2009)のプリセプター役割自己評価尺度を参考にして,直接的関与,間接的関与の2側面から検討し,それぞれ5項目ずつ計10項目を作成した.回答は「非常によく行った」5点から「ほとんど行わなかった」1点の5段階リッカート法とした.
職場風土に関する項目は,労働者のメンタルヘルス対策のために開発された新職業性ストレスチェック調査票(川上ら,2012)の中から「ほめてもらえる職場」と「職場の一体感」の項目を引用,一部改変して計6項目を作成した.回答は「そうだ」4点から「ちがう」1点までの4段階リッカート法とした.
3. 分析方法単純集計をしたのち,臨床経験年数は2~4年目・5~9年目・10~14年目・15年目以上の4つのカテゴリーに分類して一元配置分散分析を行い,有意差のみられた項目はボンフェローニ法による多重補正を行った.経験年数をカテゴリーに分類する際には,プリセプター等の新人教育に従事する役割を担う経験と,看護師全体の90%以上を女性が占めるため(厚生労働省,2018),結婚・出産育児等のライフイベントに着目した.まず前者は,20施設を対象にプリセプター等の教育的役割が付与される時期を調査した中根ら(2001)の研究とプリセプターの経験年数についての調査(日本看護協会,2005)をもとに,4年目までとそれ以降に分けた.そして後者は日本における女性の平均初婚年齢29.4歳,平均第1子出生年齢30.7歳(内閣府,2017)というデータをもとに,31歳前後(経験年数10年前後)に区切りが入るように,5年刻みで5~9年目,10~14年目,15年目以上に分けた.
新人教育への関与状況と職場風土は,各項目の総和の平均を境にして上下2群に分けt検定を行った.なお臨床経験年数は実数で回答を得てその後,2016年4~6月に行われた施設のデータに関しては,調整のため臨床経験年数を1年減じた(例:4年目→3年目).データの分析は,IBM社SPSS Ver. 25を用いて行い,有意水準は5%とした.
4. 倫理的配慮研究への協力は自由意思であり,回答内容が個人や病棟の評価に一切影響しないこと,得られたデータは研究の目的以外には一切使用しないこと等を文書にて説明した.対象者からの回答をもって,研究協力に同意を得たとみなすこととした.本研究は大阪大学医学部附属病院観察研究倫理審査委員会にて承認を受けた(承認番号15452).
質問紙は1,281部配布し,932部回収した(回収率72.8%).そのうち,臨床経験年数が2年目以上で回答に欠損がない746部を本研究の分析対象とした(有効回答率58.2%).男性割合は7.4%,平均年齢(標準偏差)は32.4(8.0)歳であった.質問項目の内容とその度数分布は表1の通りである.以降,新人教育への思いの項目は表1内の【 】ラベルで表記する.
| 非常にそう思う | かなりそう思う | そう思う | あまりそう思わない | ほとんどそう思わない | |||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 新人教育への思い | ポジティブ | 新人教育を行うことで新人の成長をみることができ喜びを感じた | 【喜び】 | 60 | (8.0) | 113 | (15.1) | 399 | (53.5) | 116 | (15.5) | 58 | (7.8) |
| 新人教育を通して,自分の成長につながった | 【自己の成長】 | 67 | (9.0) | 150 | (20.1) | 369 | (49.5) | 124 | (16.6) | 36 | (4.8) | ||
| 新人教育は,看護師全員が担うことであり役割として受け止めていた | 【役割意識】 | 120 | (16.1) | 192 | (25.7) | 355 | (47.6) | 45 | (6.0) | 34 | (4.6) | ||
| ネガティブ | 新人教育により,業務量が増え負担であった | 【負担感】 | 67 | (9.0) | 129 | (17.3) | 244 | (32.7) | 239 | (32.0) | 67 | (9.0) | |
| 新人教育をする時に,自分の技術や知識に対し不安を感じた | 【不安】 | 59 | (7.9) | 124 | (16.6) | 326 | (43.7) | 184 | (24.7) | 53 | (7.1) | ||
| 新人教育をする時に,自分が緊張して余裕がなくなった | 【緊張】 | 14 | (1.9) | 44 | (5.9) | 145 | (19.4) | 394 | (52.8) | 149 | (20.0) | ||
| 新人教育をする時に,指導方法について悩むことがあった | 【悩み】 | 64 | (8.6) | 140 | (18.8) | 294 | (39.4) | 177 | (23.7) | 71 | (9.5) | ||
| 新人教育をする時に,新人との関係構築が難しかった | 【関係構築困難】 | 20 | (2.7) | 64 | (8.6) | 191 | (25.6) | 342 | (45.8) | 129 | (17.3) | ||
| 非常によく行った | よく行った | 行った | あまり行わなかった | ほとんど行わなかった | |||||||||
| 新人教育への関与 | 直接的関与 | 新人に,教育的な視点で技術の手本を見せ説明した | 76 | (10.2) | 213 | (28.6) | 271 | (36.3) | 108 | (14.5) | 78 | (10.5) | |
| 新人に,未修得技術を実践する機会を積極的に提供した | 70 | (9.4) | 184 | (24.7) | 290 | (38.9) | 111 | (14.9) | 91 | (12.2) | |||
| 新人が悩みを相談しやすいような雰囲気作りを心がけた | 90 | (12.1) | 214 | (28.7) | 325 | (43.6) | 89 | (11.9) | 28 | (3.8) | |||
| 新人に積極的に声をかけ不安を軽減するように関った | 91 | (12.2) | 225 | (30.2) | 319 | (42.8) | 86 | (11.5) | 25 | (3.4) | |||
| 新人が実践できているところを意識してほめた | 79 | (10.6) | 224 | (30.0) | 279 | (37.4) | 127 | (17.0) | 37 | (5.0) | |||
| 間接的関与 | 新人を対象とした病棟内勉強会の企画・運営を行い,新人の知識獲得の場を設けた | 42 | (5.6) | 113 | (15.1) | 256 | (34.3) | 168 | (22.5) | 167 | (22.4) | ||
| 新人教育のマニュアルの作成や修正を行った | 40 | (5.4) | 71 | (9.5) | 157 | (21.0) | 178 | (23.9) | 300 | (40.2) | |||
| プリセプターや教育担当者と新人に関する情報を共有し新人の目標達成をすすめた | 80 | (10.7) | 153 | (20.5) | 230 | (30.8) | 154 | (20.6) | 129 | (17.3) | |||
| 新人を教育している看護師の悩みをきいた | 55 | (7.4) | 134 | (18.0) | 257 | (34.5) | 159 | (21.3) | 141 | (18.9) | |||
| 新人の負担を考慮し,休憩や退勤時刻,業務内容等の調整をした | 43 | (5.8) | 126 | (16.9) | 251 | (33.6) | 151 | (20.2) | 175 | (23.5) | |||
| そうだ | まあそうだ | ややそうだ | ちがう | ||||||||||
| 職場風土 | 一体感 | 私たちの職場では,ともに働こうという姿勢がある | 164 | (22.0) | 306 | (41.0) | 207 | (27.7) | 69 | (9.2) | |||
| 私たちの職場では,お互いに理解し認め合っている | 109 | (14.5) | 284 | (38.1) | 262 | (35.1) | 91 | (12.2) | |||||
| 私たちの職場では,仕事に関連した情報が共有できている | 131 | (17.6) | 371 | (49.7) | 213 | (28.6) | 31 | (4.2) | |||||
| ほめる | 仕事をきちんとすれば,ほめてもらえる | 184 | (24.7) | 315 | (42.2) | 155 | (20.8) | 92 | (12.3) | ||||
| 努力して仕事をすれば,ほめてもらえる | 197 | (26.4) | 306 | (41.0) | 164 | (22.0) | 79 | (10.6) | |||||
| 当たり前のことでも,できたらほめてもらえる | 54 | (7.2) | 163 | (21.8) | 242 | (32.4) | 287 | (38.5) | |||||
臨床経験年数の平均(標準偏差)は9.7(7.6)年目,カテゴリー別の人数は2~4年目群233人,5~9年目群251人,10~14年目群90人,15年目以上群172人であった(表2).4群間の一元配置分散分析の結果,【関係構築困難】以外の7項目で有意差がみられた.ボンフェローニ法による多重比較の結果,2~4年目群は,【不安】【緊張】が他の3群より高く,【負担感】が他の3群より低かった.5~9年目群は,【自己の成長】が10~14年目群より高く,【悩み】が15年目以上群より高かった.15年目以上群は,【役割意識】が2~4年目群,5~9年目群より高かった(図1).
| 経験年数 | 新人教育への関与状況 | 職場風土 | ||||||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 一体感のある職場 | ほめられる職場 | |||||||||||||||
| 2~4年目群 (n = 233) |
5~9年目群 (n = 251) |
10~14年目群 (n = 90) |
15年目以上群 (n = 172) |
低い群 (n = 394) |
高い群 (n = 352) |
低い群 (n = 375) |
高い群 (n = 371) |
低い群 (n = 332) |
高い群 (n = 414) |
|||||||
| Mean (SD) |
Mean (SD) |
Mean (SD) |
Mean (SD) |
p値† | Mean (SD) |
Mean (SD) |
p値‡ | Mean (SD) |
Mean (SD) |
p値‡ | Mean (SD) |
Mean (SD) |
p値‡ | |||
| 新人教育への思い | ポジティブ | 【喜び】 | 2.86 (0.93) |
3.08 (1.04) |
2.86 (0.94) |
3.16 (0.90) |
<0.01 | 2.63 (0.83) |
3.41 (0.95) |
<0.01 | 2.84 (0.95) |
3.17 (0.96) |
<0.01 | 2.84 (1.02) |
3.13 (0.91) |
<0.01 |
| 【自己の成長】 | 3.14 (0.96) |
3.23 (1.00) |
2.90 (0.91) |
3.04 (0.87) |
<0.01 | 2.75 (0.85) |
3.53 (0.89) |
<0.01 | 3.02 (0.98) |
3.22 (0.91) |
<0.01 | 2.98 (1.00) |
3.23 (0.90) |
<0.01 | ||
| 【役割意識】 | 3.19 (0.91) |
3.41 (0.98) |
3.50 (1.00) |
3.74 (0.98) |
<0.01 | 3.10 (0.96) |
3.80 (0.87) |
<0.01 | 3.36 (0.99) |
3.49 (0.97) |
0.07 | 3.35 (1.03) |
3.49 (0.94) |
0.06 | ||
| ネガティブ | 【負担感】 | 2.58 (0.94) |
2.97 (1.14) |
3.10 (1.21) |
2.92 (1.07) |
<0.01 | 2.54 (1.01) |
3.20 (1.08) |
<0.01 | 2.88 (1.14) |
2.82 (1.04) |
0.50 | 2.89 (1.16) |
2.83 (1.03) |
0.46 | |
| 【不安】 | 3.46 (0.91) |
2.89 (1.00) |
2.69 (0.98) |
2.42 (0.79) |
<0.01 | 2.94 (1.00) |
2.93 (1.01) |
0.92 | 2.97 (1.04) |
2.90 (0.96) |
0.30 | 2.92 (1.06) |
2.95 (0.96) |
0.63 | ||
| 【緊張】 | 2.53 (0.88) |
2.10 (0.92) |
2.04 (0.82) |
1.85 (0.67) |
<0.01 | 2.19 (0.88) |
2.14 (0.88) |
0.48 | 2.16 (0.89) |
2.18 (0.87) |
0.72 | 2.11 (0.92) |
2.21 (0.84) |
0.13 | ||
| 【悩み】 | 2.91 (1.01) |
3.08 (1.15) |
3.02 (1.14) |
2.70 (0.96) |
<0.01 | 2.66 (1.01) |
3.24 (1.06) |
<0.01 | 2.98 (1.12) |
2.88 (1.02) |
0.20 | 2.92 (1.12) |
2.94 (1.03) |
0.77 | ||
| 【関係構築困難】 | 2.27 (0.83) |
2.42 (1.01) |
2.40 (1.05) |
2.27 (0.95) |
0.23 | 2.20 (0.89) |
2.49 (0.99) |
<0.01 | 2.38 (0.10) |
2.29 (0.90) |
0.16 | 2.33 (0.99) |
2.34 (0.92) |
0.92 | ||
Mean:平均,SD:標準偏差
†:一元配置分散分析
‡:t検定

新人教育への思いと臨床経験年数との関係(ボンフェローニ法による多重比較)
*p < .05,**p < .01
新人教育への関与状況に関する10項目の点数の総和の平均(標準偏差)は50点満点中29.1(8.3)点であった.総和が29点以下であった394人を「関与低い群」,30点以上であった352人を「関与高い群」とした.t検定の結果,新人教育に対するポジティブ項目の【喜び】【自己の成長】【役割意識】と,ネガティブ項目の【悩み】【関係構築困難】【負担感】が,新人教育の関与状況により有意な差がみられた.つまり関与が高い群の方が,【喜び】【自己の成長】【役割意識】および【悩み】【関係構築困難】【負担感】の平均点が高い結果であった(表2).
3. 新人教育への思いと職場風土一体感のある職場に関する3項目の点数の総和の平均(標準偏差)は12点満点中8.1(2.3)点であった.総和が8点以下であった375人を「一体感職場得点の低い群」,9点以上であった371人を「一体感職場得点の高い群」とした.t検定の結果,新人教育に対するポジティブ項目の【喜び】【自己の成長】が,一体感のある職場得点により有意な差がみられ,得点が高い群がそれぞれの思いの平均点が高い結果であった(表2).
同様に,ほめられる職場に関する3項目の点数の総和の平均(標準偏差)7.6(2.6)点を用いて,総和が7点以下であった332人を「ほめられる職場得点の低い群」,8点以上であった414人を「ほめられる職場得点の高い群」とした.t検定の結果,新人教育に対するポジティブ項目の【喜び】【自己の成長】が,ほめられる職場得点により有意な差がみられ,得点が高い群がそれぞれの思いの平均点が高い結果であった(表2).
本研究結果により,臨床経験が5年に満たないスタッフ看護師は新人教育を行う際に,自分の技術・知識への不安や,緊張による余裕のなさといったネガティブな思いを抱いていた.巽・福山(2007)の調査でも先輩看護師が自身の知識や経験不足により新人教育に自信がないことは明らかになっていたが,本研究では特に経験が浅いスタッフ看護師にその特徴がみられることが定量的に明らかになった.一方で,業務量増による負担感は他の年代のスタッフ看護師に比べて低く,今回の対象施設では経験の浅いスタッフ看護師の負荷が管理されていることが推察された.これは今回の対象施設が7対1看護人員配置をとる大学病院であったことも影響していると考えられた.従って,経験が浅いスタッフ看護師が新人教育に携わる場合には,教育該当箇所の事前伝達,マニュアルの活用,準備時間の確保,指導方法に関する研修の開催など,不安軽減や緊張緩和に焦点を絞った配慮と支援が必要であることが示唆される.
また本研究では,15年以上の臨床経験年数を有するスタッフ看護師は,経験が10年に満たないスタッフ看護師に比べ,新人教育に対する役割意識を持ちながら新人教育に携わっていた.人を育てる力は年齢が上昇するにつれ高くなるとされている(上野ら,2002).豊かな臨床経験と役割意識を有し,人を育てることに優れたスタッフ看護師が新人教育で活躍することは有益であり,それを実現させるために,看護師の職業継続がはかれるような体制作りが重要である.
2. 新人教育への思いと関与との関係本研究結果により,新人教育への関与が多いスタッフ看護師のほうが,新人や自分の成長を実感して喜びを感じ新人教育をポジティブにとらえる傾向が明らかになった.しかし同時に,業務量増加への負担,指導方法の悩み,新人との人間関係面での難しさなど新人教育をネガティブにとらえる傾向も明らかになった.下川・片山(2015)の中堅看護師への調査では,高いやりがいを感じていても,同時に高い負担を感じる人は精神的健康が不良であり,将来的な仕事に向ける意欲が低いということが明らかになっている.新人教育へやりがいを感じていたとしても同時に負担感も強い場合は注意が必要である.寺本ら(2007)の調査では70~90%の看護師が業務量,勤務外業務が多いと回答していた.また,2014年度の正規雇用看護職員の年次有給休暇の平均取得率は50.5%であり(日本看護協会,2016),看護師の慢性的な業務量超過が推察される.このような点を考えると物理的な業務量の削減が第一義であるが,これらに加えて負担感を昇華させていくような取り組みも重要である.承認行為は自己効力感や満足感を向上させるため(太田・宮田,2016),管理者からの承認やスタッフ看護師相互での承認行為,また新人から先輩看護師へのフィードバックなどを,意識的に実践していくことも有用である.
3. 新人教育への思いと職場風土との関係本研究結果により,相互に理解し合い,情報共有できている一体感のある職場のほうが,また,業務の結果や努力に対して上司や同僚からほめられる職場のほうが,新人や自分の成長を実感して喜びを感じ新人教育をポジティブにとらえる傾向が明らかになった.ポジティブな感情はチームメンバー間で伝播するといわれている(Bakker et al., 2006;島津,2009).新人教育によりもたらされるスタッフ看護師のポジティブな感情を,部署内で広く共有することで,さらに職場の一体感を向上させるという好循環が期待できる.そして,新人に対してだけでなく,スタッフ看護師に対しても成果や努力に対する評価に加えて,当たり前と思われることでも積極的にほめるような職場風土を整えていくことが重要である.スタッフ看護師が新人教育を自分の成長や喜びを得る機会であると認識することで,スタッフ看護師がより積極的に新人教育に関わるようになり,提供される新人教育の質の向上にもつながると考えられる.
本研究は大学病院のスタッフ看護師を対象に,新人教育への思いについて,臨床経験年数,新人教育への関与状況,職場風土の視点から明らかにした.しかし,新人教育への思いはこれらの要因以外にも,対象施設の新人教育体制や新人就職数,スタッフ看護師の基本属性(教育経験の有無や基礎教育歴,家族構成等)によっても異なると考えられる.スタッフ看護師の多様な社会的背景を反映した具体的な支援方法の検討に行うためには,対象選定の幅を広げたデータ収集が必要である.
教育への関与が大きい場合と,職場の一体感やほめられていることを実感できる場合に,スタッフ看護師は新人教育を通じて喜びや自己の成長を実感していた.
臨床経験年数が少ないスタッフ看護師が新人教育を実施する場合に,不安や緊張が強くみられた.
教育への関与が大きい場合に,スタッフ看護師は新人教育に対する負担感や指導方法についての悩み,新人との関係構築に困難感を抱いていた.
謝辞:調査にご協力いただきました看護師の皆様に心より感謝申し上げます.また,統計解析に関して貴重なご助言をいただきました大阪大学大学院人間科学研究科 吉川徹教授に心より感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:YO,YH,YY,KTは研究の着想およびデザイン,データ収集,結果の分析と解釈,原稿の作成を行った.TT,TIは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.