日本看護科学会誌
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総説
患者-看護師関係におけるインボルブメントの概念分析
牧野 耕次比嘉 勇人
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2019 年 39 巻 p. 359-365

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Abstract

目的:患者-看護師関係におけるインボルブメントの概念を明らかにすることである.

方法:英語文献を対象とし,データベースPubMed,CINAHL,Academic Search Elite,SCOPUSを使用して,Rodgers(2000)の概念分析の手法により分析した.

結果:30件を分析した結果,患者-看護師関係におけるインボルブメントは,五つの属性【患者に専心する】【患者の世界に入る】【患者を理解する】【境界を調整する】【関係を形成する】と四つの先行要件,二つの帰結が抽出された.

結論:患者-看護師関係におけるインボルブメントの概念モデルを用いることで,否定的な側面ととらえられがちな「巻き込まれ」を「個人の問題」とせず,看護の枠組みの中で肯定的なかかわりに変化させることが可能となる.すなわち,臨床看護師にとってインボルブメントの概念モデルは,看護の中で起こったありのままを次の看護の中で活かしていくためのツールとなりえる.

Translated Abstract

Objective: The objective was to elucidate the concepts associated with involvement in the nurse-patient relationship.

Methods: The concept analysis method described by Rodgers (2000) was used to analyze English-language literature in the PubMed, CINAHL, Academic Search Elite, and SCOPUS databases.

Results: Thirty articles were analyzed. As a result, the following 5 attributes were extracted: dedicating her/himself to the patient, entering the patient’s world, understanding the patient, adjusting boundaries, and building a relationship. In addition, 4 antecedent conditions and 2 consequences were extracted.

Conclusions: Using the conceptual model of involvement enables involvement, which tends to be seen as a negative aspect, to be recast as a positive association within the framework of nursing rather than a personal problem. That is, the conceptual model of involvement can serve as a tool that enables the clinical nurse to utilize their unvarnished involvement developments that occur during nursing in subsequent nursing situations.

Ⅰ. 緒言

患者-看護師関係におけるインボルブメント(involvement)は,わが国では「関与(Travelbee, 1971/1974)」や「かかわり(Benner et al., 2009/2015)」「巻き込まれ(Benner, 1984/1992)」など,両価的に訳されている.

医中誌Webを用いて条件なしでinvolvementをキーワード検索すると,4,000件以上の結果がみられる.そのほとんどが,遺伝子や細菌,栄養素,細胞などの実態を伴う物質,もしくは因子や要因など物質を伴わないシステムなど,他のシステムと関係を持つ関与の意味で使用されている.本来,2つ以上の変数が関係しあう場合に使用される用語である.

看護以外の領域では,アメリカの都市再開発で行政が計画立案において住民の意見を聴取する「住民参画」=パブリック・インボルブメントが使用されている.わが国の行政においても,パブリック・インボルブメントはPI方式と呼ばれ定着している.以上のようにインボルブメントは領域によっては,使用されている概念ではあるが,わが国の看護においては訳語が定まらず,その概念が臨床看護師にまで定着しているとは言いがたい.

海外では,元来,患者-看護師関係のインボルブメントを否定的なものとして捉えていたためか,問題として捉えられている例が散見される(Gardner, 1971Artinian, 1983Heinrich, 1992).しかし,看護理論家たちはその否定的側面に言及しながら(Benner, 1984/1992Travelbee, 1971/1974),看護の中心的な概念として肯定的側面を重視している(Peplau, 1969Benner, 1984/1992Travelbee, 1971/1974Watson, 1988/2014).なかでもBenner & Wrubel(1989/1999)は,現在では看護の中心概念とされているケアリングについて述べる際に,インボルブメントを用いて説明している.さらに,初心者レベルから達人レベルまでのスキル獲得の5段階では,インボルブメントのスキルを各段階でいかに学び実践しているのかについて説明している(Benner et al., 2009/2015).また,海外では,インボルブメントのレベル(Morse, 1991)やプロセス(Artinian, 1995),オーバー・インボルブメントとの関連(Turner, 1999)などが研究されている.

わが国では,牧野ら(20042006a2006b20092010)が文献を用いたレビューや文献研究,看護学生のインボルブメントに関するハイブリッド・モデルを用いた概念分析,オーバー・インボルブメントとアンダー・インボルブメントに関する尺度開発などを行なっている.前述のとおりさまざまな研究が行われているが,患者-看護師関係におけるインボルブメントの属性は,概念分析により明確に提示されてはいない.患者-看護師関係におけるインボルブメントは文脈や経験などにより多様性があり,前述したような文献に触れることの少ない臨床看護師にまでインボルブメントの概念が定着しているとは言いがたい.そこで,本研究では患者-看護師関係におけるインボルブメントの概念分析を行う.患者-看護師関係におけるインボルブメントの概念の属性が明らかになることで,臨床看護師が患者とかかわる際の指標になると考えられる.

Ⅱ. 方法

本研究の分析では流動的で時間的経過や社会背景など文脈によりその概念が変化するインボルブメントに鑑み,Rodgers(2000)のアプローチを選択した.

1. データ収集方法

日本語においては「関与」と「巻き込まれ」という両価的な内容を含むインボルブメントのような用語はないため,英語文献を対象とした.PubMed,CINAHL,Academic Search Elite,SCOPUSを用いて,involvementおよびnurse-patient relationshipをキーワードに2018年までの文献について検索を行い,111件の文献を収集した.また,それらの引用文献などハンドサーチにより11件の文献を追加した.さらに,看護理論家による文献で,患者-看護師関係における看護師のinvolvementに関する記述の見られたもの7件を追加した.それらの文献を読み込み,患者-看護師関係におけるインボルブメントの概念に関する記述のない文献および看護学生と助産師のインボルブメントに関する文献を削除した.その結果,さらに重複したものを除いた残りの30件を今回の対象文献とした.

2. データ分析方法

対象文献を読み込み,患者-看護師関係におけるインボルブメントについての属性,先行要件,帰結に関する記述を抽出し,それぞれのコーディングシートを作成した.属性,先行要件,帰結について,それぞれ共通性と相違性を考慮しながらカテゴリー化を行い,カテゴリーの関連性に考慮しながら概念モデルを作成した.収集した文献の取捨選択および分析は,博士後期課程のゼミの中で発表し,メンバーと指導教員から助言を受けながら吟味した.

Ⅲ. 結果

分析の結果,患者-看護師関係におけるインボルブメントは,五つの属性と四つの先行要件,二つの帰結で構成された.帰結後,患者-看護師関係が継続する場合は,再度先行要因へと循環的にインボルブメントが継続されることが示唆された(図1).以下本文では,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〔 〕で示した.

図1

患者-看護師関係におけるインボルブメントの概念モデル

1. 患者-看護師関係におけるインボルブメントの属性

患者-看護師関係におけるインボルブメントの概念の属性として【患者に専心する】【患者の世界に入る】【患者を理解する】【境界を調整する】【関係を形成する】が抽出された(表1).

表1 患者-看護師関係におけるインボルブメントの属性
カテゴリー サブカテゴリー 内容 使用文献
患者に専心する 患者に主体的に関与する 実際聴くことに完全に専念する
深い関与で患者と一緒に過ごす
人として患者に関与する
Gardner (1971), Travelbee (1971), Benner (1984), Watson (1988), May (1991), Morse (1991), Ramos (1992), Åström et al. (1993), O’Brien (1999), Turner (1999), Williams (2001), Fegran & Helseth (2009), Jonsson & Segesten (2003), James et al. (2010)
患者に関心を持つ どれだけ深い関心を持っているか
全ての注意を集中して
他者に深い興味を持つ
Peplau (1969), Gardner (1971), Benner & Wrubel (1989), May (1991), Morse (1991), Baillie (1996), O’Kelly (1998), Williams (2001), James et al. (2010)
患者に何かしたいと思う 主体的に何かをしたいと思う
患者のために全てをした
特別な配慮
Goldsborough (1969), May (1991), Morse (1991), Ramos (1992), Åström et al. (1993), Betta (1993), Artinian (1995), Turner (1999), James et al. (2010), Jonsson & Segesten (2003)
患者の世界に入る 患者との関係に入る 相互的な関係に入る
特別な関係に入る
入るべき関係を選択をする
Artinian (1983, 1995), Morse (1991), Turner (1999)
患者のニーズに合わせる 患者のニーズへのかかわりを調整する
患者のニーズを満たす
患者のニーズを予見することができる
Goldsborough (1969), Peplau (1969), Artinian (1983), May (1991), Morse (1991), Ramos (1992), Betta (1993), Baillie (1996), James et al. (2010)
患者に同一化する 若い患者と同一化する
急性期の患者の家族の一部になる
患者のある特性に同一化する
Goldsborough (1969), Artinian (1983, 1995), Benner & Wrubel (1989), Benner et al. (2010), O’Kelly (1998), Jonsson & Segesten (2003)
ともに時間を過ごす つながるために患者との時間を過ごす
充分長くともに過ごす
ベッドの足元に座って患者と話す
Field (1984), Morse (1991), Åström et al. (1993), O’Kelly (1998), O’Brien (1999), Turner (1999), Brodie et al. (2002), Oxtoby (2004), James et al. (2010)
人生経験を共有する 幾つかの個人的な情報を共有する
患者との共通の下地を確立する
患っている個人に添った経験
Travelbee (1971), Goldsborough (1969), Gardner (1971), Artinian (1983, 1995), Field (1984), Eakes (1990), May (1991), Morse (1991), Ramos (1992), Åström et al. (1993), Turner (1999), Oxtoby (2004), Benner et al. (2010), James et al. (2010)
患者を理解する 患者の感情を理解する 患者に共感的である
聴くことで不安を抱える
患者の気持ちを感じようとする
Travelbee (1971), Goldsborough (1969), Benner & Wrubel (1989), Ramos (1992), Åström et al. (1993), Baillie (1996), Turner (1999), Brodie et al. (2002), Jonsson & Segesten (2003), Oxtoby (2004), James et al. (2010),
患者の世界を理解する 患者の状況の徹底的な像をつかむ
文化的日常的生活世界を理解する
患者の立場を理解しようとする
Goldsborough (1969), Artinian (1983, 1995), Benner (1984), May (1991), Ramos (1992), James et al. (2010), Morrison & Symes (2011)
患者を知る 親密な方法で患者を知る
患者についての知識を得る
患者を知って共同関係を持つ
Goldsborough (1969), Travelbee (1971), Field (1984), Benner (1984), May (1991), Morse (1991), Artinian (1995), Oxtoby (2004), James et al. (2010), Morrison & Symes (2011)
境界を調整する 境界を明確にする 患者と専門職の境界を引く
仕事とプライベートの線を引く
つかむのに何年もかかった良いライン
Eakes (1990), May (1991), Morse (1991), Turner (1999), Oxtoby (2004), Fegran & Helseth (2009)
境界の偏りを補正する 適切な専門職の境界を調整する
施設の役割と情熱の均衡を保つ
共感・交友と知的明確さのバランスを取る
Peplau (1969), Eakes (1990), May (1991), Artinian (1995), Baillie (1996), Turner (1999), Oxtoby (2004), Fegran & Helseth (2009), Benner et al, (2010)
責任の範囲を見極める 増加した責任を感じる
リスクを背負いながらも責任を果たす
関係でより主体的な役割を推測する
Goldsborough (1969), Eakes (1990), Turner (1999), Brodie et al. (2002), Fegran & Helseth (2009), Morrison & Symes (2011)
関係を形成する 関係をつくる ケア関係を形成する
人間と人間として関係する
患者とのラポートを確立し維持する
Travelbee (1971), Watson (1988), Morse (1991), Ramos (1992), Betta (1993), Artinian (1995), Baillie (1996), O’Kelly (1998), O’Brien (1999), Oxtoby (2004), Morrison & Symes (2011)
相互に影響し合う 苦境にある人と継続的に交流する
患者との専門職的相互交流
患者の日常生活の困難について話し合う
Travelbee (1971), May (1991), Betta (1993), Artinian (1995), Baillie (1996), O’Brien (1999), Scott (2000), Brodie et al. (2002), Fegran & Helseth (2009), James et al. (2010)
互恵性を意識する 互恵的な関係が発展する
互恵性と交換性
相互に尊敬し,お互いに信頼しケアする
Artinian (1983), May (1991), Morse (1991), Ramos (1992), O’Brien (1999), Turner (1999), Williams (2001)
患者に働きかける 接触し続ける
患者とその家族にかかわる
感情的な働きかけ
Field (1984), Benner et al. (2010), Scott (2000)
患者とつながる 感情的なつながりを発展させる
職業的なつながりを知覚する
信頼と受容のつながりを形成する
May (1991), Morse (1991), Ramos (1992), Betta (1993), Baillie (1996), O’Brien (1999), Morrison & Symes (2011)

【患者に専心する】は,患者が現在の状況より安楽になることに関心を向け集中することであり,〔患者に主体的に関与する〕〔患者に関心を持つ〕〔患者に何かしたいと思う〕で構成されていた.

【患者の世界に入る】は,疾患や障害などにより患者が経験している世界に入ることであり,〔患者との関係に入る〕〔患者のニーズに合わせる〕〔患者に同一化する〕〔ともに時間を過ごす〕〔人生経験を共有する〕で構成されていた.

【患者を理解する】は,患者の経験している世界に入ることで,患者を理解することあり,〔患者の感情を理解する〕〔患者の世界を理解する〕〔患者を知る〕で構成されていた.

【境界を調整する】は,患者と経験を共有することで曖昧になる感情や責任の境界について,患者の主体性を尊重し,問題が起こらないように調整することであり,〔境界を明確にする〕〔境界の偏りを補正する〕〔責任の範囲を見極める〕で構成されていた.

【関係を形成する】は,お互いに信頼するための基盤をつくるためにつながりをもつことであり,〔関係をつくる〕〔相互に影響し合う〕〔互恵性を意識する〕〔患者に働きかける〕〔患者とつながる〕で構成されていた.

2. 患者-看護師関係におけるインボルブメントの先行要件

患者-看護師関係におけるインボルブメントの先行要件として【看護師の要因】【患者の要因】【患者-看護師関係の要因】【状況的要因】が抽出された.サブカテゴリーの内容を含む主な文献をその直後に付した.

【看護師の要因】は〔関係に入る決意〕(Gardner, 1971),〔インボルブメントについての考え〕(Turner, 1999),〔看護師の能力の限界〕(James et al., 2010),〔看護師の経験〕(Artinian, 1983),〔看護師の雰囲気〕(Scott, 2000)で構成される看護師側の要因である.

【患者の要因】は〔看護師を受け入れる程度〕(Morse, 1991),〔患者のニーズ〕(Goldsborough, 1969),〔患者の苦痛〕(Artinian, 1995)で構成される患者側の要因である.

【患者-看護師関係の要因】は〔患者と看護師の出会い〕(Baillie, 1996),〔患者と看護師の共通性〕(Ramos, 1992)で構成される患者-看護師関係における要因である.

【状況的要因】は〔看護チームの状況〕(Morrison & Symes, 2011),〔施設の状況〕(O’Brien, 1999)で構成される状況的要因である.

3. 患者-看護師関係におけるインボルブメントの帰結

患者-看護師関係におけるインボルブメントの帰結として【肯定的な変化】【否定的な変化】が抽出された.サブカテゴリーの内容を含む主な文献をその直後に付した.

【肯定的な変化】は,かかわりからの学びや看護師の振り返りによる〔看護師の成長〕(Ramos, 1992),看護師のリラックスした感情や看護師のやりがいなどの〔看護師の肯定的な感情〕(Betta, 1993),患者-看護師関係の確立や親密さを増すことなどの〔肯定的な関係性の変化〕(Oxtoby, 2004),患者の安楽など患者のプラスになることである〔患者の利益〕(Eakes, 1990)で構成されていた.

【否定的な変化】は,親密さを避け,患者を画一的に扱うなどの〔患者との距離をとること〕(Travelbee, 1971/1974),かかわりにより感情的な苦痛を経験し,感情のコントロールができなくなる〔看護師の感情的な問題〕(O’Kelly, 1998),燃え尽きや周囲が見えなくなるなどの〔看護師を脅かす問題〕(May, 1991),役割葛藤や仕事の一線を超えてしまうなどの〔境界の調整困難〕(Åström et al., 1993),患者の依存や患者-看護師関係における問題などの〔否定的な関係の変化〕(Fegran & Helseth, 2009)で構成されていた.

Ⅳ. 考察

1. 患者-看護師関係におけるインボルブメントの内容

本研究結果の属性から,患者-看護師関係におけるインボルブメントの概念を「患者に専心しその世界に入ることで患者を理解し,境界を調整することで患者との関係を形成すること」と定義した.看護師は患者に関心を向け注意を集中し,専心することにより,患者の経験する世界に入り,患者と経験を共有し,同一化することで患者を理解していることが示唆された.患者と経験を共有し,同一化することで境界が曖昧になると【否定的な変化】が起こり,看護師は役割や責任などにおいて,専門性を発揮することが困難になる.看護師はそれらの経験の振り返りから,感情や責任などのさまざまな境界を調整し「患者-看護師関係」を構築していた(牧野ら,2014).その結果が【肯定的な変化】に繋がっていた.このようなインボルブメントの先行要件として,【看護師の要因】【患者の要因】【患者-看護師関係の要因】【状況的要因】が患者-看護師関係におけるインボルブメントに影響することで,その属性や帰結が複雑で多様なものとなっていた.そのため,概念を把握することが困難になっていたと考えられる.

帰結である【肯定的な変化】と【否定的な変化】が緒言に述べた「かかわり」と「巻き込まれ」という両価的側面に対応していると考えられる.Travelbee(1971/1974)は,患者との信頼関係構築にはインボルブメントが必要であり,インボルブメントがなければ,患者を知ることができないと述べている.また,Benner(1984/1992)は,インボルブメントにより看護師は患者に対応するための資源をさらに引き出すことができると述べている.このようにインボルブメントの肯定的な側面を明確にした看護理論家ら(Benner, 1984/1992Travelbee, 1971/1974)の述べた内容に,今回選択した文献のインボルブメントの内容も加味することで,患者-看護師関係におけるインボルブメントの概念モデル(図1)を構造化した.

2. 患者-看護師関係におけるインボルブメントの位置付け

牧野ら(2004)は,わが国における看護ではインボルブメントの両価的な側面を「巻き込まれ」と「かかわり」という別々の概念に分けて捉えていると指摘している.「巻き込まれ」を否定的なものとして捉えた場合,看護の枠組みの中で行われたことが個人の資質や性格の問題として看護から切り離されて認識される危険性がある.そこには,「看護やケアリングが素晴らしいもの」という専門職者としての投影があると考えられる.また,「巻き込まれ」を看護として受け入れられない看護者の否認があると考えられる.本研究の結果,患者-看護師関係におけるインボルブメントの定義と概念モデルが提示された.そのことにより,患者とのかかわりのなかで起こった【否定的な変化】をそのサブカテゴリーや先行要件,属性などを参考にしながら,振り返ることが可能となる.また,その後も継続する患者とのかかわりの中でその振り返りをいかして,患者との距離を近づけて患者の世界に入ったり,境界を調整したりすることで患者-看護師関係におけるインボルブメントに【肯定的な変化】を引き起こしていくことが可能となる.すなわち,臨床看護師にとってインボルブメントの概念モデルは,看護の中で起こったありのままを次の看護の中で活かしていくためのツールとなりえる.

本概念モデルを臨床看護師のツールとするためには,看護基礎教育や現任教育において,講義などで本概念モデルを知識として学ぶ必要がある.さらに,実習や看護実践で対象との「巻き込まれ」や「かかわり」など実際のインボルブメントについて,ありのままに振り返る訓練も必要となる.その時,インボルブメントを理解した教員や実習指導者の指導が欠かせない.看護管理においても【否定的な変化】や「巻き込まれ」をその時点で評価すると看護師個人の問題として処理しがちである.その経験をどう活かして【肯定的な変化】を引き起こすかかわりにつなげ,スキルを磨くのかという視点が必要である.

わが国において,牧野ら(2015)はinvolvementの代替語として,「巻き込まれ」について検討していたが,臨床看護師にまで浸透しているとは言い難い.否定的な語感が根強いため,「巻き込まれ」という語感から肯定的な側面はなかなか捉えられないことによるものと思われる.一方,Benner(1984/1992)は熟練看護師の必須のスキルとして,あるレベルのインボルブメントが必要であるという仮説を立てた.その後,ビギナーから熟練看護師の各レベルについて,インボルブメントを軸とし,各レベルのインボルブメントのスキルを提示している(Benner et al., 2009/2015).本研究の結果,患者-看護師関係におけるインボルブメントの定義や概念モデルが示され,インボルブメントとカタカナ表記とすることで,わが国における「かかわり」と「巻き込まれ」という両価的側面を持つ看護用語として臨床看護師まで浸透することが望まれる.

3. 今後の課題

わが国の臨床における患者-看護師関係のインボルブメンの実際を質的研究などにより明らかにしていく必要がある.

付記:本研究の一部は,第38回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究は,2017~2021年度科学研究費助成事業(学術研究助成金)基盤研究(C)(17K12169)の助成を受けたものである.

利益相反:本研究において,利益相反は存在しない.

著者資格:MKは本研究を着想し,デザインした.また,文献の収集,分析,結果,考察,論文作成を担当した.HHは,結果と考察に助言し,論文に加筆・修正を加えた.本論文の最終版は両著者により承認されている.

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