日本看護科学会誌
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原著
小児専門病院における医師と看護師の協働の態度に関連する個人要因
菅原 厚史笠原 聡子石松 一真
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2020 年 40 巻 p. 47-55

詳細
Abstract

目的:小児専門病院での医師-看護師間の協働の態度に関連する個人要因を検討した.

方法:医師と看護師に無記名自記式質問紙を郵送し,臨床経験年数,医師-看護師間の協働の態度(JSAPNC),協働によるリスク・ベネフィットの認識,ファミリーセンタードケアの実践(MPOC-SP)などを調査した.

結果:233名から調査票を回収し,医師70名,看護師132名を分析対象とした.JSAPNC合計点を目的変数とした重回帰分析の結果,医師は協働による患者リスク軽減の認識とMPOC-SP得点が,看護師はそれらに加え臨床経験年数も有意となった.

結論:小児専門病院での医師-看護師間の協働の態度の向上には,協働による患者リスク軽減の認識を高め,ファミリーセンタードケアを推進する必要がある.看護師では小児専門病院の看護師としての専門性を発揮できるような早期の介入も求められる.

Translated Abstract

Aim: The purpose of this study was to investigate physicians’ and nurses’ attitudes toward physician-nurse collaboration in children’s hospitals and to identify personal factors related to such attitudes.

Methods: A survey was conducted in two children’s hospitals. A quantitative descriptive study was conducted to compare the attitudes between physicians and nurses using the Jefferson Scale of Attitudes toward Physician-Nurse Collaboration (JSAPNC). We adopted several attributes as personal factors related to the attitude toward collaboration: clinical experience, perceived risks and benefits regarding the collaboration, the Measure of Process Care for Service Provide (MPOC-SP), and so on.

Results: A total of 233 questionnaires were gathered and 202 questionnaires from 70 physicians and 132 nurses were used for the analyses. Multiple regression analyses revealed that the risk perception regarding the collaboration and the MPOC-SP score were related to the JSAPNC score for both physicians and nurses. Additionally, in the nurse group, the years of clinical experience were also related to the JSAPNC score.

Conclusion: To develop positive attitudes toward physician-nurse collaboration, it may be important to increase awareness of its effects on avoiding patient risks, and to be practiced family-centered care. Nurses need education and training to develop confidence as pediatric nurse professionals from the beginning of employment.

Ⅰ. 緒言

現代医療において,多様な患者ニーズに対応した良質な医療を提供するためには,専門分野の異なる複数の医療従事者が患者,家族,介護者,コミュニティと協働する多職種連携医療が重要である(WHO, 2010).中でも病院における医師-看護師間の協働(以下,協働)は,ICUへの再入室率の低下(Baggs & Schmitt, 1997)や入院期間の短縮や術後疼痛の軽減(Gittell et al., 2000)など,患者アウトカムを向上させることが知られている.行動には個人の態度が影響する(Ajzen, 1991)ため,協働の推進には協働の態度の向上が前提となる.

協働の態度を測定する尺度のひとつにJefferson Scale of Attitudes toward Physician-Nurse Collaboration(Hojat et al., 1999)(以下,JSAPNC)がある.JSAPNC合計点は文化的背景や調査年代に関わらず医師よりも看護師で高く,看護師は協働に対し肯定的な態度を持つとされている(Hojat et al., 2003小味ら,2011).医師で協働の態度が低い理由として,医療提供に権限を持つ医師の協働から得るものは少ないとの認識や,看護師の役割拡大と医師の認識の乖離などが指摘されている(Hojat et al., 2003).一方,小児専門病院の医師と看護師では協働の態度に差はないとの報告もあり(Wang et al., 2015),小児専門病院の特殊性が協働の態度に影響している可能性がある.小児専門病院ではあらゆる発達段階の小児を対象に高度医療や,ファミリーセンタードケア(Family Centered Care: FCC)が実践されている.FCCによる子どもの治療方針やケアの意思決定への家族の積極的な参加は,家族の子どもへの愛着形成の促進(Malusky, 2005Gooding et al., 2011),子どもの心身の回復(Malusky, 2005Cooper et al., 2007Bruce & Ritchie, 1997Coyne et al., 2011)などアウトカムを向上させる.看護師のFCC実践には良好なチームワークなどの個人の認識(浅井,2018)や両親の24時間面会の実施(浅井・森,2015)が関連する.また,家族参加型の医療ラウンドにより患者ケア方針決定への医療者間の協働が向上することからも(Voos et al., 2011),協働とFCCには双方向の関連があると想定される.

以上より,小児専門病院の医師と看護師は各々の専門性をもとに患者と家族のアウトカムへの意識とケアへの責任を持ちつつ,協働相手を尊重しながら議論を進めていると考える.しかし,臨床では“協働”を前提とした実践がなされており,協働の効果を意識する機会は少ない.そのため,仮に協働できない場合を想定してもらい,協働をどのように捉えているかを尋ねることで,アウトカムへの影響が予測されるリスクとベネフィットの視点から検討する.

また,看護師の協働の態度には臨床経験年数が影響する(小味ら,2011)が,小児専門病院では知識・技術の不足や専門性の育成困難が協働の阻害要因となる(山口ら,2005)ことから,小児専門病院においては臨床経験年数がより重要と考えられる.そのため,臨床経験を経るにしたがって獲得していく協働に関連する個人要因を明らかにすることは,協働の態度向上にむけた方策の検討に貢献する可能性がある.以上より,本研究は小児専門病院における医師と看護師の協働の態度の実態を把握し,それに関連する個人要因を明らかにすることを目的とした.

Ⅱ. 方法

1. 対象とデータ収集方法

小児専門病院2施設に勤務する医師188名,看護師543名の合計731名を調査対象者とした.選定基準は,近畿圏内の日本小児総合医療施設協議会に所属する独立病院型のうち小児関連病床数200床以上の施設に勤務し,小児入院患者を担当する医師と看護師とした.研究デザインは横断的記述的研究であり,2018年6月から9月の間に郵送による無記名自記式質問紙調査を行った.

2. 調査内容

調査内容は基本属性,協働の態度,協働の態度に関連する個人要因とした.

1) 基本属性

性別,年齢,臨床経験年数,小児領域臨床経験年数,職位,所属.

2) 協働の態度

JSAPNC日本語版(小味ら,2011)は4因子(教育の共有とチームワーク,キュアに対するケアの特色,看護師の自律性,医師による支配)15項目で構成され,信頼性が確認された合計点を使用した.各項目は「1.全く同意しない」から「4.強く同意する」の4段階評定で,得点が高いほど協働の態度が肯定的である.JSAPNC日本語版は作成者の許可を得て使用した.

3) 協働の態度に関連する個人要因

(1)協働に対する認識を検討するために,協働できなかった場合を想定し,患者・家族・自分に生じるリスクやベネフィットについて「1.生じない」から「4.かなり生じる」の4段階評定を求めた.リスクでは得点が高いほど「協働によりリスクが軽減する」との認識が,ベネフィットでは逆転処理した得点が高いほど「協働によりベネフィットが増加する」との認識が高いことを示す.

(2)業務における患者と家族のアウトカムへの意識について,「1.全く意識していない」から「10.非常に意識している」までの10段階評定を求めた.

(3)患者と家族へのケア実践の責任(以下,責任)について,「医師」「看護師」「その他の職種」「患者と家族」の合計が100%になるよう回答を求めた.また,回答者と同じ職種については「自分」と「自分以外」に分けて回答を求めた.

(4)FCCの実践は,The Measure of Process Care for Service Provider(以下,MPOC-SP)の日本語版を使用した(License: 4349).これは4因子27項目で,下位因子の日本語訳は宮城島ら(2014)に準じ,「SIS:Showing Interpersonal Sensitivity(思いやり)」「PGI:Providing General Information(全般的な情報提供)」「CSI:Communicating Specific Information(子供に関する情報提供)」「TPR:Treating People Respectfully(敬意ある対応)」とした.各項目は「1.全くあてはまらない」から「7.非常によくあてはまる」の7段階評定で,MPOC-SP SYNTAXに従い因子ごとの平均値を求めた.また全項目の平均値をMPOC-SP得点とし,得点が高いほどFCC実践の認識が高いことを示す.

(5)「状況把握」「他者肯定」「計画管理」の3因子20項目から構成される気がきく尺度(石松,2012)を使用した.各項目は「1.全く当てはまらない」から「5.非常に当てはまる」の5段階評定で,各因子の得点と合計得点を算出した.得点が高いほどそれぞれの特性が高いことを示す.

3. 分析方法

各項目や尺度の基本統計量を求め,職種間比較にはχ2検定またはt検定を用いた.JSAPNCの得点については,職種(医師,看護師)×施設(2施設)×所属(ユニット系,それ以外)の3要因分散分析を行い,職種と施設と所属の影響を検討した.協働によるリスク軽減とベネフィット増加については,職種(医師,看護師)×認識(リスク,ベネフィット)×対象(患者,家族,自分)の混合計画による3要因分散分析を行い職種と認識と対象の影響を検討した.また,アウトカムへの意識と自分の責任の割合,相手職種の責任の割合については,職種(医師,看護師)×対象(患者,家族)の混合計画による2要因分散分析を行い職種と対象の影響を検討した.多重比較検定では,Bonferroni法によりp値を補正した.職種別の対象間比較には対応のあるt検定を,対象別の職種間比較には対応のないt検定を用いた.協働の態度の関連要因の検討には,JSAPNC合計点を目的変数,変数間相関から選択された変数を説明変数,性別を調整変数とする重回帰分析を職種別に行った.重回帰モデルにおける多重共線性はVIF(Variance Inflation Factor)で確認した.主な分析には統計解析ソフトR ver. 3.5.1(R Core Team, 2018)とEZR ver. 1.37(Kanda, 2013)を,3要因分散分析にはSPSS ver. 21.0(IBM)を使用し,有意水準は5%とした.

4. 倫理的配慮

研究実施に際し,滋慶医療科学大学院大学研究倫理委員会(承認番号:第2016-36号,第2017-11号,第2018-5号)と調査対象施設の倫理委員会(承認番号:1097)の承認を得た.対象者と協力施設に対し,研究協力は任意であり協力しない場合にも不利益は生じないこと,研究目的以外にデータを使用しないこと,問い合わせ先などを依頼文に明記した.調査票は無記名で,研究者宛に個別に返信する方法とし匿名性保持を厳守した.調査票の同意欄へのチェックと返送をもって研究協力の同意を得たこととし,同意撤回の際には該当する研究IDのデータを除外した.

Ⅲ. 結果

調査票731部(医師188,看護師543)を配布し,233部(医師75,看護師148)を回収した(回収率30.5%).このうち,各尺度項目に欠損のない202部(医師70,看護師132)を分析対象とした(有効回答率90.6%).

1. 対象者の属性(表1

医師は男性,看護師は女性が多かった(χ2(1, N = 202) = 83.5, p < .001).年齢は医師が高いが(t(199) = 2.8, p = .005),臨床経験と小児領域臨床経験に違いはなかった(t(199) = 1.0, p = .331; t(195) = –0.2, p = .788).

表1  対象者の属性
合計(n = 202) 医師(n = 70) 看護師(n = 132) p
性別,n(%)a <.001
男性 65(32.2) 52(74.3) 13(9.9)
女性 136(67.3) 18(25.7) 118(89.4)
未記入 1(0.5) 0(0.0) 1(8.7)
年齢(歳),MSDb 38.0(10.4) 40.8(9.1) 36.5(10.7) .005
臨床経験年数(年),MSDb 14.7(10.0) 15.6(8.9) 14.2(10.5) .331
小児領域臨床経験年数(年),MSDb 12.6(9.8) 12.3(9.8) 12.7(9.8) .788
職位,n(%)
研修医 11(5.4) 11(15.7) ― ―
スタッフ 140(69.3) 36(51.5) 104(78.8)
管理職 41(20.3) 22(31.4) 19(14.4)
未記入 10(5.0) 1(1.4) 9(6.8)
所属,n(%)
内科系 49(24.3) 28(40.0) 21(15.9)
外科系 60(29.6) 24(34.3) 36(27.2)
内科・外科混合 20(9.9) ― ― 20(15.2)
ユニット系
NICU 25(12.4) 8(11.4) 17(12.9)
PICU 38(18.8) 10(14.3) 28(21.2)
HCU 9(4.5) 0(0.0) 9(6.8)
未記入 1(0.5) 0(0.0) 1(0.8)

Notea χ2検定,b スチューデントのt検定.

2. 医師-看護師間の協働の態度の職種間比較(表2

JSAPNC合計点について職種(医師,看護師)×施設(2施設)×所属(ユニット系,それ以外)の3要因分散分析を行った.有意な主効果や交互作用は認められず,JSAPNC合計点に職種,施設および所属の違いによる差はなかった.各下位因子においても職種の主効果および職種を含む交互作用は認められず,同様の傾向となった.

表2  JSAPNC得点に対する職種の効果
医師(n = 70) 看護師(n = 132) F1, 193 p
MSD MSD
JSAPNC合計点[15] 47.4(4.5) 47.3(4.2) 0.0 .860
教育の共有とチームワーク[7] 22.5(2.5) 22.5(2.5) 0.0 .891
キュアに対するケアの特色[3]  9.6(1.3)  9.5(1.2) 0.3 .583
看護師の自律性[3] 10.4(1.1) 10.4(1.1) 0.1 .732
医師による支配[2]  5.0(1.1)  4.9(1.2) 0.0 .921

Note. JSAPNC = Jefferson Scale of Attitudes toward Physician-Nurse Collaboration

F値,p値はそれぞれの項目における3要因分散分析の職種の主効果を示す.

[ ]は質問項目数.

3. 医師-看護師間の協働の態度に関連する認識の職種間比較

1) 協働によるリスク軽減・ベネフィット増加の認識(図1
図1 

協働に対する認識の職種間比較

職種(医師,看護師)×認識(リスク,ベネフィット)×対象(患者,家族,自分)の3要因分散分析を行ったところ,職種と対象の主効果(F(1, 200) = 13.9, p < .001; F(2, 326) = 20.2, p < .001),職種×認識×対象の3要因間の交互作用(F(2, 314) = 10.5, p < .001)が認められた.そのため,対象別に職種と認識の単純交互作用を検定した結果,対象が患者と家族では有意で(F(1, 200) = 11.4, p = .001; F(1, 200) = 10.5, p = .001),自分では有意でなかった(F(1, 200) = 0.6 p = .451).対象が患者での職種の単純・単純主効果は,リスクでは認められず(F(1, 200) = 0.8, p = .366),ベネフィットでは認められた(F(1, 200) = 13.4, p < .001).つまり,協働による患者リスク軽減は医師(M = 3.4, SD = 0.7)と看護師(M = 3.5, SD = 0.6)で違いはないが,患者ベネフィット増加では看護師(M = 2.7, SD = 0.6)よりも医師(M = 3.3, SD = 1.1)で高くなった.対象が家族での職種の単純・単純主効果も,同様にリスクでは認められず(F(1, 200) = 0.4, p = .518),ベネフィットでは認められた(F(1, 200) = 12.6, p < .001).つまり,協働による家族リスク軽減も医師(M = 3.3, SD = 0.6)と看護師(M = 3.4, SD = 0.6)で違いはないが,家族ベネフィット増加では看護師(M = 2.8, SD = 1.2)よりも医師(M = 3.4, SD = 1.1)で高くなった.最後に,対象が自分での単純交互作用が有意でないため,職種と認識についての単純主効果の検定を行った結果,職種は有意であったが(F(1, 200) = 18.7, p < .001),認識は有意でなかった(F(1, 200) = 0.6, p = .451).つまり,協働による自分のリスク軽減(医師:M = 3.1,SD = 0.8;看護師:M = 2.9,SD = 0.8)と自分のベネフィット増加(医師:M = 3.4,SD = 1.0;看護師:M = 2.9,SD = 1.1)はともに医師が高く評価していた.

2) 患者・家族に対するアウトカムの意識(表3

職種(医師,看護師)と対象(患者,家族)によってアウトカムの意識が異なるかを2要因分散分析によって検討したところ,対象の主効果と職種×対象の交互作用が有意で(F(1, 200) = 6.0, p = .015; F(1, 200) = 38.6, p < .001),職種の主効果は有意でなかった(F(1, 200) = 0.2, p = .655).交互作用があったため全群の多重比較を行った.職種別に対象によるアウトカムの意識が異なるかを検討したところ,医師では患者が家族よりも有意に高く(t(69) = –4.6, p < .001),看護師では家族が患者より有意に意識が高かった(t(131) = 3.5, p = .002).次に,対象別に職種によるアウトカムの意識が異なるかを検討したところ,患者への意識は医師が看護師よりも有意に高く(t(200) = 3.2, p = .006),家族への意識では違いはなかった(t(200) = –2.2, p = .104).これらから,医師は家族より患者のアウトカムへの意識が高く,逆に看護師は患者より家族への意識が高いという特徴を示した.

表3  協働に関連する個人要因
対象 医師(n = 70) 看護師(n = 132) 職種間比較
MSD MSD
アウトカムの意識a,b 患者 7.8(1.4) 7.1(1.6) 医師>看護師
家族 6.9(1.9) 7.4(1.4)
自分の責任a 患者 40.6(20.3) 25.0(12.7) 医師>看護師
家族 30.8(18.1) 23.8(11.2) 医師>看護師
相手職種の責任c,d,§ 患者 19.2(9.7) 33.3(11.9) 医師<看護師
家族 24.7(11.6) 30.3(11.9) 医師<看護師

Notea 医師:患者>家族,b 看護師:患者<家族,c 看護師に対する医師の認識:患者<家族,d 医師に対する看護師の認識:患者>家族.

§ 回答者が医師の場合は看護師の責任,看護師の場合は医師の責任を示す.

3) ケア実践の責任のとらえ方(表3

職種(医師,看護師)と対象(患者,家族)によって自分の責任が異なるかを2要因分散分析によって検討した.職種と対象の主効果および職種×対象の交互作用のいずれも有意であった(F(1, 191) = 29.7, p < .001; F(1, 191) = 39.0, p < .001; F(1, 191) = 23.9, p < .001).そのため,職種別に対象による自分の責任が異なるかを検討したところ,医師では患者が家族よりも有意に高く(t(65) = –5.1, p < .001),看護師では患者と家族で差はなかった(t(126) = –1.5, p = .504).次に,対象別に職種による自分の責任を検討したところ,患者と家族ともに医師は看護師よりも有意に高かった(t(200) = 6.6, p < .001; t(200) = 3.3, p = .004).つまり,医師は患者と家族に対して自分の責任を看護師より強く感じていることが示された.また,対象による自分の責任の感じ方は職種により異なり,医師は家族よりも患者に対して強く責任を感じ,看護師は患者と家族に対する責任を同程度と捉える特徴がみられた.

職種(医師,看護師)と対象(患者,家族)によって協働の相手職種の責任が異なるかを2要因分散分析によって検討した.対象の主効果はなく(F(1, 1) = 3.3, p = .071),職種の主効果および職種×対象の交互作用が有意であった(F(1, 1) = 38.0, p < .001; F(1, 1) = 35.4, p < .001).交互作用があったため全群の多重比較を行った.職種別に対象による相手職種の責任が異なるかを検討したところ,医師は看護師の担う責任について患者よりも家族を有意に高く評価した(t(65) = –4.8, p < .001).一方,看護師は医師の担う責任について家族よりも患者を有意に高く評価した(t(126) = 3.5, p < .001).次に,対象別に職種による相手職種の責任が異なるかを検討したところ,患者・家族ともに看護師は医師より有意に高かった(t(191) = –8.3, p < .001; t(191) = –3.1, p = .004).以上より,看護師は患者より家族に責任を担う職種だと医師は認識しており,医師は家族より患者に責任を強く担う職種だと看護師は認識していることが示された.また,看護師は患者と家族について医師が担う責任を大きく認識していた.

4) FCCの実践と気がきく尺度(表4

MPOC-SP得点は職種間で有意差はなかった(t(200) = 1.1, p = .288).下位因子を比較した結果,家族への治療や検査の説明に関するCSIでは医師が有意に高かったが(t(200) = 10.2, p < .001),SIS,PGI,TPRでは有意差はなかった(t(200) = –0.3, p = .748; t(200) = –0.9, p = .386; t(200) = –0.6, p = .531).

表4  協働に関連する個人要因の職種間比較
医師(n = 70) 看護師(n = 132) t p
MSD MSD
MPOC-SP得点[27] 4.3(0.9) 4.2(1.0) 1.1 .288
SIS(思いやり)[10] 4.4(0.9) 4.5(1.0) –0.3 .748
PGI(全般的な情報提供)[5] 3.4(1.3) 3.6(1.6) –0.9 .386
CSI(子供に関する情報提供)[3] 4.4(1.3) 2.3(1.4) 10.2 <.001
TPR(敬意ある対応)[9] 4.8(0.9) 4.8(1.0) –0.6 .531
気がきく尺度得点[20] 63.6(8.5) 63.3(9.1) 0.3 .795
状況把握[7] 21.5(4.0) 20.3(4.6) 1.9 .059
他者肯定[6] 19.8(3.6) 20.3(3.5) –0.9 .359
計画管理[7] 22.3(4.7) 22.7(4.5) –0.6 .545

Note. MPOC-SP = Mesure of Process of Care for Service Provider

SIS = Showing Interpersonal Sensivity, PGI = Providing General Information

CSI = Communicating Specific Information, TPR = Treating People Respectfully

[ ]は質問項目数

気がきく程度の尺度合計得点(t(200) = 0.3, p = .795)と下位因子得点(状況把握 t(200) = 1.9,p = .059;他者肯定 t(200) = –0.9,p = .359;計画管理 t(200) = –0.6,p = .545)はいずれも職種間での差はなかった.

4. 医師-看護師間の協働に関連する個人要因(表5

まず,JSAPNC合計点を目的変数とする重回帰分析に説明変数として投入する項目を検討するために,職種別に各要因間の相関分析を行った.協働によるリスク軽減とベネフィット増加は,両職種ともに対象が患者・家族・自分の3者間で有意な相関があった(医師 リスク軽減r = .68~.69,ベネフィット増加r = .83~.91;看護師 リスク軽減r = .37~.72,ベネフィット増加r = .83~.95).また,自分の責任も両職種ともに対象が患者と家族で有意な相関があった(医師 r = .66,看護師 r = .74).そこで,医療の対象は第一義的には患者であることから,これらについては患者を対象とした項目を採用した.MPOC-SPは代表値として全項目の平均値を,気がきく尺度は合計得点を採用した.アウトカムの認識はリスク軽減とベネフィット増加を包含する概念であると考えられるため除外した.

表5  協働の態度に対する個人要因の効果
説明変数 医師(n = 70) 看護師(n = 132)
β t p β t p
性別 –.10 –0.9 .376 –.04 –0.5 .649
臨床経験年数 –.04 –0.4 .719 .26 3.0 .004
協働による患者リスク軽減 .45 3.8 <.001 .35 4.0 <.001
協働による患者ベネフィット増加 –.08 –0.6 .535 –.07 –0.8 .404
患者に対する自分の責任 –.12 –1.0 .318 .11 1.3 .194
MPOC-SP得点 .31 2.3 .024 .22 2.3 .023
気がきく尺度得点 .02 0.1 .902 –.10 –1.1 .292
R2 .30** .22***
R2adj .22** .18***

Noteβ=標準化偏回帰係数,R2=決定係数,R2adj=自由度調整済み決定係数.

* p < .05,** p < .01,*** p < .001.

協働の態度への関連要因を検討するために,JSAPNC合計点を目的変数,「臨床経験年数」「協働による患者リスク軽減」「協働による患者ベネフィット増加」「患者に対する自分の責任」「MPOC-SP得点」「気がきく尺度得点」を説明変数,「性別」を調整変数とする重回帰分析を行った.医師と看護師ともに説明変数のVIFは2以下で多重共線性はないと判断した.協働の態度と有意な関連があった項目は,医師では「協働による患者リスク軽減」,「MPOC-SP得点」となり,看護師ではそれに加えて,「臨床経験年数」が有意となった.

Ⅳ. 考察

1. 医師-看護師間の協働

JSAPNC合計点に医師と看護師で差はなかった.なお,小児専門病院の医師(研修医を除く)と看護師を対象としたWang et al.(2015)の研究との比較のため,本研究データから研修医を除外した結果でも,医師(M = 47.4, SD = 4.6)と看護師(M = 47.3, SD = 4.0)で有意差を認めなかった(t(179) = 0.24, p = .808).以上より,協働に対して両職種が同程度の肯定的な態度を持っていることは小児専門病院の医師と看護師の特徴と考えられた.

この結果の解釈としては2つ考えられる.ひとつは,医師の協働に対する認識である.Hojat et al.(2003)は,医師の協働の態度が看護師より低い理由として,医師は医療提供において大きな権限を持っており,協働から得られるものは少ないと認識しているためと考察している.一方,本研究では,協働によるベネフィット増加は患者・家族・自分のいずれにおいても医師は看護師よりも有意に高かった.このことは,小児専門病院の医師は看護師との協働によって得られるもの(ベネフィット)が大きいと認識していることを示唆しており,Hojat et al.の見解とは異なっていた.もう一つの解釈は,医師と看護師の役割認識である.アウトカムへの意識は,医師では患者が,看護師では家族が高かった.また,看護師は患者より家族に対する責任を担う職種だと医師は認識し,医師は家族より患者に対する責任を強く担う職種だと看護師は認識していた.FCC実践尺度であるMPOC-SPの下位因子SIS,TPR,PGIは職種間で有意差がなく,CSIのみ医師で有意に高値を示した.SISとTPRは,家族全体を医療の対象とする小児医療の基本理念に通じるものであり,また,PGIは両職種とも実践可能である.一方,治療や検査に関する家族への説明であるCSIに関しては,医師は自分たちの業務と認識し,看護師は医師の業務と認識していることが反映されたと考えられる.これらは,自分の役割と協働相手の役割認識が適切であることを示している.以上より,小児専門病院の医師と看護師では,協働の効果や職種間の役割の認識が小児以外の領域とは異なる可能性が示唆された.

2. 医師-看護師間の協働に関連する個人要因

小児専門病院の医師と看護師の協働の態度に関連する個人要因の検討を行った結果,医師と看護師に共通した要因は「協働による患者リスク軽減」と「MPOC-SP得点」であった.「協働による患者リスク軽減」は両職種で協働の態度に最も強く影響していた.職種間の情報共有ができず,医師の指示や看護師からの相談が相手に正確に伝わらないことは,患者に必要な医療を提供できないことに繋がる.協働の効果に関するこのような事例は想定しやすく,協働と患者アウトカムとの関連を示した研究(Baggs & Schmitt, 1997Gittell et al., 2000)の多くはリスクの軽減効果について論じられている.また,両職種とも患者に対する自分の責任を最も高く見積もっており,協働による患者のリスク軽減の効果を重要視していると考えられる.

「協働による患者ベネフィット増加」は,両職種とも協働の態度に影響しなかった.協働により患者ベネフィットが増加するとの認識は,両職種とも比較的高く,特に医師は強く認識していた.つまり,看護師は医師と協働しなくても患者や家族にベネフィットを与えられると認識している可能性が示された.看護師は医療者の中で最も患者や家族のそばにいる存在で,医師不在時でも常時ケアを提供している.また,看護業務には医師の指示を必要としない療養上の世話があり,安楽などベネフィットに通じる要素を含むことも理由の一つと考えられる.このように協働により患者のベネフィットが増加するという認識があるにも関わらず,それが直接的には協働の態度につながっていないことから,今後はその阻害要因についても検討する必要がある.

FCC実践尺度である「MPOC-SP得点」も両職種に共通して協働の態度に影響する個人要因であった.家族の子どもへの愛着形成や(Malusky, 2005Cooper et al., 2007Gooding et al., 2011),子どもの心身の回復の促進(Malusky, 2005Cooper et al., 2007Bruce & Ritchie, 1997Coyne et al., 2011)といったFCCのアウトカムからは,FCCがベネフィット増加に焦点をあてていることが読み取れる.FCC実践には医師と看護師が情報を共有し,各々の専門的視点を統合する必要があり,その過程が協働の態度に影響したと考えられる.

「臨床経験年数」は看護師のみで協働の態度への関連がみられた.これは,小児専門病院以外を対象とした研究ではあるが小味ら(2011)の結果を支持するものであった.山口ら(2005)によると,小児専門病院では特殊かつ複雑な疾患に関する専門的な知識や技術の不足,専門性の形成が困難なことが医師との協働を妨げる看護師側の要因となっている.看護師は臨床経験を重ねることで職種専門性に基づいた意見交換ができるようになり,協働の態度が高まる可能性がある.一方,医師では「臨床経験年数」と協働の態度に関連は見られなかった.この理由の検討には更なる研究が必要であるが,医師の養成課程や臨床研修の性質上,入職時点ですでに小児領域の医師としての専門性を認識していることが影響すると考えられる.

「患者に対する自分の責任」と「気がきく尺度得点」は,両職種とも協働の態度に影響しなかった.多職種連携医療では,患者に対する責任を共有するという認識が協働の態度に影響する可能性が示唆された.気がきく尺度は,他者肯定や議論の場の状況把握といった協働に必要な特性を測定可能であるが,これは医療場面に特化した尺度ではないため(石松,2012),これらの特性が影響しないと捉えるよりも,日常場面とは異なる特性が求められると思われた.

以上のことから,小児専門病院における医師と看護師間の協働の態度を向上させるには,協働により患者に生じるリスクを回避できるとの認識を高め,FCCの実践を促進する取り組みが必要と考える.また看護師では,小児専門病院の看護師としての専門性の早期育成が協働を推進する上で必要と思われた.

Ⅴ. 臨床への還元可能性と研究の限界

今回明らかになった小児専門病院の協働の態度に関連する個人要因を高める取り組みにより,協働の態度を向上させることにつながる.協働による患者リスク軽減については教育的介入が可能と考える.例えば,危険予知トレーニングのように具体的事例について協働の有無による患者リスクの相違を議論するなどである.FCCの実践には,患者がケアに参加しやすいように面会時間の制限の廃止(浅井・森,2015),医療者と患者・家族で治療やケアの方針を話し合いながら決めていくシステムの導入(Voos et al., 2011)が有効であり,組織的な取り組みも効果的と考える.

本研究では調査協力者が協働に対する意識の高い人に偏るなど選択バイアスの可能性があり,結果を一般化できるものではない.今後は対象者数を増やし結果の信頼性を高めるとともに,本結果が小児領域の特徴かを検討するために,他領域での調査結果と比較検討する必要がある.

Ⅵ. 結論

小児専門病院における医師-看護師間の協働の態度は,両職種で同程度に肯定的であった.協働の態度に影響する個人要因は,医師では協働により患者のリスクを軽減するとの認識とFCCの実践が,看護師ではそれに加えて臨床経験年数であった.

付記:本論文は滋慶医療科学大学院大学医療管理学研究科に提出した修士論文の一部を加筆・修正したものであり,第39回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:研究協力施設の医師,看護師の皆様に心より御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:TSは研究の着想からデザイン,データ収集,結果の分析と解釈,原稿作成まで研究全体に貢献した.SKとKIは研究の着想からデザイン,結果の分析と解釈,研究プロセス全体への助言と原稿作成に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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