日本看護科学会誌
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ISSN-L : 0287-5330
原著
40歳以上の初産婦に対して経験10年以上の助産師が行っている産褥期のケア
植木 瞳正岡 経子林 佳子
著者情報
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2020 年 40 巻 p. 82-90

詳細
Abstract

目的:40歳以上の初産婦に対して助産師が行っている産褥期のケアを明らかにすること.

方法:助産師経験10年以上の助産師9名を対象に,半構造化面接にてデータを収集し,質的記述的に分析した.

結果:助産師は,【長年かけて築いた生活が変わることを継続して意識づける】,【褥婦の体力やペースに合わせ,育児を継続できるようにかかわる】,【褥婦が育児方法を納得でき,自らSOSを出せるようにかかわる】というケアを行なっていた.なかには他者の判断を優先して生きてきた褥婦もいるため,その傾向を見極めながら【他者の判断を優先して生きてきた褥婦が,自分の判断で育児できるようにかかわる】というケアを行なっていた.また,【サポートを得にくい褥婦が一人で頑張らないような支援体制を作る】というケアを行っていた.

結論:助産師は,40歳以上の初産婦に対して40歳以上の初産婦の人生経験や価値観を尊重したケアを行なっていることが明らかになった.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to clarify postpartum care provided by midwives for primiparas aged over 40.

Methods: Data were collected through semi-structured interviews from 9 midwives with over 10 years of experience and analyzed by qualitatively and descriptively analyzed.

Results: Midwives provided care [to help primiparas aged over 40 to continuously understand that the lives they had built for a long time would change], [to help primiparas can continuously care for the child, while adapting to the primiparas’ pace and physical strength], [to help primiparas be convinced regarding childcare methods and be able to ask for help themselves]. On the other hand, since some primiparas aged over 40 depend on others for decision-making, midwives provided care [to help primiparas who depend on others for decision-making to be able to make decisions on their own and care for the child]. Since many primiparas cannot get sufficient support after leaving the hospital, midwives provided care [to create a support system so that primiparas who cannot get support need not persevere alone].

Conclusion: This study clarified that midwives provided care that comprises understanding and respecting the sense of values and life experience of primiparas aged over 40.

Ⅰ. 緒言

近年,晩婚化に伴い高年初産婦が増加している(内閣府,2018).2000年から2017年までの高年初産婦の増加数をみると,35~39歳では2.4倍,40歳以上では5倍(厚生労働省,2017)と,高年初産婦のなかでも特に40歳以上の初産婦の増加が著しい.不妊治療技術の普及により,今後も40歳以上で出産する女性が増加することが予測される.

高年初産婦は,妊娠期には妊娠高血圧症候群,前置胎盤,妊娠糖尿病を合併するリスク,分娩期では,微弱陣痛や分娩遷延による緊急帝王切開や,1,000 ml以上の大量出血になるリスクが高い(笠井ら,2012松田ら,2013).産褥期では,高年初産婦は35歳未満の初産婦に比べ,貧血や高血圧である割合が高く(森ら,2016),睡眠時間が短い(山﨑ら,2015).看護職者への遠慮(中沢ら,2013)や,高齢の親や忙しい夫への気遣い(前原ら,2014中沢ら,2013)がある一方,自身のプライドから周りの助言を素直に受け入れられない(前原ら,2014)ことが明らかになっており,相談しづらさを抱えているといえる.前述した妊娠期・分娩期のリスクは35歳以上よりも40歳以上でさらに上昇し(笠井ら,2012松田ら,2013),海外でも同様である(Laopaiboon et al., 2014).産褥期では40歳以上の初産婦に焦点を当てた研究は少ないものの,他の年齢層を対象にした研究では現れなかった結果として,年齢を考慮した育児支援を希求している(畠山ら,2016)ことが明らかになっている.また,一般的に,40歳以上の成人では回復の遅延,再生能力の減退など,加齢による変化が現れる(丸山,1998)ことも明らかになっている.2014年には,高年初産婦に特化した産後1か月までの子育て支援ガイドライン(森ら,2014)が発表され,高年初産婦に必要なケアの指針が提示されている.しかし,35歳以上よりも40歳以上の高年初産婦のほうが妊娠期・分娩期のリスクが高く産褥期にも影響が及ぶことや,成人女性としての加齢による変化を考慮すると,40歳以上ではさらに必要な産褥期のケアが実践されている可能性がある.そこで,臨床の助産師が40歳以上の初産婦をどのように認識し,どのようなケアを行っているのかを明らかにすることは,40歳以上の初産婦に対する助産師の日々の実践の一助となると考える.

以上より,本研究は,臨床の助産師が40歳以上の初産婦に対して実際に行っている産褥期のケアを明らかにすることを目的とする.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究では,40歳以上の初産婦に対して助産師が実践している産褥期のケアについて明らかにするため,質的記述的研究を選択した.

2. 用語の定義

産褥期のケア:分娩2時間後から1か月健診までの期間に,退行性変化・進行性変化に関する経過診断,育児技術の指導や母乳育児を含めた健康管理の支援,母子関係・家族関係の絆を深めることができるよう個々の家族への支援を提供するために行われる思考過程と,それに基づいて実践する行為(日本助産師会,2009).

3. 研究協力者

分娩を取り扱っている都市部の病院を複数選定し,看護責任者に研究協力を依頼した.承諾を得られた病院の看護責任者から,10年以上の助産師経験をもつ助産師の紹介を受け,研究協力に同意が得られた者とした.経験年数を10年以上と定めた理由は,専門家となるには特定領域において10年以上の経験が必要であること(Ericsson, 2006),助産師のケア能力は経験年数を経るごとに能力が高くなり(石引ら,2013村上ら,2002),産婦と家族の多様なニーズへの対応能力は10年以上の経験から培われること(正岡・丸山,2009)を根拠とした.

4. データ収集期間及び方法

データ収集期間は2018年6月~8月であった.半構造化面接によりデータを収集し,研究協力者の承諾を得てICレコーダーに録音した.面接では,産褥期のケアを中心に,40歳未満の初産婦と異なり40歳以上の初産婦の特徴をあらわしていると考えられる事例や出来事を想起してもらった.そのなかで意図的に得た情報や,どのような判断のもと,どのような実践を行ったのかを聞き取った.

5. データ分析方法

谷津(2015)の質的データの分析方法に基づいて分析を行った.まず,データから逐語録を作成し,インタビューの文脈を捉えるために,インタビューごとに要約を書いた.産褥期のケアに関する語りを抽出し,思考過程と実践を表している一連の流れに忠実に,意味を損なわないようにコード化した.コードの意味内容に注意し,共通して見出されるものをカテゴリー化した.本研究では,助産師が対象をどのように捉え,どのような実践をしているのかという視点で分析を行ったため,各カテゴリーには,助産師が捉える40歳以上の初産婦の特徴を示すサブカテゴリーと,実践を示すサブカテゴリーが含まれた.

6. 妥当性と真実性の確保

分析・解釈の過程において,著者の解釈やカテゴリー化に歪みや偏りがないかについて共著者と議論したうえで,質的研究の経験が豊富な研究者3名に指導・助言を受けた.分析終了後,産科病棟に勤務するエキスパートによって,解釈やカテゴリー化が妥当であるかスーパーバイズを受けた.結果として表すカテゴリーについて,研究協力者の発言を引用して詳細に記述した.

7. 倫理的配慮

本研究は,札幌医科大学倫理委員会の承認を得て行った(承認番号30-2-10).研究協力者には文書および口頭にて,研究の趣旨,研究協力の任意性と撤回の自由,個人情報の保護,匿名性の確保,データの保管方法,研究成果の公表等について説明し,同意書への署名をもって同意とみなした.

Ⅲ. 結果

1. 研究協力者の概要

研究協力者は9名で,助産師経験年数は平均23.6年であった(表1).

表1  研究協力者の概要
年齢 助産師経験
年数(年)
勤務先 インタビュー
時間(分)
A 50歳代 21 総合病院 71
B 60歳代 40 大学病院 49
C 50歳代 36 大学病院 49
D 40歳代 20 産科専門病院 48
E 50歳代 27 産科専門病院 41
F 30歳代 10 大学病院 43
G 40歳代 19 大学病院 45
H 40歳代 16 総合病院 47
I 40歳代 24 総合病院 46

2. 40歳以上の初産婦に対する産褥期のケア

分析の結果,5つのカテゴリーが抽出された(表2).以下,各カテゴリーについて説明をする.カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〔 〕,各カテゴリーを言い表している研究協力者の語りを「斜体」で示し,協力者の語りの意味内容の不足部分を( )で補足した.

表2  40歳以上の初産婦に対する産褥期のケア
カテゴリー サブカテゴリー
1.長年かけて築いた生活が変わることを継続して意識づける 豊富な人生経験から形成された人生観や価値観がある
長年かけて築いた生活から子どもがいる生活へと順応しにくい
不妊治療後の場合は,産後の生活をイメージしきれていない
妊娠・出産・子ども・仕事に対する気持ちの揺らぎに寄り添う
これまでの生活と,これからの生活についての考えを聞く
妊娠期から育児について説明し,子どもがいる生活を継続して意識づける
2.褥婦の体力やペースに合わせ,育児を継続できるようにかかわる やっと子どもを授かった場合は,産後自分が育児をスタートさせるという気持ちになりにくい
自分が想像する以上に体力が落ちており,身体がついていかない
自分の体調優先で過ごしたい
自分なりに考えている育児方法がある
褥婦の体力やペースに合わせ少しずつ育児指導を始める
褥婦の意向に沿いながら育児指導をする
今はスタート地点なので,長く育児を続けていけるようにかかわる
3.褥婦が育児方法を納得でき,自らSOSを出せるようにかかわる 初めての育児ができないと言えない
育児方法について理由を求める
柔軟性がなく,融通が利かない
育児方法や身体の変化について論理的に説明する
育児ができないのも休みたいのも当たり前と伝える
褥婦がSOSを出しやすいように,助産師から接近する
褥婦と同世代または目上のスタッフにかかわってもらう
褥婦が育児に自信を持てるまで入院期間を延長する
4.他者の判断を優先して生きてきた褥婦が,自分の判断で育児できるようにかかわる 実母・夫との関係性から,自分で物事を判断するかどうか見極める
実母や夫の判断を優先する褥婦は自分の判断で行動することが難しい
助産師に判断を委ねる褥婦もいる
他者の判断を優先する褥婦が混乱しないように,助産師から方向性を提案する
褥婦がやろうとしていることを否定せず,試行錯誤を支える
褥婦に自信がついているか表情を見て判断し,フィードバックする
5.サポートを得にくい褥婦が一人で頑張らないような支援体制を作る 親が高齢でありサポートを得にくい
周りの友達は子育てが終わっているので相談しにくい
一人で頑張り続けることで精神的負担が増す
サポートが可能な家族を見つけ,家族に働きかける
病院で行っているフォロー体制につなげる
養育支援連絡票で保健師につなげたり,社会資源を紹介する

1) 【長年かけて築いた生活が変わることを継続して意識づける】

このカテゴリーは,40歳以上の初産婦が,長年かけて築いた自分の生活を子ども中心の生活に変えていけるように,妊娠期から産褥期まで時間をかけてかかわる助産師のケアを示している.

助産師は,40歳以上の初産婦の特徴として,〔豊富な人生経験から形成された人生観や価値観がある〕,〔長年かけて築いた生活から子どもがいる生活へと順応しにくい〕,〔不妊治療後の場合は,産後の生活をイメージしきれていない〕と捉えていた.助産師は,キャリアを重ね,自分の生活を築いてきた高年初産婦や,不妊治療を続けてきた高年初産婦にとって,子どもとの生活をイメージすることが難しく,これまでの生活と子どもがいる新しい生活との間でギャップが生じると考えていた.そのため,助産師は妊娠初期から〔妊娠・出産・子ども・仕事に対する気持ちの揺らぎに寄り添う〕,〔これまでの生活と,これからの生活についての考えを聞く〕という実践を行い,仕事や子育て,産後のサポートについての考えを把握し,人生経験や価値観を知ろうとしていた.同時に,〔妊娠期から育児について説明し,子どもがいる生活を継続して意識づける〕という実践を行い,産後の生活をイメージできるよう継続して伝え続けていた.

D氏:「話をちゃんと聞いて,その人の生き方を否定しないで関わろうっていうのはすごく気をつけています.今までの生活パターンもよく聞きます.妊娠前のことはすごく聞きます.赤ちゃんが家に来たら生活が変わるので,絶対ギャップが生じる.どうする予定でいますかというのは聞くし,もし何も目途が立っていなければアドバイスする.」

I氏:「高年初産だと結婚年齢も高くて,自分1人で過ごしてきた期間が長いから,自分なりの考え方がある.そこにいきなり育児が始まると,新しいことがなかなか入っていかない印象.特に不妊治療したあとの40歳以上の人は,妊娠することだけを目標に何年も頑張っている人だから,出産というところまでは考えが至らなくて,赤ちゃんとの生活がイメージできていない.だから,口頭で話すだけでなく,ときには人形を使って,赤ちゃんこんなふうに抱っこするんだよとか,そういうのも取り入れながら.」

2) 【褥婦の体力やペースに合わせ,育児を継続できるようにかかわる】

このカテゴリーは,自分が育児をスタートさせる気持ちにならない,または育児をしたい気持ちがあっても身体がついていかない40歳以上の初産婦に対して,その人の体力やペースに合わせた指導を行い,育児を継続できるようにかかわる助産師のケアを示している.

助産師は,40歳以上の初産婦の特徴として,〔やっと子どもを授かった場合は,産後自分が育児をスタートさせるという気持ちになりにくい〕,〔自分が想像する以上に体力が落ちており,身体がついていかない〕と捉えていた.また,〔自分の体調優先で過ごしたい〕,〔自分なりに考えている育児方法がある〕ということも捉えていた.そのため助産師は,〔褥婦の体力やペースに合わせ少しずつ育児指導を始める〕,〔褥婦の意向に沿いながら育児指導をする〕,〔今はスタート地点なので,長く育児を続けていけるようにかかわる〕という実践を行っていた.

B氏:「(不妊治療後の場合は)自分が育児スタート(させる)っていう気持ちになっていないかもしれません.だから,“赤ちゃん泣いてるけど,これからおっぱい,ミルクやりますか?次の時間でやりますか?”というように,最初の頃は聞きながら.40年生きてるから,それなりの考えもあるでしょうけれど,子どもを20歳まで育てていかなきゃいけないから,無理強いはしないです.」

C氏:「(40歳以上の初産婦は)体力が落ちていて,疲労によって混乱していく様子も分かるし,育児をしたい気持ちがあっても,身体がついていかないっていう感じが目に見えてわかるので,休んでもらうことが多くなる.」

I氏:「(40歳以上の初産婦は)寝たいし,休みたいし,自分の無理のない程度にやりたいって,みんな思ってるから,ミルク補足して授乳間隔開けながらやってる印象.でも,お母さんがそう望むのであればそれでもいいのかな.搾乳じゃなくて直接(授乳)いけそうだなって思っても,お母さんが搾乳でやりたいと言えば,まずやってみてって言う.」

3) 【褥婦が育児方法を納得でき,自らSOSを出せるようにかかわる】

このカテゴリーは,人生経験で培った考え方があり,柔軟に考えることが難しくなっている40歳以上の初産婦が,育児という新しいことを吸収し,できないときには自ら他者に支援を求められるようにかかわる助産師のケアを示している.

助産師は,40歳以上の初産婦の特徴として,自立している女性と見られることから〔初めての育児ができないと言えない〕,仕事では根拠を説明する場面も多いことから,〔育児方法について理由を求める〕ことを捉えていた.また,20歳代や30歳代と比べて〔柔軟性がなく,融通が利かない〕ことも捉えていた.そのため助産師は,〔育児方法や身体の変化について論理的に説明する〕,〔育児ができないのも休みたいのも当たり前と伝える〕という実践を行い,40歳以上の初産婦が納得できるようにかかわっていた.

C氏:「子育てが分からない,できないっていうことを,素直に表現できない方が多いので,できるだけ傷つけないように.こうやるとこうなりますみたいに,理論立てて説明をするほうがいい方もいます.仕事では,きちっと説明して,ここがこうだからって説明することありますよね.20代前半の子には言わないけど,40過ぎて理論立てて喋ってきそうな人にはなるべく今後の予測を説明しておきます.(休息についても)休んで当たり前っていうことを伝えておく,若い人に比べれば.できて当たり前な女性.40過ぎてれば,できないって言えないと思うので.」

D氏:「20代の若い子は,すごく柔軟性があって,こうしたらいいよ,こうしてみないって言うと,それを素直に受けて実践して自分のものにできる.(40歳以上の初産婦は)型にはめることが多くて,見てて不器用なように思うんです.それは手技だけじゃなくて,思考も不器用.」

さらに助産師は,40歳以上の初産婦が自ら支援を求めることができるように,〔褥婦がSOSを出しやすいように,助産師から接近する〕,〔褥婦と同世代または目上のスタッフにかかわってもらう〕という実践を行っていた.

F氏:「特に40歳以上の方は自分から言い出しにくい雰囲気を察するので,“少し休みませんか”って(助産師から)声かけして.“まだ大丈夫”って言われてもまた消灯のときに声かける.(褥婦が)“もうちょっといけそう”って言ったら次は,この部屋回ってるよって感じで(巡回を装って)行って“どうかな”って聞いて.」

G氏:「若い助産師が“大丈夫ですか”って行くよりも,(同世代の助産師が)“疲れてるんでしょう,(児を)連れて行くよ”と言ったら“いいんですか?”って.同世代から“疲れたでしょう”って言われると“そうなんだ”って言いやすいと思います.あと,働いている人って階級で受け入れるところがあるので,師長さんに話してもらうとか.」

また,助産師は,40歳以上の初産婦と相談のうえで〔褥婦が育児に自信を持てるまで入院期間を延長する〕という実践も行っていた.

F氏:「退院後困らないように(入院を)延長したりもするんです.本人と相談して,授乳プランがしっかり定まっていないときは検討します.」

4) 【他者の判断を優先して生きてきた褥婦が,自分の判断で育児できるようにかかわる】

このカテゴリーは,自分の判断で生きてきた40歳以上の初産婦ばかりではなく,実母や夫の判断を優先して生きてきた初産婦もおり,そのような場合には,初産婦自身の判断で育児できるようにかかわる助産師のケアを示している.

助産師は,40歳以上の初産婦でも自立した女性ばかりではないことを認識し,家族が来院した機会に〔実母・夫との関係性から,自分で物事を判断するかどうか見極める〕という実践を行っていた.その結果,何か聞いても全部実母や夫が答えたり,本人が実母や夫の様子を窺っている様子があると,〔実母や夫の判断を優先する褥婦は自分の判断で行動することが難しい〕と助産師は捉えていた.

G氏:「何かあっても夫しか喋らない,本人は夫を見て喋るっていうのがあると,夫の様子を窺ってるのかなと思います.」

I氏:「何か聞いても,全部実母が答えてる人は,こうやって育ててこられたから,自分の決定権とか(なく),臨機応変な考え方ができない.」

また助産師は,〔助産師に判断を委ねる褥婦もいる〕ことも捉えていた.

E氏:「(授乳方法を)自分で決められない人は,(助産師に)“どうしたらいいと思います?”みたいに言う人もいます.」

助産師は,〔他者の判断を優先する褥婦が混乱しないように,助産師から方向性を提案する〕という実践を行っていた.

H氏:「(実母の判断を優先する褥婦に対して,助産師が)“これもあるよ,それもあるよ”って最初は(選択肢を)言ってたんだけど,“みんなが言うこと違う”って(褥婦が)言うから,“今の時間はこれを試す時間にしましょう.このあと,また違うやり方をやるけど,今はこれをやるよ.これがずっと続くわけじゃないからね”って言って応対するんだけど.きっと混乱しちゃうのかな.」

さらに,助産師は,褥婦が少しでも自分の判断に自信を持ち行動できるように,〔褥婦がやろうとしていることを否定せず,試行錯誤を支える〕,〔褥婦に自信がついているか表情を見て判断し,フィードバックする〕という実践も行っていた.

I氏:「(褥婦が困っているときに)できるだけ“どうしたい?”って声を掛けるようにしてる.(児を)預かるのは簡単なんだけど,そこの乗り越え方を一緒にできればいい.何でもかんでも教えると混乱するから,ひとつマスターしたら次.“違う,そうじゃない”とは言わない.自分ができているって思えたら,すごい表情が変わる.だから,すごく上手になったねって言う.」

5) 【サポートを得にくい褥婦が一人で頑張らないような支援体制を作る】

このカテゴリーは,サポートを十分に得られない40歳以上の初産婦が,母子とも安全に育児を継続できるように,利用可能なサポートをコーディネートする助産師のケアを示している.

助産師は,40歳以上の初産婦は,〔親が高齢でありサポートを得にくい〕だけではなく,〔周りの友達は子育てが終わっているので相談しにくい〕ことを捉えていた.このような40歳以上の初産婦に対し,助産師は,〔サポートが可能な家族を見つけ,家族に働きかける〕というケアをしていた.

G氏:「親が年齢高いので,もう親は頼れないと思っています.」

I氏:「40歳以上で初産になると,周りの同級生も子育てが終わって,同じような時期の人ってそんなにいないから,ちょっと相談するのにもギャップがあるのかな.でも,きょうだいに子育ての経験があれば,そこに相談したり,力になってもらったりしてる.」

H氏:「手伝ってくれる人もいないから,自分が全部やらなきゃ駄目とか(褥婦が話していた).“そんなふうにする必要ないよね,ご主人も巻き込んで手伝ってもらったらいいよ”っていう話を退院指導でもして.」

加えて,助産師は,他者の判断を優先して生きてきた40歳以上の初産婦の場合は,子どもに何かあっても自分一人で判断することが難しいため安全な対応ができないと考え,〔サポートが可能な家族を見つけ,家族に働きかける〕というケアを行っていた.

I氏:「旦那さんが夜勤でいないとか,出張が多いとか,どうしても一人で育児をしなきゃいけない場合,臨機応変に考えられる人はきっとできるんだろうけど,考えが膨らんでいかない人は一人だとどうにもならなくなる.咄嗟の,赤ちゃんに何かがあったとか,熱が出たとか,そういうとき判断がつかない.だから,お母さんに協力してもらったほうがいい.お母さんが近くにいなかったら,もう旦那さんに言うしかない.」

また,助産師は,産科を退院した後の褥婦が精神科を受診する様子を見たり,人との関係性が希薄な様子を見て〔一人で頑張り続けることで精神的負担が増す〕ことを懸念し,〔病院で行っているフォロー体制につなげる〕,〔養育支援連絡票で保健師につなげたり,社会資源を紹介する〕ことを行っていた.

A氏:「精神科に(退院後の)お母さんが入院してくると,産むだけじゃなくて育てていくことのほうがやっぱり大変なんだなあと(思う).」

B氏:「今は携帯の情報ばっかりで,人と人(とのつながり)って少ないですよね.赤ちゃんに全然触れたこともない.それを突然(育児)やれって言うんだから,かなり無理かなと思います.うつの方も多いですね,今は.まじめで一生懸命な人がそういう病気になってる.でも一人では無理だよと.なので,サポートの人どのぐらいいるかとか(聞いたり),市の子育て応援とか(紹介する).」

加えて,助産師は,子どもの状況に合わせた柔軟な対応ができない場合も,〔養育支援連絡票で保健師につなげたり,社会資源を紹介する〕ことを行っていた.

G氏:「(授乳後も児が泣き止まなかったら)ミルク足りないのかなと思って,普通は足そうとするんでしょうけど,しないんですよね.だから,養育支援連絡票を書かせてもらって.(褥婦に)“困ってないの?”って聞いたら“初めてだからそんなものなのかなと思って.言われたミルクの量は飲ませていたから”って.普通この子に何かあったらどうしようって思うだろうに,それを無表情で“え?”って言っちゃうのが産褥期の何か(うつ)だったら嫌だなと思ったんです.」

Ⅳ. 考察

1. 40歳以上の初産婦に対する産褥期のケア

【長年かけて築いた生活が変わることを継続して意識づける】というケアにおいて,助産師は,40歳以上の初産婦には豊富な人生経験や長年続けてきた生活があることに着目していた.高年初産婦は,すでに確立されたライフスタイルが変化することに戸惑いを感じ(Yang et al., 2007),また,不妊治療後の初産婦は,出産後の生活について漠然としたイメージしかない(横井,2015)ことが明らかになっている.本研究でも助産師はこのような40歳以上の初産婦の特徴を見出しケアを行っていた.また,助産師は,40歳以上の初産婦がこれまでの生活と子どものいる生活とのギャップを大きく感じる可能性があることを語っていた.原口ら(2005)は,理想と現実の間にギャップを感じるほど,育児不安に陥りやすいことを報告している.子ども中心の生活に順応できなければ育児にギャップを感じ,さらには育児不安につながっていくことを助産師は懸念していたと推察する.そのため助産師は,40歳以上の初産婦の今までの生活や,子どもが生まれたあとの子育てや生活についてどのような考えを持っているのかを丁寧に聞き取ることによって,その人の人生経験や価値観を把握していたのだと考える.このケアは,40歳以上の初産婦が新しい生活に順応し,理想と現実のギャップが最小限になるように助産師が行っているケアであると考える.

【褥婦の体力やペースに合わせ,育児を継続できるようにかかわる】というケアにおいて,助産師は,40歳以上では若いときと異なり体力が落ちていることに着目していた.一般的に,40歳以降から顕著に体力が低下し,回復に時間を要するといわれており(丸山,1998),40歳以上の初産婦は睡眠や休息を確保できる授乳方法を求めていることが明らかになっている(畠山ら,2016).本研究でも助産師は,このような40歳以上の初産婦の特徴を見出しケアを行っていたといえる.助産師は,40歳以上の初産婦が育児を続けていくためには,退院後に自分自身でできる育児方法を選択すること,疲労を蓄積させないことが大切だと考えていた.そのため助産師は,子どもが成長するまで育児が続くことを見据え,褥婦が育児を続けることができるよう,褥婦のペースを調整していたのだと推察する.このケアは,体力の回復に時間を要する40歳以上の初産婦の特徴を理解し,子どもが成長する先の未来まで見据えて助産師が行っているケアであると考える.

【褥婦が育児方法を納得でき,自らSOSを出せるようにかかわる】というケアにおいて,助産師は,40歳以上の初産婦には豊富な人生経験やキャリアがあることに着目していた.一般的に,年齢を重ねると思考の習癖やパターンは固定化していく(Knowles, 1980/2002)といわれている.女性は職業を持ち高学歴であることによって,社会的な面での自己評価が高くなり(永久,2008),年齢が上がるごとに,自分は柔軟に適応できるという心理が高くなる(西田,2000).つまり,本研究で助産師は,年齢を重ねた成人の思考の特徴を理解し,40歳以上の初産婦は自ら他者に支援を求めづらいという特徴を見出し,ケアを行っていたといえる.このケアによって,40歳以上の初産婦が疲労で辛いときやうまく授乳ができないときに,自分自身の状況を受け入れ,納得したうえで助産師の支援を求めやすくなることにつながると考える.このケアは,40歳以上の初産婦の固定的な思考にアプローチして,初産婦自身が自らの状況を受け入れ,納得して他者の支援を受けられるように,助産師のきめ細やかな工夫が施されたケアであると考える.

【他者の判断を優先して生きてきた褥婦が,自分の判断で育児できるようにかかわる】というケアにおいて,助産師は,自立している初産婦ばかりではなく,実母や夫の判断を優先する初産婦もいることを認識し,親子関係や夫婦関係に着目していた.助産師は,他者の判断を優先して生きてきた40歳以上の初産婦の場合は,選択肢を提示するのではなくある程度の方向性を示すこと,さらに,退院後に褥婦自身が判断できるようなかかわりが必要であることを語っていた.つまり,助産師は,40歳以上の初産婦は自分で判断できるという先入観をもたず,他者の判断を優先して生きてきた初産婦もいることに留意し,ケアを選択しているといえる.試行錯誤しながら自分で解決法を見つけ効果を実感することが育児の自信につながる(小林,2006)ように,このケアは,他者の判断を優先して生きてきた40歳以上の初産婦であっても自分で解決法を探し出し,自分の判断に自信を持てるようなケアであると考える.

【サポートを得にくい褥婦が一人で頑張らないような支援体制を作る】というケアにおいて,助産師は,40歳以上の初産婦の親が高齢であることに着目していた.高年初産婦は同世代で出産した仲間を見つけることが困難な場合もあり(Yang et al., 2007),親が高齢で自分が求めるサポートを得られない(畠山ら,2015)ことが明らかになっている.本研究で助産師は,このような40歳以上の初産婦の特徴を見出し,ケアを行っていたといえる.助産師は,40歳以上の初産婦が子どもの状況に合わせた対応ができない場合は子どもに危険が及ぶ可能性があること,身近なサポート人員の不足やパーソナリティによって一人で育児を抱えてしまう場合はうつになる可能性を懸念していた.他者に支援を求めない傾向がある褥婦は産後1か月でうつ傾向を呈した(藤野,2012)という報告もあるように,助産師はうつになりやすい人の傾向を見出していたと推察する.そのため助産師は,40歳以上の初産婦が母子ともに安全に育児ができるよう,サポートが可能な家族や病院のフォロー体制をはじめとして地域と連携を図っていたのだと考える.このケアは,サポート人員が不足するだけではなく,他者に支援を求めにくい,または他者の判断を優先するという40歳以上の初産婦の特徴を反映した,母子ともに安全に育児が継続できるようなケアであると考える.

以上より,助産師は,40歳以上の初産婦の生き方や特性を見極め,深い対象理解に基づいたケアを行っていることが明らかになった.助産師は,豊富な人生経験や価値観を尊重する一方で,褥婦の体力回復と,新しい環境への順応に時間を要することも特徴として捉え,両者のバランスを見極めていた.さらに,助産師は,子どもが成長するまで長く育児を続けられるよう先を見据え,様々な配慮をしていた.これは,20歳代や30歳代の初産婦よりも豊富な人生経験をもち,加齢による変化が顕著にあらわれる40歳以上という年齢から育児を始める初産婦に対して,一層着目するべき具体的なケアであり,40歳以上の初産婦に対してケアを行う際の一助となると考える.

2. 研究の限界と今後の課題

本研究結果は,40歳以上の初産婦の特徴を表していると考えられる事例や出来事から導かれたものであるため,40歳未満の初産婦に対する産褥期のケアとの比較はできていない.また,本研究結果以外のケアが実践されている可能性もあり,40歳以上の初産婦に特徴的なケアを言及するには限界がある.今後は,研究協力者の人数を増やし同様の調査を行うことや,40歳未満の初産婦に対するケアとの比較調査から,40歳以上の初産婦に特徴的なケアを明らかにすることが必要である.

Ⅴ. 結論

助産師は,産褥期の40歳以上の初産婦に対して,【長年かけて築いた生活が変わることを継続して意識づける】,【褥婦の体力やペースに合わせ,育児を継続できるようにかかわる】,【褥婦が育児方法を納得でき,自らSOSを出せるようにかかわる】,【他者の判断を優先して生きてきた褥婦が,自分の判断で育児できるようにかかわる】,【サポートを得にくい褥婦が一人で頑張らないような支援体制を作る】という5つのケアを行なっていることが明らかになった.助産師は,40歳以上の初産婦の人生経験や価値観を尊重し,深い対象理解に基づいたケアを実践していた.

付記:本論文は,札幌医科大学大学院保健医療学研究科博士課程前期における修士論文に加筆修正したものである.また,本論文の内容の一部は,第39回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:日々母子のために奔走し,大変お忙しいなか,研究協力にご快諾くださった助産師の皆様,および,ご協力くださった施設の看護責任者の皆様に,心より感謝申し上げます.本研究の遂行にあたり,ご指導・ご助言を賜りました先生方,支えてくださったすべての皆様に,深謝申し上げます.本研究は,札幌医科大学学術振興事業の助成を受けて行なった.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:HUは研究の着想,デザイン,データ収集,分析,論文執筆のすべてのプロセスを行った.KMは原稿への示唆,および全研究プロセスにおいて助言を行った.YHは原稿への示唆,および分析において助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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