日本看護科学会誌
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原著
在宅で妻を介護した夫の看取りの特徴と訪問看護師の支援
大西 奈保子小山 千加代田中 樹
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2020 年 40 巻 p. 113-122

詳細
Abstract

目的:本研究の目的は,死別前から死別後を含めて,在宅で妻を介護した夫の看取りの特徴と訪問看護師の支援について明らかにすることである.

方法:在宅で妻を介護した夫を妻の生前からケアした経験のある訪問看護師9名にインタビューを行い,その内容をグラウンデッド・セオリー・アプローチを参考に分析を行った.

結果:その結果,在宅で妻を介護した夫の看取りの特徴は,【夫婦のありよう】【非日常的生活の継続】【つながりの薄さ】【抑え込まれた悲しみ】の4カテゴリ,夫への訪問看護師の支援は,【非日常的生活の中での看取りを支える】【抑え込まれた悲しみからの回復を促す】の2カテゴリで構成された.

結論:特に妻との死別後,夫が悲嘆から回復し,生活再建に取り組むようになるためには長い夫婦生活の中で育まれた【夫婦のありよう】が重要と考えられ,訪問看護師は看取りの時期に【夫婦のありよう】に添いながら,夫婦が望む看取りのあり方を実現できるように支援していくことが必要と示唆された.

Translated Abstract

Purpose: Characteristics of end-of-life care provided at home by husbands to their wives and support provided by visiting nurses before and after the wives’ death were investigated.

Method: Interviews were conducted with visiting nurses (N = 9) that had experience of supporting such husbands since the time when the wives were alive. The content of the interviews was analyzed using the Grounded Theory Approach.

Results: The results indicated that characteristics of end-of-life care provided by husbands composed of the following categories: “condition of marital life,” “continuing the unusual life,” “thinness of the connection,” and “grief suppressed.” Support provided by visiting nurses to husbands consisted of two categories; “supporting end-of-life care during the unusual life” and “facilitating recovery from grief suppressed.”

Conclusion: Notably, the long-term conditions of marital life were considered important for husbands’ recovery from grief and rebuilding their life. It is suggested that visiting nurses should provide support in the period of end-of-life care so that the couples can realize desirable methods of end-of-life care according to the condition of their marital life.

Ⅰ. 緒言

2015年の国勢調査(総務省統計局,2015)によると,わが国の15歳以上の「有配偶者」は,男性61.3%,女性56%である.また,配偶者との「死別」は,男性3.2%,女性14.4%であり,その割合は男女ともに年齢が上がるほど上昇し,男性の75歳以上は約20%,女性は60%を超える.平均寿命も男性81.09年,女性87.26年(2017年)であり,配偶者との「死別」は,壮年期の人よりも高齢者に,そして高齢男性よりも高齢女性のほうにその割合が高いと言える.さらに,世帯人員数は,1人世帯と2人世帯が年々増加しており(総務省統計局,2015),2040年の世帯主65歳以上の独居率と夫婦のみの世帯率の合計は,2015年の65.3%から70.6%へ上昇すると推計されている(国立社会保障・人口問題研究所,2018).

このように日本では,配偶者との死別は男性より女性,また,高齢になるにしたがって配偶者と死別する割合が高くなることから,女性,および高齢者のほうに支援の視点がおかれてきた(白川,2015)と指摘されている.しかし,配偶者との死別は,年齢・性別を問わず,人生においてはストレスフルな出来事(Stajduhar et al., 2010Stroebe et al., 2007)であり,悲嘆からの回復には個人差とともに性差も関係している(人見ら,2000Fletcher et al., 2012)ことが報告されている.

また,日本社会においては伝統的に介護を妻や娘,嫁に頼るのが一般的であった(山本,2001)が,家族形態の変化や女性の社会進出などによって,今日では男性が介護の主役になることも多く,加えて夫婦のみ世帯の増加は,高齢の妻が夫を介護するのみならず,高齢の夫が妻を介護し看取るケースの増加にもつながると推測される.しかし,現在でも介護を理由とした退職は女性が80%を占めている(内閣府,2016)ことからも,介護の担い手は女性が多く,日本の介護者に関する研究も介護負担など介護する女性に焦点が当てられてきた.妻を介護する夫に関する研究では,高齢の夫が介護し続けられる要因として,家事ができる自信や介護を新たな勤めとして受け入れる(木村ら,2012)こと,妻に対する償いや妻との絆(高橋ら,2006長澤ら,2017)など介護中を対象としたものが多く,これらの研究は介護の先にある死別および死別後を視野に入れたものではない.また,壮年期の夫の場合は,妻を失う苦悩に加えて,築きあげてきた家庭を失う苦悩や子どものいる家庭生活を一人で維持する困難さがある(近藤・佐藤,2007)と指摘されているが,高齢者の場合に比べて壮年期の場合はさらに研究蓄積が少なく(白川,2015),今後は,看取りも視野に入れた男性介護者に関する研究の蓄積が必要になってくると考える.

一方,死別後の悲嘆に関する研究では,成人した子どもよりも配偶者の方が遺される者としての悲嘆が強く,立ち直りに時間を要し(坂口,1998),さらに配偶者と死別した男性は女性よりも悲嘆からの回復が遅れる(人見ら,2000)と報告されている.悲嘆は人間の正常な反応ではあるが,死別後の悲嘆からの回復の遅れは,複雑な悲嘆に陥るリスクを高め,日常生活に何らかの支障をきたし,実生活の再建にも困難を生じる.しかし,死別前に夫婦で妻の死について話し合いが十分できた夫は,死別後に夫婦で同じ時間を過ごすことができたという思いをもつ(Hauksdottir et al., 2010)が,反対に死別前3か月の間に妻と終末期に関する話を十分にできなかった夫は罪悪感を引きずる可能性が高く(Stroebe et al., 2000),病気療養中に夫が妻を看取るための心の準備が不十分であると複雑な悲嘆に陥るリスクが高まる(Hauksdottir et al., 2010)と指摘されている.したがって,グリーフケアの視点からも死別前から援助している者へのかかわりが重要(工藤・古瀬,2018)であり,妻の介護中から死別に至るまでの夫への支援は欠かせない.そのため,実際に支援した訪問看護師からのインタビューにより,夫婦との相互関係を通して,妻を在宅で介護する夫の様子や夫婦関係および他者との関係,その中での夫の悲嘆の様子も含めて,訪問看護師が,どのように認識し,他の家族員とは異なった夫へのケアや配慮を行っているのかについて浮き彫りにできると考えた.これらのことから,妻の看取り期における夫へのケアのみならず,死別後の夫の生活再建やグリーフケアのための示唆につながると考える.

本研究は,死別前から死別後を含めて,自宅で妻を介護した夫の看取りの特徴と訪問看護師の支援について明らかにすることを目的とする.

Ⅱ. 研究方法

本研究は,自宅で妻を介護した夫の看取りの特徴と訪問看護師の支援について,夫婦との相互関係を通して得られた訪問看護師の認識から探るため,訪問看護師にインタビューを行い,グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Corbin & Strauss, 2008/2012)を参考に分析した.

1. 研究対象者

在宅で妻を看取り期に介護した夫を妻の生前からケアした経験のある訪問看護師

2. データ収集

1) データ収集期間

2018年8月~2018年11月

2) データ収集方法

都内にある6ヵ所の訪問看護ステーションの所長宛に,研究の趣旨の説明と研究対象者となる訪問看護師の紹介を依頼する文書を送付し,研究の対象となる条件に適した訪問看護師を紹介してもらった.紹介を受けた後,研究承諾の得られた訪問看護師に1時間程度のインタビューを依頼した.インタビューは対象者の都合に合わせ,訪問看護ステーション内の静かな個室を借りてプライバシーの保護ができるように配慮して行った.面接内容は,許可を得て録音した.質問内容は,自宅で妻を介護し看取った夫とその妻の訪問を担当した事例の中で,夫とのかかわりが深くより心に残っている事例や看取る夫とのかかわりが困難であった事例について,①看取りの時期および死別後の夫の様子,②在宅で妻を介護し看取った夫への支援を中心にインタビューを行った.インタビュー内容は,分析途中で引き出された概念をもとに問いを発展させ,次のインタビューの問いとなるようにデータ収集を行った.なお,インタビューでは,語り手の話の流れに沿いながら,その時,どう感じ,どう考え,どう判断したのかを常に対象者に質問するようにした.

3. データ分析方法

録音した面接内容は,すべて文章にしてデータとした.グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Corbin & Strauss, 2008/2012)を参考に継続的比較分析を行った.得られたデータを熟読しテーマに関連のある在宅で妻を介護した夫の看取りの特徴と支援に関係すると思われる事柄に注目し意味のまとまりごとに切片化しプロパティとディメンションを考慮しながらオープン・コード化にてカテゴリを抽出したのちに,軸足コーディングでカテゴリを関連付けて,最終的に選択的コーディングにてカテゴリ間の関連を明らかにし,ストリーラインを検討していった.

なお,分析は質的研究の経験のある研究者とともにスーパーバイズを受けながら進め,終末期看護,老年看護および在宅看護の3名の研究者とディスカッションをしながら解釈の整合性を高めた.

4. 倫理的配慮

本研究は帝京科学大学「人を対象とする研究」に関する倫理委員会(第18009号)の審査を受け承認を得た.対象者の権利を保護するために,研究への参加は自由意思であり,いつでも研究を辞退でき不利益を被らないこと,研究参加でもたらされる利益・不利益,個人情報の保護,研究結果の開示,研究成果の公表,データの保管などについて,文書と口頭にて説明を行い,承諾書を取得した.

Ⅲ. 結果

1. 研究対象者および語られた事例(夫婦)の概要

研究を依頼した訪問看護ステーションは6ヵ所で,6ヵ所すべての訪問看護ステーションから承諾を得て,訪問看護師の紹介をしてもらった.インタビューを行った訪問看護師は9名,うち男性2名,女性7名,年齢は27歳から51歳(平均:41歳),看護師経験年数は5年から30年(平均17.9年),うち訪問看護師の経験年数は7ヶ月から13年(平均6.6年)であった.インタビュー時間は40分から77分(平均60分)であった.

主に対象者が語った事例で,夫が介護した妻の疾患はがん5名,非がん4名であり,夫婦ともに30歳代から70歳代であった.9組の夫婦のうち扶養義務のある幼い子どもがいる夫婦は2組であり,それ以外の夫婦は1組を除き夫婦のみの世帯であった.すべて自宅で妻を介護したが,最終的な看取りが自宅であった事例は4事例,病院(緩和ケア病棟を含む)が5事例であった.加えて,訪問看護師から語られた夫の事例は,看取り前後から長い人で看取り後1年の夫の様子であり,悲嘆からの回復が遅いまたは共依存関係の夫婦など,介護中からすでに問題を抱え,死別後の生活再建に支障をきたしている夫の事例など多岐にわたっていた.

2. 在宅で妻を介護した夫の看取りの特徴と訪問看護師の支援

在宅で妻を介護した夫の看取りの特徴は,【夫婦のありよう】【非日常的生活の継続】【つながりの薄さ】【抑え込まれた悲しみ】の4カテゴリで構成された(表1).一方,在宅で妻を看取り期に介護した夫への訪問看護師の支援は,【非日常的生活の中での看取りを支える】【抑え込まれた悲しみからの回復を促す】の2カテゴリから構成された(表2).

表1  在宅で妻を介護した夫の看取りの特徴
カテゴリ サブカテゴリ コード
夫婦のありよう 安定した関係 夫婦間のコミュニケーションはできていた
バランスのとれた夫婦
優しい夫
依存関係 夫へ依存する妻
共依存関係の夫婦
弱りゆく妻の姿への苦悩 妻のそばにいられない
妻を看取る準備ができない
夫からの身体介護 夫の身体介護を望まない妻
夫の介護に抵抗がない妻
非日常的生活の継続 看取る覚悟 妻への恩返し
余命が短いと言われたことによる覚悟
妻の希望
夫の希望
家事の担い手 家事ができる
子どもの面倒がみられる
介護の限界 医療処置
身体的負担
妻の病状
介護から離れられる時間
支えてくれる人の存在
つながりの薄さ 夫婦以外のつながり 仕事関係
近所付き合い
離れて暮らす子ども・親戚関係
訪問看護師と介護士
夫婦以外につながりがない
他者との関係性の難しさ 他の家族・親戚関係が難しい
他人が家に入ってくることを嫌がる
夫は特定の人には心を許す
子どもと夫の関係の変化
抑え込まれた悲しみ 後悔 家で看取ることができなかった
最期,立ち会えなかった
子どもに対する申し訳なさ
頑張ったことを認められない
妻のいない寂寥 寂しくって家にいられない
妻の話ができない
引きこもり
感情表出が困難 死別後の感情表出
感情表出ができない・しない
表2  在宅で妻を介護した夫への訪問看護師の支援
カテゴリ サブカテゴリ コード
非日常的生活の中での看取りを支える 信頼関係をつくる 丁寧なケア
弱音がはける関係づくり
依存的な夫へのかかわり方
男性看護師の場合の妻への配慮
妻との信頼関係が先
橋渡し的役割 サービスをうまく入れる
夫をケアに巻き込む
夫の思いの代弁
妻の思いを夫に伝える
看取り後の夫の行き先を気にかけた働きかけ
患者と家族間の意見の調整
受け止め方の確認 夫の受け止め方の確認
夫の意思確認
身体的・心理的負担の軽減 サービス・訪問回数の検討
夫の睡眠への配慮
一息付くことのできる心身の休息の時間と場所の確保
看取りたいという思いを支える 看取りの場所ではなく看取りたいという思いを重視する
看取りたいという初期の思いに添う
在宅での看取りのメリット・デメリットを整理して伝える
いざというときの逃げ道(場所)をつくる
在宅介護継続の限界を見通す 家での看取りが難しい家族であるという判断
夫は妻の身体的変化を受け入れ難いということを認識してかかわる
病状の進行が早いと後悔が残りやすいという認識をもってかかわる
抑え込まれた悲しみからの回復を促す 死別のために心の準備を促す 夫に死が近いことを実感してもらう
看取りのイメージ(身体的変化)をもってもらう
終わりが近いことを知らせる
看取る方法を提案する
できていることをほめる
妻に尽くしたことを労う 妻のためにやることができたという思いをもってもらう
大切な時を家で過ごせたことを言う
いい看取りだったとあえて言葉にする
妻が喜んでいたことを伝える
感情表出を促す 夫に話をしてもらい気持ちが楽になるようにする
安心できる相手を探る
独りになることを少なくする 外へ出るように促す(友人にあう,仕事をする)
遺族会・患者会へ誘う
看取り後もつながりを保つ

1) ストーリー:在宅で妻を介護した夫の看取りの特徴とその支援

夫による在宅ケアは,どちらを欠いても成り立たない,もしくは二人がそろって初めて夫婦という,切り離すことのできない【夫婦のありよう】が基盤にあり,看取られる妻,家事や介護をこなしながら看取る夫という平時とは異なる生活の継続,つまり【非日常的生活の継続】を担う力を持ち合わせていることで成り立っている.介護の継続においては夫にとって夫婦二人だけの世界が展開され,他者との【つながりの薄さ】によって,つながりがあまり力を為さず,支えになるだけの影響力がない.また,死別後には介護に頑張ってきたのに出来なかった後悔が強く,寂寥が募っても【抑え込まれた悲しみ】のために感情を出せない.

そのため訪問看護師は,それぞれの【夫婦のありよう】に添いながら妻を看取り期に介護するという【非日常的生活の継続】ができるように【非日常的生活の中での看取りを支える】支援を行うとともに,【抑え込まれた悲しみ】を緩和する支援として夫の【つながりの薄さ】に注目し,他者とのつながりの中で妻のいない現実に適応できるように【抑え込まれた悲しみからの回復を促す】ための支援をしていた.すなわち,在宅で妻を看取り期に介護する夫への訪問看護師の支援の過程は,妻の介護中においては【非日常的生活の中での看取りを支える】支援に主軸をおいて夫を支え,看取りが近づくにつれて【抑え込まれた悲しみからの回復を促す】支援を始め,看取り後には【抑え込まれた悲しみからの回復を促す】支援を主軸として展開していく過程を辿る.

2) カテゴリ:夫の看取りの特徴と訪問看護師の支援

カテゴリは【 】,サブカテゴリは《 》,コードは〈 〉で記す.

(1) 夫の看取りの特徴

【夫婦のありよう】

看取りの時期にある妻を在宅で介護している夫と夫に介護されている妻の日々の暮らしのなかでの夫婦としての相互関係のパターンである.

在宅で妻を介護した夫とその妻との関係は,〈夫婦間のコミュニケーションはできていた〉,〈バランスのとれた夫婦〉,〈優しい夫〉という《安定した関係》が見られる一方,〈夫へ依存する妻〉,〈共依存関係の夫婦〉という《依存関係》,〈妻のそばにいられない〉,〈妻を看取る準備ができない〉という《弱りゆく妻の姿への苦悩》を抱える夫が見られる反面,《夫からの身体介護》は,〈夫の身体介護を望まない妻〉と〈夫の介護に抵抗がない妻〉という個々の夫婦それぞれに異なる【夫婦のありよう】があって,それを基盤として在宅介護が成り立っている.

【非日常的生活の継続】

平時とは異なる生活を余儀なくされる看取りの時期という非日常を日常として,妻の病状を気遣いながらの家事の担い手でもある夫による妻の在宅介護から看取りまでの生活の継続を意味する.

在宅での介護は,〈妻の希望〉〈夫の希望〉に加えて,夫の〈妻への恩返し〉の気持ちや〈余命が短いと言われたことによる覚悟〉という《看取る覚悟》があるとともに,夫は〈家事ができる〉〈子どもの面倒がみられる〉という《家事の担い手》としての役割ができて初めて,妻を介護するという【非日常的生活の継続】が叶う.一方,〈医療処置〉〈妻の病状〉および夫の〈身体的負担〉の程度と〈介護から離れられる時間〉に加えて〈支えてくれる人の存在〉の有無によっては《介護の限界》となり,妻を介護するという【非日常的生活の継続】が困難になる場合もある.

【つながりの薄さ】

妻の介護から看取り,死別後を通じて,夫が誰とつながり,どのような関係を築いているのかを意味し,つながりを求めないことも含まれる.

在宅で妻を看取り期に介護した夫の介護中および死別後の《夫婦以外のつながり》は,〈訪問看護師と介護士〉をはじめとして,〈仕事関係〉〈近所付き合い〉〈離れて暮らす子ども・親戚関係〉というつながりがある一方で,〈夫婦以外につながりがない〉夫もいる.加えて,夫は《他者との関係性の難しさ》を抱えており,訪問看護師の訪問であっても〈他人が家に入ってくることを嫌がる〉場合もある.〈他の家族・親戚関係が難しい〉ことも少なくないが,訪問看護師との関係の深まりのなかで〈夫は特定の人には心を許す〉ようにもなる.子育て中の場合は,子どもとともに妻を介護するという経験によって夫と子どもとの間に一体感が生まれ〈子どもと夫の関係の変化〉が生じることもある.

【抑え込まれた悲しみ】

近い未来に妻と死別する,または死別した夫の喪失の悲しみとして,日常生活の中で観察される感情の表現と行動の特徴である.

妻と死別した夫は,妻を介護したにもかかわらず,最終的には〈家で看取ることができなかった〉〈最期,立ち会えなかった〉〈子どもに対する申し訳なさ〉〈頑張ったことを認められない〉という《後悔》の念に苛まれる.また,〈寂しくって家にいられない〉寂寥感におそわれる一方,〈妻の話ができない〉で,家に〈引きこもり〉がちになるといった《妻のいない寂寥》感が募る.さらに,夫は妻の死別前から〈感情表出ができない・しない〉という自己の感情を抑え込んでおり,それは妻との死別後に感情のコントロール調整がうまくいかないといった〈死別後の感情表出〉の問題にもつながっていくことになる.

(2) 夫への支援

【非日常的生活の中での看取りを支える】

在宅での妻の介護と看取りをするためにも,夫婦または家族の1日1日の暮らしが維持,継続されることを優先する訪問看護師の支援内容である.

まずは,《信頼関係をつくる》ために,訪問看護師は〈丁寧なケア〉〈弱音がはける関係づくり〉を大切にする.そして〈依存的な夫へのかかわり方〉や〈男性看護師の場合の妻への配慮〉を考えながら,関係の構築においては夫よりも〈妻との信頼関係が先〉の場合もある.同時に,他のスタッフとともに夫の状況にあわせながら〈サービスをうまく入れる〉調整を行い,可能な範囲において〈夫をケアに巻き込む〉ことを考える.また,〈夫の思いの代弁〉とともに〈妻の思いを夫に伝える〉こともする.妻の死後においては〈看取り後の夫の行き先を気にかけた働きかけ〉〈患者と家族間の意見の調整〉という夫婦間のみならず家族間の《橋渡し的役割》を担うことにもなる.

一方,在宅で看取るためには,〈夫の受け止め方の確認〉〈夫の意思確認〉という《受け止め方の確認》を欠いてはならないし,〈サービス・訪問回数の検討〉や〈夫の睡眠への配慮〉,〈一息付くことのできる心身の休息の時間と場所の確保〉は,夫婦にとっての《身体的・心理的負担の軽減》と,夫の《看取りたいという思いを支える》ことにつながる.なお,《看取りたいという思いを支える》支援には,〈看取りの場所ではなく看取りたいという思いを重視する〉ことが大切で,〈看取りたいという初期の思いに添う〉ことをしながら〈在宅での看取りのメリット・デメリットを整理して伝える〉一方,〈いざというときの逃げ道(場所)をつくる〉ことが重要になる.反面,看取りに対して恐怖が強い家族は,〈家での看取りが難しい家族であるという判断〉がされる.加えて看護師は〈夫は妻の身体的変化を受け入れ難いということを認識してかかわる〉ことが必要であり,病状の展開が早いと妻の死を受け止めるだけの時間的猶予がないため〈病状の進行が早いと後悔が残りやすいという認識をもってかかわる〉という《在宅介護継続の限界を見通す》ことも求められる.

【抑え込まれた悲しみからの回復を促す】

主に妻との死別後の夫の生活再建や日常生活の継続を支えるために,悲しみの感情を表出しない夫の悲しみからの回復を促す訪問看護師の支援である.

自宅での看取りには,〈夫に死が近いことを実感してもらう〉ために〈看取りのイメージ(身体的変化)をもってもらう〉〈終わりが近いことを知らせる〉〈看取る方法を提案する〉〈できていることをほめる〉ことが《死別のために心の準備を促す》支援となる.また,〈妻のためにやることができたという思いをもってもらう〉,〈大切な時を家で過ごせたことを言う〉,〈いい看取りだったとあえて言葉にする〉,〈妻が喜んでいたことを伝える〉という《妻に尽くしたことを労う》ことも悲嘆からの回復を促す.

悲嘆の中にある夫に対して,〈夫に話をしてもらい気持ちが楽になるようにする〉ために〈安心できる相手を探る〉ことは,《感情表出を促す》支援となる.同時に〈外へ出るように促す(友人にあう,仕事をする)〉,〈遺族会・患者会へ誘う〉,〈看取り後もつながりを保つ〉という《独りになることを少なくする》ことも悲嘆からの回復への支援として重要である.

Ⅳ. 考察

本研究では,在宅で妻を介護した夫の看取りの特徴は,【夫婦のありよう】を基盤として,妻を介護するという夫にとっての【非日常的生活の継続】が可能となるように,訪問看護師が,この【夫婦のありよう】に添って【非日常的な生活の中での看取りを支える】ケアを展開していたことである.また,夫の悲嘆は【抑え込まれた悲しみ】であり,訪問看護師が,夫の【つながりの薄さ】を考慮して,【抑え込まれた悲しみからの回復を促す】援助を行っていたことである.これら,【夫婦のありよう】と妻を介護した夫の悲嘆の特徴,およびそれらの特徴を捉えた訪問看護師の支援は,本研究の新規性であるとともに,夫をケアするうえで有用であると考える.

このため,本稿では,まず,夫への支援を考えるうえで基盤となる【夫婦のありよう】について,次に妻を介護した夫の悲嘆の特徴と【抑え込まれた悲しみ】への支援について考察する.

1. 【夫婦のありよう】について

長澤ら(2017)によると,在宅で妻を介護する夫を支えるものは,“共に生きてきた妻との絆”や“妻へわびる思い”であったと報告している.この“共に生きてきた妻との絆”という捉え方は,人生の苦楽の1日1日を共にしてきて深められた絆であり,それは夫婦の一方のみが遺される悲しみの中での【夫婦のありよう】とも重なる部分があると思われる.つまり,本研究における【夫婦のありよう】には,夫婦間でコミュニケーションがとれて優しい夫という《安定した関係》もあれば,互いを頼りとして人生をともにしたがゆえに相手に委ねたい思いが強く表れていると推察される《依存関係》の夫婦,また,《弱りゆく妻の姿への苦悩》を抱えて妻のそばにいられない夫,一方,妻の変わりゆく姿に戸惑う夫,自分の変わり果てた姿を夫に見られたくない妻という【夫婦のありよう】が見られる.また,30代,40代の子育て中の壮年期の夫の場合は,子どものいる家庭を一人で維持する困難さ(近藤・佐藤,2007)が加わり,慣れない家事と育児と仕事を両立させながら妻を介護し看取るという日々の中で,老年期の夫と同様に,介護の支えになるだけのつながりを求めない【夫婦のありよう】もあり,このような【夫婦のありよう】そのものが夫婦の絆もしくは結びつきの形ではないかと思われる.

そもそも夫と妻とはどちらを欠いても成り立たない関係であり,Fletcher et al.(2012)が述べるように「介護も看取りも夫婦にとっての経験」であるといえる.訪問看護師がこのような個々の夫婦それぞれの【夫婦のありよう】を重視して,それを見極めながら両者が看護師に対して弱音をはけるような関係づくりを心掛けたり,夫婦の個々の思いが互いに通じ合うように橋渡しをしたのは,看取る夫と看取られる妻という関係にあっても,夫による在宅での看取りには,やはり夫婦で築いてきた関係と生活が基盤にあるからであり,在宅で妻を看取る夫の支援には,まずは【夫婦のありよう】を見極めて夫婦に添いながら支援することが大切であると考える.

また,終末期がん患者の在宅療養において家族は患者との関係性の側面と在宅医療・サービスの側面に困難を感じている(石井ら,2011)と指摘されており,在宅での看取りは家族の負担を軽くすることが重要と考えられ,本研究においても夫の負担を少なくするように夫婦にとっての【非日常的生活の中での看取りを支える】支援が行われ,その基本には【夫婦のありよう】を見極めて,そのありように添った支援が展開されていたと考える.

従来より,妻の介護を在宅で継続することの要因(木村ら,2012)や,妻を看取る夫を支える要因(長澤ら,2017)を明らかにした研究があるが,いずれも夫の側にのみ焦点が絞られた報告である.本研究ではそれぞれの夫婦の関係を映し出す【夫婦のありよう】を基盤として訪問看護師の支援が展開されていることを明らかにできたといえる.病気の経験は個人の経験というより夫婦にとっての経験(Fletcher et al., 2012)として捉えて援助する,すなわち,在宅で妻を看取り期に介護する夫にとっては【夫婦のありよう】を捉えて支援することが重要であり,そこに本研究の新規性・有用性があると考える.

2. 妻を介護した夫の悲嘆の特徴と【抑え込まれた悲しみ】への支援

在宅で妻を介護した夫の悲嘆の特徴として,死別前より自己の感情を抑えている夫が多く,それは死別後の感情表出の問題にもつながっていた.これは,女性に比べて男性は,死別後相談に乗ってくれる情緒的支援が少ない(人見ら,2000)ために,感情表出する機会が少なく,悲嘆からの回復が遅れる原因になるといえる.そのため,訪問看護師が看取りの前から【抑え込まれた悲しみからの回復を促す】支援を行っていたのは,夫の【抑え込まれた悲しみ】が妻との死別後に複雑な悲嘆に陥り生活再建に支障が出ると予測されたからであろうと考える.

特に看取りの時期においては,妻を看取る心の準備が十分でない場合は複雑な悲嘆に陥るリスクが高まる(Hauksdottir et al., 2010)と言われており,訪問看護師が夫の《看取りたいという思いを支える》ことや《死別のための心の準備を促す》ことは,後悔の少ない看取りのために大切な支援であるといえる.そして,在宅での看取りには“看取る覚悟”が必要(大西,2015)と言われているが,“看取る覚悟”を持って在宅介護を始めても,本研究では《依存関係》の強弱や《弱りゆく妻の姿への苦悩》を抱えることの困難さの程度によっては,夫による在宅介護を断念せざるを得ない場合もあると考えられた.そのため,【夫婦のありよう】を見極めて,看取り後の夫の生活再建を見据えながら,夫婦にとって後悔の少ない看取りになるように,このまま自宅で看取るのか,それとも病院などの施設での看取りに切り替えるのかを判断をしていくことが必要であると考える.

また,家族が在宅で患者を看取るには周囲の人々の協力が欠かせない(大西,2015)が,本研究で明らかになったことは,夫は妻の介護中から【つながりが薄い】という特徴があり,訪問看護師は他者とつながることが夫の【抑え込まれた悲しみ】を表出する援助になると考えて,看取りの時期より【抑え込まれた悲しみからの回復を促す】支援に徐々に切り替えていたことである.つまり,死別後に他者とかかわることによって,社会からの孤立を予防し,【抑え込まれた悲しみ】を表出する機会になると考えて他者とのつながりを気にかけたかかわりをしていたといえる.

以上のことから,妻を看取り期に介護した夫は,「自己の感情を抑えている,または,表現することが苦手」,「看取りの覚悟をもっていたとしても,夫婦のありようによっては在宅介護を断念せざるを得ない」,「つながりが薄い」という特徴があり,これらは夫の悲嘆の特徴でもあり,妻が夫を介護した場合との違いであると考える.そのため社会とのつながりがうすい夫の場合には,妻を失ったあとの生活再建に課題を残し,複雑な悲嘆に陥る危険性がある(Hauksdottir et al., 2010人見ら,2000)と指摘されており,そのようなことを回避するためにも夫に対する中長期的な死別後の【抑え込まれた悲しみからの回復を促す】支援の継続が求められていると考察される.しかし,現在のところ,我が国のグリーフケアは制度として位置づけられておらず,財政的な支援がないことや訪問看護師自身にグリーフケアのノウハウがないなどの課題(工藤・古瀬,2016)も挙げられている.今後は,単に訪問看護師によるボランタリーな活動で支えるということではなく,遺族への悲嘆への継続的支援を制度・政策の中に組み込むことや,近所との関係づくり,地域社会とのつながりの中で,社会全体としてグリーフケアを考えていく必要があると考える.

3. 研究の限界と展望

本研究は,妻の看取り時期の夫婦のありようや看取り前後の夫の悲嘆という複雑な事象の一端を明らかにしたものの,死別後の夫の生活再建や悲嘆を含めた全体像を明らかにするまでには至らなかった.また,分析結果は訪問看護師からみた夫婦のありようや夫の悲嘆の様子であることも本研究の限界である.今後は,妻を看取り期に介護した夫を対象として,夫の立場から妻の介護と看取り,そして看取り後の悲嘆と支援について明らかにしていきたい.

Ⅴ. 結論

本研究は,在宅で妻を介護した夫の看取りの特徴と訪問看護師の支援について,妻の存命中から夫婦をケアした経験をもつ訪問看護師へのインタビューから明らかにした.その結果,【夫婦のありよう】が在宅ケアの基盤にあり,加えて,妻を介護するという【非日常的生活の継続】を受け入れ遂行する力が夫に備わっていることによって在宅介護が成り立っていると考えられた.訪問看護師は【夫婦のありよう】に添いながら【非日常的生活の中での看取りを支える】支援を行い,看取りが近づくにつれて【抑え込まれた悲しみからの回復を促す】支援に比重を移していた.また,夫は他者との【つながりの薄さ】を抱えており,介護中は他者とのつながりは夫にとってあまり意味を成さないが,【抑え込まれた悲しみ】からの回復には欠いてはならず,訪問看護師は夫の【つながりの薄さ】を考慮して,主として【抑え込まれた悲しみからの回復を促す】支援を行っていた.死別後に夫が悲嘆から回復し日常生活の再建に取り組むためには,看取り前の【夫婦のありよう】に添いながら夫婦が望む看取りのあり方を支援していくことが大切であり,その際,夫の悲嘆の特徴を踏まえて,看取り前から看取り後にかけての中長期的なかかわりが,グリーフケアという点からも必要であると考える.

付記:本研究は,第24回日本老年看護学会学術集会にて発表し,これに一部加筆修正を加えたものである.

謝辞:本研究を行うにあたり調査にご協力いただきました訪問看護師,および訪問看護ステーションの責任者の方々に感謝申し上げます.本研究は,平成30年度JSPS科研費18K10589(代表者 大西奈保子)の助成を受けて実施しました.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:TKは研究の分析,解釈,研究プロセス全体への助言に貢献;ITは草稿の作成に貢献;NOは研究の着想,デザイン,またはデータの入手,分析,解釈,草稿の作成,すべてにおいて貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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