日本看護科学会誌
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
原著
産褥早期の母親への背部アロマトリートメントによるリラックス感と疲労感の改善効果
竹本 奈央浦中 桂一朝澤 恭子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2020 年 40 巻 p. 160-167

詳細
Abstract

目的:産褥早期の褥婦に対して背部へのアロマトリートメント介入をし,リラックス感および疲労感の変化を明らかにする.

方法:分娩後1から7日目の褥婦30名に対して15分間のアロマトリートメント介入をした.比較群をおかない一群事前事後テストデザインの準実験研究であり,属性,リラックス感,疲労感,プロセス評価の回答を求めた.介入前後の比較はWilcoxon符号付き順位検定を行い,質的データは内容分析を行った.

結果:有効回答は30部(96.8%)であり,リラックス感は介入前より介入後が有意に高く(p = .000),疲労感は介入前より介入後の方が有意に低下した(p = .001).

結論:産褥早期の母親への背部のアロマトリートメントにより,介入後にリラックス感は有意に上昇し,疲労感は有意に低下した.産褥早期の母親のリラックス向上と疲労軽減に有用性があると示唆された.

Translated Abstract

Purpose: The aim of this study was to clarify the improvement effects of back treatment with aromatic oil on the relaxation and fatigue of early puerperal mothers.

Methods: A 15-minute back treatment was given to 30 mothers who were recuperating at the obstetrics clinic on days 1 to 7 after delivery. This was a quasi-experimental study using a pretest posttest design and involved comparisons of demographic data, degree of relaxation, fatigue level, and feedbacks such as satisfaction with the intervention. The Wilcoxon signed rank test was used to evaluate changes in the relaxation and fatigue levels before and after the intervention. Content analysis was performed using qualitative data.

Results: The number of valid responses was 30 (96.8%). The degree of relaxation was significantly higher after the intervention than before the intervention (p = .000). The fatigue level was significantly lower after the intervention than before the intervention (p = .001).

Conclusion: The back treatment using aromatic oil significantly increased the degree of relaxation and significantly decreased the fatigue level of early puerperium mothers. Back aroma treatment may therefore be a simple but effective intervention for improving the relaxation and fatigue levels of mothers during the puerperal period.

Ⅰ. 緒言

産褥早期の褥婦は不眠と疲労を強く感じており(吉田ら,2001),産後のストレスや疲労は抑うつ症状と関連している(Cheng & Pickler, 2014).マタニティーブルーズの発生率は15.0%(Takahashi & Tamakoshi, 2014),30.5%(佐藤ら,2003)であり,産後うつ病の発症は10.0%(Takahashi & Tamakoshi, 2014),8~11%(Misri & Swift, 2015)と報告されている.さらに,2017年の東京都の褥婦の自殺数は40例であり,その内60%が精神疾患を抱え,36%が産後うつ病であった(竹田,2017).筋肉疲労とリラックスは関連し(Jones et al., 2006),産後の母親の疲労改善にはリラクゼーションが有用である(Varcho et al., 2012).母親のマタニティーブルーズや産後うつ病の予防に対して,リラックス感向上と疲労改善の介入が必要である.

昨今では産後ケアサービスとして,エクササイズやリラックス方法の提供を50%以上の母親が強く希望している(小西ら,2018).妊娠・分娩・産褥,各期を通して補完/代替療法に注目が集まっており,アロマセラピー(以下,アロマ)を様々な形で行う施設が増加している.アロマが自律神経に与える影響として,LF値やHF値の上昇後にLH/HF値を低下させるため,副交感神経活動が増大する(Aoki & Adachi, 2006Duan et al., 2006).また,嗅覚刺激が気分状態を調節し,交感神経活動を一時的に低下させる可能性がある(Matsubara & Ohira, 2018).さらに,分娩直後の母親に対するアロマの芳香は,会陰部痛,疲労および苦痛が減少する(Vaziri et al., 2017).このように嗅覚刺激は自律神経に影響し,疲労改善に有用である.

アロマを用いたマッサージ等の先行研究において,全身ケアでは褥婦の疲労度と僧帽筋・腓腹筋の筋硬度が有意に低下する(石川ら,2017).ハンドケアではリラックス感が増加するが,疲労感改善は認められない(Asazawa et al., 2018).一方,産褥早期の褥婦に対する無臭オイルでの背部ケアは有意にリラックス得点が増加し,リラクゼーションが得られる(中北・竹ノ内,2009Kenyon, 2015).同様に,無臭ワセリンによる背部ケアでは褥婦の不安が減少する(Jahdi et al., 2016).しかし,背部ケアによる疲労感の改善は報告されていない.褥婦に対するアロマケアの四肢への有用性は公表されているが,背部への精油を用いた介入効果は確認されていない.そこで,褥婦の疲労軽減およびリラックス感向上を目指し,背部アロマトリートメントを実施,評価する必要性があると考えた.本研究の目的は,産褥早期の褥婦に対して背部へのアロマトリートメント介入を行い,リラックス感および疲労感の変化を明らかにすることである.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン(図1

本研究は,比較群をおかない一群事前事後テストデザインの準実験研究であった.本研究のプロトコルを図1に示す.

図1 

本研究のプロトコル

2. 用語の定義

1) 産褥早期

本研究では分娩後1から7日目の産褥入院中を示す.

2) アロマトリートメント

治療を目的とせず,軽擦法を用いてアロマオイルを塗布し弱い圧で擦る方法である.マッサージを業とできる者は,医師以外では「あん摩マッサージ指圧師」の有資格者のみであるため(厚生労働省,1991),本研究ではマッサージおよび軽擦をトリートメントとする.

3. 調査方法

研究協力施設は首都圏の産科クリニックであり,2019年5~7月に調査した.研究対象者は産褥入院中の分娩後1~7日目の母親であり,日本語を理解し,調査票へ回答可能な人であった.アレルギーのある人および重度精神疾患合併者を除外した.本研究は介入による事前事後調査であり,Cohen(1992)の方法を参考に有意水準α = .05,効果サイズ .70,検出力 .80に設定したところ,被験者数は32名であった.脱落率は先行研究の中北・竹ノ内(2009)の脱落率を参考に4%と見積もり,本研究の対象者を33名と算出した.研究対象施設の施設長に研究の趣旨を説明し,協力の同意を書面で得た.研究対象施設の看護スタッフに条件に該当する対象者を紹介してもらい,研究の趣旨を説明後に,協力の同意を書面で得た.対象者に自己記入式調査票を配布し,事前事後の2回分の調査票を個別郵送法で回収した.

4. 調査内容

調査内容は属性,リラックス感,疲労感,プロセス評価であった.

1)属性は,出産歴,分娩所要時間,分娩時出血量,会陰切開/裂傷,分娩方法,出生時児体重,介入日の産褥日数,入院期間中に感じたこと,年齢,基礎疾患および婦人科疾患の有無,妊娠合併症の有無の回答を求めた.

2)リラックス感は,小川ら(2000)により開発された一般感情尺度の下位尺度である安静状態を用いた(以下,リラックス感).本尺度は,「平静な」「ゆっくりした」「静かな」「ゆったりした」「のどかな」「くつろいだ」「のんきな」「平穏な」の8項目で構成されており,リラックス感を示す.各項目について,「全く感じない」から「非常に感じている」の4段階評定を行い,それぞれ1~4点を割り当て,合計得点を算出する.得点範囲は8~32点である.高得点であるほどリラックス感が強いことを示す.信頼性は大学生を対象とした調査においてCronbach’s α係数 .86~.89であり,内的整合性は高かった.尺度の妥当性は開発者らにより確認されている.

3)疲労感は,坂野ら(1994)が開発した気分調査票の下位尺度である疲労感を用いた.本尺度は8項目で構成されており,各項目について4段階評価を行い,それぞれ1~4点を割り当て,合計得点を算出する.得点範囲は8~32点で,高得点であるほど疲労が強いことを示す.信頼性,妥当性ともに十分に検討されており,Cronbach’s α係数 .84である.開発者らにより,併存妥当性と構成概念妥当性が確認されている.

4)プロセス評価は,介入直後に施術の満足度,期待との一致度,施術時間の適切性,香りの満足度等を「大変満足」から「大変不満」の5段階評定の単一回答法を用いて回答を求めた.また,介入に対する意見の自由記載を求めた.

5. 介入内容

アロマトリートメントは,下記の具体的方法で研究者が行った.

1)室温を24~25度に設定し,空気調節機能が整った研究協力施設の個室で実施し,プライバシーと他の芳香に留意した.また,対象者の授乳や保健指導等のスケジュールを優先してもらい,実施時間を調整した.

2)対象者に実施時間を説明し,15分間のアロマトリートメント介入を行った.調査は介入10分前と,介入10分後に個室で回答を求めた.

3)食後やシャワー浴後等自律神経活動に影響を及ぼす行動直後は避けた.

4)分娩後はホルモンバランスが大きく変化するため,今西・荒川(2015)の方法を参考に,精油を1~2%に設定してキャリアオイルで希釈し使用した.

5)先行研究(Tillett & Ames, 2010)を参考に褥婦に安全性の高い精油であるラベンダー,イランイラン,ゆず,ゼラニウム,オレンジの5種類を設定し,そのうち1種類を選択してもらった.

6)トリートメントは軽擦法を用いて中北・竹ノ内(2009)の方法を参考に,腰部から肩に向かって筋の走行に沿って上下に擦った.オイルのブレンドはビーカーで行い,希釈後に施術者の手掌に2~3 mlずつ滴下し,伏臥位の体勢をとった対象者の背部に用いた.帝王切開後の対象者のうち希望した3名には座位の体勢で介入した.

7)トリートメント中はアロマオイルによる刺激を避けるため,今西・荒川(2015)の方法を参考に神経発達の未熟な新生児に対し神経毒性のあるオイルを直接嗅がせないため,セージ,フェンネル等神経毒性のあるオイルは使用せず,児は新生児室に預けてもらった.

6. 分析方法

分析は統計ソフトSPSS Statistics Version24(IBM, Armonk, NY, USA)を使用した.Shapiro-Wilk検定を行ったところ,データが正規分布に従っていることが確認されなかったため,ノンパラメトリック検定を行った.アロマトリートメント介入前後のリラックス感,疲労感の変化を検討するため,前後比較はWilcoxon符号付き順位検定を,属性間比較は共分散分析を用いた.

7. 倫理的配慮

研究対象候補施設の施設長と研究対象候補者に研究の趣旨,研究協力の自由意思,協力しない場合に不利益を受けない,参加中断の自由,匿名性の保持,データの厳重保管と公表後の適切な処理を,文書と口頭で事前に説明し,同意書に署名を得た.本研究は東京医療保健大学倫理審査委員会の承認を得た(番号30-43B).

Ⅲ. 結果

条件の合う33名に研究を依頼し,31名が研究参加に同意した.研究対象者31名に,介入前後それぞれに調査票31部を配布し,31部を回収した.2回とも回収できた31部のうち有効回答である30部を分析データとして用いた(有効回答率96.8%).脱落者1名(3.2%)の理由はデータ不足であった.

1. 対象者の属性(表1

対象者30名は平均年齢が33.1 ± 3.9歳であり,初産婦23.3%であった.妊娠合併症は,妊娠貧血が20.0%,妊娠糖尿病が3.3%であった.

表1  対象者の属性(N = 30)
項目 平均値 SD
年齢 33.1 ± 3.9
分娩所要時間(n = 24) 4.5 ± 3.5
産褥日数 2.9 ± 1.0
n %
出産回数
初産婦 7 23.3
経産婦 23 76.6
出血量
100 ml未満 11 36.7
100~499 ml未満 11 36.7
500 ml以上 8 26.7
会陰切開/裂傷の有無
あり 21 70.0
なし 9 30.0
分娩様式
経腟分娩 25 83.3
帝王切開 5 16.7
児の出生体重
2,500 g未満 2 6.7
2,500~2,999 g 12 40.0
3,000~3,499 g 16 53.3
既往歴
甲状腺機能亢進症 1 3.3
なし 29 96.7
妊娠合併症
妊娠貧血 6 20.0
妊娠糖尿病 1 3.3
なし 23 76.7

2. 介入前後のリラックス感と疲労感の変化(表2

介入前後のリラックス感と疲労感の変化を評価するために,Wilcoxon符号付き順位検定を行った.リラックス感は介入前より介入後が有意に高く(p = .000),疲労感は介入前より介入後の方が有意に低下した(p = .001).項目毎に検定を行ったところ,リラックス感では介入前後で「ゆっくりした」「ゆったりした」「くつろいだ」の3項目が特に著しく上昇した(p = .000).また,疲労感では介入前後で「ぐったりしている」が著しく低下した(p = .000).

表2  アロマトリートメント介入前後のリラックス感と疲労感の変化(N = 30)
尺度および項目 介入前 介入後 p
Mean SD Median IQR Mean SD Median IQR
リラックス感 25.4 4.3 24.0 (22.8–29.3) 29.1 3.2 30.0 (27.0–32.0) .000***
平静な 3.2 .6 3.0 (3.0–4.0) 3.7 .5 4.0 (3.0–4.0) .003**
ゆっくりした 3.2 .7 3.0 (3.0–4.0) 3.8 .5 4.0 (4.0–4.0) .000***
静かな 3.2 .7 3.0 (3.0–4.0) 3.5 .6 4.0 (3.0–4.0) .004**
ゆったりした 3.3 .6 3.0 (3.0–4.0) 3.8 .4 4.0 (4.0–4.0) .000***
のどかな 3.2 .6 3.0 (3.0–4.0) 3.5 .6 4.0 (3.0–4.0) .012*
くつろいだ 3.3 .6 3.0 (3.0–4.0) 3.9 .3 4.0 (4.0–4.0) .000***
のんきな 2.7 .8 3.0 (2.0–3.0) 3.2 .8 3.0 (3.0–4.0) .002**
平穏な 3.3 .5 3.0 (3.0–4.0) 3.7 .5 4.0 (3.0–4.0) .001**
疲労感 13.1 3.5 13.0 (10.0–16.0) 11.4 3.5 10.0 (8.0–15.3) .001**
何もしたくない 1.7 .7 2.0 (1.0–2.0) 1.6 .7 1.5 (1.0–2.0) .796
面倒くさい 1.7 .7 2.0 (1.0–2.0) 1.4 .5 1.0 (1.0–2.0) .021*
物事に気乗りしない 1.5 .6 1.0 (1.0–2.0) 1.4 .5 1.0 (1.0–2.0) .222
しらけている 1.4 .6 1.0 (1.0–2.0) 1.3 .4 1.0 (1.0–2.0) .178
わけもなく疲れたような感じがする 1.8 .7 2.0 (1.0–2.0) 1.5 .6 1.0 (1.0–2.0) .004**
集中できない 1.8 .7 2.0 (1.0–2.0) 1.4 .6 1.0 (1.0–2.0) .001**
ぐったりしている 1.9 .6 2.0 (1.8–2.0) 1.4 .5 1.0 (1.0–2.0) .000***
誰にも話しかけられたくない 1.4 .5 1.0 (1.0–2.0) 1.4 .5 1.0 (1.0–2.0) 1.000

*** p < .001,** p < .01,* p < .05,Wilcoxon符号付き順位検定;IQR=四分位範囲

3. 介入前後の属性別リラックス感と疲労感の変化(表3

介入前後の属性別の疲労感およびリラックス感の変化を評価するために,Wilcoxon符号付き順位検定を行った.リラックス感は属性別に検定を行ったところ,有意な変化は確認されなかった.従属変数を介入後測定値,共変量を介入前測定値に設定した共分散分析では,変化の属性群間差は確認されなかった(F = 2.6, p = .120).

表3  アロマトリートメント介入前後の属性別疲労感の変化(N = 30)
属性 n 介入前 介入後 p値** 変化の群間差
Median IQR* Median IQR F値*** p
出産回数
初産婦 7 12.0 (8.0–15.0) 11.0 (8.0–14.0) .046 1.1 .299
経産婦 23 14.0 (10.0–16.0) 10.0 (8.0–16.0) .002
出産方法
経腟分娩 25 14.0 (9.0–16.0) 10.0 (8.0–15.5) .004 .002 .963
帝王切開 5 12.0 (10.5–15.0) 10.0 (8.5–14.0) .034
妊娠合併症
あり 7 13.8 (10.0–16.0) 13.1 (9.0–16.0) .066 2.6 .120
なし 23 12.0 (10.0–16.0) 10.0 (8.0–15.0) .002

* IQR=四分位範囲.

** Wilcoxon符号付き順位検定によるp値.

*** 介入前測定値を共変量,介入後測定値を従属変数とした共分散分析によるF統計量.

4. プロセス評価(図2表4

介入に対する満足度を評価するため,プロセス評価を行い,記述統計量を算出した.「大変満足」の回答者は,施術の満足度が86.7%,期待との一致度が80.0%,施術時間の適切性が73.3%,香りの満足度が76.7%,施術者の対応が93.3%であった.介入に対する自由記載をカテゴライズしたところ,“気持ちよかった”等の〈快適な体験〉,“リラックスできた”等の〈リラックス感の高まり〉,“自身のケアに時間が取れず貴重な体験”等の〈産後の疲労回復〉,“丁寧な対応と技術”等の〈対応への満足〉が抽出された.“座位実施のため香りを感じにくかった”等の〈技術の改善〉が指摘された.

図2 

プロセス評価(N = 30)

表4  アロマトリートメントに対する意見(n = 28)
カテゴリー コード 件数
肯定的意見 快適な体験 気持ちよかった(16)
力加減は適切(9)
香りの心地よさ(3)
28
リラックス感の高まり リラックスできた(10)
癒され幸せだった(8)
18
産後の疲労回復 出産後の身体が労われた(3)
育児への活力になった(2)
自身のケアに時間が取れず貴重な経験(2)
7
対応の満足 丁寧な対応と技術(6)
精油の種類と施術に満足(3)
9
課題 技術の改善 強いマッサージ圧を希望(3)
施術時間の延長希望(3)
座位のため香りを感じにくかった(2)
8

Ⅳ. 考察

1. 研究対象者の特徴

本研究の対象者は,産褥入院中の母親であった.日本の第1子出産時の母の平均年齢は2018年で30.7歳であるが(厚生労働省,2019),本研究では平均年齢が33.1歳であった.また,2017年に東京都は初産婦53.8%であり(東京都福祉保健局,2019),本研究では初産婦23.3%と少なかった.日本では2012年で妊娠合併症がある褥婦は59.1%であったが(増崎ら,2014),本研究では23.3%であった.本研究は首都圏の1クリニックでの褥婦を対象としたため,ローリスクな経産婦が多く,分娩進行も順調な母集団であったと考えられる.

2. 背部アロマトリートメントの有用性

本研究は産後の母児同室が始まり,忙しい生活を送っている褥婦を対象とした15分間の介入であったが,リラックス感の向上と疲労感の軽減に有効であった.特に,リラックス感では「ゆったりした」等の3項目が顕著に上昇していた.疲労感では「ぐったりしている」が顕著に低下した.産後1か月までは,母親の時間的なゆとりが損なわれやすく精神的ストレスの増強や睡眠の不足が継続する(秋本,2019).そのため,本研究のように「ゆったりした」気持ちになるよう,リラックス感を促すケアは有用性があると考えられる.

産後は分娩後の胎盤娩出によりエストロゲンが急激に減少する(石原・安井,2017).そのため,憂うつな気分になりやすく,リラックス効果のあるケアによって抑うつ気分の緩和が必要である.看護者によるアロマトリートメント介入は,産褥早期の母親のリラックス感向上と疲労感軽減のために実用化が望まれる.15分と短時間で行える背部のみの介入であり,看護者でも褥婦の話を傾聴しながら比較的簡便に行えるケアである.タッチケアと傾聴の2つのケアが存在する.そのため,入院中に提供することで褥婦の癒しとなり,抑うつ気分への移行を防止する可能性があると考える.

さらに,介入を通して,快適な体験やリラックス感の高まり等介入に対する肯定的意見も多く得られた.産後は育児によって母親自身のケアに時間が取れないことが多く,産後の疲労回復のために入院中のケアの必要性が,アロマトリートメントに対する意見から示唆された.

看護者のタッチングは,相手の状況を医学的知識に基づいて理解し,苦痛を和らげようとする等,受け手との間に深い感覚的・情緒的交流をもたらす(川原ら,2009).看護者がアロマトリートメントを行うことで,褥婦の状態を観察する手段の1つになると考えられる.嗅覚刺激として,ラベンダーによる注意力維持(Shimizu et al., 2008),スギによる気分調節と交感神経活動低下(Matsubara & Ohira, 2018),ヒノキによる副交感神経増加が報告されている(Ikei et al., 2015).また,アロマ刺激は疲労因子の一つである乳酸デヒドロゲナーゼやアンモニアの増加が少ない(Kim et al., 2018).オレンジの精油による嗅覚刺激は,右前頭前野のオキシヘモグロビン濃度を減少させ,リラックスの感情を増加させる(Igarashi et al., 2014).このように嗅覚刺激は気分や神経に作用し,リラックスに影響し,間接的に疲労軽減に影響していると考えられる.本研究では,精油を用いることで,リラックス効果に加えて,疲労感も軽減した.リラクゼーションは患者の疲労の重症化を軽減させる(Duong et al., 2017).定期的で継続的な筋肉のリラックスにより,疲労低下とQOL上昇が報告されている(Hassanpour-Dehkordi & Jalali, 2016).よって,精油を用いた背部トリートメントを行うことが嗅覚刺激の影響もあり,リラックスと疲労軽減に有効であると示唆された.

3. 研究の限界と今後の課題

本研究の研究デザインは一群事前事後デザインであり,介入前後の結果のみの調査であったため,リラックス感や疲労感の長期的な変化持続は検討できていない.また,対象者への介入時刻,精油の限定,介入後の過ごし方は統一していない.今後は効果を判断する根拠を得るために,精油を用いないトリートメントを受ける比較群を設定した二群比較検証を行うことが必要である.

Ⅴ. 結論

1.産褥早期の母親に対する背部のアロマトリートメントにより,介入後にリラックス感が有意に上昇し,疲労感が有意に低下した.

2.母親らは介入により,施術の満足度が86.7%,期待との一致度が80.0%,施術時間の適切性が73.3%,香りの満足度が76.7%,施術者の対応が93.3%と高評価であった.

謝辞:本研究を実施するにあたり,ご協力いただきました対象者の皆様,研究協力施設の皆様に深く感謝いたします.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:NTは研究の着想,デザインおよび介入の貢献,統計解析の実施および原稿作成;KU,KAは原稿への示唆および研究全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
© 2020 公益社団法人日本看護科学学会
feedback
Top