目的:NICU入院児の母親の直接授乳開始(直母)後1か月の母乳育児自己効力感(BSE)の関連要因を明らかにした.
方法:縦断的観察研究.直母後3~7日と1か月に自記式質問紙調査を行い,直母後1か月のBSEの関連,予測要因を重回帰分析にて検討した.
結果:対象はNICU入院児の母親97名であった.関連要因は,年齢(偏回帰係数:B = –.34,p = .048),初産婦(B = –4.56, p = .005),母乳不足感(B = 1.63, p < .001),ストレス対処能力(B = .33, p = .029)であった.予測要因は,直母後3~7日の母乳不足感(B = 1.19, p < .001)とストレス対処能力(B = .75, p < .001)であった.
結論:NICU入院児の母親の直母後1か月のBSEの予測要因は3~7日の母乳不足感とストレス対処能力であった.
Objective: This study aimed to evaluate the breastfeeding self-efficacy (BSE) of mothers with infants in the neonatal intensive care unit (NICU) beyond one month from starting breastfeeding, and to identify factors associated with BSE.
Method: This was a longitudinal observational study. Using self-reported questionnaires, BSE and potentially relevant factors of mothers with infants in the NICU were measured at two time points: 3–7 days and one month after starting breastfeeding. We analyzed the relevant factors with models: cross-sectional association and prediction of BSE at the second time point; using multivariable regression analysis.
Results: A total of 97 mothers were included in this analysis. The factors that affect BSE beyond one month after starting breastfeeding were the mother’s age (partial regression coefficient: B = –.34, p = .048), primipara (B = –4.56, p = .005), perception of insufficient milk (PIM; B = 1.63, p < .001) and sense of coherence (SOC; B = .33, p = .029). The factors predicting BSE were PIM (B = 1.19, p < .001) and SOC (B = .75, p < .001) at 3–7 days after starting breastfeeding.
Conclusion: This study found that PIM and SOC predicted BSE of mothers with infants in the NICU between 3–7 days and one month after starting breastfeeding.
母乳は心理・社会的,栄養学的,免疫学的,発達的,経済的,環境的に優れており,世界保健機関・国際連合児童基金は「乳幼児の栄養に関する世界的な運動戦略」の中で,生後6か月間の完全母乳栄養,その後2歳までの母乳育児を推奨してきた(NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会,2004).母乳育児は,児の下痢,感染症,児の成長後の2型糖尿病の発症リスク,母親の乳がん,卵巣がんの発症リスクを低下させたことなど,母子に有益であることが報告されている(Victora et al., 2016).
母乳は,新生児集中治療室(Neonatal Intensive Care Unit: NICU)に入院した児にとっても有益である.NICUの早産児は消化酵素の分泌や組織的な消化器の運動機能が発達途上であり,母乳中に含まれる消化管上皮成長因子や消化管運動調節因子の存在が重要な役割を担っている(水野,2015).
一方,NICU入院児の母親は退院後も母乳育児の継続が困難な状況にある.「平成17年度乳幼児栄養調査結果の概要」では,正期産児を含む児の栄養が母乳のみであった割合が生後1か月で42.4%,生後3か月では38.0%であった(厚生労働省,2005).ほぼ同時期の2001年のNICU入院児の母親を対象とした全国調査によると,在胎37週以降に出生した児が生後6か月に完全母乳栄養であったのは21.8%で,37週未満の児では10.7%と正期産児に比べて半数にも満たなかった.さらに,出生体重が2,500 g以上の児では21.9%,低出生体重児では11.4%であった(Kaneko et al., 2006).山口(2015)は,正期産児と比べNICU入院児の母乳栄養率が低い理由として,児・母親・環境の3つの要因のなかで,母親側の要因である母乳分泌不足,母乳育児の失敗体験,母親の身体・精神状態の悪化などを指摘している.
母親が母乳育児を行うことができるという確信である母乳育児自己効力感(Dennis, 1999)が産後数か月の母乳育児の継続に寄与することは,先行研究で報告されてきた(例えば,Otsuka et al., 2008;Gregory et al., 2008;入山ら,2012).その多くは正期産児および成熟児の母親を対象としていた.
NICU入院児の母親の母乳育児自己効力感は,児の出生体重との間に正の相関がみられ(Wheeler & Dennis, 2013),在胎35週未満で出生した児の母親では,母乳育児自己効力感とNICUでの直接授乳回数に弱い関連がみられた(Niela-Vilén et al., 2016).また,在胎34~36週で出生した後期早産児の母親を対象とした報告では,児の在胎期間が長く,出生体重が大きく,母乳育児を重要であると捉えている母親は,母乳育児自己効力感が高く,母乳育児自己効力感は修正40週と修正3か月で,児の入院期間と負の相関があった(Gerhardsson et al., 2018).
正期産児の母親の母乳育児自己効力感が高い要因として,母乳育児経験(Dennis & Faux, 1999;Gregory et al., 2008;Gerhardsson et al., 2014),経産婦(山﨑ら,2010;入山ら,2012;Bosnjak et al., 2012;Gerhardsson et al., 2014),母親の母乳育児意思が強い(Gerhardsson et al., 2014),パートナーからの支援(Mannion et al., 2013),高いストレス対処能力(Bosnjak et al., 2012;山﨑ら,2010)などが報告されてきた.
その一方で,母乳育児自己効力感が低い要因として産後うつ症状や母乳不足感(Perception of Insufficient Milk: PIM)が強いことが報告されてきた.エジンバラ産後うつ病自己評価票(Edinburgh Postnatal Depression Scale: EPDS)でハイリスクの母親は母乳育児自己効力感が有意に低かった(Dennis & McQueen, 2007;Zubaran & Foresti, 2013).PIMが高いと母乳育児自己効力感が低かった(Otsuka et al., 2008;Gökçeoğlu & Küçükoğlu, 2017).
本邦では,NICU入院児の母親の母乳育児自己効力感に関する報告はみあたらず,NICU入院児の母親を対象とした報告は欧米でいくつかみられた(Wheeler & Dennis, 2013;Niela-Vilén et al., 2016;Gerhardsson et al., 2018).国内外の先行研究では,正期産児の母親の母乳育児自己効力感の関連要因としてSOC,PIM,産後うつ症状の報告はみられたが,要因間の影響を考慮した母乳育児自己効力感の関連要因の報告はみられなかった.
NICUに入院した児の母親の直接授乳開始後1か月の母乳育児自己効力感とその関連要因,予測する要因を明らかにすることであった.
「母乳育児自己効力感」を「母親が母乳育児を行うことができるという確信」と定義した.Banduraが提唱した社会的認知理論の中心概念であるself-efficacy(Bandura, 1977)をもとに,Dennisが母乳育児に焦点をあて,Breastfeeding self-efficacy理論(Dennis, 1999)に基づいて定義した.
2. 操作的定義本研究における「NICUに入院した児」(以下「NICU入院児」とする)を在胎32週以降に出生したNICUに入院した児と定義した.「母乳育児」とは,直接授乳が可能になるまでの児に対する栄養を補充するための搾乳と,児が母親から母乳を飲む直接授乳を含む,母乳で育児をすることと定義した.
縦断的観察研究
2. 研究対象研究協力の了承が得られた東海地方の総合および地域周産期母子医療センター4施設で,妊娠32週以降の単胎児を出産した,NICU入院児の母親198名を対象とした.除外基準は,生命の危機にある児の母親,予後が不良である児の母親,母乳栄養を与えられないような母子の疾患がある母親とした.
3. データ収集方法研究実施者が各施設に1週間に1~2回出向き,周産期母子医療センターの病棟管理者により調査説明の承諾が得られた対象者に研究の主旨を文書と口頭で説明した.同意が得られた母親から同意書のサインを得て,施設用同意書は各施設の個人情報保護管理者に管理を依頼した.対象者に2種類の無記名自記式質問紙への回答を依頼し,直接授乳開始後3~7日の質問紙は病棟に設置した回収箱に投函するよう依頼し,1か月後の質問紙は後納郵便つきの返信用封筒をつけて配付した.配付は2018年6月~2018年12月,回収は2018年6月~2019年3月であった.
4. 調査内容 1) 直接授乳開始後3~7日の項目社会的属性として年齢,学歴,職業を,産科的属性は,分娩日,分娩歴,分娩様式,妊娠週数,児の出生体重,母乳に関する内容,母乳育児意思,経産婦の場合,上の子どもの母乳育児状況と授乳期間,直接授乳開始後3~7日までの総直接授乳回数,母乳育児状況であった.
2) 直接授乳開始後1か月の項目退院後の母乳育児へのサポート体制は,家族・友人のサポートの有無,1番目のサポート者(夫,実母,実父,義母,義父,きょうだい,友人,看護師,助産師,なし,から選択),退院後の専門職によるサポートは,2週間健診受診,母乳外来受診,助産所母乳相談の有無であった.
(1) 産後うつ症状産後うつ症状の測定を目的に,日本版EPDSを作成者の許可を得て用いた.EPDSは1987年にCoxらが開発した10項目4件法で構成され,岡野らが日本版EPDSを作成し,信頼性(Cronbach α係数.78)と妥当性を確認した(岡野ら,1996).0点から3点の4件法(合計0~30点)で評価し,点数が高いほどうつ傾向が強いことを表す.本研究におけるCronbach α係数は.85であった.
3) 直接授乳開始後3~7日および,直接授乳開始後1か月に共通した項目 (1) 母乳育児自己効力感母乳育児自己効力感を測定するために日本語版母乳育児自己効力感スケール(Breastfeeding Self-efficacy Scale Short-Form: BSES-SF)を作成者の許可を得て用いた.BSESは,Bandura(1977)が提唱した社会的学習理論において,行動変容を決定づける主な要因として位置づけた「自己効力感(ある結果を生み出すために適切で必要な行動をどの程度確実に遂行できるかという個人の確信)」(坂野・前田,2002)をもとに,母親の母乳育児行動をおこす要因となる「母乳育児ができるという確信」に焦点をあて,Dennis(1999)が作成した.その短縮版であるBSES-SF(Dennis, 2003)は,内的整合性,構成概念妥当性,予測妥当性が検証されており,14項目,1因子構造からなる「まったく自信がない」(1点)から「とても自信がある」(5点)までの5段階リッカート尺度(合計14~70点)で,点数が高いほど母乳育児自己効力感が高いことを意味する.Otsuka et al.(2008)が日本語版を作成し,信頼性(Cronbach α係数.95)と構成概念妥当性,予測妥当性を確認した.本研究における直接授乳開始後3~7日,1か月の母乳育児自己効力感は,因子分析にて各々1因子構造,Cronbach α係数は.95と.96であった.
(2) 母乳不足感母乳不足感を測定するために母乳不足感質問票(Perceived Insufficient Milk Questionnaire: PIMQ)を日本語にした日本語版母乳不足感スケールを作成者の許可を得て用いた.McCarter-Spaulding & Kearney(2001)が「児のニーズを満たすために母乳の量や栄養が不足している」という母親の認識を定義づけ作成し,内容妥当性が検証されている.6項目11段階リカート尺度(合計0~50点)を,Otsuka et al.(2008)が5項目5段階に修正して日本語版を作成し,信頼性(Cronbach α係数.81)を検証し,1因子構造を確認した.「全くそう思わない」(1点)から「確かにそう思う」(5点)の5件法(合計5~25点)で,点数が低くなるほどPIMが強いことを示す.本研究におけるCronbach α係数は,直接授乳開始後3~7日で.85,直接授乳開始後1か月で.90であった.
(3) ストレス対処能力(Sense of Coherence: SOC)SOCを測定するために13項目5件法版SOC(Sense of Coherence Scale: SOC-13)を作成者の許可を得て用いた.Antonovskyが「人生におけるストレス対処にあたり,時と場合に応じて柔軟かつ適切に対処資源を選び取り動員する力」と定義し,作成したSOC-29(Antonovsky, 1987/2001)とSOC-13のうち7件法SOC-13を,戸ヶ里・山崎(2005)が5件法にした尺度である.5件法SOC-13の信頼性(Cronbach α係数.82~.83),構成概念妥当性(因子妥当性)はともに確認されている(戸ヶ里・山崎,2005).「とてもよくある」(1点)から「まったくない」(5点)の5件法(合計13~65点)で測定し,点数が高いほどSOCが高いことを意味する.本研究におけるCronbach α係数は,直接授乳開始後3~7日で.76,直接授乳開始後1か月で.83であった.
5. データ分析方法対象者の社会的属性,産科的属性,母乳育児自己効力感と各尺度の記述統計量を算出した.直接授乳開始後3~7日と1か月の母乳育児自己効力感について,対応のあるt検定を実施した.
先行研究から母乳育児自己効力感に関連があると予測した測定項目を選定し,説明変数とした.説明変数は,年齢,分娩歴,職業の有無,学歴,分娩様式,児の在胎週数,出生体重,妊娠中と直接授乳開始後3~7日の母乳育児意思,3~7日と1か月の母乳育児状況,3~7日までの総直接授乳回数,家族の母乳育児サポートの有無,友人の母乳育児サポートの有無,母乳育児を1番サポートしてくれた人(選択),母乳外来受診と助産所母乳相談の有無,直接授乳開始後3~7日のPIM,SOC,直接授乳開始後1か月のPIM,SOC,産後うつ症状とした.目的変数を直接授乳開始後1か月の母乳育児自己効力感として,単回帰分析と重回帰分析を行った.
重回帰分析に先立ち,説明変数の項目数を決定した.統計ソフトR Version-3.6.1(R Core Team, 2019)においてサンプルサイズの決定に活用されるpwrパッケージを用いた.検出力.8,有意水準.05,効果量(中)として計算されるサンプルサイズが,分析対象数である97名に近似する説明変数の自由度から,説明変数の項目数を決定した.説明変数の自由度8ではサンプルサイズ100名,自由度7ではサンプルサイズ95名と算出された.本研究の分析対象者は97名であったため,説明変数の項目数を自由度+1の8以下と決定した.
1か月時点での母乳育児自己効力感の関連要因を探索するため,直接授乳開始後1か月の母乳育児自己効力感を目的変数とし,分娩歴,直接授乳開始後1か月のPIM,SOC,産後うつ症状の4項目を固定し,残り1~4項目を,1か月時点の測定項目(年齢,学歴,職業,分娩様式,妊娠週数,児の出生体重,家族・友人のサポートの有無,1番目のサポート者,2週間健診受診,母乳外来受診,助産所母乳相談の有無)の中から説明変数として選択し,強制投入法による重回帰分析を行った.これらの複数のモデルの中から,調整済み決定係数を参考にし,最もデータのあてはまりがよいモデルを選択した.この重回帰モデルは,直接授乳開始後1か月の母乳育児自己効力感を横断的に検討しているため以降「横断モデル」とよぶこととした.
直接授乳開始後1か月の母乳育児自己効力感について予測するモデルを検討した.説明変数の項目数は「横断モデル」と同様に8つ以下と設定した.直接授乳開始後1か月の母乳育児自己効力感を目的変数とし,直接授乳開始後3~7日のPIM,SOC,分娩歴の3項目を固定し,残り1~5項目を3~7日時点の測定項目(年齢,学歴,職業,分娩様式,妊娠週数,児の出生体重,直接授乳開始後3~7日までの総直接授乳回数,3~7日の母乳育児意思)の中から説明変数として選択し,強制投入法による重回帰分析を行った.これらの複数のモデルの中から,調整済み決定係数を参考にし,最もデータのあてはまりがよいモデルを選択した.この重回帰モデルは,直接授乳開始後3~7日時点の測定項目で直接授乳開始後1か月の母乳育児自己効力感を予測しているため,以降「予測モデル」とよぶこととした.
すべてのモデルの決定に際し,多重共線性をVIF値にて検討した.残差分析を行い,データの逸脱がないことを確認した.欠損値への対応は,リストワイズ法を用いた.統計解析には,R Version-3.6.1を用いた.
6. 倫理的配慮本研究は,三重大学大学院医学系研究科医学部研究倫理審査委員会(承認番号U2018-005)および,各施設の倫理審査委員会の承認を得て実施した(A施設;受付番号2018-15,B施設;第2018-10号,C施設;整理番号2018-121,D施設;承認番号U2018-005).病棟管理者から紹介された研究説明の承諾が得られた母親に,研究の主旨,目的,方法,研究への参加と同意後の途中撤回の自由,個人情報の保護,研究成果の発表について,説明書を用い,口頭で説明した.
本研究におけるNICU入院児は出生時に重篤な疾患がなく,呼吸障害,感染症,低血糖,哺乳力低下などの正期産児と早産児,低出生体重児であった.また,調査施設4つのうち2施設では,帝王切開で出生した児が,NICUに管理入院することになっていた.協力の得られた4施設でNICUに児が入院した母親198名に質問紙を配付した.回収は直接授乳開始後3~7日の調査132名(回収率66.7%),1か月時点の調査104名(回収率52.5%)であった.その中で2時点のデータがそろっていた104名のうち,欠損値のあったデータ7名を除いた97名を分析対象とした(有効回答率93.6%).NICUに児が入院した97名の母親の年齢は33.5歳(SD 4.4)で,初産婦57名(58.8%),経産婦40名(41.2%)であった.在胎週数は38週(IQR2.0),出生体重は2,818 g(SD 515.6)であった.その他,対象者の属性(表1)と各尺度の平均値(SD)および中央値(IQR)を(表2)示した.
| n | % | Mean | SD | Median | IQR | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 社会的属性 | |||||||
| 母親の年齢 | 97 | 33.5 | 4.4 | ||||
| 職業a | あり | 49 | 50.5 | ||||
| なし | 46 | 47.4 | |||||
| 学歴b | 高等教育以上 | 57 | 58.8 | ||||
| 高等教育まで | 39 | 40.2 | |||||
| 産科的属性 | |||||||
| 在胎週数 | 97 | 38.0 | 2.0 | ||||
| 出生体重 | 97 | 2818 | 515.6 | ||||
| 分娩歴 | 初産婦 | 57 | 58.8 | ||||
| 経産婦 | 40 | 41.2 | |||||
| 分娩様式 | 経腟分娩 | 31 | 32.0 | ||||
| 帝王切開 | 66 | 68.0 | |||||
| 母乳育児意思(妊娠中) | ぜひとも母乳 | 24 | 24.8 | ||||
| できれば母乳 | 56 | 57.7 | |||||
| こだわらない | 17 | 17.5 | |||||
| 母乳育児意思(直接授乳開始後3~7日)b | ぜひとも母乳 | 23 | 23.7 | ||||
| できれば母乳 | 53 | 54.7 | |||||
| こだわらない | 20 | 20.6 | |||||
| 直接授乳回数(直接授乳開始後3~7日まで) | 97 | 11.0 | 16.5 | ||||
| 母乳育児状況(直接授乳開始後3~7日) | 母乳 | 27 | 27.9 | ||||
| 混合 | 69 | 71.1 | |||||
| 人工 | 1 | 1.0 | |||||
| 母乳育児状況(直接授乳開始後1か月) | 母乳 | 37 | 38.1 | ||||
| 混合 | 57 | 58.8 | |||||
| 人工 | 3 | 3.1 | |||||
| 家族のサポート(直接授乳開始後1か月まで) | あり | 86 | 88.7 | ||||
| n = 86 | |||||||
| サポート1番(夫) | 33 | 38.4 | |||||
| サポート1番(実母) | 46 | 58.5 | |||||
| なし | 11 | 11.3 | |||||
| 母乳外来受診(直接授乳開始後1か月まで) | あり | 38 | 39.1 | ||||
| なし | 59 | 60.9 |
a:無回答2名,b:無回答1名
| n | Mean | SD | Median | IQR | |
|---|---|---|---|---|---|
| 母乳育児自己効力感:BSE(直接授乳開始後3~7日) | 97 | 37.3 | 11.9 | ||
| 母乳育児自己効力感:BSE(直接授乳開始後1か月) | 97 | 42.0 | 13.2 | ||
| 母乳不足感:PIM(直接授乳開始後3~7日) | 96 | 17.0 | 6.0 | ||
| 母乳不足感:PIM(直接授乳開始後1か月) | 97 | 18.0 | 6.0 | ||
| ストレス対処能力:SOC(直接授乳開始後3~7日) | 96 | 42.2 | 6.5 | ||
| ストレス対処能力:SOC(直接授乳開始後1か月) | 95 | 42.5 | 7.6 | ||
| 産後うつ症状:EPDS(直接授乳開始後1か月) | 96 | 5.0 | 5.3 |
直接授乳開始後3~7日の母乳育児自己効力感は37.3点(SD 11.9),1か月は42.0点(SD 13.2)であり,1か月の母乳育児自己効力感は3~7日と比べて高かった(p < .001).
2) 直接授乳開始後1か月の母乳育児自己効力感に関連した要因単回帰分析の結果,1か月の母乳育児自己効力感と有意な関連がみられたのは,分娩歴,母乳育児意思(妊娠中と直接授乳開始後3~7日),母乳外来受診,家族のサポート,母乳育児状況(直接授乳開始後3~7日と1か月),PIM(直接授乳開始後3~7日と1か月),SOC(直接授乳開始後3~7日と1か月),産後うつ症状であった(表3).年齢,学歴,職業の有無,分娩様式,妊娠週数,出生体重,直接授乳開始後3~7日までの総直接授乳回数,友人の母乳育児サポートの有無,母乳外来受診と助産所母乳相談の有無,母乳育児を1番サポートしてくれた人の違いでは有意な関連はみられなかった.
| 関連要因 | 単変量 | 多変量 | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 横断モデル | 予測モデル | ||||||||
| B | β | p値 | B | β | p値 | B | β | p値 | |
| 年齢 | –.51 | –.17 | .094 | –.34 | –.11 | .048* | –.09 | –.03 | .714 |
| 分娩歴(初産婦) | –7.31 | –.27 | .007** | –4.56 | –.17 | .005** | –3.15 | –.12 | .144 |
| 妊娠週数 | –.58 | –.09 | .402 | –.44 | –.07 | .250 | –.43 | –.06 | .448 |
| ぜひとも母乳(妊娠中) | 6.22 | .20 | .044* | ||||||
| ぜひとも母乳(直接授乳開始後3~7日) | 9.15 | .30 | .003** | 2.00 | .07 | .432 | |||
| 母乳にこだわらない(直接授乳開始後3~7日) | –6.61 | –.21 | .044* | ||||||
| 直接授乳回数(直接授乳開始後3~7日まで) | .09 | .12 | .260 | .10 | .14 | .074 | |||
| 母乳外来受診あり(直接授乳開始後1か月まで) | –4.73 | –.18 | .085 | ||||||
| 家族のサポートあり(直接授乳開始後1か月まで) | 9.72 | .23 | .021* | 3.23 | .08 | .188 | |||
| 母乳のみ(直接授乳開始後3~7日) | 8.55 | .29 | .004** | ||||||
| 母乳のみ(直接授乳開始後1か月) | 16.37 | .61 | <.001*** | ||||||
| PIM:母乳不足感(直接授乳開始後3~7日) | 1.64 | .58 | <.001*** | 1.19 | .42 | <.001*** | |||
| (直接授乳開始後1か月) | 2.01 | .79 | <.001*** | 1.63 | .65 | <.001*** | |||
| SOC:ストレス対処能力(直接授乳開始後3~7日) | 1.06 | .52 | <.001*** | .75 | .37 | <.001*** | |||
| (直接授乳開始後1か月) | .96 | .55 | <.001*** | .33 | .19 | .029* | |||
| EPDS:産後うつ症状(直接授乳開始後1か月) | –1.27 | –.48 | <.001*** | –.14 | –.05 | .503 | |||
| 調整済みR2 | .71 | .48 | |||||||
| F値(自由度) | 35.09(7, 87) | 12.71(7, 81) | |||||||
| p値 | <.001*** | <.001*** | |||||||
B:偏回帰係数,β:標準化偏回帰係数
* p < .05,** p < .01,*** p < .001
横断モデルにおける1か月時点での関連要因は,年齢,分娩歴,1か月のPIMとSOCであった(表3).NICUに児が入院した母親は,1歳年齢が上がると母乳育児自己効力感は.34点低下し,初産婦は経産婦に比べ4.56点低く,1か月のPIMQ(点数が上がるとPIMは少ないことを示す)合計点が1点増えるごとに母乳育児自己効力感は1.63点高くなり,1か月のSOC-13合計点が1点増えるごとに.33点上昇した(表3).
また,予測モデルにおいて直接授乳開始後1か月の母乳育児自己効力感と関連がみられた要因は,直接授乳開始後3~7日のPIMとSOCであった(表3).NICU入院児の母親の母乳育児自己効力感は,直接授乳開始後3~7日のPIMQ合計点が1点増えるごとに母乳育児自己効力感は1.19点高くなり,直接授乳開始後3~7日のSOC-13合計点が1点増えるごとに.75点上昇した(表3).
今回,NICU入院児の母親の直接授乳開始後3~7日の母乳育児自己効力感37.3点(表2)は,日本人で正期産児の母親の産褥早期の母乳育児自己効力感である40.3~43.1点(Otsuka et al., 2014)より低かった.
NICU入院児の母親の母乳育児自己効力感が低かった理由として,2点考えられる.1点目は,NICU入院児は正期産児に比べ,全身状態が不安定なことが多く,直接授乳開始が遅くなることである.2点目は,NICU入院児の母親は,母子で過ごす時間が短く(山口,2015)直接授乳の頻度が少ないことである.この2点により,直接授乳行動を習得しにくく,自己効力感の変動に影響する情報源のひとつである「遂行行動の達成」(Bandura, 1977)には至らず,NICU入院児の母親の母乳育児自己効力感が低かったと考える.
2. NICU入院児の母親の直接授乳開始後1か月の母乳育児自己効力感の関連要因直接授乳開始後1か月時点での母乳育児自己効力感が高い要因は,経産婦,年齢が低いこと,1か月のPIMが少ないこと,SOCが高いことであった(表3).また,直接授乳開始後1か月の母乳育児自己効力感が高いことを予測する要因は,3~7日のPIMが少ないこと,SOCが高いことであった(表3).
NICU入院児の経産婦の母乳育児自己効力感が高いことは,正期産児の日本人(Otsuka et al., 2008;山﨑ら,2010;入山ら,2012)と,欧米人(Bosnjak et al., 2012;Gerhardsson et al., 2014)の多くの報告と同様であった.今回は,年齢,PIM,SOC,産後うつ症状の影響を調整しても,直接授乳開始後1か月時点で経産婦は母乳育児自己効力感が高かった.Bandura(1977)は,自己効力感の情報源のひとつである「遂行行動の達成」は,習熟体験に基づいているため,自己効力感にもっとも影響力があると指摘している.対象の経産婦は全て母乳育児経験があり,「遂行行動の達成」を経験していた可能性がある.また,自己効力感は,行動を遂行する先行要件として,与えられた行動が特定の結果につながるという信念である「結果予期」と,望ましい結果を生み出すために必要な行動を首尾よく実行できるという確信である「効力予期」の2つから成り立つ(Bandura, 1977).経産婦は「遂行行動の達成」の経験が,母乳育児行動が実施できる確信としての「効力予期」を得ることにつながり,児と母親にとって母乳育児は有益であるという「結果予期」とともに,母乳育児自己効力感が高い結果となったと考える.
NICU入院児の母親は年齢が低いと直接授乳開始後1か月の母乳育児自己効力感が高かった.カナダ人のNICU入院児の母親(Wheeler & Dennis, 2013),スウェーデン人の後期早産児の母親(Gerhardsson et al., 2018)の母乳育児自己効力感は,母親の年齢との関連はなかったという報告があり,今回の結果とは異なった.本邦では結婚年齢が高くなるに従い,第一子の出産年齢が上がり,帝王切開率は漸増し続けている.本研究の対象者はおよそ7割が帝王切開分娩であり,その場合,経腟分娩と比べて母親の産後の回復に時間がかかること,児がハイリスクとなるため直接授乳開始が遅れがちである.このため,母親の年齢が高いと母乳育児自己効力感が低くなっていたと考える.
NICU入院児の母親の直接授乳開始後3~7日時点のPIMが低いと,直接授乳開始後1か月の母乳育児自己効力感が高いという新たな知見が得られた.先行研究では,産褥早期における母乳育児自己効力感とPIMの関連(Gökçeoğlu & Küçükoğlu, 2017),産褥早期の母乳育児自己効力感が産後4週間後のPIMに関連すること(Otsuka et al., 2008)について報告されていた.武市(2012)は,母乳は足りているが不足していると感じるPIMは,母乳が不足しているのではなく母親の自信が不足している事を示すと述べている.母親がPIMを強く認識すると,母乳育児が実施できるという確信をもてず,母乳育児自己効力感は低かったと考えられる.
NICU入院児の母親の直接授乳開始後3~7日のSOCが高いと1か月後の母乳育児自己効力感は高く,1か月後のSOCが高いと1か月後の母乳育児自己効力感は高かった.これは,山﨑ら(2010),Bosnjak et al.(2012)の単変量の横断的検討と整合性がある.今回,年齢,分娩歴,PIMの影響を調整したうえで,SOCが母乳育児自己効力感と関連があったことは,新たな知見であった.自己効力感は,行動を実施することに影響しているため,SOCにおけるストレッサーにうまく対処するという行動にも,拡大して適用できる可能性がある(Antonovsky, 1987/2001)と指摘されている.SOCは,極めてストレスフルなできごとや状況に直面させられながらも対処し,それらを成長や発達の糧に変えて明るく健康な方向へ導く力とされている.児がNICUに入院したストレスフルな状況でも母乳育児への対処していく力が強い人は母乳育児自己効力感も高かったと考える.
また,Gerhardsson et al.(2018)によると,後期早産児の入院期間と母乳育児自己効力感の間に負の相関がみられたことから,本研究でも児のNICU入院期間を調査するべきであった.
臨床への適用として,次のことが考えられる.NICU入院児の母親は,3~7日の母乳不足感が強いと1か月の母乳育児自己効力感が低かった(表3).このため,直接授乳開始前の産褥早期から「母乳分泌が悪い・母乳が不足している」と母親が誤った認識をしないように支援が必要である.また,年齢と分娩歴は,母乳育児自己効力感の関連要因であったため,年齢が高い母親や初産婦に留意して支援することは重要である.さらに,NICU入院児の母親は母乳育児自己効力感が低かった.看護者は,母乳育児をできるという確信を母親がもてるよう,エモーショナル・サポートをはじめとした支援技術を身につけ,関わる必要性が示唆された.
3. 本研究の限界と今後の課題本研究では,妊娠32週以降に予後が良好な単胎児を出産した母親を対象とした調査であったが,児のNICU入院期間は測定していない.このため,比較的予後が良好で,母子分離が短期間であった母親の母乳育児支援には適応しうると考える.しかし,在胎32週未満の児や合併症をもつ児など重症児の母親,母子分離期間の違いによる母乳育児支援に適応するには限界がある.今後は,児の入院期間,妊娠32週未満で出生した児や合併症をもつ児の母親も対象とした調査の必要がある.
NICUに入院した児の母親の直接授乳開始後1か月の母乳育児自己効力感は,年齢,分娩歴,3~7日のPIMとSOC,1か月のPIMとSOCと関連があった.
直接授乳開始後1か月の母乳育児自己効力感を予測する要因は,直接授乳開始後3~7日のPIMとSOCであった.
付記:本研究は,平成30年度三重大学大学院医学系研究科に提出した博士前期課程論文の一部に加筆・修正を加えたものである.また,その一部を第34回日本助産学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究にあたり,研究へのご理解とご協力をいただきました対象者の方々と研究協力施設の皆様に心より感謝いたします.
利益相反:本研究に関して申告すべき,利益相反はない.
著者資格:MNは研究の着想およびデザイン,データ収集と統計解析の実施および原稿の作成:YOは研究プロセス全体への助言および原稿への助言:STは統計手法の妥当性に関する助言および原稿への助言:HSは研究計画への助言,全ての著者は最終原稿を読み,承認した.