日本看護科学会誌
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原著
中・大規模病院で働く看護師のコミットメントプロファイル
重政 兼悟矢嶋 裕樹上山 和子
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2020 年 40 巻 p. 235-243

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Abstract

目的:看護師の職業及び組織コミットメントに基づくプロファイルを抽出し,それぞれの割合及び特徴を明らかにする.

方法:中・大規模病院(300床以上)に勤務する看護師900人を対象に,自記式質問紙調査を実施した.職業及び組織コミットメントについてクラスター分析を行い,対象者をクラスターに分類した.次いで,各クラスターとワークエンゲイジメント等との関連を検討し,各クラスターの特徴を検討した.

結果:434人(回収率42.2%)を分析対象者とした.クラスター分析の結果,5クラスターが抽出された.そのうち,「組織関与型」が最も多く31.3%であった.また,「高関与型」と比べて,「功利関与型」「低関与型」はワークエンゲイジメントが低いなどの特徴がみられた.

結論:本研究の結果は,各々のコミットメントプロファイルに合った就業継続支援を考える際の一助となるものである.

Translated Abstract

Objective: To classify occupational and organizational commitment profiles among nurses, and clarify the proportion and characteristics of each type.

Methods: A self-administered questionnaire survey was conducted on 900 nurses working in medium-sized/large hospitals (with 300 or more beds). Cluster analysis of occupational and organizational commitments was performed, and the nurses were grouped into clusters. The relationship between each cluster and work engagement was examined to clarify the characteristics of the former.

Results: Among the 900 nurses, 434 were analyzed (response rate: 42.2%). There were 5 clusters representing commitments. <Organizational commitments> was the largest cluster, accounting for 31.3%. <Calculative commitments> and <low commitments> were more closely associated with a lower level of work engagement more closely than <High commitments>.

Conclusion: The findings of the study exploring commitment profiles for nurses provide useful implications for supporting them to continue their jobs and remain with the organization.

Ⅰ. 緒言

コミットメントとは,個人が所属する組織や従事する職業に対して抱く帰属意識や同一化,関与を意味する概念である.組織へのコミットメントが高い者は,所属する病院の価値や目標,使命を受容し,組織の一員として積極的な参加や生産を行っている状態にあり,一方,職業へのコミットメントが高い者は,看護という職業の価値を理解し,自分自身にとって職業が重要な意味を持っている状態にあると考えられている(酒井ら,2004).

なお,多くの研究において,コミットメントは一元的な概念ではなく,3次元からなる多元的な概念として捉えられている.その3次元とは,組織や職業に対する情緒的な愛着を表わす情緒的コミットメント,離転職の際の損失や新たな負担を恐れて,あるいは代わるべく選択肢がないために留まるという合理的態度を表わす功利的コミットメント,組織や職業に対する責任や義務感,忠誠を表わす規範的コミットメントである(Allen & Meyer, 1990高橋ら,1998).この3次元に基づくコミットメントの分類は3次元コミットメントモデルと呼ばれ,多くのコミットメント研究で広く用いられている.

専門職である看護師は,病院組織の一員として業務に従事する一方,仕事の内容や進め方をある程度自分で決められるような自律性が与えられている.そのため,看護師を対象としたコミットメント研究では,組織コミットメントだけでなく,職業コミットメントにも関心が向けられてきた(Meyer et al., 1993).組織コミットメントと職業コミットメントは,互いに正の相関があるものの(Meyer et al., 1993),それぞれ異なる変数と関連を示す独立した概念であるとされている(酒井ら,2004).組織コミットメントを扱った研究では,情緒的コミットメントや規範的コミットメントが高い看護師ほど,職業継続意思が高いこと(下條・朝倉,2016撫養ら,2014),功利的コミットメントが高い看護師ほど,バーンアウト傾向が高いことが報告されている(澤田,2009).一方,職業コミットメントを扱った研究では,職業コミットメントが高い看護師ほど,職業継続意思や精神的健康,職務満足感,自己学習や同僚への援助行動の動機づけが高いことが報告されている(Meyer et al., 1993澤田,20092013竹内ら,2012).

近年では,組織コミットメントと職業コミットメントの各次元が職業行動にどのような影響を及ぼすかだけでなく,両者の複数次元の組み合わせのタイプが職業行動にどのような影響を及ぼすのかについても検討がなされるようになってきた(Morin & Meyer, 2015Meyer et al., 20152019).数は少ないが,看護師を対象とした研究も行われている.福間(2013)は,組織コミットメントと職業コミットメントに基づき,看護師を4つのタイプに分類している.その4タイプとは,組織コミットメントと職業コミットメントの両方が高い「優等生」,前者が高く後者が低い「組織人」,前者が低く後者が高い「仕事人」,ともに低い「無関心」である.4類型間で基本属性や職務満足,サービスの質を比較した結果,「優等生」は,「無関心」よりも年齢,勤続年数,職務経験年数が長い傾向にあること,職務満足の3側面(達成,成長,評価・給与)が高いこと,一方,「無関心」は,職務満足の2側面(昇進,クライアントとの関係),サービスの質が低いことが報告されている.

医療技術の高度化や患者ニーズの変化,看護の役割や機能の複雑化,看護教育の大学化などを背景に,看護師の組織や職業に対する考え方も多様になってきている.また,病院組織もモザイク型職場(厚生労働省,2016)と呼ばれるほど多様化している.こうした多様性を理解し,適切にマネジメントしていくことが組織の存続・発展に不可欠であり,そのためには,組織及び職業コミットメントの各次元の組み合わせのタイプにも目を向ける必要がある(Meyer & Stanley, 2013).そこで本研究は,看護師の職業及び組織コミットメントに基づくプロファイルを抽出し,それぞれの割合及びワークエンゲイジメント等との関連を明らかにすることで,看護師の就業継続に向けた支援的介入への示唆を得ることを目的とした.

Ⅱ. 研究方法

1. 用語の定義

コミットメントプロファイルは,コミットメントの高低の組み合わせのパターンから抽出される特徴(Meyer & Herscovitch, 2001)と定義した.

2. 調査対象と手続き

調査対象者は,中国地方5県内の一般病床300床以上を有する59病院に勤務する看護師とした.厚生労働省は,300床以下の病院を中小規模病院と位置づけており(厚生労働省,2016),本研究では300床以上の病院を中大規模病院と定義した.マネジメントを行う看護師長以上の役職のみを除く,すべての看護師を対象とした.

2017年6月から7月にかけて,各県より無作為抽出した15病院計900人に無記名自記式質問紙調査を実施した.質問紙は病院ごとに必要部数準備し,看護部長を通じて対象者へ配布し,記入済みの質問紙は対象者本人から研究者への個別返送により回収された.

3. 調査内容

1) 基本属性等

性別,年齢に加え,看護師経験年数,勤続年数,育児・介護の有無についてたずねた.

2) 職業コミットメント

Meyer et al.(1993)が作成し,佐藤ら(2015)により日本語訳された日本語版職業コミットメント尺度を使用した.本尺度は情緒的コミットメント6項目,功利的コミットメント6項目,規範的コミットメント6項目の3下位尺度計18項目からなる.各項目に対する回答は「全くその通りではない」から「全くその通りだ」の5件法で求める形式となっていた.得点化の際は,各回答に1~5点を与え,下位尺度ごとに合計点(得点範囲6~30点)を算出した.この得点が高いほど,職業コミットメントが高いことを意味する.なお,3下位尺度のα信頼性係数は0.76~0.78であった.

3) 組織コミットメント

Allen & Meyer(1990)によって作成され,高橋ら(1998)により日本語訳された3次元組織コミットメント尺度日本語版を使用した.構成は,情動的コミットメント8項目,継続的コミットメント8項目,規範的コミットメント8項目の3下位尺度計24項目からなる.各項目に対する回答は,「1.あてはまらない」から「4.あてはまる」の4件法でたずねた.得点化の際は,各回答に1~4点を与え,下位尺度ごとに合計点(得点範囲8~32点)を算出した.この得点が高いほど,組織コミットメントが高いことを示している.なお,3下位尺度のα信頼性係数は0.73~0.80であった.

4) ワークエンゲイジメント

ワークエンゲイジメントとは「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態」であり,活力,熱意,没頭の複合概念である(Schaufeli et al., 2002).ワークエンゲイジメントの測定には,日本での信頼性,妥当性が確認されているユトレヒト・ワークエンゲイジメント尺度短縮版を使用した.この尺度は,活力3項目,熱意3項目,没頭3項目の計9項目で構成される(Shimazu et al., 2008).各項目対する回答は,「全くない」から「毎日」の7件法で求めた.得点化の際は,各回答に0~6点を与え,その下位尺度ごとに合計点(得点範囲0~18点)を求めた.この得点が高いほど,ワークエンゲイジメントが高いことを示している.なお,本尺度9項目のα信頼性係数は0.94であった.

5) 精神的健康

WHO-5精神的健康状態表日本語版を用いて測定した(岩佐ら,2007).各項目について「全くない」から「いつも」の6件法で回答を求め,順に0~5点を付与し,その合計点(得点範囲0~30点)を算出した.この得点が高いほど,精神的健康が良好であることを示している.本尺度のα信頼性係数は0.919であった.

6) 職業継続意思

「今の病院をやめても看護師は続けたいか」と尋ね,「全く思わない」から「強く思う」までの7件法で回答を求め,順に1~7点を付与した.したがって,得点が高いほど,看護師を続ける意思が強いことを意味している.

7) 組織滞留意思

「現在勤めている病院を続けたいか」と尋ね,「全く思わない」から「強く思う」までの7件法で回答を求め,順に1~7点を付与した.この得点が高いほど,現在勤務している病院(組織)に留まる意思が強いことを意味している.

4. 分析方法

まず,基本属性の分布を確認したのち,各尺度の基本統計量の算出,尺度全体及び下位尺度のα信頼性計数を算出した.次いで,対象者のコミットメントプロファイルを抽出するため,組織コミットメントの3下位尺度得点と職業コミットメントの3下位尺度得点の計6下位尺度得点を用いた非階層的クラスター分析を行った.クラスター化にはk-means法,個体間の距離には平方ユークリッド距離を用いた.クラスター数は,解釈可能性と各クラスターに含まれる対象者数などを考慮して決定した.さらに,クラスター毎に職業及び組織コミットメントに関する尺度の平均値及び標準偏差を算出し,クラスター間で比較した.比較には一元配置分散分析及び多重比較(Bonferroni法)を用いた.その結果を基に各クラスターを命名した.最後に,各クラスターの特徴を明らかにするため,クラスター間で基本属性等やワークエンゲイジメント,精神的健康,看護師継続意思,組織滞留意思を比較した.基本属性等の比較にはχ2検定,ワークエンゲイジメント,精神的健康,職業継続意思,組織滞留意思の比較には基本属性を共変量とする共分散分析を用いた.

統計解析には,IBM社の統計パッケージSPSS Ver. 19 for Windowsを使用した.

5. 倫理的配慮

研究対象者には,研究の主旨,匿名性が完全に確保されること,統計によりデータ処理を行うこと,参加は自由意思で不参加による不利益が全くないこと,データは鍵のかかる所で保管すること,研究終了後は速やかにデータを破棄すること,質問紙は無記名であることを書面により説明した.また,個人の投函にて同意とする旨を説明し,返送をもって同意が得られたものと判断した.なお,本研究は,新見公立大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号129).

Ⅲ. 結果

1. 対象者の概要

調査対象者15病院900人のうち,14病院457人から回答が得られた(回収率50.8%).このうち,分析に使用する各変数に欠損値のない434人を分析対象者とした.分析対象者の基本属性等の分布は表1に示すとおりである.性別構成は,女性が多く392人(90.3%),男性は42人(9.7%)であった.平均年齢は35.4 ± 9.5歳,20歳代または30歳代が291人(67.0%)を占めていた.看護師経験年数は平均13.2 ± 9.0年,現在の病院での勤続年数は平均12.0 ± 8.3年であった.育児・介護をしている者は152人(35.0%)であった.

表1  基本属性等の分布 n = 434
水準 n %
性別 女性 392 90.3
男性 42 9.7
年齢 平均±標準偏差 35.4 ± 9.5 範囲 21~59
20歳代 158 36.4
30歳代 133 30.6
40歳代 101 23.3
50歳代 42 9.7
看護師経験年数 平均±標準偏差 13.2 ± 9.0 範囲 1~38
勤続年数 平均±標準偏差 12.0 ± 8.3 範囲 1~36
育児・介護の有無 なし 282 65
あり 152 35

2. コミットメントプロファイル

職業コミットメントと組織コミットメントの各下位尺度得点間の相関係数(Pearsonの積率相関係数)を表2に示した.下位尺度得点間の相関係数は0.129~0.579の範囲で,いずれも有意であった.次に,対象者のコミットメントプロファイルを抽出するため,組織及び職業コミットメントの各下位尺度得点を用いた非階層的クラスター分析を行った.クラスター数を4~7まで指定し,得られたクラスター解を比較検討した.解釈可能性と各クラスターに含まれる対象者数などを考慮し,最終的に5つのクラスター解を採用した.さらに,得られたクラスターの解釈を行うため,クラスター間で職業及び組織コミットメントの各下位尺度得点の平均値を比較した.表3及び図1は,一元配置分散分析及び多重比較(Bonferroni法)の結果である.クラスター間で観察された各下位尺度得点間の差の特徴に基づき,各クラスターを次のように命名した.まず,すべての下位尺度得点が相対的に高いクラスターは「高関与型」(16.1%),第2クラスターはすべての下位尺度得点が相対的に低いことから「低関与型」(17.9%),第3クラスターは情緒的コミットメント(職業コミットメント)のみが高く,他の下位尺度が低いことから「職業情緒型」(12.4%),第4クラスターは組織コミットメントの3下位尺度得点が相対的に高いことから「組織関与型」(31.3%),第5クラスターは功利的コミットメント(組織・職業コミットメント)のみが高いことから「功利関与型」(22.1%)と命名した.

表2  職業コミットメント,組織コミットメントの相関関係
相関係数 職業コミットメント 組織コミットメント
情緒的 功利的 規範的 情緒的 功利的 規範的
職業コミットメント 情緒的 .129** .411** .418** .134** .282**
功利的 .129** .355** .207** .528** .226**
規範的 .411** .355** .411** .356** .515**
組織コミットメント 情緒的 .418** .207** .411** .398** .579**
功利的 .134** .528** .356** .398** .433**
規範的 .282** .226** .515** .579** .433**

**p < .01

表3  クラスタ別にみた職業及び組織コミットメントの各下位尺度得点の平均値(標準偏差)
n(%) a.高関与型 b.低関与型 c.職業情緒型 d.組織関与型 e.功利関与型 p 多重比較
70(16.1) 78(17.9) 54(12.4) 136(31.3) 96(22.1)
職業コミットメント
情緒的 24.9(2.8) 17.9(3.2) 22.5(2.8) 21.0(2.7) 22.7(2.9) <.001 a > b, c, d, e;c > b, d;d > b;e > b, d
功利的 24.5(3.1) 20.7(3.5) 14.1(3.3) 19.0(2.3) 24.3(2.2) <.001 a > b, c, d;b > d, c;d > c;e > b, c, d
規範的 21.8(3.3) 13.2(2.9) 14.3(3.2) 17.2(2.6) 19.2(3.1) <.001 a > b, c, d, e;d > b, c;e > b, c, d
組織コミットメント
情緒的 22.5(2.8) 13.1(2.7) 16.1(3.5) 19.1(2.5) 17.5(2.8) <.001 a > b, c, d, e;c > b;d > b, c, e;e > b, c
功利的 23.7(2.9) 17.8(3.5) 14.4(2.7) 20.5(2.8) 21.8(3.4) <.001 a > b, c, d, e;b > c, d > b, c;e > b, c, d
規範的 20.1(2.8) 12.4(2.7) 13.6(2.9) 17.1(2.1) 15.7(2.5) <.001 a > b, c, d, e;c > b;d > b, c, e;e > b, c

※Bonferroni法による多重比較の結果(有意水準は5%としている)

図1 

各クラスタのコミットメントプロファイル

3. 各クラスターの特徴

各クラスターの特徴をさらに明らかにするため,5つのクラスター間で対象者の基本属性等やワークエンゲイジメント等の分布を比較した.

基本属性等についてクラスター間で比較した結果を表4に示す.年齢,看護師経験年数,勤続年数については,「高関与型」が他のクラスターよりも有意に高かった.育児・介護が「有り」と回答した者の割合は,「職業情緒型」よりも「功利関与型」において有意に多かった.

表4  クラスタ別にみた基本属性等の分布
a.高関与型 b.低関与型 c.職業情緒型 d.組織関与型 e.功利関与型 p※1 多重比較
年齢 39.4(10.8) 33.9(8.3) 32.3(9.9) 35.3(9.4) 35.8(8.5) <.001 a > b, c, d
看護師経験年数 17.7(10.4) 11.7(7.9) 9.7(9.8) 12.9(8.4) 13.7(7.9) <.001 a > b, c, d, e
勤続年数 15.5(9.8) 9.1(5.8) 8.4(9.1) 10.8(7.8) 11.9(7.9) <.001 a > b, c, d, e
育児・介護の有無 25(35.7) 21(26.9) 12(22.2) 49(36.0) 45(46.9) .007 e > c

表中の数値は平均値(標準偏差)を示す

注 「あり」の人数(%)を示す

量的変数については一元配置分散分析,カテゴリカル変数についてはカイ2乗検定の結果を示す

続いて,ワークエンゲイジメント等についてクラスター間で比較した結果を表5に示す.まず,「高関与型」は,ワークエンゲイジメント,看護師継続意思,組織滞留意思,精神的健康が最も高く,反対に,「低関与型」は,ワークエンゲイジメント,看護師継続意思,組織滞留意思,精神的健康が最も低かった.また,「職業情緒型」は,「高関与型」に続いてワークエンゲイジメントが高いが,「高関与型」と比べて看護師継続意思,組織滞留意思は低かった.「組織関与型」は,「高関与型」に続いてワークエンゲイジメントは高いが,看護師継続意思は「高関与型」「功利関与型」より低かった.最後に「功利関与型」は,看護師継続意思は高い一方で,組織滞留意思は「低関与型」に続いて低かった.

表5  アウトカム変数に基づくクラスタの特徴
a.高関与型 b.低関与型 c.職業情緒型 d.組織関与型 e.功利関与型 p※1 多重比較※2
ワークエンゲージメント 31.8(1.08) 13.93(1.01) 23.85(1.21) 26.1(0.75) 22.94(0.89) <.001 a > b, c, d, e;c > b;d > b, e;e > b
看護師継続意思 4.84(0.18) 3.16(0.17) 3.54(0.20) 3.79(0.13) 4.35(0.15) <.001 a > b, c, d, e;d > b;e > b, c, d
組織滞留意思 4.51(0.16) 2.06(0.15) 2.41(0.18) 3.37(0.11) 3.15(0.14) .007 a > b, c, d, e;d > b;e > b
精神的健康 13.07(0.62) 8.39(0.58) 12.6(0.70) 11.92(0.44) 10.46(0.51) <.001 a > b, e;c < b, e;c > b, e;d > b, e;e > b

※1 共分散分析の結果(年齢・看護師経験年数・勤続年数・育児介護の有無で調整した調整平均値)

※2 Bonferroni法による多重比較の結果(有意水準は5%としている)

Ⅳ. 考察

1. 看護師のコミットメントプロファイル

職業及び組織コミットメントの各要素がいずれも高い「高関与型」は,対象者の16.1%を占めており,すべての要素が相対的に低い「低関与型」は17.9%を占めていた.「高関与型」は,「低関与型」と比べて,年齢が高く,看護師経験年数,勤続年数も長かった.これらの結果は,福間(2013)の研究結果とほぼ同様である.福間(2013)の研究では,組織・職業コミットメントが共に高い群を「優等生」,低い群を「無関心」とし,「優等生」は「無関心」よりも,年齢,勤続年数,職務経験年数が長い傾向にあったことが報告されている.看護師のコミットメントは,入職以降,職業体験を通じて継続的に形成・強化されると考えられている(Meyer et al., 1993).所属年数や経験年数が長ければ,組織固有の技能や,人間関係が築かれることから,組織コミットメントが高まると考えられる.また,「高関与型」は他のクラスターよりも,ワークエンゲイジメント,組織滞留意思や職業継続意向も高い傾向にあった.従来の看護師を対象とした研究において同様の結果が示されている.職業コミットメントが高い者ほど,専門職行動をとる傾向が高い,バーンアウト傾向が低い,離職意向が低いこと(澤田,20092013),組織コミットメントが高い者ほど,離職意向が低いことが報告されている(下條・朝倉,2016撫養ら,2014).これらの結果は,組織と職業の両方のコミットメントが高い二重コミットメントの状態にある者は,組織や個人に好ましい結果をもたらす可能性が高いこと,反対に,組織と職業の両方のコミットメントが低い者は,組織と個人の双方に好ましくない結果をもたらす可能性があることを示唆するものである.

組織よりも職業へ強くコミットする傾向がある「職業情緒型」は,本対象者の12.4%を占めていた.「職業情緒型」は,「低関与型」と同程度に看護師継続意思や組織滞留意思が低く,離職や転職のリスクのあるプロファイルである.「低関与型」との違いは,職業情緒的コミットメントのみが高いという点である.職業コミットメントが高い者は,専門職行動をとる傾向が高く,ウェルビーイングが高いことが報告されている(澤田,2013).本研究においても,「職業情緒型」は,「低関与型」と比べて,ワークエンゲイジメントや精神的健康が高い傾向がみられた.ただし,「職業情緒型」は,職業情緒的コミットメント以外は低く,組織内で自己のキャリア発達に向けた支援が得られなければ,離職に結び付きやすい可能性がある.所属組織から内的報酬を喚起するような仕事やキャリア発達の機会が与えられる場合には,職業コミットメントだけでなく,組織コミットメントも高くなると考えられている(グレッグ,2005).協調的な職場環境を整備するとともに,キャリア育成を図る組織的な取り組みが求められる.

続いて,功利的コミットメント(組織・職業コミットメント)のみが高い「功利関与型」は22.1%を占めていた.「功利関与型」に所属する者は,組織滞留意思は低いため,所属組織を辞めて異なる組織へ移ってしまう転職の恐れがある.このクラスターは,当該組織・職業に在籍・従事したいというよりも,離転職により生じるコストが高くなるという理由から,当該組織・職業に在籍・従事する必要があると考える集団である.職業への高い功利的コミットメントは,バーンアウト傾向の増加,組織への高い功利的コミットメントは,専門職者行動をとる可能性の低下につながることが報告されている(澤田,2009).本研究でも,ワークエンゲイジメントや精神的健康は低いという結果であった.また,「功利関与型」に所属する者には,育児や介護の役割を担っている者が多く,超過勤務や夜勤などで育児や介護の役割遂行が困難になると,ワークエンゲイジメントの低下や精神的健康の悪化,離職に結びつく可能性がある.「功利関与型」のプロファイルをもつ看護師の就労継続を可能にするような職場環境の整備が必要である.

最後に,組織コミットメントの各要素が相対的に高い「組織関与型」は31.3%を占めていた.「組織関与型」は,組織の価値や目的を受容し,個人が組織の一員として積極的に業務に取り組んでいる.このクラスターに所属する者は,ワークエンゲイジメントや看護師継続意思,組織滞留意思,精神的健康についても,「高関与型」と同程度またはそれに次いで2番目に高かった.福間(2013)の研究では,このクラスターは「組織人」に相当する.「組織人」は,「職業人」と比べて,サービスの質,職務満足度が同程度もしくは良好な結果となっており,本研究と同様の傾向といえる.ただし,職業的コミットメントが相対的に低い「組織関与型」は,職業人としての自律性が低いため,所属組織に対して内発的,社会的,経済的な期待をもつ,すなわち,組織に依存した状態であると考えられる.したがって,このクラスターに所属する者は,所属組織において期待に見合った報酬が得られなければ,他の組織へ移ってしまう可能性がある.なお,所属組織に対するコミットメントのみが高い特徴をもつプロファイルは海外では見出されておらず(Meyer et al., 2019Morin & Meyer, 2015),組織への忠誠に価値を置く日本人独特の特徴であるといえる(鈴木,2009).

2. 看護師のコミットメントプロファイルの活用

本研究では,中・大規模病院で働く看護師のコミットメントプロファイルが5つに分類されることを明らかにした.また,本研究で抽出されたコミットメントプロファイルのうち,「高関与型」が最も望ましいプロファイルであることを明らかにした.本研究の結果を踏まえるなら,「高関与型」以外のクラスターに対してはコミットメントが高まるような支援が必要である.

看護師は,仲間との良好な関係の中で,受け持ち患者が良い方向に向かうなど,自分の看護の実感や,自己成長を感じ,患者家族からのよいフィードバックを受けることで,チームケアに対して満足を感じ,自己の存在価値を実感し,組織へのコミットメントが高まるといわれている(グレッグ,2005).したがって,チーム医療の中でより良い看護を行え,それに対して好ましいフィードバックが受けられるような関係構築を進めることは,職業及び組織コミットメントを高めるうえで有効であると考えられる.他にも,仕事に対して前向きに取り組めること,成長の機会があること,仕事に関する新しい知識や技術を得る機会があることがコミットメントを高めると考えられており(新宮・安保,2019),新人教育など,組織の中での役割を通じて自己の成長を感じられるようにすることも必要である.また,価値観が多様化する人的環境においては,個々の価値観を理解した育成プログラムや勤務調整も必要となる(厚生労働省,2016).仕事と生活の調和を図る上で「時間調整」は重要な要因であり(村上,2014),こうした個別的な対応も,組織に対するコミットメントの向上に寄与すると考えられる.

Ⅴ. 研究の限界と課題

最後に,本研究の限界と課題について述べる.まず,本調査の回収率は約50%と低く,本研究の結果が中・大規模病院の看護師の状況をどの程度的確に反映しているか定かでない.組織や職業コミットメントが低い者ほど,本調査に協力しない傾向があった場合,本対象者のコミットメントを過大評価している可能性がある.本研究の結果は,その点を考慮して解釈する必要がある.また,本研究は横断研究であるため,因果の方向性について明確にすることはできなかった.例えば,勤続年数が長いために職業及び組織コミットメントが高くなったのか,それとも職業及び組織コミットメントが高いために勤続年数が長くなったのか,明らかでない.この点については,今後の縦断研究での検討が必要である.さらに本研究では5つのコミットメントプロファイルが抽出されたが,異なる対象でも同様のプロファイルが抽出されるかどうかの検討も必要である.

Ⅵ. 結論

本研究では以下のことが明らかとなった.

1.中・大規模病院の看護師のコミットメントプロファイルとして,「高関与型」「組織関与型」「職業情緒型」「功利関与型」「低関与型」の5つが抽出された.

2.「高関与型」以外のプロファイルでは,ワークエンゲイジメント,精神的健康,組織滞留意思,職業継続意向のいずれか,またはすべてが低かった.したがって,「高関与型」以外のプロファイルをもつ看護師に対しては,キャリア発達支援や協調的な職場環境整備など,各々の特徴に合った支援的介入を考える必要がある.

付記:本論文の内容の一部は,第38回日本看護科学学会学術集会において発表した.本研究は,新見公立大学大学院看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究にご理解いただき,ご協力いただきました看護師の皆様に深く感謝申し上げます.本研究に多大なご指導とご助言を下さいました諸先生方に,心から感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:KSは研究の着想,研究デザイン,データの入手,分析,解釈,原稿の作成に貢献した.YY は研究デザイン,分析,解釈に貢献した.KUは研究デザイン,分析,解釈,原稿・研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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