日本看護科学会誌
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
原著
急性期病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感尺度の開発
川村 晴美鈴木 英子田辺 幸子中澤 沙織
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2020 年 40 巻 p. 312-321

詳細
Abstract

目的:急性期病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感尺度を開発し,信頼性・妥当性の検証を行うことを目的とした.

方法:質的先行研究と文献研究に基づき,急性期病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感尺度原案作成した.全国の国公立系医療機関で6つの急性期病院に勤務する認知症高齢者をケアする看護師690名を対象に質問紙調査を実施し,信頼性と妥当性を検証した.

結果:分析対象は567名(有効回答率82.2%)であった.項目分析と探索的因子分析により16項目3因子が抽出された.さらに,確証的因子分析により探索的因子分析で得られた仮説モデルの適合度が確認された.信頼性では,クロンバックα係数は尺度16項目全体が.93,因子別では.82~.91の範囲であった.再テスト法の級内相関係数は.69,外的基準としての「仕事ストレッサー尺度」との相関係数は.56であった.

結論:信頼性,妥当性は概ね良好であった.今後は,この尺度を使用しての実証研究を行うことが望まれる.

Translated Abstract

Aim: This study aims to develop a scal (NDDC: Nurses’ difficulties in dementia care) to measure difficulties nurses experience in providing care for elderly patients with dementia in acute care hospitals in Japan and evaluate the reliability and validity of the scale.

Methods: Based on previous qualitative studies and a literature review, we developed an original scale to measure the kinds of difficulties nurses experience in providing care for elderly patients with dementia in acute care hospitals. A questionnaire survey was conducted with 690 nurses in charge of patients with dementia in 6 national/public acute care hospitals nationwide, and the reliability and validity of the scale were evaluated.

Results: In total 567 responses (82.2%) were determined to be valid and included in the analyses. As a result of item analysis and exploratory factor analysis, 16 items and 3 factors were extracted. With a confirmatory factor analysis, the goodness of fit of the hypothetical model obtained by the exploratory factor analysis was confirmed. For reliability, Cronbach’s α coefficient was .93 for all 16 items and from .82 to .91 for each of the factors. The intra-test correlation coefficient in the retest was .69, and the correlation coefficient with the external standard “Job stressors scale” was .56.

Conclusion: The reliability and validity were considered to be generally good. In the future, it is desirable to conduct empirical research using this scale.

Ⅰ. 緒言

わが国は超高齢社会を迎え,令和元年度版高齢社会白書によると65歳以上高齢者人口3,558万人となり,総人口に占める割合(高齢化率)も28.1%となった(内閣府,2019).高齢社会の進展により認知症高齢者も増加し,認知症高齢者の数は2012年462万人,2025年700万人と65歳以上高齢者の約5人に1人と推計されている(内閣府,2017).それに伴い,認知症高齢者が身体疾患の治療のために,急性期病院に入院する機会が増加することが推測される.

身体疾患や外傷の急性期治療を行う病院では,治療を優先するため,認知症高齢者が行動を制限されることから,強い不安や興奮など行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:以下,BPSD)を生じさせやすい環境にある(Timmons et al., 2016).BPSDは,認知症に関するスタッフの専門的な知識やケア不足から生じてしまう.これらにより,認知症高齢者のBPSDの悪化は看護師の困難さを助長するという悪循環を生んでいる(Waldemar et al., 2007鈴木ら,2013).そのことが看護師を疲弊させることとなりバーンアウトにつながる可能性がある(Åström, 1990Hirata & Harvath, 2015)と報告されている.

また,急性期病院では,平均在院日数は17.2日(厚生労働省,2018)と短く,その中でも認知症高齢者の入院数の増加に伴い,常に認知症高齢者が入院している状況であり,効率・スピードを求める治療優先の医療に追加して認知症ケアを行っていく負担は大きいのではないかと考えられる.

介護保険施設では,尊厳ある暮らしの継続を支援することを目標に,早くから認知症ケアに取り組んでおり(厚生労働省,2015),認知症高齢者の看護の経験を積み重ねてきている.それに対して急性期病院では,認知症に対する看護が確立されておらず,急性期病院において一般病棟の看護師が身体疾患や外傷の治療の看護に加えて認知症看護を行っていくことに様々な困難感を抱いていることが報告されている(Eriksson & Saveman, 2002谷口,2006松尾,2011小山ら,20132014).

このような背景から日本老年看護学会(2016)は,急性期病院における認知症高齢者の看護の質向上を喫緊の課題と捉え,「急性期病院において認知症高齢者を擁護する立場表明2016」を発表した.2016年の診療報酬改定で,身体疾患のために入院した認知症高齢者へ病棟での取り組みや多職種チームによる介入が評価,認知症ケア加算1・2が新設され,一般病院でも認知症ケアについての意識が高まりつつある.しかし,これらの施策が加速する中,現場では,まだまだ課題が多く,看護師が困難感を持っている可能性があること,その現象を具体的に数値化する尺度を作成することで,研修の効果や経年変化,病院管理上の諸指標との関連を評価しやすくなるのではないかと考えた.

急性期病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難に関する研究は,年々増加しているが,認知症高齢者をケアする看護・介護職の困難感を測定する尺度は,介護施設で介護職に焦点を当てたもの(古村,2011原ら,2012)であり,急性期病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感を測定する尺度は見当たらなかった.そのため,急性期病院に勤務する看護師が認知症高齢者を看護する中で,具体的な困難感を明らかにし,その困難感を測定する尺度を作成する必要があると考えた.

本研究は,急性期病院に勤務する看護師が認知症高齢者をケアする上での困難感を評価するために,急性期病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感尺度を開発し,信頼性・妥当性の検証を行うことを目的とした.

Ⅱ. 方法

1. 用語の定義

本研究での急性期病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感とは,小山ら(2013)と予備調査から,「一般病棟において集中的な医療ケアを要する患者の看護を行っていくうえで,患者が認知症を有するがゆえに解決しがたいと感じる辛さ,不安,恐怖,負担,葛藤といった感情」と定義した.

2. 尺度作成のプロセス

急性期病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感尺度:Nurses’ difficulties in dementia care(以下,NDDC尺度)原案までのフローチャートを図1に示した.

図1 

NDDC原案までのフローチャート

予備調査(川村ら,2019)で明らかにした質的分析の抽出カテゴリーと質的先行研究の抽出カテゴリーを参考に,3つの仮説構成概念の〔認知症の症状に関連する困難〕,〔看護師としての職責に対する葛藤〕,〔認知症専科でない病棟に起因する困難〕を検討した.

予備調査では,「急性期病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感」の69文脈3のカテゴリー,11のサブカテゴリーが得られた.カテゴリーは《認知症の症状に関連する困難》,《看護師としての職責に対する葛藤》,《認知症専科でない病棟に起因する困難》,サブカテゴリーは〈安全な医療提供に対する困難感〉,〈意思疎通困難〉,〈暴力・暴言に対する困難感〉,〈認知症独特の対応に関する困難感〉,〈抑制することへのジレンマ〉,〈認知症についての理解不足〉,〈否定的な感情〉,〈他職種の協力〉,〈家族からの応じられない要望〉,〈仕事の過重負担〉,〈他の入院患者への支障〉であった.これを基に,素データの表現や先行研究を参考にし,複数の研究者で議論を重ね,カテゴリー内の項目数が多く,良く起こると考えられる困難な状況の項目を中心に各サブカテゴリーから2項目ずつ選定し,23項目を精選した.次に,先行研究の質的研究論文3編(松尾,2011小山ら,2014千田・水野,2014)から7項目を追加し,最終的に30項目の質問項目を得た.質問内容の重複が3項目あり削除し,その結果,仮説構成概念の3因子〔認知症の症状に関連する困難〕11項目,〔看護師としての職責に対する葛藤〕11項目,〔認知症専科でない病棟に起因する困難〕5項目からなる計27項目のNDDC尺度原案を作成した.

3. 対象者および調査期間

対象病院は急性期病院(一般病院,特定機能病院で入院基本料の看護配置基準7対1または10対1を取得している病院)として,全国の200床以上の6つの国公立系医療機関で認知症高齢者が入院している病棟に勤務する看護師690名を対象看護師として自記式質問紙調査を実施した.本テスト-再テストは2~4週間がよいとされるため(Carmines & Zeller, 1979/2003),1回目の調査から約2週間後に,再調査を行った.1回目と2回目のデータは,対象者の母の誕生日(月日)により照合し,同一日だった場合は,対象者の年齢も確認して照合した.

2019年2月~3月に調査を実施した.

4. 調査内容

1) 対象者の属性

性別,年齢,実務経験,職位,看護師経験年数,配偶者の有無,子どもの有無,身内の認知症患者の有無とした.

2) 急性期病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感.

回答は全くない1点,まれにある2点,たまにある3点,ときどきある4点,しばしばある5点,いつもある6点の6件法とした.NDDC尺度の得点が高いほど困難感が大きいとした.

3) 基準関連妥当性

基準関連妥当性を分析するために神経難病患者をケアする看護師における仕事ストレッサー尺度(以下,仕事ストレッサー尺度)(安東ら,2009Ando et al., 2013)を使用した.仕事ストレッサー尺度を選んだ理由は,ストレッサーとは職場ストレスの要因(東口ら,1998)とされ,困難感も辛い・不安など職場のストレスの要因であることが考えられることから,一定の相関があると想定した.

仕事ストレッサー尺度は,開発者の安東らが信頼性・妥当性を検証している26項目の評価尺度である.なお,本質問項目使用に際し,安東由佳子教授から使用許諾の承認を得た(2018年11月).

5. 分析方法

1) 項目分析

項目分析はNDDC尺度における各項目の度数分布と平均値・標準偏差による天井効果・床効果の確認,項目間および各項目と尺度全体の相関係数の算出(以下I-T相関),Good-Poor analysis(以下,GP分析)を行った.探索的因子分析への投入項目除外基準は,同じ尺度内で他の質問項目と非常に強く相関している場合は新たな情報を提供しない(Streiner et al., 2015/2016)と言われている.項目間相関では先行研究を参考にr≧.7とし,I-T相関では各質問項目のスコアが総スコアと相関する尺度の内的一貫性を考慮し,r < .3とした(Streiner et al., 2015/2016).GP分析では,上位約25%,下位約25%を基準点として対象者の3分割を行い,上位群と下位群の差をt検定を用いて有意差を確認した.

2) 妥当性の検証

(1) 構成概念妥当性

構成概念妥当性を検討するために,探索的因子分析を行い,下位構造の因子を20名の看護学に携わる看護学研究者(経験5年以上の看護師,看護管理者,老年看護学を含む看護学教員)で検討し解釈して因子名をつけた.さらに,確証的因子分析は,事前に因子構造を仮定し,それがデータに当てはまるかどうか,つまり実際に得られた因子構造が仮定した因子構造とどれほど近いかを統計学的に検証することができる(Streiner et al., 2015/2016)ため,確証的因子分析によってモデルの適合度を算出した.また,既知グループ法を用いた.尺度得点の差が生じることを想定した属性として,看護師経験年数,職位を設定した.

(2) 基準関連妥当性

基準関連妥当性の検証は,NDDCの総合得点と仕事ストレッサー尺度(安東ら,2009)との関係性を検討するため,Pearsonの積率相関係数を算出した.

(3) 標本の妥当性

標本の妥当性の検証は,Kaiser-Meyer-Olkin(以下,KMO)を用いた.

3) 信頼性の検証

(1) 内的整合性

内的整合性は尺度全体および下位尺度のクロンバックα信頼係数を算出した.

(2) テスト-再テスト法

時間的安定性の確認のため再テスト法は,同じ対象者483名に1回目の調査から2週間後に実施し両テストで級内相関係数を算出した.

解析にはIBM SPSS Statistics 25.0およびAmos Statistics 25.0を用いた.すべての分析において有意水準は両側5%とした.

6. 倫理的配慮

本研究は,国際医療福祉大学倫理施設委員会(承認番号:18-Ig-119)の承認を得た.対象者には研究の目的,方法,倫理的配慮について文書で説明した.説明書には調査への協力は自由意思にもとづき,参加の拒否や同意後の中止などによる不利益は一切ないこと,データは統計処理をして個人が特定されないこと,本研究の目的以外には使用しないこと,調査票,データの管理は厳重に行うことを明記した.調査票の回答をもって同意とみなし,不同意の場合には回収袋への投函の義務はなく白紙での投函も可能であることを説明した.

Ⅲ. 結果

1. 回収率と対象の特性

1回目の調査の回収数は,628名(91.0%),有効回答は認知症患者を看護している者(直近3か月)で,年齢,NDDC尺度の原案に欠損値や単一選択肢の回答において複数以上選択したものを除外したものとし,567名(82.2%)であった.内訳は男性65名(11.5%),女性493名(86.9%),であり,NDDC原案の総合得点平均値は男性102.9点,女性103.6点で有意な差はなかった.対象の属性を表1に示す.

表1  対象の属性 N = 567
項目 内訳 人数 (%) 平均値 標準偏差
年齢 567 (100.0) 34.9 9.7
20~29歳 217 (38.3)
30~39歳 155 (27.3)
40~49歳 149 (26.3)
50~59歳 44 (7.8)
60歳以上 2 (0.4)
性別 男性 65 (11.5)
女性 493 (86.9)
無回答 9 (1.6)
看護師経験年数 561 (98.9) 11.8 9.0
5年未満 161 (28.4)
5~10年未満 110 (19.4)
10~20年未満 155 (27.3)
20~30年未満 107 (18.9)
30年以上 28 (4.9)
無回答 6 (1.1)
職位 スタッフ 462 (81.5)
主任・副師長 99 (17.5)
無回答 6 (1.1)
配偶者の有無 なし 326 (57.5)
あり 239 (42.2)
無回答 2 (0.4)
子どもの有無 なし 347 (61.2)
あり 218 (38.4)
無回答 2 (0.4)
身内の認知症高齢者の有無 なし 452 (79.7)
あり 112 (19.8)
無回答 3 (0.5)

2回目の調査の回収数は,561名(81.3%),有効回答は認知症患者を看護している者(直近3か月)で,年齢,NDDC尺度の原案に欠損値や単一選択肢の回答において複数以上選択したものを除外したものとし,483名(70.0%)であった.

2. 項目の信頼性分析

項目のI-T相関,項目間相関,GP分析を示した(表2).I-T相関では.3未満の項目は認められなかったが,項目間相関で.7以上の項目番号3,6,9,25の4項目を削除した.また,フロア効果を示す項目は認められなかったが,天井効果を示す項目番号2の1項目を削除した.GP分析では,合計得点から下位群(n = 143,25.2%:86点以下),上位群(n = 148,26.1%:120点以上)を抽出した結果,いずれの項目についても1%水準での有意差があり,該当する項目はなかった.

表2 

尺度原案における項目分析

3. 妥当性の検証

1) 構成概念妥当性

(1) 探索的因子分析(表3)

尺度原案27項目から項目間相関4項目,天井効果を示す1項目除外し,NDDC尺度22項目に対し探索的因子分析を行った.初期固有値の変化とスクリープロットから3因子と判断し,固有値1以上,因子負荷量は.35以上,因子負荷量が2因子へまたがっていないことを基準として項目選定を行い,該当しない項目をその都度削除しながら最尤法,プロマックス回転での因子分析を行った.その結果7項目が削除され,16項目3因子構造を得た.削除された項目は表3の下覧に示した.

表3  NDDC尺度の探索的因子分析 N = 567
質問番号 因子とクロンバック係数質問項目 因子負荷量
第1因子 第2因子 第3因子 共通性
第1因子:認知症高齢者のBPSDへの対応及び周囲の患者との調整困難感 α = .914
26 不穏患者が大声を出すと周囲の患者に迷惑がかかるので困る .84 –.06 –.06 .60
8 夜間,眠れない患者への対応が負担である .81 .00 –.04 .62
10 食事介助や排泄援助などに多くの時間をとられて辛い .79 –.01 –.01 .61
7 患者の便や尿汚染など不潔行為への対応に困る .73 –.01 –.01 .53
24 限られた職員で患者の生活行動を見守るのは困難である .72 –.04 .03 .51
4 患者に何度も同じことをくり返し説明することは辛い .70 .10 –.10 .51
11 業務が多い中,離院の恐れがある患者への対応に時間がとられるのが困る .67 –.08 .11 .48
27 病棟内で患者同士のクレームに対応するのは辛い .67 –.05 .16 .55
23 重症患者や介護度が高い患者を多く受け持つことは負担である .58 .16 .03 .49
5 患者の暴言や暴力,急に怒り出す行為を怖いと感じる .53 .11 –.01 .36
第2因子:認知症看護の知識・経験不足による困難感 α = .833
15 訴えられない患者の全身状態をアセスメントすることは難しい –.02 .92 –.06 .78
16 不眠・不穏時等の服薬の使用やタイミングの判断が不安である .14 .72 –.02 .65
14 認知症について学ぶ機会がなく,自分の知識・経験が不足していて患者への対応が不安である –.08 .69 .13 .51
第3因子:医師や同僚との共通理解及び多職種チーム連携の困難感 α = .819
20 医師と看護師が患者に対する治療方針を共有できず不安である –.03 –.02 .87 .72
19 同僚と認知症ケアについての意見が食い違って辛い –.01 –.01 .72 .51
18 医師と看護師,他の職種の連携が不十分であり困る .07 .09 .69 .61
因子間相関 1.00 .57 .53
尺度全体 α = .918 .57 1.00 .44
.53 .44 1.00

削除した質問項目

1 私は,患者に必要なルート類を抜去されるのが辛い

2 転倒の危険性が高い患者に,何度説明しても動き出してしまうので不安である

12 患者の安全を守るために行う抑制が患者の尊厳を守れないことになり辛い

13 患者の訴えに十分対応する時間が確保できずに辛い

17 認知症の症状で困ったときにタイムリーに相談できる医師がいないと困る

21 家族から不安や心配を表出された場合の対応に困難を感じる

22 家族の協力が得られず退院支援に困難を感じる

(2) 構成概念の命名

尺度の第1因子は,認知症高齢者の暴力・暴言・徘徊・不潔行為などの行動症状と不安や睡眠障害などの心理症状などBPSDに対応することによる困難,認知症高齢者のBPSDによって,周囲の患者にも影響を及ぼすことから調整を行わなければならない困難感から構成されていることから,【認知症高齢者のBPSDへの対応及び周囲の患者との調整困難感】とした.第2因子は,看護師が認知症についての知識・経験不足によって認知症高齢者への対応の不安が含まれていることから【認知症看護の知識・経験不足による困難感】とした.第3因子は,医師と治療方針の共通理解が得られないこと,看護師同士の認知症ケアに関して意思疎通ができないこと,多職種との連携が不十分であるなどの困難感から構成されていることから,【医師や同僚との共通理解及び多職種チーム連携の困難感】とした.

(3) 確証的因子分析(図2

探索的因子分析で得られたNDDC尺度の16項目において,仮説モデルの適合度を確証的因子分析で確認した.適合度はGFI = .930,AGFI = .906,RMSEA = .620(p < .01)であった.

図2 

NDDC尺度の確証的因子分析

GFI = .930 AGFI = .906 RMSEA = .062

(4) 既知グループ法

看護師経験年数の4群別でみると,16項目全体では有意差はなかった.第2因子は5%水準で有意差がみられ,多重比較において「5年未満」と「10~20年」「20~30年」の間に5%水準で有意差がみられた.

職位の2群別でみると,16項目全体で5%水準の有意差がみられ,「主任・副師長」は55.00 ± 15.61点で,「スタッフ」は59.24 ± 14.24点であった.

2) 基準関連妥当性(表4

基準関連妥当性の検討は既存尺度で行った.NDDC尺度総合得点と仕事ストレッサー尺度の相関係数は,総合得点間で.56(p < .01)であった.また,下位因子別の相関係数は.37~.70(p < .01)であった.

表4  NDDC尺度と仕事ストレッサー尺度との相関 N = 483
神経難病患者をケアする看護師の仕事ストレッサー
医師との軋轢 仕事の量的負担 ケアの見通しの 不明瞭さ 上司との軋轢 関わりの難しさ 同僚との軋轢 ケアと成果の 不均衡 言語的暴力 総合得点
急性期病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感 .439** .530** .540** .368** .696** .444** .474** .493** .563**

ピアソンの相関係数 ** p < 0.01

3) 標本妥当性

NDDC尺度総合得点平均値は59.0点(標準偏差±13.9)でShapiro-Wilkの正規性の検定により正規分布が確認された.KMOの標本妥当性は.93であった.

4. 信頼性の検証

内的整合性は尺度全体のクロンバックα信頼係数で.93,第1因子10項目は.91,第2因子3項目は.83,第3因子3項目は.82であった(表3).テスト-再テスト法の級内相関係数は.69(p < .01)であった.

Ⅳ. 考察

本尺度は予備調査と先行研究の質的研究論文から尺度原案を作成し,項目分析と探索的因子分析により16項目3因子構造を確認後,確証的因子分析においてモデルの適合度を検討し,基準関連妥当性および内的整合性と時間的安定性により妥当性と信頼性の確保を検証するというプロセスを経て開発した.開発したNDDC尺度は,16項目からなり総合得点は,16~96点の範囲を取り,得点が高いほど困難感が高いと解釈できた.

1. 妥当性

探索的因子分析により,【認知症高齢者のBPSDへの対応及び周囲の患者との調整困難感】【認知症看護の知識・経験不足による困難感】【医師や同僚との共通理解及び多職種チーム連携の困難感】の3因子となった.

本研究の第1因子である【認知症高齢者のBPSDへの対応及び周囲の患者との調整困難感】は,先行研究の認知症に関連した症状の対応が難しい(鈴木ら,2013古村,2011)に類似していた.また,仮説構成概念として《認知症専科でない病棟に起因する困難》4項目も第1因子に吸収された.認知症専科でなく,急性期病院で一般の患者も入院している環境がゆえに認知症高齢者が不安定になり,BPSDといわれる暴力・暴言や徘徊,興奮を助長させることで,対応困難になる(小山ら,20132014)と考える.

第2因子である【認知症看護の知識・経験不足による困難感】は,仮説構成概念の《看護師としての職責に対する葛藤》に含まれていたが,認知症看護を行う上での,知識・経験不足が抽出された形になった.先行研究では,認知症の人のニーズに沿った十分なケアを行うことへの困難(小山ら,2014)が類似していた.急性期病院の看護師は,認知症に対する知識や経験が少ないことから,認知症高齢者への関りや配慮が不足してBPSDを引き起こし,さらに認知症高齢者への対応を困難にしている(鈴木ら,2013)とされ,認知症看護の知識・経験の有無については,困難感の軽減について評価するうえで必要な項目であると考える.

第3因子である【医師や同僚との共通理解及び多職種チーム連携の困難感】は,仮説構成概念として,《看護師としての職責に対する葛藤》に含まれていたが,同僚や医師・他職種との連携についての困難が独立して抽出された.先行研究では,認知症高齢者の安全や負担を軽減する上で医師との意見の相違が生じる困難さやスタッフ間のケアへの思いのずれ(松尾,2011)など,看護師や医師・他職種との情報共有や連携ができないことへの困難として類似している.一般の患者と比較して認知症高齢者は関わりが難しいため,看護師と多職種が認知症高齢者のケアの特徴と理念を理解し,対応のスキルの幅や選択肢を増やすとともに,共通の方針や目標を共有することで,チーム連携を深めることが重要であると考える.

NDDC尺度は,認知症により意思疎通が得られないため刻一刻と変化していく患者の全身状態を把握することが困難であること,重症患者や他の患者を多く受け持ちながら認知症高齢者に対応することが困難であること,認知症看護の知識・経験が不足していること,認知症高齢者を取り巻く多職種との連携が困難であることなど急性期病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感を測定するものであり,内容妥当性は確保されたと考える.

また,KMOの標本妥当性は,良好(Kaiser, 1970)であった.探索的因子分析により抽出された3因子により確証的因子分析を行った結果,モデルのGFI,AGFIは,統計学的水準をみたしており(山本・小野寺,2002)良好な適合度であった.RMSEAは.062であった.RMSEAは.05以下であれば当てはまりがよく.1以上であれば当てはまりがよくないと判断され(豊田,2017),.08以下であれば適合度は高い(山本・小野寺,2002)とされている.これらのことから適合度は概ね良好であると考える.

既知グループ法を用いて,職位,看護師経験年数別の得点状況の差を検討した.職位では,想定した通り,主任・副師長などの役職がついている者は,スタッフよりも臨床経験に加えて教育経験もある.そのため,認知症ケアに関する知識・経験が豊富なことが困難感の低い要因と考える.また,看護師経験では,経験が長い者ほど,認知症看護の知識・経験不足による困難感は低かった.認知症高齢者は,より個別性の理解が求められることから,看護師経験を重ねることで,認知症高齢者への対応能力を獲得していったのではないかと考える.

基準関連妥当性は,「仕事ストレッサー尺度」と本研究で中程度の相関が得られた.仕事ストレッサーと認知症高齢者をケアする看護師の困難感は,患者に対応するケア提供者の負担が大きく精神的ストレスを伴うということから正の相関であり,基準関連妥当性が確認された.

2. 信頼性

クロンバックα係数は,全体および第1因子・第2因子・第3因子共に高かった(Polit & Beck, 2007/2010Streiner et al., 2015/2016).再テスト法の評価は,2週間後の級内相関係数は中程度の相関があった.再検査信頼性係数とその評価について,小塩(2016)は,多くの研究者は相関係数がr = .50未満で信頼性が不十分と評価する可能性が高まることを報告している.本研究では,中程度の相関係数が得られていることは,本尺度の信頼性は概ね確保できたと考える.

Ⅴ. 本研究の限界と今後の課題

本研究は,国公立系医療機関で認知症高齢者が入院している病棟に勤務する看護師を対象としており,一般化には限界がある.今後は様々な背景をもつ急性期病院を調査対象とし,実証研究を行うことで,NDDC尺度を評価していきたい.

Ⅵ. 結論

本研究で開発されたNDDC尺度は,3因子16項目となり,妥当性と信頼性が検証された.

謝辞:本研究を実施するにあたり,調査に快くご協力いただきました看護師の皆様,看護部長の皆様に心より感謝申し上げます.

なお,本研究は,本研究は,JSPS科研費JP17K1218の助成を受けたものです.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない

著者資格:HKは研究全般を実施,SNは研究の着想およびデザインに貢献;STは統計解析の実施および草稿の作成;ESは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承諾した.

文献
 
© 2020 公益社団法人日本看護科学学会
feedback
Top