2020 年 40 巻 p. 322-331
目的:トランスジェンダー(TG)に対する看護師の知識および理解的態度と看護実践の関連性について検証すること.
方法:全国の711病院に勤務する看護師を対象に,無記名自記式オンライン調査を実施した.TGに関する知識・理解的態度,TGに対する看護実践,基本属性等について尋ねた.独立変数を知識および理解の各変数,従属変数をTGに対する理想的な看護実践と現実的な看護実践とし,重回帰分析を用いて偏回帰係数および95%信頼区間を算出した.
結果:合計528名から回答を得た.TGの知識得点が高いことは,理想的な看護実践・現実的な看護実践ともに得点が高いことと関連していた.TGへの理解的態度の得点も,理想的な実践と有意な関連がみられたが,現実的な実践には関連がなかった.
結論:TGについて理解的であるだけでなく,正しい知識を持つことがTGへの看護において重要であり,より良い支援につながる可能性がある.
Objective: The objective of this study was to examine whether nurses’ knowledge and understanding attitudes towards transgender (TG) are associated with nursing care provided to TG people.
Methods: An anonymous self-administered online survey was conducted among nurses working at 711 hospitals across Japan. Participants were asked to complete a questionnaire covering topics such as their knowledge/understanding attitudes towards TG, nursing care provided to TG people, and demographic characteristics. Partial regression coefficients and 95% confidence intervals were calculated using multiple regression analysis with the knowledge and understanding of TG as the independent variables, and ideal nursing care and actual nursing care provided to TG people as the dependent variables.
Results: A total of 528 people responded to the survey. The high scores in knowledge of TG indicated high scores in both ideal and actual nursing care provided to TG people. The scores on understanding attitudes towards TG were also significantly associated with ideal nursing care, but not with actual nursing care provided to TG people.
Conclusion: To have a good understanding as well as the correct knowledge about TG is important for nurses in providing their nursing care, and may lead to better support for TG people.
LGBT(Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender: LGBT)は,レズビアン(女性同性愛者),ゲイ(男性同性愛者),バイセクシャル(両性愛者),トランスジェンダー(性別違和を持つ人々,性別越境者)を表す言葉で,近年,LGBTをはじめとするセクシュアルマイノリティに対する人々の意識は著しく変化してきている.日本ではLGBTに該当する人は8.9%で,「心の性」と「身体の性」が一致しないトランスジェンダー(Transgender: TG)に該当する人は0.7%と報告されている(電通ダイバーシティ・ラボ,2015,2018).性に関する違和感を持ち,医療機関を受診した人は2015年時点で約29,000人と推測されており,カミングアウトをしていない人や違和感があってもアイデンティティが確立されていない人などを考慮すると,日本におけるLGBTなどのセクシュアルマイノリティの総数は増加している(中塚,2017).
日本における性同一性障害に関する動きとして,1997年に日本精神神経学会・性同一性障害に関する特別委員会により「性同一性障害の診断と治療のガイドライン(初版)」が公表された(日本精神神経学会・性同一性障害に関する委員会,2018).さらに,2004年「性同一性障害の性別の取り扱いの特例に関する法律」が施行され,一定条件のもと,戸籍上の性別変更が可能となったが,戸籍上の性別を変更するためには性別適合手術を受けるという条件を満たすことという内容が含まれている.2014年に世界保健機関(World Health Organization: WHO)は「生殖機能をなくすような手術の強制は人権侵害である」とし,性別変更の条件として「生殖腺除去手術」を挙げている国は,その条件を削除するように求めたが,現在日本では法改正にはつながっていない.そのようななか,医療現場では,2018年に診療報酬改定により性別適合手術の公的医療保険が適用となった.依然として課題が多く残るものの,性同一性障害に関する法律,制度は著しく変化しており,日本国内で性別適合手術を受ける性同一性障害の患者は増加すると推測され,医療とのつながりも大きくなる.
セクシュアルマイノリティが医療現場で受ける対応について,海外の調査では,医療現場において,LGB(Lesbian,Gay,Bisexual)の子を持つ親は看護師の知識の欠如から疎外感を感じているという報告があり(Andersen et al., 2017),親だけでなくLGBの子も同様に疎外感を感じている可能性がある.さらに,心の性と身体の性が一致しているシスジェンダーに比べ,TGは医療において質の低いケアを受けていると感じ医療格差を指摘する報告もある(Jennings et al., 2019).国内の調査では,LGBT法連合会が2015年に発表した当事者の日常生活での困難をリスト化した資料によると,日本では,特に医療に関して,医療従事者の知識不足,偏見に起因すると推測される当事者の不快感や苦痛が挙げられている(LGBT法連合会,2015).また,TGの人は医療機関受診を嫌がり,受診が遅れることが報告されており(富岡・中塚,2010),症状や疾患が進行することも考えられる.さらに若者のLGBTは同年代の人口と比べて薬物使用,性感染症,がん,循環器疾患,肥満,いじめ,孤立,拒絶,不安,うつ病,自殺のリスクが高いこと(Hafeez et al., 2017)や,性同一性障害の人がホルモン治療を受けることによる骨粗しょう症などの副作用および性別適合手術による合併症のリスクが高い(Sedlak et al., 2017).これらのことから,TGの人々の何らかの疾病有病率は高くなると考えられ,医療的ニーズは高く,医療従事者はTGに関する知識を持っておく必要がある.しかし,義務教育を始め看護師がTGに関する知識を学ぶ機会はほとんどなく(岩田ら,2017),国内外の多くの看護師が対象理解のための十分な知識を持たないままケアを提供している可能性がある.また,セクシュアルマイノリティの患者は,看護師に性に関する情報を無視され繰り返し伝えなければならなかったり,忘れられていると感じていることが明らかになっており(Fish & Bewley, 2010;Röndahl, 2009),TGにおいても看護師のこのような態度が患者の不快な体験につながっている可能性がある.そのため,看護師のTGに対する知識や理解がないことで,TGがどのような場合に不快な思いをしているのか,TGの治療に沿った配慮など起こりうる事象を想定できず,TGが安心・安楽に医療を受けられる看護実践ができていないことが考えられる.そこで,TGに対して看護師が正しい知識を有することや理解的であることは,TG患者に対する看護実践において,より患者の希望するケアが提供できることに関連しているのではないかと仮説をたて,本研究は,看護師の知識および理解的態度と看護実践との関連性について検証することを目的に実施した.
TGとは,「心の性」と「身体の性」とが一致しない人々のことで,性同一性障害とは,TGの人々のうち,医学的対応を希望し医療機関を受診した場合に使用する診断名である(中塚,2017).
知識,理解的態度,看護実践は,本研究独自の操作的定義を用いた.知識は,TGをとりまく医療,制度,用語などの知識のことであり,既知の事実であり正誤で判断できるものとした.TGに対する理解的態度は,偏見や社会的距離として測定される態度とした.看護実践は,対象者にケアを提供する看護行為とした.
2. 対象者2019年4月から9月の調査期間に,性別適合手術の公的医療保険適用が認定された国内6病院と,全国の入院施設を要する711病院を無作為に抽出し,研究協力を依頼した.部署や役職は問わず,看護部長を通して病棟看護師に依頼する方法で対象者を選択した.性別適合手術の公的医療保険適用認定病院では,看護部長が対象者を選定する際に,交絡変数として設定したセクシュアルマイノリティとかかわった経験やTGの患者を受け持った経験のある看護師が含まれるよう依頼した.
3. 調査方法および内容研究デザインは,観察的横断研究で,無記名自己回答式によるオンライン調査を実施した.研究者が作成し,プレテストによって信頼性・妥当性を検証した調査票を用いて調査した.QR(Quick Response: QR)コードとURL(Uniform Resource Locator: URL)を用い,オンライン調査へのアクセス方法の手順を記載した調査協力カードを作成し対象者へ配布した.各医療機関の看護部長への依頼時に,研究の概要と研究目的や同意方法について記載した説明文書とオンラインアンケートの見本及び調査協力カード20部ずつを郵送し,同時に電話にて研究の詳細について説明した.調査カードに記載したQRコードやURLから誰でもアクセス可能であるため,医療機関ごとの回答者数は20名以上となる場合もある.回答はオンライン調査によって個別に回答を送信できる方法を用いた.本調査の前に,質問紙の信頼性・妥当性の検証を行うため,看護学生および看護師を対象に再テスト法によるプレテストを実施し,知識10項目,理解的態度14項目の尺度を作成した.看護実践は4つの短い看護場面(ビネット)について質問した.交絡の可能性が考えられる参加者の基本的社会的属性について,およびセクシュアルマイノリティについての教育の必要性についても尋ねた.対象者に回答を求める質問項目では,TGではなく性同一性障害を使用した.これは,性別適合手術を受ける場合に使用されてきた診断名であり,DSM-IV(Diagnostic & Statistical Manual of Mental Disorders, 4th ed.: DSM-IV)およびICD-10(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems, 10th version: ICD-10)において共通であることから,医療従事者にとってTGよりも認知されていると考えたためである.
1) 対象者の基本的社会的属性参加者の属性について,年齢,性自認および性的指向,セクシュアルマイノリティと関わった経験の有無,性教育を受けた経験の有無,メディアやソーシャル・ネットワーク・サービス(Social network service: SNS)でセクシュアルマイノリティに関する情報に暴露した経験の有無,セクシュアルマイノリティに対する否定的思考をもつ家族や友人などの存在,宗教の項目について回答を求めた.TGに関する国内の先行研究は少なく,交絡変数の可能性について先行文献を用いて選択することは困難であったため,研究者間で次のとおり変数を選択した.TGに対する知識や理解的態度の程度は年代により差があると考えられる.また,女性よりも男性の方が同性愛について好ましく思っていないという報告から,セクシュアルマイノリティに対する知識や理解的態度の程度には性差があると考えられる(和田,2008).TGを含むセクシュアルマイノリティに曝露した経験,TGの患者を担当した経験の有無は,知識や理解に影響を与えている可能性がある.家族や友人など周囲にセクシュアルマイノリティに否定的な考えを持つ人が身近にいることや,宗教上認められていないことも知識や理解の程度に影響を及ぼしている可能性がある.
2) TGに関する知識独立変数として扱った「知識」は,国内のTGに関する先行研究で使用された性同一性障害(Gender Identity Disorder: GID)についての知識の項目(福岡,2015;日向ら,2007),および中塚(2017)の説明を参考にして独自で作成した.TGの知識は,“FTM(Female to Male,身体の性は女性,心の性は男性)はホルモン療法により声が低くなり,月経が止まる”,“性自認と性的指向は同じである”,“戸籍の性別欄を変更することができる”等の合計10項目で構成し,尋ねた.回答は,正・誤・わからない,の3つの選択肢を設けた.わからないの選択肢を回答に加えることにより,憶測での回答を減らし,正しい知識を有しているかをより正確に尋ねることができる.分析時は,わからないの回答は誤回答とし,正を1点,誤を0点とし合計点を算出した.
3) TGに対する理解的態度独立変数として扱ったTGに対する「理解的態度」の尺度も,本研究独自に作成した.国外で使用されている同性愛者等のセクシュアルマイノリティに対する態度の質問項目(Dillon & Worthington, 2005)は,統合失調症患者に対する社会的距離の測定尺度の内容と類似しており,牧田(2006)が日本語で作成した統合失調症に対する社会的距離尺度(Social Distance Scale Japanese version: SDSJ)を参考にし,さらに国内のTGに関する先行研究から「性別適合手術に対する考え方」,「GID者の戸籍の性別変更についての考え方」(日向ら,2007),GIDに関する説明の記述(中塚,2017)を参考に尺度を作成した.具体的な質問項目として,“私は性同一性障害の人と同じ職場で働きたいと思わない”,“性別適合手術を受けてまで,望む性別に近づけるべきではない”,“家族の一人が性同一性障害であることをカミングアウトしたら,私は受けとめることができる”,“もし,性同一性障害の人と自分の娘・息子が結婚したいと言ったならば,娘・息子がどうであれ私は結婚に反対するだろう”など逆転項目を含む合計14項目を設定し,それぞれ,3点:よく当てはまる,2点:少し当てはまる,1点:あまり当てはまらない,0点:全く当てはまらない,の4件法で回答を得て合計点を算出した.
4) TGに対する看護実践本調査において従属変数として扱った看護実践は,LGBT法連合会が報告した医療における当事者の困難リストを参考に独自で作成した(LGBT法連合会,2015).また,質問方法についてはメンタルヘルスリテラシー教育に関する先行研究を参考にし(Jorm et al., 2005),医療現場で生じる患者−看護師のやりとりについて,(1)TG患者を呼ぶ際に,本人の希望に従い姓のみで呼称すること,(2)TG患者が入院する際の病室の決定,(3)ホルモン療法による副作用でニキビが出現した際の皮膚科受診時の保健指導,(4)MTF患者の術後の陰部洗浄の実施に関する短い4場面(ビネット)について設問を作成した.調査対象者の多くはTGへの看護を実際に経験したことがなく,どのような看護場面に遭遇するかイメージすることが難しいと判断したため,ビネットのストーリーを読むことで実際には体験したことがない場面についても考察することができると考え,4パターンのビネットを提示する方法を用いた.例えば,“Aさん,18歳.性同一性障害FTM(身体の性は女性,心の性は男性)が骨折をして大部屋に入院予定である.Cさんの意向は男性の大部屋を希望.部屋の配置をする看護師の立場であなたならばどのように対応しますか”の設問に対して,a)女性の大部屋に入ってもらう,b)男性の大部屋に入ってもらう,c)男性の大部屋には規則として入室できないことをCさんに伝え,個室料金が必要であるが,個室を案内する,の選択肢を設定し,a~cのひとつを選び回答するよう求めた.回答は,それぞれの場面において調査対象者がどのような対応を行うかについて,不適切と考えられる回答を1つ含む選択肢を設け,調査時には実際には行っていないが,「現実的に行うと思う看護」と「理想だと思う看護」について,それぞれ回答を求めた.現実的に行うと思う看護と理想だと思う看護を区分して回答を求めた理由は,勤務先医療機関の規則や方針に影響を受ける看護実践と,規則に影響を受けない理想的な看護実践が異なる可能性を想定したためである.正しい知識や理解があっても実践を行う過程で外的要因によって配慮のある看護が行えない場合があれば,不適切な選択肢を回答する可能性があり,外的要因の影響を排除する目的で理想の看護実践についても尋ねた.分析時は,それぞれの状況において取り得る対応でTG患者に対して配慮がないと考えられる不適切な回答を選択した場合は0点,それ以外の回答を選択した場合は1点として合計点を算出した.
分析方法まず,対象者の基本的社会的属性およびTGに対する知識や理解的態度の実態を把握するため,記述統計を行った.次に,強制投入法を用いて,独立変数をTGに関する看護師の知識あるいは理解的態度,従属変数をTG患者に対する看護実践とし,交絡変数で調整した重回帰分析を行い,偏回帰係数と95%信頼区間を算出した.独立変数および交絡変数の各変数間の相関係数がr = –0.17から0.12未満の範囲であること,重回帰モデルはいずれも残差が正規分布に従うことを確認した.統計解析には,SPSS ver26.0(IBM Japan, Tokyo)を使用した.
4. 倫理的配慮プレテスト,本調査ともにオンライン調査の最初のページに,研究説明文,協力依頼文,協力可能な場合にアクセスし,回答の送信をもって同意したものとみなすことを明記した.収集したデータは施錠できるロッカーなどの保管庫で厳重に保管し,本研究以外に使用することや研究者以外のものがデータを利用することはなく,調査は匿名性を遵守した.岡山県立大学倫理委員会の承認を得ている(2018年11月22日承認,番号18–60).
アンケートの回答数は611名であった.そのうち,独立変数および従属変数ともに欠損のなかった有効回答数は528名であった(有効回答率86.4%).
対象者の平均年齢は,41.3 ± 10.6歳,21~69歳であった.生物学的性は男性47名(9.0%),女性473名(91.0%)であった(表1).TGに該当する人は9名(1.7%),TGを含むセクシュアルマイノリティに該当する人は56名(10.8%)であった.LGBTという用語の認知に関して,知っている324名(61.4%),聞いたことがある119名(22.5%),知らない85名(16.1%)であった.さらに,セクシュアルマイノリティについて教育を受けた経験がある人は70名(13.3%),ない人は456名(86.7%)であった.セクシュアルマイノリティについての教育の必要性について尋ねた質問では,「必要である」について,よく当てはまる274名(51.9%),当てはまる223名(42.2%),当てはまらない29名(5.5%),全く当てはまらない2名(0.4%)であった.セクシュアルマイノリティと関わった経験は,ある215名(40.9%),ない311名(59.1%)であった.さらに,TGの患者に看護を提供したことがある人は101名(19.2%),ない人は425名(80.8%)であった.SNSやメディアからセクシュアルマイノリティに関する情報に暴露した経験では,見たことがある392名(74.5%),見たことがない134名(25.5%)であった.宗教上,同性愛が認められている及び無宗教は331名(63.7%),認められていない及びどちらとも言えないは189名(36.3%)であった.
Total n(%) | 理想の看護実践 | 現実の看護実践 | ||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0点 | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 0点 | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | |||||||||||||
n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | |||
知識 | ||||||||||||||||||||||
平均(標準偏差) | 3.8(1.9) | |||||||||||||||||||||
0~2点 | 140(26.5) | 2 | (1.4) | 1 | (0.7) | 5 | (3.6) | 33 | (23.6) | 99 | (70.7) | 2 | (1.4) | 9 | (6.4) | 24 | (17.1) | 48 | (34.3) | 57 | (40.7) | |
3~5点 | 280(53.0) | 0 | (0.0) | 3 | (1.1) | 8 | (2.9) | 45 | (16.1) | 224 | (80.0) | 2 | (0.7) | 15 | (5.4) | 45 | (16.1) | 108 | (38.6) | 110 | (39.3) | |
6~9点 | 108(20.5) | 0 | (0.0) | 1 | (0.9) | 1 | (0.9) | 14 | (13.0) | 92 | (85.2) | 1 | (0.9) | 2 | (1.9) | 12 | (11.1) | 36 | (33.3) | 57 | (52.8) | |
理解的態度 | ||||||||||||||||||||||
平均(標準偏差) | 32.9(5.2) | |||||||||||||||||||||
10~19点 | 4(0.8) | 0 | (0.0) | 0 | (0.0) | 1 | (25.0) | 2 | (50.0) | 1 | (25.0) | 0 | (0.0) | 0 | (0.0) | 2 | (50.0) | 1 | (25.0) | 1 | (25.0) | |
20~29点 | 137(25.9) | 2 | (1.5) | 2 | (1.5) | 5 | (3.6) | 33 | (24.1) | 95 | (69.3) | 4 | (2.9) | 7 | (5.1) | 19 | (13.9) | 54 | (39.4) | 53 | (38.7) | |
30~39点 | 330(62.5) | 0 | (0.0) | 3 | (0.9) | 8 | (2.4) | 50 | (15.2) | 269 | (81.5) | 1 | (0.3) | 16 | (4.8) | 48 | (14.5) | 121 | (36.7) | 144 | (43.6) | |
40~49点 | 57(10.8) | 0 | (0.0) | 0 | (0.0) | 0 | (0.0) | 7 | (12.3) | 50 | (87.7) | 0 | (0.0) | 3 | (5.3) | 12 | (21.1) | 16 | (28.1) | 26 | (45.6) | |
年齢 | ||||||||||||||||||||||
平均(標準偏差) | 41.3(10.6) | |||||||||||||||||||||
20代 | 100(19.2) | 2 | (2.0) | 2 | (2.0) | 1 | (1.0) | 18 | (18.0) | 77 | (77.0) | 3 | (3.0) | 9 | (9.0) | 25 | (25.0) | 30 | (30.0) | 33 | (33.0) | |
30代 | 105(20.2) | 0 | (0.0) | 0 | (0.0) | 8 | (7.6) | 11 | (10.5) | 86 | (81.9) | 0 | (0.0) | 3 | (2.9) | 19 | (18.1) | 49 | (46.7) | 34 | (32.4) | |
40代 | 181(34.8) | 0 | (0.0) | 1 | (0.6) | 2 | (1.1) | 40 | (22.1) | 138 | (76.2) | 0 | (0.0) | 9 | (5.0) | 21 | (11.6) | 65 | (35.9) | 86 | (47.5) | |
50代 | 125(24.0) | 0 | (0.0) | 1 | (0.8) | 3 | (2.4) | 20 | (16.0) | 101 | (80.8) | 2 | (1.6) | 4 | (3.2) | 14 | (11.2) | 41 | (32.8) | 64 | (51.2) | |
60代 | 9(1.7) | 0 | (0.0) | 0 | (0.0) | 0 | (0.0) | 1 | (11.1) | 8 | (88.9) | 0 | (0.0) | 0 | (0.0) | 2 | (22.2) | 4 | (44.4) | 3 | (33.3) | |
無回答 | 8(NA) | |||||||||||||||||||||
身体の性 | ||||||||||||||||||||||
男性 | 47(9.0) | 1 | (0.2) | 4 | (0.8) | 10 | (2.1) | 81 | (17.1) | 377 | (79.7) | 5 | (1.1) | 22 | (4.7) | 72 | (15.2) | 169 | (35.7) | 205 | (43.3) | |
女性 | 473(91.0) | 1 | (2.1) | 0 | (0.0) | 4 | (8.5) | 9 | (19.1) | 33 | (70.2) | 0 | (0.0) | 3 | (6.4) | 9 | (19.1) | 20 | (42.6) | 15 | (31.9) | |
無回答 | 8(NA) | |||||||||||||||||||||
性自認と性的指向 | ||||||||||||||||||||||
セクシュアルマイノリティ当事者 | 56(10.8) | 1 | (1.8) | 1 | (1.8) | 3 | (5.4) | 10 | (17.9) | 41 | (73.2) | 1 | (1.8) | 1 | (1.8) | 10 | (17.9) | 14 | (25.0) | 30 | (53.6) | |
上記のうちLGB | 47(9.0) | 1 | (2.1) | 1 | (2.1) | 3 | (6.4) | 8 | (17.0) | 34 | (72.3) | 1 | (2.1) | 1 | (2.1) | 10 | (21.3) | 11 | (23.4) | 24 | (51.1) | |
上記のうちT(トランスジェンダー) | 9(1.7) | 0 | (0.0) | 0 | (0.0) | 0 | (0.0) | 2 | (22.2) | 7 | (77.8) | 0 | (0.0) | 0 | (0.0) | 0 | (0.0) | 3 | (33.3) | 6 | (66.7) | |
LGBTの当事者ではない | 464(89.2) | 1 | (0.2) | 3 | (0.6) | 11 | (2.4) | 80 | (17.2) | 369 | (79.5) | 4 | (0.9) | 24 | (5.2) | 71 | (15.3) | 175 | (37.7) | 190 | (40.9) | |
無回答 | 8(NA) | |||||||||||||||||||||
セクシュアルマイノリティと関わった経験 | ||||||||||||||||||||||
ある | 215(40.9) | 0 | (0.0) | 1 | (0.5) | 3 | (1.4) | 37 | (17.2) | 174 | (80.9) | 2 | (0.9) | 8 | (3.7) | 33 | (15.3) | 76 | (35.3) | 96 | (44.7) | |
ない | 311(59.1) | 2 | (0.6) | 3 | (1.0) | 11 | (3.5) | 55 | (17.7) | 240 | (77.2) | 3 | (1.0) | 17 | (5.5) | 48 | (15.4) | 115 | (37.0) | 128 | (41.2) | |
無回答 | 2(NA) | |||||||||||||||||||||
セクシュアルマイノリティに関する教育の有無 | ||||||||||||||||||||||
ある | 70(13.3) | 0 | (0.0) | 1 | (1.4) | 0 | (0.0) | 10 | (14.3) | 59 | (84.3) | 1 | (1.4) | 4 | (5.7) | 14 | (20.0) | 24 | (34.3) | 27 | (38.6) | |
ない | 456(86.7) | 2 | (0.4) | 3 | (0.7) | 14 | (3.1) | 82 | (18.0) | 355 | (77.9) | 4 | (0.9) | 21 | (4.6) | 67 | (14.7) | 167 | (36.6) | 197 | (43.2) | |
無回答 | 2(NA) | |||||||||||||||||||||
セクシュアルマイノリティに関するSNSやメディアからの情報 | ||||||||||||||||||||||
見たことがある | 392(74.5) | 0 | (0.0) | 3 | (0.8) | 8 | (2.0) | 64 | (16.3) | 317 | (80.9) | 4 | (1.0) | 18 | (4.6) | 62 | (15.8) | 145 | (37.0) | 163 | (41.6) | |
見たことがない | 134(25.5) | 2 | (1.5) | 1 | (0.7) | 6 | (4.5) | 28 | (20.9) | 97 | (72.4) | 1 | (0.7) | 7 | (5.2) | 19 | (14.2) | 46 | (34.3) | 61 | (45.5) | |
無回答 | 2(NA) | |||||||||||||||||||||
セクシュアルマイノリティに対し否定的思考をもつ周囲の者の有無 | ||||||||||||||||||||||
いる | 167(31.7) | 0 | (0.0) | 2 | (1.2) | 3 | (1.8) | 29 | (17.4) | 133 | (79.6) | 2 | (1.2) | 7 | (4.2) | 27 | (16.2) | 64 | (38.3) | 67 | (40.1) | |
いない | 359(68.3) | 2 | (0.6) | 2 | (0.6) | 11 | (3.1) | 63 | (17.5) | 281 | (78.3) | 3 | (0.8) | 18 | (5.0) | 54 | (15.0) | 127 | (35.4) | 157 | (43.7) | |
無回答 | 2(NA) | |||||||||||||||||||||
信仰している宗教で同性愛が認められている | ||||||||||||||||||||||
認められている,無宗教 | 331(62.7) | 1 | (0.3) | 2 | (0.6) | 8 | (2.4) | 59 | (17.8) | 261 | (78.9) | 3 | (0.9) | 12 | (3.6) | 56 | (16.9) | 118 | (35.6) | 142 | (42.9) | |
認められていない,どちらともいえない | 189(35.8) | 1 | (0.5) | 2 | (1.1) | 6 | (3.2) | 31 | (16.4) | 149 | (78.8) | 2 | (1.1) | 13 | (6.9) | 25 | (13.2) | 71 | (37.6) | 78 | (41.3) | |
無回答 | 8(NA) |
知識尺度の知識得点の平均は3.82 ± 1.94点であった.得点の幅は0点から9点で,0~2点は140名(26.5%),3~5点(53.0%),6~9点(20.5%)であった.知識尺度のCronbach’s α係数は,0.554であった.理解的態度得点の平均は32.91 ± 5.21点であった.得点の幅は12点から42点で,12~19点4名(0.8%),20~29点137名(25.9%),30~39点330名(62.5%),40~42点57名(10.8%)であった.理解的態度尺度のCronbach’s α係数は,0.837であった.理想的な看護実践得点の中央値は4点,平均値は3.73(±0.59),現実的な看護実践得点の中央値は3点,平均値は3.14(±0.92)であり,得点の幅は理想的・現実的な看護実践どちらも最小0点から最大4点であった.
知識及び理解的態度が理想的及び現実的看護実践に関連しているかについて単回帰分析を行った結果,理想的な看護実践では,知識・理解的態度ともに理想的な看護実践の得点が高いことと有意に関連していた(B = 0.046[CI 0.020~0.072],B = 0.021[CI 0.012~0.031],表2).一方で,知識と現実的な看護実践は有意に関連していたが(B = 0.052[CI 0.012~0.092]),理解的態度と現実的な看護実践は関連がみられなかった.交絡変数で調整した重回帰分析を行った結果も同様で,知識と理想的な看護実践(B = 0.035[CI 0.009~0.061]),知識と現実的な看護実践(B = 0.047[CI 0.005~0.088]),および理解的態度と理想的な看護実践は関連が認められた(B = 0.018[CI 0.008~0.028]).交絡変数では,年齢を重ねることやSNSやメディアからの情報を得ることは,理想的な看護実践得点の増加に有意に関連しており,LGBであることは理想的な看護実践得点の減少に関連していた.現実的な看護実践でも,年齢があがるほど,現実的な看護実践の得点が高いことに関連していた.
理想の看護実践 | 現実の看護実践 | ||||||||||||||||||
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単回帰モデル | 重回帰モデル | 単回帰モデル | 重回帰モデル | ||||||||||||||||
95%CI | 95%CI | 95%CI | 95%CI | ||||||||||||||||
B | p値 | 下限 | 上限 | B | p値 | 下限 | 上限 | B | p値 | 下限 | 上限 | B | p値 | 下限 | 上限 | ||||
知識(得点・連続量) | 0.046 | ** | 0.020 | 0.072 | 0.035 | ** | 0.009 | 0.061 | 0.052 | * | 0.012 | 0.092 | 0.047 | * | 0.005 | 0.088 | |||
年齢(連続量) | 0.006 | * | 0.001 | 0.011 | 0.017 | ** | 0.009 | 0.025 | |||||||||||
身体の性(女である) | –0.167 | –0.341 | 0.007 | –0.068 | –0.342 | 0.206 | |||||||||||||
LGBである | –0.227 | * | –0.402 | –0.052 | 0.078 | –0.197 | 0.354 | ||||||||||||
TGである | 0.017 | –0.365 | 0.399 | 0.495 | –0.105 | 1.096 | |||||||||||||
セクシュアルマイノリティと関わった経験がある | 0.044 | –0.061 | 0.150 | 0.076 | –0.089 | 0.242 | |||||||||||||
セクシュアルマイノリティに関する教育を受けた経験がある | 0.116 | –0.042 | 0.275 | –0.018 | –0.267 | 0.230 | |||||||||||||
セクシュアルマイノリティに関するSNSやメディアからの情報を得ている | 0.140 | * | 0.022 | 0.259 | 0.005 | –0.182 | 0.192 | ||||||||||||
セクシュアルマイノリティに対し否定的な思考を持つ周囲の者がいる | –0.010 | –0.119 | 0.099 | –0.114 | –0.285 | 0.058 | |||||||||||||
信仰している宗教で同性愛が認められている | 0.032 | –0.074 | 0.138 | 0.067 | –0.100 | 0.233 | |||||||||||||
(モデル決定係数) | R2 = 0.023,自由度調整済みR2 = 0.021 | R2 = 0.049,自由度調整済みR2 = 0.032 | R2 = 0.034,自由度調整済みR2 = 0.032 | R2 = 0.059,自由度調整済みR2 = 0.043 | |||||||||||||||
理解的態度(得点・連続量) | 0.021 | ** | 0.012 | 0.031 | 0.018 | ** | 0.008 | 0.028 | 0.015 | 0.000 | 0.030 | 0.015 | –0.001 | 0.031 | |||||
年齢(連続量) | 0.007 | ** | 0.002 | 0.012 | 0.018 | ** | 0.010 | 0.026 | |||||||||||
身体の性(女である) | –0.141 | –0.316 | 0.033 | –0.048 | –0.324 | 0.227 | |||||||||||||
LGBである | –0.229 | * | –0.403 | –0.055 | 0.076 | –0.200 | 0.352 | ||||||||||||
TGである | 0.016 | –0.364 | 0.395 | 0.508 | –0.093 | 1.109 | |||||||||||||
セクシュアルマイノリティと関わった経験がある | 0.036 | –0.069 | 0.141 | 0.081 | –0.085 | 0.247 | |||||||||||||
セクシュアルマイノリティに関する教育を受けた経験がある | 0.117 | –0.040 | 0.274 | –0.005 | –0.253 | 0.243 | |||||||||||||
セクシュアルマイノリティに関するSNSやメディアからの情報を得ている | 0.144 | * | 0.026 | 0.262 | 0.017 | –0.170 | 0.203 | ||||||||||||
セクシュアルマイノリティに対し否定的な思考を持つ周囲の者がいる | –0.010 | –0.119 | 0.098 | –0.113 | –0.284 | 0.059 | |||||||||||||
信仰している宗教で同性愛が認められている | 0.011 | –0.095 | 0.118 | 0.056 | –0.113 | 0.224 | |||||||||||||
(モデル決定係数) | R2 = 0.012,自由度調整済みR2 = 0.010 | R2 = 0.050,自由度調整済みR2 = 0.034 | R2 = 0.007,自由度調整済みR2 = 0.005 | R2 = 0.048,自由度調整済みR2 = 0.031 |
** p < 0.01,* p < 0.05,B:非標準化係数,95%CI:95%信頼区間
LGB: lesbian, gay, bisexual, TG: transgender, SNS: social network service
本研究の対象者は,国内の入院施設を有する医療機関の看護部長を通して協力を依頼した看護師で,トランスジェンダーの方と関わった経験のある看護師にも回答を依頼したため関心の高い対象者の回答を多く含んでいる可能性が考えられるが,対象者のうち,セクシュアルマイノリティに該当する看護師は10.8%,TGに該当する対象者は1.7%で,電通ダイバーシティ・ラボ(2015,2018)の報告(8.9%,0.7%)に比べて多かった.セクシュアルマイノリティの人と関わった経験がある人は40.8%,LGBTの用語認知に関しては61.4%に留まり,学んだ経験については13.3%と少なく,TGをはじめとするセクシュアルマイノリティを知る機会の少なさが認知度にも関係していると考えられる.また,TGについての教育が必要であると感じている人は94.1%と大多数の看護師が必要性を感じていた.学校教員を対象に実施した先行研究では,セクシュアルマイノリティについて情報を得た機会の有無について尋ねた質問に対し,80%以上の教員があると回答し(安川・門田,2015),教員養成課程の学生では約50%であった(三上・井谷,2018).情報を得た方法は,研修・講演会・勉強会・講習,およびテレビ・ラジオが6~7割で概ね同数であった.教育現場ではマスメディアによる受動的な方法だけでなく,積極的に教育を提供している現状があり,看護師に対する教育機会の確保も必要である.
2. TGに関する知識・理解的態度とTGに対する看護実践の関連現実的な看護実践の方が理想的な看護実践よりも平均点が低かった.TGに対する看護に関しても,組織の方針や規則,個人の立場,多忙等により現実的には配慮することが難しい状況であることが考えられる.重回帰分析では,知識があることは理想的・現実的な看護実践の両方の得点が高いことに関連していた.一方で,理解的態度は理想的な看護実践には関連があったが,現実的な看護実践には関連していなかった.知識があれば,理想的な看護実践だけでなく,現実的にとる看護実践においてもTGに対して配慮することができることを示唆している.これは,知識があることでTGがどのような場合において不快な思いをしているのか,TGの治療に沿った配慮など起こりうる事象を想定できるからであると考えられる.一方で,理解的であることは,TG患者に対して配慮をする必要性は感じているが,現実的な看護行為に配慮のあるケアを反映させることにはつながりにくいことが示唆された.本研究で定義した理解的態度は,TGに対する偏見や社会的距離を含意する理解的な態度のことであり,測定尺度は偏見や社会的距離の測定尺度に類似した質問項目で構成されている.そのため,看護師は専門職者であり専門職意識の高い看護師ほどケア対象者に公平であることを理想と考え,TGへの理解的態度の得点が高く,TGに対して理想的には配慮あるケアを選択したと考えられる.しかし,専門職者ほど組織と心理的に同一化する特徴があり(澤田,2009),職場の決められた業務手順や規則に従うことにも忠実であることが推察される.実際に行う看護を想定した場合に組織や業務に規定される要因を優先する可能性もあり,これにより,配慮ある看護実践を選ぶことに至らなかった可能性がある.今後の研究においては,看護師の業務・組織コミットメントの程度や組織の有する特性等を関連要因として考慮する必要がある.本研究結果より,看護師のTGに対する偏見や社会的距離の低減といった理解的な態度を促進する取り組みだけでなく,正しい知識の習得を促進することが,TG患者の看護ケアにおいて重要であると考えられた.精神障害者に関する先行研究では,対象者に対する知識を持ち,疾患と対象者を理解することで,否定的なイメージ,理解しがたいというイメージを持っても,相手を人間として受容している個人としての行動をとることができると報告されている(伊東ら,2005).理解的であるだけでなく,TGについての正しい知識を持つことがTGへの看護において重要であり,看護基礎教育や看護師の現任教育において学習機会を提供することが必要である.本研究結果では,セクシュアルマイノリティについて学んだ経験のある看護師は13.3%であった.教員養成大学の学生に対する調査では,約5割の学生が性的マイノリティに関する学習を経験しているという報告がある(三上・井谷,2018).看護師養成課程においても,対象者の個別性に配慮した看護実践を行うためには,看護実践の現場に出る以前に正しい知識を習得することが必要であると考えられる.
交絡変数では,年齢が上がるほど理想的な看護実践にも,現実的な看護実践の得点も高かった.田中ら(2012)は,看護師の年代の高さが看護実践能力の高さに影響しているとし,経験を積むことで専門職としてキャリアが蓄積され,看護実践能力が高まると述べている.年齢を重ね,看護経験が豊富になると,社会の様々な場面で柔軟に対応できるようになると考えられる.性的指向・性自認では,LGBの群では,理想的な看護実践の得点が有意に低下していた.性同一性障害は見える問題であって,同性愛者は見えない問題であり,LGBの人は,医療現場においてTGに比べカミングアウトを行う必要が少ない(枝川・辻河,2011).そのため,LGBの群では,対象者がカミングアウトせず医療を受けた方が安心した医療を受けられることから,特別な配慮を希望しないことが本結果に影響した可能性がある.SNSやメディアからの情報を得ていると理想的な看護実践の得点が高いことに関連していた.TGについて学ぶ手段としてマスメディアの影響は小さくない(廣原・冨岡,2015)という報告があり,SNSやメディアで扱われる情報は知識に影響し,看護実践に影響した可能性がある.
3. 研究の限界と課題本調査で用いた知識尺度は,α = 0.554であり内的一貫性が十分とは言えない.TGの知識に焦点化した尺度を作成したが,制度や用語,医療などさまざまな質問項目が含まれていたことが,内的一貫性に影響した可能性がある.使用した知識・理解的態度の尺度および看護実践に関するビネットは本研究で独自に作成したものであり,信頼性・妥当性が十分検証されていない.今後もTGを支援する看護師に関する研究を積み重ねていき,妥当性および信頼性を確立していく必要がある.また,現実の看護実践,理想の看護実践について尋ねたが,勤務先医療機関の規則や方針が影響しているかどうかについては検証できていない.TG患者への看護について,看護手順書に記載があるか,生物学的性と自認している性を看護場面でどのように取り扱うのかなどの病院や病棟における準備状況についても情報を得ることができれば,より配慮のある看護実践に結びつく要因をさらに検証できた可能性がある.本研究には,TGと関わったことのある人や関心のある人が多く参加した可能性があり,選択バイアスが生じている可能性がある.
4. 結論看護師のTGに関する知識があることは,理想的にも現実的にも看護実践が高いことに関連していた.一方で,理解的態度は理想的な看護実践が高いことに関連があったが,現実的な看護実践には関連がなかった.
付記:本論文の内容の一部は,第39回日本看護科学学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究は,公益財団法人ウエスコ学術振興財団の研究助成を受けたものです.本研究にご協力くださいました皆様に,心より感謝申し上げます.
著者資格:HNは研究の着想およびデザイン,データ収集,分析,論文の作成に貢献;SIは研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.