日本看護科学会誌
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原著
社会人経験のある看護師の語りからみえた職業継続につながる看護師の職業的魅力
柴田 佳純大村 優華山上 優紀北田 裕香辻本 朋美飯田 恵井上 智子
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2020 年 40 巻 p. 332-339

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Abstract

目的:社会人経験のある看護師の語りから,職業継続につながる看護師の職業的魅力を明らかにする.

方法:社会人経験のある看護師15名に職業継続に関する半構造化面接を行った.録音データから逐語録を作成し,前職と比較して看護師の仕事の良さが語られている部分を質的記述的に分析した.

結果:2つのコアカテゴリーと6つのカテゴリー,13のサブカテゴリーが抽出された.コアカテゴリー〈経済基盤の強さ〉はカテゴリー【強い経済力】【職の得やすさ】【自分のワークスタイルに合わせて選べる多様な勤務形態】で構成され,コアカテゴリー〈仕事そのものの面白さ〉はカテゴリー【職場環境と患者におこる毎日の変化】【職務における自己裁量の広さ】【看護の奥深さ】で構成された.

結論:職業継続につながる看護師の職業的魅力は,経済基盤の強さと仕事そのものの面白さであった.特に看護の奥深さは,看護師特有の職業的魅力であることが鮮明となった.

Translated Abstract

Objectives: To investigate the draws for continuing to work in nursing profession reported by nurses with other work experience.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with 15 nurses who had other work experience. Recordings of the interviews were transcribed verbatim. Further, the items reported as positive elements in nursing compared with the previous work experience of the respondents were investigated using qualitative descriptive content analysis.

Results: Overall, 2 core categories (represented by the symbols “< >”), 6 categories (represented by the symbols “[ ]”), and 13 sub-categories were extracted. <Strength of the economic infrastructure> was constructed by [Strength of the economic infrastructure], [Ease of job-hunting], and [Variety of work shifts available to suit lifestyle]. <Engaging nature of the work> was constructed by [Variety in the workplace environment and patients each day], [The level of discretion in decision-making in their jobs], and [The profundity of the nursing profession].

Conclusions: The largest draws for continuing to work in nursing profession were the strength of the economic infrastructure and the engaging nature of the work. This study clearly indicates that the profundity of the nursing profession is a draw of the job which is peculiar to the nurse.

Ⅰ. 緒言

わが国の看護師不足は深刻であり,国民の4人に1人が75歳以上になる2025年にむけて看護師の人材確保は急務である.人材確保策として,労働政策研究・研修機構(2011)が企業向けに仕事魅力チェックリストを作成し,厚生労働省(2020b)が介護の魅力発信事業を行うなど,近年,職業の魅力は重要視されつつある.

看護師の職業の魅力については手術看護や精神科看護など看護実践に立脚した看護の魅力についての報告はみられるが(吉田,2012木村,2014),看護師の職業全般に着目した「職業の魅力」についての研究は見当たらない.「魅力」に類似するものとして「仕事のやりがい」があり,仕事のやりがいは看護師の職業継続要因であり(中野・岩佐,2019),職業継続意思に影響する(竹本,2003落合・郷間,2015).しかし我々は仕事のやりがい以外にも,看護師自身が日々当たり前に感じているがゆえに強く自覚しておらず,あえて語られることがない看護師の仕事の良い点や心惹かれる特性があるのではないかと考え,それらを看護師の職業的魅力と定義して人材確保に寄与できるか検討することとした.

看護師の職業的魅力をより客観的に捉えられる語り手として,他職種で社会人経験のある看護師に注目した.社会人経験のある看護師は前職と異なる看護師の職場風土において自分の価値観の変容をせまられる困難感や,体力・記憶力の低下など年齢的な悩みをもつ(吉川,2016奥田,2014)ことが知られている.しかしその困難を乗り越えて看護師を続ける者もおり,彼らは前職と比較して看護師の職業的価値を実感している(米田,2014山田ら,2015).よって看護師を継続し,かつ他職種での職業経験という比較対象をもつ彼らだからこそ,看護師の職業的魅力を自覚し客観的に語ることができると考えた.

少子化の進行に伴い将来の新たな人材確保は困難が予想される.そこで今後の看護の質を担保するためには現在働いている看護師がいかに長く職業継続できるかが要となってくる.よって本研究では職業継続に焦点を当て,社会人経験のある看護師の語りから職業継続につながる看護師の職業的魅力を明らかにすることとした.

Ⅱ. 研究目的

社会人経験のある看護師の職業継続要因に関する語りの中から,前職と比較した看護師の仕事の良い点を抽出することで看護師の職業的魅力を明らかにする.

Ⅲ. 用語の定義

職業継続要因:看護師として職業を継続した理由もしくは継続を可能にした出来事.

社会人経験:看護師として就職する前の,社会に出て収入を得た就労過程での経験.

看護師の職業的魅力:看護師の仕事の良い点や心惹かれる特性.

Ⅳ. 研究方法

1. 研究デザイン

インタビューデータを用いた質的記述的研究である.

2. データ

社会人経験のある看護師の職業継続要因に関するインタビューデータの中から,前職と比較した看護師の仕事の良い点に関する語りをデータとして用いた.

1) データ収集方法

インタビューガイドを用いた約1時間の半構造化面接を行い,研究参加者の同意を得てインタビュー内容をICレコーダーに録音した.インタビューガイドの質問内容は,年齢や前職の職種などの基本属性,看護師への転職理由,今まで看護師を続けた理由,職業継続に影響した社会人経験,職業継続意志,についてであった.質問内容は研究参加者が自らの経験を想起しやすいよう事前に郵送もしくはメールで提示した.

2) 研究参加者の条件と募集方法

社会人経験のある5年目以上の看護師をスノーボールサンプリングでリクルートした.看護師経験年数は,より長い職業継続につながる要因を抽出できるよう,本邦の看護職離職率が一番高い看護師4年目(日本看護協会,2012)を乗り越えている年数を設定した.なお社会人経験の中にはパート,アルバイトおよび准看護師としての就労過程は含めず,前職の職種や社会人経験年数,看護師としての就業場所および職歴,職位の条件を定めなかった.

3) データ収集期間

2017年3月20日~2017年12月26日

3. 分析方法

データはグレッグら(2016)を参考に次の手順で分析した.初めに録音データとインタビュアーの書き取りメモから逐語録を作成した.逐語録を文脈から意味のまとまりごとにコード化し,コードから職業継続要因を抽出し,さらにその中から前職と比較して看護師の仕事の良い点が語られているコードを抽出した.次に意味の類似したコード同士を集めてサブカテゴリーを作成し,類似性にそって抽象度をあげながらカテゴリー,コアカテゴリーを作成した.

分析内容は看護管理領域および質的研究に精通した研究者によるスーパーバイズを受け,筆者を含む研究者7名による討議を繰り返してカテゴリーに偏見や歪みがないことを確認し,確証性を確保した.分析結果は研究参加者3名にメンバーチェッキングを依頼し,確実性を確保した.

4. 倫理的配慮

研究参加者には,紹介者に研究参加の諾否を伝えないことを明記したうえで研究説明書・インタビュー概要・同意書・同意撤回書の書類を送付し,研究参加の回答を依頼した.インタビュー場所は研究参加者の希望を聞いたのち,自宅,会議室,人の少ない喫茶店など個人情報が守られる場所を研究参加者と共に決定した.インタビューの録音は事前に承諾をとり,いつでも中止できることを説明した.データは暗号化し,個人情報は番号と符合で匿名化した.また本研究は,大阪大学医学部附属病院倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号第16453-2).

Ⅴ. 結果

1. 研究参加者の属性(表1

研究参加者は15名で,性別は男性4名,女性11名,年齢は35~48歳,社会人経験年数は1~20年,看護師経験年数は6~14年であり,同じ施設に勤務する者が3名いた.前職は,看護師になる前に複数の職業を経験した者が9名おり,それらを厚生労働省の職業分類でみると,専門的・技術的職業経験者3名,事務的職業経験者9名,販売の職業経験者5名,サービスの職業経験者3名,生産工程の職業経験者2名であった.

表1  研究参加者の概要
研究
参加者
年齢 性別 前職の職種 社会人
経験年数
看護師
経験年数
A 30代後半 営業 1年6ヶ月 6年
B 40代後半 一般事務
営業
サービス業
13年 11年
C 40代前半 特許事務 1年 13年
D 40代後半 一般事務
介護職
4年 8年1ヶ月
E 40代前半 営業
流通の配達
2年 9年
F 40代前半 医療事務 1年11ヶ月 9年6ヶ月
G 40代前半 営業
DTPオペレーター
4年 9年6ヶ月
H 40代後半 一般事務 8年6ヶ月 14年
I 40代前半 営業
医療事務
3年 13年
J 40代後半 建築設計
製造業
7年 13年
K 40代前半 営業事務
旅行代理店事務
ソフトウェア開発
3年 13年3ヶ月
L 40代前半 一般事務
学校事務
10年 8年3ヶ月
M 30代後半 一般事務 3年 8年4ヶ月
N 30代後半 営業
福祉用具相談員
8年 6年8ヶ月
O 30代後半 ウェイトレス 7年10ヶ月 8年8ヶ月

注:前職の職種は研究参加者の語りどおりの表記とした

2. 他職種と比較した看護師の職業的魅力(表2

他職種と比較した看護師の職業的魅力は,2つのコアカテゴリー,6つのカテゴリー,13のサブカテゴリー,59のコードで構成された.以下にコアカテゴリーごとの結果を記し,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを《 》,実際の語りを「」,語りの中の他者の発言を“ ”で囲い,語りの補足は( )で示す.

表2  職業継続につながる看護師の職業的魅力
コアカテゴリー カテゴリー サブカテゴリー
経済基盤の強さ 強い経済力 他職種より高額な給料
女性でももらえる高い給料
給料の安定性
職の得やすさ 時期場所問わず豊富な雇用機会
他職種に応用できる高い汎用性
自分のワークスタイルに合わせて選べる多様な勤務形態 自分のワークスタイルに合わせて選べる多様な勤務形態
仕事そのものの面白さ 職場環境と患者におこる毎日の変化 職場環境と患者におこる毎日の変化
職務における自己裁量の広さ 職務における自己裁量の広さ
看護の奥深さ 看護する喜び
患者との関わりによる自分の人生の深まり
人体に対する興味深さ
利益と関係なく人助けする高い道徳性
看護に完璧も終わりもないところ

1) 経済基盤の強さ

3つのカテゴリー【強い経済力】【職の得やすさ】【自分のワークスタイルに合わせて選べる多様な勤務形態】で構成される.

(1) 強い経済力

3つのサブカテゴリー《他職種より高額な給料》《女性でももらえる高い給料》《給料の安定性》で構成される.

《他職種より高額な給料》では,他職種より給料が高額である点が魅力として示された.D氏は看護師を辞めたくなった時も仕事を続けた理由について,「パン屋さんとかそれこそケーキ屋さんとかいう所で働きたかったんですけれども,やっぱり時給考えると全然看護師のほうがいいですし」と語った.

《女性でももらえる高い給料》では,高額な給料によって女性の社会的自立が実現する点が魅力として示された.E氏は前職を振り返りながら看護師の経済力について「どこ行ってもね,女性がこれだけの力(をもてる),いいお給料いただけるっていうのもあるし」と語った.

《給料の安定性》では,看護師の給料の安定性が魅力として示された.N氏は「前の職は,会社の業績によってボーナスがドンと下がったりとか逆にボンと上がることもあったんですけど.やっぱり不安定ですよね(中略)今ってボンって下がることって絶対ないじゃないですか.チョビチョビでもやっぱり上がってはいくので.安定した給料,ボーナスもらえるっていうのも(家族が自分の仕事を)サポートしやすいかなと思いますね」と語った.

(2) 職の得やすさ

2つのサブカテゴリー《時期場所問わず豊富な雇用機会》《他職種に応用できる高い汎用性》で構成される.

《時期場所問わず豊富な雇用機会》では,看護師の雇用機会が常にある点が魅力として示された.C氏は看護師になって結婚後,育児しながら引越しを繰り返した時を振り返り,「どこ行ってもやっぱり必要とされてる仕事なんで,いくらでも仕事があるっていう感じで(中略)その中で自分の働きやすいスタイルを選べるっていうのが続けられている理由かな」と語った.

《他職種に応用できる高い汎用性》では,万一転職することになっても看護師の能力が他職種に十分通用する能力である点が魅力として示された.H氏は「社会人やってたからかもしれないですけど.よく看護師しかやってない人“看護師しかやってないから他に何もできない”ってよく言われるんですけどね.いや,看護師やってたら何でもできるって私思うんですよ.でもそこは多分,他みてないからわからないんだと思うんですね.他の仕事を知ってるからこそ,(看護師が)だめだったら他の事やればいいかみたいなところもあるからこそ続けられてるかなっていう気はするのが(仕事を続けられる理由の)1つ」と語った.

(3) 自分のワークスタイルに合わせて選べる多様な勤務形態

複数の研究参加者が看護師の不規則な勤務形態が自分に合っていると語った.H氏は「月金の9時5時みたいな仕事は私には向いてないっていうのはわかったんです(中略)今すごく楽なんです.夜勤があってこの不規則な勤務が私に合ってると思うんです」と語った.また,ライフイベントに合わせて勤務形態を選べる魅力も取り上げられた.G氏は妊娠・出産・育児を振り返りながら,「自分の生活に合わせた条件で働き方を変えることができる,(看護師という)職種は統一して.もちろん勤務先は一回変わってる,そうゆう変更はあったけど,今の場所は結構長いから,やっぱりそうやって時短勤務をとって働くとか(中略)ちょっと体がしんどいとか家にいたいなって思ったら非常勤という選択肢もあるし」と語った.以上より,各々が重要視する働き方は違えども,勤務形態の選択肢の多さは共通して職業継続を導く看護師の職業的魅力であった.

2) 仕事そのものの面白さ

3つのカテゴリー【職場環境と患者におこる毎日の変化】【職務における自己裁量の広さ】【看護の奥深さ】で構成される.

(1) 職場環境と患者におこる毎日の変化

このカテゴリーでは,働くスタッフや受け持ち患者の面々が変わることだけでなく,患者自体に現れる変化など,職場環境を構成する要素が毎日流動的で変化に富むことが魅力として示された.G氏は「毎日同じ患者さんであっても変化があったりとか,同じメンバーでも違ういろんな事が起きたりもするから,変化があるからな,毎日同じじゃない.そういうのも理由かな.」と語った.

(2) 職務における自己裁量の広さ

このカテゴリーでは,看護師の仕事の自分で考えて判断する機会が多い点が魅力として示された.O氏は「接客業だったら,水持っていって,メニュー持っていって,メニュー聞いて,できたものを提供してみたいなことで,あんまり考えるってことがなかったんですね(中略)今はやっぱり出勤して情報取って,この人はこうなんだ.こういう治療しているとか,こうだからこうなんだとか,今日はどうしようとか,何してあげたらいいかなとか,考えることがいっぱいあって.接客のときは体使うこと,ほぼなんかそれだけだったんですけど.もっとなんか考えて,自分で行動できるなっていうのが楽しい」と語った.

(3) 看護の奥深さ

5つのサブカテゴリー《看護する喜び》《患者との関わりによる自分の人生の深まり》《人体に対する興味深さ》《利益と関係なく人助けする高い道徳性》《看護に完璧も終わりもないところ》で構成される.

《看護する喜び》では,患者の回復や患者家族の喜ぶ姿が魅力として示された.M氏は「ありがとうは言われなくても別にいいんです.ただ何か,よくなって,家族さんが“こんなにええ(良く)なって”みたいな,喜んでるっていうのだけでも十分やりがいにはなってるんじゃないかなと」と語った.

《患者との関わりによる自分の人生の深まり》では,患者との関わりが自分の人生に深みを与える点が魅力として示された.C氏は看護師の仕事特有の賜物について,「普通の人間関係だけでは関わらないような,人それぞれの奥深い面を見れたり語ってもらえたり,自分が経験したことのないような世界とかもあるんですけど,そういうのを通して,あぁ人生ってこういうもんなんだとか家族の意味ってこういうことがあるんだとか(中略)いろんな世界を見ることができて,まぁそのことが自分の人生に深みを与えてくれてるようなところがあって…,まぁやめられないな」と語った.

《人体に対する興味深さ》では,人体の複雑な現象をもとに看護する興味深さが魅力として示された.F氏は「看護やりたいのは医学に関する知識が面白い.機械いじりなんて全く楽しいと思わないけど人の体のことは面白い」と語った.

《利益と関係なく人助けする高い道徳性》では,看護師の仕事が利益追求型でない点が魅力として示された.I氏は「“営業も全然できそうなのに”って言われるけど私にしたらものすごく違うんですよ.人と接することが嫌いなんじゃなくて売り込んでいくっていうのと今の仕事はちょっと違うじゃないですか」と語った.

《看護に完璧も終わりもないところ》では,仕事としてより良い看護を追求し続ける点が魅力として示された.I氏は「勉強しても終わりがないし,だから発見も多いしっていうので,なんかもうこれでいいかって思うところがないから続けられてるところもあります」と語った.

Ⅵ. 考察

1. 経済基盤の強さ

看護師の職業的魅力である経済基盤の強さを可能にしているのは【強い経済力】と【職の得やすさ】,【自分のワークスタイルに合わせて選べる多様な勤務形態】である.

看護師の給料を他職種と比較するとき,男性においては他職種より特段高額ではないが,女性においては他職種より高額であり,2012年のフルタイム勤務者の平均年収をみると看護師の平均年収は全国および医療・福祉分野の女性の平均年収を上回っている(日本看護協会,2012厚生労働省,2013).この高額な年収は《女性でももらえる高い給料》で語られたように女性の社会的自立を可能にするため,《他職種より高額な給料》は特に女性にとって魅力の強い要因であると言えよう.一方,高齢化社会の我が国において医療は需要の高い職種であり,一般企業のように景気の影響を受けにくいことから安定した給料が期待できるため,看護師の《給料の安定性》は性別に関わらず魅力であると言える.このように,他職種と比較すると看護師は生計を支えるに足る安定した給料を得ているため,生活の基盤が強固であるという点で魅力的な職業だと言える.しかしながら,看護師の給料に対する満足度は決して高くない現状があり(日本看護協会,2012),給料に対する満足度は直接職業継続意志に影響する(林・米山,2008)ため,職業的魅力である強い経済力を揺るがすことのないよう適正な労働対価の検討が求められる.

続いて,看護師の強い経済基盤を可能にしているのは【職の得やすさ】である.看護師は一度辞めても求人が豊富であるため同じ職業で社会復帰可能であり,他職種と違い《時期場所問わず豊富な雇用機会》のあることが人材を確保できる強みでもある.実際,2019年度における全国の平均有効求人倍率1.60倍(厚生労働省,2020a)に対し看護師の求人倍率は2.36倍(日本看護協会,2019)であり,他職種と比較しても求人が豊富であるとわかる.また就労場所は,病院数が約8千,一般診療所数は約10万存在する(厚生労働省,2017).このように他職種と比べて豊富な求人数と就労場所は看護師の職業的魅力であり,職業継続を支える重要な条件である.また社会人経験のある看護師は,看護師の《他職種に応用できる高い汎用性》があれば他の職業でもやっていけるという気持ちを支えに職業継続していた.実際,看護師は仕事の特性上マルチタスクが多く,仕事の継続により汎用性の高い能力を身に着けられる.よって,豊富な雇用機会と高い汎用能力は【職の得やすさ】となり経済基盤を強くすると言える.一方で,看護師の汎用性の高い能力についての具体や,医療業界以外の場所でどのように活用できるかは不明であるため,今後これらを明らかにすることでよりいっそう看護師の職業的魅力を強調することができるであろう.

最後に,【自分のワークスタイルに合わせて選べる多様な勤務形態】も看護師の強い経済基盤を可能にする要因である.社会人経験のある看護師は他職種と比較して,看護師が勤務時間や勤務場所を変えながら仕事を続けられることに魅力を感じていた.彼らの多くは前職で一定の雇用形態および勤務形態を経験しており,育児や体調不良など個人の事情と仕事の両立が困難になった場合,同一組織内で雇用形態や勤務形態を変更することが難しく,時には退職しキャリアを諦めざるをえない一般社会の現状を知っている.ゆえに自分のワークスタイルに合わせて働き方を選ぶことができる看護師の多様な勤務形態は1つの職業を生涯継続できるため魅力的であると認識していた.これは他職種と比較して強みとなる看護師の職業的魅力と言える.看護師のワークライフバランスへの支援は職業継続意思に影響する重要な要因であり(井上・山田,2015),個人の事情によって働き方を変えられることは職業継続を導く.多様な勤務形態の導入は離職防止に有効であることも示されている(日本看護協会,2010).従って多様な勤務形態をもつ看護師の仕事は,他職種と比べて仕事を継続しやすい条件が整っている点で強い経済基盤を築くことができる魅力的な仕事である.

人々の生活や価値観が急速に多様化しつつある現状(金森・田崎,2014)を鑑みると,1つの施設で多様な勤務形態を提供するには限界があるため,同じ場所で同じ看護師を生涯雇用し続けるのは難しいと予測される.そのような中,本研究で看護師の職業的魅力として見出された多様な勤務形態は注目すべき点である.看護師の職業継続を実現するためには看護師の人材確保を全国規模で考える必要があるため,今後は看護師が一定の職場にとどまらず複数の施設で流動的に働くことを前提とした雇用形態やラダーも考慮すべきである.

2. 仕事そのものの面白さ

看護師の職業的魅力の2つ目は,仕事そのものの面白さである.では看護師の仕事そのものの面白さとは何か.本研究では【職場環境と患者におこる毎日の変化】【職務における自己裁量の広さ】【看護の奥深さ】の3つが抽出された.

【職場環境と患者におこる毎日の変化】では,社会人経験のある看護師は職場環境に存在する様々な変化に魅力を感じていた.看護師の仕事はチーム医療を前提にして多くの人間が関わり,その中で患者は入れ替わり,患者の状態は常に変化し,その変化に応じたアセスメント・看護実践が時々刻々と求められ,業務内容は実に多彩で単調ではない豊かな仕事をもたらす.このような技能多様性は仕事における有意義感を生みだす職務特性の一つである(Hackman, 1977)ため,他職種と比較して看護師の仕事はやりがいを感じやすく面白い仕事であると言える.

次に,看護師の仕事そのものの面白さとして【職務における自己裁量の広さ】があげられる.看護師が日々行うアセスメントと看護実践は常に個人レベルの判断と行動を伴うため,自己裁量が広く自律性が高い.このような仕事における自律性の高さは責任感をもたせ仕事への満足感に繋がる職務特性(Hackman, 1977)であるため,看護師の職務における自己裁量の広さは職務満足を高め,仕事そのものの面白さを形作ると考えられる.

注目すべきは【看護の奥深さ】である.前述した毎日の変化や自己裁量については同じ条件を満たす他の職種も存在するが,【看護の奥深さ】は看護師にしかない仕事の面白さである.社会人経験のある看護師は,患者と看護師のケアリングの関係から生まれる《看護する喜び》とともに,看護する中で生まれた《患者との関わりによる自分の人生の深まり》に対して魅力を感じていた.これは看護が人を世話する喜びに留まらず,患者の人生に寄り添い人の存在意義や死生観を熟考する体験をすることで,自分自身が職業人としても一人の人間としても成長するという看護の奥深さを示している.加えて,今回社会人経験のある看護師が語ることで,他職種からみると看護には,対象に働きかける看護実践(日本看護協会,2007)以外の奥深さもあるとわかった.社会人経験のある看護師は日々の看護の中で《人体に対する興味深さ》を感じ,人体に現れる複雑な事象や人という神秘的な存在が仕事の対象であることに心惹かれていた.また常により良い看護を追求して《看護に完璧も終わりもないところ》,《利益と関係なく人助けする高い道徳性》など,看護のもつ特性にも魅力を見出していた.これらは看護に内包される看護実践以外の魅力であり,看護がいかに奥深いかを物語っている.

これまで看護師の仕事については看護の魅力がしばしば注目されており,職業継続につながる看護の魅力として患者の回復に対する喜びや患者との信頼関係,専門性の発揮などが挙げられ(中野・岩佐,2019),看護のやりがいや達成感など専門職としての看護実践の価値づけが職業継続に不可欠であることが示されてきた(加藤・尾崎,2011木村ら,2018).しかし本研究では,看護実践だけでなく職業特性をも含む【看護の奥深さ】が看護師の仕事そのものの面白さであることが明らかになった.これはまさに看護師特有の職業的魅力であるため,看護の奥深さを実感できるような働きかけは職業継続支援として非常に重要であることが示唆された.

Ⅶ. 結論

1.職業継続につながる看護師の職業的魅力は,経済基盤の強さとなる【強い経済力】【職の得やすさ】【自分のワークスタイルに合わせて選べる多様な勤務形態】と,仕事そのものの面白さである【職場環境と患者におこる毎日の変化】【職務における自己裁量の広さ】【看護の奥深さ】であった.

2.仕事そのものの面白さである【看護の奥深さ】は看護師特有の職業的魅力として鮮明になった.

Ⅷ. 研究の限界と課題

研究参加者の仕事に対する価値観および前職の職種により研究結果に偏りが出ること,長期にわたる記憶を全て正確に想起できない可能性があることは本研究の限界である.今後の課題はさらに経験が長い看護師を対象とし長期職業継続につながる看護師の職業的魅力を見出す事である.

付記:本研究はThe 6th International Nursing Research Conference of World Academy of Nursing Scienceで発表した.

謝辞:本研究に快くご協力下さいました社会人経験のある看護師の皆様,参加者をご紹介頂きました皆様ならびにご指導賜りました皆様に深く感謝申し上げます.本研究は平成29年度高橋美智大学院教育(看護管理)奨学金を受けて実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:YOは研究の着想,分析,原稿への示唆を行った.YYは研究の着想,分析,原稿への示唆を行った.YKは分析,原稿への示唆を行った.TTは研究の着想,分析,原稿への示唆を行った.MIは分析,原稿への示唆を行った.TIは研究の着想・デザイン,分析,原稿への示唆及び研究プロセス全体に助言した.すべての著者は,最終原稿を読み承認した.

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