日本看護科学会誌
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生殖補助医療後に双胎妊娠した女性に対する助産ケアの認識
藤井 美穂子相澤 恵子
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2020 年 40 巻 p. 378-385

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Abstract

目的:生殖補助医療(Assisted reproductive technology: ART)後に双胎妊娠した女性への助産ケアに対する助産師の認識を明らかにする.

方法:助産師5名を対象にして,グループインタビューを実施した.データ分析は,Riessman(2008)のテーマ分析を用いた.

結果:ART後に双胎妊娠した女性への助産ケアに対する助産師の認識について(a)【心が不安に占領される妊娠生活】(b)【双胎妊娠の負担の上に重なる高齢妊娠の重荷】(c)【出産をゴールに据えるがための理想と現実のギャップへの困惑】(d)【子どもとの距離を感じる母親】(e)【継続的な支援の必要性】(f)【ART後であることへの配慮の欠如】が見出された.

結論:ARTヒストリーの情報を活用した継続的なケアの実践には至っておらず,ARTヒストリーを踏まえた助産ケアの知識の確立と普及の必要性が示唆された.

Translated Abstract

Aims: To identify midwives’ perceptions of the care they provided to women with twin pregnancies following assisted reproductive technology (ART).

Methods: A group interview was conducted with five midwives who had provided midwifery care to women with a twin pregnancy following ART. Data was analyzed using Riessman’s (2008) Thematic Analysis approach.

Results: The following ideas emerged relating to the midwives’ perceptions of the care they had provided: (a) pregnancy life dominated by anxiety; (b) the burden of an advanced maternal age pregnancy in addition to the pressures of a twin pregnancy; (c) bewilderment over the gap between one’s ideal and reality due to picturing delivery as the goal; (d) mothers who felt distant from their children; (e) need for ongoing support ; and (f) lack of consideration for the fact that the mother underwent ART.

Conclusions: Coherent midwifery care is not always provided to women with a history of ART. This suggests the need for improved knowledge among midwives and a more widespread practice of taking the patient’s history of ART into consideration when providing midwifery care.

Ⅰ. 緒言

我が国の生殖補助医療(Assisted reproductive technology;以下ART)の進歩は著しく,治療件数は年々増加している.一方,双胎妊娠は虐待のハイリスク要因であり,特にART後に双胎妊娠した女性は出産年齢の高い初産婦が多く(大木・彦,2016),支援の必要性がある.

Rubin(1984/1997)によれば,妊娠は心理・社会的母親になること,および女性の自己システムと生活空間のなかに子どもを受け入れるための準備期間で,母性性や母親らしさ(maternal identity)は,妊娠が進み子どもが発育するのと平行して発展する(p. 46).母親になるまでには,妊娠期に子どもの発達を想像する準備期間が必要である.ART後に双胎妊娠した女性は,不妊治療中に何度も母親となる期待を裏切られた体験から,二人の子どもが健康に生まれてくることへの不安が強く,妊娠中に子どもを想像することを抑制する特徴がある(藤井,2014).助産師は,ART後に双胎妊娠した女性が出産後も二人の母親になったという母性意識が芽生え難いことを認識して,不妊治療期からの女性の体験を理解し,母親となる準備を促進できるように働きかけていく必要がある.

先行研究には,双子の母親の語りから,2人一緒の様子の面白さを実感して双子の母親となった喜びや,時期をずらして交互に嘔吐するなど突発的な出来事を繰り返すことによる不安の高まりといった,双子特有の育児体験を明らかにし(藤井,2007今野ら,2016),助産ケアに示唆を与えている論文がある.しかし,ART後に双子の母親となった女性に着目し,助産師という専門職の視点から女性の実像を捉えた論文は殆どない.実際の臨床現場では,ART後に双胎妊娠した女性のケアが自然双胎した女性と同様に行われており,ART後に双胎妊娠した女性の母性意識が芽生えるような特別な支援は行われていない.助産師の認識に着目することで,ART後に双胎妊娠した女性の母性意識に対するケアが行われていない理由が明確になり,女性の潜在的なニーズを捉えることができ,よりよい支援を検討するための基礎的資料が得られると考える.そこで,本研究ではART後に双胎妊娠した女性への助産ケアに対する助産師の認識を明らかにすることを目的とする.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究参加者

本研究では,助産ケアの認識を抽出するにあたり,助産ケアを自律して実践し,後輩を育成する立場の助産師を研究参加者とした.公益社団法人日本看護協会の助産実践能力習熟段階(日本看護協会,2020)を参考に,助産師として臨床経験が10年以上ある中堅以上の助産師とした.本研究では,探索的に女性の特徴と助産ケアの認識を把握するため,5名を参加者数の目安とした.ART後の双胎妊婦への助産ケアを実施した経験のある研究参加者の募集にあたっては,スノーボールサンプリングを用いた.

2. 用語の定義

助産ケアの認識とは,ケアを行う上での助産師の知覚や直感などの感覚や,思考を通した対象を捉え方といった助産ケアを実践する際の認識のことである.

3. データ収集方法

データ収集期間は2019年9月~11月であり,グループインタビューを1回90分実施した.インタビュー内容は,①ART後に双胎妊娠した女性の特徴 ②印象に残っている出来事 ③単胎妊婦や自然双胎妊婦とのケアの相違点などであり,プライバシーが遵守できる静穏な環境で実施した.研究参加者の了承を得て,インタビュー内容をICレコーダーに録音した.

4. データ分析方法

データ分析はRiessman(2008, pp. 53~76)が紹介するThematic Analysisを用いた.まず,逐語録を作成し,助産師達がこれまでの助産ケアを通してART後に双胎妊娠した女性の特徴,特に単胎児や自然双胎妊娠した女性と異なる特徴をどのように捉えて認識しているのか,そして「何」が語られているのかに着目してサブテーマを抽出した.次いで,サブテーマ同士を比較して類型化しテーマを抽出した.

5. 信頼性・妥当性の確保

本研究は助産師を研究参加者とするため,助産師ネットワークの近似可能性と調査結果の外的妥当性を考慮し,スノーボールサンプリングにて研究参加者を募集した.また,妥当性を高めるために(Uwe, 2007/2010),データ収集後にメールや電話などの研究参加者の希望する方法を用いて,3名にローデータを示して具体的な内容を確認した.データ収集と分析の過程において,看護学領域での研究経験のある共同研究者とともにデータの示す内容の解釈の偏りをなくすよう努めた.解釈に迷った際は,語られたデータの内容を個々の研究参加者に伝え,再現性を高めながら,収集したデータ分析の解釈を確認して信頼性の確保に努めた.

6. 倫理的配慮

研究の趣旨,研究協力の自由意思の権利,プライバシーの確保,途中辞退の任意性,データ管理の徹底,匿名性の遵守,研究結果の還元方法など倫理的配慮について口頭と文書にて説明した.同意書への署名をもって,研究協力の承諾とみなした.なお,本研究は,和洋女子大学人を対象とする研究倫理委員会の承認(承認番号1908)を得て実施した.

Ⅲ. 結果

1. 研究参加者の概要

研究参加者は,ART後に双胎妊娠した女性に対する助産ケアの経験がある助産師5名で,38~44歳(平均40.0歳)であった.全員が関東圏内の総合周産期母子医療センターに所属しており,助産師の臨床経験年数は12~17年(平均15.4年)であった.

2. ART後に双胎妊娠した女性への助産ケアに対する助産師の認識

データ分析の結果,58のコードと17のサブテーマが導き出された.さらに【心が不安に占領される妊娠生活】【双胎妊娠の負担の上に重なる高齢妊娠の重荷】【出産をゴールに据えるがための理想と現実のギャップへの困惑】【子どもとの距離を感じる母親】【継続的な支援の必要性】【ART後であることへの配慮の欠如】の6点のテーマが見出された(表1).

表1 ART後に双胎妊娠した女性への助産ケアに対する助産師の認識
テーマ サブテーマ コード
心が不安に占領される妊娠生活 妊娠生活を楽しめない不安の強さ 必死さが伝わる質問の多さ
自然妊娠と異なり常に不安がつきまとうイメージ
暗く艶感のない表情
異常に対する「大丈夫ですか」の確認行動
肯定的に見えない双胎妊婦の表情 受容に時間がかかる双胎妊婦
嬉しいより何か大変そうな印象
双子と分かった時点でハッピーが不安へ移行するイメージ
双胎妊娠の負担の上に重なる
高齢妊娠の重荷
双胎妊娠による身体的,経済的な重い負担 妊娠経過に合併症の多い双胎妊娠
マイナートラブルを抱える双胎妊娠
管理入院による筋力低下
ART後にのしかかる二人分の経済的負担
支援者が少ない高齢妊娠の負担 高年齢の上に双胎妊娠による身体的負担
出産後の育児支援者のいない高齢妊婦
出産をゴールに据えるがための
理想と現実のギャップへの困惑
妊娠期から産後の双子育児のイメージ化が
困難
管理入院により物理的に準備が不可能
早産になるか不明で選択できない育児用品
出生体重の予測困難によるベビー準備の遅れ
出産がゴールで妊娠期に準備できない妊婦
体調回復前から開始する双子育児における
想定以上の疲労
管理入院で弱った状況で始まる双子育児
高年齢で出産後に時間のかかる母体の回復
帝王切開術後の貧血状態で始まる双子育児
双子育児において立ちはだかる現実への
困惑
予想外の双子の行動に受入れ困難
理想通りにいかない双子育児への戸惑い
母親役割を完璧に果たしたいが動かない身体
理想通りにいかない双子育児を受け入れる
柔軟さの欠如
イメージできていなかった動けない産後生活
二人に平等に関わろうとすることによる大変さの増幅
双子となった責任を後悔しないよう理想通りの育児に奮闘
やり直しのきかないART後の双子育児
治療により完璧主義となり切り替えられないスイッチ
子どもとの距離を感じる母親 産後休息をとるために子どもを預ける
機会の多さ
ナースステーションに双子を預ける回数の多さ
休息ニーズの高い出産後
子どもの欲求が聞こえない心理的距離 双子のリクエストを聞けない母親
所有物と接するような子どもとの距離感
業務のように感じる子どもとの接触
「正解」を求め目立つ確認作業
動物的な守備行動 冷静になれず二人の泣きに困惑する双子育児
頻繁に行われる子どもの正常経過の確認
答えられないほどの細かな質問の要求
人を寄せ付けようとしない否定的な会話
継続的な支援の必要性 ART後の双子の母親に対する継続的な
育児支援の必要性
母乳育児支援以外は継続的に関われていない現状
不妊治療中に密だった医療従事者との関係が途切れる産後
産褥入院中の友達づくりに対する課題
地域社会に戻るための継続的支援の
必要性
出産後のケアを2倍にしたい双子育児
単胎児以上に養育イメージをつけて欲しいという願い
退院日を目途に立案する産褥スケジュール
行政に期待する継続的サポート
退院前からの社会サービスのSWへの依頼
妊娠期から双子育児のイメージ化を図る
支援の必要性
出産がゴールとならぬよう妊娠期から支援したい
イメージづくり
治療中から一変して途切れる密な医療者からの支援
理想は育児期までの継続的な支援
ART後であることへの配慮の
欠如
ART後に特化したケアについての
知識不足
分からないARTに特化したケア
妊娠期に出産後の指導をすることが功をなすか疑問
自然妊娠と区別した関わりへの迷い ARTを否定的に捉えて欲しくない思い
確証のないART後の女性と自然妊娠の女性とを区別した指導
活用していないARTヒストリー 気に留めないART情報
ART情報の削除を検討したアナムネーゼ
妊娠期における切迫早産を重視した指導
双子の養育イメージに注目した支援を実施
不妊治療の情報を重要視しない産後のケア

以下,記述にあたっては,テーマを【 】,サブテーマを《 》で示した.研究参加者(a~e)の発言はゴシック体で記し,各テーマを説明する.

1) 【心が不安に占領される妊娠生活】

《妊娠生活を楽しめない不安の強さ》《肯定的に見えない双胎妊婦の表情》の2つのサブテーマから構成されていた.

《妊娠生活を楽しめない不安の強さ》

妊娠継続できるのかなって不安とか心配そうなところある(a).大丈夫かなって常にあるっていう印象が自然妊娠の方より全然ある.ある(全員).質問も多いし,私は正常ですか?大丈夫ですか?ってよく言う(a).幸せできらきらした表情はなく不安が大きい(b).いつになっても安心できないって感じ(c).

《肯定的に見えない双胎妊婦の表情》

自然妊娠の人のように嬉しいとか幸せっていうスピードがのっていかないで不安にひきずられてる…中略…一人だと嬉しさだけかもしれないけど,二人になると不安(b).妊娠するまでがゴールで双子になってこの妊娠を継続,無事に産めるかって普通の妊婦さんの不安ではなく困窮している感じ(c).

2) 【双胎妊娠の負担の上に重なる高齢妊娠の重荷】

《双胎妊娠による身体的,経済的な重い負担》《支援者が少ない高齢妊娠の負担》の2つのサブテーマから構成されていた.

《双胎妊娠による身体的.経済的な重い負担》

マイナートラブルも多いですよね(b).多胎なので一般(病院)のとこだとダメだって言われたり色々あって…中略…やっぱり早くから.他のものを併発してくるっていうか血圧が高い.体が二人分お腹で育てるのはきっと大変でしょうから.血糖とか大体ひっかかちゃう(a).(ART)治療中に貯金はたいてい使い果たしてるし,管理入院でお産のお金がすっごい3桁くらいになったり大変だと思う(a).問題がない人がいない(e).

《支援者が少ない高齢妊娠の負担》

予想外,多胎だから(b)理想みたいなところがあって,一人で育てるのも大変なのに二人一気にきて,それが高齢だったりすると,それをサポートする家族も高齢になってるからサポートもいないって感じ(c).旦那さんも大体年齢が上なのでとてもお忙しい人が多くて頼れない.転勤が多くてコミュニティが広がってない.市町村のマタニティクラス行っても20代とか年齢的に差もあったりでなかなか仲良くなるって難しい(a).

3) 【出産をゴールに据えるがための理想と現実のギャップへの困惑】

《妊娠期から産後の双子育児のイメージ化が困難》《体調回復前から開始する双子育児における想定以上の疲労》《双子育児において立ちはだかる現実への困惑》《理想通りにいかない双子育児を受け入れる柔軟さの欠如》の4つのサブテーマから構成されていた.

《妊娠期から産後の双子育児のイメージ化が困難》

結構,産むまでのモードだったんだなって印象があって,妊娠中に何ができたんだろうって思う.双子育児をイメージするってクラス以外に何が出来たんだろう.双子でも他の(単胎)ママたちがワンオペでやっているから,二人も一人も同じようにって思ってましたって言って,仕事をしてる夫のみのサポートで育児を回そうとして疲れてたり(b).

《体調回復前から開始する双子育児における想定以上の疲労》

治療した人って妊娠しにくい体で妊娠されてるから,すごい出血を産後にすることが多いなって思っていて,それで双子だったら帝王切開して胎盤剥がれて輸血して自己血を戻してヘロヘロな状況から育児のスタート…中略…本人たちは思うようにできないから,思うようにできないけど思うようにしたい強い気持ちがあって,それを変えられない(c).

《双子育児において立ちはだかる現実への困惑》

自分の体力との相談は後回しでやりたいことだらけなんだけど,長期入院で体力はない.母乳を完璧にやりたい…中略…自然にできた双子と対照的すぎて.両方に完璧にしたいってすっごい多い(b).泣いたら次どうすればいい,次はどうなるんだ,いくつがいいですかって求められてね.大体でいいですよって返すとまた困っちゃう(a).産後に急に襲い掛かる,アタフタしてどうしていいか分からない.二人分の育児が急に始まる.一人泣いて一人どうしようって困惑してコツをつかむのにも時間がかかる(e).

《理想通りにいかない双子育児を受け入れる柔軟さの欠如》

一人でも必死なのに二人を共通でやろうとするから大変さが4倍位になるっていうか,まじめっていうか,いろんな知識があるから大変(a).流行りのことを全部取り入れて一番いいことをこの子にしてあげたいっていうのがあって,でもそれができないよって言われた時「いや.やります」って,できなかった時のどうしようって切り替えスイッチが入りにくい(b).

4) 【子どもとの距離を感じる母親】

《産後休息をとるために子どもを預ける機会の多さ》《子どもの欲求が聞こえない心理的距離》《動物的な守備行動》の3つのサブテーマで構成されていた.

《産後休息をとるために子どもを預ける機会の多さ》

二人一緒に預かってます.私が休みたいっていうニーズが高い.こちらから見ても疲弊してるから預かるんですけどニーズも高いと思う.自然妊娠だと割と普通に同室してたりしますけど,体力とか回復とかもあるのかな(b).

《子どもの欲求が聞こえない心理的距離》

3時間で授乳しなきゃって思ってる(e).赤ちゃんの生きものとしてのリクエストを聞くというよりもやらないとってみたいな.先日,典型的な発言がありまして「ミルク飲んでも寝ません」「3時間空いてないから授乳じゃない」って赤ちゃんの欲求を自分のリズムを邪魔する存在としてストレスフルに捉えている感じです.業務感はとても感じます(b).

《動物的な守備行動》

寄せ付けない.がるがる期って呼んでるんですけど,他の動物が我が子を守るようにがるがる.助産師用語.我が子を守る感覚が強くなってる人.助言を良かれと思ってしようとしても,キリッとして「でも」って否定から入るお母さん,守りに入ってるんだろうなって,大切な子なんだよなって(b).

5) 【継続的な支援の必要性】

《ART後の双子の母親に対する継続的な育児支援の必要性》《地域社会に戻るための継続的支援の必要性》《妊娠期から双子育児のイメージ化を図る支援の必要性》の3つのサブテーマから構成されていた.

《ART後の双子の母親に対する継続的な育児支援の必要性》

双子だと2000 gくらいで体重が,また1週間後に来てねとか1か月健診でいいねって,そこからは切れちゃう(e).おっぱいで何かトラブルあれば関わるけど,良くなったら離れて行ってしまう.未熟児だったらね,フォローとかね,あるにしてもスパンが長いといいですね(a).

《地域社会に戻るための継続的支援の必要性》

多胎なので一人の赤ちゃんの養育だけじゃなくて実際にどう過ごしていくかイメージしてもらいたい.あまり治療後とかだからじゃなくて単胎の子じゃないっていうのが大きい(e).妊娠中とかみてる人が関わりながらゆっくり地域に出せたらいいなって思う(c).うちで1か月健診が終わるとブツッて切れて,なかなか支援はしてあげられない(b).

《妊娠期から双子育児のイメージ化を図る支援の必要性》

妊娠がゴールというイメージが正直あって…中略…産後ってところを子育てが始まるよっていうところを妊娠中にもっとイメージつけたり話せたらなって思います(b).

6) 【ART後であることへの配慮の欠如】

《ART後に特化したケアについての知識不足》《自然妊娠と区別した関わりへの迷い》《活用していないARTヒストリー》の3つのサブテーマから構成されいた.

《ART後に特化したケアについての知識不足》

自然妊娠は自分の操作できない双子じゃないですか「双子が来てくれた」やるしかないって,だけど医療介入すると自分の(卵子を)2つ戻したって自分の選んだ選択とか.その後の影響されたり…中略…育児を重くさせる選択を自分がしたんじゃないかってイメージ.訴えが多いので訪室回数を増やしたり,丁寧に関わるようにはしてるかもだけど意識してないから分からない.具体的にどこを変えるのか明確にわからない(d).

《自然妊娠と区別した関わりへの迷い》

劣等感じゃないですけど…中略…不妊治療したことを否定的には捉えずにいて欲しいから,だから高度生殖補助医療した人も同じようにして欲しいと思ったんですけど,とはいえ質問の多さとか神経質とか思うから関わりは変えていかないといけないのかな(c).

《活用していないARTヒストリー》

生殖補助医療したとかは気にしてないですね(b).気にしてなかった(全員).電子カルテ化してて,今までは「治療後何年」って聞いてたんですけど,これいる?ってことになって,不妊治療の有,無は聞くけど,細かくは聞かない.重要視してなかったし,カルテから消そうとしてたぐらい(b).

Ⅳ. 考察

助産師は,ART後に双胎妊娠した女性は双胎妊娠を肯定できずに不安が強いこと,育児方法には拘りが強い一方で出産をゴールと考えその後の育児をイメージできておらず育児に困惑していること,そして二人の育児の上に高齢出産による育児負担が重なることなどの特徴を捉えていた.ART後に双胎妊娠した女性は,自然に双胎妊娠した女性や,ART後に単胎妊娠した女性の特徴が複合的に存在し,かつそれらの特徴が相乗的に作用していると考えられた.また,ART後に双胎妊娠した女性は,妊娠から育児期間にわたって重なっていく課題に対処することが困難であり,子どもとの距離を感じていた.助産師は女性への継続的なケアの必要性を認識していたが,実践しているケアは双子に着目したケアに留まり,ART後であることの影響を踏まえたケアは手探りで実施していた.これらのケアは,知識として形式化されていなかった.

ここでは,ART後に双胎妊娠した女性の特徴を述べながら,女性への助産ケアの課題について,1.双胎妊娠に対する継続的な助産ケアの不足,2.自然妊娠と異なるART後であることの配慮の欠如の2点に着目して検討する.

1. 双胎妊娠に対する継続的な助産ケアの不足

助産師は,ART後に双胎妊娠した女性の特徴を【出産をゴールに据えるがための理想と現実のギャップへの困惑】と捉えて,妊娠期から産後の双子育児のイメージ化を図る支援の必要性を感じていた.我部山(2010)は,看護職者が考える不妊治療後に妊娠した女性のニーズ調査を実施した.その結果,不妊治療後に妊娠した女性が妊娠や出産がゴールと考えて育児まで意識していないことなど,自然妊娠者と異なり特別なケアが必要と認識していたと述べている.我部山は,多胎児についてのケアのあり方は言及していないが,不妊治療後の女性が出産をゴールとして捉えて育児までを意識していないという結果は本研究と類似していた.本研究では,不妊治療の中でもARTという高度な治療を受けて,さらに双胎妊娠した女性に対する助産師の認識を明らかにした.そしてART後は,単胎でも出産後の生活を想定できていない特徴があるが,加えて出産後に二人の育児を行うことになり困惑している様相が示され,妊娠期から二人の新生児を同時に育てるイメージ化を図る特別な支援の必要性を示した.

ART後に双子を出産した女性は単胎児を出産した女性と比べて,退院時に不安が高く,入院中のアドバイスが有効であったと回答した割合は半数以下と低いことが報告されている(Hammarberg et al., 2008).本研究でも,妊娠期から退院後でさえも女性の心は不安に占拠され続けており,妊娠中から地域社会に繋げるための継続した育児支援や,多胎児育児方法の習得に着目した指導の必要性を,助産師は認識していた.これらのケアを病棟と外来で共有できるケアマニュアルに落とし込む等,継続的なケアの実践に向けた仕組みが必要である.

2. 自然妊娠と異なるART後であることへの配慮の欠如

本研究の参加者全員が,助産ケアを通してART後に双胎妊娠した女性の言動,表情,そして態度から自然双胎した女性とは異なり,高齢妊娠による負担や不安など支援の必要性を感じとっていた.しかし,ART後に双胎妊娠した女性が不安に占領される根拠を示した研究参加者はおらず,【子どもとの距離を感じる母親】というテーマに関しても,サブテーマである《子どもの欲求が聞こえない心理的距離》《動物的な守備行動》の根拠は言及されなかった.助産師は,ART後の特徴を感覚的に捉えているが,捉えた現象に関するケアの根拠となる知識不足により,支援には至っていないと考察する.

【ART後であることへの配慮の欠如】については,《ART後に特化したケアの知識不足》に加えて,ARTを否定的に捉えて欲しくないという助産師の思いから《自然妊娠と区別した関わりへの迷い》が生じ,ART情報が活用されずに自然双胎と同様の支援が行われていた.Sandelowski et al.(1990)は,不妊治療後に妊娠しても人工的な妊娠であるという考えが払拭されず,自分は不妊だという認識から脱出できず心理的に傷が残っていると報告した.また,Dunnington & Glazer(1991)は,不妊治療をした女性は,不妊治療しなかった女性と比較すると,出産後に子どもとの関係における母親としての肯定的な評価が低く,母親としてのアイデンティティが低下することを明示した.つまり,母親自身が自然妊娠とART後の相違を理解しながら,女性が人工的な妊娠だと意識せずに母親としてのアイデンティティを確立することを目指した高度な支援が求められる.

生殖補助医療の進歩などによる出産年齢の上昇やハイリスク妊婦の増加を受けて,助産師教育は正常からの逸脱を判断し異常を予測する臨床推論能力や異常時に臨機応変に早期対応する実践能力の強化に注力している.また,助産師教育に用いられる書籍では,多胎妊娠が母子共にハイリスクな妊娠として扱われ早産や母体合併症,胎児発育異常などの問題点が存在することが説明されている(我部山・武谷,2020).しかし,ART後に双胎妊娠した女性の心理を捉えたケアの教育は,基礎教育でも卒後教育でもほとんどなされていない.

ART後に双胎妊娠した女性は,不妊治療中に何度も母親となる期待を裏切られた経験の上に,医療者の言動から双胎妊娠というハイリスク妊娠への不安がのしかかり,胎児の死や異常に対する予期的不安と共存した妊娠生活を送っている(藤井,2014).ART後に双胎妊娠した女性に対しては,女性が母親になれたと認識できるような母性を育むための支援が必要である.ART後に双胎妊娠した女性の特徴を理解して,自然双胎の女性よりも強い不安に占領されている理由や,子どもと距離を感じている理由にも配慮し,治療中から育児期間に亘って継続的なケアの必要性が理解できる助産師教育が望まれる.

Ⅴ. 研究の限界と課題

本研究では,助産師の認識からケアの課題を言及した.今後はART後に双胎妊娠した女性を対象とした調査から明らかになったケアの課題との統合が求められる.また,ART後に双胎妊娠した女性に対する助産師の認識は,所属する組織の方針や価値規範の影響を受けると考えられる.今後は,研究参加者を増やし,様々な施設で勤務する助産師の実像を把握していくことが課題である.

付記:本論文の内容の一部は日本看護学教育学会第30回学術集会にて発表した.

謝辞:本研究にご協力いただきました研究参加者の皆様に深く感謝申し上げます.

本研究は,2018~2020年度日本学術振興会科学研究費補助金(若手B)の助成を得て実施した.

利益相反:本論文内容に関連し,開示すべき利益相反の事項はない.

著者資格:MFは研究の着想デザイン,データ収集,データ分析,考察の一連のプロセスに貢献;KAはデータ分析および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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