日本看護科学会誌
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原著
病院看護部の災害への備え意識の基礎的研究
西上 あゆみ山﨑 達枝久保田 聰美
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2020 年 40 巻 p. 529-536

詳細
Abstract

目的:病院看護部の災害に関する備えの現状や意識,取り組み状況について課題を明らかにする.

研究方法:研究対象は病院看護部の代表者とし,質問紙を郵送,回答はWeb,郵送で求めた.調査内容は,先行研究を参考に属性,病院看護部の災害に関する備えの現状,防災への意識や備えに対する考えや実情とした.

倫理的配慮:調査は無記名で行い,研究代表者の所属する研究倫理委員会の承認を得て実施した.

結果:1,986件で分析を行い,災害拠点病院は414施設(20.8%)であった.災害に関する備えの現状では,設備準備は備蓄(91.0%),対策組織(77.4%)があり,災害拠点病院の指定の有無で結果は異なった.

結論:備蓄やマニュアル等は整備されてきているが,備え意識は低い.総じて災害拠点病院の備えは,指定を受けていない病院よりも備えられているが,派遣体制や支援後のメンタル支援体制は,同じ状況であった.

Translated Abstract

Aim: The present study, involving the nursing departments of Japanese hospitals, aimed to examine the status of their preparedness for and awareness of disasters, efforts to address it, and related problems.

Methods: The subjects were people who represent nursing departments of hospitals in Japan. They were asked to respond, on a webpage or by mail, to a questionnaire sent to them. Based on the results of previous studies, a survey of the following items was conducted: the attributes of people in nursing departments, the status of their preparedness for and awareness of disasters, and their attitudes and views.

Ethical considerations: An anonymous survey was conducted with the approval of the research ethics committee of the institute of the principal investigator.

Results: Analysis of 1,986 responses was conducted. The number of disaster base hospitals was 414 (20.8%). Regarding the status of preparedness for disasters in relation to facilities, there were differences in stocks of supplies (91.0%) and organizations to develop measures (77.4%) between the two types of health care institution: hospitals that had/had not been designated as disaster base hospitals.

Conclusion: Although people in the nursing departments of Japanese hospitals had stocks of supplies and manuals to respond to emergency situations, their awareness of disasters was low. Although disaster base hospitals had made greater efforts for preparedness than other health care institutions in general, there were no differences in systems for the dispatch of nursing staff and mental support following the provision of nursing care between the two types of hospital.

Ⅰ. はじめに

昨今の頻発する災害への対策は,病院看護部管理者にとって喫緊の課題である.国立保健医療科学院生活環境研究部における「病院における災害対策の実施状況に関する研究」(小林,2012)においても「災害発生時に医療提供機能を維持するためには,建物の構造的耐震性の確保とともに,運営面での災害対策についても,より一層推進してゆく必要があると思われる」とあるようにその対策はハード面だけでなく,病院機能を維持していくソフト面の強化も重視されている.これまで企業を中心に対策がとられてきた事業継続計画(Business Continuity Plan以下BCPとする)も徐々に病院にも広がりつつあるが,災害拠点病院等の先駆的な対策をしている一部の病院に留まっているのが現状である(厚生労働省,2019).研究者は,これまでに災害拠点病院や近畿地区における病院看護部に対して備えに関する調査(西上ら,200920112016a2016b)を行ってきた.しかし,マニュアルはあっても実際に備蓄が整っていないこと,災害を経験したことのない地域では災害看護に興味を持てていないこと,マンパワーの確保への対策ができていないことがわかった.また,一方で大規模災害を経験した特定の地域での研究(Öztekin et al., 2016)や施設の整備面の備えに関する調査(Ochi et al., 2015)が行われてきているが,実際に災害対策で運用にかかわる看護師に対して日本全体を調査対象としたものは見当たらなかった.特に地域包括ケアシステムが推進される近年,地域密着型の病院が災害時に果たす役割に対する期待は大きく,ここには災害拠点病院であるかどうかや規模が考慮されるわけではなく,すべての病院で備えが必要であるといえる.都道府県によって名称は異なるが,災害医療協力病院,救護病院として地域の防災に協力が求められている病院も存在する.災害に関わる名称がなくても,地域に密着した病院では,災害時に多数傷病者が来院することが予測される.つまり,その地域や自治体の医療救護計画と連携したBCPが重要なのである.しかし,災害時のかなめともいえる災害拠点病院自体も,指定を受けていない病院(以下,非災害拠点病院)の手本となる役割もありながらどのように備えられているか,どの程度優れているかに関する調査も見られないため,これについても明確にしておく必要がある.

どのような病院においても看護部は,24時間365日看護師を配し,病院内で最も多い職員を抱えている部署である.被災者が訪れた場合も昼夜を問わず,最前線で対応するのは看護師である.くわえて病院によっては,夜間や休日が院外の非常勤医師によって当直体制を組まれるため,院内の医師不在時の対応では看護職を中心とする対応が必須である病院もある(久保田ら,2018).日常業務において,看護師は医療的なケアはもちろんのこと,役割として患者への環境や生活まで目を配る必要があり,病院内では,医師だけでなく,事務,栄養科,薬剤部,検査部など多方面とつながっている.こうした調整役を担う看護部の活動に着目して,研究者は「病院看護部の備え測定尺度」を作成した(西上,2015).しかし,その回答者は多いとは言えず,原因について探索をする必要を感じた(Nishigami, 2019).病院看護部が病院の防災対策にかかわっていくためには,病院の防災対策の現状,看護部が行っている備えについて明確にしておく必要がある.また,病院看護部の災害に対する備え意識を明確にし,基礎的データを収集しておくことが重要であると考え,研究に取り組むこととした.

Ⅱ. 研究の目的

病院看護部の災害に関する備えの現状や備え意識,取り組み状況について課題を明らかにする.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究対象

病院看護部の代表者(看護局長,看護部長,総看護師長等)とする.病院のリストについては,研究者が過去に病院データベースから病院看護部対象の調査を行った経験(西上,2015)があり,このリストからもれていた災害拠点病院リストを加えた5,190病院を対象とした.災害拠点病院をくわえた理由として,災害拠点病院の現状把握,先行研究の災害拠点病院で行われた研究との比較も可能となるためであった.

2. 調査期間

2017年7月~2017年10月

3. データの収集方法・手順

病院看護部の代表者宛に質問紙(返信用封筒付き)を郵送した.質問紙には本研究に関する目的・趣旨を記載した研究への依頼書を添付し,研究への協力を依頼した.同時に質問紙を掲載したWeb調査画面を作成し,Webでの回答も可能にした.回答方法は対象者で選択してもらい,返信用封筒で投函または,Webで回答が行われた.

調査内容は,回答者の属性に加えて,先行研究(西上ら,20112016a2016b)を参考に病院看護部の災害に関する備えの現状を見る項目として「設備準備」「文章化」「教育・訓練」「経験」「人材確保」を設定,さらに防災への意識や備えに対する考えや実情を問うように構成した.

4. データの分析方法

データは,項目ごとに記述統計で分布を明らかにした.さらに災害拠点病院の指定を受けているかどうかでクロス集計を行い,χ2乗検定で比較した.なお,統計解析は IBM SPSS 25.0J for Windowsを使用し,有意水準は危険率5%未満(p < .05)とした.

5. 倫理的配慮

研究対象者の回答にあたって,個人名,病院名の記載が必要でないことと,調査は統計的に処理することを依頼書に記した.研究調査説明書には郵送またはWebで回答が可能であることを明示し,回答をもって参加意向を示したものと判断した.得られたデータは目的以外に使用しないこと,使用後のデータは粉砕破棄処分とすること,また無記名による調査で個人が特定されないことを依頼書に記載した.調査時に研究者の所属していた研究倫理委員会の承認を得て研究を行った(梅花女子大学研究倫理審査委員会0010-0112).

Ⅳ. 結果

1,999件(Web 63件,郵送1,936件)の回答があった(回収率:38.5%)が,多くの質問に回答のない1件,災害拠点病院指定の質問に答えていない施設を無効とし,1,986件で分析を行った.回答者は災害拠点病院が414施設(20.8%),非災害拠点病院が1,572施設(79.2%)であった(表1).

表1  属性
項目 総数 災害拠点病院 非災害拠点病院
n (%) n (%) n (%)
施設の属性 所在地(n = 1,982) 北海道・東北 365 (18.4) 68 (16.5) 297 (18.9)
関東 444 (22.4) 97 (23.5) 347 (22.1)
中部 275 (13.9) 79 (19.2) 196 (12.5)
近畿 299 (15.1) 53 (12.9) 246 (15.7)
中国 169 (8.5) 30 (7.3) 139 (8.9)
四国 102 (5.1) 23 (5.6) 79 (5.0)
九州・沖縄 328 (16.5) 62 (15.0) 266 (16.9)
病院種別(n = 1,967) 一般病院1 1,246 (63.3) 105 (25.5) 1,141 (73.4)
一般病院2 538 (27.4) 301 (73.1) 237 (15.2)
リハビリテーション病院 48 (2.4) 1 (0.2) 47 (3.0)
慢性期病院 119 (6.0) 5 (1.2) 114 (7.3)
精神科病院 16 (0.8) 16 (1.0)
設置主体(n = 1,985) 99 (5.0) 40 (9.7) 59 (3.8)
公的医療機関 549 (27.7) 242 (58.6) 307 (19.5)
社会保険関係団体 47 (2.4) 12 (2.9) 35 (2.2)
医療法人 1,023 (51.5) 60 (14.5) 963 (61.3)
個人 38 (1.9) 2 (0.5) 36 (2.3)
その他 229 (11.5) 57 (13.8) 172 (10.9)
病床数(n = 1,670) 49床以下 161 (9.6) 11 (3.1) 150 (11.4)
50~99床 395 (23.7) 13 (3.6) 382 (29.1)
100~299床 737 (44.1) 105 (29.3) 632 (48.2)
300~499床 239 (14.3) 113 (31.6) 126 (9.6)
500~899床 114 (6.8) 94 (26.3) 20 (1.5)
900床以上 24 (1.4) 22 (6.1) 2 (0.2)
立地(n = 1,945) 過疎地域 212 (10.9) 43 (10.5) 169 (11.0)
政令指定都市・東京23区 471 (24.2) 106 (26.0) 365 (23.7)
上記以外 1,262 (64.9) 259 (63.5) 1,003 (65.3)
災害時に孤立の可能性あり(n = 1,636) 307 (18.8) 43 (12.1) 264 (20.6)
病院機能評価受審あり(n = 1,637) 709 (43.3) 260 (73.9) 449 (34.9)
救急指定病院・救命救急センター(n = 1,977) 777 (39.3) 328 (79.6) 449 (28.7)
回答者の属性 職位(n = 1,869) 看護部代表者 1,722 (92.1) 328 (84.8) 1,394 (94.1)
看護部代表者兼副院長 147 (7.9) 59 (15.2) 88 (5.9)
性別(n = 1,901) 女性 1,837 (96.6) 390 (98.5) 1,447 (96.1)
男性 64 (3.4) 6 (1.5) 58 (3.9)

病院種別については,公益社団法人日本医療評価機構病院機能評価事業(以下,病院機能評価とする)の分類(2017年当時の方式)を用いて集計,「一般病院1(主として,日常生活圏域等の比較的狭い地域において地域医療を支える中小規模病院)」が63.3%と最も多かった.病床数では,100~299床が44.1%と最も多かった.病院機能評価を受けている施設は43.3%,救急指定病院または救命救急センターである施設は39.3%であった(表1).

1. 病院看護部の備え

災害に関する備えの現状として,表2に示すように「設備準備」「文章化」「教育・訓練」「経験」「人材確保」に関する項目で質問した.備えが75%以上できている項目として,「設備準備」は,備蓄(食料,燃料,医薬品等)91.0%,対策組織77.4%があり,対策本部が設置されているところでは,看護師はその対策本部に97.7%が参加していた.「文章化」については,マニュアルは89.4%であり,マニュアルがあるところでは,夜間・休日への考慮が87.2%でされていた.「教育・訓練」では,施設外への災害看護研修に80%を参加させていた.「人材確保」では「災害支援ナース」の認知は95.7%であった.

表2  病院看護部の備えの現状・備え意識
項目 総数 災害拠点病院 非災害拠点病院 有意水準
n (%) n (%) n (%)
設備準備 ヘリポートあり(n = 1,985) 255 (12.8) 196 (47.5) 59 (3.8) p < .001
備蓄(食料,燃料,医薬品等)あり(n = 1,665) 1,515 (91.0) 347 (97.2) 1,168 (89.3) p < .001
災害(防災)対策に関する組織あり(n = 1,657) 1,283 (77.4) 339 (94.7) 944 (72.7) p < .001
災害(防災)対策に関する組織への看護師の参加(n = 1,295) 1,265 (97.7) 339 (99.7) 926 (97.0) p < .01
文章化 防災マニュアルあり(n = 1,652) 1,477 (89.4) 354 (98.9) 1,123 (86.8) p < .001
防災における夜間・休日への考慮あり(n = 1,473) 1,285 (87.2) 314 (88.7) 971 (86.8) n.s.
防災に関する看護部独自マニュアルあり(n = 1,448) 448 (30.9) 143 (42.1) 305 (27.5) p < .001
災害時の通常以上の患者受け入れの明文化あり(n = 1,619) 500 (30.9) 219 (62.8) 281 (22.1) p < .001
アクションカードあり(n = 1,641) 570 (34.7) 243 (68.6) 327 (25.4) p < .001
災害時の受援計画(マニュアル)あり(n = 1,762) 396 (22.5) 168 (45.2) 228 (16.4) p < .001
教育・訓練 消防法に加えた施設独自の訓練あり(n = 1,797) 474 (26.4) 230 (59.9) 244 (17.3) p < .001
施設内災害看護教育・研修あり(n = 1,791) 973 (54.3) 305 (80.3) 668 (47.3) p < .001
施設外災害看護研修へ参加させている(n = 1,808) 1,446 (80.0) 374 (96.6) 1,072 (75.4) p < .001
経験 被災経験あり(n = 1,978) 367 (18.6) 78 (18.9) 289 (18.5) n.s.
災害による傷病者受け入れ経験あり(n = 1,973) 486 (24.6) 172 (42.0) 314 (20.1) p < .001
被災地への看護師派遣経験あり(n = 1,663) 741 (44.6) 300 (84.3) 441 (33.7) p < .001
人材確保 災害支援ナースを知っている(n = 1,799) 1,721 (95.7) 380 (99.0) 1,341 (94.8) p < .001
災害支援ナース登録あり(n = 1,737) 897 (51.6) 284 (74.5) 613 (45.2) p < .001
DMAT1)登録あり(n = 1,737) 399 (23.0) 330 (86.6) 69 (5.1) p < .001
DPAT2)登録あり(n = 1,737) 26 (1.5) 22 (5.8) 4 (0.3) p < .001
国際緊急援助隊登録あり(n = 1,737) 27 (1.6) 19 (5.0) 8 (0.6) p < .001
JMAT3),TMAT4),AMAT5)登録あり(n = 1,737) 69 (4.0) 27 (7.1) 42 (3.1) p < .001
JRAT6)登録あり(n = 1,737) 9 (0.5) 9 (0.7) n.s.
その他(上記以外)登録あり(n = 1,737) 68 (3.9) 28 (7.3) 40 (2.9) p < .001
災害支援に関わる登録者はいない(n = 1,737) 653 (37.6) 23 (6.0) 630 (46.5) p < .001
意識 備えへの満足度(n = 1,623) 満足 11 (0.7) 8 (2.3) 3 (0.2) p < .001
だいたい満足 303 (18.7) 107 (30.6) 196 (15.4)
あまり満足でない 893 (55.0) 199 (56.9) 694 (54.5)
満足でない 416 (25.6) 36 (10.3) 380 (29.9)
災害支援に対する協力(n = 1,805) 協力できる 789 (43.7) 292 (75.6) 497 (35.0) p < .001
協力できない 107 (5.9) 6 (1.6) 101 (7.1)
そのときの状況による 909 (50.4) 88 (22.8) 821 (57.9)
備えに関する考え・実情 
 
下線は前向き項目
1.災害が起こった時期と職員異動の時期が重なると災害支援が難しくなる.(n = 1,898) 440 (23.2) 80 (20.2) 360 (24.0) n.s.
2.自分が看護部代表者としての在籍中に災害が起こるとは考えにくい.(n = 1,898) 41 (2.2) 6 (1.5) 35 (2.3) n.s.
3.災害支援に関して他の看護管理者にまかせているので,関わっていない.(n = 1,898) 8 (0.4) 2 (0.5) 6 (0.4) n.s.
4.災害看護に関して興味が薄い.(n = 1,898) 38 (2.0) 6 (1.5) 32 (2.1) n.s.
5.災害支援に関する経験がなく,なにをしてよいかわからない.(n = 1,898) 444 (23.4) 29 (7.3) 415 (27.6) p < .001
6.災害時派遣における費用負担に関する心配がある.(n = 1,898) 297 (15.6) 37 (9.3) 260 (17.3) p < .001
7.災害支援に看護師を派遣することは,施設の備えにつながる.n = 1,898) 1,305 (68.8) 329 (83.1) 976 (65.0) p < .001
8.災害時支援の要請に応えたい.n = 1,898) 1,119 (59.0) 322 (81.3) 797 (53.1) p < .001
9.災害支援を派遣できる体制が整っている.n = 1,898) 342 (18.0) 198 (50.0) 144 (9.6) p < .001
10.災害支援に対するメンタルケア支援体制が整っていない.(n = 1,898) 926 (48.8) 185 (46.7) 741 (49.3) n.s.
11.災害支援に看護師を派遣することは,施設の使命や方針にあっている.n = 1,898) 640 (33.7) 274 (69.2) 366 (24.4) p < .001
12.災害支援に看護師を派遣することに関する教育ができていない.(n = 1,898) 880 (46.4) 67 (16.9) 813 (54.1) p < .001
13.被災地を想像することができない.(n = 1,898) 138 (7.3) 16 (4.0) 122 (8.1) p < .01
14.災害支援は,活動した看護師の成長発達の機会になる.n = 1,898) 1,311 (69.1) 339 (85.9) 972 (64.7) p < .001
15.災害支援に看護師を派遣することに施設の許可が下りない.(n = 1,898) 102 (5.4) 5 (1.3) 97 (6.5) p < .001
16.施設において災害に備える予算を確保することが難しい.(n = 1,898) 351 (18.5) 49 (12.4) 302 (20.1) p < .001
17.施設において災害に備える物品・機材がそろっていない.(n = 1,898) 700 (36.9) 74 (18.7) 626 (41.7) p < .001
18.災害対策に取り組む時間がない.(n = 1,898) 258 (13.6) 30 (7.6) 228 (15.2) p < .001
19.施設の耐震構造に不安を持っている.(n = 1,898) 508 (26.8) 59 (14.9) 449 (29.9) p < .001
20.施設のある地域の防災対策に不安がある.(n = 1,898) 370 (19.5) 70 (17.7) 300 (20.0) n.s.
21.看護部に災害に備える文化・風土がない.(n = 1,898) 370 (19.5) 29 (7.3) 341 (22.7) p < .001
22.施設の被災時におけるライフラインの確保に不安を持っている.(n = 1,898) 731 (38.5) 120 (30.3) 611 (40.7) p < .001
23.被災時に施設が孤立することを心配している.(n = 1,898) 191 (10.1) 28 (7.1) 163 (10.9) p < .05

注1)1)DMAT:災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team)

2)DPAT:災害派遣精神医療チーム(Disaster Psychiatric Assistance Team)

3)JMAT:日本医師会災害医療チーム(Japan Medical Association Team)

4)TMAT:徳洲会災害医療救援隊(Tokushukai Medical Assistance Team)

5)AMAT:全日本病院医療支援班(All Japan Hospital Medical Assistance Team)

6)JRAT:大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会(2017年当時名称,2020年より一般社団法人日本災害リハビリテーション支援協会)(Japan Disaster Rehabilitation Assistance Team)

注2)表内の有意水準とは,災害拠点病院と非災害拠点病院のχ2乗検定で危険率 5%未満(p < .05)とした.

災害への備えの満足度について「満足」0.7%,「だいたい満足」18.7%であった.災害支援について要請があった場合,「協力できる」としたのは43.7%であった.被災地への看護師の派遣経験の有無と災害支援要請についてχ2乗検定(n = 1,496)したところ,派遣経験のある病院では「協力できる」71.9%,「協力できない」1.1%,「その時の状況による」27.0%であり,有意に派遣経験のある病院で協力できる状況であった(p < .001).

備えに関する考えや実情として23の質問項目を設定した.防災や災害支援に関する備えの実情について尋ねたところ,高いものから「災害支援は,活動した看護師の成長発達の機会になる」69.1%,「災害支援に看護師を派遣することは,施設の備えにつながる」68.8%となっていた.

2. 災害拠点病院の指定の有無からみた看護部の備え

災害拠点病院の属性の結果(表1)であるが,病院種別では,「一般病院2(主として,二次医療圏等の比較的広い地域において急性期医療を中心に地域医療を支える基幹的病院)」,設置主体では「公的医療機関」が最も多かった.非災害拠点病院では,「一般病院1」「医療法人」が多かった.また,災害拠点病院の機能評価受審は73.9%,救急指定病院・救命救急センターは79.6%であった.

災害拠点病院の備えの結果(表2)では,設備準備では「備蓄」「災害対策に関する組織」が95%以上整備されていた.防災マニュアルも98.9%で行われていたが,「災害時の通常以上の患者受け入れの明文化」62.8%,「アクションカード」68.6%,「災害時の受援計画」45.2%であった.これらは非災害拠点病院にくらべ,有意に多い結果であったが,「夜間・休日マニュアルの作成」は非災害拠点病院でも同レベルで行われていた.教育・訓練等では,災害拠点病院で,「消防法に加えた施設独自の訓練」を59.9%で行っており,「施設内災害教育・研修」は80.3%で,「施設外災害看護研修へ参加」は96.6%で行われていた.「傷病者の受け入れ経験」は42.0%であり,「被災地への看護師派遣経験」は84.3%であった.災害に関する人材確保について災害支援ナースの登録は74.5%で行われていた.DMAT(災害派遣医療チーム:Disaster Medical Assistance Team)登録も86.6%であった.これらは,非災害拠点病院とは,20%以上の開きがあった.

災害への備えの満足度や災害支援について要請についても災害拠点病院の指定の有無で有意に異なった.備えに関する考えや実情において多いものは総数の結果と同じ項目であった.非災害拠点病院との比較では,「災害が起こった時期と職員異動の時期が重なると災害支援が難しくなる」「自分が看護部代表者としての在籍中に災害が起こるとは考えにくい」「災害支援に関して他の看護管理者にまかせているので,関わっていない」「災害看護に関して興味が薄い」「災害支援に対するメンタルケア支援体制が整っていない」「施設のある地域の防災対策に不安がある」については有意差がなかった.「災害支援に関する経験がなく,なにをしてよいかわからない」といったような災害への備えに対して否定的な表現の項目では,前述の6項目を除くすべての項目において非災害拠点病院で有意に多く回答されていた.

災害拠点病院でも「施設の被災時におけるライフラインの確保に不安を持っている」30.3%,「施設において災害に備える物品・機材がそろっていない」18.7%,「災害支援に看護師を派遣することに関する教育ができていない」16.9%の回答があった.

Ⅴ. 考察

1. 病院看護部の備え

病院の全国調査としては,小林(2012)が行った大規模調査では,100床未満が35.1%,100~300床未満が45.4%であり,本調査の33.3%,44.1%と似ていたが,調査内における災害拠点病院の比率は8.1%に対し,本調査は20.8%であることから,災害拠点病院を追加していることもあり,看護部の中でも災害への備えに回答しようとする意識の高い施設の回答となっている可能性がある.また,病院機能評価受審状況からみても小室(2017)の日本の病院での約25%受審という結果と本調査の回答施設の受審率43.3%を比較すると,病院機能評価項目内には病院の危機管理として災害への対応に関する項目もあり,災害への備えが充実している施設が調査に応じたといえる.

設備準備においては,75%以上できている項目として,「備蓄」「災害対策に関する組織」があったが,小林(2012)の調査では飲料水の備蓄66.3%,食料の備蓄75.5%とあり,本調査のほうが高くなっていた.西上ら(2016a)の近畿地区で行われた2013年調査の病院の対策組織の設置は69.8%であったことからこの結果も増加がみられた.対策組織が設置されているところでは看護師は97.7%が参加しており,看護部が災害対策において役割を果たしていることがわかったが,さらにこれに貢献するため,看護師はそれぞれが災害対策に対する知識を持つ必要があると考える.

マニュアルについては,小林(2012)の調査でも93.3%であり,本調査においても約9割で作成されており,作成されているところでは夜間・休日マニュアルも87.2%と非日常時の策定が充実してきていることが推測された.一方,災害時の通常以上の患者受け入れ,アクションカード,受援計画は2~3割にとどまっていた.災害拠点病院に限らず,地域密着型の病院に被災者が来院する可能性もあると考えられ,どのように被災時をのりこえるかについて検討しておく必要がある.

災害時の看護師の人的資源の一つとして日本看護協会は災害支援ナースを2004年から派遣実施をしているが,この認識も看護部では9割以上と高く,ほぼ知られるようになってきたと考えられる.

備えの満足度について「だいたい満足」以上は2割未満であった.先に述べたように本調査は災害への備えの充実している施設が回答したと推察されるにもかかわらず,満足度は高いとは言えなかった.Nishigami(2019)の2015年の調査でも2割未満であり,状況は変わっていない.これは災害を認識しているからこそ,備えの不備を認識している実直さによるものとも考えられる.

災害支援について要請があった場合,協力できるかについて「協力できる」としたのは43.7%であり,高いとは言えない.さらに実際の派遣経験と照らし合わせると看護師の派遣経験のある病院が「協力できる」と考えていた.一方で「災害支援は活動した看護師の成長発達の機会になる」「災害支援に看護師を派遣することは施設の備えにつながる」と多くの病院で回答できていたことから,協力することで看護部に得られるメリットがあることを認識しながらも実際に派遣に出すことは難しい状況が推察された.

2. 災害拠点病院の指定の有無からみた看護部の備え

災害拠点病院は,災害発生時に災害医療を行う医療機関で中心的存在であり,その指定要件も多くの項目がある.結果においても,設置主体は公的機関が多く,病床数も多い,病院機能評価の受審も行われている施設であった.

設備準備やマニュアル等の文章化,教育・訓練等は,当然であるが非災害拠点病院よりも有意に実施されていた.しかし,非災害拠点病院においてもマニュアルの整備が行われ,備蓄も有意差はあるものの約9割の病院で備えられていることが分かった.非災害拠点病院は,設置主体において公的機関の割合も少なく,施設独自でマニュアルや備蓄を整えようとしていると考えた.災害拠点病院での災害対策組織は西上ら(2009)の調査では84.2%であったが,現在は9割を超えている.施設内の災害教育も56.3%から80.3%へと高くなっていた.また,傷病者の受け入れ経験や看護師派遣経験も多かった.しかし,細かくみると多数傷病者の受け入れの明文化は62.8%しか整備されておらず,これは高橋ら(2017)が災害拠点病院の災害時拡張可能病床保有状況が64.2%と回答していることと同様の結果となった.高橋らはさらに拡張可能病床総数は回答した病院の許可病床総数の9.4%でしかなかったとされている.以上から日本においては災害拠点病院であっても設備の準備は万全とは言えない.災害への備えの満足度について,災害拠点病院は「だいたい満足」以上に3割以上の回答はあったが,高いとは言えない.災害拠点病院でも,災害への備えに終わりがあるとは考えず,訓練などをとおして評価をしては,さらに改善点を見いだそうとする姿勢,誠実に対応しようと向き合う看護部の様子が表れていると考えられた.

災害支援に関する協力は災害拠点病院で8割近くの病院ができると回答しているが,多くのDMAT,災害支援ナースを保有しながら,2割はそのときの状況によると回答している.これは,災害が起こった時期と職員異動の時期が重なると災害支援が難しくなると2割の病院が回答していることとも合致している.災害拠点病院であっても,「災害支援を派遣できる体制が整っている」には半数の病院しか回答できていない.加えて「施設の被災時におけるライフラインの確保に不安を持っている」に3割の病院が回答していることも見逃せないことと考える.つまり,災害支援を期待されている病院であってもスムーズな派遣が難しいと考えていること,さらに支援を必要とする病院と同じ被災地内にあれば,災害拠点病院でもライフラインの途絶により,より派遣が難しくなる可能性がある.

災害拠点病院であっても「災害支援に対するメンタルケア支援体制が整っていない」「施設のある地域の防災対策に不安がある」では,非災害拠点病院の実情と同じ傾向があった.総務省(2018)が九州の35災害拠点病院に行った調査ではBCPの整備において「整備のために必要なスキルやノウハウを持った医師や事務職員がいない」「情報が少なくどこから手をつけてよいかわからない」「災害に備えた応援協定などの締結が難しい」に50%以上の施設が回答しており,九州だけでないことがこの調査で分かった.災害拠点病院に指定されるためには,種々の条件を揃えなければならないことからなぜ有意差が出なかったかについては今後詳細に調べる必要がある.DMATなど災害支援を行っていながら,支援者のメンタルケア支援体制について半数の災害拠点病院が整っていないと感じているところは,課題ではないかと考える(大畠ら,2015).災害支援後は,支援者も惨事ストレスによる二次被災者になることが考えられる(山﨑,2020)ため,対策が必要と考える.

災害拠点病院は,指定において要件を満たさなければならないため,備えにおいて常に検討されている施設である.さらに2017年厚生労働省より,災害拠点病院,全ての医療機関はBCPを策定することが求められている.非災害拠点病院においても2012年厚生労働省より「災害時における医療体制の充実強化について」の通知がされており,災害対策マニュアルを作成するとともにBCPの作成に努めることが求められている.近年の頻発する災害発生を乗り越えていくため,DMATだけでなくDPATや災害支援ナースを派遣できることとその体制,自施設近辺の被災においては,地域の災害拠点病院との連携で被災者の受け入れや職員の派遣体制に関して補い合う関係が必要になってくると考える.

Ⅵ. 結論

1.病院看護部の災害に関する備えの現状としては備蓄やマニュアルなどが整ってきているが,備えに対する満足度は低い.災害支援について要請があった場合,派遣することに意味があると考えながらもできる施設は4割程度である.

2.災害拠点病院は非災害拠点病院よりも多くの項目で有意に備えているが,派遣体制や支援後のメンタル支援体制に対して,整っていないととらえている.非災害拠点病院では,マニュアルや備蓄では備えが9割でできている.また,地域密着型の病院への期待や,災害支援の多様なシステムから非災害拠点病院でも派遣体制やメンタル支援は必要といえ,災害拠点病院との連携の上で,発展させる必要がある.

付記:本研究の内容の一部は,第38回日本看護科学学会学術集会,JR西日本あんしん社会財団平成29年度研究助成実績報告書において発表した.

謝辞:本研究にご協力いただきました看護師の皆様に深く感謝申し上げます.なお,本研究は公益社団法人JR西日本あんしん社会財団の平成29年度研究助成を受けて実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:ANは研究の着想,デザイン,データ収集,分析,解釈,原稿作成までの研究プロセス全体を,TYおよびSK は草稿の作成から原稿への示唆および研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み承認した.

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