2025 年 45 巻 p. 39-48
目的:日本語学校の教職員が客観的に認識する在日外国人留学生の受療行動における課題を明らかにする.
方法:日本語学校の教職員10名に半構造化インタビューを行った.研究デザインは質的記述的研究とし,データは帰納的分析を行った.
結果:在日外国人留学生は,【在日外国人留学生であることが理由で受診において不利益を生じる】【日本語能力の限界により受診時に真意がわからないままでの会話となる】こと,【受診の要否の判断も含めて教職員に頼らざるを得ない】ことが示された.また,【自国との社会的システムや慣習の違いから日本の一般的な受療行動になじみがない】ことに直面し,【経済的な余裕がない中で在留するため受療行動が負担となる】ことが示された.
結論:在日外国人留学生が医療機関を活用するにあたり,医療機関側の体制整備だけでなく,留学生および日本語学校への情報提供や医療職者による支援体制の整備の必要性が示唆された.
Objective: This study aims to identify issues in the health-seeking behaviour of international students in Japan as perceived by teaching staff at Japanese language schools.
Methods: We conducted semi-structured interviews with 10 teachers and staff from Japanese language schools. The data obtained were analysed using qualitative descriptive methods.
Results: “Disadvantage in receiving medical examinations due to being an international student in Japan”, “Due to the limitations of Japanese language skills, conversations during medical examinations do not convey the true meaning”, “They have to rely on teachers to make decisions, including whether they need to see a doctor.” It was shown to be the case. In addition, “Due to differences in social systems and customs from their home country, they are not familiar with typical healthcare-seeking behaviors in Japan.” This they faced. “Health-seeking behaviours are burdensome due to residency in situations where economic resources are not available.” This has been shown to be the case.
Conclusion: It has been suggested that, in order for international students living in Japan to make use of medical institutions, it is necessary not only to improve the systems on the part of the medical institutions but also to provide information to the students and Japanese language schools, and to establish support systems by medical professionals.
国際化の進展に伴い日本で暮らす外国人は増加しており,2023年度の在留外国人数は3,223,858人と前年より4.8%増加し過去最高を更新している(法務省出入国在留管理庁,2023).また,在留外国人全体の8.66%を占める外国人留学生(以下,在日外国人留学生)も305,916人と前年より1.7%増加している.在日外国人留学生は,引き続き日本国内での就労により多様な人材の雇用によるイノベーション創出や,労働生産力不足の解消が期待されている(独立行政法人国際協力機構,2022;経済産業省,2022).そのため,日本政府は2033年までに留学生40万人の受け入れを目指す計画目標をかかげている(内閣官房教育未来創造会議,2023).こうした施策の影響もあり,今後ますます在日外国人留学生が増加していくことが見込まれる.
在日外国人留学生の中には,母語ではない日本語の学習を目的として,高等教育機関や就労を目指す以前に来日し日本語教育機関(以下,日本語学校)で学ぶものが含まれている.日本語学校とは,日本語を母語としない人を対象に日本語を教育する機関で,入学生には留学の在留資格が付与される.在日外国人留学生のうち日本語学校の留学生は90,719人(32.5%)であり,前年度と比べ83.6%の増加をしている(独立行政法人日本学生支援機構,2023).全国の認定日本語教育機関892校(文部科学省,2024)のうち東京都の267件(29.9%)が最も多く,次いで大阪府には94校(10.5%)と都市部に多く設置されている.また,日本語学校の在日外国人留学生の出身国は,中国,ネパール,ベトナム,ミャンマー,スリランカの順で多く,英語が母語ではない学生が上位を占めている(日本語教育振興協会,2024).法務省(2018)は,日本語学校で学ぶ在日外国人留学生の日本語能力をN5以上としている.N5レベルは約100字程度の漢字の読み書きおよび約1,000字の日常的な語彙を習得しており,ゆっくり話される短い会話であれば聞き取ることができる基礎段階にあるが,場面限定的である.また,日本での生活経験が少ないことで,日本文化や医療制度に関する知識も十分ではない.
そうした在日外国人留学生に対して,文部科学省(2024)は日本語学校に適切な生活を行うための支援体制を整えるよう定めており,日本語学校は,在日外国人留学生が日本での生活基盤を確立していくにあたり重要な入口となっている.すなわち,日本語学校の教職員は,日常的に在日外国人留学生への生活サポートや適切な窓口の紹介を行う立場にあり,在日外国人留学生の健康管理行動や受療行動などの保健行動における課題に直面しやすいと考える.
在日外国人の受療行動においては,言語や医療システムの違いによる課題が報告されている.例えば言葉が通じない事が心配で通院しにくい(福井,2009;栗城ら,2020),保健行動における困りごとを日本語で伝える事ができない(水田ら,2019;Ohura et al., 2020;寺岡・村中,2017),医療者から説明された内容が理解できない(Ohura et al., 2020),受診拒否や冷たくされた経験があり日本人と同様に診てもらえるか心配(水田ら,2019)という言語的な課題がある.また,日本の医療システムの理解不足として,医療福祉のサービスの情報がどこで得られるかわからない(中山ら,2013),自国と異なり患者が診療科を選択するシステムに戸惑った(水田ら,2019;寺岡・村中,2017)という課題がある.
在日外国人は慣れない環境で生活することでの疲労や気候の違いなどから,来日1 か月以内に受診が必要な状態が生じやすいが,健康管理への関心が低いことや,来日前後の早期に健康教育をタイムリーに行う必要があると示唆されている(佐藤・田村,2021).日本語学校の在日外国人留学生が,受療行動を適切に行えないことで,体調や症状管理が遅れ,留学生活上の不利益にも繋がる.日本語学校における外国人留学生への生活上の支援体制は情報の提供や適切な窓口の紹介とされ,必ずしも直接の支援が必要というわけではない(文部科学省,2024).しかし,受療行動は来日当初より必要であり,日本語習得レベルの初期の段階であっても適切に行われることは重要である.また,来日間もない外国人留学生にとって,文化の違い等により母国と日本での一般的な受療行動の違いが分からない場合も考えられ,留学生自身は困っていないと感じることもあると考える.そのため,日本語学校の教職員には直接的な支援の必要性を感じている場合もあると推察する.そこで本研究は,日本語学校の教職員を対象とし,在日外国人留学生の受療行動における課題を客観的に明らかにすることを目的とする.日本語学校の教職員は,日常的に留学生に接していることで,留学生自身も気づいていない日本での生活における文化的背景などの違いによる課題に関して知見があると考える.
本研究結果により,在日外国人留学生が,日本語習得の初期段階であっても適切に受療行動を行い,医療機関を利用できる能力を身に着けるための支援に繋げることが出来ると考える.また,日本で外国人留学生が安心・安全に受療行動が行える環境を作り,留学生活を充実させるため,留学生自身が受療行動を適切に行える能力を身につけることにつながると考える.
在日外国人留学生:日本語習得・進学・就職のため日本語教育機関に在籍し,留学の在留資格を付与されている外国人.
日本語学校教職員:外国人留学生を対象に日本語を教育する機関に勤務し,外国人留学生の生活を見守る立場にある教員及び事務職員とする.
受療行動:Kasl & Cobb(1966)の述べる保健行動における「病気対処行動」と同義とし,自覚症状から病気に気づき,回復を目指す行動であり,薬を飲むなどの自助行動,他者へ相談するなどの救助行動を含むものとする.
質的記述的研究.
2. 研究対象者機縁法および文部科学省の認定日本語教育機関一覧から大阪府下の施設規模の異なる6校に依頼した.日本語学校の施設管理者に文書で研究協力を依頼し,研究対象者の選定基準として日本語を母語とする日本人教職員であることを示し,対象者の選定を依頼した.施設管理者から研究への同意が得られた後,対象候補者の紹介を受けた.対象候補者に文書を用いて口頭で研究に関する説明を行い,署名による同意が得られたものを対象とした.
3. データ収集期間2023年7月から12月にデータ収集を行った.
4. データ収集方法インタビューガイド(表1)に示した内容に関して対面で半構造化インタビューを実施した.インタビュー内容は受療行動の課題に関する先行研究(木村・師岡,2024)を参考に,独自に作成した.対象の所属する施設に在籍する留学生の主な出身国は,各施設のウェブサイトおよび対象からの聞き取りによりデータを得た.
・外国人留学生の健康上の課題に関して支援した経験についてお教えください |
・その時学生はどのように考えていたと思われますか |
・学生の対処が不適切であった場合,何が影響している(要因である)と考えておられますか |
・学生の対処が適切であった場合,それはなぜだと思いますか |
・その内容についてどう思いましたか |
・外国人留学生の健康管理における制度やサポート体制にはどのようなものがありますか |
・外国人留学生の健康管理についての課題はどのようなものですか |
インタビューの内容は対象者の同意を得てICレコーダーに録音した.録音内容を逐語録とし質的データ分析ソフトウェアであるNvivo14を用いて分析した.初期段階では,対象者のインタビュー内容を精読して全体像をとらえた.次に,在日外国人留学生の受療行動における困りごとおよび課題について,意味のある単位を抽出し,コードを作成した.これらのコードの関連性や共通点に従って分類し,より抽象度の高いサブカテゴリを作成し,さらにその類似性に従って分類しカテゴリを作成した.このプロセスは手動で行った.対象者ごとに分析を行い,新たなコードが見いだせないと判断した時点,すなわち飽和状態に達したと判断できるまでデータ収集を継続した.
データ分析の過程では,意味内容の解釈がデータに基づいているかを客観的視点から吟味するため,質的研究に精通している指導者のスーパーバイズを受け,分析の妥当性を確認した.
6. 倫理的配慮本研究は武庫川女子大学の研究倫理委員会の倫理審査を受け実施した(承認番号23-13,23-67).研究に協力が得られた日本語学校の施設管理者に対して研究関連文書を郵送し,同意が得られた後,対象候補者の紹介を受けた.施設管理者より対象候補者に研究参加の可否について打診を依頼し,内諾を得た対象候補者に文書を用いて口頭で研究の説明を行った.研究参加に際して,匿名性の保持,個人情報の保護,インタビュー時のプライバシーと感染への配慮,面接内容の時間と録音,協力の任意性と撤回,成果の公表について説明を行い,書面により同意を得た.
9名のインタビューに達した時点の分析で新規のコードが認められず,10件目も同様であったことからデータが飽和したと判断し調査を終了した.計10名の研究参加者の語りを分析対象とした.研究参加者は,大阪府内の6校に勤務する日本語学校の教職員10名で,平均年齢(標準偏差)は45.0(9.3)歳,平均経験年数(標準偏差)は9.3(10.3)年,他の職場を含めた通算の平均経験年数(標準偏差)は13.1(9.5)年であった.面接時間は平均43.3分であった.研究参加者および各学校の概要を表2に示した.
A氏 | B氏 | C氏 | D氏 | E氏 | F氏 | G氏 | H氏 | I氏 | J氏 | |
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施設 | a | a | a | a | b | c | c | d | e | f |
年齢 | 40歳代 | 40歳代 | 20歳代 | 40歳代 | 40歳代 | 30歳代 | 40歳代 | 50歳代 | 50歳代 | 50歳代 |
経験年数(現任校) | 3 | 4 | 3 | 6 | 1 | 7 | 10 | 36 | 20 | 3 |
経験年数(通算) | 15 | 7 | 3 | 17 | 1 | 7 | 13 | 36 | 20 | 12 |
性別 | 女 | 女 | 女 | 男 | 男 | 男 | 男 | 女 | 女 | 男 |
職種 | 教員 | 教員 | 教員 | 教員 | 事務 | 教員 | 教員/事務 | 教員 | 教員 | 教員 |
設置コース | 進学 | 進学 | 進学 | 進学 | 進学 | 進学/一般 | 進学/一般 | 進学 | 進学 | 進学 |
収容定員 | 100人* | 100人* | 100人* | 100人* | 225人 | 244人* | 244人* | 365人 | 220人 | 300人 |
留学生の主な出身国 | ベトナム ネパール インドネシア |
ベトナム ネパール インドネシア |
ベトナム ネパール インドネシア |
ベトナム ネパール インドネシア |
ミャンマー ネパール モンゴル |
ベトナム ネパール バングラディシュ |
ベトナム ネパール バングラディシュ |
ミャンマー 中国 インドネシア |
ネパール ベトナム ミャンマー |
中国 台湾 |
注1)進学は在日外国人留学生への日本の大学等の高等教育機関への進学コース,一般は在日外国人への実用的な日本語コースである
注2)*は午前と午後の2部制
日本語学校教職員が認識する在日外国人留学生の受療行動における課題について,336のコードが抽出され,12サブカテゴリ,5カテゴリが生成された.結果を表3に示した.以下にカテゴリおよびサブカテゴリを順にあげて記述する.カテゴリは【】,サブカテゴリは〈〉,インタビューで研究参加者から得られた内容は「」に斜体字で示す.「」内のアルファベットは発言者を示す.
カテゴリ | サブカテゴリ | 代表的なコード(一部を抜粋) |
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在日外国人留学生であることが理由で受診において不利益を生じる | 医療機関においてやさしい日本語や多言語問診票を使ってもらえない | 医療機関で外国人の背景を考慮した対応をしてもらうことが難しい |
日本語がわからないので医者のやること何言ってるかのかがわからない | ||
日本語の読み書きが出来ないので問診票の文言の理解や自分で書くことが難しい | ||
在日外国人であることで受診に制約が課される | 医療機関に留学生の受診の連絡をすると教員の付き添いが無ければ受入してもらうことが難しい | |
外国人対応可能な医療機関が少ないため学生1人で受診できない | ||
日本語能力の限界により受診時に真意がわからないままでの会話となる | 医療や受療行動に関する認識がずれていることで意思疎通が図りにくい | 教員が考える健康行動と,学生の認識や行動に乖離がある |
留学生の認識している自国の病院と,日本の病院の感覚が違う | ||
文化的な差異を伝えられず,支援者とのやり取りの際にもトラブルを生じやすい | 日本語がわからないので,薬局が言えず,病院に行きたいと表現するため確認が必要となる | |
留学生の日本語レベルや文化的背景を知らずに対応する支援者との間でトラブルが生じる | ||
日本語がわからないことで母語の通訳者なしにはニュアンスが伝わらない | 日本語がわからないためこまかなニュアンスや内容が伝わるために通訳が必要 | |
日本語がわからないので通訳者を依頼したいが調整が難しい | ||
受診の要否の判断も含めて教職員に頼らざるを得ない | 日本語がわからないので昼夜を問わず教員に相談する | 初めて日本語だけで日本人と話す必要があるが片言のため相談してくる |
夜間に電話やメールが入る | ||
症状や要望を聞いて予約や付き添う必要がある | ||
受診に関わる日本語に自信がなく一人では医療利用できない | 受診予約などの方法はわかるが日本語がわからないため対応できない | |
受診が必要な状態では教員が受診を促す必要がある | ||
自国との社会的システムや慣習の違いから日本で一般的な受療行動になじみがない | 健康と病気に関する認識の違いから日本の受療行動が理解できない | 受診経験がなく医療機関の使用に抵抗がある |
来日後にトイレ後の手洗いなどの日本の公衆衛生を教える必要がある | ||
病気の自覚がないため検診や検査をすることが理解できない | ||
自国の宗教により日本の健康管理を受け入れることが出来ない | ||
自国との文化的な価値観と生活様式の違いから受療行動の必要性が認識できない | 日本の水が安全でも抵抗感がなくなることが難しい | |
自国と同じ生活習慣の継続から感染症を起こす | ||
自国と感染予防が異なり日本の公衆衛生の方法がわからない | ||
自国と医療システムが異なることで医療を適切に活用できない | 来日後に自国で摂取経験の無い食べ物による体調不良 | |
来日後の環境変化による身体面・精神面での体調不良 | ||
留学生にとって日本の病院は気軽で安心して行ける場所ではない | ||
自国と異なる(歯科)治療やそれによる困惑がある | ||
経済的な余裕がない中で在留するため受療行動が負担となる | 在日の条件維持を優先し必要な医療を受けようとしない | ビザに関わるため健康問題があっても放置する |
ビザに関わるため入院せず外来で治療しようとする | ||
経済的な余裕がないため受療行動に出費することへの負担感がある | 経済的な余裕がないため受診による検査や治療費に負担感がある | |
自国との物価の違いから食費を含めた健康管理に使う経済的な余裕がない |
このカテゴリは,医療機関において外国語を母語とする患者への対応が難しいことや,外国人留学生であることを理由に医療機関を思うように受診できないことを示す.〈医療機関においてやさしい日本語や多言語問診票を使ってもらえない〉〈在日外国人であることで受診に制約が課される〉という2つのサブカテゴリから構成された.日本語学校の外国人留学生は限定的な日本語であるが簡単なゆっくりとした日本語は聞き取ることができるが,医療者側の対応力に限界があり,日本人と同じように受療できないことが語られた.
「いわゆるやさしい日本語で話してあげなきゃいけないとかっていうのがあるんですけど,やさしい日本語お医者さんもできるわけではないので,日本人にしゃべるような感じで,ばっと話されたら全く通じない.(D)」
「受診は基本的には教員がついて行きますねっていうのも,やっぱり医療機関にまず連絡するんです.っていうのもえっと留学生が行くっていうことに関して,なんだろうな,やっぱり受け入れ態勢が,あ~どうぞどうぞ来てくださいって言ってくれる病院はすごく少ないんですよね.留学生というところでまず 変な話,お断りされたこともありますし,ええ必ず通訳,あの日本語は通訳の先生一緒に来てくださいね.それだったら受けてもいいですよって言われることが多い.(B)」
2) 【日本語能力の限界により受診時に真意がわからないままでの会話となる】このカテゴリは,外国人留学生の日本語能力が十分ではないことや日本の医療に関する知識や情報が不足していることで医療機関において,日本語で細かなニュアンスを含めて意思疎通することが困難な状況を示す.〈医療や受療行動に関する認識がずれていることで意思疎通が図りにくい〉〈文化的な差異を伝えられず,支援者とのやり取りの際にもトラブルを生じやすい〉〈日本語がわからないことで母語の通訳者なしにはニュアンスが伝わらない〉という3つのサブカテゴリから構成された.外国人留学生はそれぞれ異なる文化的背景や日本語レベルであることで,コミュニケーションにおけるずれが生じやすいことが語られた.
「医療通訳じゃないですけど,通訳者入ってもらったんですよ.同じ言語が話せる人.やっぱその人との会話を見てるとなんか学生もすごい安心してたし,自分が言いたいことでもあるので,言ってそのニュアンスを汲み取ってくれるからすごいレベルは低い子だったんですけど,安心して納得して入院してくれたっていう経緯があった.(C)」
3) 【受診の要否の判断も含めて教職員に頼らざるを得ない】このカテゴリは日本語の限定的な外国人留学生が,一人で受診することが難しいことを示す〈日本語がわからないので昼夜を問わず教員に相談する〉ことと,〈受診に関わる日本語に自信がなく一人では医療利用できない〉という2つのサブカテゴリから構成された.
「夜間にね.やっぱ連絡くることもあるんです.なんかちょっとメールとかで緊急連絡先に連絡が来て…なんか体調が悪くなった.けど,どうしたらいいですか?ほっとくわけにはいかないから.でも,一人で行かせることもできないし,救急病院探したり.先生がまたここまで出勤してきて一緒に連れて行って.(B)」
「予約がやっぱりできなくて.特に電話で誰かと知らない日本人と話しするっていうのはやっぱりもう何年も経たないとちょっと難しいですし.インターネットで予約って今結構ありますけどね.…やっぱり日本語の漢字を読まないとインターネット予約できないので.この漢字を読むのも一苦労なので,結局予約も私たちが横に付き添いながら一緒に予約してって感じです.(C)」
「ここの学生は日本に来てすぐの学生なので大学生とはちょっと違って,まあ日本語もなかなか難しいとか,あと日本のそういう病院のシステムとかも初めてとか…まあ大体学校が,う~ん,そういうのも全部対応している.(H)」
4) 【自国との社会的システムや慣習の違いから日本で一般的な受療行動になじみがない】このカテゴリは,外国人留学生が自国の生活環境や慣習の違いがあることで,日本で適切に受療することの困難さを示している.〈健康と病気に関する認識の違いから日本の受療行動が理解できない〉〈自国との文化的な価値観と生活様式の違いから受療行動の必要性が認識できない〉〈自国と医療システムが異なることで医療を適切に活用できない〉という3つのサブカテゴリから構成された.
「だいたい病院っていうので,薬局っていう言葉がわからないので,薬が欲しいですか?医者と医者が見ますか?医者と会いたいですか?と確認をします.すると薬が欲しいですっていうことが半分以上です.病院行きたいって言ったから,素直に病院に連れて行って,いや私薬局で薬欲しかっただけやのに,なんでこんな高いお金払わないといけないの?CTとか撮ってってトラブルがやっぱりあるので.やっぱりこう経験がなかったり.彼らの文化背景を知らない人が対応すると,…こんなことして欲しくなかったというトラブルあると思います.(A)」
「水を汲みに行くような国から来てるので,あの例えばお手洗いで,水洗とかもこっちに来て生まれてはじめて見たりしますし.…例えばトイレ終わった後,手を洗うそんなこと誰にも教わってない.だって水がないからって言う.でその水,洗った水が汚いので.そもそも水っていうのが綺麗なものではないあぶないものなので.ボウフラとかいますし.だから,もう本当にちっちゃい子に教えるみたいに,どうして手を洗わないといけないのか?そしてこの水は安全です.大丈夫だよっていうことを言わないと.(A)」
「家族が家で作ったものを持ってきて…身の回りのお世話を,オムツでもご家族がするので,看護師はあくまでも医者の助手なので…看護師さんという日本にいらっしゃる看護師さんが,この人は誰だろうと思うんですね(B)」
「処方箋とかの意味がみんなわかってないので,そのまま家に帰っちゃう….一緒について行って今日お薬出てるからこれが,お薬の紙だよってふうにまず説明して…,お薬手帳とかも日本はあるじゃないですか…あなたは今どんな薬飲んでて次病院行った時にお医者さんがちゃんとした薬出すために,これは日本では必ずつけるんだよっていう説明をして,だから日常持っておかないと駄目だよ,みたいな説明とかするために一回目は一緒についていくんですけど.(C)」
「親知らずを生えた学生がいて,先生痛いです,どうしますかって.病院行って抜きましょうって言ったら,別の子が,あの,彼の民族は知らないけど,私の民族では,(宗教上)親知らずは抜いてはいけないので,医者は抜いた方がいいって言ったけど,抜けませんでした.それは文化を感じました.(I)」
5) 【経済的な余裕がない中で在留するため受療行動が負担となる】このカテゴリは,在日外国人留学生が日本語を学びながら生活を送っている中で,受療行動に費用をかけることが困難な状況を示す.〈在日の条件維持を優先し必要な医療を受けようとしない〉〈経済的な余裕がないため受療行動に出費することへの負担感がある〉という2つのサブカテゴリから構成された.在日外国人留学生はビザの最長期間が2年で,アルバイトは週28時間が上限という制限のもと生活をしており,受療行動に必要な費用の捻出と在留を継続するための負担が生じていることが語られた.
「日本に来てアルバイトしながら,学費払いながら,生活費支払いながら来てるんで,まあ.相当きちきちの中で生活をやってるだろうなあっていうのは想像にかたくないですね.ですから病院に行きます,じゃあ薬代も含めて5~6,000円かかります,一時的に立て替えるにしても大きいお金だよねっていうのは分かります.(E)」
本研究は,日本語学校の教職員が認識する在日外国人留学生の受療行動の課題に関するインタビュー調査を実施し,結果から言語的なコミュニケーションの難しさに派生する課題に加え,生活環境や文化的な差異による課題が認識されていることが示された.これらの課題が生じる背景,課題が在日外国人留学生の受療行動にどのような影響をもたらすかについて考察する.
1. 言語の違いという先入観と対応力の不足による課題得られた6つのカテゴリのうち【在日外国人留学生であることを理由に受診において不利益を生じる】【日本語能力の限界により受診時に真意がわからないままでの会話となる】というカテゴリは,外国人であるという事実より,日本語での会話がスムーズにできないという状況から生じていると考えられた.結果的に,在日外国人留学生の【受診の要否の判断も含めて教職員に頼らざるを得ない】という結果に関連していると考える.
外国人への通訳サポートは市民レベルでも行われ,本研究の調査対象地域でも社会福祉協議会と行政が連携し支援しているが,医療通訳は支援の対象外である(大阪府社会福祉協議会,2024).また,多言語遠隔医療通訳サービスとして電話やビデオ通話での通訳が利用できるが,原則2日前に登録医療機関からの依頼が必要で,外国人患者から依頼はできず,対応言語が限られている(大阪府,2024).さらに,日本語学校は高等教育機関と異なり保健室の設置要件がないため,学校内で健康管理に関わる養護教諭や医療専門職者が不在となりやすい.このため,日本語学校の教職員や在日外国人留学生が,外国人向けの最新の医療支援に関する情報を得ることは難しいと考えられる.結果,在日外国人留学生が急な体調不良で受療を必要とする場合,通訳サービス等の利用が難しく,教職員に頼らざるを得ない状況が生じていると推察される.
また,在日外国人留学生が通訳なしに受診した場合,医療者側に外国語でのコミュニケーションに不慣れで負担感があることや,やさしい日本語を用いて話すスキルの不足などがあると考える.さらには,近年,政府の外国人患者受入に関わる医療制度の改変が急速に進んでいる状況下において,医療機関として外国語を翻訳するデバイスやシステムの導入や活用不足なども考えられる.
先行研究において,看護師は外国人とのコミュニケーションの際,自らの乏しい語学力の自覚からコミュニケーションを不安に感じ,関わる自信を低下させ,自己肯定感が揺らぎ患者から距離を取るという負の連鎖に陥ることによって,患者との関係構築をより困難にすると指摘されている(野中・樋口,2010).また,日本国内の外国人患者をめぐる課題として,言語コミュニケーションが不十分であるため意思疎通がはかれず,トラブルが生じた病院は,1,710病院のうち454病院(26.5%)にのぼることが報告されている(厚生労働省,2017).本研究においても,在日外国人留学生であることで,医療者が無意識のうちに会話が出来ないと判断し,その結果,医療者は会話に対する不安を感じ,コミュニケーションからの逃避が生じていることが考えられる.
本来異文化コミュニケーションの理解には,発話の意図を理解できるよう,共有の知識とともに,言い直し,確認,聞き手からの問い返しなど会話の工夫も含めた言語・身体的表現および文化的想定の学習が必要である(上原,2002).すなわちやさしい日本語に関する医療者側の教育機会が必要と考える.また,近年,急速に発達してきている翻訳デバイスを効果的に活用するための新たなコミュニケーションスキルも必要と考える.
来日間もない在日外国人留学生とのコミュニケーションに対応する場合,医療者は彼らにわかるレベルの日本語を選択して具体的に伝える必要がある.また,外国人であることでのステレオタイプ化により会話が出来ないという意識が存在することを自覚する必要がある.そのうえで,在日外国人留学生にとって安心して受診できるサポート環境を整えることが必要であると考える.
2. 文化慣習の違いによる医療システムの活用と受療行動における課題日本語学校の教職員は,在日外国人留学生は【自国との社会的システムや慣習の違いから日本で一般的な受療行動になじみがない】ことを実感していた.在日外国人留学生の自国と日本との病気に関する認識の違い,文化的な価値観と生活様式の違い,医療システムの違いが存在していることが課題として示された.
在日外国人留学生側の日本語習得のプロセスにおいて,医療に関わる用語を早い段階で学ぶとともに日本の医療や外国人支援システムを理解できるよう,情報が得られる仕組みや教育の機会を提供していく必要がある.そのため日本語学校の教職員が遭遇する在日外国人留学生の急な体調不良に際して,留学生自身と教職員がともに適切に対応できるような支援体制を整える必要がある.日本語学校を対象とした情報提供リーフレットの配布や,学校医との連携,医療職者の出前授業などは有用と考える.日本語学校協同組合の補償制度の留学生プラン(日本語学校協同組合,2024)の活用に加え,健康サポーターの養成と日本語学校への派遣,医療職者の巡回指導や相談の実施,電話やSNSでの健康相談が出来るサービスの利用についての情報提供など考えられる.また,留学生が所属するコミュニティへの情報提供も必要と考えられる.市民レベルの国際交流を進めて情報共有の場として機能していくことも有用である.これらの支援により,在日外国人留学生自身が健康上の悩みを解決し,安心・安全に生活が出来る体制整備が急務であると考える.
Leininger(1995)は文化を「ある特定の集団の思考や意思決定やパターン化された行為様式を支配する,学修され共有され伝承された価値観,信念,規範,生活様式」と定義している.在日外国人留学生にとって自国と異なる文化から離れ,日本で生活をする上では,これまで慣れてきた方法が通用しない状況での戸惑いやストレスといったカルチャーショックが生じていると考える.近年グローバリゼーションが進展する中で,国境を越えた国際的な人の移動が活発化しており,外国人への権利の保護などに取り組むことが日本政府においても課題となっている.厚生労働省では国際戦略推進本部が設置され(厚生労働省,2024),総務省では「国籍や民族などの異なる人々が,互いの文化的違いを認め合い,対等な関係を築こうとしながら,地域社会の構成員として共に生きていくこと」を目指し,多文化共生に必要な専門知識を備えた「多文化共生アドバイザー」を制度とした取り組みを実施している(総務省,2024).こういった取り組みは在日外国人留学生にとっても活用できる支援である.
一方で,在日外国人留学生が使えるツールとしては,日本で安心して生活するために必要な情報を得るツールとして,多言語で「生活・就労ガイド ブック」(法務省,2024)が作成され医療に必要な情報が含まれている.しかし,こういったツールが認知されていなければ,在日外国人留学生自身が活用することは出来ない.また,受診等での対面での翻訳の必要性が生じた場合,利用費用などの負担が生じることがある.日本語学校へ医療に関する情報を届ける仕組みとして,かかりつけ医や定期健診,保健師や看護師による健康相談などにより,日本語学校の教職員への情報提供や支援が積極的になされる必要があると考える.さらに,在日外国人留学生が医療を適切に活用するためには,医療従事者側も異文化を理解する必要があると考える.患者の信頼を得て最適な医療支援を行うことができるかは,医療従事者の異文化間の相互作用に関する意識,異文化で育った患者に対する感受性,文化に対する知識にかかっている(Majda et al., 2021).
文化が多様であることは,人々の価値観や思考などが異なることであり,集団においては個々の考え方を補完しあい,思考が偏ることによるリスクを回避することにもなる.しかし文化は目で見ることは出来ないため,在日外国人留学生だけが日本の文化に適応するだけではなく,彼らに関わる日本人も互いの文化を理解,尊重すること,在日外国人留学生が活用できるツールの存在を理解しているかを確認しあうことで,在日外国人留学生が日本で自立した受療行動が行えるように支援する必要があると考える.
3. 在留に関わる経済的課題日本語学校の教職員は,在日外国人留学生に対して【経済的な余裕がない中で在留するため受療行動が負担となる】ことを実感していた.在日外国人留学生が日本語学校に在籍できる期間は通常,最長2年間である.留学生の在留資格においてアルバイトは1週につき28時間以内(教育機関の長期休業期間では1日について8時間以内)と定められている(法務省,1981).しかし,アルバイトにより学費や生活費をカバーすることは難しい.そのため,在日外国人留学生には経済的な余裕がなく,これが課題となることが示された.
在日外国人留学生は日本語教育機関に入学するため,学費に加え来日前後に必要な経費が生じる.また,自国と日本の物価の違いから,経費の負担が大きくなることがある.
独立行政法人日本学生支援機構(2022)の私費外国人留学生生活実態調査によると,在日外国人留学生の1か月の平均生活費は93,000円であり,収入としては,自国からの仕送り,月平均59,000円のアルバイト,奨学金である.しかし平均月支出額は157,000円であり,アルバイトに従事する理由では「日本での生活を維持するために必要だから」が4,908人中3,555人(72.4%)と最も多く,留学後の苦労としては「物価が高い」が5,438人(74.3%)という結果が報告されている.このことから在日外国人留学生が限られた期間で,生活維持をしながら受療行動のために経済的な支出をすることには難しさがあると考えられる.
医療者はそうした背景を理解し,検査や治療にあたっては費用面についても,説明と同意を丁寧に行っていく必要があると考える.
4. 実践への示唆在日外国人留学生への受療行動の支援としては,健康情報を獲得し,理解し,評価し,活用するための知識,意欲,能力であり,それによって日常生活におけるヘルスケア,疾病予防,ヘルスプロモーションについて判断や意思決定をして,生涯を通じて生活の質を維持・向上させることができるヘルスリテラシー(Sorensen et al., 2012)にも繋がることを理解しておくことが必要であると考える.
在日外国人留学生の自国の文化や社会システムに加え,個々の慣習も異なる.在日外国人留学生が日本において自立した受療行動と,健康における自己決定ができるよう在日外国人留学生に関わる医療者が情報をわかりやすく伝えること,内容が理解できるだけでなく,彼らが受療行動を行うための協力をするとも重要である.つまり在日外国人留学生が正しく認識することは,在日外国人留学生の健康に対する考えと受療行動への意思決定に繋がることを意識する必要があると考える.そのため,在日外国人留学生の日本語レベルに応じた説明資料や工夫を行う必要がある.
また,在日外国人留学生であることで,ステレオタイプ化などが生じるが,差異に注目するだけでなく,共通性を見出す視点も必要であると考える.国際化の推進において多文化共生の重要性を理解し,異文化理解を促進することで社会全体が変化する力を持つことが求められる.特に中国等の外国人留学生が多い現状を踏まえ,そうした言語を話せて気軽に相談が出来る人材の育成や活用を検討していく必要があると考える.
本研究が日本語学校の教職員が認識する内容であることを踏まえ,教職員を対象とした支援や,外国人留学生への健康相談,外国人留学生と同世代の日本の学生によるピアサポートなども検討していく必要があると考える.
本研究は対象者数が限られており,限定された地域の日本語学校の教職員であることから,詳細な分析を行うことは困難である.また,日本語学校の教職員10名の語りを分析した結果であるため,実際の在日外国人留学生の出身国および母語の違いを区別する内容ではない.そのため在日外国人留学生を対象とした場合,出身国および母語の違いにより新たな内容が見いだされる可能性は否定できない.
さらに,本研究は在日外国人留学生の課題を客観的に明らかにしているが,留学生自身がそれを課題と認識していないことも多々あると考える.また,質的研究であり,どのような課題の重みが大きいかを明らかにするものではない.
今後は在日外国人留学生の出身国,母語の違いなども考慮し,より多くの在日外国人留学生の受療行動における主観的な課題を明らかにすることが必要である.
日本語学校の教職員10名の語りから,教職員が認識する在日外国人留学生の受療行動における客観的な課題が明らかになった.言語の違いによる先入観とコミュニケーションにおける課題では,【在日留学生であることが理由で受診において不利益を生じる】【日本語能力の限界により受診時に真意がわからないままでの会話となる】ことで【受診の要否の判断も含めて教職員に頼らざるを得ない】ことにつながっていた.文化慣習の違いによる医療システムの活用と受療行動における課題では,【自国との社会的システムや慣習の違いから日本で一般的な受療行動になじみがない】ことが明らかになった.在留に関わる経済的および在留期間では,【経済的な余裕がない中で在留するため受療行動が負担となる】ことが課題として明らかになった.
謝辞:本研究に貴重なご指導とご助言を賜りました武庫川女子大学 大学院 看護学研究科 教授・清水佐知子先生,教授・本間裕子先生に心より感謝申し上げます.また,本研究にご協力いただきました日本語学校の教職員の皆様に深く感謝申し上げます.
利益相反:本研究に関する利益相反は存在しない.
著者資格:すべての著者は,研究の構想およびデザイン,データ収集・分析および解釈に寄与し,論文の作成に関与し,最終原稿を確認した.