日本看護科学会誌
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留学報告
「若手研究者が海外留学するための助成」による海外留学報告1
キタ 幸子佐伯 昌俊長谷川 奈々子
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2025 年 45 巻 p. 572-580

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序文

公益社団法人日本看護科学学会(JANS)では,看護学を専攻する若手研究者による国際学会での発表や海外研修などの機会を増やすことで,若手研究者の活性化と育成を図り,将来の看護学の発展を奨励することを目的として助成事業を2021年度から行っています.

このたび,3名の会員が本助成により海外留学を実施しましたので,日本看護科学学会の学会誌である「日本看護科学会誌」に海外留学の報告を掲載しました.

担当理事:池田真理(若手研究者助成選考委員会 委員長)

ミシガン大学での留学報告 Study Abroad Report—University of Michigan

キタ幸子

Sachiko Kita

一般社団法人Institute of Trauma Recovery(トラウマ・リカバリー研究所)

General Incorporated Association Institute of Trauma Recovery

E-mail: s.kita@t-recovery.or.jp

1. 目的と計画

この留学の目的は,日米のGBV(Gender-based Violence:ジェンダーに基づく暴力)サバイバー1,500名以上の量的データ,100名以上の質的データを用いて,ミシガン大学看護学部教授のDenise Saint Arnault先生の指導と密な共同作業の下,トラウマリカバリープロセスを全容解明し,トラウマリカバリー促進に向けた国際的汎用性が高いケアガイドブックを開発することであった.

2. 内容と成果

ミシガン大学はアメリカミシガン州アナーバーにあり,250以上の学部,300以上の大学院のプログラムを有する研究に特化したアメリカ有数の総合大学である.世界中から学生や研究者が集まる国際的な環境,充実した研究リソース,自然が豊かで静かな環境の下,2024年9月から2025年3月に渡米し,様々な研究者と出会い,研究に没頭する毎日を送っていた.

1) 研究活動

ミシガン大学ではSaint Arnault先生と毎週ミーティングを行い,密な指導と共同作業の下,日米の大規模な量的・質的データを用いて,様々な角度から,解析と論文執筆を行った.まず留学前に収集した日本のサバイバー1,000名以上,米国のサバイバー500名以上の量的データを結合し,潜在クラス分析を用いてトラウマリカバリーのタイプ分類し,そのタイプを日米で比較した.その後,日米共通の各タイプ(回避型・囚われ型・凍結型・もがき型・探索型・統合型)でトラウマリカバリーの経路・特徴が異なるのかを構造方程式モデリングを用いた多母集団同時解析等を用いて検証した.更に日米の文化,ジェンダー(男・女・トランスジェンダー/ノンバイナリー)でトラウマリカバリーの経路・特徴が異なるのかも同分析方法を用いて解析した.それらの量的データの解析結果は,質的データで解釈を補完し,論文を執筆した.

またトラウマリカバリーのタイプごとの強みと課題,支援ニーズに関して,日本,米国,ギリシャの質的データを解析し,研究者の密なディスカッションの上で整理し,ケアガイドブック案を作成した.このケアガイドブック案は日米のシェルター施設や相談施設の支援者等のエキスパートパネルの意見・助言を経て,効果的で実現可能性が高いケアガイドブックに改良を試みた.

隔週開催される研究ゼミに参加し,研究の最新知見を学ぶと同時に研究進捗を発表,積極的に意見・情報交換を行った.また毎月開催されるミシガン大学の分野横断のトラウマ研究ミーティングにも参加し約20名の研究者達から新たな研究の動向や方法論を学び,知見や意見交換を行った.2025年1月30日の日本研究センター主催のレクチャー(Noon lecture)では,近年の日本の性暴力刑法改正に関する講義を行った.

研究ゼミの様子

2) 他大学の訪問と交流

2024年9月26日にマサチューセッツ州ボストンにあるハーバード大学医学部グローバルヘルス・社会医学専攻の3専攻合同セミナーにて,トラウマリカバリーの国際共同研究に関する講義を行った.2024年9月20日~9月25日にペンシルベニア州フィラデルフィアにあるテンプル大学を訪問し,共同研究者であるLaura Sinko先生と研究打ち合わせ・データ解析を行った.また同氏が性暴力支援看護師として勤務している性暴力専門のクリニックも訪問・見学した.このクリニックは警察署の隣にあり,性暴力支援看護師が常駐し,性暴力の証拠採取だけでなく,社会福祉士・心理師と連携しながら,当事者や家族の心理支援や生活支援を行っていた.2025年2月15日~2月19日には,ユタのブリガム・ヤング大学を訪問し,子どもの心理的発達の第一人者である家族学専攻長のCraig Hart先生と同専攻助教Ashley Larsen Gibby先生と最新研究の情報・意見交換を行った.その後,2025年2月20日~2月22日にシアトルを訪問し,世界最大規模のトラウマサバイバーのオンラインコミュニティプラットフォームである「Our Wave」の創立者・最高責任者であるKyle Linton氏,最高技術責任者のBrendan Michaelsen氏,理事のSinko先生と打ち合わせ,理事会に参加した.その後,日本人のトラウマサバイバーも利用できるように「Our Wave Japan」を開発,2025年5月より運営を開始している.

ミシガン大学での講義
ハーバード大学での講義

3. 今後の抱負

この留学は,多くの出会いと機会に恵まれ,自分と研究の可能性を大きく広げる体験であった.研究においては,共同研究者とすぐに交流できる距離感だからこそ,スピード感をもって成果を上げることができた.これらの成果を基に,文化・ジェンダー・タイプに配慮したトラウマリカバリー促進に向けたケアガイドブックを開発し,世界に普及させたいと考えている.また筆者は,留学中に準備を進め,トラウマリカバリーの研究・支援・啓発活動のプラットフォームとなる法人(一般社団法人Institute of Trauma Recovery)を立ち上げた.留学中に培った国際・多職種ネットワークやスキル・知識を活かして,全ての当事者がトラウマリカバリーできる社会の実現に向けて,今後も新しいことに挑戦し続けたいと考えている.

4. 最後に

その空気を吸わないとわからないことがある,その場に行かないと会えない人たちがいる,背伸びをしないとできない体験がある,と今,感じている.このことが,この留学の最も大きな収穫であったと思う.このような貴重な経験をさせていただいた日本看護科学学会の皆様を始め,私の留学を支えてくださった方々,留学先で同じ時を過ごさせていただいた全ての方に心より御礼申し上げます.

謝辞:本稿で報告した留学に際しては,本学会若手研究者助成「若手研究者が海外留学するための助成」により支援を受けました.

利益相反:なし

カナダ McGill大学での留学報告 Report on Study Abroad Experience at McGill University, Canada

佐伯昌俊

Masatoshi Saiki

千葉大学大学院看護学研究院

Chiba University Graduate School of Nursing

E-mail: msaiki@chiba-u.jp

筆者は2024年9月から2025年1月まで,日本看護科学学会若手研究者海外留学助成によりカナダ・McGill大学Ingram School of NursingにてAdvanced Practice Nurse(APN)に関する研修を実施した.本稿では,その研修内容と成果について報告する.

1. 留学の目的と計画

本留学の目的は,カナダにおけるAdvanced Practice Nurse(APN),特にNurse Practitioner(NP)とClinical Nurse Specialist(CNS)の教育制度と臨床現場での役割を理解し,日本のAPN制度発展に向けた知見を得ることであった.

留学先のMcGill大学は,カナダ・ケベック州モントリオールに位置し,QS世界大学ランキングの看護学分野において高い評価を受けている.また,ケベック州は公用語がフランス語であり,バイリンガル環境と独自の医療制度を特徴としている.

今回の留学では,APN研究の分野で国際的に著名なKelley Kilpatrick教授のもとで学ぶ機会を得た(写真1).留学期間中は,McGill大学におけるNPプログラムやCNSプログラムの授業見学,McGill University Health Centre(MUHC)でのAPNの実践見学,州政府・関係機関との面談などを通じて,カナダ全土およびケベック州におけるAPN制度とその背景を多角的に学ぶ機会を得た.

写真1  筆者(左),事務担当Renéeさん(中央),Kilpatrick教授(右)

2. 留学の内容と成果

1) NP教育プログラムの構造と特性

McGill大学のNP教育プログラムでは,Adult Care,Primary Care,Mental Health,Pediatric,Neonatalの5つの専門分野を展開していた.これらの専門分野は州によって異なっており,例えばオンタリオ州ではPrimary Health,Adult,Pediatricの3つの専門分野となっている.Mental HealthのNPプログラムがケベック州独自のものであり,カナダの他州には存在しないため,他州で勤務する際には改めて大学院で学ぶ必要があるということであった.

McGill大学NPプログラムのカリキュラムは4つの主要なパートに分かれており,「理論と講義」「PBL(Problem-Based Learning)」「ラボ」「インターンシップ」である.「理論と講義」はいわゆる講義形式の授業,「PBL」は問題解決型学習,「ラボ」はシミュレーション室での身体検査や手技の演習であり(写真2),「インターンシップ」は現場での6ヶ月間の実習である.このカリキュラムによって臨床推論能力の段階的な強化が重視されていた.

写真2  ラボで学生が前立腺触診の演習を行っている様子.学生は事前にオンデマンド授業で手技について学習していた.

私は,実際の授業に参加させていただき,PBLやシミュレーション教育,Clinical Reasoning,Inquiry-Based Learningなどの実践的な教育手法の進め方を学んだ.特にPBLは自ら課題を特定し答えを自ら見つけなくてはならず,受動的学習からの脱却という点で学生は当初PBLを好まない傾向があるものの,どの卒業生も必ずその価値を認識しているという教員の言葉が印象的であった.大学院で学ぶ期間は限られているため,修了後にNPとして活動する際に必要となる,自ら学び続け知識をアップデートする態度を獲得することが不可欠である.ただし,PBLやInquiry-Based Learningはあくまで教育方法の一つであり,それ自体が目的ではない.重要なことは,カリキュラムがコンピテンシーを基盤に構築され,各授業がその達成に向けて体系的に組み立てられていることである.また,NP教育プログラムでは臨床推論の講義をはじめ医療処置についても実技演習を行っており,医学的なことに関して学生は非常に熱心に学ぶ傾向がある.そのため,教員は手技の習得にフォーカスするのではなく,看護の専門性を基盤とした実践であることを常に意識して伝え続けていた.

授業では,実際の臨床現場を再現した高度なシミュレーション環境で,Standardized Patients(SP)を活用した実践的な教育が行われていた(写真3).また,Dr. Margaret Purdenによる専門職連携教育により,学生は自分の役割と他職種の役割を理解し説明する能力を養成されていた.

写真3  SPを対象に学生がシミュレーション演習を行っている様子.教員が外から観察,評価していた.

各分野のNPプログラム責任者との面談を通じて,カリキュラムの構成や教育理念,学生の選抜方法,修了要件などについて情報収集を行った.入学要件と修了要件は,看護師として2年の経験と該当領域での1年以上の経験が必要である.フルタイム学生は2~2.5年,パートタイム学生は3年で修了し,Master of Science (Applied)の学位を取得する.修士論文は不要であり,この(Applied)の付加は,プログラムが臨床実践・応用力の養成に重きを置いていることを示している.プログラム修了後は,自律的な実践が可能なNPとして実践を開始する.

2) 臨床実践の観察と意見交換

ケベック州では感染管理(Infection Control)分野を除いてCNSというタイトルは認められておらず,他の専門分野では大学院教育を受けたAPNとして臨床活動を行っていた.なお,唯一認められている感染管理CNSについても,その要件には大学院修了が含まれていないという現状がある.本報告書では,便宜上CNSという用語を使用し,CNSとNPを合わせてAPNとして扱うこととする.

滞在中,McGill University Health Centre(MUHC)のObservershipに登録し,MUHCで活動するAPNの活動を見学し,意見交換を行った(写真4).NPの実践では,それまで薬剤処方は都度医師の承認が必要であったが,COVID-19パンデミックをきっかけとして,2021年の法改正により,NPは医師の承認なしに診断,治療計画の立案・実施,広範な薬剤処方が可能となった.また,NPの存在により医師と看護師のチームワークが向上するという意見が聞かれた.

写真4  MUHCの外観

CNSの実践では,それぞれの専門分野に応じて複数のプロジェクトを同時に推進し,Evidence-Based Practice(EBP)の実装を通じてケアの質向上を図っていた.Knowledge Translation(KT)を通じて研究エビデンスを臨床実践に橋渡しする活動が業務の中核を占める一方,病棟の看護管理者から複雑症例に関するコンサルテーションも受けていた.特に,Medical Aid in Dyingについては,看護管理者によるCNSポジションの設置,CNSによるパンフレットの作成や情報の更新,複雑症例へのコンサルテーションといった一連の活動から,CNSの専門性を活かした組織的な取り組みの重要性について大きな示唆を得た.

NPやCNSはタイトルの課題もさることながら,周囲の医師や看護管理者,スタッフの役割理解は依然として課題であり,日本でも同様の課題はあることを認識した.カナダにおいても,NPの役割が導入された当初は医師や患者からの理解や信頼を得ることが困難であり,徐々に発展してきた経緯がある.特に,NPの役割実装においては患者ニーズの明確化から始め,実践の安全性と効果を示すことで少しずつ信頼を築いてきたことが分かった.

 3)制度設計と政策連携

Ordre des infirmières et infirmiers du Québec(OIIQ)は,ケベック州におけるRegistered NurseやAPNを含む看護師の免許交付や資格認定,継続教育の管理・認定,実践の質保証を担う機関である(写真5).OIIQへの訪問では特にNP・CNSの資格制度や質保証の仕組みを学んだ.NPの配置では,各施設のニーズを把握した上でMinistry of Health and Social ServicesがNPのポジション数を決定し,NPの偏在を防ぐシステムが構築されていた.

写真5  OIIQの外観

Ministry of Health and Social Services of QuebecのNPアドバイザーであるKim Laflamme氏との面談を通じて,制度設計の考え方や予算配分の方針について理解を深めた.面談では,NPの効果を示すためのCompetency Frameworkの重要性が強調された.さらに,ケベック州NP協会との意見交換により,NP活動の現状と課題について包括的な情報を得ることができた.なかでも医師がfee-for-service(行為による支払い)であるのに対し,NPは時間給であることから,病院外来で時間をかけた丁寧な診療や患者教育が必要な場面では,NPの方が経済的にも質的にも効率的だという説明は興味深かった.

NPの配置や実践範囲の拡大において,地域のニーズ評価に基づく段階的なアプローチを採用していること,そして制度の質保証においては教育プログラムの認証から実践現場での継続的な能力開発支援まで,包括的な仕組みが構築されていた.

 4)研究活動と国際ネットワーク構築

滞在中にKilpatrick教授と月1回以上の研究ミーティングを実施し,共同研究に向けた研究計画書を作成した.APNに関する研究において,チームベースの実践からNPやCNS固有の効果を示すことの難しさとその方策について,研究上の重要な視点を学んだ.

国際的な研究ネットワーク構築においては,Canadian Centre for Advanced Practice Nursing Research(CCAPNR)において,Dr. Denise Bryant-Lukositusの招待により,月例会議で「日本のCNS・NP役割実装の現状と課題」について15分間の発表と45分間の討議を行った.カナダ,アメリカ,スイス,チリなど多国籍の研究者約20名との活発な議論を通じて,日本の状況を国際的な文脈で位置づけることができた.さらに,Denise Bryant-Lucisius教授の所属するMcMaster大学への訪問の機会を得ることができ,APNの役割実装に活用されるPEPPAフレームワークの詳細な説明をいただいた.この訪問を通じて,APNの効果についてはすでに多くのエビデンスが蓄積されており,今後は実装のプロセスに焦点を当てた研究の重要性を認識した.

その他,滞在中のオフィスメイトであるGuillaume Fontaine先生が主催するImplementation Science Journal Clubに参加し,日本での研究成果を共有するとともに,実装研究の方法論について議論を深めた.また,Université de MontréalやUniversité du Québec en Outaouais(UQO)の教員とミーティングを実施し,McGill大学以外の大学におけるNP教育の実際を学んだ(写真6).

写真6  Kilpatric教授の研究メンバーとの意見交換後に記念撮影(UQOにて)

3. おわりに

本留学では,教育・制度・実践の各分野が連携して高度実践看護師を支えているカナダの実態を知ることで,日本の制度設計や教育課程への応用の可能性を多く見出すことができた.日本のAPN制度発展において,カナダの経験は貴重な示唆を提供してくれる.しかし,APN制度を単純にそのまま取り入れるのではなく,日本の医療制度と文化的背景を考慮した適応が必要である.今後は本留学で得た知見を,所属する大学院教育および日本におけるAPN制度推進に活かすとともに,国際的なネットワークを活かした共同研究にも取り組んでいきたい.

倫理的配慮:本報告に記載した内容は,すべて訪問先の了承を得て記載している.観察・面談内容については事前に許可を得て記載している.

謝辞:本留学は,日本看護科学学会「若手研究者が海外留学するための助成」により実施された.ご支援くださった関係者の皆様に,心より御礼申し上げます.また,本留学に快く送り出してくださった千葉大学大学院看護学研究院の教職員の皆様,温かく迎え入れてくださったMcGill大学の皆様,ならびにカナダ滞在中に多くの助言をくださった野々内美加氏(Nurse Practitioner, Calgary Opioid Dependency Program, Recovery Alberta, Canada)に,あらためて御礼申し上げます.

利益相反:なし

The Elaine Marieb College of Nursing, University of Massachusetts Amherstへの留学報告 Report on Study Abroad Experience at the Elaine Marieb College of Nursing, University of Massachusetts Amherst

長谷川奈々子

Nanako Hasegawa

愛知県立大学看護学部

Aichi Prefectural University, School of Nursing & Health

E-mail: nhasegawa@nrs.aichi-pu.ac.jp

1. 研究留学の目的と計画

本研究留学のテーマは,Dignity in care(ケアにおける尊厳)であり,初年度は「高齢者施設ケアにおける看護職・介護職の視点からみた尊厳の要素の具体化」を目的とした.次年度は,「看護職・介護職の職業的尊厳の要素の具体化」を目的とした.

2. 留学先での実施内容と成果

州立大学University of Massachusetts(以下,UMass)には州都にあるボストン校とそこから車で2時間ほどのアマースト校に分かれている.私はアマーストにあるUMass Amherstで研究留学を行った.UMassは創立1863年,学生数は約3万名を誇る総合大学であり,The Elaine Marieb College of Nursingは1953年に設立され,大学院の設置は1994年と歴史ある看護学部である.Life Science LaboratoriesやIsenberg School of Management等のガラス張りで先進的なデザインの建物のすぐ隣に,看護学部棟は近代的な機能性は持ちつつも,伝統を大切にした温かみのある雰囲気で構えている.

図1  The Elaine Marieb College of Nursing, University of Massachusetts Amherstの外観
図2  The Elaine Marieb College of Nursingの内観

研究テーマであるDignity in careは,国内においては研究者数が少なかった.私はDignityに関する研究を日本で開始しており,本格的な分析を進めていくプロセスの中で,Dignityの理論やJacelon Attributed Dignity Scaleを開発されたCynthia S. Jacelon教授に出会うことができた.また「2023年度日本看護科学学会若手研究者が海外留学するための助成」を得ることでより充実した研究活動が可能となり,2023年7月より1年9か月間,Jacelon教授の所属するUMass Amherstで客員研究員として研究を実施した.本稿では,英語が堪能なわけでもない一人の看護研究者としての現地での挑戦や奮闘,そのための工夫や試行錯誤についても併せて記させていただく.

まず,留学期間の前半に行った研究について記述する.高齢者施設で働く職員の視点からの「尊厳」を具体化する目的で,既にケア職員に対してインタビューと初期解析を実施していたが,入居者とケア職員の立場による尊厳の捉え方の違いや相互作用についての解釈と,分析方法が留学開始時の課題だった.この課題を達成するために,尊厳の理論や尺度を開発してこられた看護研究者であるJacelon教授と協同して進めた.本研究は解釈学的現象学を用いて分析した.「括弧入れ」のプロセスなどをはじめ,Jacelon教授と互いのDignityに対する考えや経験を議論し先入見を同定するなど,言葉を選びながら認識を慎重にすり合わせる作業を行った.Dignityという日本語であっても概念が難しい看護倫理のテーマについて,英語で議論しなくてはいけない.そのため,入念な事前資料の準備や語学学習は欠かさず,ホワイトボードやメモ,ジェスチャーの活用など,コミュニケーション上の工夫をできる限り行った.また当然,Dinityと「尊厳」は概念が完全に一致しているわけではない.高齢者ケアの枠組みは日本と米国では大きく異なり,尊厳は文化的背景も関連している.そのため,日本の医療・介護制度やその実態,また日本の文化についても折に触れ説明を行った.例えば,和菓子の個包装から「のし」まで,日本では当たり前のように感じていた何層にも重なった繊細な包装は,大切なものを丁寧に包む文化,そこから感じられる周りへの気遣い,そして尊厳などの大切な想いを秘めるような習慣について話し合う機会になった.本研究では,質的研究データの分析ソフトとしてNVivoをJacelon教授からの指導を受けながら使用した.大学として研究を推進する環境は大変手厚く,研究用各種ソフトは学内の研究申請にて無料で使用することができた.

図3  議論にて用いたホワイトボード

Panels of judgesのプロセスでは,倫理や高齢者ケアの専門家として日本の研究者にも参加していただいた.13~14時間の時差があるため時間設定は考慮しなくてはいけなかったが,コロナ禍においてすっかり慣れたオンライン会議により実際の距離を感じることなく実施することができた.突然のお願いにも関わらず,ご協力いただいた研究者らに心より感謝申し上げたい.なお,本研究の成果は,Gerontological Society of America(以下,GSA)2024(Seattle, U.S.A.)にて発表した.

続いて,後半に行った研究について記述する.本研究の目的は「職員個人の尊厳」についてシステマテックレビューにより要素を明らかにすることであった.MEDLINE,Web of Science,CINAHLを用いて論文を抽出したが,このプロセスで大学図書館による強力な研究サポートを感じた.UMassのW. E. B. Du Bois Libraryは1974年に,世界第2位の図書館ビルとして建設され,大学のシンボルになっている.地下を含めて28階建て,400万冊超の蔵書数を誇っている.契約雑誌数が豊富で,図書館の職員数も多く,文献取り寄せは依頼から数時間で到着するため,論文検索は非常にスムーズだった.本研究の成果はGSA2025にて発表予定である.

図4  キャンパスのテーマとして至る所に掲げられたDignity & Respect

また,現地で参加した学会ではInterest Groupというグループ活動を一つの特徴としており,各参加者が自身の興味関心や背景に合った研究仲間と交流できる仕組みが発達していた.私は看護職のグループや日本にルーツのある研究者グループに参加することで,多くの方と交流することができ,他大学や他分野の研究者の視点や,日本人研究者が海外で活躍する様子など非常によい刺激を受けた.

研究以外の成果についても記述したい.大学院Spring Lecture Seriesの一コマを担当させていただき,世界から集まる院生を対象としたオンライン・対面のハイブリッド講義を実施した.尊厳研究の動向を,日本の高齢者の持つ生活史の背景や,漢字の紹介なども取り入れながら講演した.院生からは,研究方法論などの他,日本の医療・介護制度,また日本では研究成果が制度化されるのは早いのかなどの質問があった.時間いっぱいまで途切れないほど質問も手が上がり,さすが議論大国の米国と感じた.

最後に,語学学習について記す.大学は人口4万人程度ののどかな町にあるが,付近にマサチューセッツ大学システムの5つの大学があるために留学生も多く,活気ある町だった.語学力を強化するため,私は大学だけでなく図書館で開催される英会話プログラムにも積極的に参加した.老若男女のチューターがとても熱心に,個性的な楽しく学べるプログラムを展開してくださった.各国からの留学生やその家族達と共に学んだが,彼らは文法や語彙が未熟であっても積極的に発信する力があった.日本人の学習法や英会話の意識と全く異なることを感じ,私もアウトプット中心の学びへと変化した.地元のイベントもたくさん紹介していただいたことで,地域のコミュニティや世界の人々とのつながりを得ることができた.

留学生活は困難も多かったが,家族や教授をはじめ,多くのボランティアや現地の日本人コミュニティにも支えていただいた.何物にも代え難く貴重な留学経験となり,応援やご協力をいただいた日本の大学教員や研究者を含め,心より感謝申し上げる.滞在中は円安もあり経済的にも大変厳しい中,日本看護科学学会による助成金は大変有難く,また本学会の助成金受給者であることは心強く感じ,研究活動を充実させることができた.心より,御礼申し上げたい.

3. 今後の展望と抱負

今後は留学先で得た経験を,国内の看護研究や看護教育に少しでも還元したい.また海外で活躍する研究者との出会いを活かし,国際共同研究などにも繋げたい.一方で,実際には看護学の研究留学の機会は非常に限られており,他分野に比べて様々なハードルがあることも痛感した.今後は希望する研究者が少しでも留学に挑戦できる仕組みが広がっていくことを切に願う.

謝辞:本留学で関わってくださったすべての方々に,心より感謝申し上げます.

2023年 若手研究者が海外留学するための助成を得た.

利益相反:なし

 
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