2025 年 45 巻 p. 636-646
目的:復職後も母乳育児を継続した女性の体験を,国内外の文献から明らかにし,その支援に関する示唆を得ることである.
方法:医学中央雑誌Web版およびPubMedを用いて,復職後も母乳育児を継続した女性の体験に関する原著論文9件を抽出し,各論文における研究対象,母乳育児の継続に影響を与えた要因,直面した課題等の実態を比較検討して女性の体験を明らかにした.
結果:女性の体験には,【母乳育児継続への意思と現実の狭間で揺れる心理的葛藤】【女性を取り巻く周囲からのエモーショナルサポート】【身体的な不調と苦痛】【職場環境の不便さ】【育児スタイルの獲得】【子どもから得られる心の休息】【母親としての新たなアイデンティティーの形成】があった.
結論:復職後の母乳育児支援には,職場における物理的・人的環境の整備だけでなく,女性とその周囲への様々な情報提供と妊娠期からの継続的な情緒的支援が重要であると示唆された.
Objective: To clarify the experiences of women who continued breastfeeding after returning to work from domestic and foreign literature, and to obtain suggestions for support.
Methods: Using the Web version of the Central Journal of Medicine and PubMed, we selected nine original articles on the experiences of women who continued breastfeeding after returning to work, and clarified the women’s experiences by comparing the subjects of the research, factors that influenced the continuation of breastfeeding, and actual conditions such as challenges faced in each article.
Results: The women’s experiences included: [psychological conflicts that oscillated between the intention to continue breastfeeding and the reality], [emotional support from those surrounding the women], [physical discomfort and pain], [inconvenience of the work environment], [acquisition of a child-rearing style], [emotional rest from their children], and [formation of a new identity as a mother].
Conclusion: The results suggest that, for breastfeeding support after returning to work, it is important not only to improve the physical and human environment at the workplace, but also to provide various information to the women and their surroundings and continuous emotional support from the pregnancy period.
近年,女性の高学歴化を含む日本経済の社会的背景により,我が国ではおよそ7割の女性が出産後も就業を継続している(厚生労働省,2023).また,事業所の育児休業期間は育児休業法で「1歳まで」と定められており,育児休業を取得した女性の多くが産後1年前後で復職している(厚生労働省,2024).2019年に発表された授乳・離乳の支援における報告書には,離乳完了時期の多くが1歳~1歳半であることから育児休業取得後の復職時期は授乳期間中である女性も少なくない(厚生労働省,2019)ことが示されている.
世界保健機関(World Health Organization: WHO)と国際連合国際児童緊急基金(United Nations International Children’s Emergency Fund)は,2年以上の母乳育児の継続を推奨しており(WHO & UNICEF, 2002),母乳育児に関する研究は国内外ともに多くなされている.それらの研究の中でも,母乳育児の長期継続は,母子ともに癌罹患率を低下させることだけではなく,子どもの感染症等の罹患や肥満,糖尿病の発症リスクの軽減,さらには精神的な安定をもたらすなど母子ともに多くのメリットがある(Stuebe et al., 2009;Awatef et al., 2010;Danforth et al., 2007;Victora et al., 2015;Horta et al., 2015)とされている.しかし,母乳育児中の女性は復職を機に断乳を余儀なくされ,断乳や卒乳の原因において復職が占める割合は非常に多いことが報告されている(松永,2002;太田・菅原,2006;山口・田辺,2012;吉川,2014).
母乳育児支援において,これまではいかに母乳育児を長期継続していけるかの支援が重要であった時代から,近年では母親個々の選択肢に寄り添い,その選択を支える支援の重要性が謳われている(梶井・田淵,2022).仕事と母乳育児の両立には様々な苦労や困難があるにもかかわらず,復職後も母乳育児を続けている女性は,どのような体験をし,どのような思いで継続しているのか,母乳育児を継続しているその根底には何があるのかを理解することが重要である.その情報を提供することで,これから母乳育児を行う女性が戸惑うことなく自己の母乳育児スタイルを選択できるための支援に繋がると考えた.
働く女性への母乳育児支援については,Chang et al.(2021)やDinour & Szaro(2017)が行った文献レビューにおいて,職場環境の整備や医療職,ピアによる支援の重要性を報告している.これらの文献レビューの対象論文は,研究対象が復職後も母乳育児を経験した女性のみならず,職場の上司や同僚,医療者やピアサポーター等,様々な人たちであり,なおかつ研究対象の言語も英語圏に対する文献のみであった.しかしながら,職場の上司や同僚といった対象は母乳育児を継続している本人ではなく,復職後の女性の思いとして焦点化されていないという懸念があった.今回,研究対象を復職後も母乳育児を続けている女性に焦点を当てることに加え,論文の対象言語を英語だけではなく日本語も対象とすることで,復職後の女性への母乳育児支援をさらに具体的に検討するための重要な示唆が得られると考えた.
本研究における母乳育児とは,清水(2011)が日本小児科学学会雑誌において示した母乳育児・母乳栄養の定義を参考に,小児に直接授乳もしくは搾母乳を与えること,母乳育児の継続は一日に一度でも小児に母乳育児を行うことと定義した.
本研究の目的は,復職後も母乳育児を継続した女性の体験を,国内外の文献を精読することにより明らかにし,その支援に関する示唆を得ることである.
学術論文データベース医学中央雑誌Web版とPubMedを使用し,2025年1月時点までに掲載された学術論文を検索した(検索日2025年1月26日).医学中央雑誌Web版では,「就労女性」AND「母乳栄養」AND「体験OR経験OR語りOR思い」をキーワードとした.PubMedでは以下のようにキーワードを組み合わせた:(working women)AND(breastfeeding)AND(experience OR story).検索期間は近年の動向を探るため,10年以内と設定し2015年から2024年の範囲とした.対象文献は原著論文のみとし,対象言語は日本語と英語にした.また,復職後も母乳育児を継続した女性の体験を理解するにあたって重要な主観性や多面性を汲み取れる質的研究に限定した.さらに,除外基準として質的研究ではないもの,復職後も母乳育児を継続した女性の体験ではないもの,研究対象が復職後も母乳育児を継続した女性本人ではないものとした.
本研究の結果の抽出・分析は,NoblitとHareのメタエスノグラフィーを参考にして行った(Noblit & Hare, 1988).メタエスノグラフィーは,観察され,認知される現象は常に文化から影響を受けるということを前提に,各文脈を背景に持つ知見を比較検討し,関連を見出して解釈的に統合する手法である.復職後も母乳育児を継続した女性の体験は,その文脈から捉えられると考え,分析は以下の7ステップを踏んで行った.
第一段階:研究の成果に対する研究者の関心の明確化
最初に各論文を精読し,復職後も母乳育児を継続した女性の体験についてどのくらいの情報が得られるかの可能性を検討した.また,各論文から得られた情報を統合する価値があるかについても検討した.
第二段階:分析対象とする対象論文の選定
データベース検索の結果抽出された論文のタイトルと抄録,ならびに引用文献を精査し,復職後も母乳育児を継続した女性の体験について論じられている論文を抽出した.なお,論文の質を評価するため,Critical Appraisal Skills Programme(以降CASPと記載する)のQualitative Studies Checklistを用いて記述内容を吟味した(Critical Appraisal Skills Programme, 2018).また,最初のスクリーニングにおいて質的研究のため対象論文としていたものも,Qualitative Studies Checklistの結果,論文が研究方法と目的に一貫性がないと判断したものは除外した.
第三段階:対象論文の精読
分析対象に選定した論文を解釈的なメタファーに注目して繰り返し何度も精読した.ここでいう解釈的なメタファーとは,復職後も母乳育児を継続した女性の体験である.
第四段階:対象論文相互の関連の検討
各対象論文から復職後も母乳育児を継続した女性の体験が表されているテーマとその内容を抽出した.テーマの抽象度が高い場合,論文中に引用されているナラティブに戻り,女性の体験を理解するために必要な成果,すなわち主要なメタファー,フレーズ,概念を抽出した.そして,それぞれの論文ごとに抽出された成果を整理し,研究対象,母乳育児の継続に影響を与えた要因,直面した課題等の実態についての関連性を比較検討した.
第五段階:各対象論文の成果に照らした他の対象論文の成果の解釈
それぞれの論文ごとに抽出された成果を,その類似点や相違点に着目しながら解釈した.はじめに国内文献と国外文献に分け,各論文間で抽出された成果同士を解釈した.そして,復職後も母乳育児を継続した女性の体験を具体的に示した.次に,具体的に示された女性の体験を国内文献と国外文献でも比較検討した.
第六段階:解釈した結果の統合
具体的に示された体験について,類似性に基づき抽象度を高めながら,サブカテゴリー,カテゴリーを生成した.
第七段階:統合結果の表現
第六段階で統合した復職後も母乳育児を継続した女性の体験を表にまとめ,記述した.分析の過程において,第三段階から第六段階においては質的研究や助産学に長けた研究者2名と何度も表現のあり方を評価する場を設け,文脈が異なる知見を統合する際の信憑性確保に努めた.
文献検索の結果,医学中央雑誌4件,Pubmed70件の計74論文が抽出された.タイトルと抄録を精査し,除外基準に該当する論文を除いた結果,10論文が残った.また,それらの引用文献を参照し,ハンドサーチにて1件の論文を追加した(図1).計11論文をCASPのQualitative Studies Checklistを用いて論文の質に関して検証した.最初のスクリーニングにおいて質的研究のため対象論文としていたものも,Qualitative Studies Checklistの結果,2論文が研究方法と目的に一貫性がないと判断したため除外し,最終的に9論文を分析対象とした.対象の概要とQualitative Studies Checklistの結果は,表1に示す通りである.レビュー対象論文の国名は,日本が4論文,インドネシア,パキスタン,中国がそれぞれ1論文,エチオピアが2論文であった.これらの論文から見出された復職後も母乳育児を継続した女性の体験には,【母乳育児継続への意思と現実の狭間で揺れる心理的葛藤】【女性を取り巻く周囲からのエモーショナルサポート】【身体的な不調と苦痛】【職場環境の不便さ】【育児スタイルの獲得】【子どもから得られる心の休息】【母親としての新たなアイデンティティーの形成】の7つの側面があることが分かった.以下に詳細を記載する.結果の記述では,用いた研究を[1]藤田(2015),[2]中田・片岡(2018),[3]Riaz & Condon(2019),[4]Lokat et al.(2020),[5]梶井・田淵(2021),[6]Wolde et al.(2021),[7]Gebrekidan et al.(2021),[8]Guo et al.(2022),[9]梶井・田淵(2022)と[ ]で示す.なお,分析データの具体例を表2に,カテゴリー表を表3に示す.

| 復職後も母乳育児を継続した女性の体験に関する研究の概要 | ||||
|---|---|---|---|---|
| 著者(出版年)国名 | 目的 | 参加者 | デザイン データ収集方法 |
結果 |
| [1]藤田(2015)日本 | 授乳期の子をもつ就労中の女性が,妊娠・出産・育児をどのように経験しているかを母乳を与える行為を通して明らかにする | 復帰時期:記載なし 乳幼児(生後5ヶ月~2歳)の第一子をもち,働きながら母乳育児を行っているもしくは半年前に卒乳した母親8名 |
M-GTA分析 半構造化面接 |
妊娠前から現在に至るまでの過程で,「自らの心と体の変化」に質的な変化がみられた.女性たちの時間軸と共に変化する様相が語りによって明らかになり,〈社会や人とのつながりの変化〉〈身体的変化も含む悩みの内容の変化〉そしてこれからどう生きるかという〈女性自身の自己への問いの変化〉の3つの中心概念が抽出された.〈女性自身の自己への問いの変化〉では,女性たち自身が再構成を導く要因と転機が見出された. |
| [2]中田・片岡(2018)日本 | 出産後に仕事へ復帰した女性が,働きながら母乳育児を継続した体験を明らかにする | 復帰時期:産後2~10ヶ月 出産後に母乳育児を行い,復帰前から母乳育児継続を希望し仕事または学業に復帰した女性10名(初産婦3名,経産婦7名) |
質的記述的研究 フォーカスグループインタビュー |
出産後,仕事へ復帰した女性が働きながら母乳育児を継続した体験として〈母親として選択した復帰後の母乳育児継続〉〈復帰後の母乳育児を見越しての準備や調整〉〈母乳育児継続のサポーターの存在〉〈生活の一部として続ける母乳育児〉〈折り合いをつけていく様々な障壁〉〈母乳育児に対する価値観とスタンス〉〈子どものうれしさが自分にとってのうれしさになる〉という7つのコアカテゴリが抽出された. |
| [3]Riaz & Condon(2019)パキスタン | フルタイムで職場復帰をした看護師の母乳育児中の意識と経験を明らかにする | 復帰時期:産後42日 フルタイムで職場復帰をした際,母乳育児をしていた女性6名(初産婦4名,経産婦2名) |
質的記述的研究 半構造化面接 |
フルタイムで職場復帰をした看護師の母乳育児中の意識と経験として〈母乳育児は子どもの権利であるという信念〉〈社会的制度や職場環境が不十分であるがゆえの葛藤〉〈母乳育児を継続するための家族支援の重要性〉の3つのテーマが抽出された. |
| [4]Lokat et al.(2020)インドネシア | 完全母乳育児を成功させるための実践的な手段の探索 | 復帰時期:記載なし 女性警察官で完全母乳育児を6ヵ月間継続した10名(初経別の記載なし) |
質的記述的研究 半構造化面接 |
完全母乳育児を6ヵ月間継続した母親の母乳育児体験として〈完全母乳育児は我が子の成長にとって重要であると考えていた〉〈仕事は完全母乳育児を妨げる障害ではないと認識していた〉〈完全母乳育児に関する適切な情報を得ていた〉〈職場に授乳室はなく自宅で授乳していた〉〈母乳育児に対する夫の前向きな態度と協力があった〉〈勤務中は家族が育児を担った〉〈署長の協力があった〉〈本人に意欲があり,女性であることの受容ができていた〉という8つのコアカテゴリが抽出された. |
| [5]梶井・田淵(2021)日本 | 働く女性が母乳育児を継続していく中で原動力となっていたものは何かを明らかにする | 復帰時期:産後10ヶ月~1年3ヶ月 働きながら母乳育児を継続している母親,もしくは過去に継続していた母親10名(初産婦4名,経産婦6名) |
質的記述的研究 半構造化面接 |
働きながら母乳育児を継続している母親は〈母乳育児への強い信念〉があり,〈自然卒乳への強いこだわり〉も持っていた.時には授乳に対する抵抗感を抱きながらも,本心は〈授乳という行為を終わらせたくない気持ち〉を感じていた.また,〈長時間子どもと離れた後の授乳だからこそより感じられる子どもへの強い愛情〉を感じ,さらには〈授乳が子どもを効率よく落ち着かせる一番の方法であり,手放すことができない武器〉となっていた.そして,〈仕事をしながら母乳育児を続けている仲間の存在〉が支えとなり,働きながらでも母乳育児を継続していこうと思うようになっていた. |
| [6]Wolde et al.(2021)エチオピア | 異なる職場環境における母親の母乳育児経験を探求する | 復帰時期:産後4ヶ月~1年10ヶ月 フルタイムで働く2歳以下の乳児を育てる女性17名(初産婦11名,経産婦6名) |
記述的現象学 半構造化面接 |
出産後,フルタイムで職場復帰し母乳育児継続している母親の経験として,〈母乳育児を妨げる職場の障壁と促進要因〉〈職場における障壁への対処〉の2つの主要なカテゴリーが抽出された. |
| [7]Gebrekidan et al.(2021)エチオピア | 職場復帰後の女性が,働きながら母乳育児を継続した体験を明らかにする | 復帰時期:産後4ヶ月未満~6ヶ月 フルタイムで働く12ヶ月未満の乳児を育てる女性20名(初経別の記載なし) |
質的記述的研究 半構造化面接 |
〈母乳育児に対する母親の知識,態度,実践〉〈職場の状況と雇用条件〉〈家庭で受けたサポート〉という3つのテーマが抽出された. |
| [8]Guo et al.(2022)中国 | 母親が職場復帰後に母乳育児を続ける経験をレジリエンスの観点から明らかにする | 復帰時期:産後3か月~12ヶ月 仕事に復帰後,1ヶ月以上母乳育児を続けた女性13名(初産婦5名,経産婦8名) |
質的記述的研究 半構造化面接 |
職場復帰後も母乳育児をしている母親の経験は,〈ストレス要因〉〈周囲からのサポート〉〈レジリエンスの構築〉〈レジリエンスの行動〉〈離乳へのプロセス〉という4つのカテゴリーが抽出された. |
| [9]梶井・田淵(2022)日本 | 復職を機に断乳を決意した女性の心理的プロセスを明らかにする | 復帰時期:産後6ヶ月~1年3ヶ月 母乳育児継続期間が2年経たずして復職を機に断乳を決意した母親12名(初産婦4名,経産婦8名) |
M-GTA分析 半構造化面接 |
復職前は〈復職後も授乳は継続したい〉という思いを抱いていたが,復職後は次第に〈夜の授乳と仕事の両立への不安〉を感じるようになったり〈子どもの成長に伴う授乳への抵抗〉が現れるようになっていった.しかし,いざ断乳を始めようとすると〈断乳することへの漠然とした不安〉を抱き〈授乳が終わることへの抵抗〉を抱くこともあった.時には〈断乳を決意したことへの後ろめたさ〉をも感じていた.しかし,葛藤状態を繰り返しながらも改めて〈断乳への強い決意と覚悟〉をした女性は断乳が完了すると,自分の中で〈断乳という決断を受け入れ〉ていた. |
| Qualitative Studies Checklist結果 | ||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 著者(出版年)国名 | 1.目的の明確性 | 2.質的研究方法の適正 | 3.研究デザインと目的の合致性 | 4.参加者の選定 | 5.データ収集方法の適正 | 6.研究者の立場の明示 | 7.倫理的配慮の記載 | 8.データ分析の厳密性 | 9.結果の明確性 | 10.研究の価値 |
| [1]藤田(2015)日本 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 | 【概ね適切】 | 【あり】 | 【限定的】 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 |
| 明確に記されている. | ナラティブアプローチを用いており,個々の体験や意味づけを深く理解するには適した方法である. | 語りを通じて体験を理解するという目的に対し.ナラティブアプローチは適している. | 働きながら母乳育児を継続している女性を対象としている点は目的と合致しているが,サンプル数や背景の多様性についての記述がやや不足している. | インタビューを通じて参加者の語りを収集しており,質的研究に適した方法である. | 研究者の立場やバイアスへの配慮についての記述は限定的である. | 倫理審査の承認やインフォームドコンセントについての記載あり. | 語りの内容を丁寧に分析し,テーマや意味を抽出している. | 女性たちの語りから浮かび上がる困難や工夫,支援の必要性について具体的に示されている. | 働く母親の声を通じて支援の必要性や制度的課題が浮き彫りになっており,実践的示唆が得られる研究である. | |
| [2]中田・片岡(2018)日本 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 | 【適切】 | 【あり】 | 【限定的】 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 |
| 明確に記されている. | フォーカスグループインタビューを用いて,質的記述的に分析しており,体験を深く理解するには適した方法である. | 体験の記述を目的としており,質的アプローチが妥当. | 復職後も母乳育児を継続した女性10名を対象としており,研究目的に合致している. | フォーカス・グループ・インタビューにより,参加者の語りを引き出しており,質的研究に適した方法である. | 研究者の立場やバイアスへの配慮についての記述は限定的である. | 倫理審査の承認やインフォームドコンセントについての記載あり. | 200のコードから61のサブカテゴリ―,17のカテゴリー,7のコアカテゴリーを抽出している. | 母乳育児継続に関する7のコアカテゴリーが明示され,具体的に示されている. | 働く母親個人の体験だけではなく,社会制度や文化的背景を含めた考察を行っており,実践的示唆が得られる研究である. | |
| [3]Riaz & Condon(2019)パキスタン | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 | 【適切】 | 【あり】 | 【限定的】 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 |
| 明確に記されている. | 半構造化インタビューを用いた質的記述的研究で,母親たちの主観的な経験を深く掘り下げるのに適した方法である. | 目的が「経験の理解」であるため,質的アプローチが妥当. | 母乳育児中に職場復帰した看護師6名を選定しており,研究目的に合致している. | インタビューの録音・逐語録の作成を経て,テーマ別に分析し,情報飽和までデータ収集が行われている. | 研究者の立場やバイアスへの配慮についての記述は限定的である. | 倫理審査の承認やインフォームドコンセントについての記載あり. | テーマ的分析が使用されており,透明性があり厳密性が確保されていると考えられる. | 参加者の引用を交えながら,結果が明確に提示されている. | 職場の制度的支援の必要性や家族の協力の重要性が示されており,実践的示唆が得られる研究である. | |
| [4]Lokat et al.(2020)インドネシア | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 | 【概ね適切】 | 【あり】 | 【限定的】 | 【やや不明】 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 |
| 明確に記されている. | 探索的な定性的研究デザインで経験や戦略を深く理解するには適した方法である. | 探索的アプローチは,個人の認識や行動の背景を理解するのに適している. | 母乳育児を実践している10名の女性警察官を選定しており,対象研究目的に合致している. | インタビューを録音・逐語録を作成・分析されており,質的研究に適した方法である. | 研究者の立場やバイアスへの配慮についての記述は限定的である. | 明確な記述は見当たらない. | 8つの主要テーマが抽出され,参加者の声を引用しながら分析されている. | 参加者の知識,態度,支援体制が成功の鍵であることが明確に示されてる. | 職場での授乳支援の必要性や,家族・上司の支援の重要性が示唆されており,実践的示唆が得られる研究である. | |
| [5]梶井・田淵(2021)日本 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 | 【概ね適切】 | 【あり】 | 【限定的】 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 |
| 明確に記されている. | 半構造化面接を通じて主観的な体験に焦点を当てた適した方法である. | 体験の記述を目的としており,質的アプローチが妥当. | 復職後も母乳育児を継続した女性を対象にしているが,選定基準やバイアスの可能性についての記述がやや不明瞭な点もある. | インタビューを録音・逐語録を作成・分析されており,質的研究に適した方法である. | 研究者の立場やバイアスへの配慮についての記述は限定的である. | 倫理審査の承認やインフォームドコンセントについての記載あり. | 母乳育児継続に関する6のコアカテゴリーが明示され,具体的に示されている. | 〈母親としての信念〉〈子どもとの関係性〉〈支援者の存在〉など,母乳育児を支える内的・外的要因が具体的に示されている. | 働く母親が母乳育児を継続するための心理的・社会的支えが明らかになっており,実践的示唆が得られる研究である. | |
| [6]Wolde et al.(2021)エチオピア | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 | 【適切】 | 【あり】 | 【限定的】 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 |
| 明確に記されている. | 半構造化インタビューを用いた記述的現象学的アプローチであり,経験の本質を探るには適した方法である. | 現象学的手法は,母親たちの主観的な経験や意味づけを深く理解するのに適しており,質的アプローチが妥当. | 異なる勤務条件(3ヶ月または6ヶ月の産休,託児所の有無)を持つ職場で働く17名の母親を選定しており,研究目的に合致している. | インタビューを録音・逐語録を作成・分析されており,質的研究に適した方法である. | 研究者の立場やバイアスへの配慮についての記述は限定的である. | 倫理審査の承認やインフォームドコンセントについての記載あり. | 【促進要因と障壁】,【障壁への対応】という2つの主要テーマが抽出され,参加者の引用を交えて丁寧に分析されている. | 職場の支援環境が母乳育児の継続に大きく影響することが明確に示されており,実際の発言も豊富に引用されている. | 職場環境の整備(授乳室,柔軟な勤務制度など)が母親の満足度や職務継続に寄与することが示されており,実践的示唆が得られる研究である. | |
| [7]Gebrekidan et al.(2021)エチオピア | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 | 【適切】 | 【あり】 | 【限定的】 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 |
| 明確に記されている. | 半構造化インタビューを用いた質的研究で,経験や態度を深く理解するには適切な方法である. | テーマ別分析を用いて母親たちの主観的な経験を明らかにするには質的アプローチが妥当. | フルタイムで働く12ヶ月未満の乳児を育てる女性を選定しており,研究目的に合致している. | インタビューを録音・逐語録を作成・分析されており,質的研究に適した方法である. | 研究者の立場やバイアスへの配慮についての記述は限定的である. | 倫理審査の承認やインフォームドコンセントについての記載あり. | 3つの主要テーマ【母親の知識・態度・実践】【職場環境と雇用条件】【家庭での支援】が抽出され,参加者の引用を交えて丁寧に分析されている. | 母乳育児の継続に影響する要因が明確に示されており,職場の支援不足や家庭の支援の重要性が浮き彫りになっている. | 職場での授乳支援の必要性や,上司・同僚・家族の支援の重要性が示されており,実践的示唆が得られる研究である. | |
| [8]Guo et al.(2022)中国 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 | 【適切】 | 【あり】 | 【限定的】 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 |
| 明確に記されている. | 半構造化インタビューを用いた質的研究で,経験を深く理解するには適切な方法である. | 復職後も母乳育児を継続する中国の働く母親たちが,どのようにレジリエンスを形成し,困難を乗り越えているのかを明らかにすることを目的としており,質的アプローチが妥当. | 職場復帰後も1か月以上母乳育児を継続した母親を対象にしており,研究目的に合致している. | インタビューを録音・逐語録を作成・分析されており,質的研究に適した方法である. | 研究者の立場やバイアスへの配慮についての記述は限定的である. | 倫理審査の承認やインフォームドコンセントについての記載あり. | 【ストレッサーの経験】,【支援の獲得】【レジリエンス資質の構築】【行動的レジリエンス】という段階的なプロセスが明確に示されており,3つの離乳パターン(自然・能動的・強制的)に分類されている. | 〈動的相互作用〉というコア概念を中心に,参加者の引用を交えて説得力のある結果が提示されている. | 職場環境の改善(授乳室,柔軟な勤務制度など)や母親の内的資質の強化が,母乳育児継続の鍵であることが示されており,実践的示唆が得られる研究である. | |
| [9]梶井・田淵(2022)日本 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 | 【適切】 | 【あり】 | 【限定的】 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 | 【あり】 |
| 明確に記されている. | M-GTAを用いた質的記述的研究で,プロセスの解明に適した方法である. | M-GTAは目的(心理的プロセスの明確化)に対して,プロセス志向の分析が可能なM-GTAを採用しており,研究デザインと目的が高い整合性を持っている点で,質的研究として妥当性が高い. | 対象は正期産かつ2,500 g以上の単胎を出産し,復職を機に断乳を決意した12名の母親であり,明確な選定基準があり目的に合致している. | 1時間程度の半構造化面接により,参加者の語りを引き出しており,質的研究に適した方法である. | 研究者の立場やバイアスへの配慮についての記述は限定的である. | 倫理審査の承認やインフォームドコンセントについての記載あり. | 復職を機に断乳を決意した女性たちの心理的プロセスが,8つのカテゴリと18の概念として丁寧に抽出・整理されている. | 参加者の語りから理論的枠組みを導き出す質的研究において,信頼性を高めるための厳密な手法であるM-GTAによって分析がなされている. | 断乳という選択に伴う複雑な感情や社会的影響が明らかにされており,実践的示唆が得られる研究である. | |
カテゴリー:揺れ動く心理模様サブカテゴリー:母乳育児を継続していく中で感じる様々な葛藤復職後も母乳育児を継続した女性の体験:母乳育児の継続か断乳か,仕事優先か搾乳優先か,あらゆる葛藤を抱きながら母乳育児を継続する
| 文献 | 各文献から抽出された成果 | 抽出された成果の解釈 |
|---|---|---|
| [1] | (気持ちが)揺れながらも,その自分を統合しながらまた更に新たな目標に向かっていた. | 揺れ動く気持ちを繰り替えしながらも新たな目標に向かう |
| [1] | 本当に日中眠くて頭が働かないのよ.それにおっぱいも張るでしょ.痛くて痛くて集中できない.(中略)でも,今はやめることは考えてない.この時期って今しかないじゃん. | 身体的苦痛を感じても母乳育児をやめることは考えていない |
| [2] | 時短をしているのに,さらにそこで20分とか席をはずして,搾乳してっていうのもなんかこうちょっと言いづらいっていうか.限られた時間で,さらに別のことに時間をっていうのが.そういう後ろめたさっていうのは,ちょっとありましたね. | 仕事中の搾乳にうしろめたさを感じる |
| [4] | 母親達は,母乳育児が最も望ましい栄養方法であり,子どもの権利であると述べていた.しかし,復職後は母乳育児を継続していきたい気持ちを抱きながらも勤務形態の過酷さや職場環境の不便さ等を感じ,葛藤を抱いていた. Antenatally mothers described breastfeeding as the preferred infant feeding option and the child’s right. But when returning to work mothers encountered rigid hospital policies and practices, such as a short and non-negotiable period of maternity leave, inflexible shift patterns, and lack of childcare provision. It's conflict with institutional power. | 母乳育児が子どもにとって一番望ましい栄養方法と感じていながらも,あらゆる困難さから抱く気持ちの葛藤 |
| [5] | やめたらやめたで楽になったって気持ちも多分出てくるんやろうけど,でも今は多分寂しいって思う気持ちが大きいんかなって. | 断乳への思いがよぎる中でも感じる授乳が終了することへの寂しさ |
| [5] | この時間までに(仕事に)行かんなんっていうのがあるのに,そのときに「おっぱーい」って言われたらうわーってなった. | 時間に追われ気持ちの余裕がない時の授乳を億劫に感じる |
| [5] | やめたいなって思ったときもある.でも,やっぱり子どもが欲しがってきたら,あげたいって思うし,自分の都合でやめるのは(子どもが)かわいそうって思ってしまって,結局やめんとおる. | 自分の欲求を満たしたい思いから感じてしまう断乳へのゆらぎと葛藤 |
| [6] | 仕事に集中することができない.うまく(哺乳瓶で)飲めないので,私が仕事に行っている時にお腹が空いたり,泣いたりするのではないかと思うと気になって仕方が無い.そう考えると,悲しくなって仕事を辞めたくなることもあります. “I can’t put my whole focus on work; I get frustrated because my child doesn’t drink well and I think he might get hungry or cry while I am here. I feel sad and sometimes even want to quit myjob because I’ve no choices.” | 子どものことを考えると仕事にも集中できず,退職することが頭をよぎる |
| [9] | ミルクを飲まそうと最初からは思っていなかったし,仕事を始めてからもずっとおっぱいは続けていくだろうなと思っていた.できれば卒乳っていった形で終わりたいって思ってもいたし. | 復職後も授乳は継続したい気持ちを抱きながら復職していた |
| [9] | できれば,続けられるものなら続けたいってやっぱり思う.できれば卒乳まで授乳したかったかな.でもやっぱり眠たいって気持ちがあって,断乳しようかどうか決めかねていたっていうか.仕事が始まるまでは,飲ませられるだけ飲ませようって思っとったけど. | 復職後も授乳を続けていきたい気持ちがあったため,なかなか断乳へと踏み切れない |
| カテゴリー | サブカテゴリー | サブカテゴリーが含まれていた文献 |
|---|---|---|
| 揺れ動く心理模様 | 復職後の環境変化への戸惑いや不安 | [1][2][8] |
| 母乳育児を継続していく中で感じる様々な葛藤 | [1][2][3][5][6][8][9] | |
| 母乳育児を続けたいという強い意志 | [1][3][4][5][7][8] | |
| 女性を取り巻く周囲からのエモーショナルサポート | 家族の協力 | [2][4][7][8] |
| 想いを傾聴しともに理解してくれる人の存在 | [1][2][4][5][8] | |
| 身体的不調と苦痛 | 寝不足からくる集中力の低下 | [1][6][9] |
| 痛みを伴う張り | [1][2][9] | |
| 職場環境の不便さ | 搾乳環境が整っていない | [4][6][7] |
| 上司や同僚の理解が得られない | [2][6][7] | |
| 育児スタイルの獲得 | 自分なりの方法を見つけていく | [1][2][4][7][8] |
| 冷凍母乳の利用 | [1][2][4][8] | |
| 搾乳(排乳)の実施 | [1][2][6][7][9] | |
| 子どもから得られる心の休息 | 肌と肌との触れ合い | [1][2][5][7] |
| 子どもとの貴重な二人だけの時間 | [1][2][5] | |
| 母親としての新たなアイデンティティーの形成 | 仕事と母乳育児の両立への達成感 | [2][4] |
| 母親としての自分 | [1][4][9] |
1)母乳育児継続への意思と現実の狭間で揺れる心理的葛藤
復職後も母乳育児を継続した女性は,復職後は様々な環境が変化することに心身共に戸惑いや不安を感じながらも母乳育児を続けていた[1][2][8].仕事との両立においては,しばし時間の制約や身体的・精神的にも苦痛や困難を感じることもあった.そのため,女性たちは時折,“断乳”へと気持ちが傾き,母乳育児の継続に迷いが生じることもあった[1][2][3][5][6][8][9].また,長時間乳汁が排出できないことで引き起こされる乳汁うっ滞による乳房の強い張りは,女性にとって非常に苦痛であり,女性たちは仕事中に搾乳の実施を余儀なくされていた.しかし,時には搾乳よりも仕事を優先せざるを得ないこともあり,仕事か搾乳かの選択を強いられ,葛藤を感じながら勤務していることも明らかとなった[2][8].そのような状況の中でも,女性たちには“母乳育児を続けたい”という強い意志と母乳へのこだわりがあり,それが母乳育児を続ける根底にあった.そして,母乳育児の終了は子どもが決める,いわゆる卒乳への気持ちも強く,それは母乳育児に対する価値観が大きく影響していた[1][3][4][5][7][8].
2)女性を取り巻く周囲からのエモーショナルサポート
復職後も母乳育児をつづけていくうえで,一番身近な存在である家族,特に夫の理解と協力は欠かせないものであった[2][4][7][8].仕事と母乳育児の両立,それだけではなく家事もこなさなければいけない女性たちは,毎日時間に追われる日々を送っていた.そして様々な困難や障壁にも直面することも多いため,その辛さや大変さを理解してくれる人,女性たちの想いに寄り添ってくれる人の存在こそが非常に大きな支えとなっていた.そしてそれは,夫をはじめとする家族に限らず,同じ体験をしている仲間の存在も,女性たちにとって心強く,メンタルを支える大きな助けとなっていた.また,職場での搾乳や保育園へ搾母乳を依頼する時など,女性は後ろめたさを感じてしまうことも多かった.それゆえ,女性たちが働く職場や子どもを通わせる保育園からの理解は,女性たちにとって気持ちよく母乳育児を継続できる心の支えとなっていた[1][2][4][5][8].復職後も母乳育児を続ける女性たちにとって,夫や家族による家事・育児の協力や授乳時間の確保といった道具的サポート,また,助産師などの専門家や同じ体験を持つ仲間から得られる情報的サポート等様々なサポートがある中でも,女性たちにとっては,情緒的サポート,つまりエモーショナルサポートは特に大きな役割を果たしていた.
3)身体的な不調と苦痛
復職してもなお夜間の授乳は継続し,そのため寝不足の状態で翌日仕事に行くことが日常となっていた女性たちは,寝不足からくる集中力の低下を感じながらも仕事と母乳育児を両立していた[1][6][9].また,復職後は授乳のペースが変わり,同時に搾乳できる時間や場所が限られてしまうため,産後早期に復職した場合は特に復職前に比べ授乳や搾乳回数が減ったことで乳房トラブルを引き起こしてしまう女性が多く,乳房の強い張りに伴う身体的苦痛を感じていた[1][2][9].
4)職場環境の不便さ
復職直後の女性,特に復職した時期が産後早期の場合は,児に直接授乳ができない状況下では乳房の強い張りを落ち着かせるためにも搾乳(排乳)が必須となっていた.職場で搾乳(排乳)を行うためには,搾乳(排乳)が出来るスペース,搾乳を保存出来る冷凍庫,そして搾乳(排乳)をする時間が必要であるが,これら全てが整っている職場環境は非常に少なかった[4][6][7].また,仕事中に搾乳(排乳)をする上で,上司や同僚からの理解が得られるかは,女性たちにとって非常に重要要素であった.搾乳(排乳)が出来る場所と時間が確保されている状況でも,職場からの理解が得られなければそれを実行に移すことに女性たちは非常に後ろめたさを感じていた[2][6][7].
5)育児スタイルの獲得
復職後も母乳育児を続けていた女性は,様々な苦労や困難を感じながらも,母乳育児を続けながら自分なりの方法を見つけ,あらゆることを自己決定しながら自分流に工夫を凝らし母乳育児を継続していた.そして,母乳育児を続けていく中で,自然と母乳育児が生活の一部となっていた.復職前から復職後の母乳育児継続についての準備や調整を行い,時にはサポート体制も自ら作り復職後の母乳育児継続に備えていた[1][2][4][7][8].
離乳食が始まったばかりもしくはまだ始まっていないような産後早期に復職した場合,児の栄養においては保育園での授乳も必要となり,その際は,冷凍母乳を活用するなど,母乳育児を続けていくためにあらゆる方法を自分なりに試行錯誤していくも,時には保育園との調整に苦労することもあった[1][2][4][8].さらに,復職したことで授乳ペースにも変化が生じ,特に復職早期における仕事中の乳房の張りは避けて通れないことが多かった.復職した女性たちは,仕事の合間を利用して搾乳(排乳)を実施し,自身で乳房の張りを落ち着かせる行為を行っていた[1][2][6][7][9].
6)子どもから得られる心の休息
直接授乳は,より密に子どもと触れ合うことができる時間であった.この触れ合いが,仕事で心身ともに疲れた女性の身体を癒す方法の一つでもあり,女性たちはこの触れ合いが身体の休息はもちろん,心の休息となっていた[1][2][5][7].それは,仕事で長時間子どもと離れるがゆえ,帰宅後の授乳は貴重な二人だけの時間であり,子どもとの大切なスキンシップの時間でもあった[1][2][5].
7)母親としての新たなアイデンティティーの形成
仕事と母乳育児を両立する女性は,それをポジティブに捉え,同時に達成感をも感じており,その前向きな姿勢が仕事と母乳育児の両立を可能にした大きな要因であった[2][4].また,働く女性たちは子どもを持つことで職場における責任に加え,母親としての責任が生まれていた.仕事と母乳育児の両立,つまりは子育てをしていく中で,“母親としての自分”という新たなアイデンティティーが,女性の中に形成されていた.授乳という行為は,職場での職業人から母親の自分へとシフトする時間であった[1][4][9].
復職後も母乳育児を継続した女性は,母乳育児の継続を望む気持ちと身体的苦痛や職場環境の不便さなどから揺れ動く断乳への思いなど,様々な葛藤を感じながらも,自分なりに考え行動しながら独自の育児スタイルを獲得し,母乳育児を継続していくための工夫をしていた.以上の結果から,考察では復職した女性への母乳育児支援の特徴とそれらから推察された課題,そして看護実践への示唆について考察する.
1. 復職した女性の母乳育児体験の特徴本研究でレビューした国内外9つの論文においては,復職後も母乳育児を継続した女性の体験に共通した体験が多くみられ,それぞれの国における母乳育児の現状に大きな差異はなかった.
本研究結果から,復職した女性は,仕事と母乳育児を両立していく中で様々な困難や葛藤を感じ,時には断乳へと気持ちが揺らぐことがありながらも,あらゆる工夫を凝らし母乳育児を継続していることが示されていた.さらに,様々なサポートを得ながら復職後も母乳育児を継続している女性たちにとって大きな支えとなっていたものは,心の支え,つまり〈エモーショナルサポート〉であった.夫を始めとする家族や,自分と同じ体験をしている,もしくはしていた仲間の存在,そして女性たちが働く職場における上司や同僚,子どもの預け先である保育園のスタッフなど,女性たちを取り巻く様々な人たちからの理解が,彼女達を身体的にも精神的にも支えていた.エモーショナルサポートとは,家族や職場の上司・同僚,保育園のスタッフといった身近によく関わる人たちだけではなく,女性たちと同じような体験をしているピアによるサポートも含まれ,その存在もまた女性たちにとって重要なものとなっていた.同じ体験を共有し,悩みや苦労を理解してくれる仲間の存在は,復職後も母乳育児に取り組む女性たちにとって心の支えとなり,自信を持つきっかけにもなるのではないかと示唆された.
また,女性たちは働く母親として社会に生きる中で,自らの力で様々な葛藤を乗り越え〈母親としての新たなアイデンティティー〉を形成していた(藤田,2015;梶井・田淵,2022).そして,自然と自分の選択したことを遂行しようとする強い信念と共に母乳育児を継続するという力が培われていた.働く女性は,職業人としての自分,そして母親としての自分という二つの責任ある役割を抱えている.その狭間では,まるで自分が二つに分かれてしまったかのような感覚となるのだろう.それは,子どもに十分な時間や気持ちを注げていないのではないかという罪悪感と仕事への責務で葛藤し,勤務中の落ち着かなさを感じることも考えられる.社会の厳しい現実に立ち向かいながら日々奮闘する彼女たちにとって,帰宅後の授乳は,〈子どもとの貴重な二人だけの時間〉であり,わが子との触れ合いを通じて得られる心の休息でもある.このような時間は,厳しい社会を生き抜くための力となっているのかもしれない.その中でも我が国で働く女性たちにとっては,特にわが子との情緒的な繋がりが,働きながらも母乳育児を継続していくための原動力の一つになっていると考えられる.
2. 復職した女性への母乳育児支援の課題と看護実践への示唆働く女性たちにとって,授乳を通じて子どもとの情緒的な繋がりを感じられる〈子どもとの貴重な二人だけの時間〉は,復職後も母乳育児を続ける上で大切な要素であった.女性たちを支える様々なサポートの中でも,授乳時間の確保といった道具的サポートもまた,情緒的サポートと並び重要な役割を果たすと考える.北欧諸国では,母乳育児支援が非常に充実しており,子連れ出勤や授乳のための一時外出など,仕事中でも授乳ができる取り組みが行われている(井村,2018).仕事中のみならず,帰宅後の授乳時間を確保するには,夫を始めとする家族の家事サポートも効果的だろう.女性たちが授乳を通じて子どもとの繋がりを深め,情緒の安定を得られるための支援が今後さらに求められると考える.
また,国内外の文献で多く示されていた〈職場環境の不便さ〉は,復職した女性が母乳育児を継続していく中で最も困難と感じている要因であると考える.我が国においても,2009年に報告された上原の調査(上原ら,2009)では,105人(56%)の女性が職場には母乳育児を継続するための環境がないと回答していたが,2024年に報告された浦田の調査(浦田,2024)でも,107人(70.9%)の女性が職場には母乳育児を継続するための環境がほとんどない,もしくは全くないと回答していた.すなわち,15年経過しても我が国における職場環境は改善していない状況がみられた.さらに,Chang et al.(2021)は,職場の上司や同僚からの理解は,復職後の母乳育児継続期間と密に関係しており,女性たちにいかに母乳育児にやさしい職場を提供できるかが今後の重点課題であると述べていることから,復職した女性が母乳育児を継続していくためには,人的環境も含む職場環境の整備は非常に重要であり,喫緊の課題であると考えられる.
母乳育児中の母親が復職する時期は様々であり,特に産後比較的早期に復職した女性は,授乳や搾乳回数が減少することによって,強い乳房の張りや乳房トラブルによる身体的苦痛を感じることが多い.また,復職後の授乳や搾乳回数の減少は,母乳分泌低下にもつながる.一方で,子が離乳食後期頃の時期にもなると,頻回な授乳や搾乳は必要なく,乳房の張りを落ち着かせるほどの搾乳でよいとされている(北野,2013).産後どの時期に復職するにしろ,母乳育児中の女性にとって,職場での搾乳(排乳)ができる環境は必要不可欠である.そして,その環境というものは,搾乳(排乳)ができる場所や時間の確保,必要物品の提供といった物理的な環境だけでなく,上司や同僚の理解といった人的環境もまた重要な要素である.職場における人的環境が整うことによって,搾乳場所や必要物品の設置,搾乳時間の確保といった物理的環境もまた整っていくであろう.そのために助産師を初めとする専門職者は,女性たちが働く職場においてその上司や同僚の理解が得られるよう,母乳育児についての啓発活動を実施していくことも復職後も母乳育児を継続していく女性への支援の可能性として挙げられる.
また,女性たちは仕事と母乳育児を両立していく中で身体的苦痛や職場環境の不便さを感じながらも,自分なりに考え常に自己決定をしながら行動し母乳育児を継続していた.母乳育児支援において最も重要なことは,母親自身が自分の力で自分に合った方法を見つけ,自信を持って子育てが楽しめるように母親の力を引き出すことである(梶井・田淵,2022).復職後の母乳育児支援においても,助産師等の専門家達は,母乳育児継続のための方法だけを指導するのではなく,女性たちが復職後の母乳育児を自分自身で自信を持って自分なりの方法を見つけ,それを実践していけるように導くことが大切であり,そのために様々な情報を女性たちにはもちろん,支える家族や職場関係者等あらゆる人達に伝えていくことが重要であると考える.妊娠中から母乳育児のイメージを具体的に持ち,出産後はスムーズに母乳育児を確立し継続できるよう,精神的な面からの支援もまた重要な点であり,それは,出産後からではなく,妊娠中から産後育児休暇中,そして職場復帰後も継続した支援が望ましいと考える.
本研究がレビューした9論文は,その多くがアジア圏の女性を対象としたものであり,文化や環境,支援制度の違いから,本研究結果を復職した女性の母乳育児体験として捉えるには限界がある.さらに「体験」という解釈は,哲学的・文化的背景によって意味が異なるものであるということ,文献レビューにおいてもレビューを行う研究者自身の哲学的立場や解釈枠組みによって「体験」の意味付けが左右されるため,同じ文献でも異なる解釈が生じる可能性があるとした限界がある.
職場環境の不便さは,国内外を問わず,復職した女性が母乳育児を続ける上で最も困難な要因であった.復職後の母乳育児を支えるためには,職場環境の整備が急務であり,それは,設備や施設といった物理的な環境だけでなく,職場の上司や同僚の理解など人的環境も含まれていた.さらに,女性たちが復職後も自信を持って母乳育児を続けられるよう,女性自身だけでなく,家族や職場の関係者を含めた周囲の人々に向けて,母乳育児に関する様々な正しい情報の提供が求められた.それに加え,妊娠期からの継続的な情緒的支援が重要であると示唆された.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:KKは研究と原稿執筆の全過程を実施し,YTは研究と原稿執筆の全過程における助言を行った.全ての著者は最終原稿を承認した.