目的:精神科看護者の日本語版道徳的勇気測定尺度(Japanese version of Nurses’ Moral Courage Scale for Psychiatric nurses: J-NMCSP)を作成し,信頼性・妥当性を検証する.
方法:J-NMCSPを精神科看護者2,601名に対して実施した.構成概念妥当性を探索的因子分析にて検討し,モデルの適合度を確認的因子分析で確認した後,項目分析・信頼性の確認・妥当性の検討を行った.
結果:探索的因子分析の結果示された4因子構造モデルにて高い適合度指標(GFI = .903, AGFI = .876, CFI = .893, RMSEA = .072, AIC = 1,100.539, BIC = 1,102.517)が確認された.J-NMCSP全体のCronbach’s α係数は0.910であった.
結論:J-NMCSPは精神科看護者を対象とした調査により構成概念妥当性・併存的妥当性・内的整合性が確認された.
Objective: To develop a Japanese version of Nurses’ Moral Courage Scale for Psychiatric nurses (J-NMCSP) and to assess its reliability and validity.
Methods: This study included 2,601 psychiatric nurses who were administered the J-NMCSP, which was developed through a translation process. The construct validity was evaluated through an exploratory factor analysis, whereas the model fit was confirmed through a confirmatory factor analysis. Subsequently, item analysis, reliability confirmation, and validity were performed.
Result: The results of the exploratory factor analysis showed that the four-factor model had high goodness-of-fit indices (GFI = .903, AGFI = .876, CFI = .893, RMSEA = .072, AIC = 1,100.539, BIC = 1,102.517), and Cronbach’s alpha coefficient for the entire J-NMCSP was 0.910. Moreover, Cronbach’s alpha coefficient for the entire J-NMCSP was 0.910.
Conclusion: The J-NMCSP has been shown to be an effective and reliable scale for measuring the moral courage of Japanese psychiatric nurses. However, since the factor structure of the J-NMCSP differs from that of the original untranslated version, caution should be taken when conducting international comparisons.
道徳的勇気は哲学,心理学,社会学など多分野で研究されている概念であり,倫理的なジレンマや正義に反する行為に直面した際,倫理的原則や個人の価値観に従って行動する際に求められる内的な強さや勇気を指し,たとえ不利益が生じる可能性があっても正しいと信じる行動をとる姿勢であるとされている(Fahlberg, 2015;Numminen et al., 2017).看護学においては,高い道徳的勇気を持つ看護者は患者や質の高い看護のために個人的なリスクを負うことを厭わず,良心に沿った行動を実行し,倫理的誠実さを持つことが報告されている(Lindh et al., 2009;Sadooghiasl et al., 2018;Numminen et al., 2019).また,道徳的勇気は同僚との関係性や職場の倫理的風土に対してもポジティブに作用し,ケアの質の向上,患者の生活の質や安全性の改善にも寄与することが示されている(Gallagher, 2011;Taraz et al., 2019).
Numminen et al.(2017)は曖昧な概念であった道徳的勇気に対し概念分析を行い,「真摯な存在感」「道徳的誠実性」「責任感」「誠実さ」「擁護」「誓約と忍耐」「個人的リスクの覚悟」の7つの要素で構成されることを示した.この枠組みに基づき,看護者の道徳的勇気を多面的に評価する尺度としてNurses’ Moral Courage Scale(NMCS)が開発されており(Numminen et al., 2019),医療ミスや事故の報告行動(Elhihi et al., 2025),倫理的行動との関連(Chen et al., 2025)といった実践的側面と道徳的勇気の関連を検討する研究に用いられている.道徳的勇気は基礎教育や継続教育,臨床経験,同僚との討議によって向上することが示唆されており(Bickhoff et al., 2016),具体的な教育プログラムについての検討もなされている(Mingtao et al., 2024).こうした特性から,道徳的勇気は看護者に対する倫理・道徳に関連した重要な介入要素の1つであると考えられている.
本研究では,これまで様々な研究で注目されてきた道徳的勇気を,倫理的行動に課題を抱える精神科看護者(看護師・准看護師)に対する介入要素として着目する.日本の精神科病院では歴史的に看護者による患者に対する虐待などの非倫理的な事件が発生している(冨田,2005).しかし,精神科病院における虐待的行為や非倫理的行動を防止するための根拠のある方策は確立されていない.その背景には社会・文化的な背景,個人要因,環境要因など,無数の要因が関連しており(藤野,1998;藤野,2003;今泉・香月,2020;今泉・香月,2023),問題の抜本的な解消は困難な状況である.そのため,精神科病院における非倫理的行動を予防するためには,「精神科看護の臨床場面には非倫理的行動の原因となる要素が無数に存在している」という前提条件の中で健全な倫理観を維持しながら看護を実践するための要素に着目する必要がある.倫理的行動が障害される可能性のある状況下において,自身の倫理観に基づいた行動を維持するための要素として,先述した道徳的勇気の7つの要素は一致し,精神科看護者の虐待や非倫理的行動防止への有効な介入要素となる可能性を秘めている.
日本では道徳的勇気を測定する尺度は開発されておらず客観的な評価指標が確立されていない.そこで,本研究では道徳的勇気を精神科病院で発生する非倫理的行動の予防に活用することを長期的なビジョンとし,NMCSを翻訳する形で精神科看護者の日本語版道徳的勇気測定尺度を作成し,信頼性・妥当性の検討を行った.
精神科看護者の日本語版道徳的勇気測定尺度(Japanese version of Nurses’ Moral Courage Scale for Psychiatric nurses: J-NMCSP)の作成における翻訳プロセスは,稲田(2015)の尺度翻訳に関する基本指針を参考に以下の手順で行った.なお,作成に対しては原版開発者の承諾を得ている.
1) 順翻訳原版であるNMCSの日本語翻訳を翻訳者A(研究者:精神看護学研究者)と翻訳者B(尺度の翻訳経験のある精神看護学研究者)の2名が別々に行い,比較・統合し順翻訳版を作成した.
2) 逆翻訳NMCSの内容を知らない逆翻訳者A(英語圏での職務経験を持つ研究者)と逆翻訳者B(職業翻訳家)の2名が別々に逆翻訳を行った.その後,逆翻訳者Aが比較・統合を行い,逆翻訳版を作成した.なお,逆翻訳者A,Bには翻訳作業が終了するまでNMCSの内容を伝えなかった.
3) 原版作成者による統合作成された逆翻訳版を原版作成者が確認し,原版と趣旨が異なる点についての指摘を行った.研究者は指摘があった部分の表現を修正し,修正した部分の逆翻訳を原版作成者が確認した.原版作成者からの指摘が無くなるまでこのプロセスを繰り返した.
4) プレテスト精神科での看護者として実務経験のある者22名に対しプレテストを行った.プレテストでは,質問に対する答えやすさや理解のしやすさを調査した.調査の結果,抽出されたわかりにくい部分や回答しにくい部分を原版の意図を損なわない形で修正し,修正した質問項目の逆翻訳を原版作成者が確認し,相違が無いことが確認できたものを精神科看護者の日本語版道徳的勇気測定尺度仮版(Provisional Japanese version of Nurses’ Moral Courage Scale for Psychiatric nurses: Prov. J-NMCSP)とした.
2. 本調査作成したProv. J-NMCSPを研究対象者に実施し,以下の手順で項目の検討,信頼性の確認,妥当性の検討を行った.
1) 調査対象1施設に平均50名の研究対象者が在籍していると想定し,施設の協力率5%,研究対象者の回答率25%を仮定し300名程度のサンプル数を目標に研究依頼を行った.
(1) 研究対象施設日本精神科病院協会に加盟している精神科病床を100床以上持つ病院から400施設をランダム抽出し研究対象施設とした.
(2) 研究対象者研究対象施設に勤務している看護者を研究対象者とし,適格基準として「現在,精神科病棟で勤務している看護者(看護師,准看護師)」,「精神科病棟における1年以上の勤務経験を有する者」を設定した.
2) 調査実施方法 (1) 実施期間令和6年5月12日から令和6年7月26日までの期間で調査を行った.
(2) 調査方法第一段階として,日本精神科病院協会に加盟している全国の精神科病院からランダムに400施設を抽出し,看護部責任者宛ての研究依頼書・研究許可書・返信用封筒・質問紙の内容サンプル・事前調査票・研究手順書を送付した.看護部責任者は研究への協力意志がある場合のみ,研究許可書・事前調査票に署名及び必要事項を記入し,返信用封筒にて研究者へ送付した.研究許可書にて研究協力の意志が確認できた施設を研究協力施設とした.
第二段階として,研究協力施設の看護部責任者に対し,事前調査票の内容を参考に対象者用研究依頼書を必要部数送付した.看護部責任者は各病棟の病棟長へ質問紙を配布し,その後,各病棟の病棟長から研究対象者の条件を満たす者へ質問紙及び研究依頼書を配布した.質問紙の回収は返信用封筒を用いた郵送法,及びMomentive Incの提供するアンケートサイト「Survey Monkey」を用いたWeb回答のいずれかを回答者が選択し行った.郵送法とWeb回答との重複回答を防ぐため,質問紙の表紙にいずれか1つの方法での回答を依頼する文章を明記し,Web回答の際には「紙媒体での回答をしていない」という項目へのチェックを必須とした.
3) 調査内容 (1) 基本属性基本属性として性別・年代・所属する病棟の機能・精神科経験年数・一般科経験年数を設定した.
(2) Prov. J-NMCSPProv. J-NMCSPはNMCSと同様に21項目で構成し,5件法(1点〈全くあてはまらない〉~5点〈非常にあてはまる〉)にて回答を求めた.原版であるNMCSは「Compassion and true presence」「Commitment to good care」「Moral integrity」「Moral responsibility」の4因子で構成される.尺度得点は合計及び各因子の平均値で算出し,得点範囲は1~5点であり,得点が高いほど道徳的勇気が高いと解釈する.
(3) 道徳的感受性質問紙日本語版2018基準関連妥当性を検証するうえでの外的基準として用いることを目的に道徳的感受性質問紙日本語版2018(The Japanese version of Moral Sensitivity Questionnaire 2018: J-MSQ2018)を設定した.J-MSQ2018はThe revised Moral Sensitivity Questionnaire (rMSQ)の日本語版であり(Lützén et al., 1994;Lützén et al., 2006),前田ら(2019)により作成され,信頼性・妥当性が確認されている.尺度作成における外的基準はその分野において使用された実績があり受け入れられている尺度であることが理想とされている(Streiner et al., 2015/2016).J-MSQ2018及びMST,rMSQは看護者の倫理・道徳に関連する国内外の様々な研究に用いられており,下位因子に道徳的勇気に近い概念を含んでいることからProv. J-NMCSPの妥当性を検証するための外的基準として適切であると考えた.
J-MSQ2018は道徳的強さ(Moral Strength: MS),道徳的気づき(Sense of Moral Burden: SMB),道徳的責任感(Moral Responsibility: MR)の3つの下位因子で構成される.質問項目は10項目からなり,「私は患者の思いをキャッチしてよく気づける方なので,それがいつも自分の仕事に役立っている」などの質問に対し6件法(1点〈全くそう思わない〉~6点〈強くそう思う〉)にて回答を求める.尺度得点は合計及び各因子の平均値で算出し,得点範囲は1~6点であり,得点が高いほど道徳的感受性が高いと解釈する.
3. 分析方法データの集計,統計分析にはIBM SPSS Statistics Version29及びIBM SPSS Amos Version29を使用し,有意水準は両側5%として検定を行った.
1) 項目分析各質問項目の度数を求め,回答の正規性,床効果・天井効果の有無を確認した.また,Item-Total Correlation Analysis(I-T相関分析)とGood-Poor Analysis(G-P分析)により識別力を検討した.G-P分析では各項目において高得点群(上位25%)と低得点群(下位25%)の平均点の差をt検定にて検討した.
2) 妥当性構成概念妥当性を探索的因子分析及び確認的因子分析により検討した.探索的因子分析は最尤法及びプロマックス回転を用いて行い,スクリープロットや固有値を鑑み因子構造モデルを仮定した.なお,各項目において因子負荷量が0.35以下,共通性が0.20以下となった項目は残余項目とした.その後,モデルの適合度の評価の為に確認的因子分析を行った.適合度の評価はGoodness of Fit Index(GFI),Adjusted Goodness of Fit Index(AGFI),Comparative Fit Index(CFI),Root Mean Square Error of Approximation(RMSEA),Akaike’s Information Criterion(AIC),Bayesian Information Criterion(BIC)およびChi-square value(χ2)を用い,モデルを比較する際はAIC,BICの低いものを採用することとした.(Schermelleh-Engel et al., 2003).また,併存的妥当性をJ-MSQ2018を外的基準とした相関係数により,弁別的妥当性,併存的妥当性をAverage Variance Extracted(AVE)を用い,それぞれ検討した.
3) 信頼性妥当性の確認できたモデルのCronbach’s α係数を算出し内的整合性を確認した.
4. 倫理的配慮本研究は名古屋市立大学大学院看護学研究科研究倫理委員会の認証を受け実施した(承認番号23047-2).また,研究実施施設に対して研究の概要,倫理的配慮を書面にて説明し,協力の得られた施設で調査を実施した.個々の研究対象者に対して研究の目的,意義,倫理的配慮を研究依頼書,質問紙の表紙に記載した.また,研究参加の意思は質問紙への回答をもって得られたものとし,その旨を質問紙の表紙に明記した.本研究で得られたデータを論文,学会発表などで二次利用する場合,研究協力施設及び研究協力者が特定されないよう配慮することを明記した.
分析対象となった看護者の基本属性を表1に示す.研究協力の得られた42施設に勤務する2,601名の看護者を対象に質問紙調査を行い,郵送法にて870名,Webにて194名の計1,064名から回答を得た(回収率:40.9%).その中から欠損の無い999名を分析対象とした(有効回答率:38.4%).研究協力施設の地域分布は北海道地方4施設,東北地方7施設,関東地方10施設,中部地方12施設,近畿地方2施設,中国地方6施設,四国地方1施設であり,精神科病床数は104床から580床であった.研究対象施設の基準を満たす全国の施設へ研究協力を依頼したが,九州・沖縄地方の施設からの協力は得られなかった.
| 性別 | 男性 | 281(28.1%) |
| 女性 | 718(71.9%) | |
| 年代 | 20~24歳 | 42(4.2%) |
| 25~29歳 | 89(8.9%) | |
| 30~34歳 | 77(7.7%) | |
| 35~39歳 | 94(9.4%) | |
| 40~44歳 | 115(11.5%) | |
| 45~49歳 | 158(15.8%) | |
| 50~54歳 | 127(12.7%) | |
| 55~59歳 | 125(12.5%) | |
| 60~64歳 | 99(9.9%) | |
| 65歳以上 | 73(7.3%) | |
| 病棟特性 | 閉鎖病棟 | 803(80.3%) |
| 開放病棟 | 196(19.6%) | |
| 病棟機能 | 急性期系病棟 | 211(21.1%) |
| 慢性期系病棟 | 572(57.2%) | |
| 身体合併症病棟 | 49(4.9%) | |
| 認知症・高齢者病棟 | 102(10.2%) | |
| 児童精神系病棟 | 17(1.7%) | |
| その他 | 48(4.8%) | |
| 精神科経験年数 | 1~5年 | 258(25.8%) |
| 6~10年 | 228(22.8%) | |
| 11~20年 | 247(24.7%) | |
| 21~30年 | 193(19.3%) | |
| 31年以上 | 73(7.3%) | |
| 一般科経験年数 | なし | 360(36.0%) |
| 1~5年 | 292(29.2%) | |
| 6~10年 | 118(11.8%) | |
| 11~20年 | 128(12.8%) | |
| 21~30年 | 65(6.5%) | |
| 31年以上 | 36(3.6%) |
Prov. J-NMCSPの平均値及び標準偏差 ± SD(standard deviation: ±SD)は3.40 ± 0.48であり,中央値は3.38,得点範囲は1.00~4.95,四分位範囲は0.62(3.09~3.71)であった.J-MSQ2018の平均値及び標準偏差 ± SDは3.92 ± 0.58であり中央値は3.90,得点範囲は1.00~4.60,四分位範囲は0.80(3.50~4.30)であった.
3. 項目分析Prov. J-NMCSPの度数分布・平均値・標準偏差・歪度・尖度・I-T相関・G-P分析の結果を表2に示す.回答度数は0.2~55.5%で分布しており,各質問項目において床効果・天井効果は認められなかった.I-T相関はr = 0.388~0.732であり,G-P分析では各項目において高得点群(上位25%)272名と低得点群(下位25%)276名の平均点の差をt検定にて検討し,すべての項目において有意差が認められた(p < .001).
| 原版の因子 | 項目 | 度数(%) | 平均値 | 標準偏差 | 歪度 | 尖度 | I-T相関 | G-P分析 | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 全くあてはまらない | あてはまらない | どちらともいえない | あてはまる | 非常にあてはまる | |||||||||
| iii | 1. | たとえ職場でひどい扱いを受けることになったとしても,専門職としての倫理原則を守る | 28(2.8%) | 58(5.8%) | 442(44.2%) | 373(37.3%) | 98(9.8%) | 3.46 | 0.85 | –.345 | .569 | .522 | <.001 |
| i | 2. | たとえ自分自身が内なる恐怖に直面することになったとしても,病気によって引き起こされる恐怖について患者と話し合う | 43(4.3%) | 115(11.5%) | 490(49.0%) | 316(31.6%) | 35(3.5%) | 3.19 | 0.84 | –.441 | .443 | .581 | <.001 |
| iv | 3. | 誰かから医療倫理の原則(人間の尊厳・自律性・正義・正当なケア)の遵守について妥協するよう強く提案された場合,患者が良いケアを受ける権利を持つことを理由に反論する | 29(2.9%) | 90(9.0%) | 523(52.3%) | 315(31.5%) | 42(4.2%) | 3.25 | 0.79 | –.321 | .731 | .622 | <.001 |
| iii | 4. | もし誰かが非倫理的な行動をとっていたら,たとえ職場で冷ややかな目で見られようともそれを指摘し話し合う | 30(3.0%) | 129(12.9%) | 476(47.6%) | 326(32.6%) | 38(3.8%) | 3.21 | 0.83 | –.328 | .260 | .698 | <.001 |
| ii | 5. | もし誰かの専門職者としての能力に明らかな欠点を発見した場合,それを指摘し話し合う | 40(4.0%) | 136(13.6%) | 476(47.6%) | 324(32.4%) | 23(2.3%) | 3.15 | 0.83 | –.473 | .246 | .595 | <.001 |
| iv | 6. | 何が正しい答えであるか不明確な場合でも,所属する職場の倫理的な意思決定に参加する | 17(1.7%) | 62(6.2%) | 424(42.4%) | 444(44.4%) | 52(5.2%) | 3.45 | 0.76 | –.489 | .745 | .524 | <.001 |
| iv | 7. | 自分が正しいと思う意見に他の誰かが反対しても,所属する職場の倫理的な意思決定に参加する | 12(1.2%) | 45(4.5%) | 432(43.2%) | 458(45.8%) | 52(5.2%) | 3.49 | 0.72 | –.407 | .809 | .542 | <.001 |
| ii | 8. | 適切なケアを確実に行うために必要な資源が不足している場合,それを指摘し話し合う(例:スタッフ不足 など) | 26(2.6%) | 76(7.6%) | 328(32.8%) | 487(48.7%) | 82(8.2%) | 3.52 | 0.85 | –.682 | .665 | .535 | <.001 |
| iii | 9. | 倫理的に問題のある状況について,たとえ他者が黙っていたとしても指摘する | 33(3.3%) | 134(13.4%) | 520(52.0%) | 280(28.0%) | 32(3.2%) | 3.14 | 0.81 | –.280 | .419 | .390 | <.001 |
| i | 10. | ケアの状況に関わらず,たとえ他者に反対されようとも,一人一人の患者に対して尊厳のある人間として接するように心がけている | 8(0.8%) | 37(3.7%) | 286(28.6%) | 546(54.6%) | 122(12.2%) | 3.74 | 0.75 | –.522 | .791 | .625 | <.001 |
| iii | 11. | もし他者が専門職者として非倫理的な行為をした場合,それを指摘する(例:病棟から薬を盗む など) | 13(1.3%) | 43(4.3%) | 279(27.9%) | 497(49.7%) | 167(16.7%) | 3.76 | 0.82 | –.556 | .608 | .628 | <.001 |
| iii | 12. | もし他者が自身の犯した明らかなミスを隠蔽しようとしていたら,それを指摘し話し合う | 13(1.3%) | 46(4.6%) | 380(38.0%) | 467(46.7%) | 93(9.3%) | 3.58 | 0.77 | –.390 | .626 | .639 | <.001 |
| iv | 13. | 看護ケアにおける倫理的に難しい問題についても自分の誠実な考えを述べる(例:患者の意思に反する治療の実施 など) | 12(1.2%) | 64(6.4%) | 499(49.9%) | 371(37.1%) | 53(5.3%) | 3.39 | 0.74 | –.147 | .557 | .671 | <.001 |
| ii | 14. | 患者の尊厳を守るためなら職場の風土や慣習に背く覚悟がある(例:ケアの為に,定められた時間を超過する など) | 31(3.1%) | 136(13.6%) | 546(54.6%) | 246(24.6%) | 40(4.0%) | 3.13 | 0.81 | –.133 | .535 | .672 | <.001 |
| i | 15. | 患者へ良いケアを提供するためなら,困難な状況を避けない | 18(1.8%) | 94(9.4%) | 555(55.5%) | 297(29.7%) | 35(3.5%) | 3.24 | 0.74 | –.157 | .724 | .662 | <.001 |
| ii | 16. | 他者が医療倫理の原則(人間の尊厳・自律性・正義・正当なケア)の遵守に妥協している場合,患者の権利を守るためにそれを指摘し話し合う | 11(1.1%) | 84(8.4%) | 526(52.6%) | 351(35.1%) | 27(2.7%) | 3.30 | 0.71 | –.224 | .486 | .732 | <.001 |
| i | 17. | たとえ自分の内面にある恐怖に直面させられたとしても,苦しんでいる患者に真摯に寄り添いサポートする | 16(1.6%) | 81(8.1%) | 476(47.6%) | 382(38.2%) | 44(4.4%) | 3.36 | 0.76 | –.315 | .515 | .662 | <.001 |
| ii | 18. | たとえ他者からひどい扱いを受けようとも,患者が良いケアを受ける権利について妥協しない | 37(3.7%) | 146(14.6%) | 521(52.1%) | 262(26.2%) | 33(3.3%) | 3.11 | 0.82 | –.246 | .370 | .662 | <.001 |
| iii | 19. | ケアにおける自分自身のミスを認める(例えば,配薬のミス) | 2(0.2%) | 5(0.5%) | 91(9.1%) | 555(55.5%) | 346(34.6%) | 4.24 | 0.65 | –.565 | .892 | .388 | <.001 |
| i | 20. | ケアの状況に関わらず,表面的な関係の方が楽な状況であったとしても,患者との真の人間的な出会いを求める | 35(3.5%) | 139(13.9%) | 495(49.5%) | 285(28.5%) | 45(4.5%) | 3.17 | 0.85 | –.224 | .267 | .578 | <.001 |
| iii | 21. | 他者から異なった行動を指示されても,専門職としての倫理原則に沿った行動をとる | 12(1.2%) | 40(0.4%) | 433(43.3%) | 458(45.8%) | 56(5.6%) | 3.51 | 0.72 | –.382 | .849 | .593 | <.001 |
Prov. J-NMCSP: Provisional Japanese version of Nurses’ Moral Courage Scale for Psychiatric nurses(精神科看護者の日本語版道徳的勇気測定尺度仮版)
i: Compassion and true presence, ii: Commitment to good care, iii: Moral integrity, iv: Moral responsibility
原版に準じた因子構造,及びProv. J-NMCSPに対する探索的因子分析により仮定された2つの因子構造に対し,確認的因子分析にて適合度を比較した.
まず,モデルAとして原版と同じ因子構造モデルを仮定し確認的因子分析を行った結果,適合度指標はGFI = .844,AGFI = .803,CFI = .816,RMSEA = .092,AIC = 1,833.00,BIC = 1,835.164でありχ2は1,737.000(p < .001)であった.Cronbachのα信頼係数は「Compassion and true presence」が0.767,「Moral responsibility」が0.694,「Moral integrity」が0.785,「Commitment to good care」が0.748であった.
次に,モデルBとして固有値に基づいた因子抽出により探索的因子分析を行った.モデルBでは4因子構造が仮定され,項目番号13がすべての因子に対して因子負荷量が0.35以下となったため残余項目となった.モデルBに対し確認的因子分析を行った結果,適合度指標はGFI = .903,AGFI = .876,CFI = .893,RMSEA = .072,AIC = 1,100.539,BIC = 1,102.517でありχ2は1,008.539(p < .001)であった.因子構造は第1因子9個項目,第2因子5項目,第3因子4項目,第4因子2項目となり原版の因子構造は維持されず,原版の因子は第1因子に「Compassion and true presence」5項目「Moral integrity」1項目「Commitment to good care」3項目,第2因子に「Moral integrity」1項目「Commitment to good care」2項目「Moral responsibility」1項目,第3因子に「Moral integrity」4項目,第4因子に「Moral responsibility」2項目がそれぞれ含まれた.
続いて,モデルCとして固有値及びスクリープロットの結果から2因子構造モデルを仮定し確認的因子分析を行った.適合度指標はGFI = .871,AGFI = .837,CFI = .843,RMSEA = .089,AIC = 1,435.220,BIC = 1,436.815でありχ2は1,357.220(p < .001)であった.モデルCでは項目番号19の共通性が .20以下となり,項目番号13がすべての因子に対して因子負荷量が0.35以下となったため,それぞれ残余項目とした.因子構造は第1因子が9項目,第2因子が10項目となり,原版の因子は第1因子に「Compassion and true presence」「Commitment to good care」「Moral integrity」が,第2因子に「Compassion and true presence」「Commitment to good care」「Moral integrity」「Moral responsibility」がそれぞれ含まれた.
以上の3モデルを,適合度指標をもとに比較し,AIC・BICが最も低値であったモデルBを採用し,J-NMCSPとした.J-NMCSPに対する探索的因子分析の結果を表3に,モデル適合度を図1に示す.J-NMCSPにおける因子名は原版と質問項目の内容を鑑み,第1因子を「信念の貫徹」第2因子を「良いケアの追求」第3因子を「道徳的な誠実さ」第4因子を「道徳的な責任感」と命名した.
| 因子負荷量 | 共通性 | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| I | II | III | IV | |||
| I.信念の貫徹 α = .861 | ||||||
| 18. | たとえ他者からひどい扱いを受けようとも,患者が良いケアを受ける権利について妥協しない | .847 | .030 | –.094 | –.083 | .608 |
| 17. | たとえ自分の内面にある恐怖に直面させられたとしても,苦しんでいる患者に真摯に寄り添いサポートする | .824 | –.112 | .016 | .002 | .584 |
| 15. | 患者へ良いケアを提供するためなら,困難な状況を避けない | .645 | .059 | .067 | –.063 | .493 |
| 20. | ケアの状況に関わらず,表面的な関係の方が楽な状況であったとしても,患者との真の人間的な出会いを求める | .582 | .005 | .060 | –.051 | .362 |
| 2. | たとえ自分自身が内なる恐怖に直面することになったとしても,病気によって引き起こされる恐怖について患者と話し合う | .541 | .040 | –.056 | .102 | .344 |
| 1. | たとえ職場でひどい扱いを受けることになったとしても,専門職としての倫理原則を守る | .489 | .035 | –.078 | .104 | .275 |
| 14. | 患者の尊厳を守るためなら職場の風土や慣習に背く覚悟がある(例:ケアの為に,定められた時間を超過する など) | .445 | .315 | .016 | –.065 | .460 |
| 16. | 他者が医療倫理の原則(人間の尊厳・自律性・正義・正当なケア)の遵守に妥協している場合,患者の権利を守るためにそれを指摘し話し合う | .380 | .298 | .188 | –.043 | .550 |
| 10. | ケアの状況に関わらず,たとえ他者に反対されようとも,一人一人の患者に対して尊厳のある人間として接するように心がけている | .378 | –.111 | .361 | .121 | .405 |
| II.良いケアの追求 α = .793 | ||||||
| 9. | 倫理的に問題のある状況について,たとえ他者が黙っていたとしても指摘する | .061 | .769 | –.048 | –.027 | .595 |
| 4. | もし誰かが非倫理的な行動をとっていたら,たとえ職場で冷ややかな目で見られようともそれを指摘し話し合う | .057 | .726 | –.048 | .050 | .567 |
| 5. | もし誰かの専門職者としての能力に明らかな欠点を発見した場合,それを指摘し話し合う | –.093 | .903 | –.018 | .103 | .461 |
| 8. | 適切なケアを確実に行うために必要な資源が不足している場合,それを指摘し話し合う(例:スタッフ不足 など) | .025 | .450 | .024 | .095 | .290 |
| 3. | 誰かから医療倫理の原則(人間の尊厳・自律性・正義・正当なケア)の遵守について妥協するよう強く提案された場合,患者が良いケアを受ける権利を持つことを理由に反論する | .322 | .388 | –.098 | .054 | .372 |
| III.道徳的な誠実さ α = .727 | ||||||
| 11. | もし他者が専門職者として非倫理的な行為をした場合,それを指摘する(例:病棟から薬を盗む など) | –.151 | .207 | .752 | –.023 | .656 |
| 12. | もし他者が自身の犯した明らかなミスを隠蔽しようとしていたら,それを指摘し話し合う | –.072 | .248 | .702 | –.112 | .649 |
| 19. | ケアにおける自分自身のミスを認める(例えば,配薬のミス) | .082 | –.255 | .533 | .127 | .241 |
| 21. | 他者から異なった行動を指示されても,専門職としての倫理原則に沿った行動をとる | .349 | –.086 | .352 | .078 | .355 |
| IV.道徳的な責任感 α = .753 | ||||||
| 7. | 自分が正しいと思う意見に他の誰かが反対しても,所属する職場の倫理的な意思決定に参加する | –.051 | .118 | .042 | .764 | .675 |
| 6. | 何が正しい答えであるか不明確な場合でも,所属する職場の倫理的な意思決定に参加する | .044 | .067 | .035 | .648 | .528 |
| 残余項目 | ||||||
| 13. | 看護ケアにおける倫理的に難しい問題についても自分の誠実な考えを述べる(例:患者の意思に反する治療の実施 など) | .243 | .250 | .234 | .038 | .431 |
| 因子相関行列 | 相関係数 | |||||
| II | .662 | |||||
| III | .595 | .694 | ||||
| IV | .429 | .468 | .347 | |||
最尤法・プロマックス回転
合計得点のα = .910
Prov. J-NMCSP: Provisional Japanese version of Nurses’ Moral Courage Scale for Psychiatric nurses(精神科看護者の日本語版道徳的勇気測定尺度仮版)

併存的妥当性の検証結果を表4に示す.外的基準とした設定したJ-MSQ2018の合計得点とJ-NMCSPの合計得点とのスピアマン順位相関係数は0.523(p < .01),下位因子ごとでは0.463~0.217(p < .01)であった.AVEは「信念の貫徹」が0.352,「良いケアの追求」が0.457,「道徳的な誠実さ」が0.366,「道徳的な責任感」が0.502であった.
| J-NMCSP | |||||
|---|---|---|---|---|---|
| 合計得点 | 信念の貫徹 | 良いケアの追求 | 道徳的な誠実さ | 道徳的な責任感 | |
| J-MSQ2018 合計得点 | .523** | .489** | .426** | .409** | .287** |
| 道徳的強さ | .487** | .463** | .406** | .369** | .255** |
| 道徳的気づき | .396** | .362** | .318** | .307** | .253** |
| 道徳的責任感 | .391** | .363** | .318** | .336** | .217** |
Spearmanの順位相関係数 ** p < .01
J-NMCSP: Japanese version of Nurses’ Moral Courage Scale for Psychiatric nurses(精神科看護者の日本語版道徳的勇気測定尺度)
J-MSQ2018: The Japanese version of Moral Sensitivity Questionnaire 2018(道徳的感受性質問紙日本語版2018)
モデルBのCronbachのα信頼係数は全体で0.910であり,「信念の貫徹」が0.861,「良いケアの追求」が0.793,「道徳的な誠実さ」が0.727,「道徳的な責任感」が0.753であった.
本研究における対象者は,男性が28.1%,年代は45~49歳が15.8%と最多であり,精神科経験年数は1~5年が最多であった.2017年看護職員の労働実態評価では,精神科看護者の男性比率は約3割とされており,本研究の結果とほぼ同様であった.年代,精神科経験年数の分布は精神科看護者を対象とした先行研究(松浦・鈴木,2017;児屋野・香月,2018)とほぼ同様の傾向を示した.研究協力施設の分布では,九州・沖縄地方の病院が含まれなかったことによる若干の偏りが見られ,地域性によるバイアスを受けている可能性が考えられた.
2. 項目分析I-T相関ではすべての項目で有意な相関が認められ,因子分析に投入する変数としての妥当性が認められた.G-P分析ではすべての項目で有意差が認められ,合計得点と各項目の得点に高い整合性が認められた.
3. J-NMCSPの妥当性・信頼性 1) 構成概念妥当性確認的因子分析にて示された適合度の指標ではモデルBにおいて最も高い因子妥当性を持つことが示された.適合度指標は,GFI = .903,AGFI = .876,CFI = .893,RMSEA = .072であり,GFI,AGFI,CFIは1に近いほど高い適合度を,RMSEAは0.1以上であると適合度が低いと解釈されることから(小塩,2014),良好なモデル適合度であった.
2) 併存的妥当性,収束的妥当性,弁別的妥当性J-NMCSPとJ-MSQ2018の合計得点同士の相関係数は0.523(p < .01)であり,基準関連妥当性の基準範囲内(0.4~0.8)であることから(Streiner et al., 2015/2016)併存的妥当性が支持され,一定の実用的有効性を有することが示唆された.下位因子では第4因子の相関係数が相対的に低値であり,因子を構成する項目の少なさが影響している可能性が考えられた.
一部の下位因子ではAVEが .50を下回り,因子間相関がAVEの平方根よりも低い水準であったことから,収束的妥当性および弁別的妥当性については十分な支持が得られなかった.その要因として,尺度の翻訳プロセスにおいて質問項目の意味合いが変わってしまっていた可能性が考えられる.倫理(ethical)や道徳(moral)は英語・日本語の双方で抽象度の高い用語であり,英語圏と日本語における倫理(ethical)と道徳(moral)の解釈の違いが尺度の妥当性へ影響を及ぼした可能性がある.また,質問項目の中には日本語として抽象的な表現が含まれており,回答者の解釈によって想起する出来事や場面が異なっていた可能性も考えられる.さらに,原版とは異なる精神科看護者という特定の集団を対象とした点も関連している可能性がある.精神科看護者は一般科看護者と比較して,看護実践における専門性を具体的に認識し,言語化することが困難であることが指摘されている(畦地ら,1997;眞野ら,2013).原版であるNMCSは一般科の看護者を対象として作成されているため,このような専門性の不明確さという精神科看護者の特性が回答へ影響を及ぼし,結果として尺度の妥当性の低下に影響した可能性も考えられる.
3) 信頼性探索的因子分析の結果抽出された20項目にて算出した合計得点のCronbachのα信頼係数は0.910,各因子においても0.727~0.861と,わが国においても原版と同じく高い内的整合性を持つことが確認された.
4. 尺度の構成について原版の因子である「Compassion and true presence」が第1因子に,「Moral responsibility」が第4因子に,「Moral integrity」が第3因子に,それぞれ一定のまとまりをもって抽出されたが,「Commitment to good care」にあたる項目は第1因子と第2因子に分かれて抽出されており,「Commitment to good care」にあたる項目のまとまりの低さがモデルAとモデルBの適合性の差に表れたのではないかと考える.原版の「Commitment to good care」に該当し第1因子として抽出された項目番号14.16.18は,自身が不利益を被るリスクがあるにもかかわらず信念に基づいた行動をとる内容となっているのに対し,第2因子として抽出された項目番号5.8は,他者や労働環境に対する指摘を行う内容となっており,行動に伴って自身が被るリスクに差が見られることが1つの因子として抽出されにくい要因となっている可能性が考えられた.
第1因子は,自身が不利益を被るリスクを承知しながらも看護者として正しいと感じている信念を貫くような項目であり,そうした特徴から「信念の貫徹」と命名した.先行研究では道徳的勇気の要素として「自己や他者に対するリスクを負いながらも倫理的・道徳的に正しい患者ケアを行う勇気」が挙げられており(Hawkins & Morse, 2014),第1因子として抽出された項目の内容から,道徳的勇気の因子として妥当であると考えられる.
第2因子は,対象者の利益を最優先に考え,良いケアを提供するために妥協せず行動するような項目が抽出されたため,「良いケアの追求」と命名した.Lindwall et al.(2012)は,看護者が自身の看護実践において患者の尊厳を守ることができていると認識するためには,自身の倫理的な信念に基づいた行動をとっている必要があると述べている.第2因子ではそうした患者の尊厳を守るために自身の倫理的な信念に基づいた行動をとるといった項目が道徳的勇気の1つの側面として抽出されたのではないかと考える.
第3因子は原版の「Moral integrity」にあたる項目で構成されていたため「道徳的な誠実さ」,第4因子は「Moral responsibility」にあたる項目で構成されていたため「道徳的な責任感」と,それぞれ命名した.
原版の4因子構造と比較すると,本研究では一部の下位因子が再構成され,特に「信念の貫徹」に該当する項目が最も多く集約される結果となった.この背景には,日本における文化的特性が影響している可能性がある.日本文化は集団調和や対人関係の円滑さを重視する傾向があり(Konishi et al., 2009),その中であえて自らの信念を貫く行動は特別な意味を持ちやすいと考えられる.こうした原版とは異なる対象者の特徴が「信念の貫徹」という構成概念をより強く意識させる契機となり,原版では複数の因子に分かれていた信念・価値観に関する項目が「信念の貫徹」という一つの因子として強くまとまった可能性が考えられる.
5. わが国の精神科看護におけるJ-NMCSPの活用道徳的勇気に基づいた行動は周囲に波及し,倫理的な職場文化の醸成に寄与する事が示されている(Gallagher, 2011).精神科看護者は自身の倫理観に沿わない同僚の行動や言動から倫理的ジレンマを体験する頻度が高いとの指摘があり(近藤・井上,2018),本研究で作成したJ-NMCSPの各因子は,そうした倫理的ジレンマを黙認しない姿勢を強化し,組織の倫理的な風土を向上させる効果が期待できるのではないかと考える.また,先行研究にて示されている道徳的勇気を向上させる取り組みを日本において活用する際のアウトカムとしてJ-NMCSPは活用でき,精神科病院における非倫理的行動を予防するための施策の一助となると考える.
6. 研究の限界と今後の課題本研究において作成したJ-NMCSPは精神科以外の看護者への適応が確認できていない点,原版とは異なる因子構造であり国際比較をする際には注意が必要な点,原版作成時とは異なる特性を持つ対象を用いて翻訳版を作成している点,探索的因子分析と確認的因子分析を同一のサンプルにて行っているため妥当性を過大に評価している可能性がある点には注意が必要である.また,十分な収束的妥当性および弁別的妥当性が支持されなかったため,項目構成や因子構造の再検討が今後の課題である.各下位因子における概念の明確化や項目の精選によりさらなる妥当性の向上が必要である.
今後は文化的背景や言語的表現方法を鑑み,J-NMCSPの修正も含め,日本の精神科看護者の倫理的行動に関する研究を進めていく必要がある.
本研究において作成したJ-NMCSPは精神科看護者を対象とした調査により構成概念妥当性・併存的妥当性・内的整合性が確認され,探索的な研究や実践的活用において一定の有用性が示された.一方で,収束的妥当性および弁別的妥当性には課題が残り,今後さらなる検証と改良が必要である.
謝辞:研究にご協力いただいた研究協力施設,並びに研究協力者の皆様に深く感謝申し上げます.なお,本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業(基盤研究C,課題番号:23K09555)の助成を受けて実施しました.
付記:本研究は名古屋市立大学大学院看護学研究科に博士論文として提出した内容の一部に加筆修正を加えたものである.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:GIは研究の着想から原稿作成までの全プロセスを遂行した.FKは研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者が最終原稿を確認し承認した.