日本看護科学会誌
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原著
訪問看護師の就業継続につながる管理者のリーダーシップ行動の探究
上元 達仁飯田 貴映子池崎 澄江
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2025 年 45 巻 p. 692-702

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Abstract

目的:訪問看護師の就業継続につながる管理者のリーダーシップ行動を明らかにすること.

方法:訪問看護に従事する管理者10名,看護師10名の計20名に,半構造化面接を実施した.得られたデータは,Steps for Coding and Theorizationを用いて質的帰納的に分析した.

結果:全事例から管理者のリーダーシップ行動を示す353のセグメントが抽出され,【心理的安全性】,【人を動かす力】,【感情的知性】,【高度な実践力】,【率先垂範】の5カテゴリーと39サブカテゴリーが抽出された.

結論:本研究で明らかになった訪問看護師の就業継続につながる管理者のリーダーシップ行動は,単一のスタイルにとどまらず,訪問看護の文脈に応じた多次元的かつ実践的な行動の集合体であった.これらの行動は,従来の病院組織におけるリーダーシップ理論では捉えきれなかった要素を包含しており,今後の理論的発展および実践的応用の基盤として意義がある.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to explore the leadership behaviors of visiting nurse managers that contribute to job retention among visiting nurses.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with 20 participants, including 10 visiting nurse managers and 10 visiting nurses. The data were analyzed qualitatively and inductively using the Steps for Coding and Theorization (SCAT) method.

Results: A total of 353 segments related to managers’ leadership behaviors were extracted for all cases. These segments were categorized into five overarching themes: psychological safety, ability to inspire others, emotional intelligence, advanced practical competence, and leading by example. Additionally, 39 subcategories of leadership behavior were identified.

Conclusion: The leadership behaviors identified in this study were not limited to a single style. Still, they represented a multidimensional and practical set of actions tailored to the context of home-visit nursing. These behaviors included elements that conventional leadership theories in hospital-based settings have not fully captured and may serve as a foundation for future theoretical development and practical application.

Ⅰ. 緒言

本邦は他の先進国と比較して急速に超高齢社会へと移行しており,2042年に高齢者人口が約4,000万人に達し,総人口の約35%,すなわち2.8人に1人が高齢者になると予測されている(厚生労働省,2022a).こうした人口構造の変化に伴い,医療制度の改正や入院期間の短縮が進み,療養の場は病院から地域へと移行が進んでいる.2021年時点で要介護・要支援認定者数は約666万人(厚生労働省,2021),在宅で過ごす障がい者が約900万人と報告されており(内閣府,2021),人々が住み慣れた地域で安心して療養生活を送れるよう支援する訪問看護師の役割や社会的ニーズは,今後ますます重要になると考えられる.

一方で,訪問看護師の就業者数は十分に増加しておらず,最新の統計でも,訪問看護ステーションの人材不足が継続的な課題として指摘されている(厚生労働省,2022b).その要因の一つに離職率が高いことが考えられ,2011年の全国調査で訪問看護師の離職率は15.0%で,同年の病院勤務の看護師の離職率の12.6%よりも高い割合であった(日本看護協会,2011).また,2023年の大阪府の調査では,訪問看護師の離職率は21.5%と高い割合であった(大阪府訪問看護ステーション協会,2024).訪問看護師が職場に定着しないことにより,利用者との継続的な関係性の構築が困難となり,担当看護師の変更や引き継ぎに伴う業務負担の増加,さらには組織としての成熟や経験の蓄積が妨げられる可能性がある.これらの要因は,結果として訪問看護の質の低下を招くことが懸念される.

国際看護師協会(ICN)はリーダーシップの重要性を掲げており(ICN, 2020),先行研究では,看護管理者のリーダーシップは,支援的な関係性を構築することで,看護師の職務満足度を高め,離職意向を低下させることが示されている(Wei et al., 2018).特に,トランスフォーメショナル・リーダーシップ(変革型リーダーシップ)は,看護師のモチベーションや自律性を高め,就業継続意向に肯定的な影響を及ぼすとされている(Cummings et al., 2018).さらにはリーダーシップが職場環境や職務満足度,看護の質を高め,結果として患者のQOLにも良い影響を及ぼすことが示唆されている(Zaghini et al., 2020).このように,リーダーシップはスタッフの定着と看護の質の双方に関わる重要な要素である.

これまでに報告されている看護師のリーダーシップに関する研究の多くは,病院勤務の看護師を対象としたものであり,訪問看護師を対象とした研究は限定的である.特に国内においては,訪問看護領域におけるリーダーシップの研究は報告されておらず,国外においても数件の質的研究が報告されているにとどまっている.たとえば,Wallin et al.(2022)はスウェーデンの訪問看護におけるリーダーシップを質的に検討し,スタッフに対して支援的な姿勢を持ち,対話を重視するリーダーの存在が,看護師の仕事への意欲を高める要因となることを明らかにしている.この知見は,病院における変革型リーダーシップのような包括的理論とは異なり,より実践的で関係性を重視したリーダーシップの重要性を示唆している.一方,訪問看護における管理者は,直接的なケア提供者としての役割に加えて,地域資源や患者・家族との連携,スタッフへの心理的支援など,多面的な機能を担っており,これは組織管理や業務調整を担う病院の看護管理者とは本質的に異なる点がある.例えば,看護提供の場が地域であること,組織規模が小さくスタッフと同様にケア実践への参加が多いこと,さらに経営責任がより求められるといった点で,役割構造に明確な違いがある.また,リーダーシップのあり方は,社会的規範(例:日本の上下関係),文化的背景(例:集団調和を重んじる価値観),状況的要因(例:患者宅で単独でケアを行う訪問看護の実態),フォロワーとの関係性(例:小規模組織における密接な人間関係)など,文脈的要因にも大きく左右されることが指摘されている(Campion & Wang, 2019ロビンス,2009).したがって,訪問看護に特有の実践的文脈に即したリーダーシップの探究が必要である.

そこで本研究では,訪問看護管理者が行っている多様なリーダーシップの中でも,特に看護師の就業継続につながる関わりに着目し,それらの具体的な行動をインタビュー調査により探索的に明らかにすることを目的とした.本研究の成果により,訪問看護分野において看護師が働き続けたいと感じられるような管理者のリーダーシップが可視化され,実践現場における管理者育成の指針となることが期待される.また,訪問看護におけるリーダーシップに関する研究に新たな知見を提供し,訪問看護師の人材定着に寄与することで,慢性的な人材不足の解消,訪問看護の質の向上,利用者のQOLの維持・向上,さらには地域包括ケアシステムの持続的発展に貢献する意義があると考える.

Ⅱ. 用語の定義

1. 訪問看護管理者

本研究では,介護保険法の指定居宅サービス等の事業の人員,設備及び運営に関する基準の第六十一条にある「専従かつ常勤の保健師又は看護師であって,適切な指定訪問看護を行うために必要な知識及び技能を有する者」(厚生労働省,1999)を参考に,「組織で管理者登録されている看護師」とする.所長や組織の代表など兼任状況は問わないものとする.

2. リーダーシップ

本研究では,「個人が個人の集団に影響を与え,共通の目標を達成させるプロセス」(Northouse, 2004)を参考に,本研究でのリーダーシップの定義を「組織のあらゆる目標を達成するために,個人や組織の力を最大化して,成功に向かわせること」とする.また,リーダーシップ行動とは,管理者が日常的にスタッフに対して意図的または無意識に行っている関わりや働きかけを指す.これは,抽象的な概念としての「リーダーシップ」ではなく,観察・記述可能な具体的な言動に焦点を当てたものである.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究対象者

対象者の選定においては,全国の訪問看護ステーションおよび訪問看護部門を有する病院・施設を対象とした.木下(2003)の「質的研究のベース・データの目安として10例から20例程度が適切である」との知見を参考にするとともに,質的研究におけるサンプルサイズの判断指標として提唱されている「Information power(情報力)」の概念(Malterud et al., 2016)も考慮した.本研究では,明確な研究目的,対象とする集団の特異性,質の高いデータ収集,および詳細な分析戦略といった要素を踏まえ,対象者数として20名が妥当であると判断した.具体的には,1施設あたり管理者と看護師スタッフ各1名を上限とし,管理者10名と看護師スタッフ10名の合計20名を対象とした.先行研究では,看護師長の自己評価が高い項目でも,看護スタッフからの評価が低い場合があるといった管理者とスタッフで認識にズレが生じることが報告されている(手塚・佐藤,2007).こうした背景を踏まえ,本研究では,管理者と看護師スタッフという,異なる立場からの語りを統合することで,就業継続につながるリーダーシップ行動をより多角的・包括的に収集することを目的として,管理者と看護師スタッフの双方を対象とした.

管理者の対象者は,訪問看護ステーションにおいて管理職経験が3年以上ある者とした.これは,訪問看護においては離職や人事異動により管理者の交代が比較的頻繁である中,3年以上にわたり継続して管理職を担っていること自体が,一定の組織運営能力およびスタッフとの関係構築力を有していると判断できるためである.また,日本看護協会(2018)の認定看護管理者認定審査における受験資格要件を参考とし,一定の実務経験に基づく基準として3年以上の管理者経験を有する者を対象とすることで,豊富な実践経験を背景に,訪問看護師の就業継続につながるリーダーシップ行動について具体的に語ることが可能であると考えた.一方,スタッフの対象者は,訪問看護ステーションにおいて1年以上勤務している看護師とした.これは,管理者によるリーダーシップ行動を経験し語るためには,一定の勤務期間が必要であると考えたためである.訪問看護師は平均年齢が40歳以上で,病院勤務経験を経て転職または異動者が多い特徴がある(東京都訪問看護ステーション協会,2022).よって,1年以上の勤務経験のある訪問看護師は,管理者との関係性が構築されており,具体的かつ実践的な語りを引き出せると判断した.なお,いずれの対象群にも,その他の除外基準を設けなかった.

2. データ収集方法

1) データ収集開始までの手続き

本研究では,訪問看護管理者およびスタッフという専門的かつ限定的な職種集団を対象とするため,機縁法を用いて参加者をリクルートした.看護教育・管理に携わる研究協力者等を通じて,研究の目的や内容を説明した上で紹介を依頼し,紹介された対象者に対して参加の同意を得た後,さらに次の対象者の紹介を受けた.研究協力への同意が得られた関東,関西,沖縄にある訪問看護ステーションにて実施した.各施設の管理者に研究対象者の条件を提示し,該当者の推薦および研究説明書の配布を依頼した.研究協力への意思表明が得られた者に対して,研究の趣旨および研究参加に関する説明を文書および口頭で行い,同意を得たうえでインタビューを実施した.

2) データ収集期間

2023年8月1日~2023年9月30日

3) インタビューの実施方法

研究協力への同意が得られた後,面接日程を調整し,対象者の希望に応じて対面もしくはオンラインのいずれかの方法で,個別に半構造化面接(1回あたり約40~60分)を実施した.インタビューは,事前に作成したインタビューガイドに基づき実施した.同意取得に際しては,対面の場合は当日その場で同意書に署名を得た.オンラインで実施する場合は,事前に対象者へ同意書を郵送し,署名後に返送してもらうことで同意を確認した.オンラインの場合は,Zoom Video CommunicationsのWEB会議システムのZoomを使用した.インタビューガイドでは,管理者に対しては「あなたが管理者またはスタッフであった時の経験や考えから,組織で働き続ける上で効果的と考える管理者のリーダーシップ行動について」,スタッフに対しては「あなたの経験や考えから,組織で働き続ける上で効果的と考える管理者のリーダーシップ行動について」について尋ねるように設計した.

3. 分析方法

インタビュー内容は,メモにとるとともに,了解を得てICレコーダーに録音し,インタビュー終了後に,録音内容の逐語録を作成し,テキストデータ化した.分析は,Steps for Coding and Theorization(以下,SCATと略す)を用いて行った.SCATはデータから理論記述を立ち上げる帰納的手法であり,〈1〉テクスト中の注目すべき語句,〈2〉テクスト中の語句の言い換え,〈3〉それを説明するようなテクスト外の概念,〈4〉そこから浮かび上がる構成概念の順にコードを付す4ステップのコーディングと,それらの構成概念を用いてストーリーラインおよび理論記述を生成する手続きから成立している(大谷,2019).また,4ステップのコーディング後,セグメントを「短冊状」に切り離し,同じ話題で語られていた内容ごとにグループを作成する(大谷,2019).この際に,看護管理者の能力特性に関する実証的研究でも活用されているスペンサー・スペンサー(2011)のコンピテンシーディクショナリーを参考とし,内容の傾向ごとに6つのグループに整理した.これは,データの意味内容を損なわない範囲で類似するコードをまとめ,解釈を整理しやすくすることを目的とした補助的な枠組みとして用いたものである.具体的には,個人の効果性,管理領域,達成・行動,知的領域,インパクト・対人影響力,援助・対人支援の6つのグループを作成し,セグメントを整理した.その後,グループごとにストーリー・ラインと理論記述を作成し,そこからサブカテゴリーおよびカテゴリーを抽出した(大谷,2019).この枠組みは,抽出された多様なリーダーシップ行動の意味内容を保持しながら整理・統合を可能にし,分析結果の可読性の向上に寄与した.なお,このような理論枠組みの後付けによる補助的活用は,SCAT分析を用いた他の質的研究においても報告されており(大谷,2019松田ら,2022),本研究の分析手法も質的研究として妥当なアプローチであると判断した.

なお,リーダーシップ行動の内容に関する妥当性を確保し,対象者が自身の経験を具体的に語りやすくなるよう配慮するため,インタビューの冒頭において,先行研究に基づくリーダーシップ理論から導かれた看護師の行動例を簡潔に提示した.この提示は,対象者がリーダーシップ行動をより具体的にイメージし,関連するエピソードを想起しやすくするための補助的手段として用いたものである.また,誘導的な影響を最小限に抑え,語りの自由度を確保するよう十分に配慮した.本研究では,分析結果の妥当性を確保のため複数の方法で検証を行った.メンバーチェッキングとして,分析内容を対象者に提示し,解釈が本人の語りと大きく乖離していないか確認した.ピア・デブリーフィングでは,質的研究に知見のある第三者研究者と分析過程や解釈内容について意見交換し,主観的偏りを排除するよう配慮した.さらに,SCATの分析過程において,質的帰納的研究方法に精通した研究者からスーパーバイズを受け,データ解釈や抽象化の妥当性を確保した.

4. 倫理的配慮

本研究への参加は自由意思によるものであり,研究途中であっても何ら不利益を被ることなく同意の拒否または撤回ができること,個人情報およびプライバシーが厳重に保護されること,収集した情報は匿名化したうえで学術論文等に公表される可能性があることについて,文書および口頭で十分に説明を行い,理解・納得のうえで研究協力に同意した者に対して調査を実施した.研究協力の同意は,説明文書を確認の上,同意書に署名をもって得たものとした.インタビューは,所要時間を事前に説明し,研究参加者の希望する日程および場所で実施した.なお,本研究は千葉大学大学院看護学研究科倫理審査委員会の承認(承認番号:NR5-19)を得て実施した.

Ⅳ. 結果

1. 対象者概要

対象者は管理者10名,スタッフ10名であった.対象者の概要を表1に示した.性別は女性14名(70%),男性6名(30%)であった.訪問看護師としての平均経験年数は,管理者12.3年(標準偏差±7.35年),スタッフ5.0年(標準偏差±1.63年),管理者としての平均経験年数は7.9年(標準偏差±3.31年)であった.

表1 対象者の概要

職位 参加者 性別 年代 勤務地 勤務組織の
設置主体
最終学歴 看護師
経験年数
訪問看護師経験年数 訪問看護管理者経験年数 看護師以外に取得している資格
管理者 1 男性 30代 東京23区 社労士法人 専門学校 14年 5年 4年 BLS,ACLS,メディカルクラーク,
3学会合同呼吸療法認定士
2 女性 60代 東京23区 営利法人 専門学校 26年 14年 11年 ケアマネジャー
3 女性 50代 千葉県 営利法人 大学 35年 18年 6年 認定看護師
4 女性 50代 千葉県 医療法人 専門学校 38年 30年 13年 ケアマネジャー,在宅褥瘡管理者,
住環境コーディネーター
5 女性 30代 東京23区 営利法人 大学 14年 8年 6年 保健師,認定看護管理者ファースト研修中
6 男性 30代 東京23区外 営利法人 大学 15年 12年 10年 認定看護師
7 女性 40代 東京23区 営利法人 専門学校 24年 13年 12年 なし
8 男性 40代 沖縄県 営利法人 専門学校 18年 8年 4年 特定行為,認定看護管理者ファースト研修中
9 女性 50代 東京23区 営利法人 専門学校 21年 8年 7年 なし
10 女性 40代 東京23区 営利法人 大学 22年 7年 6年 認定看護師,保健師
スタッフ 1 男性 30代 東京23区 社労士法人 大学 9年 4年 保健師
2 女性 20代 岐阜県 医療法人 大学 6年 6年 なし
3 女性 20代 東京23区 営利法人 専門学校 5年 2年 なし
4 男性 20代 東京23区 営利法人 大学 5年 5年 なし
5 女性 40代 愛知県 医療法人 専門学校 19年 7年 3学会合同呼吸療法認定士
6 男性 20代 神奈川県 一般社団法人 大学 6年 5年 保健師
7 女性 40代 千葉県 営利法人 専門学校 8年 3年 なし
8 女性 30代 沖縄県 医療法人 大学 11年 7年 保健師
9 女性 30代 愛知県 医療法人 専門学校 16年 6年 介護福祉士
10 女性 40代 東京23区 営利法人 大学 21年 5年 保健師

2. SCATを用いたストーリー・ラインから理論記述までの分析

対象者ごとに逐語録を作成し,それぞれに対してSCAT分析を実施した.SCATの〈4〉のステップにおいて抽出された合計353のセグメントは,内容の類似性に基づき,6つのグループに分類・整理した.その後,各グループごとにストーリー・ラインを構築し,それに基づいて理論記述を生成した(表23).理論記述を“ ”,で説明する.

表2 SCATを用いたストーリー・ラインから理論記述までの分析(第4グループの例)

発話者 NO テクスト 〈1〉テクスト中の
注目すべき語句
〈2〉テクスト中の
語句の言い換え
〈3〉それを説明するような
テクスト外の概念
〈4〉そこから浮かび上がる
構成概念
管理者 NO10 それは可能なのであれば,それは技術が高い方がいいに決まってるし,全て知ってた方がいいに決まってる.それは一番いいに越したことない. 技術が高い方がいい/全て知ってた方がいい 看護技術・実践力の高さ/専門知識の豊富さ 高度実践者 優れた実践力と専門知識
スタッフ NO9 今のステーションの管理者は,がん性疼痛の認定の看護師を持っている管理者なので,そういう専門分野に関しての知識はいろいろと提供してくださるので,自分としては役立ち,得られるものが多いなというところもありつつ,そういう他の知識の部分に関しては,逆にこういうことを勉強したらっていうふうに具体的内容を教えてくれるというよりも,あなたはこういう勉強した方がいいよというところまで提示をして,自分自身でこうネットだったり本だったりとかで文献を探しながら知識を得ていくっていう形,今はそういうふうなことが多いかなと思う. がん性疼痛の認定の看護師を持っている管理者/専門分野に関しての知識はいろいろと提供/あなたはこういう勉強した方がいいよというところまで提示 専門知識の自己研鑽/知識共有と学習促進/自律的学習の奨励 継続した専門知識の研鑽/学習意欲の刺激/自主性のサポート 専門知識を持つことで,職場内での学習意欲と専門性の向上を促進
ストーリー・
ライン
管理者は,在宅という限られたリソース下でも高度な専門知識と実践能力で,質の高いケアの実践している.また,専門職者としての継続的な学びと自己啓発の取り組みにも力を入れている.このように,管理者は高度な実践者としての姿をスタッフに見せがら組織を率いている.
理論記述 ・高度な専門知識と実践能力で,質の高いケアの実践
・専門職者としての継続的な学びと自己啓発の取り組み

注)下線部は,SCAT分析のステップ〈4〉で抽出された内容と,それに基づいて構築されたストーリー・ラインの該当箇所を示している

表3 SCATを用いたストーリー・ラインから理論記述までの分析(第5グループの例)

発話者 NO テクスト 〈1〉テクスト中の
注目すべき語句
〈2〉テクスト中の
語句の言い換え
〈3〉それを説明するような
テクスト外の概念
〈4〉そこから浮かび上がる
構成概念
管理者 NO2 いろんな部門といろんなところと顔を合わせているとそれだけ覚えてもらえるんですよね.自分を覚えてもらう.それでいうと,横のつながりができて,あとは管理者同士のつながりとか,あとヘルパーさんと関わり合ったりとか.そうするとやっぱり顔とか名前を覚えてもらうっていうのが大きいかなと思います. いろんな部門といろんなところと顔を合わせている/横のつながり/顔とか名前を覚えてもらう 様々な部門や場所で交流/他者の関係者・同業者らとつながり/関係者にアピール・認知してもらう 地域の顔として,関係各所へのネットワーク構築・関係性作り 組織内外で包括的で強固なネットワークを構築している
スタッフ NO7 地域の市役所とかの会議とか,そういったところに今のうちの管理者がリーダーになっているので,地域でそういうところに顔が知れてるっていうところと,そこでしっかりリーダーシップが発揮できてってところはすごい尊敬できる. 地域の市役所とかの会議/うちの管理者がリーダーになっている/地域でそういうところに顔が知れてる/そこでしっかりリーダーシップが発揮 地域住民への認知/他の職種・関係者との間でリーダーシップの発揮 関係者以外の地域住民らとの交流・活動/組織にとどまらないリーダーシップの発揮 地域で顔が知られている存在となり,地域貢献に積極的に関わっている
ストーリー・
ライン
管理者は,同業者間での関係構築を積極的に行うことで,多様なリソースを活用して,組織の内外にわたるネットワークを築いている.また,地域内での他職種との広範なネットワークを築いていることで地域の頼れる顔になり,周辺コミュニティとの信頼を得ている.
理論記述 ・地域内での他職種との広範なネットワークを築いている  ・多様なリソースを活用して,組織の内外にわたるネットワークを築いている

注)下線部は,SCAT分析のステップ〈4〉で抽出された内容と,それに基づいて構築されたストーリー・ラインの該当箇所を示している

第1グループには,個人の効果性に関する内容で,85のセグメントからストーリー・ラインを構築し,7の理論記述が抽出された.例として“感情的な発言や指導はしないよう感情の自己コントロール”などが挙げられる.第2グループには,管理領域に関する内容で,137のセグメントからストーリーラインを構築し,16の理論記述が抽出された.例として“積極的なコミュニケーション”などが挙げられる.第3グループには,達成・行動に関する内容で,40のセグメントからストーリー・ラインを構築し,7の理論記述が抽出された.例として“スタッフが自らの判断や行動に自信を持てるよう後方でサポートする立場を取る”,などが挙げられる.第4グループには,知的領域に関する内容で,13のセグメントからストーリー・ラインを構築し,2の理論記述が抽出された.例として“専門職者としての継続的な学びと自己啓発の取り組み”が挙げられる.第5グループには,インパクト・対人影響力に関する内容で,9のセグメントからストーリー・ラインを構築し,2の理論記述が抽出された.例として“地域内での他職種との広範なネットワークを築いている”が挙げられる.第6グループには,援助・対人支援に関する内容で,69のセグメントからストーリー・ラインを構築し,5の理論記述が抽出された.例として“個々のスタッフのニーズと特性を理解し,それに合わせたアプローチ”などが挙げられる.

3. 訪問看護師の就業継続につながる管理者のリーダーシップ行動のカテゴリー化

抽出された39の理論記述からカテゴリーを生成した結果,39サブカテゴリー,5カテゴリーが抽出された(表4).カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〈 〉,理論記述を“ ”,で説明する.各カテゴリーは,複数のサブカテゴリーを内包する上位概念として命名されたものであり,訪問看護管理者のリーダーシップ行動の特徴を体系的に示すものである.

表4 訪問看護師の就業継続につながる管理者のリーダーシップ行動

理論記述 サブカテゴリー カテゴリー
いつでも相談や話し合いができる環境や姿勢 オープンなコミュニケーション 心理的安全性
自らの弱点を認め開示 失敗への寛容さ
スタッフ一人ひとりの経験や人生観に理解と興味を示す 全人的なサポートと理解
実践の振り返りと記録に基づく評価を通じて,肯定的なフィードバック フィードバック
スタッフの現場の判断を尊重するなど,信頼を伝える 信頼
スタッフに対して平等かつ公平な対応 公正性
柔軟な思考を持ち,チームや状況に応じて臨機応変に行動 柔軟性*
新たな挑戦を恐れずに取り組めるよう支援 挑戦*
異なる考えを尊重し,受け入れようとする姿勢 承認
自主的に考えて行動できるような関わり 育成力 人を動かす力
困難な案件への対応や問題解決には,一緒に取り組む姿勢を持つ 共同*
スタッフに責任を持たせ,業務のタスクを委譲する 権限委譲
業務の最終的な責任を持ち,個人の失敗を責めずにスタッフを守る 責任感*
感謝と賞賛によるポジティブなコミュニケーション エンパワメント
状況によって建設的かつ厳格な指摘 条件付き報酬
地域内での他職種との広範なネットワークを築いている 地域貢献力*
多様なリソースを活用して,組織の内外にわたるネットワークを築いている ネットワーク構築力*
相手の話しや意見を丁寧に聞く 傾聴 感情的知性
多様な意見の汲み取り 受容・共感
適切な場所と状況で指導 個別配慮*
感情的な発言や指導はしないよう感情の自己コントロール 自己認識力*
感情や気持ちを素直に表出 感情的誠実さ
対立を建設的に解決し,困難な問題には両方の視点から対応を図る 協調性*
定期的に振り返り,失敗から学び弱点に対処 内省力
組織の価値観と行動指針を定期的に共有 ビジョンの共有化
組織理念と個人の信念を調和させながら,一貫性のある看護観を持って行動 内的道徳観 高度な実践力
様々な手段で業務に影響を与える情報収集を行う 広範な情報収集力
高度な専門知識と実践能力で,質の高いケアの実践 専門性の発揮*
個々のスタッフのニーズと特性を理解し,それに合わせたアプローチ 適性考慮
状況や内容に応じて優先順位を考慮した判断力 状況判断力*
状況を察し,感情を調和させる共感的なコミュニケーション能力 調和性*
先見の明をもってリスクを管理し,問題を未然に防ぐ 先見力*
データに基づいて組織の状況を詳細に分析し,市場と社会のニーズに敏感な経営戦略を行う 分析的経営戦略
自ら率先して困難な業務に取り組む 率先力* 率先垂範
組織において模範を示す行動 ロールモデル
スタッフが自らの判断や行動に自信を持てるよう後方でサポートする立場を取る サポート役割
専門職者としての継続的な学びと自己啓発の取り組み 自己研鑽*
実践知の共有と自身の経験を通じてスタッフの学習を促し,専門性とキャリアの発展を支援 知的刺激
積極的なコミュニケーション 積極的なコミュニケーション*

注)*は,本研究において先行研究と比較して新たに見出されたリーダーシップの内容を示す

第1に,【心理的安全性】は,看護師の個別性や自律性を尊重し,挑戦や失敗を受容しながら,安心して業務に取り組める環境を醸成する行動を含むカテゴリーである.“いつでも相談や話し合いができる環境や姿勢”を示す〈オープンなコミュニケーション〉をはじめ,〈失敗への寛容さ〉,〈全人的なサポートと理解〉,〈フィードバック〉,〈信頼〉,〈公正性〉,〈柔軟性〉,〈挑戦〉,〈承認〉を含めた9サブカテゴリーから構成された.これらの行動は,Edmondson(1999)が提唱する「対人関係上のリスクを取っても非難されないと感じられる状態」としての心理的安全性と親和性をもつことから,このカテゴリーは【心理的安全性】と命名した.

第2に,【人を動かす力】は,スタッフの内発的動機づけや主体性を引き出す関与,ならびに組織全体の働きやすさを支える間接的な支援行動を含むカテゴリーである.“自主的に考えて行動できるような関わり”を示す〈育成力〉をはじめ,〈共同〉,〈権限委譲〉,〈責任感〉,〈エンパワメント〉,〈条件付き報酬〉,〈地域貢献力〉,〈ネットワーク構築力〉を含めた8サブカテゴリーから構成された.これは,他者の行動変容を促す影響力を基盤としたリーダーシップ行動であることから,このカテゴリーは【人を動かす力】と命名した.

第3に,【感情的知性】は,スタッフの感情や状況に応じた柔軟な対応を通じて,信頼関係の構築や対人関係の円滑化を図る行動を含むカテゴリーである.“相手の話しや意見を丁寧に聞く”を示す〈傾聴〉をはじめ,〈受容・共感〉,〈個別配慮〉,〈自己認識力〉,〈感情的誠実さ〉,〈協調性〉,〈内省力〉,〈ビジョンの共有化〉を含めた8サブカテゴリーから構成された.これは,Brussow(2013)が示した「自らの感情を適切に認識・調整し,他者との関係性において建設的に活用する能力」と親和性が高いことから,このカテゴリーは【感情的知性】と命名した.

第4に,【高度な実践力】は,専門性と状況判断力に基づいた実践的リーダーシップ行動を示すカテゴリーであり,管理者がスタッフの実践状況を的確に把握し,必要に応じて自ら訪問してケアの実施や,支援的な関与を行うことによって,信頼の獲得や混乱の回避に貢献する行動が含まれている.“組織理念と個人の信念を調和させながら,一貫性のある看護観を持って行動”を示す〈内的道徳観〉をはじめ,〈広範な情報収集力〉,〈専門性の発揮〉,〈適性考慮〉,〈状況判断力〉,〈調和性〉,〈先見力〉,〈分析的経営戦略〉を含めた8サブカテゴリーから構成された.これは,日本看護協会(2023)が示す「高度実践能力」すなわち「倫理的判断力,複雑な状況下での意思決定,専門的判断に基づいた調整力」と親和性が高いことから【高度な実践力】と命名した.

第5に,【率先垂範】は,管理者自らが模範となる行動を実践し,それによってスタッフの態度や行動に影響を与える行動を示すカテゴリーである.“自ら率先して困難な業務に取り組む”を示す〈率先力〉をはじめ,〈ロールモデル〉,〈サポート役割〉,〈自己研鑽〉,〈知的刺激〉,〈積極的なコミュニケーション〉を含めた6サブカテゴリーから構成された.これは,日向野(2015)が提唱するリーダーシップの三要素の一つである「率先垂範」に該当し,小規模組織において日常的に観察されやすい管理者の行動が,看護師の就業継続に影響を及ぼす点に着目し,【率先垂範】と命名した.

Ⅴ. 考察

1. 就業継続につながる管理者のリーダーシップ行動の全体像

本研究では,訪問看護師の就業継続につながる訪問看護管理者のリーダーシップ行動として,【心理的安全性】,【人を動かす力】,【感情的知性】,【高度な実践力】,【率先垂範】の5カテゴリーが抽出された.これらのカテゴリーは,訪問看護ステーションという小規模な組織単位を統括する管理者の特性(厚生労働省,2017)を反映しており,マネジメントに加え,対人関係能力,実践力,教育力といった多面的な能力が求められることを示している.

【心理的安全性】を構成する9サブカテゴリーは,スタッフの不安を最小限にとどめ,失敗を恐れずに挑戦できる環境を醸成し,管理者が創り出す職場の風土を通じて組織に影響を及ぼすリーダーシップ行動であると考えられた.先行研究では,心理的安全性の高いチームではヒューマンエラーの発生率が低いことが報告されており(Leroy et al., 2012),看護職における有効性も報告されている.しかし,我が国では在宅医療分野における知見は乏しく,本研究における【心理的安全性】に関連する行動が,看護師の就業継続などの組織成果と結びつくかを明らかにしていくことが,今後の課題であるといえる.

【人を動かす力】を構成する8サブカテゴリーは,管理者がスタッフに限らず関係機関等も含めた他者に影響を与え,行動を促すリーダーシップ行動であると考えられた.その内容は,フォロワーの力を引き出し,高いパフォーマンスを目指して鼓舞・動機づけを行う変革型リーダーシップ(Bass & Avolio, 1994)と類似しており,訪問看護における自律性の高いスタッフを支援するうえで重要な要素と考えられた.

【感情的知性】を構成する8サブカテゴリーは,管理者が自身の感情やその影響を認識し,セルフコントロールを行いながら,他者の感情にも共感的に関与する能力に基づいたリーダーシップ行動であると考えられた.訪問看護においては,感情労働が多くを占める場面が多いため,管理者の感情的知性がスタッフの心理的支えとなる場面も多いと推察されるが,感情的知性を中核としたリーダーシップ研究は報告されておらず,本研究の知見は今後の理論的発展に寄与する可能性がある.

【高度な実践力】を構成する8サブカテゴリーは,訪問看護ステーションでは,管理者自身が臨床業務を兼務する場合も多く,現場の実践力や倫理観を備えた判断力などのリーダーシップ行動であると考えられた.これらの行動は,管理者の臨床実践能力がリーダーシップの一部として機能することを示しており,既存の実践能力モデルが十分に統一されていない現状において,本研究のカテゴリーは訪問看護領域における実践力の再定義にも資するものである.

【率先垂範】を構成する7サブカテゴリーは,管理者が自ら積極的に行動し,その姿勢を通じて組織やスタッフに影響を与えるリーダーシップ行動であると考えられた.中でも〈ロールモデル〉や〈サポート役割〉,〈知的刺激〉は,既存のリーダーシップ研究でも類似の概念が示されており(Bass, 1985Liden et al., 2008Brussow, 2013),訪問看護に限らず汎用性の高い行動といえる.一方で〈率先力〉,〈自己研鑽〉,〈積極的なコミュニケーション〉は,先行研究では明確に報告されておらず,本研究において新たに抽出された訪問看護特有のリーダーシップ行動である可能性が示唆された.

以上より,訪問看護管理者に求められるリーダーシップは,単一のスタイルにとどまらず,文脈に応じた多次元的かつ実践的な行動の集合体であることが明らかとなった.これらの行動群は,従来の病院組織におけるリーダーシップ理論では捉えきれなかった要素を包含しており,今後の理論的発展および実践的応用の基盤として意義がある.

2. 就業継続につながる管理者のリーダーシップ行動の特徴

本研究で抽出された39のサブカテゴリーのうち16は,先行研究において報告されておらず,訪問看護という特有の文脈において新たに見出されたリーダーシップ行動であった.これらの行動は,訪問看護師の就業継続に寄与する要因として機能する可能性が示され,訪問看護という文脈の特性を反映した実践的知見としても重要と言える.

〈柔軟性〉は,管理者がスタッフ一人ひとりの生活背景や勤務状況に配慮し,画一的でない働き方を認める行動である.訪問看護では非常勤勤務の割合が高く(鹿児島県保健福祉部,2023),や短時間勤務など多様な勤務形態が存在し(東京都福祉局,2012),急な欠勤やスケジュール変更にも対応が求められる.こうした状況下で柔軟に勤務調整を行う管理者の姿勢は,ワークライフバランスの実現の基で安心して働き続けられる基盤を形成するリーダーシップ行動であると考えられた.

〈挑戦〉は,スタッフが新たな役割や領域に挑戦する際に,管理者が支援や承認を行う行動である.特に小児・精神疾患・看取りケアなど未経験分野への挑戦は,専門性の拡張とやりがいの獲得につながり,キャリア継続意欲を高める(東京都福祉局,2012).特に,小規模な訪問看護ステーションにおいては,管理者の承認により柔軟な意思決定が可能なため,こうした行動がスタッフにとって働きやすい魅力となる可能性が示唆された結果であった.

〈地域貢献力〉や〈ネットワーク構築力〉は,医師・ケアマネジャー・薬剤師など地域の他職種と良好な関係性を築くことで,スタッフの業務が円滑に進む環境を整備する行動である.訪問看護ではICTや電話などを用いた非対面での連携が多く,心理的負担や業務混乱が生じやすい(藤原ら,2014吉川・長谷川,2014).そのため,外部との橋渡しを担う管理者の存在は,スタッフは訪問業務により専念でき,業務へのストレスが軽減されることで,就業継続につながることが考えられた.

〈個別配慮〉や〈自己認識力〉は,スタッフの感情面への気づきと対応,自身の感情や影響の自覚を含む行動である.訪問看護師は孤立した環境で業務を行うことが多く,不安や孤独感が離職の要因となる(柴田・川名,2013).管理者がスタッフの変化に敏感に反応し,共感的に接することは,組織への信頼と安心感の醸成につながり,就業継続への動機づけ心となっていると考えられた.

〈率先力〉や〈自己研鑽〉は,管理者自身が学び続け,困難に向き合い,模範を示す姿勢である.訪問看護ステーションのような小規模組織では,管理者の行動が日常的に可視化されやすく,職場文化に影響を与えるため,信頼関係の構築やエンゲージメント向上に資する行動として機能するものと考えられた.

以上のように,本研究で明らかになった行動は,既存のリーダーシップ理論では捉えきれなかった訪問看護の文脈に即した特徴的なリーダーシップ行動を具体化したものである.今後は,これらの行動がどのように就業継続や組織成果に寄与するかを明らかにする量的検証が求められる.

3. 本研究結果の活用可能性

本研究結果は,インタビュー調査によって訪問看護師の就業継続につながる管理者のリーダーシップ行動がどのような内容であるか示した段階である.今後は,本研究で抽出されたリーダーシップの行動を基に,このリーダーシップを定量的に測定できる尺度の開発を行い,本研究で明らかになったリーダーシップの中で,具体的にどの行動が発揮されることで,スタッフの就業継続意向などの人材定着に関連する組織成果にポジティブな影響を与えるのか検証を行なっていく上で貴重な知見が得られた.また,本研究は初めて日本の訪問看護師のリーダーシップに焦点を当てた研究成果であり,今後の在宅医療の発展に向けてのリーダーシップ研究の基礎資料となることも期待される.

4. 本研究の限界と課題

本研究にはいくつかの限界が存在する.第一に,本研究は機縁法を用いて対象者を選定したため,サンプルの選択に偏りが生じた可能性があり,結果の妥当性に影響を及ぼす可能性がある.第二に,対象者の勤務地が関東圏および都市部に限定されていることから,地域差を考慮した結果の一般化には慎重な解釈が求められる.今後の研究では,より多様な地域や職場環境を考慮した対等の拡大とさらなる分析が必要と考えられる.

Ⅵ. 結論

本研究では,訪問看護師の就業継続につながる訪問看護管理者のリーダーシップ行動を質的帰納的に分析し,【心理的安全性】,【人を動かす力】,【感情的知性】,【高度な実践力】,【率先垂範】の5カテゴリー,39サブカテゴリーが抽出された.これらの行動は,単一のスタイルにとどまらず,訪問看護の文脈に応じて発揮される多次元的かつ実践的な行動の集合体であった.中でも〈柔軟性〉,〈挑戦〉,〈ネットワーク構築力〉,〈個別配慮〉,〈自己研鑽〉といった行動は,これまでの病院組織における従来のリーダーシップ理論では捉えきれなかった要素を包含しており,訪問看護師の就業継続に寄与する可能性が示唆された.これらの知見は,今後の理論的発展および実践的応用の基盤として意義を持つ.今後は,本研究で明らかになった行動の有効性や影響を実証的に検証する量的研究の実施が求められる.

付記:本論文の内容の一部は,第44回日本看護科学学会学術集会において発表した.本研究は,千葉大学大学院看護学研究科に提出した博士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究を行うにあたり調査にご協力下さいました全国の訪問看護師の皆様に感謝申し上げます.本研究は公益財団法人フランスベッド・ホームケア財団 令和5年度(第34回)研究助成の助成金を使用して実施しました.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:TKは本研究の着想から原稿作成に至る全過程に貢献;KIは分析プロセスおよび分析結果の解釈に関して助言;SIは研究の全体的な進行および原稿内容に関する示唆を提供.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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