2025 年 45 巻 p. 833-844
目的:腎代替療法選択支援におけるSDMの実態と関連要因を医師・看護師の職種別に明らかにする.
方法:医師250名,看護師299名を対象に,SDM,腎代替療法知識,コミュニケーション・スキル,共感力,社会人基礎力を調査した.SDMを従属変数とした重回帰分析を行った.
結果:有効回答は医師103名,看護師122名であった.90%以上の医師・看護師がSDMを認知し,医師72.8%,看護師56.6%が,SDM実践への障壁を感じていた.医師のSDMには,性別,経験年数,SDMの障壁,【気持ちの想像】,【アクション】,看護師のSDMには,SDMの認知と【自己主張】が関連していた.
結論:質の高いSDM実践には,医師は,SDM障壁の除去,相手への想像力および主体性をもち周囲に働きかける実行力の育成,看護師は,SDMの認知向上,柔軟かつ論理的に主張する能力の育成といった教育支援が必要である.
Objective: To investigate the current implementation of shared decision making (SDM) when helping patients choose renal replacement therapies, including related factors, broken down by physicians and nurses.
Methods: An online questionnaire was distributed to 250 physicians and 299 nurses. It assessed SDM practices, familiarity with renal replacement options, communication skills, empathy, and essential competencies for working adults. We conducted multiple regression analyses, using SDM scores as the dependent variables and all other measures as independent variables.
Results: Valid responses were obtained from 103 physicians and 122 nurses. Over 90% of physicians and nurses were aware of SDM, and 72.8% of physicians and 56.6% of nurses perceived barriers to SDM practice. Among physicians, factors linked to SDM included sex, years of experience, perceived obstacles to SDM, [imagining feelings], and [actions]. In nurses, associations were found with familiarity with SDM and [self-assertion].
Conclusion: Enhancing SDM in clinical settings calls for targeted training. Physicians would benefit from efforts to overcome SDM hurdles, build skills in empathizing with patients’ viewpoints and emotions, and cultivate their drive to rally team support and push through tough scenarios to meet objectives. Nurses, meanwhile, need opportunities to raising awareness of SDM and hone their ability to present reasoned arguments in an adaptable, persuasive manner that resonates with others.
国際腎臓学会によれば,世界の慢性腎臓病(Chronic kidney disease:以下CKD)の有病率は9.5%に達し,今後も増加するといわれる(Bello et al., 2024).国内のCKD患者は2,000万人と推定され,成人の5人に1人がCKDであり(丸山ら,2025),その有病率は加齢とともに上昇する傾向にあるため(Nagai et al., 2021),高齢化率が顕著であるわが国では,末期腎不全から腎代替療法を必要とする患者の増加が懸念されている.
近年,腎代替療法選択の意思決定に,患者と医療者との共同意思決定(Shared Decision Making: SDM)が注目されている(日本透析医学会,2020).SDMとは,医学的な情報や最善のエビデンスと患者の価値観や生活状況とを,医療者と患者が相互に共有しながら意思決定していくプロセスであり(Spatz et al., 2016),2000年頃から注目され始めた(Charles et al., 1997).
腎代替療法選択におけるSDMの意義は,大きく二つに分類される.一つは,患者への直接的な影響であり,具体的には,患者の積極的治療参画(Stacey et al., 2017)の促進,治療満足度の向上(Robinski et al., 2016;Robinski et al., 2017;Ghodsian et al., 2021),自己管理行動の獲得(飯田ら,2022)の報告がある.もう一つは,患者の価値観や意向を十分に引き出すことが可能となるため(Makoul & Clayman, 2006),腎代替療法選択における患者中心の医療の推進が期待できる点である.SDMにより,腹膜透析選択率の増加(吉原・金子,2020;Imamura et al., 2021;赤津ら,2022;Sakurada et al., 2023)や腎移植の選択率の増加(川端ら,2020)の報告がある.また,緊急導入の回避(今村ら,2021)の報告もある.
わが国は,血液透析選択率が93.9%と他国に比べても高く,腹膜透析や腎移植の選択率は低水準にとどまっている(日本透析医学会,2024).その背景には,レシピエントとドナーの高齢化(伊藤ら,2024)や医療者による情報提供の偏り(剣持,2022;満生,2024),在宅医療を支える医療者の経験不足(高井ら,2023)などが複合的に関与している.また,本来,腹膜透析や腎移植が適切だったにも関わらず,選択することができなかった患者が一定数存在することも指摘されている(剣持,2022;満生,2024;日高・小林,2024).今後,患者が納得して適切な腎代替療法選択をするためには,SDMが重要である(Marshall, 2020).他方で,質の高いSDMの実践には依然として課題が残されている.例えば,チームによるSDM実施体制が,「あり(十分)」と回答した透析施設は21.8%にとどまっており(岡田ら,2022),環境整備が課題となっている.また,SDMは,医師と患者の1対1で行うよりも,看護師を含む多職種専門職チームが有効といわれているが(Goto et al., 2021),SDM実践の職種による役割は明確にされていない.特に,医師と看護師は,意思決定支援の重要な支援者(Umihara et al., 2016;片岡・伊東,2016;関永・塩谷,2022)とされながらも,看護師は,医療方針の決定過程で,医師との見解の相違にジレンマも抱くことがあると指摘されている(安藤ら,2022).そこで,本研究は,多職種チームのなかでも協働することが多い医師と看護師(福井,2010;菅原ら,2020)各々を対象とすることとした.
本研究の目的は,腎代替療法選択支援におけるSDMの実態および関連要因について医師と看護師を職種別に解析をして,各々の特徴を明らかにすることである.今後の多職種チームによる意思決定支援の質向上に資することを目指す.
本研究におけるSDMとは,患者と医療者が相互に影響しあい,患者のQOLを高めることを目的に,双方向に情報を共有し,合意に至る動的な決定プロセスとする.また,腎代替療法選択とは,末期腎不全患者が,治療法選択肢の中から,自ら最善と考える治療法の一つを選択決定することとした.
2. 概念枠組み(図1)SDMに関する先行研究をもとに,本研究の概念枠組みを作成した.SDMの実態は,「SDMに関する認識と学習状況」および「SDMの質」から捉える.SDMに影響を及ぼすのは,専門的知識(川崎,2017),医療者のコミュニケーション・スキル(辻,2007;Hoffmann et al., 2014;山田ら,2019)であることから,概念枠組みに設定した.さらに,医療者-患者関係構築に不可欠な共感力(松林,2023),職場の中で多様な人々と協働していくための社会人基礎力(北島・細田,2017)を概念枠組みに加えた.

腎代替療法指導管理料の届出のある全国の保険医療機関523施設のうち,診療所を除く442施設の施設長に対し,郵送にて研究協力を依頼した.研究協力の得られた93施設の腎臓内科に所属する医師250名および看護師299名を調査対象とした.腎臓内科の経験が1年未満の医師および看護師は,職場環境に慣れ,一般的な業務を覚えることが優先されるため調査対象から除外した.また,直近4年間に腎代替療法選択支援の経験がない医師および看護師についても調査対象から除外した.
4. 調査方法および調査期間各施設の施設長を通して,調査対象者である医師および看護師に対し,QRコード付きの依頼書を郵送し,調査は株式会社マクロミルが提供するWeb調査システムを用いて実施した.
調査期間は,2024年12月から2025年3月とした.
5. 調査内容 1) 基本属性および施設特性に関する項目年齢,性別,職種,医師および看護師の経験年数,腎臓内科の経験年数,腎代替療法選択支援の経験年数,腎領域の専門医または専門・認定看護師資格の有無の7項目を設定した.
また,施設特性として,病床数,導入期加算(腎代替療法の情報提供などの施設評価をした加算)を設定した.
2) SDMに関する認識と学習状況およびSDMの質に関する項目SDMに関する認識と学習状況として「認知」「学習機会」「実践の障壁」については,2件法で,「実践の自覚」については,5件法で尋ねた.
SDMの質の評価は,Kristonらが開発したSDM-Q-9(Kriston et al., 2010)を日本語版に翻訳した「日本語版SDM-Q-doc」(Goto et al., 2021)を使用した.「日本語版SDM-Q-doc」は,Kriston et al.(2010)が示すSDMの9ステップの達成具合の尺度として開発され,SDMの質を評価するものである.「日本語版SDM-Q-doc」は,1因子9項目で構成され,「よく当てはまる」5点,「おおむね当てはまる」4点,「どちらかというと当てはまる」3点,「どちらかというと当てはまらない」2点,「ほとんど当てはまらない」1点,「全く当てはまらない」0点の6件法で,各項目の点数に20/9を乗算して,尺度得点を算出する.各項目の得点範囲は0点から11.1点で得点が高いほど,SDMの質が高いことを示す.信頼性と妥当性が検証されている.本研究では,質問項目の「治療」を「腎代替療法」に置き換え,看護師にも適応し,SDM-Q-doc合計点をSDMスコアとした.なお,日本語版開発者には,事前に用語の置き換えおよび看護師を対象として使用することについての承諾を得た.
3) 腎代替療法の知識既存尺度がないため,「腎代替療法選択ガイド2020」(猪阪ら,2020)を参考に,腎代替療法選択支援に必要な知識20項目を設定した.腎代替療法,血液透析,腹膜透析,腎移植の項目ごとに25点配点し,100点満点とした.調査項目は,腎代替療法選択支援の経験が豊富な腎臓専門医1名,透析看護認定看護師1名,腎領域の慢性疾患看護専門看護師1名に,質問内容や表現の適切性を確認してもらい,調査項目の妥当性を高めた.
4) コミュニケーション・スキル藤本・大坊(2007)が開発した「コミュニケーション・スキル尺度ENDCOREs」を使用した.この尺度は,直接的なコミュニケーションを適切に行う技能を測定する尺度である.【自己統制】【表現力】【解読力】【自己主張】【他者受容】【関係調整】の6因子24項目で構成され,「かなり得意」7点,「得意」6点,「やや得意」5点,「ふつう」4点,「やや苦手」3点,「苦手」2点,「かなり苦手」1点の7件法で,6因子ごとに点数を加算し,項目数4で除して尺度得点を算出する.信頼性と妥当性の検証がなされており,尺度使用には,開発者の承認を得た.
5) 共感力登張(2003)が開発した「多次元的共感性尺度」を使用した.この尺度は【共感的関心】【個人的苦痛】【ファンタジー】【気持ちの想像】の4つの要素からなり,共感性の高さを測定することができる.4因子30項目で構成され,「非常に当てはまる」5点,「やや当てはまる」4点,「どちらともいえない」3点,「あまり当てはまらない」2点,「まったく当てはまらない」1点の5件法で,因子ごとの平均点を算出する.質問文には,逆転項目を2項目含む.信頼性と収束的妥当性が確認されており,尺度使用には,開発者の承認を得た.
6) 社会人基礎力北島ら(2011)が開発した「社会人基礎力尺度」を使用した.この尺度は,職場や地域社会の中で多様な人々と仕事をする上で必要な基礎的能力を測定することができる.【アクション】【シンキング】【チームワーク】の3因子36項目で構成され,「非常にあてはまる」6点から「全くあてはまらない」1点の6件法で因子ごとの合計得点を算出する.妥当性と信頼性の検証がなされており,尺度使用には,開発者の承認を得た.
6. 分析方法 1) 医師と看護師各々のSDMの実態と職種ごとの特性はじめに,基本属性および施設特性,腎代替療法の知識,SDMに関する認識と学習状況,日本語版SDM-Q-9-doc,コミュニケーション・スキル,共感力,社会人基礎力の記述統計量を算出した.腎代替療法の知識,日本語版SDM-Q-9-doc,社会人基礎力は得点化し,Shapiro-Wilk検定にて,正規性を確認した.日本語版SDM-Q-9-doc,コミュニケーション・スキル,共感力,社会人基礎力は,尺度の信頼性を確認するため,解析開始前にCronbach’sのα係数を算出した.医師と看護師各々の個人属性・施設特性およびSDMの関連は,Mann-WhitneyのU検定,Kruskal-Wallis検定,Spearmanの順位相関分析を解析に用いた.
2) 医師と看護師各々のSDMへの関連要因日本語版SDM-Q-9-docの合計点(SDMスコア)を従属変数,コミュニケーション・スキル,共感力,社会人基礎力,SDMの認知,SDMの学習機会,SDMの障壁および交絡要因(性別,経験年数,腎代替療法選択支援経験年数,専門資格,腎代替療法の知識,病床数,導入期加算)を独立変数とした重回帰分析(強制投入法)を医師と看護師各々に解析した.多重共線性はVariance inflation factor(以下:VIF)で評価した(小塩,2019).以上の統計解析には,SPSS ver.29を使用し,すべての統計的有意水準を5%とした.
7. 倫理的配慮本研究は,名古屋市立大学大学院看護学研究科の研究倫理審査委員会(ID番号24029-3)の承認を得て実施した.調査はWeb上で行い,研究概要,研究目的と意義,方法,倫理的配慮,匿名性の保証に加えて,参加は本人の自由意思であることを説明した.調査参加の同意は,Web上のチェック項目を研究対象者自身がクリックすることで同意を確認した.また,Web調査会社と個人情報やプライバシー保護の業務委託契約をかわし,得られた成果物の受け取りについては,パスワード保護されたファイルを使用した.
対象者238名(回収率43.4%)から回答が得られた.内訳は,医師107名(回収率42.8%),看護師131名(回収率43.8%)であった.そのうち,直近4年間に腎代替療法選択の指導経験のない医師4名と看護師9名が含まれていたため除外し,医師103名(有効回答率41.2%),看護師122名(有効回答率44.8%)を調査対象とした.
n = 225
| SDMスコア | SDMスコア | ||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 全体(n = 225) | 医師(n = 103) | median(IQR) | p | 看護師(n = 122) | median(IQR) | p | |||||
| 性別1) | 男性 | 101 | (44.9) | 85 | (82.5) | 80.0(72.2~86.7) | .003** | 16 | (13.1) | 77.8(71.1~83.9) | .856 |
| 女性 | 124 | (55.1) | 18 | (17.5) | 91.1(84.4~95.6) | 106 | (86.9) | 77.8(64.4~86.7) | |||
| 経験年数2) | mean ± SD | 21.4 ± 8.7 | 19.6 ± 9.0 | 23.0 ± 8.1 | |||||||
| 5年未満 | 3 | (1.3) | 2 | (1.9) | 70.0(68.9~) | .566 | 1 | (0.8) | - | .090 | |
| 5年以上10年未満 | 16 | (7.1) | 12 | (11.7) | 80.0(72.2~90.0) | 4 | (3.3) | 81.1(72.8~86.1) | |||
| 10年以上15年未満 | 32 | (14.2) | 18 | (17.5) | 81.1(72.8~93.9) | 14 | (11.5) | 76.7(67.8~84.4) | |||
| 15年以上20年未満 | 41 | (18.2) | 21 | (20.4) | 80.0(74.4~88.9) | 20 | (16.4) | 66.7(51.7~80.0) | |||
| 20年以上 | 133 | (59.1) | 50 | (48.5) | 83.3(75.6~88.9) | 83 | (68.0) | 80.0(66.7~88.9) | |||
| 腎臓内科経験年数2) | mean ± SD | 14.4 ± 8.6 | 16.5 ± 9.0 | 12.6 ± 7.9 | |||||||
| 5年未満 | 25 | (11.1) | 10 | (9.7) | 83.3(71.1~91.7) | .982 | 15 | (12.3) | 82.2(71.1~86.7) | .057 | |
| 5年以上10年未満 | 49 | (21.8) | 15 | (14.6) | 80.0(66.7~93.3) | 34 | (27.9) | 73.3(60.0~82.8) | |||
| 10年以上15年未満 | 44 | (19.6) | 19 | (18.4) | 80.0(73.3~86.7) | 25 | (20.5) | 75.6(63.3~84.4) | |||
| 15年以上20年未満 | 47 | (20.9) | 23 | (22.3) | 86.7(75.6~88.9) | 24 | (19.7) | 80.0(69.4~88.9) | |||
| 20年以上 | 60 | (26.7) | 36 | (35.0) | 83.3(75.6~88.9) | 24 | (19.7) | 82.2(73.3~91.1) | |||
| 腎代替療法支援経験年数2) | mean ± SD | 9.4 ± 7.7 | 13.1 ± 8.7 | 6.2 ± 5.0 | |||||||
| 5年未満 | 80 | (35.6) | 19 | (18.4) | 80.0(71.1~91.1) | .529 | 61 | (50.0) | 75.6(63.3~85.6) | .095 | |
| 5年以上10年未満 | 43 | (19.1) | 17 | (16.5) | 82.2(73.3~93.3) | 26 | (21.3) | 77.8(70.0~84.4) | |||
| 10年以上15年未満 | 52 | (23.1) | 28 | (27.2) | 80.0(73.9~86.7) | 24 | (19.7) | 80.0(69.4~88.9) | |||
| 15年以上20年未満 | 25 | (11.1) | 16 | (15.5) | 87.8(76.7~91.1) | 9 | (7.4) | 80.0(73.3~87.8) | |||
| 20年以上 | 25 | (11.1) | 23 | (22.3) | 75.6(71.1~88.9) | 2 | (1.6) | 98.9(97.8~) | |||
| 専門資格1) | あり | 135 | (60.0) | 85 | (82.5) | 80.0(74.4~88.9) | .509 | 50 | (41.0) | 80.0(71.1~88.9) | .074 |
| なし | 90 | (40.0) | 18 | (17.5) | 86.7(71.1~91.7) | 72 | (59.0) | 75.6(62.8~86.7) | |||
| 施設特性:導入期加算2) | 加算1 | 32 | (14.2) | 19 | (18.4) | 80.0(75.6~91.1) | .752 | 13 | (10.7) | 77.8(65.6~87.8) | .357 |
| 加算2 | 121 | (53.8) | 56 | (54.4) | 81.1(71.1~92.8) | 65 | (53.3) | 80.0(70.0~88.9) | |||
| 加算3 | 72 | (32.0) | 28 | (27.2) | 80.0(73.9~88.9) | 44 | (36.1) | 76.7(64.4~83.9) | |||
| mean ± SD | mean ± SD | 相関係数 | p | mean ± SD | 相関係数 | p | |||||
| 年齢3) | 46.3 ± 8.3 | 45.9 ± 8.9 | .020 | .842 | 46.6 ± 7.8 | .149 | .102 | ||||
| 腎代替療法の知識3) | 合計点(100点満点) | 65.5 ± 10.9 | 67.5 ± 10.1 | .012 | .900 | 63.8 ± 11.3 | .305 | <.001** | |||
| 腎代替療法(25点満点) | 19.6 ± 4.6 | 19.9 ± 4.5 | –.046 | .645 | 19.3 ± 4.7 | .110 | .228 | ||||
| 血液透析(25点満点) | 15.8 ± 4.5 | 15.8 ± 4.9 | .029 | .770 | 15.7 ± 4.2 | .133 | .145 | ||||
| 腹膜透析(25点満点) | 16.7 ± 4.1 | 17.2 ± 4.3 | –.061 | .542 | 16.2 ± 4.0 | .189 | .037* | ||||
| 腎移植(25点満点) | 13.5 ± 4.9 | 14.7 ± 4.0 | .106 | .285 | 12.6 ± 5.3 | .261 | .004* | ||||
| 施設特性:病床数3) | 511.6 ± 261.0 | 533.7 ± 263.8 | –.026 | .794 | 493.3 ± 258.3 | .025 | .785 | ||||
1)Mann-WhitneyのU検定 2)Kruskal-Wallis検定 3)Spearmanの積率相関分析 * p < 0.05 ** p < 0.01 n(%),mean:平均,SD:標準偏差,median:中央値,IQR:四分位範囲
年齢は,医師45.9 ± 8.9歳,看護師46.6 ± 7.8歳,腎代替療法支援の経験年数は,看護師6.2 ± 5.0年,医師13.1 ± 8.7年であった.また,医師の専門医の取得者は85名(82.5%),看護師の専門認定看護師の取得者50名(41.0%)であった.腎代替療法の知識(合計点)は,医師は67.5 ± 10.1点,看護師は63.8 ± 11.3点であった.
SDMスコアは,医師では,女性の得点が高かった(p = 0.003).看護師では腎代替療法の知識に,弱い正の相関がみられた(rs = .305, p < 0.001).
2. 医師と看護師各々のSDMに関する認識と学習状況(表2)SDMを知っているかの問いに対し,知っていると回答した医師は97名(94.2%),看護師は119名(97.5%)であった.SDMを学んだ経験があるかの問いに対して,ありと回答した医師は85名(82.5%),看護師101名(82.8%)であった.さらに,SDMを実践しているかの問いに,「十分している」「している」と回答した医師は85名(82.5%),看護師は94名(87.0%)であった.SDM実践の障壁はあるかの問いに対し,ありと回答した医師は75名(72.8%)であり,看護師69名(56.6%)であった.
n = 225
| 全体(n = 225) | 医師(n = 103) | 看護師(n = 122) | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| SDMについて | |||||||
| 〈認知〉 | |||||||
| SDMを知っているか | 知っている | 216 | (96.0) | 97 | (94.2) | 119 | (97.5) |
| 知らない | 9 | (4.0) | 6 | (5.8) | 3 | (2.5) | |
| 〈学習機会〉 | |||||||
| SDMを学んだ経験はあるか | あり | 186 | (82.7) | 85 | (82.5) | 101 | (82.8) |
| なし | 39 | (17.3) | 18 | (17.5) | 21 | (17.2) | |
| 〈実践の自覚〉 | |||||||
| SDMを実践しているか | 十分している | 41 | (18.2) | 19 | (18.4) | 22 | (18.0) |
| している | 138 | (61.3) | 66 | (64.1) | 72 | (59.0) | |
| どちらともいえない | 38 | (16.9) | 14 | (13.6) | 24 | (19.7) | |
| していない | 6 | (2.7) | 2 | (1.9) | 4 | (3.3) | |
| 全くしていない | 2 | (0.9) | 2 | (1.9) | 0 | (0) | |
| 〈実践の障壁〉 | |||||||
| SDM実践の障壁はあるか | あり | 144 | (64.0) | 75 | (72.8) | 69 | (56.6) |
| なし | 81 | (36.0) | 28 | (27.2) | 53 | (43.4) | |
変数の内的整合性(Cronbachのα係数)については,日本語版SDM-Q-9-docはα = .881,社会人基礎力はα = .931~.949であった.また,すべての変数に対してShapiro-Wilk検定を行い,共感力の【ファンタジー】以外は,非正規分布であった.
| Cronbach’s α | 医師(n = 103) | 看護師(n = 122) | |||
|---|---|---|---|---|---|
| median | IQR | median | IQR | ||
| 日本語版SDM-Q-doc1)合計点(SDMスコア) | .881 | 80.0 | 73.3~91.1 | 77.8 | 66.1~86.7 |
| SDM1「私は患者に,腎代替療法に関して何らかの決定をしなければならない事があるということを明確に伝えた」 | 11.1 | 8.9~11.1 | 8.9 | 6.7~11.1 | |
| SDM2「私は,患者がどのように決定に関わりたいかを知るように努めた」 | 8.9 | 6.7~11.1 | 8.9 | 6.7~11.1 | |
| SDM3「私は患者に,今回の症状に対して様々な腎代替療法の選択肢があることを伝えた」 | 11.1 | 8.9~11.1 | 11.1 | 8.9~11.1 | |
| SDM4「私は患者に,それぞれの腎代替療法のメリット(利点)とデメリット(欠点)を明確に説明した」 | 8.9 | 8.9~11.1 | 11.1 | 8.9~11.1 | |
| SDM5「私は,説明した全ての情報を患者が理解できるようにサポートした」 | 8.9 | 6.7~8.9 | 8.9 | 8.9~11.1 | |
| SDM6「私は患者に,腎代替療法においてどの選択肢を希望するのか尋ねた」 | 11.1 | 8.9~11.1 | 8.9 | 6.7~11.1 | |
| SDM7「患者と私は,それぞれの腎代替療法について徹底的に比較検討した」 | 6.7 | 6.7~8.9 | 6.7 | 6.7~8.9 | |
| SDM8「患者と私は,一緒に腎代替療法の選択肢を選んだ」 | 8.9 | 6.7~8.9 | 6.7 | 4.4~6.7 | |
| SDM9「患者と私は,今後の腎代替療法の進め方について合意した」 | 8.9 | 8.9~11.1 | 6.7 | 6.7~8.9 | |
| コミュニケーション・スキル | |||||
| 自己統制 | .755 | 4.3 | 4.0~5.0 | 4.5 | 4.0~5.0 |
| 表現力 | .845 | 4.0 | 3.5~4.5 | 4.0 | 3.5~4.3 |
| 解読力 | .931 | 4.3 | 4.0~5.0 | 4.5 | 4.0~5.0 |
| 自己主張 | .860 | 4.3 | 4.0~5.0 | 4.0 | 3.5~4.5 |
| 他者受容 | .899 | 4.8 | 4.0~5.3 | 5.0 | 4.3~5.3 |
| 関係調整 | .820 | 4.0 | 4.0~4.8 | 4.3 | 4.0~5.0 |
| 共感力 | |||||
| 共感的関心 | .882 | 3.9 | 3.5~4.2 | 4.0 | 3.7~4.4 |
| 個人的苦痛 | .877 | 2.3 | 2.0~3.0 | 2.3 | 2.0~2.8 |
| ファンタジー | .865 | 2.8 | 2.3~3.3 | 3.0 | 2.5~3.7 |
| 気持ちの想像 | .793 | 3.6 | 3.0~4.0 | 3.6 | 3.2~4.0 |
| 社会人基礎力2) | |||||
| アクション | .942 | 36.0 | 35.0~42.0 | 37.0 | 35.8~42.0 |
| シンキング | .931 | 36.0 | 33.0~40.0 | 36.0 | 32.0~39.0 |
| チームワーク | .949 | 74.0 | 70.0~81.0 | 77.0 | 72.0~83.3 |
median:中央値,IQR:四分位範囲
注:1)日本語版SDM-Q-docの合計点の範囲は,0点~100点である
2)社会人基礎力の得点範囲は,アクション9~54点,シンキング9~54点,チームワーク18~108点である
SDMスコアは,医師の中央値(四分位範囲)は80.0(73.3~91.1)点,看護師は77.8(66.1~86.7)点であった.医師の得点が高い項目は,SDM1:11.1(8.9~11.1)点,SDM6:11.1(8.9~11.1)点であった.看護師の得点が高い項目は,SDM4:11.1(8.9~11.1)点であった.医師と看護師ともに得点が高い項目は,SDM3,ともに低い項目は,SDM7であった.
コミュニケーション・スキルでは,【他者受容】が医師4.8(4.0~5.3)点,看護師5.0(4.3~5.3)と最も高かった.共感力では,【共感的関心】が医師3.9点(3.5~4.2)点,看護師4.0(3.7~4.4)点と最も高かった.社会人基礎力の【チームワーク】は,看護師が77.0(83.3~72.0)点であった.
4. 医師と看護師各々のSDMスコアの関連要因(表4)まず,基本属性および施設特性,各変数を加えて強制投入法で重回帰分析をした.結果,年齢(VIF = 10.778),腎臓内科経験年数(VIF = 29.817)であったため,多重共線性を考慮して独立変数から除外した.最終的に投入したすべての独立変数では,多重共線性は認められなかった(VIF < 7).
| SDMスコア | SDMスコア | ||||
|---|---|---|---|---|---|
| 医師(n = 103) | 看護師(n = 122) | ||||
| β | p | β | p | ||
| 性別1) | –.215 | .014* | –.029 | .728 | |
| 職種経験年数 | –.369 | .006** | –.096 | .297 | |
| 腎代替療法選択支援経験年数 | .237 | .072 | .134 | .171 | |
| 専門資格2) | –.128 | .125 | –.033 | .744 | |
| 腎代替療法の知識 | .052 | .524 | .163 | .064 | |
| 病床数 | .078 | .400 | .019 | .817 | |
| 導入期加算3) | –.122 | .181 | –.134 | .119 | |
| 〈認知〉SDMを知っているか4) | .019 | .855 | .170 | .046* | |
| 〈学習機会〉SDMを学んだ経験はあるか5) | .074 | .456 | –.017 | .867 | |
| 〈実践の障壁〉SDM実践の障壁はあるか6) | –.176 | .025* | –.150 | .097 | |
| コミュニケーション・スキル | 自己統制 | –.143 | .185 | –.014 | .896 |
| 表現力 | .043 | .729 | –.028 | .829 | |
| 解読力 | .117 | .352 | –.013 | .919 | |
| 自己主張 | .068 | .632 | .257 | .045* | |
| 他者受容 | .040 | .745 | .040 | .789 | |
| 関係調整 | .094 | .537 | –.057 | .680 | |
| 共感力 | 共感的関心 | .090 | .414 | .096 | .400 |
| 個人的苦痛 | –.123 | .243 | .033 | .726 | |
| ファンタジー | .137 | .167 | –.022 | .828 | |
| 気持ちの想像 | .207 | .047* | .109 | .319 | |
| 社会人基礎力 | アクション | .384 | .040* | –.068 | .684 |
| シンキング | –.258 | .115 | .079 | .623 | |
| チームワーク | .131 | .433 | .287 | .081 | |
| R | .786 | .669 | |||
| 調整済みR2 | .507 | .317 | |||
β:標準化偏回帰係数,R:重相関係数,R2:決定係数 * p < 0.05 ** p < 0.01
1)性別(0:女性,1:男性)
2)専門資格(0:なし,1:あり)
3)導入期加算(0:加算1・加算2,1:加算3)
4)SDMを知っているか(0:知らない,1:知っている)
5)SDMを学んだ経験はあるか(0:なし,1:あり)
6)SDM実践の障壁はあるか(0:なし,1:あり)
重回帰分析の結果,医師のSDMスコアの関連要因は,性別(β = –.215, p = .014),職種経験年数(β = –.369, p = .006),SDMの障壁(β = –.176, p = .025),共感力の【気持ちの想像】(β = .207, p = .047),社会人基礎力の【アクション】(β = .384, p = .040)であった.具体的には,女性の方が,SDMスコアが高かった.また,職種経験年数は長く腎臓内科で勤務している医師ほどSDMスコアが低かった.さらにSDMの障壁を自覚している医師や,共感力の【気持ちの想像】と社会人基礎力の【アクション】の得点が低い医師ほどSDMスコアが低かった.
一方,看護師は,SDMの認知(β = .170, p = .046),およびコミュニケーション・スキルの【自己主張】(β = .257, p = .045)が有意な正の関連を示した.SDMを知る看護師や,コミュニケーション・スキルの【自己主張】得点が高い看護師ほどSDMスコアが高かった.
現在,わが国の専門・認定看護師(28,447人)(日本看護協会,2024)は,就業看護師(136万人)(厚生労働省,2024)全体の2.1%に留まっている.一方,本研究対象者の専門資格の取得率は,医師82.5%,看護師41.0%であった.腎代替療法選択支援は,資格を有した専門性の高い看護師集団により実施されている傾向があると推察された.
また,SDMスコアは,女性医師に高い傾向を示した.医師においては,性別によってSDMの質に違いがある可能性が示唆された.一方,看護師には,腎代替療法の知識との関連がみられ,専門的知識の有無がSDMと関連する可能性が示唆された.意思決定を支える医療者が,必要な医学的知識を備えていることは,患者が最善の意思決定をするうえで不可欠であるため(川崎,2017),看護師への知識の普及が求められる.
2. 医師と看護師による腎代替療法選択支援におけるSDMの実態SDMの認知は,医師・看護師ともに94%以上と高く,82%以上に学習機会があった.消化器専門医の調査では,SDMを知っていると回答したものは58%(津村・明石,2024),小児科医の調査では,SDMを聞いたことがないものが31%であった(布谷・石橋,2021).これらと比較しても,腎領域のSDMの認知は高いことが示唆された.背景には,「透析医療におけるSDMに基づく意思決定に関する診療ガイドライン」(Galla, 2000)の策定や,国内でもSDMのプロセスを重視する基本方針が示された(日本透析医学会,2020)ことがある.また,医師の方がSDMの障壁を感じていた.SDMの障壁には,時間的制約(Elwyn et al., 2012),医療者側のスキル不足や患者側の受け入れ準備不足(Joseph-Williams et al., 2014)が指摘されている.今後,腎代替療法選択支援では医師の方がSDMの障壁を自覚する理由について,より多角的な分析が求められる.
つぎにSDMスコアの各項目は,医師・看護師ともに6.7(6.7~8.9)点~11.1(8.9~11.1)点であり,先行研究(Goto & Miura, 2023)の5.92 ± 2.7点~8.89 ± 8.5点よりも高かった.医師に特に高い項目は,SDM1「私は患者に,腎代替療法に関して何らかの決定をしなければならない事があるということを明確に伝えた」,SDM3「私は患者に,今回の症状に対して様々な腎代替療法の選択肢があることを伝えた」,SDM6「私は患者に,腎代替療法においてどの選択肢を希望するか尋ねた」であった.これらは,「腎代替療法決定の必要性の説明」「腎代替療法選択肢の提示」「希望する腎代替療法選択肢の聞き取り」という治療方針の決定プロセスに関するものと考えられた.SDM3は,医師と同じく看護師も高い項目であり,「腎代替療法選択肢の提示」は,腎代替療法支援の中でも重要な支援として,両職種ともに重視していることが示唆された.看護師のSDM4「私は患者に,それぞれの腎代替療法のメリット(利点)とデメリット(欠点)を明確に説明した」は11.1(8.9~11.1)点と,先行研究の5.92 ± 2.7点と比べて高かった.看護師は,患者が腎代替療法を十分理解できるように説明する役割を担っていることが推察された.また,SDM7「患者と私は,それぞれの腎代替療法について徹底的に比較検討した」は,両職種ともに他の項目に比べて得点が低かった.治療選択肢の比較・検討を患者と共に行う段階については,両職種ともに課題があることが示唆された.
このことから,医師は治療方針の決定プロセスに関わる役割,看護師は患者が腎代替療法を十分理解できるように説明する役割を担っているという実態が明らかになり,各々の職種が異なる役割を担いながら協働している可能性が示唆された.
3. 腎代替療法選択を支援する医師と看護師の特徴コミュニケーション・スキルの【他者受容】は,先行研究の4.5(4.3~5.0)点(山本ら,2021)や3.8 ± 0.7点(前原,2023)に比べて,医師4.8(4.0~5.3)点,看護師5.0(4.3~5.3)点と高い結果であった.【他者受容】は,相手の意見や立場に共感・尊重する側面をもつ.このスキルは,対人スキルに分類され高次なコミュニケーション・スキルに位置づけられる(藤本・大坊,2007).腎代替療法選択を支援する医師と看護師は,相手の意見や立場を理解し尊重するという役割に応じたコミュニケーション・スキルで患者を支援している可能性が示唆された.
共感力の【共感的関心】は,先行研究の3.7 ± 0.6点(登張,2003)に比べ,医師3.9(3.5~4.2)点,看護師4.0(3.7~4.4)点と高かった.【共感的関心】は他者の感情体験に同調し,他者志向の気持ちをもつ側面を表している.腎代替療法選択を支援する医師や看護師は,患者の立場や気持ちに寄り添い,心理的側面を理解する姿勢をもつことが示唆された.
社会人基礎力は,先行研究(北島・細田,2017)の【チームワーク】74.0(69.0~81.0)点に比べ,本研究の看護師は77.0(72.0~83.3)点と高かった.これは,看護師が日常的に多職種と連携しながら患者支援を実践する中で,チーム医療を体現していることが示唆された.意思決定支援は,多職種協働による支援体制が重要であることを踏まえると(Goto et al., 2021),看護師の高いチームワーク力は,意思決定を促進するうえで強みと考えられた.
以上の結果から,腎代替療法選択を支援する医師と看護師の特徴が明らかとなった.すなわち,医師と看護師は,相手の意見や立場を共感・尊重しながら,他者の感情体験に同調し,患者の立場や気持ちに寄り添う姿勢をもつことが示唆された.さらに,看護師は,高いチームワーク力をもとに意思決定を促進している可能性が示唆された.
4. 腎代替療法選択支援における医師と看護師各々のSDMスコアの関連要因 1) 医師のSDMスコアの関連要因医師では性別,職種経験年数,SDMの障壁,共感力の【気持ちの想像】,社会人基礎力の【アクション】がSDMスコアと有意に関連していた.
性別では,女性医師のSDMスコアが高かった.先行研究で,女性医師は患者との相互交流や感情的側面の配慮に優れていることが報告されており(早野,2007;野呂ら,2010),このような特性はSDMに影響することが考えられた.
また,経験年数が短いほどSDMスコアが高かった.その背景には近年の医学教育の影響が考えられる.21世紀初頭より従来の医師主導の医療(Parsons & Fox, 1952)から,患者中心の医療(Hoffmann et al., 2014)にパラダイムシフトし,医学教育モデル・コア・カリキュラム改訂では,資質・能力に「総合的に患者・生活者をみる姿勢」が追加されるようになった(文部科学省,2022).患者中心の医療を医学教育で推進する中で,若手医師ほどSDMを実践する傾向が示されたと考えられる.
さらに,SDMの障壁を自覚している医師ほどSDMスコアが低かった.SDMの障壁には,時間的制約(Elwyn et al., 2012),医療者側のスキル不足や患者側の受け入れ準備不足(Joseph-Williams et al., 2014)が指摘されている.今後は,SDMの障壁を明確にしたうえで,SDMの障壁を除外するような組織的な支援体制の整備が重要である.
共感力のうち【気持ちの想像】がSDMスコアに関連していた.【気持ちの想像】は,誰かを批判する前に相手の立場や気持ちを想像し,相手を理解しようとする側面をもつ(登張,2003).医師のSDM実践には,他者感情を想像することを基盤とし,患者の価値観や背景を踏まえて治療方針を協議する姿勢が求められることが示唆された.
さらに,SDMスコアには社会人基礎力の【アクション】が関連していた.【アクション】は,チームにおける自分の役割を見極め,困難な状況でも目標達成のために,粘り強くメンバーに働きかける能力である.チームメンバーの協力を得るために積極的に働きかける医師の自発的かつ自律的な行動が,SDM実践の基盤となることが示唆された.
2) 看護師のSDMスコアへの関連要因看護師のSDMスコア関連要因は,SDMの認知とコミュニケーション・スキルの【自己主張】であった.
まず,SDMの認知については,医療者自身がSDMの概念を正確に認識していなければ,患者との協働的な意思決定は成立し得ないことが指摘されており(津村・明石,2024),先行研究と一致した結果であった.SDMは,患者の価値観や希望を尊重しながら,医療者と患者が対等な立場で意思決定を行うプロセスといわれ(Elwyn et al., 2012),単なる意思決定手法ではなく,患者の価値観や生活背景を尊重するケアの在り方でもある.看護師がSDMをケアとして実践するためにSDMの概念を正確に認識することは,SDMの質を高める可能性が示唆されたため,SDM教育の充実が課題となる.
ただし,SDMの認知については,看護師の97.5%が「知っている」と回答しており,分布の偏りが認められた.よって,得られた結果は,変数の偏りの影響を受けている可能性があり,結果の一般化には慎重な解釈が求められる.また「SDMを知っているか」という質問項目の解釈には,「言葉として知っている」から「詳細な実践スキルを知っている」まで,幅のある回答が得られた可能性がある.今後は「SDMの認知」を,より精緻に測定できるように検討していく必要がある.
また,コミュニケーション・スキルの【自己主張】が,看護師のSDMと関連しており,相手に対して柔軟な対応で話を進めながら,自分の主張を論理的に筋道を立てて説明する姿勢が,SDMに重要であることが示唆された.看護師は,SDMでは,患者の価値観や意向を的確に把握し,多職種チームに伝える仲介者としての役割が期待されている(有田・中野,2019;稲垣,2020).この役割を果たすためには,単に情報を伝達するにとどまらず,チーム内で他職種に対しても患者の意向を論理的かつ説得力をもって主張できる能力が必要である.本研究で示された【自己主張】スキルとの関連は,このような看護師の代弁者としての機能を支える重要な要素であると考えられる.このことから,単なる情報の伝達だけではなく,看護師自らが,自分の意見や立場を相手に受け入れてもらえるように主張する能力をもつことは,他の医療専門職と対等に意見を交わし,建設的な議論を展開することにつながり,結果的にSDMの推進に繋がると考えられた.今後,看護師のSDM教育では,知識の獲得に加えて,自己主張スキルを育成するためのトレーニングが有効と考えられ,体系的なSDM教育の導入が求められる.
以上より,SDMを推進する医師と看護師の特性は異なるため,双方の特性を理解し補完し合うことで,協働してSDMを実践する重要性が示唆された.
5. 本研究の限界と今後の課題本研究の限界として3点が考えられる.1点目は,本研究は横断調査であり,変数間の関連性を示すことは可能であるが,因果関係を明確にすることはできない.2点目は,重化回帰分析結果において,医師に比べて看護師のモデルの決定係数(R2)が低く,従属変数に対する説明力が不十分であった.この結果は,看護師の意思決定や行動に影響を与える要因が,本研究で用いた変数以外にも存在する可能性を示唆している.今後は質的研究法を用いるなど,今回の研究とは異なるアプローチ法をとることで,看護師のSDM関連要因を具体的に明らかにする必要がある.3点目は,一部の独立変数に分布の偏りがみられており,結果の解釈には慎重を要する点である.今後は,SDMに関する知識や理解の程度をより精緻に測定するなどの検討が必要である.
腎代替療法選択支援に関与する医師と看護師のSDMスコアの影響要因は,医師では性別,経験年数,SDMの障壁,共感力【気持ちの想像】,社会人基礎力【アクション】,看護師ではSDMの認知およびコミュニケーション・スキル【自己主張】であった.質の高いSDM実践には,医師は,SDM障壁の除去,相手への想像力および主体性をもち周囲に働きかける実行力の育成,看護師は,SDMの認知向上,柔軟かつ論理的な主張能力の育成といった教育支援が必要である.今後は,医師と看護師の特性を踏まえてSDM教育を導入すること,職種間で補完し合う協働関係を構築することが求められる.
付記:本研究は,名古屋市立大学大学院看護学研究科に提出する博士論文の一部である.
謝辞:本研究にご協力くださいました病院施設の関係者の皆様,調査にご協力下さいました医師および看護師の皆様に心より感謝を申し上げます.本研究は,JSPS科研費(24K13839)の研究助成を受け実施した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:MIは研究の着想およびデザイン,調査の実施,分析および草稿の作成までのすべてに貢献;SKは研究の着想およびデザイン,分析および原稿執筆への示唆に助言者として貢献;YKは研究の着想およびデザイン分析および原稿への示唆に助言者として貢献;YAは研究の着想およびデザイン,調査の実施,分析および原稿への示唆,研究のプロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承諾した.