日本看護科学会誌
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看護基礎教育課程における教育投資と収益率の比較:私的および社会的内部収益率の推計
秋山 直美中山 徳良
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2025 年 45 巻 p. 854-863

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Abstract

目的:看護師国家試験受験資格の教育課程として大学,短期大学,高等専門学校を対象に,教育投資の私的・社会的収益率を比較検討する.

方法:私的費用には入学金・授業料等および進学による放棄稼得を含め,社会的費用には公的補助金を加味した.看護師と高卒者の賃金差から期待生涯賃金を算出し,内部収益率を推計した.データは各種統計資料および教育機関の公開情報を用いた.

結果:私的収益率は私立高等専門学校(男子:1.4%,女子:13.8%)が最も高く,私立大学(男子:–3.4%,女子:8.4%)が最も低かった.社会的収益率は,私立高等専門学校(男子:1.2%,女子:13.4%)が最高で,国立大学(男子:–4.3%,女子:7.3%)が最低であった.

結論:高収益率の3年制課程に比して,4年制大学進学者が増加する背景は明らかではなく,進路選択や看護の質との関連を含む包括的な研究が求められる.

Translated Abstract

Objective: This study compared the educational investment and economic returns of different nursing education pathways in Japan that qualify students to take the national examination for registered nurses, specifically universities, junior colleges, and technical colleges.

Methods: Private costs were calculated by including admission fees, tuition, other mandatory payments, extracurricular activity costs, commuting expenses, and the earnings foregone by female high school graduates owing to continued education. Social costs were estimated by adding public subsidies and pre-tax foregone earnings to private costs. Expected lifetime earnings were calculated based on the difference between the after-tax wages of registered nurses and high school graduates. The internal rate of return (IRR) method was used to estimate both private and social rates of return. The data were drawn from government statistics and publicly available information from educational institutions.

Results: The analysis indicated that the private rates of return were highest for private technical colleges (male: 1.4%, female: 13.8%), whereas the lowest values were observed for private universities (male: –3.4%, female: 8.4%). Regarding the social rates of return, private technical colleges also yielded the highest values (male: 1.2%, female: 13.4%), while the lowest were recorded for national universities (male: –4.3%, female: 7.3%).

Conclusion: Although junior colleges and technical colleges demonstrate higher returns, the proportion of students entering university continues to rise. The reason for this discrepancy, however, remains unclear. Future research should incorporate frameworks for quantitatively evaluating educational outcomes and exploring the relationship between educational choices and quality of nursing care. Comprehensive investigations are needed to inform evidence-based educational and career decision making in nursing.

Ⅰ. 緒言

看護師になるためには,看護師国家試験の受験資格に該当する教育を受ける必要がある.これを得るための主な進路として,①文部科学大臣の指定した学校教育法に基づく大学において看護師になるのに必要な学科を修めて卒業する,②指定学校において3年以上看護師になるのに必要な学科を修了する,③看護師養成所を修了する,など複数の経路が存在する(厚生労働省,2024).このように,看護師国家試験の受験資格を得るためには,大学・短期大学・専門学校など多様な教育課程の選択肢が存在しており,看護師を目指す者はそれぞれの教育課程に対して教育投資を行っているといえる.

2024年度診療報酬改定において,厚生労働省は全体で+0.88%の方針を示し,そのうち看護職員や病院薬剤師などの処遇改善分として+0.61%を充てるとされた.さらに2024年度にはベースアップ+2.5%,2025年度には+2.0%を目指すとされており,これを受けて全国の医療機関で賃上げの検討が求められている(厚生労働省,2025).しかし,これらの政策には「学歴収益率」の観点は考慮されていない.

学歴収益率は,教育投資の収益率を測る指標の一つである(北條,2018).ここでの教育投資とは,高等教育を受けるために費やす時間(機会費用)や授業料などの教育費用を指す.その結果として得られる見返り,つまり便益には,賃金や所得の増加,就業機会の拡大などを含むものである.収益率とは,教育投資として支払った費用に対して,教育によって得られる便益がどの程度の割合で返ってくるかを示す指標である.収益率のうち内部収益率(Internal Rate of Return: IRR)とは,便益である高等教育後の賃金増加分を割引現在価値に換算して,教育費用と比較することで投資効果を示す指標である.貨幣の時間価値(同一金額でも,現在と将来とでは価値が異なるという考え方)により,将来の収入をそのまま評価すると過大に見積もられるため,現在価値に割り引く必要がある.こうして得られた割引現在価値を用いることで,教育費用と将来の便益を同一基準で比較できる.実際に,大学卒業者の私的内部収益率は6~8%(妹尾・日下田,2011北條,2018)とされ,女性においては,結婚・出産後も継続就労する者に限った場合,短期大学・高等専門学校で7.9%,大学卒業者で8.3%との報告がある(遠藤・島,2019).医療職における先行研究では,私立医学部卒の私的収益率は8.7%,国立医学部卒では17.1%,歯学部でも同様に高い水準が報告されている(荒井,1986).看護職に関しては,3年課程修了者を対象とした研究で14%の私的内部収益率が示されており,国立大学卒女性よりも高いとされる(角田,1994遠藤,2019).

しかしながら,これまでの先行研究の多くでは,看護基礎教育課程の多様性や,それに伴う教育年限・学費構造の違いに十分な配慮がなされていない.実際,国立大学は授業料が概ね全国一律であるのに対し,公立大学では地域内外で入学金に差があり,私立大学では入学金・授業料に大学間で大きなばらつきが存在する.こうした教育機関ごとの学費構造の違いは,教育投資としての収益性を評価する上で看過できない要素であるにもかかわらず,既存研究では十分に考慮されていない.したがって,看護職を対象に大学・短期大学・高等専門学校といった多様な養成課程における教育費用と便益を比較し,教育投資としての収益率を明らかにするには,個人の進路選択に資するのみならず,医療人育成に関する政策的意思決定の基礎資料を提供するという学術的・社会的意義がある.そこで本研究では,看護師に係る教育課程の多様性を踏まえ,看護基礎教育の形態別に内部収益率を比較・検討することを目的とする.

Ⅱ. 方法

1. データ

収益率には私的収益率と社会的収益率がある.私的収益率は,個人が負担した教育費用や進学による放棄稼得と,それによって得られる生涯賃金の増加分を比較して算出される.一方,社会的収益率は,私的費用に加えて国や自治体による補助金など公的支出を含めた費用と,それによって社会全体が得る便益を比較したものである.いずれも数値が高いほど教育投資の効率性が高いことを意味し,個人にとっては進学の経済的合理性を,社会にとっては教育政策の有効性を示す指標となる.したがって,本研究では教育投資を個人の視点と社会全体の視点の双方から評価するために,私的費用と社会的費用を区別して算出する.

「私的費用」は,教育費用(入学検定料,入学金,授業料,その他の学校納付金,修学費・課外活動費・通学費),大学に進学することによる放棄稼得(高卒女子税引き後賃金)を加算して,アルバイトと定職・その他の収入を減算して求めた.さらに,私的費用に学生1人当たりの補助金,放棄稼得(高卒男子・女子税引き前賃金)を加算して「社会的費用」を計算した.

収益は,21歳(3年制)または22歳(4年制)から65歳までの看護師の賃金と高卒の年齢別の賃金の差とした.

各項目の詳細は下記の通りとする.

1) 費用

教育に係る私的費用は2019年を基準年として,4年制大学は2022年まで,3年制の短期大学・高等専修学校は2021年までを対象とした.

(1) 教育費用

①国立大学

入学試験に係る費用は,大学入学共通テスト検定(3教科以上受験と仮定)18,000円(大学入試センター,2025)と大学の二次試験の検定料17,000円(文部科学省高等教育局国立大学法人支援課,2010)を合計し,一律35,000円とした.看護系大学の一般入試では3教科以上の受験を課す場合が多く,1~2教科入試は例外的であると考えられるため,本研究では3教科以上受験を仮定した.入学金・授業料は一律として,それぞれ28,200円と535,800円とした.納付金・就学費・課外活動費・通学費に関する調査報告として「学生生活調査結果」があるが偶数年のみの調査であるため,2019年は2018年度調査結果(独立行政法人日本学生支援機構,2020a)を,2021年は2020年度結果(独立行政法人日本学生支援機構,2022a)を代用した.2020年(独立行政法人日本学生支援機構,2022a)と2022年(独立行政法人日本学生支援機構,2024)は各調査年度の結果を使用した.国立大学学部(昼間部)の値を使用とした.

②公立大学

入学試験に係る費用は,国立大学と同様,大学入学共通テスト検定(3教科以上受験と仮定)18,000円(大学入試センター,2025)とした.加えて,大学の二次試験の検定料は「学生納付金調査結果(文部科学省,2019, 2020, 2021, 2022)」から,看護学系の学科を設置する大学50校を選定した.検定料と同様に,入学料・授業料も学生納付金調査結果から収集した.公立大学の場合は,地元自治体からの学生である「地域内」と,他の自治体からの学生である「地域外」とは入学料や学費に差を設ける場合があるため,地域内外を別に取り扱った.

2020年度以降の納付金・就学費・課外活動費・通学費については国立大学と同様,「学生生活調査結果(独立行政法人日本学生支援機構,2020a, 2022a, 2024)の公立大学昼間部の値を使用した.2019年度に関しては,「全国大学受験年鑑(旺文社編,2018a, 2019a, 2020a, 2021)」の初年度納入金のうち入学料と授業料を除く金額の平均を納付金とした.2020年度以降は国立大学と同様に「学生生活調査結果(独立行政法人日本学生支援機構,2020a, 2022a, 2024)」を参考値とした.

③私立大学

検定料・入学金・授業料は「全国大学受験年鑑」から,2019年時点に創立され,2022年度まで存続する看護系学部・学科を有する185校の大学を選定した(旺文社編,2018a, 2019a, 2020a, 2021).なお,検定料は大学入学共通テスト型,推薦入試などの入試方法により金額が異なるが,本調査では募集人数の最も多い大学入試型の検定料を用いた.納入金は,2019年度は「全国大学受験年鑑」から,2020年度以降は「学生生活調査結果(独立行政法人日本学生支援機構,2020a, 2022a, 2024)」の私立大学昼間部の値を使用した.就学費・課外活動費・通学費についても「学生生活調査結果(独立行政法人日本学生支援機構,2020a, 2022a, 2024)」から得た.

④私立短期大学

入学試験の検定料に関して,該当するデータが見当たらなかったため,私立短期大学11校のホームページから2025年5月9日時点のデータを収集した.公立短期大学は2019年度2020年度までのデータしかなかったため,対象から除外した.入学金・授業料・2019年度の納入金は「全国短大進学ガイド(旺文社編,2018b, 2019b, 2020b)」を用いた.また,2020・2021年度の納入金,2019~2021年度の修学費・課外活動費・通学費は「学生生活調査結果(独立行政法人日本学生支援機構,2020a, 2022a)」を用いた.

⑤高等専門学校

入学試験の検定料に関するデータは見当たらなかったため,「マイナビ進学(n.d.)」のホームページを参考に10,000~30,000円程度が一般的という記述から中央値15,000円を検定料と仮定した.入学金・授業料・納付金(実習費・施設費・その他)については,「専修学校各種学校調査統計資料(公益社団法人東京都専修学校各種学校協会,2019, 2020, 2021)」のうち,専門課程の「第3分野医療関係内看護」の値とした.加えて,就学費・課外活動費・通学費は「高等専門学校生生活調査結果(独立行政法人日本学生支援機構,2020b, 2022b)」を参考とした.

(2) 放棄稼得

高卒男子・女子税引き前賃金は,2019年度の「賃金構造基本統計調査(e-Stat, 2020)」の高校卒の男子・女子の「きまって支給する現金給与額」および「年間賞与その他特別給与額」から年収を計算した.賃金データは5歳刻みの年齢区分で示されていたため,1歳刻みの値に変換するにあたり,各年齢区分の中央値に対応する賃金を実測値とし,それ以外の年齢に対してはスプライン補間を用いて推定した.税引き後賃金は,税引き前賃金に対して給与所得控除(国税庁,2025a)および所得税率(国税庁,2025b)を適用して課税所得を算出し,これを税引き前賃金から差し引くことにより求めた.

(3) アルバイト,定職・その他の収入

大学・短大に関しては,「学生生活調査結果(独立行政法人日本学生支援機構,2020a, 2022a, 2024)」から関連情報を取得した.

(4) 補助金

国立大学の学生1人あたりの補助金額については,「令和3年度予算要望(日本私立大学団体連合会,2020)」に掲載された2019年度のデータを参照した.2020年度以降の公表値がなかったため,2019年度の数値を2020~2022年度の補助額として代用した.公立大学に関しては,「公立大学ファクトブック2022(一般社団法人公立大学協会,2022)」に示されている保健系分野の「地方交付税基準財政需要額における学生1人あたり単位費用」を参考とした.私立大学・短期大学および高等専門学校に関する補助金は,日本私立学校振興・共済事業団が公表する「私立大学等経常費補助金交付状況の概況(日本私立学校振興・共済事業団,2019, 2020, 2021, 2022)」を用いた.

2) 収入

(1) 社会的収入

税引き前所得である社会的収入に関しては,放棄稼得と同様,2019年度の高卒男子・女子税引き前賃金を「賃金構造基本統計調査(e-Stat, 2020)」から得た.看護師の収入も同様に,「賃金構造基本統計調査(e-Stat, 2020)」の産業別統計を用いて,「きまって支給する現金給与額」および「年間賞与その他特別給与額」から年収を計算した.放棄稼得と同様,5歳刻みの賃金データは,スプライン補間を用いて,1歳刻みの値に変換した.

(2) 私的収入

税引き後所得である私的収入の算出にあたっては,所定内給与額に対して給与所得控除(国税庁,2025a)および所得税の税率(国税庁,2025b)を適用した.男子・女子に分けて,看護師の税引き後賃金と高卒税引き後賃金の差額を,期待生涯賃金として算出した.本来であれば,看護師の賃金に関しては,学歴別の生涯賃金を用いるのが望ましいが,「賃金構造基本統計調査」などでは,職業別の学歴別賃金のデータは示されておらず,本調査において想定ができなかった.

2. 分析

本研究では,教育投資に対する収益性を評価する手法として内部収益率法を用いた.これは,私的費用の現在価値と私的収益の現在価値,あるいは社会的費用の現在価値と社会的収益の現在価値が等しくなるような割引率(r)を求めるものである.

  
t = 18 T C u t + W h t ( 1 + r ) t 18 = t = T + 1 65 W u t W h t ( 1 + r ) t 18

Cu: 大学教育あるいは3年制教育に要する費用

Wu: 大学卒業後あるいは3年制教育後に就職した者の賃金

Wh: 高校卒業後就職した者の所得

t: 投資者の年齢 r: 投資者の収益率

Ⅲ. 結果

1. 教育形態別の費用構造と期待生涯賃金の比較

表12に教育形態別の費用の内訳と放棄稼得を示す.教育費用(入学料,授業料,学校納付金,課外活動費などを含む)の合計は,最も低い公立大学(地域内)で約293万円,最も高い私立大学で約791万円であった.これに対し,放棄稼得(高校卒業後に就業した場合の賃金の逸失額)は男子約1,107万円(税引き前),女子約973万円と算出された.アルバイト・定職などの収入を差し引いた後の実質的な放棄稼得は,国立大学で男子約947万円・女子約756万円,私立高等専門学校で男子約656万円・女子約537万円と幅があった.補助金の平均額は,国立大学で約776万円,公立大学(地域内)で約683万円,私立大学で約57万円と,国公立大学の方が補助は手厚い傾向にあった.

表1 看護基礎教育別教育費用と期待便益(男子)

国立大学 公立大学
(地域内)
公立大学
(地域外)
私立大学 私立短大 私立
高等専門学校
教育費用合計 3,049,700 2,932,574 3,086,274 7,906,741 3,586,927 3,460,000
入学検定料 35,000 17,620 17,620 31,686 30,273 15,000
入学金 282,000 230,476 382,476 267,254 207,692 203,000
授業料 2,143,200 2,151,224 2,151,224 4,804,651 2,337,693 2,004,000
その他の学校納付金 42,200 119,154 120,854 2,302,050 628,269 770,000
修学費,課外活動費,通学費 547,300 414,100 414,100 501,100 383,000 468,000
放棄稼得合計 9,466,133 9,362,433 9,362,433 9,276,465 6,733,600 6,559,466
高卒男子税引き前賃金 11,066,933 11,066,933 11,066,933 11,066,933 7,882,800 7,882,800
高卒男子税引き後賃金 10,715,973 10,715,973 10,715,973 10,715,973 7,634,280 7,634,280
(-)アルバイト 1,375,966 1,534,566 1,534,566 1,534,334 944,734 964,334
(-)定職・その他 224,834 169,934 169,934 256,134 204,466 359,000
家庭からの給付 3,621,366 3,011,800 3,011,800 4,843,234 2,583,434 2,552,034
奨学金 1,199,800 1,380,466 1,380,466 1,627,766 1,330,500 1,482,300
補助金 7,760,000 6,831,000 6,831,000 574,000 452,000 468,000
私的費用 12,164,873 11,944,048 12,097,748 16,832,247 10,072,007 9,770,946
社会的費用 20,275,833 19,126,008 19,279,708 17,757,207 10,772,527 10,487,466
私的便益 10,793,397 10,793,397 10,793,397 10,793,397 11,426,789 11,426,789
社会的便益 11,242,917 11,242,917 11,242,917 11,242,917 11,900,469 11,900,469

単位:円

表2 看護基礎教育別教育費用と期待便益(女子)

国立大学 公立大学
(地域内)
公立大学
(地域外)
私立大学 私立短大 私立
高等専門学校
教育費用合計 3,049,700 2,932,574 3,086,274 7,906,741 3,586,927 3,460,000
入学検定料 35,000 17,620 17,620 31,686 30,273 15,000
入学金 282,000 230,476 382,476 267,254 207,692 203,000
授業料 2,143,200 2,151,224 2,151,224 4,804,651 2,337,693 2,004,000
その他の学校納付金 42,200 119,154 120,854 2,302,050 628,269 770,000
修学費,課外活動費,通学費 547,300 414,100 414,100 501,100 383,000 468,000
放棄稼得合計 7,558,800 7,455,100 7,455,100 7,369,132 5,548,000 5,373,866
高卒女子税引き前賃金 9,734,828 9,734,828 9,734,828 9,734,828 7,055,400 7,055,400
高卒女子税引き後賃金 9,430,628 9,430,628 9,430,628 9,430,628 6,835,860 6,835,860
(-)アルバイト 1,375,966 1,534,566 1,534,566 1,534,334 944,734 964,334
(-)定職・その他 224,834 169,934 169,934 256,134 204,466 359,000
家庭からの給付 3,621,366 3,011,800 3,011,800 4,843,234 2,583,434 2,552,034
奨学金 1,199,800 1,380,466 1,380,466 1,627,766 1,330,500 1,482,300
補助金 7,760,000 6,831,000 6,831,000 574,000 452,000 468,000
私的費用 10,879,528 10,658,702 10,812,402 15,546,901 9,273,587 8,972,526
社会的費用 18,943,728 17,793,902 17,947,602 16,425,101 9,945,127 9,660,066
私的便益 71,277,150 71,277,150 71,277,150 71,277,150 72,273,684 72,273,684
社会的便益 74,150,850 74,150,850 74,150,850 74,150,850 75,184,204 75,184,204

単位:円

これらを踏まえた私的費用は,国立大学で男子約1,216万円・女子約1,088万円,私立大学で男子約1,683万円・女子約1,555万円,私立短期大学で男子約1,007万円・女子約927万円,私立高等専門学校で男子約977万円・女子約897万円,また社会的費用はそれぞれ男子約2,028万円・女子約1,894万円,男子約1,776万円・女子約1,643万円,男子約1,077万円・女子約995万円,男子約1,049万円・女子約966万円であった.

大学の私的便益合計は男子約1,079万円・女子約7,128万円,社会的便益合計は男子約1,124万円・女子約7,415万円だった.3年制私立短大,私立高等専門学校の私的便益合計はそれぞれ,男子約1,143万円・女子約7,237万円,社会的便益合計は男子約1,190万円・女子約7518万円だった.

また,教育課程別の賃金推移を示す賃金プロファイル(図12)を作成し,年齢とともに賃金がどのように変化するかを視覚的に示した.その結果,男子では20~30代は高卒より高水準であるが,40代以降は賃金上昇が緩やかとなり,50代後半では高卒を下回った.一方,女子では全世代を通じて看護師が高卒を上回っていた.

図1  2019年 賃金プロファイル(税引き前・税引き後賃金・男子)
図2  2019年 賃金プロファイル(税引き前・税引き後賃金・女子)

2. 教育形態別の私的収益率・社会的収益率

表3に教育形態別の収益率を示す.私的収益率は私立高等専門学校が最も高く(男子:1.4%,女子:13.8%),最も低いのは私立大学だった(男子:–3.4%,女子:8.4%)であった.一方,社会的収益率が最も高いのは私立高等専門学校(男子:1.2%,女子:13.4%)だった.社会的収益率は,私立高等専門学校が最も高く(男子:1.2%,女子13.4%),国立大学が最も低かった(男子:–4.3%,女子:7.3%).

表3 看護基礎教育別の収益率

男子 女子
私的収益率 社会的収益率 私的収益率 社会的収益率
国立大学 –0.10% –4.30% 11.50% 7.30%
公立大学(地域内) –0.90% –4.00% 11.80% 7.70%
公立大学(地域外) –1.00% –4.00% 11.60% 7.70%
私立大学 –3.40% –3.50% 8.40% 8.30%
私立短期大学 1.20% 0.90% 13.40% 13.10%
私立高等専門学校 1.40% 1.20% 13.80% 13.40%

Ⅳ. 考察

1. 教育形態別の収益率の差

本研究の結果,教育形態によって得られる内部収益率に差異が認められた.教育の内部収益率に関する先行研究では,大学卒の私的内部収益率は6~8%程度と報告されており(妹尾・日下田,2011北條,2018),看護師については3年課程修了者(看護師・准看護師)の内部収益率が14%に達するとの報告もある(角田,1994遠藤,2019).本研究では,大学における私的収益率は男女ともに私立高等専門学校が最も高く,私立大学が最も低い結果となった.女子の値はいずれも先行研究における大学卒の私的収益率を上回っていたが,男子においては著しく低い水準であった.さらに3年制教育課程においては,私立高等専門学校が女子13.8%,私立短期大学が13.4%と,いずれも先行研究と同程度の高い収益率が確認された一方で,男子ではそれぞれ1.4%,1.2%にとどまり,大学卒よりは高いが低水準であった.

本稿ではデータの制約から私立高等専門学校のみを対象としたが,公立や医師会立の高等専門学校も存在し,これらは私立に比して教育費が低く抑えられている.北海道から岐阜県までの公立看護高等専門学校65校のホームページに基づき,2025年6月18日時点で公表されている教育費用を確認した結果,入学検定料は2,000~20,000円,入学金は5,650~150,000円,授業料132,000~1,440,000円(3年間),納入金75,000~1,280,000円(3年間)であった.これらのうち,3年間分の費用が明記されていた47校の平均値に基づき再推計したところ,私的内部収益率は男子3.4%・女子16.4%,社会的収益率は男子3.0%・女子15.7%となった.各校の公表年度が明示されていないため厳密な比較は困難であるが,公立高等専門学校における教育投資の収益性は私立よりさらに高い可能性が示唆された.ただし,男子においては公立高等専門学校であっても依然として低い収益率であった.

本研究に用いた賃金構造基本統計調査における看護師の平均勤続年数は,男子7.2年,女子8.3年であった.高卒者の平均勤続年数は14.4年であり,男性看護師よりも長かった(厚生労働省,2020).看護師の賃金は20~30代で高卒より高い一方,40~50代にかけては賃金上昇が緩やかとなり,50代では高卒者の賃金が上回る傾向がみられる.男性看護師は特定の組織でのみ役立つ知識,スキル,経験が男性高卒一般労働者と比較してあまり必要ないため,転職が容易で男性看護師の平均勤続年数が高卒者に比べて短いことが想定される.そのため,賃金プロファイルがフラットになっている可能性がある.看護師の生産性に関する先行研究は限られているため,本研究の結果のみからその背景を断定することはできないが,年齢とともに生産性が上昇しない可能性,あるいは上昇していたとしてもそれを適正に評価する制度が存在しない可能性が示唆される.

高卒と大卒の収益率を比較すると,男女ともに3年制課程の方が4年制課程よりも高かった.しかし,看護師の供給状況に着目すると,大学は全国に293校あり,卒業者24,284名のうち20,032名が看護師として就業している.一方,短期大学は13校で就業者は765名,高等看護学校は534校で21,173名であった(e-Stat, 2024).このことから,大学卒の看護師は,高等看護学校卒に並ぶ規模の就業者数を輩出するに至っている.すなわち,収益率という経済合理性の観点からは大学卒の看護師は相対的に低い水準にとどまるものの,看護師志望の若者の多くが4年制大学を選択している現状には,経済的便益を超えた要因,たとえばキャリア志向,専門性の追求,学士取得による将来的展望などが影響している可能性がある.この点については,今後,看護の質に関する研究による補完的な検討が求められる.

多くの国では,看護基礎教育の主流は3年または4年制であり,特に学士課程においては,ケアの提供の安全性を高めるためのクリティカル・シンキング・スキルの育成に力が注がれている(NCGM, 2020).学士取得者の割合が高い看護職グループからケアを受ける患者は,死亡率が低くなるとの報告がある(Aiken et al., 2014Haegdorens et al., 2019).しかし,こうした教育水準とアウトカムの関連性については,日本国内では系統的な研究や大規模調査の報告が存在せず,実証的エビデンスが不足しているのが現状である.さらに,海外においては,準学士(associate degree)と学士(bachelor’s degree)の看護師の間で生涯賃金に明確な差異があることが報告されており,学士の方が高い賃金プレミアムを得ている(Spetz & Bates, 2013).一方で日本では,看護師における学歴による給与水準や昇進,役職配置の差異に関する定量的データや制度的裏づけは示されておらず,制度上も実態上も,学歴差が十分に評価・反映されているとは言いがたい.このような結果から,現行の日本の看護職制度では,教育年数や学位水準と職業的成果(収入・昇進・責任範囲・アウトカム)との接続が構造的に不透明であり,高等教育としての投資に対する正当なリターンが可視化されにくく,学士課程を選択する動機づけを弱める結果にもなりかねない.

2. 本研究の限界

本研究には,主に三つの限界が存在する.

第一に,公表データを用いたことに伴う制約がある.本研究では,学費などのデータは毎年公表されている一方で,学生生活調査は偶数年のみの実施であり,奇数年は推計値を用いざるを得なかった点,また,大学卒看護師と高等看護学校卒看護師の初任給差を考慮できなかった点,さらに都市部と地方での費用差を反映できなかった点などが限界として挙げられる.他方,公表データに基づく推計は全数調査や全国調査を利用した部分も多く,信頼性の高い基礎資料に基づいている点は強みと言える.第二に生産性の考慮ができていない点である.日本国内においては,大学卒看護師と高等専門学校卒看護師の生産性に明確な差異があることを示す実証的エビデンスは見当たらない.また,海外の先行研究においては,看護師の学歴と死亡率といった患者アウトカムとの関連が定量的に示されているが,日本においては,同様の視点から大規模な定量研究がほとんど行われておらず,今後の課題である.第三に,4年制と3年制の教育課程間における教育の質の差異を,本研究では考慮できていない点である.現時点で,日本において教育課程間の教育の質を定量的に比較・評価した先行研究は乏しく,本研究においてもその違いを反映することは困難であった.

以上のように,本研究は教育の質や看護の質に直接関わる要素を含んでおらず,アウトカム評価の面では限定的である.しかしながら,全国の看護基礎教育機関に関する公開データを可能な限り収集し,実態に即した教育費用をもとに私的・社会的内部収益率を推計した点において,現行の制度下での看護師教育における経済的評価を,実証的に示したという点で意義があると考える.

Ⅴ. 結語

本研究では,看護師国家試験の受験資格を得るための教育課程の多様性に着目し,それぞれの教育形態に要する私的・社会的費用と,看護師としての期待生涯賃金の差から内部収益率を推計した.その結果,教育形態によって収益性には明確な差異が存在することが示された.特に,私立高等専門学校や私立短期大学の収益率は高かった.しかし,現実には大学進学を選択する看護学生が増加しており,単純な経済的便益だけでは説明しきれない動機が存在することも明らかである.一方で,本研究では学歴による生涯賃金の差や都市部と地方における費用構造の違いといった地域性を示す公表データが存在しないため,結果の一般化には限界があり,さらに大学卒と高等学校卒の初任給差を反映できていないことから,解釈にも一定の制約がある.だが,本研究は看護教育における内部収益率を定量化する方法論の一つを提示した点に意義があり,今後は教育課程の質,学士教育の成果,職業上のアウトカムとの関連を定量的に検証する研究へと発展させる必要がある.本研究の知見は,看護師養成制度の設計や教育投資のあり方を考える上での一つの参考資料となり得る.

著者資格:秋山直美はデータ作成や統計解析,草稿の作成を実施した.中山徳良は研究の着想およびデザイン,統計解析の実施への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

利益相反:本研究は開示すべき利益相反はない.

文献
 
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