2025 年 45 巻 p. 864-876
目的:軽症脳卒中患者が発症後に病気や今後についてどのようなことを思考したり感じたり行動したりしたかを明らかにし,脳卒中患者のACPに対する看護への示唆を得る.
方法:発症後1年程度までの外来通院中の軽症脳卒中患者20名を対象に半構造化面接を実施し,質的帰納的に分析した.
結果:〔脳卒中の後遺症や再発への恐怖と共に人生を生きることの不可避〕〔脳卒中と共に生きる自分を支えてくれる他者と他者を支えることができる自分の再認識〕〔脳卒中再発時の重症化を想定した身辺整理と心構え〕等の7カテゴリが得られた.
結論:再発時の重症化リスクに対する的確な認識や自己の社会的存在意義の実感が,後遺症・再発リスクと共に人生を生きることや再発時を想定した準備を後押ししていると推察された.脳卒中患者のACPに対する看護として,脳卒中の再発リスク・再発時の重症化リスクに対する患者の認識を強化すること等が重要と考えられた.
Aim: To elucidate the thoughts, feelings, and actions of minor stroke patients regarding their condition and future following the onset of stroke symptoms, in order to gain insights that may inform nursing care related to advance care planning (ACP) for this patient group.
Methods: Semi-structured interviews were conducted on 20 minor stroke patients receiving outpatient care who had experienced onset of symptoms during the previous year. Qualitative inductive analysis was conducted to evaluate results.
Results: Seven categories were derived, including the following: “the inevitability of living with the fear of stroke sequelae and recurrence,” “the re-recognition of support provided by themselves and their care takers,” and “getting one’s affairs in order and conducting mental preparation in case stroke recurrence with increased severity of symptoms occurs.”
Conclusion: An accurate assessment of the risk of increased severity of symptoms with stroke recurrence and realizations pertaining to the patient’s own societal significance had a facilitative effect on preparations made towards living with the aftereffects and recurrence risks of strokes. Furthermore, this also helped with the preparations made in case stroke recurrence occurs. Increasing patient awareness regarding the risk of stroke recurrence and increased severity of symptoms is crucial towards the provision of nursing care related to ACP for stroke patients.
高齢多死社会の日本の医療政策は終末期を在宅で過ごす方向にシフトし,いかに自分らしく過ごすかが重要視され,アドバンス・ケア・プランニング(以下,ACP)が注目されている.ACPについて,厚生労働省(2018)は「人生の最終段階の医療・ケアについて,本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセス」と定義している.看護師には,患者の苦痛や苦悩等にいち早く気づき,尊厳を守りながらその人らしく最期まで人生を全うできるよう支援することが求められており(日本看護協会,2021),ACPにおいて看護師に期待される役割は大きいといえる.
脳卒中などの脳血管疾患は,日本の死亡率の第4位(厚生労働省,2022),介護が必要となった原因の第2位である(厚生労働省,2023).一方,軽症の場合も多く,退院時の病型別modified Rankin Scale(機能障害の程度を評価するスケール,以下「mRS」)において,症状・障害がないグレード0から軽症であるグレード2までの割合は,一過性脳虚血発作86%,脳梗塞51%,くも膜下出血44%である(脳卒中データバンク事務局,2022).しかし,脳卒中は再発しやすく,日本における再発率は,発症後1年で12.8%,5年で35.3%,10年で51.3%との報告がある(Hata et al., 2005).初発時に比べ再発時は予後不良となり(松崎・杉谷,2015),重篤な機能障害を残す場合がある.再発し重症な場合にどのような医療・ケアを受けるかは,ACPが行われない限りは家族等による代理意思決定を行うこととなるため,軽症脳卒中患者は,再発予防や万一再発した場合に備えておく必要があり,軽症脳卒中患者のACPは重要と考えられる.
ACPに関する研究は国内外で広く実施されており,救急搬送された高齢者(玉川・西山,2023),高齢者の救急搬送に関わる在宅医療介護従事者(Yamazaki & Fujita, 2024),透析患者(Tsujimoto et al., 2024),がん・呼吸器疾患病院の医療者(小笠原ら,2024),在宅・施設で生活する高齢者(北谷ら,2024),認知症の人(Maters et al., 2025),小児(Meglič & Lisec, 2025)などを対象として実態や認識を調査したもの,ACPの促進・阻害要因を調査したもの(Brøderud et al., 2025),がん患者への無作為化比較試験(Volandes et al., 2025)などが報告されている.脳卒中に関しては,ACPと代理意思決定者の後悔との関連(Zahuranec et al., 2025),ACPと延命治療に関する人種・民族差(Enguidanos et al., 2025)などがみられ,2024年3月までの研究を対象としたスコーピングレビューでは,脳卒中患者へのACP介入に活用できる研究が限られていること,脳卒中患者へのACP導入に多くの課題があり効果的な戦略が必要であること,ACP推進のために専門職連携が必要でありそのための研究が必要であることが指摘されている(Yang et al., 2025).看護学分野のACPに関する研究は,がん(田代・藤田,2021;上田ら,2022),心不全(山本・吉岡,2020;西田,2021)の患者を対象としたものが多く,呼吸器疾患(田中ら,2019)などもみられたが,脳卒中に関しては国内では皆無であった.一方,国外では脳卒中の看護学研究が数件みられ,脳卒中の急性期病棟とリハビリテーション病棟におけるACPの実態(Green et al., 2014),脳卒中クリニックにおけるACP実施状況(Johnson et al., 2019),脳卒中発症前のACPの有無と発症後のComfort measures only(病院内での安楽措置のみ,またはホスピスを伴う退院)との関連(Lank et al., 2021)などが報告されていた.このように,脳卒中患者のACPに関する研究は国外では着手され始めているとはいえ発展途上にあり,看護学分野の研究は少なく,再発リスクを抱え,ACPが重要となる軽症脳卒中患者を対象とした研究は見当たらない.
先述した通り,脳卒中は初発時には軽症な場合が多いが,再発リスクが高く,再発時には重症化しやすいため,軽症脳卒中患者は予め自分の価値観と向き合い,万が一の場合の治療・ケアについて考えておくこと,すなわちACPの実施が重要となる.本研究は,軽症脳卒中後の患者が,病気や今後についてどのようなことを思考したり感じたり行動したりしたかを明らかにし,脳卒中患者のACPに対する看護への示唆を得ることを目的とする.
軽症脳卒中患者:mRSがグレード0(まったく症候がない)からグレード2(軽度の障害があり,発症以前の活動がすべて行えるわけではないが,自分の身の回りのことは介助なしに行える)の患者
発症後の体験:脳卒中発症後1年程度の間に,病気や今後についてどのようなことを思考したり感じたり,行動したりしたかに対する感覚的・身体的・知覚的な認識
質的記述的研究デザインを用いた.この研究デザインは,研究領域が比較的新しい,あるいは研究しようとしている現象についてほとんどわかっていないときや研究課題が人間の経験で,注意深い定義や記述が要求されるときなどに適している(グレッグら,2016).本研究で扱う現象は,研究実績が乏しく,対象者の経験の注意深い記述が必要であるため,適すと考えた.
2. 研究対象者次の条件を満たす軽症脳卒中患者とした.なお,主治医がカルテ上にmRSの記載をしていない場合は,主治医または外来看護師にグレード0~2の状態にあるかを確認した.
〔包含基準〕
1)脳卒中から回復し,外来通院している
2)脳卒中発症後,1年程度までの時期にある
〔除外基準〕
失語症や認知機能低下などにより会話が困難である
3. データ収集方法研究者が作成した面接ガイドを用いて半構造化面接を行った.面接は1回のみで,40~50分程度とし,対象者の外来受診時に実施した.面接では,病気の受け止め,発症前後の生活と気持ちの変化に対する認識,日常生活および人生において大切にしていること,再発時に受けたい医療・ケアについて考えていることや家族等との話し合い,などについて自由に語ってもらい,同意を得て録音し,逐語録を作成した.対象者の年齢,職業,家族構成,疾患名,治療経過,既往歴に関する情報を,対象者本人,または,対象者の許可を得たうえで診療録から得た.
4. 分析方法質的データの存在する文脈に関連付けて妥当な推論を行う方法で,メッセージのシンボリックな意味を探るという特徴をもつKrippendorff(1980/1989)の内容分析の手法を参考に,次の手順で分析した.なお,この手法は,軽症脳卒中患者の発症後の体験について語られた内容の文脈を重視しながらそこに含まれる意味を探る本研究に適していると考えた.①対象者ごとに逐語録を熟読して,発症後の体験を表す記述を対象者の言葉のまま抽出し,意味内容を変えないように端的に一文で表現し直しコードとした.②全対象のコードについて意味内容が同類のものを集め,集まったコードに共通して含まれる本質的な意味を表すように一文で書き表し小カテゴリとした.③すべての小カテゴリについて②と同様の手順で集め,さらに抽象度を上げて本質的な意味を表すよう一文で書き表して中カテゴリとし,さらに同様の手順で抽象度を上げて大カテゴリを生成した.なお,分析の全過程において,分析結果の適切性について研究者間で意見が一致するまで繰り返し検討するとともに,看護研究および質的研究の経験豊富なスーパーバイザーの指導を受けることで真実性を確保した.
本研究は,県立広島大学研究倫理委員会(承認番号:第23MH054号),および研究協力施設の倫理審査委員会の承認を得て実施した.対象者に,文書と口頭で,研究の主旨,研究協力の自由意思の尊重,拒否権の保証,拒否・中断した場合の不利益の回避,研究参加による利益・不利益,匿名性・プライバシー保護,データの管理・破棄,研究結果の公表に関して説明し,署名による同意を得た.面接は,対象者の外来治療を妨げないよう時間を調整し,体調不良などに十分配慮しながら研究協力施設内のプライバシーの保てる個室で行った.
研究対象者はA病院に外来通院する軽症脳卒中患者20名で,男性15名,女性5名であった.平均年齢は69.5歳(40~86歳),発症からインタビューまでの期間は平均6.9ヶ月(0.5~12ヶ月),インタビュー時間は平均29.9分(10~59分)であった(表1).医師からの再発リスク等に関する説明内容はカルテに記載がなく不明であった.病棟看護師は退院指導において再発予防策や再発時の対応を説明していたが,再発リスクについてはごく簡単な説明のみであった.
| 対象者番号 | 年代 | 性別 | 同居家族 | 病名 | mRS | 発症からインタビューまでの期間 | インタビュー時間 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 70歳代 | 男性 | 独居 | 脳梗塞 | 1 | 9.3ヶ月 | 20分 |
| 2 | 70歳代 | 男性 | 配偶者,子 | 脳梗塞 | 1 | 4.2ヶ月 | 42分 |
| 3 | 50歳代 | 女性 | 配偶者,子 | 脳梗塞 | 0 | 4.4ヶ月 | 59分 |
| 4 | 50歳代 | 男性 | 母親 | 脳梗塞 | 0 | 8.8ヶ月 | 24分 |
| 5 | 80歳代 | 男性 | 配偶者 | 脳梗塞 | 1 | 12ヶ月 | 55分 |
| 6 | 70歳代 | 女性 | 配偶者 | 脳梗塞 | 0 | 5.5ヶ月 | 10分 |
| 7 | 60歳代 | 男性 | 配偶者 | 脳梗塞 | 0 | 10.1ヶ月 | 32分 |
| 8 | 50歳代 | 女性 | 配偶者 | 脳出血 | ― | 1.6ヶ月 | 15分 |
| 9 | 80歳代 | 男性 | 配偶者 | 脳梗塞 | ― | 9ヶ月 | 16分 |
| 10 | 80歳代 | 男性 | 配偶者 | 脳梗塞 | ― | 0.5ヶ月 | 41分 |
| 11 | 70歳代 | 男性 | 独居 | 脳梗塞 | 1 | 4.1ヶ月 | 29分 |
| 12 | 70歳代 | 男性 | 配偶者 | 脳梗塞 | ― | 1.6ヶ月 | 40分 |
| 13 | 70歳代 | 男性 | 配偶者 | 脳梗塞 | 1 | 11.2ヶ月 | 22分 |
| 14 | 40歳代 | 女性 | 配偶者,子(3人) | 脳梗塞 | 1 | 9.3ヶ月 | 29分 |
| 15 | 80歳代 | 男性 | 配偶者 | 脳梗塞 | 1 | 10.9ヶ月 | 18分 |
| 16 | 70歳代 | 女性 | 子 | 脳梗塞 | ― | 2.5ヶ月 | 24分 |
| 17 | 70歳代 | 男性 | 配偶者,子 | 脳梗塞 | 0 | 5.9ヶ月 | 26分 |
| 18 | 50歳代 | 男性 | 配偶者,子 | 脳梗塞 | ― | 12ヶ月 | 40分 |
| 19 | 70歳代 | 男性 | 配偶者 | 脳梗塞 | ― | 3.4ヶ月 | 31分 |
| 20 | 70歳代 | 男性 | 配偶者 | 脳梗塞 | ― | 10.9ヶ月 | 25分 |
※mRS欄の「―」はカルテ上の記載なし.
軽症脳卒中患者の発症後の体験に関する記述は,全対象より264コードが抽出され,83小カテゴリ,33中カテゴリ,7大カテゴリが生成された(表2).以下,大カテゴリごとに代表的な発言例を示す.なお,大カテゴリを【 】,対象者の具体的な発言例を「斜体」,文脈をわかりやすくするために研究者が補足した言葉を( ),対象者番号を[ ]として示す.
| 大カテゴリ〔7〕 | 中カテゴリ〔33〕 | 小カテゴリ〔83〕 |
|---|---|---|
| 脳卒中の後遺症や再発への恐怖と共に人生を生きることの不可避 | 再発への恐怖と共に生きる(11) | 常時再発の恐怖を抱えながら生きている(8) |
| 再発の恐怖から些細な症状であっても家族に伝える(1) | ||
| 少しの症状でも再発ではないかと神経質になる(6) | ||
| 再発して麻痺が残ったり認知機能が低下したりした自分を想像して怖くなる(3) | ||
| 再発して重度の後遺症が残ったら人生に楽しみがなくなると思う(1) | ||
| 万が一再発した時に発見してもらえないことへの恐怖から行動を変える(3) | ||
| 自分は再発リスクが高いと聞いて衝撃を受ける(1) | ||
| 自分の血管は狭窄したままと聞いているので脳卒中の再発リスクを常に心配する(2) | ||
| 頑張っても再発しないという保証はない(1) | ||
| 再発予防のために徹底管理しているので再発を想定したくない(1) | ||
| 再発時は重症化すると周りの人から聞いているので再発は避けたい(2) | ||
| 日常生活で実感する脳卒中の後遺症を仕方なく受け入れる(4) | 後遺症で不自由があったり痛みが続くのは仕方ないと受け入れる(2) | |
| 後遺症のために今後の生活への不安はあるがこの身体で生きていくしかない(1) | ||
| 不快な後遺症を家族に理解してもらえずもどかしい(1) | ||
| 状態が落ち着いたら徐々に本来の生活に戻したい(1) | ||
| 脳卒中という疾患への対処の難しさを痛感する(4) | 自分の脳卒中の成り行きが気になりインターネットで調べるが解決しない(2) | |
| 脳卒中は早期発見・早期治療にがんのような時間的猶予がなく迅速な対応を求められることに難しさを感じる(1) | ||
| 脳卒中は迅速な対応が必要にもかかわらず診断までに時間を要した初診時の医療に疑問を感じる(2) | ||
| 脳卒中のことを調べると悪い情報が目に入り気が滅入る(2) | ||
| 治る病気ではない脳卒中を抱え健康体ではなくなったと感じる(5) | 生活動作の中で後遺症を実感する(5) | |
| 治る病気ではないと理解している(2) | ||
| 脳梗塞の影響で認知症になるのではないかと心配する(1) | ||
| 長生きしたかったが脳卒中を発症したことであきらめの気持ちになる(2) | ||
| 発症時に身体の自由がきかず哀れな人生になると観念する(2) | ||
| 後遺症のために活動が制限され人生の楽しみが減る(1) | 後遺症のために活動が制限され人生の楽しみが減る(3) | |
| 後遺症により生活の自立度が低下し居場所を失う(1) | 後遺症により生活の自立度が低下し居場所を失う(2) | |
| 大病のリスクがあるのに想定して行動してこなかったことを後悔する(2) | 脳卒中リスクがあるのに自分の身体に関心を向けていなかったことを後悔する(4) | |
| 大病を想定した話をする関係性を子どもと築いてこなかったことを後悔する(3) | ||
| 脳卒中と共に生きる自分を支えてくれる他者と他者を支えることができる自分の再認識 | 家族の生活に影響してしまい迷惑をかけることになるので再発するわけにはいかない(2) | 後遺症が残ると家族が介護することになり迷惑をかけるので再発は避けたい(6) |
| 自分が家族を支えなければならないので再発するわけにはいかない(6) | ||
| 脳卒中発症により家事ができなくなったことで家族に迷惑をかけていることが心苦しい(1) | 脳卒中発症により家事ができなくなったことで家族に迷惑をかけていることが心苦しい(3) | |
| 脳梗塞の後遺症があっても自分が家族を支えなければならない(1) | 脳梗塞の後遺症があっても自分が家族を支えなければならない(2) | |
| 家族・周囲の支えのおかげで再発リスクに立ち向かうことができる(3) | 脳卒中を発症した自分に対する家族・周囲の気遣いに応えて行動を変える(5) | |
| 家族が再発リスクを知っていてくれることで再発予防行動を続けることができる(2) | ||
| 再発リスクについて家族と共に理解を深める(2) | ||
| 後遺症と共に生きるうえで家族の支えの重要性を実感する(2) | 家族の協力によりリハビリをがんばったり日常生活が送れていることに感謝する(2) | |
| 家族の支えがなく一人で頑張るのは疲れる(1) | ||
| 自分が発症したことで周囲の人の健康にも気を遣うようになる(1) | 自分が発症したことで周囲の人の健康にも気を遣うようになる(2) | |
| 脳卒中再発リスク低減を目指す積極的対処 | 主体的・受動的に得た情報から脳卒中への理解を深める(3) | 脳卒中について自ら情報探索する(3) |
| 脳卒中は後遺症が怖いことを調べて知る(2) | ||
| 脳卒中のことを自分で調べて再発予防の重要性を認識する(2) | ||
| 脳卒中の再発リスクを下げるための医療行為を受け入れる(2) | 再発リスクを下げる手術を受ける決心をする(3) | |
| 再発予防のための手術は早く受けたい(1) | ||
| 脳卒中の再発リスクを下げるために行動変容する(3) | 再発リスクを下げるために身体をいたわる(3) | |
| 再発予防のために薬を徹底管理しなければならない(8) | ||
| 再発リスクを下げるために生活習慣を変える(27) | ||
| 脳卒中発症を契機に健康意識が高まる(2) | 身体に負担をかけないように発症前よりも活動量を減らす(3) | |
| 脳卒中発症を契機に自分の健康に目を向けるようになる(6) | ||
| 再発予防の手立てを打っているので危機感はない(2) | 再発予防のための手術を受けたので再発時に重症になる心配はしていない(1) | |
| 医師のお墨付きをもらって再発リスクが高まっていないことに安心する(2) | ||
| 脳卒中発症・再発リスクの過小評価・楽観視 | 脳卒中を発症したことや再発リスクを深刻にとらえない(5) | 発症時は後遺症が不安だったが現在は症状改善しているので心配していない(1) |
| 発症時にあまりショックをうけない(2) | ||
| 軽症ですんだ自分は運がよいと思う(4) | ||
| 身近な人の重症脳卒中例を見ているが再発時の自分事として想像できない(2) | ||
| 再発リスクに対する医師からの説明があったとは認識していない(5) | ||
| 想定外だったので脳卒中発症が信じがたい(3) | 発症時にまさか自分が脳卒中になるとはと驚く(4) | |
| これまで健康体だったので脳卒中を発症したことが信じがたい(3) | ||
| 軽症なので脳卒中といわれても信じがたい(1) | ||
| 脳卒中再発リスクを認識していても生活を変えるまではしない(4) | 脳卒中発症後も好きなもの・好きなことを楽しむ生活は変えない(4) | |
| 生活習慣を変えてまで再発予防をすることに意義を感じない(2) | ||
| 再発予防のために生活習慣を改善するが長続きしない(1) | ||
| 再発リスクは認識しているが生活習慣は変えない(2) | ||
| 再発予防のために何かしなければならないのだろうが何をすればよいかわからない(1) | 再発予防のために何かしなければならないのだろうが何をすればよいかわからない(2) | |
| 脳卒中について自分で調べる必要を感じない(1) | 脳卒中について自分で調べる必要を感じない(7) | |
| 脳卒中再発時に重症化した場合の医療・ケアに対するイメージの欠如 | 再発して重症化した場合の医療・ケアについて想定できない(2) | 今回が軽症で済んだので再発時の医療やケアについては考えるに至らない(9) |
| 重症化した場合の脳梗塞の治療のイメージがわかないので再発時に受けたい医療・ケアについて考えられない(4) | ||
| 再発した場合は成り行きに任せるしかない(1) | 再発した場合は成り行きに任せるしかない(3) | |
| 再発時は医師に任せたい・任せるしかない(1) | 再発時は医師に任せたい・任せるしかない(8) | |
| 再発したくないが思い悩んでも仕方ない(2) | 万が一再発したらと思い悩んでも仕方がない(3) | |
| 生活習慣を変える努力をしても再発した場合には仕方ない(1) | ||
| 再発し重症化した場合の医療・ケアについて家族と話していない(2) | 再発した場合のことは家族と話していないがわかってくれていると思う(4) | |
| 病気のことや再発リスクについて家族と話すことはしない(10) | ||
| 脳卒中再発リスクへの向き合い方は医師次第 | 医師からの説明で再発予防の重要性を認識したので指示通りに内服する(3) | 再発リスクは心配だが薬については医師に従うしかない(1) |
| 再発リスクは重く捉えてないが医師から言われた通り薬は真面目に飲む(2) | ||
| 医師の説明を聞いて再発予防のための内服継続の重要性を認識する(1) | ||
| 医師の態度・姿勢が脳卒中発症・再発リスクに対する不安を左右する(2) | 自分で調べてわからないことがあっても医師には質問できない(1) | |
| 親身になってくれる医師の態度に脳卒中発症や再発リスクへの不安が少し和らぐ(2) | ||
| 脳卒中再発時の重症化を想定した身辺整理と心構え | 再発時に重症だった場合に備えて身辺整理する必要性を認識する(2) | 再発を想定して死の準備をしておく必要を感じる(2) |
| 再発時に重症だった場合に備えて身辺の準備をする(3) | ||
| 再発し重症化した場合の医療・ケアについて意思表示する(3) | 再発時に重症だった場合に備えて延命治療に関する希望を書面に残す(1) | |
| 再発時に重症であった場合は延命治療は望まない(1) | ||
| 再発時の治療について家族で話し合い方針を決める(7) | ||
| 再発してしまったら今回とは異なり他人の世話になるであろうと覚悟する(1) | 再発してしまったら今回とは異なり他人の世話になるであろうと覚悟する(4) |
※中カテゴリ欄の( )内は小カテゴリの数を,小カテゴリ欄の( )内はコードの数を示す.
後遺症による不自由を実感し生活の変化を仕方なく受け入れるとともに,再発リスクの恐怖を抱えながら人生を生きていかざるを得ないという体験であり,65コード,28小カテゴリ,7中カテゴリで構成された.
「(言葉が)時々つまるっていうか.あと文字を書くのが,やっぱり前と比べてだいぶ不自由は感じます.急いでメモを取るときには手を添えて.片手でやるときは,すごい書きづらいっていうか.あと,キーボードのミスタッチがすごい多くなった.(中略)もうしょうがないなーって.」[4]
2) 【脳卒中と共に生きる自分を支えてくれる他者と他者を支えることができる自分の再認識】発症により家族に迷惑をかけてしまっていることを心苦しく感じながらも,家族や周囲の人の支えにより後遺症・再発予防の対処ができていることや,自分が健康でいなければ家庭が回らなくなってしまうことに改めて気づく体験であり,31コード,10小カテゴリ,6中カテゴリで構成された.
「(全介助の妻の)介護できんようになると思ったんですけど.幸いにして手が動いたからね.足だけだったから何とか頑張ったら介護できると思った.介護できんようなったら大変じゃから,経済的にも負担がかかるし,何とか頑張らにゃいけん思うて.」[5]
3) 【脳卒中再発リスク低減を目指す積極的対処】脳卒中について調べて理解を深めるとともに,再発リスクを下げるための治療を受けるあるいは行動変容をするという体験であり,61コード,12小カテゴリ,5中カテゴリで構成された.
「脳梗塞の知識があまりなかったんです.1回詰まるとそこがもう詰まったままになるっていうのは知らなくって.(インターネットで調べて)他が詰まらないように薬を飲むっていうのを初めて知って.もっとひどくなったときの治療法とかも見たり.」[14]
4) 【脳卒中発症・再発リスクの過小評価・楽観視】発症したことや再発リスクを深刻に捉えておらず,再発リスクを認識していながら行動を起こすまではしていないという体験であり,40コード,14小カテゴリ,5中カテゴリで構成された.
「お隣さんが,ついこないだ2回目の脳梗塞やったっけえね.あれだけ元気になっちゃったなと思っとったら,わからんもんじゃのと.でも,他人のことじゃというような感じやね.やっぱり,自分がなってみにゃ,わからんのかなと思うて.」[9]
5) 【脳卒中再発時に重症化した場合の医療・ケアに対するイメージの欠如】再発時に重症化する可能性があるとは聞いているが,その場合に受けたい医療・ケアについてはイメージがわかない,考えない,という体験であり,42コード,8小カテゴリ,5中カテゴリで構成された.
「(再発について)考えんことはないけど,そがに(そんなに)すごく深く思ってない.今回これぐらい(呂律不良のみ)じゃったけ.まあタバコもやめたし.(中略)(再発時に受けたい医療・ケアについて)深く,深く言うてもちょっと考えてない,今んとこはね.」[7]
6) 【脳卒中再発リスクへの向き合い方は医師次第】医師の説明内容如何で内服の重要性の認識が変化したり,医師の態度・姿勢が治療に対する不安の大きさに影響を及ぼすという体験であり,7コード,5小カテゴリ,2中カテゴリで構成された.
「今度の先生いろいろ言うてくれるけえね,こっちからも質問してみたわけなんですがね.(再発)確率は高いんじゃの,薬をやめたらね,即,だめになるて言われよったから.今日言ってくれたらからね.おおーと思ってね.」[9]
7) 【脳卒中再発時の重症化を想定した身辺整理と心構え】再発時に重症化した場合に備えて,身辺整理の必要性を認識したり医療行為等に関する意思表示をしたりする体験であり,18コード,6小カテゴリ,3中カテゴリで構成された.
「(再発して自分にもしものことがあったら)年が年ですからね.(延命治療に関する)自分の希望を,今のように口頭じゃなしにし,一応簡単じゃありますが,(家族に)書面で残して.」[10]
脳卒中患者のACPを促進する看護を検討するという観点から本研究結果をみると,得られたカテゴリ間に関連性が見いだせた(図1).これらの関係性について論じたうえで,ACPを促進する看護のあり方について,実践的示唆を含めて検討する.

【脳卒中の後遺症や再発への恐怖と共に人生を生きることの不可避】は,後遺症による苦痛と再発への恐怖に関する体験であった.人生の中途で突然生じた機能障害は,健常時には想像もしなかった日常生活での不便さや苦痛をもたらすとともに,自尊心や充実感の低下,その後の人生を後遺症と共に生きていかざるを得ないという心理的苦痛につながる.すなわち,軽症脳卒中患者は,高度な機能障害ではないが身体的な不自由さがもたらす生活上の問題と,それに付随した心理的苦痛を抱えながら生きることを避けられない状況に置かれているといえる.このことは,脳卒中後のしびれについて,動作が以前のようにはできないという機能低下に伴う苦痛に加え,当たり前のことが当たり前でなくなるという日常性の喪失による苦痛を生じさせるという坂井(2008)の報告と一致する.一方,再発については,表2の通り,初発時と似た症状が少しでもあると神経質になったり,再発して重症化した自分を想像して恐怖を感じたりしていた.患者は,一度発症を経験しているがゆえに些細な症状にも敏感に反応し,再発時の重症化リスクを認識しているために,再発への恐怖を増大させていると考えられる.佐藤ら(2013)は,軽症脳梗塞患者が発症時の身体機能が奪われていく鮮明な記憶を保持し,再発すると発症時に体験したような後遺症が残ると予測して恐怖心を抱いていることを明らかにしている.このことより,軽症脳卒中患者は,初発時の記憶と再発リスクへの認識があることで,再発への恐怖をより感じながら生きていると推察される.
【脳卒中再発リスク低減を目指す積極的対処】は,疾患や後遺症のことを自ら調べたり,再発予防のために生活習慣を変え,治療を受け入れるなど,再発リスクを減らすために行動する体験であった.ヘルスビリーフモデル(畑・土井,2009)では,人が保健行動をとることに影響を与える要因として,罹患の可能性と疾病の深刻さの認識,保健行動の有効性と負担のバランスを挙げている.本研究の対象者も,脳卒中再発リスクの高さと再発時の重症化リスクという脅威を医療者から聞いたり自分で調べたりして認識し,生活習慣変更の有効性と負担を天秤にかけたうえで,有効性が大きいと判断して行動変容をしていたと考えられる.また,軽症脳卒中患者のセルフケア能力には再発への危機感という強い動機づけが他の慢性疾患と比べて強く影響しているといわれる(帆苅,2020).このことから,内服管理を徹底したり生活習慣を変える【脳卒中再発リスク低減を目指す積極的対処】は,再発への危機感である【脳卒中の後遺症や再発への恐怖と共に人生を生きることの不可避】が強い動機付けとなることで誘起された行動と考えられる.
【脳卒中再発時の重症化を想定した身辺整理と心構え】が得られたことから,軽症脳卒中患者は重篤な状態を想定して医療・ケアについて考えること,すなわち,ACPを行う準備はできているといえる.しかし,ACPは家族を含めて医療者と繰り返し話し合うことが前提であるため,話し合いや意思表示の対象が家族にとどまっていたことには着目が必要である.脳卒中は,末期がんや心不全,COPDなど徐々に病態が下降していく場合と異なり,再発が突然で急激であるために,定期受診時に医療・ケアに関する話し合いを持つタイミングを図ることが難しいと推察される.鶴若(2021)は,医療者がACPを促進する患者個人の因子として「病状の進行や治療限界を理解している」「何らかの意思表示がある」を挙げていることを報告している.本研究により,軽症脳卒中患者が再発時の治療限界を理解し,身辺整理や家族との話し合い・家族への意思表示をしていることが明らかになったことから,医療者側から積極的に働きかけることで,ACPが進んでいくと示唆される.なお,先述した【脳卒中の後遺症や再発への恐怖と共に人生を生きることの不可避】は,再発・重症化リスクを適切に認識していることであり,それが再発時を見据えた準備につながると考えられることから,【脳卒中の後遺症や再発への恐怖と共に人生を生きることの不可避】が【脳卒中再発時の重症化を想定した身辺整理と心構え】をもたらすという関係が成立するといえる.後遺症や再発への恐怖と共に生きることはつらい体験ではあるが,再発時の重症化を想定したACPを促進するうえで強みになると考えられる.なお,患者は再発リスク低減を目指す積極的対処も行っており,再発時の重症化を想定した行動をとることとは一見相反するものとも受け取れるが,再発リスクを減らすために積極的に行動しつつ万が一の再発を想定して準備をすることが,軽症脳卒中患者の特徴ともいえる.
【脳卒中と共に生きる自分を支えてくれる他者と他者を支えることができる自分の再認識】は,発症により家族に迷惑をかけていることを心苦しく感じながらも,家族や周囲に支えられていることに感謝し,逆に,再発しないことで今後も自分が家族を支える存在であり続けようという意思を強固にする体験であった.この体験は,軽症脳卒中患者が,後遺症や再発への恐怖と共に人生を生きるというストレスフルな状況に対処するうえで必要な力,すなわち,レジリエンスの発揮に影響していると考えられる.横山(2020)は,脳卒中患者のレジリエンス特性について,「I have」では,家族,医療者,友人などの支えがあること,「I can」では自己調整や役割の再認識,家族へ配慮ができることと説明している.このことより,自分が他者に援助してもらえる存在であり,他者から必要とされる存在でもあると実感することがレジリエンスを発揮し,ストレスフルな状況に適応していくうえで必要であると考えられ,ソーシャルサポートと社会における自己の存在意義の認識の両者が重要性といえる.なお,脳卒中の後遺症や再発の恐怖とともに生きていく患者は,必然的に自分の役割や家族・周囲との関係を見つめ直すこととなり,支えてくれている存在に感謝,あるいは,自分が支えなければと再認識していくと推察される.すなわち,【脳卒中と共に生きる自分を支えてくれる他者と他者を支えることができる自分の再認識】は,【脳卒中の後遺症や再発への恐怖と共に人生を生きることの不可避】を感じる中で行われていくと考えられる.また,自分を取り巻く人々に思いを馳せることは,再発リスクを減らす行動や万が一を想定した意思表示・身辺整理を進める原動力になっていると推察される.すなわち,【脳卒中と共に生きる自分を支えてくれる他者と他者を支えることができる自分の再認識】をすることで,【脳卒中再発リスク低減を目指す積極的対処】と【脳卒中再発時の重症化を想定した身辺整理と心構え】を実行するに至ると考えられる.
以上より,【脳卒中の後遺症や再発への恐怖と共に人生を生きることの不可避】という体験が動機付けとなって,【脳卒中再発リスク低減を目指す積極的対処】【脳卒中再発時の重症化を想定した身辺整理と心構え】が引き起こされ,そのなかで【脳卒中と共に生きる自分を支えてくれる他者と他者を支えることができる自分の再認識】を実感するとともに,この再認識が,後遺症・再発の恐怖とともに生きる患者の精神的安寧や再発リスク低減の行動・将来を想定した身辺整理などの行動を後押ししていると考えられる.
2) 再発リスク・重症化リスクを楽観視することで,万一の場合を想定して備えることができない【脳卒中発症・再発リスクの過小評価・楽観視】は,発症や今後の再発リスクを重く捉えず,再発リスク低減のために生活を変える必要性を感じていない,あるいは,再発予防の必要性を漠然と感じながらも予防行動には移さないという体験であった.また,【脳卒中再発時に重症化した場合の医療・ケアに対するイメージの欠如】は,再発時の重症化の可能性は認識していても,その場合に受けたい医療・ケアについてイメージできない・考えない,という体験であった.これらは,高齢軽症脳梗塞患者が再発への気がかりを感じていても深刻な危機感を持たず(鳥谷ら,2020),「余計な心配をしない」という報告(鳥谷ら,2017)と一致する.軽症脳卒中患者のこのような体験の背景には,思い悩んでも仕方ない,再発時は成り行きに任せるしかないといった,疾患の受容とも諦めとも捉えられる側面と,再発時を想定できず,考えておく必要性を感じないといった,認識不足とそれに伴う楽観視と捉えられる側面とがあると考えられる.前者については,ストレスフルな状況において恐怖や不安といった情動を軽減するために見方をかえる情動志向型コーピング行動(野川,2021)の一部ともいえる.【脳卒中再発リスク低減を目指す積極的対処】を問題志向型コーピング行動と捉えるならば,【脳卒中発症・再発リスクの過小評価・楽観視】は直接の問題解決にはならないが,精神的安寧を得るための無意識の防衛機制として重要な態度と考えられる.軽症脳卒中患者にとっては,脳卒中の既往を背負って生きていくうえで苦しみからの逃避も必要である.一方,後者については,時間経過に伴い発症時の恐怖感が薄れたことで,再発や再発時の重症化リスクに対する認識が低下している状況が推察される.あるいは,漠然と認識できていても,自ら調べる必要性を感じなかったり,調べる術を持たなかったりすることで,再発リスクや再発時の重症化リスク,さらには,それに備える必要性について,十分な情報を獲得していないこと,すなわち,ヘルスリテラシーの低さが背景にあると考えられる.ヘルスリテラシーは,軽症脳卒中患者が再発時を見据えて自分の受ける医療・ケア,すなわち,生き方について考えるうえで重要な資質と推察される.
佐藤ら(2013)は軽症脳卒中患者の自己管理の特徴として,再発予防のための行動の習慣化と中断の分岐点には〘自立した日常生活行動〙が関係していると述べ,再発しない限り自覚症状が出現しないため〘自己管理意識の低さ〙が生じ,これが再発の危機感の低下につながると指摘している.このことから,軽症脳卒中患者は,軽症であるがゆえの自覚症状の少なさや自立した生活により自己管理意識が低くなり,万一の場合を具体的に想像することが難しくなると考えられる.すなわち,【脳卒中発症・再発リスクの過小評価・楽観視】は【脳卒中再発時に重症化した場合の医療・ケアに対するイメージの欠如】をもたらすと推察される.再発リスクを楽観視し,万一の想定をしていない場合は,実際に再発や重症化が生じた際に,自身の価値観が反映された医療・ケアが行われない可能性があるだけでなく,代理意思決定を行う家族に大きな精神的負担が生じることになる.
3) 再発予防・再発時を想定した準備を実行するか否かが医師の言葉・態度に影響される【脳卒中再発リスクへの向き合い方は医師次第】は,再発予防に向けた疾患管理の必要性を適切に認識できるか否か,実際の行動が行えるか否かが,医師の言葉や態度に左右されることを示していた.壮年期軽症脳卒中患者のセルフマネジメントの実践には,医療者とパートナーシップを結べることが重要といわれる(内田・青木,2020)ことから,医療者との関係性が重要であることは明白であるが,本研究では医師との関係性のみが強調される結果となった.先述したように,再発・重症化リスクの重要視が再発リスクを減らす積極的対処や再発時を想定した準備につながり,再発リスクの軽視が万が一の場合を想定できないことにつながると考えられる.すなわち,【脳卒中再発リスクへの向き合い方は医師次第】は,【脳卒中の後遺症や再発への恐怖と共に人生を生きることの不可避】と【脳卒中発症・再発リスクの過小評価・楽観視】との分岐に影響し,ACPを推進するうえで大きな影響を与えると推察される.
2. 脳卒中患者へのACPに対する看護実践への示唆 1) 適切性を見極めたうえで,脳卒中の再発リスク・再発時の重症化リスクに対する患者の認識を強化する軽症脳卒中患者が,再発時の医療・ケアについて医療者とは話し合えていなくとも,一人で考えたり,家族への意思表示を行うことができていた背景に,再発・重症化リスクの認識が存在すると推察されたことから,これらの認識強化に向けて患者に働きかける必要があると考えられる.ただし,ACPは患者・家族にとってつらい体験になる可能性があることを考慮して,ACPを行うことが望ましいかどうかを見極めたうえで認識を強化するか否かの判断をすることも必要である.認識を強化する場合には,再発・重症化リスクへの向き合い方に医師の態度が大きく影響すると示唆されたことを念頭に,このことを医師に伝えることや,再発リスクを過小評価・楽観視する背景にヘルスリテラシーの低さがあると示唆されたことを勘案し,患者個々のヘルスリテラシーの程度に応じた支援を行うことが効果的と考えられる.
2) 自己の価値観・望む生き方と向き合うきっかけを提供するACPを推進するうえでは,1)で述べた脳卒中の再発・重症化リスクに対する認識の強化を行う際に,再発時に重症化して意識レベルが低下する可能性を見据えて,あらかじめ自分の受けたい医療・ケアについて意思表明しておく重要性についても伝えることが不可欠である.万一に備えて医療・ケアについて考えるためには,自らの価値観・人生観や望む生き方と向き合うことが必要になるため,これらについて考えることや必要に応じて家族とも話をすることを促し,患者が語り始めた時には看護師がよい聞き手となる必要がある.患者には,脳卒中の病棟・外来だけでなく,高血圧などの基礎疾患で受診するクリニックなどの看護師が関与することから,看護師間で患者の認識や考えを共有し,患者のタイミングに合わせて価値観・人生観について考えてもらう声かけを行うことも重要である.
3) 社会的関係のなかで支えられ・支えている自己の再認識を促す他者に支えられ・支えている自分を認識することが,万一の再発を想定した意思表示・身辺整理を進める原動力と示唆された.後遺症や再発リスクに対処するうえで家族は重要なソーシャルサポート源であるため,脳卒中について家族にも正しく理解してもらい,患者にとっての家族の支えの重要性を伝える必要がある.
また,他者から支えられ,他者から必要とされている自分を再認識することがレジリエンスの要素であると示唆された.患者の年齢や家族関係・生活環境は様々であるが,脳卒中を発症したことで自尊感情の低下している患者が,家庭や社会において役立つ自分を認識できるために自分にできること・できていることに気づけるよう働きかけ,自己の存在意義の再認識を促すことが重要である.
4) 再発リスクの高さ・再発時の代理意思決定者となる可能性に対する家族の認識を高める患者自身が再発時の医療・ケアに対する意思表示をしていない場合や,家族と話し合っていない場合,代理意思決定者となる家族への精神的負担が危惧された.看護師は,軽症脳卒中患者の入院中や再診の際に,家族に対して再発リスク・重症化リスクを説明し,家族で話し合いをする機会をもつよう働きかけることが必要である.
5) 再発時の医療・ケアについて医療者を含めて話し合う機会を意図的に設定する再発リスクと重症化リスクを認識している軽症脳卒中患者は医療・ケアに対する意思表示を行っていたが,その相手は家族にとどまっていた.患者からは医師に話を切り出しにくいと推察されたため,看護師が,受診時に医療者・患者・家族で話し合いをもつ,すなわち,ACPを行う機会を意図的に設定する必要がある.また,ACPは気持ちが変化することを前提に繰り返し話し合うものであることから,患者の受診時に継続的に関わることが重要である.
6) 脳卒中を意識したACPの啓発を行う脳卒中分野におけるACPは現時点では一般的とはいえない.健康時から脳卒中に対する知識を獲得し,健康への関心を高め,ACPについて意識しておくことが,発症後のACPを円滑に進めることに寄与すると考えられる.厚生労働省の令和2(2020)年患者調査(厚生労働省,2024)によると,脳血管疾患で治療を受けている総患者数は174万人を超えており,生活習慣病をかかえる現代人には誰しも脳卒中を発症するリスクがある.地域住民に対して,脳卒中予防に関する指導とともにACPに関する啓発活動を行うことも看護師の重要な役割と考えられる.
脳卒中患者に対するACP研究は萌芽期であり,本研究では脳卒中患者全般に対するACPへの示唆を得ることを目指したため,年齢・性別・家族構成,生活環境,後遺症の状態などを限定していない.今後はこれらを限定して研究を発展させる必要がある.また,重度の後遺症をもつ場合は疾患に対する思いや人生観が異なると推察され,家族も患者との関わりの中で様々な思いを抱いていると考えられる.今後は対象を拡大し,より広い視野での脳卒中患者に対するACP推進について検討する必要がある.
軽症脳卒中患者の発症後の体験には,再発・重症化リスクを重要視する場合と楽観視する場合とがあり,その分岐には医師の関わりが影響していると示唆された.また,再発時の重症化リスクに対する適切な認識や自己の社会的存在意義の実感が,後遺症や再発リスクと共に人生を生きることや再発時を想定した準備行動を後押ししていると推察された.脳卒中患者のACPに対する看護実践として,脳卒中の再発リスク・再発時の重症化リスクに対する患者の認識を強化することなどが重要と考えられた.
付記:本研究は,県立広島大学大学院総合学術研究科保健福祉学専攻博士課程前期に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.本研究の一部は,第44回日本看護科学学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究にご協力くださいました調査施設の関係者・対象者の皆様に心より感謝を申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:古川由美子,黒田寿美恵は研究の着想から原稿作成のプロセス全体に貢献;石橋昇,管田忍は研究プロセス全体への助言に貢献.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.