日本看護科学会誌
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総説
看護におけるプロフェッショナル・アイデンティティに関する文献レビュー
仁井田 裕美佐藤 政枝
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2025 年 45 巻 p. 984-995

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Abstract

目的:看護のプロフェショナル・アイデンティティ(professional identity: PI)の主要概念と,尺度の測定概念・対象を明らかにすることである.

方法:3データベースから選出した包括基準を満たす文献を用いて,PIの主要概念を分類し,尺度の測定概念・対象を特定した.

結果:34文献における主要概念は「看護職としての自己」「看護のコミュニティへの帰属意識」「看護の価値観」であった.尺度の測定概念は,国内は「アイデンティティ」,国外は「Values」「Self-Concept」であり,対象は看護師,保健師,助産師と看護学生であった.Valuesの下位因子にはプロフェッショナリズムが含まれた.

結論:看護のPIの共通基盤となる主要概念の明確化により,プロフェッショナリズムを含む系統的な整理が課題として確認された.さらに,国家資格や学生の区別なくPIを包括的に捉える指標の開発が求められる.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to identify the key concepts of professional identity (PI) in nursing and the measurement concepts and targets of the relevant scale.

Methods: Relevant literature that meets the inclusion criteria was selected from three databases. Then, the main concepts of PI were categorized, and the measurement concepts and targets of the scales were identified.

Results: The key concepts in the 34 references were “Self as a Nursing Professional,” “Sense of Belonging to the Nursing Community,” and “Values in Nursing.” The measurement concepts for the scales were “Identity” in Japan, and “Values” and “Self-Concept” internationally. The subjects of the scale were nurses, public health nurses, midwives, and nursing students. “Values” subfactor included professionalism.

Conclusion: Clarification of the key concepts that form the common foundation of nursing PI revealed that a systematic organization of concepts, including professionalism, is a challenge. Furthermore, there is a need to develop indicators that comprehensively capture PI without distinction of national qualifications or students.

Ⅰ. 緒言

アイデンティティとは,一つの人格的な同一性を持っているという意識的な感情である(Erikson, 1959/1973).青年期には,それまでに様々な対象との関係性の中で形成されてきた同一性を統合し,「自分とは何であるか」を確立する.同時に,所属するコミュニティなどの一員として「ふさわしい自分」を探し出す時期でもある(ワップナー・山本,1992).さらに,仕事を選択することは,自らを職業人として位置づけ,その組織から期待される人材となるべく,アイデンティティの再構築が行われる転機となる.

看護の専門職(プロフェッショナル)としてのアイデンティティの形成は,看護実践の基盤形成でもあり(Cook et al., 2003Mousazadeh et al., 2018),看護職の成長に欠かせないプロセスとされる.また,感情労働者といわれる看護職にとって(武井,2001),アイデンティティの形成は労働条件や職場での支援よりもバーンアウトに強く影響するとの指摘もあり(井奈波,2021Hao et al., 2014),職業継続の観点からも重要視されている.

これまで,看護のアイデンティティ研究では,主に「職業的アイデンティティ」と「プロフェッショナル・アイデンティティ」の2つのキーワードが用いられてきた.そしてその対象は,看護学生から新人,さらにエキスパートまで幅広い段階となっている.看護学生を対象とした研究では,アイデンティティは学年進行によって経年的に変化するとされ(Grealish & Trevitt, 2005),アイデンティティ測定尺度の得点は初年次で高く,学年を経るプロセスで一旦低下し,最終学年で再び上昇するとの報告がある(波多野・小野寺,1993).また,学生にみられる特徴として,臨地実習を経験することで得点分布が高くなることが示されている(古宇田ら,2009).一方,看護職を対象とした研究では,グレッグ(2002)によって職業的アイデンティティの形成プロセスが中範囲理論として整理されている.また,アイデンティティ形成のプロセスは,キャリアの発達やその成熟にも影響し(狩野ら,2015),職場での役割を見いだせないことがアイデンティティの揺らぎを生じさせる(McCrae & Askey-Jones, 2014)との報告がある.さらに,一度揺らいだアイデンティティを再構築するプロセスでは,「自分への過信」「不一致を認識してバランスを取ろうとする」「専門家としての評判を高める」という3つの段階の往来の重要性が示されている(MacIntosh, 2003).

以上のように,看護のプロフェッショナル・アイデンティティは,看護学生の段階から形成が始まり看護職としての成長の過程で経年的に変化することを共通認識として,その形成プロセスに影響する因子や再構築の様相が議論されてきた.しかしその一方で,プロフェッショナル・アイデンティティは,個人,対人関係,社会それぞれの要素が多角的に影響し合い,その構造は複雑である(Ohlen & Segesten, 1998).したがって,研究者個々の立場や考え方によっても,概念の捉え方が少しずつ異なっており,統一された見解がみあたらない.看護のアイデンティティ測定尺度の開発においても同様であり,学生(藤井ら,2002),看護師(佐々木・針生,2006),保健師(根岸ら,2010)と対象が異なる研究が散見される.しかしながら,その測定概念の共通点・相違点を議論するまでには至っていない.

本研究にて,先行研究で扱われている看護のプロフェッショナル・アイデンティティの共通概念を明示し,既存尺度の測定概念を整理することで得られる知見は,今後のプロフェッショナル・アイデンティティ研究の系統的かつ発展的な展開に寄与するという点で意義がある.

Ⅱ. 研究目的

本研究の目的は,以下の2点である.

①国内外の研究で扱われている看護のプロフェッショナル・アイデンティティの主要概念を明らかにする.

②既存の看護のプロフェッショナル・アイデンティティ尺度における測定概念ならびに測定対象を明らかにする.

Ⅲ. 研究方法

1. 本研究における用語の捉え方

プロフェッショナルという用語は,日本語では主に職業的,専門的という2つの意味で扱われている(新村,2018).本研究では,プロフェッショナル・アイデンティティに関する研究を網羅的に扱うことを目的に,職業的アイデンティを同義とした.

2. 対象文献の抽出

文献検索では,医中誌Web,PubMed,J-STAGEの3つのデータベースを使用し,2000年1月~2023年6月まで(尺度開発研究は期間設定なし)に発表された文献を対象とした(検索日:2024年6月21日).データベース別の文献検索式を表1に示す.検索キーワードでは,プロフェッショナル・アイデンティティのMeSh・検索統制語であるSocial identificationと社会的帰属意識もキーワードとしてorで繋いだ検索式とした(表1).文献の包含基準は,看護のプロフェッショナル・アイデンティティを主要なテーマとして扱っており,用語の定義として看護のプロフェッショナル・アイデンティティが明記されている,もしくは,本文中に先行文献を引用した概念の説明がある,入手可能な研究論文とした.対象言語は,日本語と英語に限定した.除外基準は,看護職・看護学生が対象でない論文とした.

表1 データベースの文献検索式

データベース 検索日 検索式
医中誌Web 2024年6月21日 (((((看護職/TH or 看護職/AL)) and ((professional/AL and ("同一化(心理学)"/TH or identity/AL)) or ((社会的帰属意識/TH or 社会的帰属意識/AL)))) or (((看護学生/TH or 看護学生/AL)) and ((professional/AL and ("同一化(心理学)"/TH or identity/AL)) or ((社会的帰属意識/TH or 社会的帰属意識/AL)))))) and (DT=2000:2023 and PT=原著論文
PubMed 2024年6月21日 ((professional identity) OR (social identification[MeSH Terms])) AND (nurses[MeSH Terms])Filters: Full text, English, from 2000 – 2023
J-STAGE 2024年6月21日 キーワード:職業的アイデンティティ OR キーワード:社会的帰属意識 AND キーワード:看護職 OR 看護学生

文献レビューはスコーピングレビューのPRISMA-ScR(Moher et al., 2009友利ら,2020)の報告ガイドラインに準拠して報告した.文献スクリーニングの手順としては,各データベースにおける文献の重複を確認し,タイトルと要旨でスクリーニングした後に本文を読み込み,適格であると判断しものを採用した.文献のスクリーニングは研究者1名が実施し,その結果を共同研究者と共に確認することで対象文献の妥当性を保証した.

3. 分析方法

著者・発行年,対象,表題,国,研究デザイン,概念の定義・基盤理論を項目としたマトリックスを作成した.

主要概念は,本文中の看護のプロフェッショナル・アイデンティティの用語の定義を,定義の明示がないものは,先行文献を引用して概念が説明されている箇所をそれぞれ抽出した.その後,意味内容の類似性に基づきカテゴリー分類を行った.尺度開発研究では,測定概念,測定対象,概念の定義と基盤となる理論,下位尺度の因子構造,尺度項目を抽出し,先のプロフェッショナル・アイデンティティの主要概念の定義と比較した.さらに,データ抽出と分析の過程において,看護のアイデンティティ研究に精通している研究者とのディスカッションを重ねることで結果の信頼性の確保に努めた.

Ⅳ. 結果

1. 対象文献の選定結果

データベース検索の結果,626件が抽出された.重複論文21件を除く605件をタイトルと要旨でスクリーニングし,さらに包含基準に合致しない475件を除外した.残った130件のフルテキストレビューを行い,34文献(国内:21,国外:13)が分析対象となった(図1).

図1  対象文献のスクリーニングフローチャート

2. 看護におけるプロフェッショナル・アイデンティティ研究の概要

研究対象は,看護職が16件(国内:8,国外:8),看護系学生8件(国内:6,国外:2)であり,看護職と学生の両者を対象としたものが4件(国内:1,国外:3)であった.研究デザインでは,量的研究が26件(国内:20,国外:6),質的研究が7件(国内:1,国外:6)であり,Mixed methodsは1件(国外)であった.国内の量的研究のうち11件はプロフェッショナル・アイデンティティ測定尺度を用いた調査研究であり,尺度得点の傾向の分析や群間における比較,他の変数との関連などを検討していた.使用尺度の内訳は,佐々木・針生(2006)波多野・小野寺(1993)藤井ら(2002)が各3件,佐藤・菱谷(2011)本多・落合(2006)が各1件であった.国内の質的研究では,男子学生が対象となっていた.国外文献の筆頭著者を国別にみると,オーストラリア,アメリカ,イギリス,トルコ,中国が各2件,その他(3か国)が各1件であった.

国内文献のタイトルでは,19件で「職業(的)アイデンティティ」が使用され,「プロフェッショナル・アイデンティティ」の表記はみられなかった.国内文献の英語表記では,Professional identityは17件,Occupational identityが2件,Vocational identityが1件であった(表2).

表2 看護におけるProfessional identityに関する研究の概要

対象 No 筆頭著者名(出版年) 表題 英語表記 デザイン
看護職 1 大谷ら(2021) 岩手県内の医療機関で働く20歳代看護職者の地元志向と職業的アイデンティティに関する調査 P JP
2 三浦(2018) 青森県の精神科病棟に勤務する看護師の職業的アイデンティティの実態 P JP
3 井奈波ら(2017) 女性病院看護師のバーンアウトと職業的アイデンティティの関係 P JP
4 菱谷ら(2017) 新生児蘇生法の受講と出生にかかわる看護職の職業的アイデンティティとの関連 P JP
5 秋葉・石津(2014) 中堅看護師の職業的アイデンティティと「療養上の世話」への認識と関連 P JP
6 竹淵ら(2013) A県の精神科看護職者の職業的アイデンティティの実態 P JP
7 松崎・本間(2005) 看護職者の職業アイデンティティについての組織心理学的視点からの検討 看護師・准看護師の相互認識・満足度を通じて O JP
8 原井(2008) 看護師長アイデンティティに関連する要因の検討 P JP
看護学生 9 中村・坪倉(2022) 男子看護学生が看護師としての職業的アイデンティティを形成していく様相 P JP
10 永橋・入山(2019) 助産学生の分娩期の実習到達度と職業的アイデンティティの関連 P JP
11 清水ら(2015) 看護学生の志望動機と実習達成感,看護職の職業的アイデンティティとの関係 P JP
12 田中ら(2014) 看護専門学生の職業的アイデンティティに関する調査報告 P JP
13 上田ら(2014) 基礎看護学実習における実習事前指導が実習からの学びと職業的アイデンティティに与える影響 V JP
14 新見ら(2006) 看護学生の職業的アイデンティティ形成に関する研究(第一報)看護学生の対人援助能力 P JP
尺度開発 15 山口・百瀬(2013) 訪問看護師の職業的アイデンティティの特徴および個人特性との関連 P JP  
16 佐藤・菱谷(2011) 助産師の職業的アイデンティティに関連する要因 O JP
17 根岸ら(2010) 「行政保健師の職業的アイデンティティ尺度」の開発と関連要因の検討 P JP
18 佐々木・針生(2006) 看護師の職業的アイデンティティ尺度(PISN)の開発 P JP
19 石田ら(2003) 看護教員の職業アイデンティティに関連する要因 P JP
20 岩井ら(2001) 看護職の職業的アイデンティティ尺度の作成 P JP
21 波多野・小野寺(1993) 看護学生および看護婦の職業的アイデンティティの変化 P JP
看護職 22 Philippa et al.(2021) Professional identity in nursing:A mixed method research study UK
23 Li et al.(2021) Coronavirus disease 2019 pandemic promotes the sense of professional identity among nurses CN
24 Wang & Zhang(2017) Impact of personality trait and professional identity on work-related depression, anxiety and irritation among Chinese nurses CN
25 Mazhindu et al.(2016) The nurse match instrument: Exploring professional nursing identity and professional nursing values for future nurse recruitment UK
26 Sabanciogullari & Dogan(2015a) Relationship between job satisfaction, professional identity and intention to leave the profession among nurses in Turkey TR
27 Sabancıogullari & Dogan(2015b) Effects of the professional identity development programme on the professional identity, job satisfaction and burnout levels of nurses: A pilot study TR
28 Hercelinskyj et al.(2012) Perceptions from the front line: Professional identity in mental health nursing AU
29 Piil et al.(2012) The Impact of the Expanded Nursing Practice on Professional Identify in Denmark DK
看護学生 30 Vaismoradi et al.(2010) Perspectives of Iranian male nursing students regarding the role of nursing education in developing a professional identity: A content analysis study IR
31 Cook et al.(2003) Beginning Students’ Definitions of Nursing: An Inductive Framework of Professional Identity US  
尺度開発 32 Weis & Schank(2017) Development and Psychometric Evaluation of the Nurses Professional Values Scale-3 US  
33 Rognstad et al.(2004) Helping Motives in Late Modern Society: values and attitudes among nursing students NO
34 Cowin(2001) Measuring Nurses’ Self-Concept AU  

★:看護職と看護学生を対象としたもの

P:Professional identity,O:Occupational identity,V:Vocational identity

JP:日本,CN:中国,UK:イギリス,TR:トルコ,AU:オーストラリア,DK:デンマーク,IR:イラン,US:アメリカ,NO:ノルウェイ

Rev.:Review

3. 看護におけるプロフェッショナル・アイデンティティにおける主要概念

プロフェッショナル・アイデンティティの主要概念は,意味内容から「看護職としての自己」「看護のコミュニティへの帰属意識」「看護の価値観」の3つに分類された.

「看護職としての自己」には,“出生に関わる看護職であることへの認識”“the professional self-perception or self-concept of the nurse regarding their nursing abilities in general.”などが含まれ,看護職としての自覚・認識で構成された.「看護のコミュニティへの帰属意識」には,“看護師という職業と自己との一体意識”“the person’s perception of himself/herself as the member of the profession”などが含まれ,看護のコミュニティにおける一体感を示す構成となった.「看護の価値観」には,“看護師の価値,信念,目標,関心,才能を含み,看護師であることの意味や看護師として働くことの意味”“the values and beliefs held by nurses…”などが含まれた(表3).

表3 看護のProfessional identityにおける主要概念

カテゴリー 本文中の記述(抜粋) 基盤となる理論・先行研究 文献No
看護職
としての自己
「自分が,出生に関わる看護職であることへの認識」 Erikson(1959/1973) 2
「看護者の看護観を象徴するものであり,看護者としての自信,看護観の確立,社会貢献意識などの職業的姿勢についての個人の自覚」
「自分は助産師であるという自己同一性」 10
「看護教員の職業に関する自己の同一性に対する認識」 17
“the professional self-perception or self-concept of the nurse regarding their nursing abilities in general.” Cowin et al.(2008) 24
“nurse’s professional identity arises from self-perceptions of one’s nursing abilities known as a nurse self-concept. The perceptions include self-confidence with caring, staff relations, communication, leadership, knowledge, and nurse general self -concept.” Cowin et al.(2008) 31
“Professional identity refers to the nurse’s conception of what it means to be and act as a nurse.” Heung et al.(2005) 32
“professional identity in this study was understood as a complex phenomenon that reflects awareness of the MHN of themselves as an MHN.” Akerlof & Kranton(2010) 28
“This identity includes individual’s experience, and feeling of oneself as a nurse (self-concept), and others’ image of that person as a nurse (social image).” Fagermoen(1997)
Ohlen & Segesten(1998)
30
看護の
コミュニティ
への帰属意識
「看護師という職業と自己との一体意識」 波多野・小野寺(1993) 1
「看護師長という役割に対して抱く自己との一体意識であり,看護師長という役割に対して自分自身が考え感じていること,そして看護師長としての自分自身について考え感じていることに違和感がなく,看護師長という役割に対し,自分自身の気持ちが前向きな状態であること」 波多野・小野寺(1993) 7
「看護職の専門性によって医療に貢献できるという自負,看護師として社会に貢献しようとする意欲を持つこと」 藤井ら(2002) 8, 9
「自らの思考,行動に結びつく,常に保健師であるという職業に対する意識」 グレッグ(2000) 15
“the person’s perception of himself/herself as the member of the profession.” Deppoliti(2008) 24
看護の価値観 「看護師の思考,行動,および患者との相互作用を導く看護師の価値と信念」 Fagermoen(1997) 1, 5
「看護師の価値,信念,目標,関心,才能を含み,看護師であることの意味や看護師として働くことの意味」
「看護職選択への自信,自分なりの看護師観」 藤井ら(2002) 8, 9
「助産師としての専門性をもって働くことの意味や価値の認識」
“the values and beliefs held by nurses that guide her/his thinking, actions, and interactions with the patient.” Fagermoen(1997) 22
“socially constructed through the values, beliefs, and attitudes, which underpin the professional behavior of nurses.” Hallam(2000)

4. 看護におけるプロフェッショナル・アイデンティティ測定尺度

対象文献は10件(国内:7,国外:3)であり,測定概念は,国内では10件すべてが「アイデンティティ」,国外では「Values」が2件,「Self-Concept」が1件であった.「アイデンティティ」10件のうち下位概念の理論的根拠が示されたのは2件のみで,いずれもErikson(1959/1973)であった.既存尺度が開発の基盤に位置づけられた研究は4件であり,その内訳は,波多野・小野寺(1993)が2件,本多・落合(2006)が2件であった.測定対象は,国内文献では看護師が3件,看護・医療系学生が2件,看護教員,行政保健師,助産師,訪問看護師が各1件であり,国外文献では看護職と看護学生の両者が2件,看護学生が1件であった.国内文献における尺度の測定概念のすべてにおいて,先述した3つの概念定義との一致性がみられた.一方,国外文献の「Values」を測定概念とする尺度では,「自己概念」と「帰属意識」が,「Self-Concept」を測定概念とする尺度では,「帰属意識」と「看護の価値観」がそれぞれ該当しない結果となった.また,「Values」を測定する尺度の因子構造には,Professionalism(プロフェッショナリズム),Altruism(利他主義)など,他の尺度にはない要素が含まれた(表4).

表4 看護におけるProfessional identityに関する尺度の概要

測定概念 対象 文献No 定義* 基盤 因子構造 概念定義との比較
自己認識 帰属意識 看護の価値観
アイデンティティ 看護職 21 既存研究 職業人としての自己向上,職業人としての自尊感情,職業的自己関与,職業への肯定的イメージ
20 F・G 仮説的尺度の設定
(出典不明)
看護職の職業選択と誇り,看護技術への自負,患者に貢献する職業としての連帯感,学問の発展に貢献する職業としての認知,患者に必要とされる存在の認知
18 E Erikson(1959/1973) 一因子構造
看護教員 19 既存尺度
波多野・小野寺(1993)
職業的自認・自尊感情,職業的向上心
行政保健師 17 E 既存尺度
波多野・小野寺(1993)
佐々木・針生(2006)),
保健師へのインタビュー
保健師としての自信,職業と自己の生活の同一化,他者からの評価と自己尊重,職業への適応と確信,職業と人生の一体化
助産師 16 既存尺度
本多・落合(2006)),
助産師へのインタビュー
助産師として必要とされることへの自負,自己の助産師観の確立,助産師選択への自信,助産師の専門性への自負,助産師としての社会貢献への志向
訪問看護師 15 既存尺度
本多・落合(2006)
社会への貢献の志向,訪問看護師として必要とされることへの自負,自分の訪問看護観の確立,訪問看護師選択への自信
Values 看護職・学生 32 C Code of Ethics for Nurses(ANA, 2015 Caring, Activism, Professionalism
学生 33 ‘values survey’ carried out by the Norwegian Social Science Data Services Altruism, Acknowledgemant
Self-Concept 看護職・学生 34 看護師へのインタビュー General, Care, Staff Relations, Communication, Knowledge, Leadership

*概念の定義における理論的根拠(著者) C:Code of Ethics Nurses(ANA),E:Erikson,F:Fagermoen,G:Gregg

Ⅴ. 考察

1. 看護におけるプロフェッショナル・アイデンティティ研究

国内外の研究において,研究手法や対象,国・地域別などによる特徴的な傾向は認められなかった.国外文献は量と質が各6件と均等であったのに比して,国内の過半数は,主にはプロフェッショナル・アイデンティティ測定尺度の得点結果の解釈が中心的な議論となっていた.国内で唯一の質的研究は男子学生を対象としていた.日本の就業看護師に占める男性の割合は,2012年は6.2%,2022年は8.5%であり(厚生労働省,2023),この10年間で徐々に増加傾向にあるものの未だ少数である.学生における分布も同様の傾向であることが推測され,このような背景が少なからず影響していると考えられた.また,国内における質的研究に本研究の選定基準を満たす論文が少数であったことは,我が国において看護のプロフェッショナル・アイデンティティ研究を展開するに十分な議論の深まりが不足している可能性が示唆された.

対象文献のタイトルは,国外文献のすべてにprofessional identityが使用されていた.また,PubMedのMeSH検索の用語に,Vocational identityやOccupational identityは存在せず,国外文献は検索用語からProfessional identityで統一されていた.一方,国内文献の8割以上で職業(的)アイデンティティが用いられ,英語表記では専門職を意味するProfessionalが約9割を占めたが,残りの1割で職業の意味を持つOccupational,Vocationalが使用されていた.しかし,国内文献において,3つの用語の違いや使い分けに言及しているものはなく,同一の概念が扱われているか否かの確認はできていない.看護のプロフェッショナル・アイデンティティ研究において共通の主要概念を見出すためには,用語やその定義の統一は必須であり,今後さらなる検討を経て共通のキーワードが提示されることが望まれる.

2. 看護のプロフェッショナル・アイデンティティにおける主要概念

アイデンティティの原義は,「同じであること(同一性)」や「一致していること(一致性)」であり,自己認識,自己同一性,帰属意識などへの言い換えが可能である(国立国語研究所,2006).本研究においても,これらの要素が含まれる結果となった.以下に,抽出された3つのカテゴリー「看護職としての自己」「看護のコミュニティへの帰属意識」「看護の価値観」に分けて考察する.

1) 「看護職としての自己」

自己認識(Self-concept)とは,自分が意識している自己であり,現実自己と理想自己(あるべき自己)が一致しないと,自己概念に葛藤が起こり「自分らしさ」の喪失につながる(Rogers, 1951).そして自己認識の不一致は人の行動の指針や重要な意思決定,動機づけなどに影響を与えるといわれる(Higgins et al., 1986).本研究では,「看護職であることへの認識」や「feeling of oneself as a nurse」など看護の先行研究においても,自己認識の不一致が離職やキャリア形成にマイナスの影響を及ぼすことが示されている(関,2015).さらに「看護職としてどんな自分でありたいか」という認識は,Tanner(2006)の「看護師らしく考え(Thinking like a nurse)」行動できる自分になることにも共通する重要な概念であることが示唆された.

2) 「看護のコミュニティへの帰属意識」

帰属意識とは,ある特定の集団に対して有する一体感の強さであり,その程度を表す心理的な状態をさす(尾高,1981).帰属意識の高まりは個人のアイデンティティの形成促進と集団の利益を守るための行動につながる(Tajfel & Turner, 1986)とされる.初心者がコミュニティにおける中心的存在(エキスパート)を見習って徐々に参加度を深化させる「正統的周辺参加論」(Lave & Wenger, 1991/1993)では,周囲に受け入れられ「一人前」と認められる過程でアイデンティティ形成が促進されるといわれる.看護のプロフェッショナル・アイデンティティもまた,看護を学ぶことを選択した基礎教育の段階から形成が始まり(Crigger & Godfrey, 2014),次第に看護職に求められる行動ができる個人へと成長するプロセスをたどる(Benner et al., 2010)とされる.帰属意識の高まりは個人のアイデンティティの形成が促進され,集団の利益を守るための行動につながる(Tajfel & Turner, 1986).また,個人の組織社会化にはそのコミュニティへのコミットメントが重要であるとの指摘もあり(難波ら,2007),帰属意識がプロフェッショナル・アイデンティティ形成において不可欠な要素となることが示唆された.

3) 「看護の価値観」

価値観(Values)とは,価値判断の根幹をなすものの見方(新村,2018)であり,個人的な経験から生じ,教育の過程で修正および拡張され,行動の基礎として形成される(Ware, 2008).プロフェッショナル・アイデンティティには,職業発達や,社会的地位,専門分野としての立脚を支える学問的・実践的基盤,構成員の自律性など,様々な要素が反映されることから,その集団と構成員のあり方としてのプロフェッショナリズムが明確でなければ,その専門的価値を社会に示すことが難しくなる(鑪ら,1995).看護学生からエキスパートに至るまでのアイデンティティの確立過程を示した研究では,教育から強い影響を受け,他者との出会いや経験から看護の価値を理解して,看護観を確立するプロセスが説明されている(グレッグ,2000).近年,「看護学教育モデル・コア・カリキュラム」(文部科学省大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会,2017)ならびに令和6年度改訂版(文部科学省看護学教育モデル・コア・カリキュラム改訂に関する連絡調整委員会,2025)においてもプロフェッショナリズムが掲げられ,看護基礎教育において看護の本質に迫る重要性(Clouder, 2003Johnson et al., 2012)が改めて見直されている.看護の専門的価値を社会に示すためには,看護の本質を正しく理解して説明する能力が必須であり,これらはプロフェッショナルとしてのプライドにも共通する重要なアイデンティティであるといえる.

3. 看護におけるプロフェッショナル・アイデンティティ測定尺度

対象文献10件における尺度の測定概念は,「アイデンティティ」「Values」「Self-Concept」の3つであった.国内の測定概念はアイデンティティに統一され,その内容には先の主要概念の3カテゴリー「自己認識」「帰属意識」「価値観」との一致性が確認された.一方,「Values」と「Self-Concept」は国外のみで確認され,とくにValuesを扱った尺度には,下位因子として“professionalism”(プロフェッショナリズム)と“Altruism”(利他主義)が含まれた.

プロフェッショナリズムとは,「専門職ならびに専門職集団としてのあり方」であり,社会における公約や患者との信頼形成など,専門職が社会的責任を果たすために必要とされる態度や価値観などが内包される(宮田,2015).また,医学のプロフェッショナリズムは,臨床能力,コミュニケーション・スキル,倫理的理解及び法的理解,卓越性,ヒューマニズム,説明責任,利他主義を主軸として定義されている(Arnold & Stern, 2006).そして,これらを基盤としたプロフェッショナリズム教育はプロフェッショナル・アイデンティティ形成に向けた重要な方略の一つとされ(Jarvis-Selinger et al., 2012Cruess et al., 2014),医学の卒前・卒後教育の鍵となっている.看護においても同様であり,これらの視点が今後のプロフェッショナル・アイデンティティ測定尺度に不可欠であることが示唆された.

国内で開発された尺度は,看護師,保健師,助産師といった国家資格に区分され,その範囲内での測定にとどまっていた.したがって,看護のプロフェッショナル・アイデンティティを包括的に測定可能な尺度は確認することができなかった.さらに,尺度はオリジナルとしての開発よりもむしろ,既存尺度の一部の内容や項目を,測定したい対象に合わせて部分・全体的に変更が加えられる傾向があり,各尺度の因子構造も類似していた.これらの現状を踏まえ,職種間の差異や専門性の追求のみならず,看護のアイデンティティを総合的かつ包括的に議論できる指標についても今後検討が必要であることが示唆された.

看護におけるプロフェッショナル・アイデンティティ測定尺度の開発に,プロフェッショナリズムの要素が必須となることは既に述べた.その根拠として,看護学教育コアカリキュラムにおいても,基礎教育の主要な概念にプロフェッショナリズムが含まれている(文部科学省大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会,2017).しかし,その中身は看護師の使命,役割と責務,基本的人権の理解と擁護,看護倫理といった内容にとどまり,例えば,後進の育成や利他主義などのプロフェッションの特性(宮田,2015)を網羅しているとは言い難い.したがって,プロフェッショナリズムとの整合性や関連性についての議論が今後の課題であるといえる.

4. 本研究の限界と今後の課題

本研究では,対象文献における看護のプロフェッショナル・アイデンティティの主要概念を明示することができた.さらに,既存の看護のプロフェッショナル・アイデンティティ尺度における測定概念ならびに測定対象についても明らかにすることができたと評価する.また,主要概念と尺度開発研究の測定概念との比較により,共通する概念ならびに尺度に不足している視点についても整理することができた.しかしながら,本研究で使用した3つのデータベースに収載されていない文献は分析対象に含まれていない.また,対象論文の選定にあたっては,プロフェッショナル・アイデンティティの定義もしくは概念の説明がない文献は除外とした.これらより,文献の網羅性に課題が残っている.

加えて,本研究では研究論文のみを対象としたことから,看護職の倫理綱領(日本看護協会,2021)に代表される専門職としての規範や行動指針は含まれていない.したがって,結果の偏りや内的妥当性,一般化可能性について課題が残る.今後は,研究論文以外の総説やガイドライン,書籍など,関連する文献を網羅的に集めた上で系統的なレビューが求められる.

本研究では看護のプロフェッショナル・アイデンティティの概念の明示にとどまり,その本質に迫るような議論には至っていない.今後は,看護の基礎・現任教育の基盤となるプロフェッショナリズムの考え方や,看護モデル・コア・カリキュラム改訂版(文部科学省看護学教育モデル・コア・カリキュラム改訂に関する連絡調整委員会,2025)に示される新たな議論を含めて,概念分析による概念の明確化や定義づけを行いたい.また,専門職としての憲章や綱領を持つ医師や薬剤師などの医療専門職との共通点や相違点についても確認が必要である.さらに,保健医療福祉分野と一般職におけるプロフェッショナルの位置づけについても,明確な整理が求められる.

また,尺度開発の観点からの課題としては,本研究の対象となった各尺度によって測定される概念が,プロフェッショナル・アイデンティティのどの部分に該当し,その測定結果がプロフェッショナル・アイデンティティ形成の様相や変化をどのように説明できるのかという点には言及できていない.今後の展望として,これらの論点に応答できる概念を整理した上で,それらを測定できる尺度を開発し,実践での活用可能性を検討することが必要である.

Ⅵ. 結論

本研究は,看護のプロフェッショナル・アイデンティティの主要概念と尺度の測定概念ならびに測定対象を明確にすることを目的とした国内外の先行研究のレビューにて,以下の新たな知見を得た.

1.論文タイトルは,国外文献ではprofessional identityに統一された一方で,国内文献では職業(的)アイデンティティと表現され,英語表記にはOccupational,Vocationalが混在しており,今後の研究において共通キーワードの設定に向けた検討の必要性が示唆された.

2.看護のプロフェッショナル・アイデンティティの主要概念として,「看護職としての自己」「看護のコミュニティへの帰属意識」「看護の価値観」の3カテゴリーが確認された.

3.尺度の測定概念は,国内文献では「アイデンティティ」,国外文献では「Values」と「Self-Concept」であり,とくにValues尺度の下位因子に含まれた“professionalism”(プロフェッショナリズム)と“Altruism”(利他主義)は,国内外における今後の尺度開発研究に必要な視点であることが示唆された.尺度の測定対象は,国外文献では看護職と学生,国内文献では主に国家資格で区分されていた.

4.看護のプロフェッショナル・アイデンティティの共通基盤となる主要概念の明確化により,プロフェッショナリズムを含む系統的な整理が課題として確認された.今後さらに,国家資格や学生の区別なく看護のプロフェッショナル・アイデンティティを包括的に捉えることのできる指標の開発と実践での活用可能性の評価を含めた提案が求められる.

付記:本論文の内容の一部は,第45回日本看護研究学会学術集会にて発表した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:YNは研究の着想およびデザイン,データ収集と分析,論文作成までの研究プロセス全体に貢献した.MSは研究の着想およびデザイン,データ分析・解釈,論文作成までの研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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