2026 年 46 巻 p. 247-259
目的:医療従事者のMoral residueの概念と構造を明らかにする.
方法:Walker & Avantの手法を用いた.
結果:【妥協から満足できる形で解決されなかった持ち続けるMoral distress】【Moral distressの繰り返す曝露により時間をかけた残留】【消えることがない長引く苦痛】【同様のMoral distressにより蘇る鮮明な記憶】【他者や自己の実践への後悔や違和感の残留】【自分を失うような道徳的誠実さを喪失した感覚】【日常生活や実践への持続的な影響】の属性7項目,先行要件5項目,帰結6項目が生成された.
結論:Moral residueは多くの医療従事者が有している可能性があり,Moral distressへの繰り返す曝露により長引く苦痛と共に,日常生活や実践に持続的な影響を与えるものであった.
Purpose: This study aimed to clarify the concept and structure of moral residue among medical professionals based on relevant Japanese and English literature.
Method: Walker and Avant’s concept analysis method was used.
Results: The following seven attributes were identified: 1) persistent moral distress that has not been satisfactorily resolved through compromises; 2) accumulation of residue over time due to repeated exposure to moral distress; 3) lingering pain that never completely disappears; 4) recurrence of vivid memories when encountering similar moral distress; 5) residue of regret and discomfort with one’s own and others’ practices; 6) a sense of loss of moral integrity, which can be likened to a loss of identity; and 7) persistent impact on daily life and professional practice. Furthermore, five assumptions and six consequences enhanced the conceptual construction.
Conclusion: Moral residue may exist among medical professionals, and repeated exposure to moral distress can cause prolonged distress and have a lasting impact on daily life and professional practice.
多くの医療従事者はMoral residueを抱えている.医療の高度化,高齢化,価値観の多様性などにより,医療従事者は日々の実践の中で様々な倫理的判断を求められることが推察され,倫理的問題がそのままにされたストレスの高い状況下で働いている現状が明らかになっている(水澤,2009).倫理的問題に対する心理的な苦痛をMoral distressと呼び「正しい行動をとるべきであると分かっていながら,制度的な制約のために正しい行動をとることができない場合に生じる」(Jameton, 1984)とされる.そのMoral distressが長引く傾向にあることをMoral residueと呼び「Moral distressに直面して自分自身に妥協することや妥協を受け入れた時から人生と共にずっと持ち続けているもの」Webster & Baylis(2000)とされる.Epstein & Hamric(2009)は,解決されないMoral distressの繰り返す曝露により,時間の経過と共にMoral residueが蓄積されていくモデルを構築し,プロセスを明確化した.このモデルにおいてMoral residueが蓄積され続けた先には,バーンアウトや離職が懸念されている.
先行研究にはMoral distressの詳細(Molloy et al., 2015;Sauerland et al., 2015;中村・遠藤,2023)や,Moral distressの尺度開発(Corley et al., 2001;石原ら,2018;實金ら,2019)の報告は複数ある.しかしながらMoral resideに関する研究は少なく,Moral residueの構造は体系的に整理されているとは言い難く,Moral distressやモラル ジレンマの類似概念と混同されている傾向にある.医療従事者のMoral residueの概念と構造を明らかにすることは,Moral residueの本質を認識し,低減にむけた効果的なアプローチ方法を探る上で重要である.さらにMoral residueの尺度開発や理論的基盤の構築により,医療従事者のMoral residueによるバーンアウトや離職を防ぐための方略につながる可能性があり大きな意義を持つと考える.そこで本研究は,医療従事者のMoral residueの概念と構造を明らかにすることを目的とした.
本研究の目的は,明確になっていないMoral residueの概念と構造を明らかにすることであるため,Walker & Avantの分析手法(Walker & Avant, 2005/2008)が適切であると考えた.分析の手順は,分析の目的を決定後,類似概念の相違を検討し,定義づける属性,先行要件,帰結を明らかにする,典型例・境界例・関連例・間違った例を明らかにした.研究の全ての過程において質的研究の専門家からスーパーバイズを受け,大学院看護学研究科教授4名と博士後期課程院生に助言を得て,修正を加えた.
2. データ収集方法文献の選択は,2024年4月~6月にかけて行った.国内文献の検索ワード「Moral residue」,「道徳的/倫理的残渣」,「道徳的/倫理的残留物」とし,医学中央雑誌Web版および最新看護学索引を用いた.国外文献は,検索ワード「Moral residue」とし,ProQuest,PubMed,CINAHL complete,PsycINFOを用いて,国内外共に対象年を設定せずに検索した.文献の選定は,重複文献,レビュー文献を除外後,原著論文以外,医療従事者に関する内容ではない,尺度開発の文献を全て除外した.国内ではMoral residueに関する報告が学会抄録1件しかないため対象文献に含めた.さらに文献レビューであっても理論構築に関する文献は,対象文献の基準として含め得るとした.
3. 倫理的配慮本研究の対象文献は全て公表されたものであり,引用した場合は出典を明記し,著作権を侵害しないようにした.また引用する文献の意味内容を損なわないように留意した.
対象とする文献は,国内文献が学会抄録1件のみ,国外文献は197件ヒットした.なおCorley(2002)は文献レビューから理論構築をしており,Moral residueの概念分析において重要な意義を持つと考え,対象文献に該当すると判断した.文献選定の結果,国内1件,国外46件の計47件を分析対象とした(図1,付録1).

対象文献は医療従事者におけるMoral residueが使われ出した2002年からの文献を対象とした.学問分野では,心理学,倫理学,医学,看護学,公衆衛生学であり,研究対象は医師,看護師や助産師,他職種(移植コーディネーター,介護職)であった.対象の47文献について,年代別推移と研究内容を図2に示した.2002~2009年までは質的研究が多く,Moral distressとMoral residueに関する理論構築やモデルの提示などがあった.2010年以降はMoral distressの量的研究が増え,精神科やICUなど多様な専門領域において調査され,Moral residueの影響も報告されていた.2020年以降はCOVID-19パンデミックが医療従事者に与えた影響を明らかにする報告が顕著に増加していた.2020~2024年の24文献中15件がCOVID-19に関する報告であり,急激な患者数増加による物資やマンパワーの不足や,未曾有の感染症による恐怖,十分なケアを受けられない患者への無力感などがMoral residueにつながっていた.Moral residueは平常時にも蓄積され得るものであるが,COVID-19パンデミックの世界的危機は,医療従事者に強力なインパクトを与え,短期間でより深刻なMoral residueにつながったと推察され,報告数が増加した可能性がある.

Moral residueと類似概念であるMoral distress,モラル ジレンマとの相違を検討した.Moral distressとは,正しいことをすべきであると分かっていながら,制度上の制約などによって正しい行動をとることができない場合に生じ(Jameton, 1984),今この瞬間に受けた,または受けた直後の心理的苦痛である.患者のためにならない生命維持を続ける家族の希望に従うこと(Villers & Von, 2013)や,不必要な検査や治療の実施(Sauerland et al., 2015)から,患者を擁護できないと感じた時(Santiago & Abdool, 2011)などがMoral distressとなる.Moral residueは,Moral distressの出来事から時間の経過と共にある程度は回復を示すが,繰り返すMoral distressの曝露により蓄積され,そのMoral distressが満足のいく形で解決されなければMoral residueとして残っていく(Epstein & Hamric, 2009)ものである.Moral residueは患者に十分なことができなかった感情(Pavlish et al., 2011)などが,強い批判,不信感,後悔の念などの他者や自身への感情(小森・宮林,2015)として悪臭のように残り(Prestia et al., 2017),私たちの思考に永続的かつ強力に濃縮(Bennett et al., 2013)され,Moral distressを与える経験により増加し続ける(Bosek & Ring, 2010).
モラル ジレンマは,「道徳的義務により,2つまたはそれ以上の選択肢がありながら両立しない行動をそれぞれ取ることが要求される,または要求されているように見える状況」(Beauchamp & Childress, 2019)であり,どちらを選択しても道徳的価値が損なわれるため明確な正解がない状況をさす.Moral distressは正しい行動が分かっていても行動できない心理的苦痛であるが,モラル ジレンマは複数の道徳的な価値観が衝突し,何が正しい行動なのか分からない状況である点に相違がある.Moral distress,モラル ジレンマ共にその時の状況をさすが,Moral residueは時間をかけた蓄積であるため時間的側面に相違がある.
3. 先行要件医療従事者におけるMoral residueの先行要件として,5カテゴリーを生成した(表1).以下,【 】はカテゴリー,〈 〉はサブカテゴリーを示す.
| 5カテゴリー | 15サブカテゴリー | コードの例 | 84コード |
|---|---|---|---|
| 自己の信念に合わない実践や目撃による 道徳的価値観の侵害 |
自己の信念や道徳的規範に合わないことの目撃や実践 | ・自分の道徳規範に反することの目撃や実践(Lachman, 2016) | 3 |
| ・不必要な検査や治療に対する医師の命令を実行すること(Villers & Von, 2013) | |||
| 自己の道徳的価値観の侵害 | ・自分の道徳的価値観の侵害(Epstein & Delgado, 2010) | 2 | |
| ・道徳的誠意が脅かされたとき(Hardingham, 2004) | |||
| 外的因子や組織内 サポートの欠如によるMoral distressの増大 |
マンパワー不足や財政削減によるMoral distress | ・財政削減(Porr et al., 2019) | 7 |
| ・安全でない人員配置(Sauerland et al., 2015) | |||
| ・安全でない看護師と患者の比率の下での作業(Christodoulou-Fella et al., 2017) | |||
| 組織や管理者,同僚からの Moral distressへのサポートの欠如 |
・組織や同僚からのサポートの欠如(Gunther & Thomas, 2006) | 9 | |
| ・管理者の問題への関心の欠如(Sauerland et al., 2014) | |||
| ・職員が話を聞いてもらえず無力だと感じる(Hamric & Epstein, 2017) | |||
| ・管理職が看護師からの変化や改善の要求に無反応か無関心(Woods, 2020) | |||
| COVID-19パンデミックの影響による仕事量の増大と医療物資の不足 | ・問題の適切な解決を妨げる職場環境に関連する制限や障害(Caram et al., 2021) | 6 | |
| ・COVID-19中に課された制限(Mccarron et al., 2022) | |||
| ・COVID-19パンデミックによる仕事量と感染率の増加(Gherman et al., 2022) | |||
| ・患者数の多さや知識の不足,物的および人的資源の不足(Rosa et al., 2022) | |||
| Moral distressによる 後悔や罪悪感などの 心理的な傷 |
Moral distressにより残る罪悪感や 後悔の傷 |
・道徳的な傷(Epstein & Delgado, 2010) | 2 |
| ・さまざまな形の罪悪感や後悔(Woods, 2020) | |||
| Moral distressによる罪悪感や恥などの心理的苦痛 | ・看護師が道徳的判断を下す際に経験する心理的不調和,否定的感情,苦痛(Corley, 2002) | 7 | |
| ・初期の苦痛による怒り,不安,フラストレーション(Deady & Carthy, 2010) | |||
| ・十分に命を救うことができない認識に関連する罪悪感と恥(Gherman et al., 2022) | |||
| 患者や患者家族への 十分な実践が できなかった無力感 |
患者や患者家族への不十分な実践に対する繰り返す無力さの感覚 | ・繰り返す無力感(Ulrich et al., 2010) | 4 |
| ・看護師に倫理的に困難な状況を変える力がない感覚(Pavlish et al., 2011) | |||
| ・無力さと不十分さの感覚(Lamiani et al., 2021) | |||
| 患者や患者家族の苦しみにつながる治療への関与 | ・患者や家族の苦しみを目の当たりにした経験(Pavlish et al., 2011) | 5 | |
| ・子どもの最善の利益にならない場合の生命維持の継続(Sauerland et al., 2015) | |||
| ・死を長引かせるだけの大がかりな救命処置の開始(Villers & Von, 2013) | |||
| 患者に十分なことができなかった認識 | ・患者が事前に表明した可能な意思を尊重しないこと(Santiago & Abdool, 2011) | 4 | |
| ・安全で質の高いケアが実施できないこと(Ramos et al., 2019) | |||
| ・患者のために十分なことをしなかった感覚(Pavlish et al., 2011) | |||
| 患者擁護に対する医療従事者としての不足感 | ・患者を危害から守らないこと(Santiago & Abdool, 2011) | 8 | |
| ・患者を擁護することができないと感じた時(Santiago & Abdool, 2011) | |||
| ・患者のためにならない生命維持を続けるという家族の希望に従うこと(Villers & Von, 2013) | |||
| COVID-19パンデミックにより以前と同様のケアを提供できない無力感 | ・COVIDー19により本来受けられるはずだったケアを十分に受けられなかったために死亡したこと(Kelly et al., 2023) | 7 | |
| ・十分に命を救うことができない認識に関連する罪悪感と恥(Gherman et al., 2022) | |||
| 解決されない Moral distressの 経験の蓄積 |
解決されない繰り返される Moral distress |
・繰り返す未解決の道徳的苦痛(Trautmann, 2015) | 8 |
| ・時間が経っても低下しないMoral distress(Spilg et al., 2022) | |||
| 繰り返され長期に渡るMoral distressによる苦痛のレベルの上昇 | ・道徳的苦痛のエピソードが繰り返されること(Epstein & Delgado, 2010) | 6 | |
| ・道徳的に苦痛を伴う状況の頻度が多いこと(Wocial et al., 2020) | |||
| ・道徳的苦痛レベルの上昇(Kaya & Molu, 2023) | |||
| COVID-19パンデミックにより 繰り返し経験するMoral distress |
・Moral distress後に繰り返す深刻な違反(Rosen et al., 2022) | 6 | |
| ・長期的なMoral distressの経験(Smith et al., 2023) |
【自己の信念に合わない実践や目撃による道徳的価値観の侵害】では,自分の道徳規範に反する目撃や実践(Lachman, 2016)など〈自己の信念や道徳的規範に合わないことの目撃や実践〉から,道徳的誠意が脅かされる(Hardingham, 2004)〈自己の道徳的価値観の侵害〉が含まれた.【外的因子や組織内サポートの欠如によるMoral distressの増大】では,財政削減(Porr et al., 2019)や安全でない看護師と患者の比率(Christodoulou-Fella et al., 2017)により〈マンパワー不足や財政削減によるMoral distress〉になるが,相談しても話を聞いてもらえず無力だと感じる(Hamric & Epstein, 2017)〈組織や管理者,同僚からのMoral distressへのサポートの欠如〉があった.COVID-19の感染者の増加による資源の不足(Rosa et al., 2022)に関連する制限や障害(Caram et al., 2021;Mccarron et al., 2022)など〈COVID-19パンデミックの影響による仕事量の増大と医療物資の不足〉が含まれた.【Moral distressによる後悔や罪悪感などの心理的な傷】では〈Moral distressにより残る罪悪感や後悔の傷〉や,救命できない罪悪感と恥(Gherman et al., 2022)など〈Moral distressによる罪悪感や恥などの心理的苦痛〉で構成された.【患者や患者家族への十分な実践ができなかった無力感】では,最善の利益にならない生命維持の継続(Sauerland et al., 2014)など〈患者や患者家族の苦しみにつながる治療への関与〉や,安全で質の高いケアが実施できないこと(Ramos et al., 2019)や,患者が事前に表明した意思を尊重しない(Santiago & Abdool, 2011)など〈患者に十分なことができなかった認識〉が,繰り返す無力感(Ulrich et al., 2010)といった〈患者や患者家族への不十分な実践に対する繰り返す無力さの感覚〉となり,〈患者擁護に対する医療従事者としての不足感〉を感じていた.COVID-19により本来受けられるケアを受けられなかったために死亡(Kelly et al., 2023)など〈COVID-19パンデミックにより以前と同様のケアを提供できない無力感〉が含まれていた.【解決されないMoral distressの経験の蓄積】では,〈解決されない繰り返されるMoral distress〉により,頻度が多く(Wocial et al., 2020)Moral distressのレベルが上昇(Kaya & Molu, 2023)する〈繰り返され長期に渡るMoral distressによる苦痛レベルの上昇〉が含まれた.またCOVID-19の平常時とは違う状況における繰り返す深刻な違反(Rosen et al., 2022)など長期的なMoral distressを経験(Smith et al., 2023)といった〈COVID-19パンデミックにより繰り返し経験するMoral distress〉で構成された.
4. 属性医療従事者におけるMoral residueの属性として,7カテゴリーを生成した(表2).
| 7カテゴリー | 17サブカテゴリー | コードの例 | 67コード |
|---|---|---|---|
| 妥協から満足できる形で解決されなかった 持ち続けるMoral distress |
自己や他者の「妥協したMoral distress」 から生じ持ち続けるもの |
・道徳的苦痛を妥協した時から持ち続けるもの(Corley, 2002) | 2 |
| ・自己や他者の「妥協したMoral distress」の事例から生じる(Villers & Von, 2013) | |||
| 満足できる形で解決されなかった Moral distress |
・Moral distressのレベルが低下した後,満足のいく形で解決されない時に残るもの(Epstein & Hamric, 2009) | 3 | |
| ・Moral distressから生じる感情処理が未解決のもの(Rosa et al., 2022) | |||
| Moral distressの 繰り返す曝露による 時間をかけた残留 |
Moral distressの繰り返しの曝露による蓄積 | ・Moral distressの状況にさらされるたびに蓄積(Trautmann, 2015) | 7 |
| ・より多くのMoral distressを与える状況の経験により増加し続ける(Bosek & Ring, 2010) | |||
| ・Moral distressを感じる状況が繰り返され残存レベルは上昇(Epstein & Delgado, 2010) | |||
| Moral distressの曝露から時間的経過と共に蓄積 | ・Moral distressの繰り返し曝露により時間の経過と共に蓄積(Epstein & Hamric, 2009) | 2 | |
| 消えることがない 長引く苦痛 |
患者や患者家族の苦痛の残存 | ・不必要な患者の苦痛(Pavlish et al., 2011) | 3 |
| ・患者家族の姿が情景として記憶(小森・宮林,2015) | |||
| 時間が経っても消えることのない長引く苦痛 | ・Moral distressを感じる状況に伴う長引く苦痛(Molloy et al., 2015) | 4 | |
| ・Moral residueは悪臭のように残る(Prestia et al., 2017) | |||
| Moral distressが低減しても残る感情や感覚 | ・Moral distressが減っても0にはならないもの(Epstein & Delgado, 2010) | 2 | |
| 同様のMoral distressにより蘇る鮮明な記憶 | 過去のMoral distressがトリガーとなり蘇る記憶 | ・倫理的に困難な状況に遭遇したときに,より強いMoral distressを呼び起こす可能性(Wocial et al., 2020) | 4 |
| ・時間の経過とともに徐々に薄れ,類似する状況で蘇る(小森・宮林,2015) | |||
| 何度でも思い出すことができる明確な記憶の残存 | ・過去の不満や苦痛を詳細に思い出すことができる(Trautmann, 2015) | 3 | |
| ・どんなに過去のことでも,振り返り思い出すことができる感情(Porr et al., 2019) | |||
| 他者や自己の実践への後悔や違和感の残留 | 他者や自己の十分なことや正しいことが できなかった行いへの後悔の念 |
・正しいことをしなかったときに受ける自罰の総和(Epstein & Delgado, 2010) | 6 |
| ・十分なことができなかったという感情(Pavlish et al., 2011) | |||
| ・強い批判,不信感,後悔の念など,他者や自身への感情(小森・宮林,2015) | |||
| 過去の苦悩により誘発される記憶と苦悩の蓄積 | ・新たな状況が過去の自分の無力さを思い出させクレッシェンドが高まる(Epstein & Delgado, 2010) | 2 | |
| 他者や組織から認められていないことや 違和感 |
・自分の道徳的懸念が認められていないことを理解し続ける場合(Epstein & Delgado, 2010) | 3 | |
| ・言葉にできない漠然とした違和感(小森・宮林,2015) | |||
| 自分を失うような道徳的誠実さを喪失した感覚 | 自己の道徳的誠実を失った感覚 | ・道徳的誠実さの喪失(Laabs, 2007) | 5 |
| ・自分の道徳的誠実さに刻まれた傷(Epstein & Delgado, 2010) | |||
| COVID-19パンデミックによる道徳的有害事象 | ・道徳的有害事象が残したもの(Gherman et al., 2022) | 4 | |
| ・Moral distressに対し様々な反応であり,良い医者であるという感覚を回復できなかった場合(Lamiani et al., 2021) | |||
| 日常生活や実践への 持続的な影響 |
時間が経っても深く心に及ぼす影響 | ・長期間(多くの場合,数年間)動揺し続けるもの(Deady & Carthy, 2010) | 6 |
| ・非常に辛く,私たちの思考に永続的かつ強力に濃縮されるもの(Bennett et al., 2013) | |||
| 日々の生活や実践への影響 | ・患者を効果的にケアする能力に影響を及ぼす可能性(Woods, 2020) | 5 | |
| ・通常の仕事や日常生活を続けているある時点で,依然として影響を与える経験(Gustavsson et al., 2022) | |||
| COVID-19パンデミックによる罪悪感などの長引く心理的苦痛 | ・COVID-19パンデミックの第一波の経験から2年経った今でも存在する心理的苦痛(Rosa et al., 2022) | 6 | |
| ・変化をもたらすために異なる行動をとることができなかったことに対する長引く罪悪感(Lamiani et al., 2021) | |||
| ・Moral distressを経験しやすくなる(Mccarron et al., 2022) | |||
| ・Moral distressが時間の経過とともに増加(Cooper-Bribiesca et al., 2023) |
【妥協から満足できる形で解決されなかった持ち続けるMoral distress】では,〈自己や他者の「妥協したMoral distress」から生じ持ち続けるもの〉や,感情処理の未解決(Rosa et al., 2022)により〈満足できる形で解決されなかったMoral distress〉で示された.【Moral distressの繰り返す曝露による時間をかけた残留】では,Moral distressが繰り返され残存レベルは上昇(Epstein & Delgado, 2010)し,その度に蓄積(Trautmann, 2015)する〈Moral distressの繰り返しの曝露による蓄積〉や,〈Moral distressの曝露から時間的経過と共に蓄積〉が含まれた.【消えることがない長引く苦痛】では,苦しむ患者や家族の姿が情景として記憶(小森・宮林,2015)され〈患者や患者家族の苦痛の残存〉となり,〈時間が経っても消えることのない長引く苦痛〉を感じ,〈Moral distressが低減しても残る感情や感覚〉で示された.【同様のMoral distressにより蘇る鮮明な記憶】では,〈同様のMoral distressがトリガーとなり蘇る記憶〉や,〈何度でも思い出すことができる明確な記憶の残存〉が含まれた.【他者や自己の実践への後悔や違和感の残留】では,十分なことができなかった感情(Pavlish et al., 2011)などが〈他者や自己の十分なことや正しいことができなかった行いへの後悔の念〉となり,〈過去の苦悩により誘発される記憶と苦悩の蓄積〉や,〈他者や組織から認められていないことや違和感〉で構成された.【自分を失うような道徳的誠実さを喪失した感覚】では,〈自己や道徳的誠実さを喪失した感覚〉を導き,COVID-19により良い医者である感覚を回復できない(Lamiani et al., 2021)〈COVID-19パンデミックによる道徳的有害事象〉が含まれた.【日常生活や実践への持続的な影響】では,〈時間が経っても深く心に及ぼす影響〉や〈日々の生活や実践への影響〉が含まれた.COVID-19に関するMoral distressに対し,状況を変化させるための行動がとれなかった罪悪感(Lamiani et al., 2021)などが時間の経過とともに増加(Cooper-Bribiesca et al., 2023)する〈COVID-19パンデミックによる罪悪感などの長引く心理的苦痛〉が含まれた.
5. 帰結医療従事者におけるMoral residueの帰結として6カテゴリーを生成した(表3).
| 6カテゴリー | 19サブカテゴリー | コードの例 | 69コード |
|---|---|---|---|
| Moral residueがもたらす誠実さの喪失や無頓着 などの負の変化 |
Moral residueによりケアの道徳的側面への麻痺や欠如 | ・ケアの道徳的側面に鈍感になる(Hamric, 2014) | 2 |
| ・倫理的に困難な状況に対して道徳的に麻痺する(Epstein & Delgado, 2010) | |||
| 皮肉や無頓着などの負の変化 | ・皮肉になる(Epstein & Hamric, 2009) | 4 | |
| ・様々なことに無頓着になる(Epstein & Hamric, 2009) | |||
| 専門職としての誠実さの喪失 | ・専門職としての誠実さの喪失(Hamric, 2014 | 3 | |
| ・職業上の誠実さを損なう(Tarabeih & Cohe, 2020) | |||
| 罪悪感による自己批判や自尊心の低下 | ・Moral residueにより自己批判するようになる(Deady & Carthy, 2010) | 3 | |
| ・低い自尊心につながる(Deady & Carthy, 2010) | |||
| Moral residueがもたらす身体的・精神的症状 | Moral residueがもたらす身体的症状 | ・泣く,眠れない,悪夢を見る,食欲不振などの生理的反応(Deady & Carthy, 2010) | 5 |
| ・高血圧,心臓不整脈,アスピリンを噛むほどひどい胸痛,胃腸疾患,末梢神経障害,無月経などの身体症状(Prestia et al., 2017) | |||
| バーンアウトによる離職などキャリアへの悪影響 | ・Moral residueがもたらす看護師のバーンアウト(Corley, 2002) | 5 | |
| ・バーンアウトにつながる(Epstein & Delgado, 2010) | |||
| 抑うつや無力感などの精神的疲弊 | ・反芻,疲労,抑うつ,夫婦間の不調和などの感情の変化(Prestia et al., 2017) | 5 | |
| ・無力感につながる(Deady & Carthy, 2010) | |||
| COVID-19パンデミックによる道徳的傷害 | ・道徳的傷害や燃え尽き症候群につながる(Patterson et al., 2020) | 3 | |
| ・非人格化により自己防衛(Maunder et al., 2023) | |||
| Moral residueの影響を 認識し職業や組織に抱く 幻滅感 |
Moral residueの存在やケアに与える影響を認識 | ・Moral residueを認識(Bennett et al., 2013) | 3 |
| ・Moral residueのケアに与える影響を認識(Fantus et al., 2024) | |||
| COVID-19パンデミックによる職業や組織への幻滅感 | ・医療分野の職業に対する幻滅感(Vittone & Sotomayor, 2021) | 2 | |
| ・家庭のようであった病院から感情的に切り離された感覚(Lamiani et al., 2021) | |||
| アドボカシーの欠如などケアの質の低下が およぼす患者への 悪影響 |
アドボカシーの欠如など医療や看護の質の低下による患者への悪影響 | ・患者へのアドボカシーの欠如(Corley, 2002) | 5 |
| ・ケア提供者へ及ぼす悪影響(Kelly et al., 2023) | |||
| 患者の満足度の低下 | ・患者満足度の低下(Corley, 2002) | 2 | |
| ・患者の不快感・苦悩の増大(Corley, 2002) | |||
| COVID-19パンデミックによるアドボカシーの停滞や実践に及ぼす悪影響 | ・十分なケアができないことによるアドボカシーの停滞(Kelly et al., 2023) | 3 | |
| ・ケア提供者へ及ぼす悪影響(Kelly et al., 2023) | |||
| 職場や職業からの離職と組織への影響 | 職場や職業からの離脱 | ・離職し患者と距離を置く(Laabs, 2007) | 5 |
| ・離職により自分の人生を取り戻す(Prestia et al., 2017) | |||
| 組織への影響 | ・看護師の離職率の増加(Corley, 2002) | 3 | |
| ・病院の評判の低下(Corley, 2002) | |||
| COVID-19パンデミックによる離職の願望 | ・病院や専門職を完全に辞めたいという願望(Lamiani et al., 2021) | 2 | |
| Moral residueへのモラル レジリエンスなどによるポジティブな効果 | Moral residueの克服のための実践 | ・自分の実践の変化(Gunther & Thomas, 2006) | 8 |
| ・より積極的に行動することを可能にした(Sauerland et al., 2014) | |||
| ・克服への強い決意から倫理的看護実践につながる(小森・宮林,2015) | |||
| Moral residueを緩和させる要素 | ・宗教性はMoral distressの緩和要素(Carletto et al., 2022) | 2 | |
| ・トラウマとなるような出来事から学んだ教訓(Gunther & Thomas, 2006) | |||
| COVID-19パンデミックのMoral residueへのモラル レジリエンスなどによる 道徳的誠実さの回復 |
・道徳的誠実さと良い医者であるという感覚の回復(Lamiani et al., 2021) | 4 | |
| ・モラル レジリエンスが緩和する可能性(Spilg et al., 2022) | |||
| ・道徳的誠実さの回復(Zuylen et al., 2023) | |||
| ・最大限に働くことにより患者の苦しみに対する罪悪感から解放(Louise et al., 2023) |
【Moral residueがもたらす誠実さの喪失や無頓着などの負の変化】では,〈Moral residueによりケアの道徳的側面への麻痺や欠如〉や,〈皮肉や無執着などの負の変化〉につながり,職業上の誠実さを損なう(Tarabeih & Cohe, 2020)〈専門職としての誠実さの喪失〉や,〈罪悪感による自己批判や自尊心の低下〉で示された.【Moral residueがもたらす身体的・精神的症状】では,不眠や食欲不振などの〈Moral residueがもたらす身体的症状〉,〈抑うつや無力感などの精神的疲弊〉や,〈バーンアウトによる離職などキャリアへの悪影響〉で示された.COVID-19パンデミックにおいて精神的に追い込まれ,非人格化により自己防衛(Maunder et al., 2023)するが,道徳的傷害や燃え尽き症候群につながる(Patterson et al., 2020)〈COVID-19パンデミックによる道徳的傷害〉が含まれた.【Moral residueの影響を認識し職業や組織に抱く幻滅感】では,〈Moral residueの存在やケアに与える影響を認識〉(Fantus et al., 2024)し,COVID-19パンデミックでは,職業に対する幻滅感(Vittone & Sotomayor, 2021)を抱き,組織から切り離された感覚(Lamiani et al., 2021)になる〈職業や組織への幻滅感〉で構成された.【アドボカシーの欠如などケアの質低下が及ぼす患者への悪影響】では,〈アドボカシーの欠如など医療や看護の質の低下による患者への悪影響〉や〈患者の満足度の低下〉が示され,〈COVID-19パンデミックによるアドボカシーの停滞や実践に及ぼす悪影響〉も含まれた.【職場や職業からの離職と組織への影響】では,自分の人生を取り戻す(Prestia et al., 2017)ために離職し患者と距離を置く(Laabs, 2007)〈職場や職業からの離脱〉や,離職率の増加から病院の評判が下がり採用難に陥る〈組織への影響〉で構成され,〈COVID-19パンデミックによる離職の願望〉の増加も含まれた.【Moral residueへのモラル レジリエンスなどによるポジティブな効果】では,自分の実践を変化(Gunther & Thomas, 2006)させ,より積極的に行動する(Sauerland et al., 2014)〈Moral residueの克服のための実践〉や,〈Moral residueを緩和させる要素〉には,宗教性(Carletto et al., 2022)や学んだ教訓(Gunther & Thomas, 2006)が含まれた.〈COVID-19パンデミックのMoral residueへのモラル レジリエンスなどによる道徳的誠実さの回復〉には,最大限に働くことにより患者の苦しみに対する罪悪感から解放(Louise et al., 2023)や,モラル レジリエンスが緩和させる可能性(Spilg et al., 2022)を示し,道徳的誠実さを回復(Zuylen et al., 2023)することが含まれた.
6. モデル例の提示典型例はすべての定義属性の例示により,その概念の例証であると完全に確信できるものとする必要がある.また境界例や間違った例を提示により,概念の特徴を示すことが可能となる.以下に筆者が創作した看護師設定と状況設定を提示後,モデル例を示す.
1) 看護師設定A看護師は経験20年目であり,クリティカルケア部門に所属し15年目になる.以前は,NICUなど小児科病棟でも経験を積んでいる.
2) 状況設定A看護師は,10年前にHCUで発熱と食事がとれないため夜間に緊急入院した1歳半の男児Bくんを担当した.入院後もBくんの脈拍が速く尿量が少ないことが気になり,主治医(C医師)に電話で報告したが,経過を見るようにとの指示を受けた.その後もBくんの状態の改善はないため,何度もC医師に報告するが結果は同様であった.A看護師はBくんが気がかりであり,他の患者対応をしながらも頻繁に観察を行っていた.朝になり別の小児科医が回診に来たところ,Bくんの状態の悪さに驚き,急遽,小児科の専門病院に転院搬送となった.しかしながら,Bくんがその数日後に転院先で亡くなったとA看護師は聞いた.
3) 典型例(全ての属性が含まれている)A看護師は自分の実践が十分であったのか,もっと早く対応していれば救命できたかもしれないと自責の念にかられた(【他者や自己の実践への後悔や違和感の残留】).看護師長にその辛い気持ちを話そうとしたが,看護師長からC医師にはよくあることであり仕方がないと一方的に告げられたため,看護師長からは十分な心理的サポートは得られなかった(【妥協から満足できる形で解決されなかった持ち続けるMoral distress】).C医師は別の患者の状態を報告しても病棟に来ることは少ないままである(【他者や自己の実践への後悔や違和感の残留】).A看護師は小児患者を担当するたびにBくんの記憶が蘇り緊張している(【同様のMoral distressにより蘇る鮮明な記憶】).その後も,患者状態を報告してもC医師の対応は変わらないため,懸念があっても報告をためらうようになった(【自分を失うような道徳的誠実さを喪失した感覚】).そのような自分が嫌になり,看護師をやめようと思うこともある.
数年後,痙攣重積発作の2歳女児を担当した.痙攣の頻度が増し,呼吸状態も悪化してきたためC医師に何度も報告するが診察には来てくれなかった(【Moral distressの繰り返す曝露による時間をかけた残留】).
A看護師は10年経った今も鮮明にBくんを思い出す.生きていたら何歳くらいで,こんな感じなのだろうと思うと胸が苦しくなる(【消えることがない長引く苦痛】).自分の子と重ね,日常生活でも急に悲しくなる生活を続けている(【日常生活や実践への持続的な影響】).
4) 境界例(いくつかのMoral residueの属性が含まれている)A看護師は自分の実践が十分であったのか,もっと早く対応していれば救命できたかもしれないと自責の念にかられた(【他者や自己の実践への後悔や違和感の残留】).その後も小児患者を担当するたびに,Bくんの記憶が鮮明に蘇り,苦しい気持ちになる(【消えることがない長引く苦痛】).同様のことを繰り返してはならないと思い,C医師には嫌な対応をされても,懸念は何度も報告し伝えるようにしている.C医師も以前と比較し病棟に来る回数が増え,Bくんと同様のことは起こっていない.
5) 関連例(類似概念であるMoral distressを用いた例)A看護師は自分の実践が十分であったのか,もっと早く対応していれば救命できたかもしれないと自責の念にかられた(【他者や自己の実践への後悔や違和感の残留】).看護師長にBくんの事例を相談し,カンファレンス開催の提案を受けた.カンファレンスでBくんに対する苦しい思いを話し,他のスタッフも同様の経験をしていたことを耳にした.A看護師はカンファレンスを通じて少し気持ちが救われた感じがした.その後,病棟全体でどう対応すべきかを考え,医師への報告方法の見直しや,C医師の上司にも相談した.C医師の診療態度は変わりつつあり,看護師の報告への対応も変化を感じるようになった.A看護師は様々なMoral distressに遭遇しても,病棟が一丸となって問題解決に向けて話し合い取り組めるため,この職場が気に入っている.
Bくんの事例がMoral distressになるが,放置せず問題と向き合い,結果的に病棟全体の取り組みに繋げ,C医師の行動も変化してきている.その点でMoral distressの解決に導いている.
6) 間違った例(Moral residueにあてはまりそうだがあてはまらない)A看護師は,十分実践した上での結果であるため落ち度はなく,何度も報告したのに対応しなかったC医師が招いた結果だと考えた.その後もC医師は報告しても経過を見るようにとの指示で信頼できないと考え,別の小児科医に相談している.A看護師は現在もC医師と直接向き合わずに,あまり関わらないように実践を続けていることに問題はなく,ストレスが減り働きやすいと感じている.
間違った例では,A看護師はこの事例が抱える問題から回避し,別の医師への相談によって気持ちが楽になっている.【他者や自己の実践への後悔や違和感の残留】になりそうだが,苦痛を感じていない点でどのカテゴリーもあてはまらない.
7. 概念モデル概念分析の結果をふまえ,医療従事者のMoral residueを「満足できる形で解決されなかったMoral distressの繰り返す曝露により時間をかけて残留し,道徳的誠実さを喪失した感覚を伴う消えることがない長引く苦痛が,日常生活や実践に持続的な影響を与えるもの」と定義した.
医療従事者におけるMoral residueの概念モデルを図3に示す.先行要件の【自己の信念に合わない実践や目撃による道徳的価値観の侵害】,【外的因子や組織内サポートの欠如によるMoral distressの増大】は,Moral distressとなる状況を示す.【Moral distressによる後悔や罪悪感などの心理的な傷】,【患者や患者家族への十分な実践ができなかった無力感】はMoral distressによる心理的な影響であり,【解決されないMoral distressの経験の蓄積】によりMoral residueにつながっていく.

属性の【妥協から満足できる形で解決されなかった持ち続けるMoral distress】,【他者や自己の実践への後悔や違和感の残留】,【消えることがない長引く苦痛】,【同様のMoral distressにより蘇る鮮明な記憶】,【他者や自己の実践への後悔や違和感の残留】,【自分を失うような道徳的誠実さを喪失した感覚】はMoral residueの主な特徴を示す.それらを内包し【日常生活や実践への持続的な影響】を与えている.
帰結の【Moral residueがもたらす誠実さの喪失や無頓着などの負の変化】,【Moral residueがもたらす身体的・精神的症状】,【Moral residueの影響を認識し職業や組織に抱く幻滅感】は個人への影響を示す.【アドボカシーの欠如などケアの質低下が及ぼす患者への悪影響】,【職場や職業からの離職と組織への影響】は,Moral residueの影響が他者や組織へと波及している.【Moral residueへのモラル レジリエンスなどによるポジティブな効果】は,ポジティブな効果によりMoral residueの影響を緩和させる者もいることを点線で示した.
Moral residueの類似概念であるMoral distress,モラル ジレンマの相違の検討では,モラル ジレンマは道徳的価値の対立により明確な正解がない状況であるのに対し,Moral distressは正しい行動が分かっているが選択できない状況下での心理的苦痛である.Moral distress,モラル ジレンマとMoral residueでは,その時の状況をさすのか,時間的経過と共に蓄積され,持続的な影響がある点に違いがある.この相違から,Moral residueは時間的持続性と蓄積していく特徴があり,医療従事者の倫理的な経験を長期的,包括的にとらえる概念であるといえる.
医療従事者におけるMoral residueの属性から,Epstein & Hamric(2009)が述べるようにMoral distressが満足のいく形で解決されなければMoral residueが蓄積されていく内容を支持した.さらにMoral residueが日常生活(Gustavsson et al., 2022)や,患者ケア(Woods, 2020)といった実践への長期的な影響(Deady & Carthy, 2010)を与えるという先行研究とも整合性を示していた.典型例では,患児へのさらなる治療が必要であると分かっているが医師には応じてもらえないため,看護師の権限では何もできない無力感などがMoral distressになり,類似する状況で記憶が蘇り,日常生活までも長く影響を与えていた.この例から臨床事例にも適応可能であると考えられ,属性の実践的妥当性も支持された.
Moral residueの先行要件には,道徳的価値観の侵害や患者家族への十分な実践ができなかったMoral distressの繰り返す曝露によってMoral residueにつながることが示された.帰結であるMoral residueがもたらす様々な影響は,個人から他者や組織へと波及していくが,克服するための実践や,宗教性(Carletto et al., 2022)やモラル レジリエンス(Spilg et al., 2022)は影響を緩和させる可能性もある.Moral residueはただ悪影響をもたらすのではなく,ポジティブな効果により影響が変化し得る多層的な構造が示唆された.Moral residueの概念モデルにおいて,先行要件ではMoral distressとなる出来事からMoral residueにつながり,属性としてMoral residueが日常生活や実践に影響させながら残留し,帰結として個人や組織に様々な影響をもたらすという一貫した構造があり,概念モデルの妥当性は示された.
Moral residueは,世界中の専門的な看護実践に常に存在(Milton, 2001)し,特に経験年数が長い医療従事者ほどあるもの(Hamric, 2014)とされ,医療を提供する環境でMoral residueを避けるのは難しいと考える.その中でCOVID-19パンデミックは,より深刻なMoral residueを与え,現在もその影響に苦しんでいる医療従事者がいる可能性がある.
ポジティブな効果によりMoral residueの影響を変化させるのは,どのような医療従事者なのだろうか.今後は日本の医療従事者の背景的要因を探り,Moral residueの影響の違いを追究することは,より深い理解と低減にむけた具体的な介入策につながる可能性がある.
2. 実践への活用と今後の展望Moral residueは,医療従事者の日常生活や実践に長期的な影響を及ぼすため,倫理相談体制の強化など組織的な早期介入や継続的な支援は必須である.またMoral residueは倫理的,道徳的残渣や残留物と翻訳可能であるが,明確な日本語訳は存在していないため,概念自体が十分に認知されていない可能性がある.Moral distressが積み重なった延長線上にあると捉えられ,独立した研究テーマとして注目されにくく,測定尺度もないことは,研究報告が少ない原因であると推察する.今後はMoral residueに関する尺度開発やMoral residue低減に向けた介入研究などが期待される.
本研究は分析対象の文献から抽出された概念であるが,国内文献が学会抄録しかなく,ほぼ国外文献であったため,文化的背景などによるMoral residueの違いは否めず,本研究の限界である.今後は研究結果をもとに国内におけるMoral residueの研究をすすめ,より概念を明確化していく必要がある.
Walker & Avantの分析手法を用いて,医療従事者のMoral residueを「満足できる形で解決されなかったMoral distressの繰り返す曝露により時間をかけて残留し,道徳的誠実さを喪失した感覚を伴う消えることがない長引く苦痛が,日常生活や実践に持続的な影響を与えるもの」と定義した.Moral residueは多くの医療従事者が有している可能性があり,Moral distressへの繰り返す曝露により長引く苦痛と共に,日常生活や実践に持続的な影響を与えるものであった.現時点において国内ではMoral residueに関する報告はほぼないため,まずは医療従事者がMoral residueを認識し,個人だけではなく組織としてMoral residueを低減させるための方略を考えていく必要がある.
付記:本論文の内容の一部は,第51回日本看護研究学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究に関してご指導,ご助言をいただきました京都看護大学大学院看護学研究科の諸先生方,博士後期課程の院生の皆様に深く感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:YSは,研究責任者として研究の着想およびデザイン,分析,論文執筆の全てを担っている.IMは,研究過程の全てにおいて助言を行い,最終原稿を読み承認した.