2026 年 46 巻 p. 307-317
目的:クリティカルシンキング志向性とプロアクティブ行動に着目し,急性期病院の看護師のチームアプローチ促進力に影響する要因の解明を目的とした.
方法:急性期病院の看護師285件を対象に,WEB調査しチームアプローチ促進力について重回帰分析した.
結果:経験が長く,クリニカルラダーレベルが高く,医療チーム・リンクナース経験のある看護師ほど,クリティカルシンキング志向性,プロアクティブ行動ともに高かった.チームアプローチ促進力は,医療チーム・リンクナース経験(β = 0.40),クリニカルラダーレベル(β = 0.38),プロアクティブ行動(β = 0.06),クリティカルシンキング志向性(β = 0.04)が有意に関連していた.
結論:チームアプローチ促進力には,クリティカルシンキング志向性・プロアクティブ行動・クリニカルラダー・医療チームなどが関連していた.
Objective: Focusing on critical thinking orientation and proactive behavior, we aimed to clarify the factors that influence the ability of nursing in acute care hospitals to promote a team approach.
Methods: We conducted a web-based survey vis-à-vis the critical thinking orientation and proactive behaviors, as well as multiple regression analysis on the team approach promotion abilities, of 285 nurses in an acute care hospital.
Results: Nurses with longer nursing experience, clinical ladder levels, and more experience as link nurses in a medical team had higher critical thinking orientation and exhibited more proactive behaviors. Team approach facilitation was significantly associated with medical team/link nurse experience (β = 0.40), clinical ladder level (β = 0.38), proactive behavior (β = 0.06), and critical thinking orientation (β = 0.04).
Conclusion: Critical thinking orientation, proactive behavior, nursing practice competence, and organizational role competence, including medical team, were associated with the ability of nurses to promote a team approach. These findings suggest the importance of fostering proactive behaviors and critical thinking orientation alongside clinical experience and organizational involvement in enhancing team-based care in acute healthcare settings.
急性期医療の現場では,患者の生命に直結する迅速かつ的確な判断と行動のもと,医師や多職種と連携し,チームアプローチに基づいた建設的なコミュニケーションと介入を通じて,危機的状況の回避に努める必要がある.さらに,予期せぬ事態や倫理的ジレンマに直面する場面も少なくない.そのため,看護師には,限られた情報のもと,最適な意思決定と行動選択を行う能力が求められる.
高齢化率が29.1%(内閣府,2024)に達した本邦では,高齢者が重症化した場合,急性期医療に加え,多疾患併存や慢性症状,認知症などにより長期的な治療が伴う.WHO(2010);厚生労働省(2010)は,早期からの多職種連携・協働によるチーム医療の重要性を説いている.しかし,多職種の連携不十分や他の職種への過度な依存など,円滑な連携を阻害する実態が指摘され(穂高ら,2017;松下ら,2020),質の高い患者ケア,患者・家族の意向に沿った退院支援には多職種が連携したチームアプローチが見直されている(西山・関井,2019).
看護師が主体的にチームアプローチを促進していくうえで,必要となる判断スキルにクリティカルシンキングがある.質の高い医療提供と良好な患者転帰のためには極めて重要なスキルであり(Willers et al., 2021),患者ケアの問題に直面した際に求められる適切な看護判断(二見ら,2019;尾形,2015)や改善を追求する意思である(Potter et al., 2007).クリティカルシンキング能力が共感(矢澤ら,2020),看護実践能力(原ら,2013),情報活用能力(小林ら,2019)など多様に関連し行動にも影響することが示されている.磯和・南(2015)は,他者との協働を前提とした思考態度を測定する尺度として,「短縮版社会的クリティカルシンキング志向性尺度」を開発している.この尺度の特性を踏まえ,本研究では,多職種との協働場面における看護師のクリティカルシンキング志向性に焦点を当てた.
一方で,実践的な行動として,個人が組織やチームに主体的な働きかけを示すプロアクティブ行動(張,2021)が注目され,就学者や若年層の研究(尾形,2016;西山,2008)や近年では,急性期病院の看護師のキャリア形成への影響(小川ら,2023)が報告されている.
Griffin et al.(2007)は,「プロアクティブ行動モデル」を提唱し,不確実性が高く相互依存的な状況下において,従業員が与えられた役割を遂行するに留まらず,自律的に変化を創出する行動の重要性を強調した.急性期では,限られた時間の中で迅速な意思決定が求められる.患者の治療およびケア方針の決定プロセスにおいて,看護師はチームの一員として主体的な行動をしなければならない.患者の不穏,せん妄状態やバイタルサインの変化から病態の悪化などに対して,クリティカルシンキングを用いた客観的な状況判断は,チーム内での適切な情報共有や提案につながることが考えられる.さらに,これらの判断は,看護師自らが意思決定支援に関わり,医師に治療方針に関する提言や,多職種カンファレンスへの働きかけなどプロアクティブな行動を通じて具体的な実践へとつながると考えた.いずれもチームアプローチを促進するうえで重要な要素であると想定した.また,看護師が多職種に対して自信をもって働きかけ,問題解決を牽引するためには,看護師自身がどの程度,チームアプローチ促進力を備えているか自覚する必要がある.
多職種連携におけるチームアプローチの重要性は広く認識されてきた.しかし,看護師のクリティカルシンキング志向性およびプロアクティブ行動が,実際にどの程度チームアプローチ促進力と関連しているのかについては,これまでの先行研究では十分な分析がなされていない.
本研究では,看護師が自覚するチームアプローチ促進力の程度を主観的に把握するとともに,その特徴を客観的に捉えるため,既存尺度を用いてクリティカルシンキング志向性,プロアクティブ行動,さらに個人属性などの要因を組み込み,それらの関連性を検証する概念枠組みを構築した(図1).

本研究では,急性期病院の看護師のクリティカルシンキング志向性とプロアクティブ行動に着目し,急性期病院におけるチームアプローチ促進力に影響する要因を解明することを目的とした.
本研究では,以下に操作的用語として定義した.
1. チームアプローチ促進力目標に向かって多職種連携・協働するプロセスにおいて,看護師が個々に発揮する推進力.具体的には,多職種連携・協働する際に自信をもって働きかけのできる力と捉える.
2. クリティカルシンキング志向性廣岡ら(2000)および磯和・南(2015)を参考に,感情や主観に流されず,客観的かつ論理的に物事を判断しようとする思考傾向.
3. プロアクティブ行動太田ら(2016)を参考に,起こりうる問題や状況に対して,主体的に先手を打ち,変化を起こそうとする能動的な行動.
本研究は,WEB入力式質問紙調査(横断的調査研究)とした.対象者の特性および関連要因を把握する探索的研究である.
2. 調査期間2024年2月1日~2024年3月31日
3. 研究対象者研究対象は,急性期(入院料1および入院基本料7対1)の,300床以上の施設に勤務する直接患者ケアに従事している看護師とした.本研究では,医師不足,医師偏在が顕著である東北地方の急性期病院10施設(各県2施設)を無作為に選定した(厚生労働省東北厚生局,2023).
除外基準は,看護師経験年数1年未満の看護師,看護師長などの看護管理者,クリニカルラダーレベル未取得者とした.なお,研究者所属施設は対象に含んでいない.サンプルサイズは,母集団を約1,000件とした場合,真の割合50%,許容誤差±5%,信頼水準レベル95%を仮定すると,必要サンプル数は279件と算出された.回答率50%と設定し,便宜抽出法により600件(1施設あたり60件)を配布した.
4. 調査方法 1) 調査手順適格基準を満たす施設の看護部長等に対し,研究の説明文書を送付し,研究協力の同意を書面(返信用封筒同封)で得た.同意書は2部作成し,1部を対象施設側,もう1部を研究担当者で保管した.看護部長等から同意が得られた施設では,直属の看護師長を通じて対象者へ説明文書の配布を依頼した.研究に同意する対象者のみが,Google Formsで作成されたWEB入力式質問票に回答する方式とした.回答をもって調査への同意とした.WEB入力式質問紙調査には,下記の質問項目および尺度を用いた.
2) 基本属性病院機能,職種の種類,看護師経験年数,クリニカルラダーレベルに,医療チームおよびリンクナース経験の有無を加えた項目を基本属性とした.
なお,クリニカルラダーレベルの基準は,看護師個人の臨床実践能力を評価するために用いられているツールであり,公益社団法人日本看護協会編(2019)で定義されているものを基準とした.
医療チームの看護師およびリンクナースは,それぞれが持つ知識・スキル・経験をもって,専門性の高いケアを組織全体やチームに広げる役割を担う存在であるとし統合した.
3) 自己が捉えるチームアプローチ促進力本研究では,看護師のチームアプローチ促進力を主観的自己評価により測定した.評価にはNRS(Numerical Rating Scale)法を用い,NRSスコアを1点(まったくない)から10点(とてもある)の10段階で回答を求める単一評価とした.この方法は,特定のプロジェクトやチームにおける個人の経験や内省に基づき,促進力に対する自己認識を捉えることを意図とする.個々の看護師の主観的な側面を重視し評価とした.
4) クリティカルシンキング志向性本研究では,看護師の志向特性を客観的に捉えることを目的とし,磯和・南(2015)が開発した「短縮版社会的クリティカルシンキング志向性尺度」を,使用許諾を得た上で用いた.この尺度は,廣岡ら(2000)および廣岡ら(2001)が開発した27項目の尺度をもとに,その構成概念を再検討して短縮版として開発されたものである.本尺度は,専門分野を問わず,問題解決や意思決定が必要なあらゆる場面で役立つ普遍的な能力を測定するため,看護師の志向特性を捉える上で適切であると判断した.
短縮版社会的クリティカルシンキング志向性尺度は,「対人的柔軟性」(3項目),「論理の重視」(3項目),「脱軽信」(3項目),「真正性」(3項目),「探究心」(3項目)の5つの下位因子,計15項目で構成される.尺度の適合度はCFI = 0.908,RMSEA = 0.069(90%信頼区間CI:.060~−.079),SRMR = .058と報告されており,CFIの値を除けば,一定の適合度を示している(磯和・南,2015).
回答形式は7件法のリッカート尺度とし,「7点:非常に当てはまる」から「1点:全く当てはまらない」までの選択肢から回答を求めた.得点の合計値は15点から105点の範囲で設定され,得点が高いほど,物事を客観的かつ論理的に判断しようとする傾向が高いことを示す.
5) プロアクティブ行動Griffin et al.(2007)によって提唱された職務パフォーマンスのプロアクティブ行動フレームワークに基づき,太田ら(2016)によって日本語版の妥当性が検証された尺度を用いた.Griffin et al.(2007)のフレームワークは,職務パフォーマンスを「熟達行動」「適応行動」「プロアクティブ行動」の3つの概念に分類し,貢献対象別に全27項目から構成される.
本研究では,チームアプローチを促進する観点から,単に看護師個人の業績を評価するだけでなく,複雑化する医療環境で求められる多面的なパフォーマンス,とりわけ組織やチームに変化を自ら生み出す行動を評価することが重要であると考え,プロアクティブ行動の質問項目を適用した.「新しい仕事方法の提案」「問題発生の予防に向けた先回りした行動」「新しいスキルの学習」「組織戦略への貢献」などを評価する項目を含み,貢献対象別に「個人」(3項目),「チーム」(3項目),「組織」(3項目)の3因子からなる合計9項目で構成される.全体尺度のクロンバックのα係数=.89,標準化信頼係数=.89,3因子9項目についてもα係数=.89と報告されており,内的一貫性が確認されている(太田ら,2016).
回答形式は7件法のリッカート尺度とし,「7点:非常に当てはまる」から「1点:全く当てはまらない」で回答を求めた.得点の合計値は9点から63点の範囲で設定され,得点が高いほど,業務遂行における能動的な行動傾向が高いことを示す.
5. 分析方法すべての解析には,Kanda(2013)が開発したフリー統計ソフトEZR(Easy R 64-bit版)を用い,検定の有意水準を5%,信頼区間の信頼係数を95%とした.データは単純集計,記述統計量により示した.各尺度の正規性は,Kolmogorov-Smirnov検定およびQ-Qプロットで確認した(p ≥ 0.05).2つの尺度の相関および主要な変数は,Spearmanの順位相関係数を用いて相関関係を確認した.基本属性による各尺度の差異を確認するため,属性別の比較として2群の比較にはMann-WhitneyのU検定を,3群間の比較にはKruskal-Wallis検定を適用し,Post-hoc検定としてSteel法による多重比較を行った.
看護師のチームアプローチ促進力に影響を与える要素を検証するため,主観的自己評価のチームアプローチ促進力を従属変数とし,各独立変数との相関を確認後,重回帰分析(多重線形回帰分析)を行った.重回帰分析における残差の仮定は,Q-Qプロットで正規分布に従っていること,多重共線性(VIF)は3未満であること,95%信頼区間CIにおいて誤差の範囲がおよそ±1の範囲のサンプルサイズであることを確認した.
モデル1:独立変数を「クリティカルシンキング志向性」および「プロアクティブ行動」,モデル2:モデル1に「施設機能別」,「看護師経験年数別」,「クリニカルラダーレベル別」,「医療チームおよびリンクナース経験」を追加した.
6. 倫理的配慮本研究は,ヘルシンキ宣言と倫理基準に従い,岩手医科大学倫理審査委員会の審査及び承認を経て,研究機関の長の実施許可を得て実施した(承認番号:MH2023-070).対象施設の看護部長に研究の主旨を文書で説明し,返書で同意を得た.WEB入力式回答フォームアンケート調査のため,調査対象者への倫理的配慮,権利の保障として,プライバシーの保護,匿名性の確保,機密性の維持,データ管理,研究目的,研究内容,不利益が生じないこと,自己決定の権利などを研究協力依頼の説明文に明記した.なお,WEB経由の回答は無記名とし,回答をもって同意とした.
調査依頼数は600件(1施設あたり60件)で,WEB入力式回答数は289件(応諾率48%)であった.欠損回答4件を除外し,285件(有効回答率47%)であった.
1. 対象者の基本属性(表1)施設機能別では,特定機能病院と急性期病院(入院基本料7対1)が全体の75%を占めた.看護師経験年数別では,5年未満が9%,6年以上が70%,21年以上は21%であった.クリニカルラダーレベル別では,レベルIIが21%,レベルIIIが最も多く48%を占め,レベルIV以上が27%であった.医療チーム・リンクナース等の経験別では,経験ありが66%であった.
(n = 285)
| 属性 | カテゴリー | n | 構成比率% |
|---|---|---|---|
| 施設別 | 急性期病院(入院料1) | 43 | 15 |
| 急性期病院(入院基本料7対1) | 108 | 38 | |
| 特定機能病院 | 106 | 37 | |
| 地域支援型病院 他 | 28 | 10 | |
| 職種別 | 看護師 | 285 | 100 |
| 看護師経験年数別 | 1~5年目 | 28 | 10 |
| 6~10年目 | 73 | 26 | |
| 11~15年目 | 64 | 22 | |
| 16~20年目 | 60 | 21 | |
| 21年以上 | 60 | 21 | |
| クリニカルラダーレベル別 | ラダーレベルI | 10 | 4 |
| ラダーレベルII | 58 | 20 | |
| ラダーレベルIII | 139 | 49 | |
| ラダーレベルIV以上 | 78 | 27 | |
| 医療チーム・リンクナース経験 | なし | 95 | 33 |
| あり | 190 | 67 |
クリティカルシンキング志向性の合計点とプロアクティブ行動の合計点の間には,有意な正の相関が認められた(Spearmanの順位相関係数:rs = 0.577,p < 0.001).

クリティカルシンキング志向性の下位因子別平均点(標準偏差SD)は,「対人的柔軟性」が16.3(SD = 2.2),「論理の重視」が15.6(標準偏差SD = 2.1),「真正性」が13.7(SD = 2.5),「探求心」が13.2(SD = 2.5),「脱軽信」が12.5(SD = 2.6)であった.クリティカルシンキング志向性の5因子合計点は,範囲が49点から105点,平均が71.4点(SD = 8.4)であった.
プロアクティブ行動の下位因子別平均点(標準偏差SD)は,「個人」が13.9(SD = 3.7),「チーム」が12.5(SD = 3.3),「組織」が11.7(SD = 2.8)であった.プロアクティブ行動の3因子合計点は,範囲が11点から63点,平均が38.1点(SD = 8.4)であった.
基本属性のサブグループと各尺度の群間比較の結果は以下の通りである.
クリティカルシンキング志向性は,看護師経験年数別では,1~5年群と比較して6~20年群および21年以上群が有意に高かった(p < 0.001).クリニカルラダーレベル別では,レベルI群と比較してレベルIV群が有意に高かった(p = 0.02).医療チーム・リンクナース経験別では,経験なし群と比較して経験あり群が有意に高かった(p < 0.001).
プロアクティブ行動は,看護師経験年数別では,1~5年群と比較して6~20年群および21年以上群が有意に高かった(p < 0.001).クリニカルラダーレベル別では,レベルI群と比較してレベルII群(p = 0.01),レベルIII群,レベルIV群が有意に高かった.また,レベルII群と比較してレベルIII群,レベルIV群が有意に高く,さらにレベルIII群と比較してレベルIV群が有意に高かった(すべての比較においてp < 0.001).医療チーム・リンクナース経験別では,経験なし群と比較して経験あり群が有意に高かった(p < 0.001).施設機能別では,いずれの尺度においても有意差は認められなかった.
3. チームアプローチ促進力に関連する要因(表3・表4)主観的自己評価によるチームアプローチ促進力のNRSスコアは,平均値5.5,中央値6,最頻値7,標準偏差SD = 1.7,範囲は2から8であった.
n = 285
| 平均値 | 平均得点 | 標準偏差 | 係数 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 チームアプローチ促進力(NRS法) | 5.53 | 1.7 | ― | <0.001*** | <0.001*** | 0.055 | <0.001*** | <0.001*** | <0.001*** | |
| 2 クリティカルシンキング志向性 | 71.4 | 8.4 | 0.502 | <0.001*** | 0.724 | <0.001*** | <0.001*** | <0.001*** | ||
| 3 プロアクティブ行動 | 38.1 | 8.4 | 0.594 | 0.024* | <0.001*** | <0.001*** | <0.001*** | |||
| 4 施設機能別 | 0.113 | 0.034* | 0.903 | 0.092 | ||||||
| 5 クリニカルラダーレベル別 | 0.459 | <0.001*** | <0.001*** | |||||||
| 6 看護師経験年数別 | 0.396 | <0.001*** | ||||||||
| 7 医療チーム・リンクナース経験(0=なし 1=あり) | 0.368 | <0.001*** |
Spearmanの順位相関係数
* p < 0.05 ** p < 0.01 *** p < 0.001
| rs | Model1(n = 285) | Model2(n = 285) | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| β | 95%信頼区間CI | 有意確率 | β | 95%信頼区間CI | 有意確率 | ||
| 切片 | –1.06 | (–2.41 0.27) | 0.12 | –1.06 | (–2.67 0.56) | 0.199 | |
| クリティカルシンキング志向性 | 0.5 | 0.04 | (0.01 0.06) | <0.001*** | 0.04 | (0.02 0.07) | <0.001*** |
| プロアクティブ行動 | 0.59 | 0.09 | (0.07 0.11) | <0.001*** | 0.06 | (0.04 0.09) | <0.001*** |
| 施設機能別 | 0.11 | 0.03 | (–0.15 0.20) | 0.756 | |||
| クリニカルラダーレベル別 | 0.46 | 0.38 | (0.12 0.65) | <0.004** | |||
| 看護師経験年数別 | 0.26 | 0.06 | (–0.08 0.20) | 0.401 | |||
| 医療チーム・リンクナース経験(0=なし1=あり) | 0.36 | 0.4 | (0.04 0.07) | 0.026* | |||
| R | 0.37 | 0.45 | |||||
| 自由度調整済みR2 | 0.37 | 0.43 | |||||
| F | 83.9 | 37.6 | |||||
rs:Spearmanの順位相関係数
すべての変数に標準化を施し係数は標準化変回数係数βを記載した.
VIFはすべての項目で1.7~2.3以内である.
* p < 0.05 ** p < 0.01 *** p < 0.001
チームアプローチ促進力と各変数とのSpearmanの順位相関係数は,クリティカルシンキング志向性(rs = 0.502),プロアクティブ行動(rs = 0.594),クリニカルラダーレベル(rs = 0.459),医療チーム・リンクナース経験有無(rs = 0.368)であった.いずれの変数も,チームアプローチ促進力と有意な正の相関を示した(すべてのp < 0.001).看護師経験年数(rs = 0.261)は非常に弱い正の相関を示し,施設機能別(rs = 0.113)との間には有意な相関は認められなかった.
チームアプローチ促進力に対する潜在的影響要因を探索するため,重回帰分析(多重線形回帰分析)を実施した.
クリティカルシンキング志向性およびプロアクティブ行動を独立変数とするモデル1の結果,チームアプローチ促進力にはクリティカルシンキング志向性(標準化偏回帰係数β = 0.04,95%信頼区間CI[0.02, 0.06])とプロアクティブ行動(β = 0.07,95%信頼区間CI[0.07, 0.11])が有意に正の関連を示すことが示された.
さらに属性要因の影響を検討するため,モデル1の変数に加えて,クリニカルラダーレベル,医療チーム・リンクナース経験,看護師経験年数を独立変数として追加したモデル2を構築した.その結果,クリティカルシンキング志向性(β = 0.04,95%信頼区間CI[0.02, 0.07]),プロアクティブ行動(β = 0.06,95%信頼区間CI[0.04, 0.09]),クリニカルラダーレベル(β = 0.38,95%信頼区間CI[0.12, 0.65]),医療チーム・リンクナース経験(β = 0.40,95%信頼区間CI[0.04, 0.77])がチームアプローチ促進力と有意な正の関連を示した.看護師経験年数(β = 0.06,95%信頼区間CI[–0.08, 0.20])については有意な関連は認められなかった.
本研究では,チームアプローチ促進力,クリティカルシンキング志向性,およびプロアクティブ行動の間に中程度の正の相関が認められたことは,看護師による自己評価が,これらの行動特性をある程度,反映している可能性を示唆する.
クリニカルラダーレベルII以上の看護実践能力を有する看護師は,組織内において医療チームやリンクナースとしての役割経験を有する傾向が認められた.実際には,これらの役割経験者の中には,クリニカルラダーレベルの違いや専門看護師・認定看護師などの資格保有者が含まれていることが想定される.さらに,チームアプローチ促進力は,多職種連携プロセスにおいて看護師が自信をもって働きかける能力をどの程度もっていると自覚しているか,主観的評価としてNRSスコアを用いて評価した.その結果,得点には一定のばらつきが認められ,看護師間の役割認識や看護実践能力に差異が存在する可能性が示唆された.すなわち,チームアプローチ促進力が看護師全体で一様に高いとは限らず,個々の看護師の経験年数や取得資格などの背景要因に応じて,その促進力に違いが生じている可能性が考えられる.
一方,急性期病院に勤務する看護師には,医療チームの一員として複数の役割を発見し,それらを同時に遂行する能力が求められており(原・辻,2021),臨床現場では効果的なコミュニケーションやメンバーシップの発揮が必要とされると同時に,相互依存性と複雑性が混在している(飯岡・亀井,2021).このような背景を踏まえると,医療チームやリンクナースなどの役割を担うことは,多職種とのコミュニケーションを通じて交渉力や調整力を養う契機となり,より複雑な臨床状況に対する判断力や対応力を身につける機会となることが示唆された.
2. 多職種連携における看護師のチームアプローチ促進要因の解明(図2)チームアプローチ促進力に影響を与える要因ついての重回帰分析の結果,クリティカルシンキング志向性とプロアクティブ行動は,モデル1およびモデル2のいずれにおいても有意に関連していることが明らかになった.これは,客観的かつ論理的な思考力と主体的に課題に取り組む行動力が,多職種連携を円滑に進めるうえで必要であることが示唆された.

しかし,クリティカルシンキング志向性(β = 0.04)とプロアクティブ行動(β = 0.06)の両変数は,他の変数と比較して影響は限定的であった.チームアプローチ促進力を向上するには,クリティカルシンキング志向性やプロアクティブ行動を備え,個人の資質を高めつつ組織的役割を発揮できる人材を育成する必要がある.看護管理者は,適切なフィードバックの提供や協働の機会を重視し,思考の質を高めるための学習環境の整備(Tanaka et al., 2025),心理的安全性の確保(Edmondson, 2003),役割期待の明確化などを通じて,看護師の主体的な行動を支援する必要がある.
最も強くチームアプローチ促進力に関連していたのは,医療チーム・リンクナース経験の有無とクリニカルラダーレベルであった.クリニカルラダーレベルが高いほどチームアプローチ促進力も高い傾向にあることは,看護師の熟達度が多職種連携における推進力に直結することを示している.コミュニケーションと協働を強化することにより,リンクナースは,専門性の高いケアを組織全体へ波及させる役割を担うとされている(MacArthur, 1998).医療チームの一員として,あるいはリンクナースとして組織横断的な機能を果たしつつ,多職種カンファレンスの企画・運営や情報共有の促進といった管理的視点からの働きかけを行うことは,チームアプローチを推進する上で重要な要因であると考えられる.
Vanfleteren et al.(2020)は,慢性閉塞性肺疾患(COPD)のように多様な症状や併存疾患を抱える患者に対しては,統合的かつ個別化されたケアの提供が不可欠であると指摘している.急性期では,より一層,複雑な患者像を的確に理解し,適切なケアを提供する必要があり,臨床情報の共有と多職種による協働的なアプローチが重要となる.看護実践能力の高いクリニカルラダーレベルIII~IVの看護師は,クリティカルシンキングを基盤として積極的に関与することで,こうしたケアの実現において中心的な役割を果たしていると推察される.このことから,クリニカルラダーレベル研修に,例えば急性期での困難事例を用いた学習プロセスを組み込むことで,根拠に基づく意思決定を支えるクリティカルシンキング志向性とプロアクティブ行動の強化につながる可能性がある.さらに,医療チーム経験やリンクナース経験により,看護師が多職種間の連携を促進する行動を修得し,チーム医療の質的向上に寄与する可能性が示唆された.
上村ら(2016)は,業務に関連する学習行動と実践能力において,臨床経験年数のみの相関関係を報告しているが,本研究では,看護師経験年数との相関関係は非常に弱い正の相関であり,施設機能別との相関は認められなかった.このことから,単なる経験年数の長さだけではチームアプローチ促進力を高める要素としては弱く,質的な経験,個人の能力開発,そして主体的な意欲がより深く関与すると考えられる.
Galletta et al.(2019)は,ワークグループへのコミットメント(所属意識)が高い看護師ほど,内発的動機づけが高まりプロアクティブな行動が促進され,チーム全体のパフォーマンス向上に寄与する可能性があることを示している.急性期医療では,チームおよび組織内での相互理解と信頼関係は重要となる.そのためには,看護師が自発的に問題解決や業務改善に向けた提案ができる環境整備や看護師が経験を積み重ねる過程で役割委譲などを通じて自律的な動機づけが促進されるような支援体制の構築が必要である.
本研究では,クリティカルシンキング志向性およびプロアクティブ行動は,チームアプローチ促進力を高める要因として示唆された.しかしそれ以上に,看護実践能力を示すクリニカルラダーレベルや多職種連携の経験が,チームアプローチ促進力に対してより強い影響を及ぼす要因であることが明らかとなった.これらの要素を効果的に強化するためには,看護師が自身の役割や貢献を実感できるような組織的支援体制の整備が重要である.
本研究の結果は,質の高い多職種連携が求められる急性期医療現場においては,看護実践能力を基盤とした多職種合同研修やシミュレーション教育,クリニカルラダーレベル研修の構築が,個々のチームアプローチ促進力を高め,組織全体の実践能力向上において重要な戦略であるといえる.これらの知見は,今後の教育ストラテジーの構築に応用されることが期待される.
本研究は,東北地方の急性期医療を担う300床以上の施設の看護師を対象としたため,結果の一般化には限界がある.
本研究では,チームアプローチ促進力の測定方法が未確立であることから,NRSを用いた主観的評価によって測定を行った.しかし,この方法では客観的な裏づけを得るには至らず,個々の内省的認識の差異が評価結果に影響した可能性があり,妥当性に関する課題が残った.
また,本研究では医療チーム経験とリンクナース経験を統合し,共通機能に着目した分析を行ったが,両者を区別した検討や,医療チームでの経験,教育課程,認定看護師・専門看護師といった資格の違いを考慮する必要がある.これらの背景要因を十分に統制できなかったことにより,個人特性であるクリティカルシンキング志向性やプロアクティブ行動にバイアスが生じた可能性は否定できない.
チームアプローチ促進力の質やレベルを層別化し,客観的妥当性を検証・確立することで,クリティカルシンキング志向性やプロアクティブ行動との関連をより精緻に把握するサブグループ解析を進める必要がある.また,看護師のクリティカルシンキング志向性やプロアクティブ行動が,患者アウトカムやチーム医療の実践にどのような影響を及ぼすのかについて,多職種による評価指標を用いた検証,チームアプローチの「促進力」をより多角的かつ客観的に評価するための尺度開発が今後の重要な研究課題である.
看護師のチームアプローチ促進力向上には,一般に考えられているクリニカルラダーレベル,医療チームおよびリンクナース経験が重要な要素であるが,さらに,クリティカルシンキング志向性,プロアクティブ行動も複合的に影響していることが明らかとなった.これらの要素は,多職種と連携し業務を遂行する上で重要な能力であり,本結果は看護師の多職種連携における役割の重要性を再確認するものである.
付記:本研究の一部は,第44回日本看護科学学会学術集会で発表した.
本研究は岩手医科大学大学院医学部研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.
謝辞:本研究を進めるにあたり,調査にご快諾いただきました施設の看護管理者の皆様,ご協力いただきました看護師の皆様に心より感謝申し上げます.また,統計解析においてご指導いただきました,岩手医科大学教養教育センターの高橋史朗教授,岩手医科大学総合診療医学講座の諸先生方に深く感謝申し上げます.
利益相反:著者は,本研究における利益相反は存在しないことを宣言する.
著者資格:佐藤は,研究の着想,研究計画,データ収集,分析,論文作成のすべてを行った.下沖は,研究の着想,データの分析・解釈,原稿への示唆,研究プロセス全体への助言・指導を行った.すべての著者が最終原稿を読み承認した.