抄録
本研究は, 看護過程での思考の証しともいえる看護記録を取り上げ「看護記録の教育」のあり方について検討するため, 認知心理学の知見と関連づけながら, 次の3点を明らかにすることを目的とした. (1) 看護記録の認知に関する概念構成を提案する. (2) 看護学生と看護婦の看護記録に関する認知を (1) に基づき比較検討することで,記録の認知に影響を及ぼしている要因と, 記録の認知に関する問題点を指摘する. (3)(2) の結果より, 看護教育への示唆を明らかにする.
調査1では, グループインタビューを実施し, 看護学生18名と看護婦12名を対象に, 看護記録に関する発話内容を, 記録の認知に関する概念カテゴリーにそって分析した. その結果, 看護記録の認知に影響を及ぼしている3つの要因が明らかとなった: (1)情報伝達の認識 (2) メタ認知の働き, (3) 記録様式のもつ問題点, である.
調査2では, 個人インタビューを実施し, 看護学生4名を対象に, 個性を記述することによって分析した. その結果, 臨床実習記録の認知に関する3つの問題点が明らかとなった: (1) 記録の意義の理解, (2) 自己内対話型の認知, (3) 読み手の分析, である.
これらの結果から, 看護教育への示唆として, 記録をモニターし看護過程を内省するメタ認知能力を高めるためには, 情報伝達の必要性を学生に十分に認識させた上で読み手を分析的に捉える力を育成していくことが重要であることを指摘した.