2020 年 51 巻 1 号 p. 2-8
人間の五感を模倣しようという試みは,技術とともに着実に進歩を遂げてきた.特に嗅覚と味覚の場合には,工業的な応用の止まらず医療応用にもその模倣技術は応用することができる.嗅覚と味覚を模倣するにあたり,一次トランスデューサーとして生体材料の一部を利用し,二次トランスデューサーとしては,ナノエレクトロニクス材料が用いられてきた.ナノベシクルやナノディスク,嗅覚受容体及び味覚受容体を含む嗅細胞などの多様な生物学的要素を一次トランスデューサーとして用いることにより,感度,選択性の高いエレクトロニック・ノーズ(電子鼻)及びエレクトロニック・タン(電子舌)が開発されてきた.これらのバイオセンサは, 疾患診断や食品品質評価,環境モニタリング,安全安心用に向けてのツール,嗅覚の標準化などの様々な分野での応用に大きな貢献できる可能性を有している.本レビューでは,最近報告されたエレクトロニック・ノーズとエレクトロニック・タンに関する研究について紹介し,今後の見通しおよび応用の可能性について解説する.