室内環境中のにおい・かおりの評価は基本的にボランティア被験者による官能試験に依存してきたが，近年は，半導体センサー（所謂ガスセンサー）を応用した臭気測定器や電子鼻の開発が活発であり，被験者による官能試験を補完する手法としての利用も進んでいる．その一方で，ヒトの鼻腔と嗅覚メカニズムを数理的に記述して計算機上に再現する数値鼻（in silico nose）開発に関する研究も行われている．本稿では，計算流体力学と生理的薬物動態モデルを基盤とした数値鼻の開発動向と今後の展望を紹介する．

近年AI技術の発展やビッグデータ解析技術の進歩に伴いe-Nose型のにおいセンサについてもその応用可能性の広さに対する期待が広がっている．

本稿ではe-Nose型においセンサの発展の歴史を簡単に述べ，上記のような背景の中大きな進歩を見せているトランスデューサ技術について触れた．また，アロマビット社のにおいセンサの紹介とその性能，これらを用いた応用の事例についても紹介した．応用分野としてはにおいのデータベース構築や火災の早期発見への可能性を例として説明した．

耐熱性に優れた16種類の感応膜（PCM）とマイクロヒータからなる高感度でコンパクトな熱制御人工嗅覚システム（TC-OSS）を開発した．TC-OSSを用いて臭気強度2相当の5種類の基準VOCsを測定した．得られた5クラス×40データについて，応答波形から算出した特徴量（高さや傾きなど）をもとに，機械学習による学習モデルを構築した．学習モデルの精度をクロスバリデーション（繰り返し回数＝100）により評価した結果，95.8±2.7%の高い正答率で識別に成功した．

さまざまな分野でにおいセンサ実用化への期待が年々高まっている．すでに市場にある，研究開発中のにおいセンサの原理は複数あり，それぞれに特徴がある．本研究では，I-PEX㈱のMEMS技術を活用したにおいセンサを用いてたばこ呼出煙のにおいを評価した．I-PEX㈱では化学的性質の異なる感応膜は180種所有しており,各感応膜のにおい反応パターンは異なる．センシングを高めるために測定方法やデータ解析方法により，たばこ無しの呼気と4種類のたばこ違いによる呼出煙のにおい測定結果，およびにおいセンサの有効性を報告する．

現在，公定法として定められている臭気指数の算定手順などを参考に，本研究では複数の臭気指数の算定手順に注目し，算定手順に応じて得られる臭気指数の分布特性の特徴を明らかにする．パネルの嗅力分布や偶然の正解を考慮せずに得られる臭気指数の分布と共に，これらを考慮し確率論的アプローチを用いて得られる臭気指数の分布を示した．その結果，個人閾値の上下カット平均や中央値を用いた算定手順では，臭気指数がパネルの嗅力の平均から求められる値に近いほど出現確率が高く，その値から離れるほど出現確率が低くなる単峰性の分布の傾向が示された．一方，平均正解率を用いた算定手順では上下カット平均や中央値を用いた算定手順に比べて，臭気指数に対して出現確率が離散的にばらつく傾向が見られた．