動植物細胞の内部では、細胞質流動と呼ばれる全体的な流れが生じる。モデル生物、線虫C. elegansにおいても、受精直後に細胞質流動が観察される。この細胞質流動は個体発生の方向性(前後軸)の決定において重要な働きをしている。発表者らはこれまでに線虫胚における細胞質流動の流速の空間分布の定量化に成功している。また、流体力学シミュレーションを行い、観測した流速分布をおおむね説明できることを見いだした(Niwayama et al. PNAS 2011)。今回我々は、データ同化解析を行い、分子モータータンパク質による流動の原動力の発生位置と強さの推定を行ったことを報告する。解析の結果、流動の速さと力の発生の空間分布は必ずしも比例関係にあらず、流動の遅い領域でも多くの力が発生していることが推定された。本発表では、細胞内の現象の理解にデータ同化がどのように貢献するか、実例とともに議論したい。