2011 年 5 巻 1 号 p. 2-18
2008年9月の金融危機を契機に多くの識者が「投資銀行ビジネスモデルの崩壊」を唱えたが、投資銀行のビジネスモデル自体が不明確であるのみならず、ビジネスモデルのどの部分が崩壊の要因であったのかについてもあいまいといわざるを得ない。本稿では、19世紀央に誕生した個人銀行(生成期の投資銀行)と1980年代以降急速に規模の拡大を目指した投資銀行(現代投資銀行)のビジネスモデル、とくに顧客とのリレーションシップ・マネジメントに焦点を当てて比較研究をおこなった。1980年代以降の規制緩和と急速なITの発展を背景に、生成期の投資銀行の強みであった暗黙知をベースとした人的資本が形式知をベースとした金融資本に変質したことが、ビジネスモデルにおける重要な要素である顧客価値の低下をもたらし、それが現代投資銀行ビジネスモデルの崩壊につながった。