日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
会議情報

最終氷期の東南極氷床最大拡大期はいつ?
第45次日本南極地域観測隊(JARE-45)による地形・地質学的調査の予察的報告
*前杢 英明三浦 英樹岩崎 正吾
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p. 45

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抄録

東南極,リュツォ・ホルム湾には隆起海浜地形が数多く分布する。日本の南極観測が開始された当初からこの隆起海浜堆積物には貝化石が含まれることが知られ,その14C年代が測定された(例えば,Meguro et al., 1964)。その後,貝化石の試料数が増大するにつれ,この地域の貝化石の年代値が1万年前より新しいものと2万年前より古いものに大きく2つに分かれることが明らかになった。Yoshida(1983)は,これら古い貝化石や隆起海浜地形が壊されずに保存されている事実から,少なくともこれが見出される地域は,最終氷期最盛期(LGM)に南極氷床に覆われることはなかったと考えた。しかし,古い年代を示す貝化石は14C年代の測定限界を超えたもので信頼性に乏しいとの指摘もあった(Adamson & Pickard,1986)。その後,加速器質量分析計(AMS)による貝化石の14C年代測定が行われ,2万年前より古い年代について新しい成果が得られた(Hayashi & Yoshida, 1994;Igarashi et al., 1995a,b;平川・澤柿,1998)が,採取した貝化石が原地性のものかあるいは拡大した氷床によって再堆積したものかは明らかにされていなかった。第37次南極地域観測隊(JARE-37)の調査では,この問題を解決し,より確実な議論を行うために,リュツォ・ホルム湾周辺の隆起海浜堆積物を掘削することで貝化石の産出状態を確認し,それらを採取してAMS14C年代を測定した。その結果,3_から_4万年前を示す海成層が完新世海成層に不整合に覆われていることが明確に示され,東南極ではLGMより少なくとも数万年前に氷床の最大拡大期があったという仮説があらためて提示された.これらをふまえて,JARE-45では,年代学的・地質学的手法で東南極での氷床最大拡大期の年代・範囲を直接知るため,宇宙線照射年代試料の採取を広域に行い,また3_から_4万年前の海成層と氷河堆積物の層序関係を露頭で確認する調査を主要項目とした.海成層と氷河堆積物の調査に関しては,リュツォ・ホルム湾,ラングホブデにおいて,1995_から_6年の調査時に表層約1mを掘削して二層の時代を異にする海成層が分布することを確認した地点付近で,電動・エンジン削岩機を用いてさらに深さ約4mまで調査坑を掘削し、海成層の基底の状況を確認する調査を行った.その結果,深さ4m内に層相の異なる9層の地層が認められ、さらにその下位に海成層に充填された巨礫層が認められた。この巨礫層は周辺の状況から氷河性堆積物と判断するのが妥当と考えられる.海成層からはin situ の貝化石(Laternula elliptica)を採取した。これらの貝化石の年代測定および海成層のOSL年代測定によって、氷床がこの地域を覆った時代をより明確にすることができる。氷河性堆積物を直接覆う貝化石を含む海成層は,第四紀後期の3_から_4万年前の年代を示す海成層よりさらに下の層準にあたり,少なくともこの年代より古いことは確実である.14C年代の測定限界に近い値であり,OSL年代との比較検討が必要であろう.しかし,いずれにしても3_から_4万年前よりさらに古い時代に,この地域では最後の氷床拡大期があり,北半球で認められているような2万年前前後の氷床最大拡大期は少なくとも東南極ではなかったことはほぼ確実となった.スカルブスネス・きざはし浜でも,氷河性堆積物と海成層との層位関係を明らかにするための隆起海浜の掘削を行った。その結果、両者は漸移的な関係で氷成粘土層から完新世の海成層に移り変わっていることが明らかになった。このことから、スカルブスネス以南では完新世の海成層の下位には更新世の海成層が存在しないことが明らかになった。さらに岩盤が最終的に氷床に覆われた年代を直接求めるため,宇宙線照射年代のための試料採取を行った.試料はリュツォ・ホルム湾の主要な露岩地域(オングル諸島,ラングホブデ,スカルブスネス,スカーレン)の35地点から45試料を採取した.採取地点は、氷食作用を受けたと推定される鯨背岩・羊背岩的な地形や平坦面を,空中写真判読や地形図の読図から選び出し,さらにその中でなるべく天空率が高い地点をGISソフトなどを使って絞り込んだ.また,露出年代の最大値と最小値を見積もるため,なるべく地表基盤岩と近傍にある迷子石上部の両方から試料を採取した.特にラングホブデ北部の海成層掘削調査地点付近で採取した試料の年代は,海成層直下の氷成堆積物の年代のプロキシーとして使える可能性が高く,3_から_4万年より古い年代が得られることが期待される.

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