パーソナルファイナンス研究
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研究論文
起業の阻害要因と参照点の移動
中西 孝平
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2024 年 11 巻 p. 17-30

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抄録

1990年代以降、わが国では、中小企業政策の一環として数々の起業支援策が講じられてきた。その背景には、アメリカのシリコンバレーの成功に触発されて、中小企業がわが国の経済成長の原動力としての役割を果たすことに対する期待があった。しかし、その後もわが国において起業が盛んになることはなく、総合起業活動指数も開業率もともに諸外国に比べて低迷している。その原因は何なのか。それをプロスペクト理論とエフェクチュエーションを基に解明するのが本稿の目的である。

起業希望者が起業を躊躇する理由として、日本政策金融公庫の「2017年度起業と起業意識に関する調査」の結果から、第一に、起業希望者が新規開業に必要な資金を満たすだけの自己資金を用意できていないと感じていること、第二に、新規事業を設立することができたとしても、万が一事業が軌道に乗らなかった場合、投下資金の多くを失うだけでなく、借金や個人保証を抱え、家族をはじめとする身近な人々に迷惑がかかることを懸念していることの二点が判明している。この点につき、本稿では、わが国の中小企業政策が高度な知識と技術力を持つ中小企業に対する側方支援を中心に展開された結果、起業の焦点がベンチャー企業に向けられがちになり、小規模な起業に対する着目が薄れたことや、18歳人口の減少と慢性的な人材不足を受けて、高校、大学及び企業の間のコミットメントが深化した結果、わが国では新卒一括採用と長期継続雇用を前提とする雇用慣行が強化され、キャリア形成過程において将来の起業という方向性が後退したとの考えが示されている。そして、これまでの議論を踏まえ、わが国の起業の現状を変革する方法として、参照点を、(一)「起業するという目標」から「起業するために必要とされる手段」へ、(二)「目標としての職業」から「手段としての職業」へと変更し、わが国の実情に合った起業の方法として副業及び兼業を促進することを提案している。

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