パーソナルファイナンス研究
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招待論文
東南アジアにおけるフィンテックの台頭とキャッシュレス化の動向
岩崎 薫里
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2019 年 6 巻 p. 7-19

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抄録

東南アジアでは近年、フィンテック・ビジネスが盛り上がっている。その背景には、この地域での金融課題の多さがある。低所得者を中心に本人確認や信用度合いの判断が難しいことなどにより、銀行口座保有率が低い、銀行サービスへのアクセスが悪い、クレジットカードが普及していないなど、金融包摂を含むさまざまな課題を抱える。そうしたなか、インターネットとスマートフォンの普及に伴い、それらを活用して金融課題の解消を図ろうとするフィンテック・ビジネスが続々と登場している。

東南アジアのフィンテック・ビジネスに利用される技術やビジネスモデルは先進国や中国発のものが多い。フィンテックはあくまでも課題を解決するためのツールであり、どこかの二番煎じではないかといった視点は彼らにとって重要ではない。また、多くのフィンテック・サービスは「カエル跳び効果」と呼ばれる後進性利益により、最先端のデジタル技術を取り入れながらも、ローテク部分が混在する制度設計となっている。

東南アジアのフィンテック・ビジネスのなかで最も活発な分野はモバイル決済である。多種多様な事業者によりモバイル決済サービスが提供されており、それにより、東南アジアでキャッシュレス化が進むことが展望される。シンガポール、マレーシア、タイでは政府もキャッシュレス化を積極的に推進しており、その結果、日本で未導入の携帯電話番号を使った24 /7即時振込みがすでに実現している。

もっとも、東南アジアでフィンテックが根付くためには、安全性の確保などの課題もある。それらを克服してはじめて、フィンテック・ビジネスが社会に広く受け入れられ、金融課題の解決につながるとともに、現金社会からキャッシュレス社会への転換を果たすことになろう。

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© 2019 パーソナルファイナンス学会
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