パーソナルファイナンス研究
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中国P2P ネット金融規制について
趙 彤水ノ上 智邦
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2019 年 6 巻 p. 81-97

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抄録

中国のP2P ネット金融市場は、わずか10年間にその規模を2000倍に拡大し、世界一となった。急激な成長を果たした陰では、これまでに開業した取引仲介サイト(プラットフォーム、以下PF)の2/3 以上において、倒産や夜逃げなどなんらかの問題が発生するという異常な事態が起きている。P2P ネット金融は、既存の金融機関から排除されていた中小企業、農家や個人に金融サービスへのアクセスを与える社会的な影響力を持つ新たなイノベーションではある。しかし、中国の金融当局はこの市場に対して長年にわたり規制を設けず、PF は無秩序なまま「野蛮成長」することになった。市場規模の拡大に伴い、P2P ネット金融が社会で一定の存在感を持つようになった2016年8月、ついに成文化された初めての規制文書が公布され、「野蛮成長」から安定成長に向けた変化が起きつつある。

中国のP2P ネット金融については、先行する欧米とは異なる特徴を持つこともあり、これまで系統的かつ経済学的な評価や分析を行った研究がほとんど存在しない。本稿は、中国P2P ネット金融の特徴を、経済学的な視点から解釈し、その視座に基づき、「野蛮成長」と形容される急速な発展、および多産多死となった理由を考察する。また、中国政府が規制を半ば意図的に遅らせたことは市場の拡大に繋がったが、本格的な規制が始まったことで、市場の安定化が期待される一方で、角を矯めて牛を殺す結果にもなりかねず、借り手と貸し手の双方を保護しPF の安全性を確保し、かつ成長を促すような適切な規制が実現できるかどうかが市場の命運を大きく左右する。そのため、社会問題となった実例を踏まえ、当局の規制が持つ意味を時系列に説明するとともに、その効果や市場の展望についても考察を行っている。

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© 2019 パーソナルファイナンス学会
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