抄録
本研究は、精神科医療において看護師のかかわりが困難で、入院が長期化してしまう「難しい患者」へのかかわりを通して、その問題を考察することを目的とした実践的事例研究である。対象は50代の女性患者で、1年間51回にわたる研究者のかかわりを分析した。結果として、「難しい患者」は生育史のなかで安定したアタッチメントが形成されていないこと、外傷的な対象喪失を繰り返し体験しており、そのため見捨てられる恐怖に敏感で、幻想の一体感を求めて病理的なしがみつきをみせること、身体的ケアの要求はその一形態とみなせること、また、依頼心は強いが信頼心の乏しい病的甘えから、看護師へ恨みや憤怒をぶつけるために、看護師に怒りと無力感、罪悪感、徒労感など、複雑な感情を引き起こすことが分かった。「難しい患者」の看護には「安全の基地」としての病棟の治療環境を考える必要があり、患者同士のつながりも重要であることが明らかとなった。