日本精神保健看護学会誌
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統合失調症患者の家族の疾病理解および偏見と批判的態度の関連
松田 安奈井上 幸子
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2020 年 29 巻 2 号 p. 71-76

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Ⅰ  緒言

精神障害者が地域で安心して自分らしい生活を送ることが出来るよう精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組みが推進されている.障害者総合支援法が施行され,障害者本人が利用できるサービスが充実し家族の負担も軽減されているが,利用手続きや連絡調整などは家族が担っており,その負担は依然として大きい.

家族会に参加している家族を対象とした研究によると,家族は精神障害を持つ本人が初めて精神科を受診して診断を受けた時,その精神疾患についての知識がないと回答した者が約9割で,病気に関して十分な情報を得るまで3年以上かかった者が約2割であった(特定非営利活動法人全国精神保健福祉会連合会,2010).家族の疾病理解不足の状態は,家族に統合失調症患者との関わりに困難感,いらだちなどを生じさせ(越智,2001古谷・神郡,1999),患者の状態に不平不満を抱き,患者へ敵意,怒りなどの批判的態度をとることが明らかにされている(Leff et al., 1999).

一方で,統合失調症患者の家族は,精神障害に対する偏見を抱えている.先行研究では,家族は,患者の発症初期に「家族自身の病気に対する偏見」に直面することや(越智,2001),精神科に対する社会的偏見あるいは自責の気持ちなどが常に存在していることが報告されており(古谷・神郡,1999),家族であっても偏見を改善することは容易ではない.精神障害者の家族は,長期に渡る療養生活において社会から受ける偏見や,家族に精神障害者がいることに対する負い目を感じ(田上ら,2007),これらは患者に対する批判的態度につながっている可能性がある.

批判的態度を低下させる方法の一つとして家族への心理教育が挙げられる.心理教育では,疾病理解につながる知識教育に加え,偏見を低減するための教育も行われており,いずれも批判的態度を低下させることに関連していると推察されるが,これらの関連を実証的に明らかにした研究は報告されていない.そこで,本研究は,家族の疾病理解および偏見の程度と,批判的態度との関連性について検証した.

Ⅱ  方法

1. 対象者および調査方法

対象者は,中四国圏内にある家族会のうち協力の得られた団体に参加している精神障害者家族会会員のうち統合失調症患者の成人家族であり,2019年2月〜2019年11月の期間に協力可能な家族に調査を依頼した.身体的,精神的に著しく回答が困難であると研究者あるいは研究協力者が判断した者は除外した.

中四国地区内の精神障害者家族会の集いや総会,家族会会員,事業所にて,担当者に無記名自記式調査票の配布機会提供を依頼した.協力が得られた団体の集会に研究者が出向き,対象者に研究に関する説明を紙面と口頭で行った.調査票の回収をもって同意を得ることとみなすことを説明し,調査票をその場で研究者が配布・回収した.集会がない場合は研究協力者から説明文書と調査票を郵送し,個別に郵送で回収した.

2. 調査内容

調査は,疾病理解,偏見,批判的態度に関する情報,および基本属性や疾患・治療に関する情報について自記式質問紙を用いてデータ収集を行なった.

疾病理解は,統合失調症の疾患についての知識および薬物療法についての知識の程度と定義した.測定方法は,前田ら(1994)が作成した疾病・薬物知識度調査(Knowledge of Illness and Drugs Inventory: KIDI)を用いた.KIDIは,精神症状と薬物療法などの医学的内容に絞って作成された各項目三者択一形式の設問から構成された合計20問からなる自記式調査票である.精神症状に関する項目と精神科薬物に関する項目は各10問で,正解は各1点,合計20点満点で計算する.患者だけでなく家族にも,心理教育の効果を測定するために用いられる尺度である.

偏見は,統合失調症に対する心理的感情とし,社会的距離で測定できるものとした.尺度は,牧田(2006)が作成した統合失調症に対する社会的距離尺度(Japanese-language version of Social Distance Scale: SDSJ)を用いた.社会的距離とは,個人間あるいは集団間の親近ないしは疎遠の心理的感情の程度を指している.この社会的距離によって偏見やスティグマは測定されてきた(石井・瀬戸山・大川内,2017伊礼・鈴木・平上,2012).尺度の信頼性は牧田によって示されており(牧田,2006),全5項目に対して4段階リッカート尺度(そう思わない0点~そう思う3点)で構成されている.合計点を算出し,得点が高いほど統合失調症に対する社会的距離が高いとする.

批判的態度は,批判的コメント(Critical comments: CC)と定義した.精神障害に関する研究において,批判的態度は感情表出EEの概念の一部として扱われており,EEのなかでも,とりわけ統合失調症患者の再発にかかわっているのが,批判的コメントである(伊藤ら,1992Brown et al., 1972).本研究では,藤田らによって作成された日本語版Family Attitude Scale:FASを用いてCCを測定した(Fujita et al., 2002).家族が家族内の精神障害者に対しての感情表出の概念のうち,嫌悪,認めようとしない,恨んでいる,怒り,敵意,不満や失望などの批判的コメントの内容についてアンケート用紙を用いて簡便に測定する尺度で,日本語で唯一信頼性妥当性が示されている.「ない」0点,「まれにしかない」1点,「時々ある」2点,「大部分の日にある」3点,「毎日ある」4点の5件法で,得点範囲は0~120点の計30問である.逆転項目は10項目で,カットオフポイントはFujitaらが示す50とした.

基本属性および疾患や治療に関する情報は,交絡変数として情報収集した.統合失調症患者の家族(回答者)の性別,年齢,続柄,統合失調症患者と毎日過ごしているかどうか,同居の有無,相談者の有無,医療職への相談の有無,相談者の特徴,病院や施設での家族対象の学習経験の有無,統合失調症患者の性別,年齢,初発年齢,入院回数,入院治療期間,陽性症状の有無,急性期かどうか,服薬中断の有無,日中活動の有無,社会資源利用の有無,専門職種からのサポートの有無の項目をあげた.家族内での統合失調症患者への関わりには性差があり(Ohta et al., 1997半澤・田中・後藤,2007),相談者などの人的社会資源が不足すると偏見が高まることが知られている(Yin et al., 2014).家族内の統合失調症患者の年齢,患者の病状に関すること,服薬中断の有無,社会資源利用内容,専門職種からのサポートの有無が偏見に関連することも明らかにされている(Guan et al., 2020).その他に,初発年齢,入院回数や治療期間,陽性症状の有無,急性期かどうか,日中活動の有無は,伊藤らがEEに影響を及ぼす要因として報告しており,批判的態度にも影響する可能性がある(伊藤ら,1992).

3. 分析

SDSJ得点(連続量),KIDI得点(連続量)の2変数を独立変数,FASを従属変数(二値)とし,ロジスティック回帰分析を行なった.粗モデル,および交絡変数で調整した多重ロジスティック回帰モデルで分析を行い,オッズ比および95%信頼区間を算出した.分析にはSPSS ver.26.0(IBM Japan,Tokyo)を使用した.

4. 倫理的配慮

本研究は,岡山県立大学倫理委員会の承認を得て実施した(2018年11月22日,承認番号18−58).対象者に研究目的と方法,参加は自由意思であること,個人情報は保護されること等について書面と口頭で,あるいは直接配布の機会が得られなかった場合は書面にて説明した.研究者が直接配布・回収を行ったが,強制力が生じないよう配慮した.

Ⅲ  結果

中四国地区内3県で承諾の得られた36家族会における統合失調症患者の家族の参加予定者378名のうち,実際に参加したのは344名であり,そのうち253名から調査票を回収した(回収率73.5%).KIDI,SDSJ,FASの回答に欠損のある104名を除いた149名を最終解析対象とした(有効回答率58.9%).調査対象者である家族の平均年齢は70.16歳(±7.7)で,70~79歳が73名(49.0%)で最も多かった.対象者の性別は,女性が121名(81.2%),統合失調症患者との続柄は,親が127名(85.2%)で,母親からの回答が多かった.疾患について学習経験のある者は105名(70.5%),相談者がいると回答した者は135名(90.6%)であった.また,家族の回答による統合失調症患者の平均年齢は45.6歳(±11.7)で,男性が90名(60.4%)であった.

交絡変数を加えた多変量ロジスティック回帰分析を行なった結果,KIDIで測定した疾病理解は,FASで測定した批判的態度(CC)と関連はみとめられなかったが,SDSJで測定した偏見は批判的態度と関連していた(OR:1.32,CI:[1.09, 1.60],表1).

表1 家族の疾病理解,偏見と,批判的態度のオッズ比および95%信頼区間(N = 149)
FASによる批判的コメント
粗モデル1 調整モデル1 粗モデル2 調整モデル2
OR 95%Cl OR 95%Cl OR 95%Cl OR 95%Cl
KIDI 0.93 0.84 1.04 0.93 0.77 1.12
SDSJ 1.19 1.06 1.32 1.32 1.09 1.60
年齢(連続量) 0.99 0.89 1.09 1.01 0.90 1.13
性別
女性 Ref Ref
男性 1.75 0.47 6.49 2.10 0.50 8.84
続柄
Ref Ref
親以外 0.28 0.03 2.42 0.33 0.03 3.26
毎日あっている
いない Ref Ref
いる 0.43 0.06 2.90 0.34 0.05 2.26
同居の有無
していない Ref Ref
している 1.15 0.16 8.43 2.33 0.32 16.85
相談者
いない Ref Ref
いる 0.21 0.03 1.58 0.34 0.04 2.91
相談者の詳細
医師看護師以外 Ref Ref
医師看護師 1.14 0.35 3.73 1.08 0.32 3.62
病気の学習経験
なし Ref Ref
あり 0.73 0.19 2.86 0.52 0.12 2.31
患者の年齢(連続量) 0.99 0.90 1.07 0.99 0.91 1.08
患者の性別
女性 Ref Ref
男性 1.85 0.64 5.35 1.85 0.60 5.74
症状が出始めた年齢(連続量) 0.86 0.78 0.95 0.84 0.75 0.94
入院回数(連続量) 1.06 0.90 1.24 1.10 0.93 1.30
入院治療期間(連続量) 1.00 1.00 1.00 1.00 1.00 1.00
主症状
陽性症状なし Ref Ref
陽性症状 1.38 0.43 4.45 1.62 0.46 5.67
急性期
いいえ Ref Ref
はい 5.75 0.49 67.23 4.47 0.25 81.49
服薬中断による再入院
なし Ref Ref
あり 1.97 0.62 6.34 2.52 0.73 8.71
日中活動
なし Ref Ref
あり 0.27 0.06 1.23 0.23 0.05 1.09
社会資源
なし Ref Ref
あり 1.08 0.21 5.59 0.76 0.14 4.18
支援を受けている専門家
なし Ref Ref
あり 0.73 0.20 2.61 1.23 0.32 4.76

OR: odds ratio, FAS:Family Attitude Scale, CI: confidence interval, KIDI:Knowledge of Illness and Drug Inventory, SDSJ: Japanese-language version of Social Distance Scale

Ⅳ  考察

家族の疾病理解および偏見と,批判的態度との関連について,ロジスティック回帰モデルを用いて検証した結果,疾病理解の程度と家族の批判的態度の関連は認められなかった.しかし,偏見が強いことと,批判的態度が高いことには関連が認められた.

記述統計の結果から,調査対象者となった家族の年齢は70~79歳が多く,統合失調症患者は40~49歳が多かった.また,家族の性別は,女性が121名(81.2%)であり,そのほとんどが母親であった.統合失調症は慢性の経過を辿る疾患であり,家族が高齢になるにつれ,家族だけで患者を支えることは困難となり,地域移行が推進されている現状では,さらに社会全体で統合失調症患者を支える取り組みが必要である.学習経験については,ありと答えた家族が105名で,相談者がいると回答した家族が135名と多く,家族会が学習の場や相談の場としての機能を果たしていると考えられる.先行研究では,相談者がいれば,家族が社会的サポートを受けることになり,これによって偏見が軽減されることが明らかになっている(Yin et al., 2014).一方で偏見や羞恥心などから他者に助けを求めにくい状況があることも報告されている(坂井・水野,2015).既に多くの実践が行われているが,本人だけでなく家族に対しても,安心して相談できる場の提供や地域の保健師などと本人,家族をつなぐ支援ネットワークの形成が,精神疾患患者に対する偏見を抱きながらも統合失調症患者を支える家族に必要であり,患者本人への支援においても重要である.

ロジスティック回帰モデルで疾病理解と批判的態度の関連について分析した結果,関連はみとめられなかった.兼島らは,疾病理解とEEが関連すると報告している(兼島・長崎・古謝,1998).結果が異なるひとつ目の理由として,使用した尺度の違いが影響している可能性がある.兼島らは症状や薬物に関することだけでなく,心理社会的要因,生活障害に関する質問など,より幅広い項目で疾病理解について尋ねているが,本研究で使用したKIDIは,精神症状と薬物療法などの医学的内容に絞って作成されている.本研究結果より,精神症状と薬物療法に関する知識の程度だけでは必ずしも批判的態度を高めたり低下させたりすることに影響しない可能性が示唆された.医学的知識や薬物療法に関する知識のみでなく,家族が統合失調症の発症や症状に影響する心理社会的要因についても理解しているかどうかが重要であると考えられる.また,ふたつ目の理由として,対象者が高齢であったことが挙げられる.本研究では,偏見や批判的態度に関しては今の思いを問う項目で構成されており,疾病理解に関する質問項目のみ,今まで学習して得た知識を問うような,記憶や認知機能に影響を受ける内容を尋ねた.そのため,質問紙の設問に対して正確に回答されなかった可能性が否定できない.また,N = 149名と十分な対象者数でなかったことも,関連性の検証に影響した可能性がある.

偏見と批判的態度には,有意な関連が認められた.疾病理解の程度にかかわらず,偏見が高ければ,批判的態度が高くなることが示唆された.疾病理解より偏見の程度の方が批判的態度をとるかどうかに関連しているのであれば,偏見を軽減させる取り組みが患者本人の病状安定にとっても重要である.統合失調症患者に理解を示していても,密接な関係になるとき,偏見が増すことを報告した研究や(伊礼・鈴木・平上,2012),精神障害者との接触経験が豊富である人ほど,一般論としては受容的・理解的である反面,個人の本音としては不安に満ち,忌避的な面があると報告する研究もある(中村・川野,2002).このようなことから,世話する家族は統合失調症患者に対して偏見が生じ,それが批判的態度に繋がると推察される.現状の多くの心理教育は,知識の向上をもってその効果を測ることが多いが(連理,1995松田,2009藤田・白井,2014),偏見の低減に焦点を当てた取り組みが効果的であると考えられる.依然として精神疾患への偏見は存在しており,より一層の偏見低減への取り組みが必要である.

Ⅴ  研究の限界と課題

本研究は中四国地区3県内の精神障害者家族会に関わっている者のみを対象としたため,選択バイアスが生じた可能性があり,一般化に限界がある.また,有効回答率が低く,年齢にかかわらず,より正確に測定できる簡易な質問項目の使用が必要である.今後は家族会に参加しない家族やインターネットなど非対面での情報収集を主とする家族なども調査対象に加え,統合失調症患者と暮らす様々な家族の特性を踏まえた研究を実施し,支援につなげる必要がある.

Ⅵ  結論

疾病理解と批判的態度は関連がみられなかった.偏見は批判的態度を高める方向に関連がみられた.

謝辞

本研究の実施にあたり,ご協力くださいました家族会担当者の皆様,家族会参加者の皆様に心より感謝申し上げます.

著者資格

AMは研究の着想およびデザイン,データ収集,分析,論文の作成,SIは研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.

利益相反

AM,SIは,開示すべき利益相反関係はない.

文献
 
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