2020 年 29 巻 2 号 p. 77-83
アルコールに起因する健康問題や社会問題の重要性から,我が国では2014年6月に「アルコール健康障害対策基本法」が施行され,各自治体が「アルコール健康障害対策推進基本計画」の策定に取り組んでいる(内閣府,2018).アルコール依存症の治療は,急性症状への対応だけでなく,退院後の日常生活における断酒継続が重要である.このためには治療の場である病院と関係機関・職種が連携し継続的に支援する仕組みを確立することが喫急の課題である.
アルコール依存症患者に対する地域連携支援として,「四日市アルコールと健康を考えるネットワーク」や,専門病院をハブとした鳥取県の地域連携ネットワークの報告がある(内閣府,2018).また,地域連携を先駆的に行っている医療機関には4パターンの院内多職種連携が存在すると報告されている(足立・渡井,2019).しかし,アルコール依存症患者の退院支援として,病院の看護師が具体的にどのように地域連携活動を行っているかを明らかにした知見は見当たらない.地域連携を積極的に行っている病院に共通する看護師の活動内容が明らかになれば,今後地域連携の強化を志す病院において看護師の支援力を高めるための研修や教育に重要な資料になりうると考える.
そこで本研究は,アルコール依存症患者の退院に向けた連携ネットワークを持つなどの先駆的な地域連携活動を実施している専門病院を対象とし,看護師が行っている支援活動内容を明らかにすることを目的とした.
本研究では,「地域連携」を“複数の専門職および非専門職が患者の退院に向けて行う共同の行為もしくは過程”と定義した.
質的記述的研究
2. 研究対象者先駆的な地域連携を実施している病院として,(1)アルコール専門医療施設リスト(2016)に掲載され,Alcohol Rehabilitation Program(以下ARP)を実施している有床の依存症治療専門病院,かつ(2)医学中央雑誌・CiNiiを用いた文献検索で,過去5年以内にアルコール依存症患者の地域連携支援に関する報告がある,を満たす病院を選択し,院長または看護部長に研究協力を依頼した.研究協力が得られた病院の看護部長より,アルコール依存症患者の退院支援を含む5年以上の勤務歴を持つ常勤看護師の紹介を受けた.また,院内に地域連携の全体像を把握し実践している精神保健福祉士等が存在する場合は,看護師が行う地域連携支援の活動内容の語りを補足する目的で,インタビュー対象看護師を通じてインタビューへの同席を依頼した.
3. データ収集方法2017年11月~2018年2月に半構造化面接を実施した.インタビュー内容は「ARP受講中から実施している退院支援」「退院に向けて連携する地域の機関・職種と連携方法・内容」「地域との連携体制を構築するための取り組み」とした.
4. 分析方法Mayringの質的内容分析の手法を参考に,帰納的カテゴリ形成の手法を用いて質的記述的に分析した(Mayring, 2014).また,インタビューに同席した他職種の語りについては,看護師が関わる活動に関する部分のみを分析対象とした.
録音データより逐語録を作成し,精読して“患者の退院に向けて看護師が行う地域連携の実践内容”に関する記述を抽出した.次に,一文一意味で成り立つよう要約しコードを作成した.内容が類似するコードを帰納的にまとめて抽象度を上げ,サブカテゴリ・カテゴリ・コアカテゴリを生成した.分析はアルコール依存症看護の経験者,質的研究の経験者の2名で意見が一致するまで繰り返し行った.分析結果を全ての対象看護師に確認してもらい,妥当性の確保に努めた.
5. 倫理的配慮インタビューは対象者の希望日に院内の個室にて実施した.実施にあたり,管理者および対象者に対し,研究内容,協力における自由意思の尊重,匿名性と個人情報の保護について文書と口頭で説明し,書面にて同意を得た.また,本研究は名古屋大学医学部生命倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:17-131).
精神科単科の7病院から協力を得て,8名の看護師,6名の同席者(精神保健福祉士5名,臨床心理士1名)の計14名にインタビューを実施した(表1).
対象病院 | 設置主体 | 病床数 | インタビュー対象看護師 | 同席者 | |||||
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ID | 所属部署 | 職位 | 経験年数 | 依存症看護経験年数 | 職種 | ||||
A | 医療法人 | 200~399床 | (a) | アルコール病棟 | 師長 | 22年 | 7年 | PSW1) | |
B | 医療法人 | 200~399床 | (b) | 外来 | 一般 | 7年 | 7年 | ― | |
C | 医療法人 | 200~399床 | (c) | 精神一般病棟 | 係長 | 14年 | 12年 | PSW,CP2) | |
(d) | 精神一般病棟 | 一般 | 10年 | 8年 | ― | ||||
D | 医療法人 | 400床以上 | (e) | アルコール病棟 | 師長 | 30年 | 28年 | ― | |
E | 都道府県 | 100~199床 | (f) | 外来 | 主任 | 25年 | 13年 | PSW | |
F | 都道府県 | 200~399床 | (g) | アルコール病棟 | 主任 | 23年 | 7年 | PSW | |
G | 医療法人 | 400以上床 | (h) | アルコール専門部門3) | 師長 | 14年 | 9年 | PSW |
1)…PSW(精神保健福祉士):Psychiatric Social Worker
2)…CP(臨床心理士):Clinical Phychologist
3)…アルコール専門部門:病棟とは独立して院内に設けられた専属のスタッフで構成されるアルコール依存症治療専門の部門
分析の結果,148コードが抽出され,45サブカテゴリ,19カテゴリ,8のコアカテゴリに集約された.以下,2つに大別された活動内容ごとに結果を述べる.コアカテゴリを【 】,カテゴリを〈 〉,サブカテゴリを《 》,語りの内容を斜体文字で表す.語りの末尾のアルファベットは対象者のIDである.
1) 患者の退院に向けて看護師自身が地域とつながる活動(表2)コアカテゴリ | カテゴリ | サブカテゴリ |
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地域との連携体制を作る | 地域の事業に参加協力し,地域連携ネットワークを作る | 保健所から地域連携会議運営への協力依頼を受け,保健所と協力し,地域連携ネットワークを作る |
保健所や精神保健福祉センターから依頼を受け,専門相談や家族教室を担う | ||
支援拠点である専門病院のスタッフとして,地域の多機関・多職種との協力関係を築く | 多機関が集まる連絡会議や事例検討会に参加し,顔が見え関係を作る | |
地域の拠点となるアルコール専門病院のスタッフとして,院内多職種とともに地域で多職種会議を開催し,情報共有と事例検討を行う | ||
看護師と回復者が顔の見える関係を築く | 自助グループの行事に参加し,自助グループメンバーと顔の見える関係を作る | |
受け持ち患者の見学同行を通して,看護師と回復施設スタッフが顔見知りの関係になる | ||
病院の治療体制について,看護師と自助グループメンバーが意見交換する機会を設ける | ||
他機関から患者情報の提供と相談依頼を受ける | 患者の動向について退院後の支援者から情報提供を受ける | 訪問看護師から訪問の状況について報告を受ける |
中間施設のスタッフやヘルパーから断酒継続の状況について情報提供を受ける | ||
他の病院,地域,職域から相談依頼を受ける | 各地域や職域における未治療者を紹介してもらい,専門治療へつなぐ | |
他のアルコール専門病院から困難事例の受け入れを依頼される | ||
アルコール専門部門を設けている病院では,専門部門の看護師が直接相談依頼を受ける | ||
地域支援者の対応力を強化する | 専門職や看護学生に対する知識の普及と啓発に取り組む | アルコール依存症に関する知識の普及と啓発に向けて,医療福祉専門職に対する地域での研修・講義を担当する |
看護師養成機関からの依頼を受け,依存症看護に関する講義を担当する | ||
地域住民に対する知識の普及と啓発に取り組む | 院外に出向いて小中高生や地域住民に対する啓発活動を行う | |
患者・家族・支援者に限定せず,全ての住民を対象に依存症に関する知識と対応について伝える | ||
地域住民のアルコール問題への知識と対応力を上げるための働きかけを行う |
この活動は,17サブカテゴリ,7カテゴリ,3コアカテゴリで構成された.
(1) 【地域との連携体制を作る】看護師は,〈地域の事業に参加協力し,地域連携ネットワークを作る〉活動を行っていた.また,〈支援拠点である専門病院のスタッフとして,地域の多機関・多職種との協力関係を築く〉よう努め,頻回に顔を合わせる機会を持っていた.
「保健所が酒害相談とか酒害ミーティングをやり始めたときに,病院が空っぽになってもいいから,地域に出ろということで,看護を始めケースワーカーや心理,全員があらゆる保健所に行ったんです(e).」
さらに,看護師は,入院患者が自助グループ等の行事を見学する際に同行し〈看護師と回復者が顔の見える関係を築く〉活動を行っていた.
「連携をしていく上で顔が見える関係性作りは大事にしています.断酒会の送迎や,断酒会が主催する研修会に顔を出したりとかね.(b).」
(2) 【他機関から患者情報の提供と相談依頼を受ける】看護師は,退院後の〈患者の動向について,退院後の支援者から情報提供を受ける〉ことや,未治療者や入院受け入れについて〈他の病院,地域,職域から相談依頼を受ける〉など,困難事例への対応の相談役となっていた.
(3) 【地域支援者の対応力を強化する】看護師は,看護師養成機関からの依頼で,アルコール依存症看護に関する講義を担当するなど,〈専門職や看護学生に対する知識の普及と啓発に取り組む〉とともに,〈地域住民に対する知識の普及と啓発に取り組む〉ことで,専門職以外の人の依存症に対する理解を高め,地域の支援者を増やす活動をしていた.
「どう受診につなげるかとか,生活をどう支援していけばいいか.(病院の)大事な機能なので,地域の人のアルコールの知識を底上げしたい(h).」
2) 退院に向けて患者を地域へつなぐために実施する活動(表3)コアカテゴリ | カテゴリ | サブカテゴリ |
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家族単位で回復を支援する | 家族が回復の手段へつながるようサポートする | 家族に対し家族会やCRAFT1)の情報を提供し,家族が回復するためのサポート体制を示す |
ネグレクト等,患者の子供への養育に問題がある場合,児童家庭支援センター・児童相談所と連携し支援する | ||
保健所や精神保健福祉センターで,家族が治療につながるための情報提供をする | ||
家族関係の修復を支える | 患者と家族の間に入り3者面談の機会を持ち,家族内の認識のズレを埋められるよう,各々の思いを引き出す | |
家族に対して疾患の説明をしたり,入院中の患者の頑張りを評価し家族へ伝える | ||
患者・家族・支援者が共通の目標を持てるよう支える | 患者・家族・主治医・多職種の間で,退院に向けた目標を話し合う機会をコーディネートする | |
患者・家族・主治医・多職種との面談の場で,退院に向けた患者自身の具体的な思いを引き出す | ||
患者の自己決定を支える | 生活維持・断酒継続能力をアセスメントする | 退院後に患者が1人で自助グループや施設に通所する能力があるかを入院中からアセスメントする |
患者とPSWと共に,患者自宅への退院前訪問を実施し,退院後の生活が成り立つか,断酒が継続できる環境かを査定する | ||
本人のニーズに沿って就労支援施設や日中の居場所へつなぐ | 本人のニーズに合わせ,日中の居場所として図書館やジムなど自助グループや回復施設以外の選択肢も提案する | |
就労を希望する患者には,役所の生活保護課や就労支援事業所と連携し,就労支援へつなぐ | ||
社会資源を患者自身が選択できるよう協働する | 利用を検討している施設や自助グループへの見学に,受け持ち看護師が同行し,退院に向けて患者と一緒に動く | |
看護師は本人の意思を尊重し,利用する社会資源を患者自身が選択できるよう情報提供に努める | ||
断酒継続を支える | 自助グループメンバーや回復者と患者をつなぐ | 病院が場を提供する自助グループやOB会の機会に,入院患者と回復者の顔つなぎをする |
SBIRTS2)の方法で,自助グループメンバーから入院患者へ直接,自助グループ参加への働きかけをしてもらう | ||
OB患者や回復中のメンバーを集めたOB会を開催し,回復の報告や断酒を表彰する機会を設け,断酒継続を支援する | ||
病院とのつながりを継続できるよう信頼関係と受け入れ環境を作る | 退院後に患者が孤立することなく相談できるよう入院中から信頼関係を築く | |
病棟看護師から外来看護師へ継続看護を依頼するシステムがあり,退院後も外来で入院中の支援を引き継いでいる | ||
入院中の治療が継続できるよう,外来患者・デイケアメンバー・OB患者を対象とした外来ARPを実施する | ||
生活基盤を整える | 生活を維持するための社会資源の利用につなぐ | 生活スキルが低下した65歳以上の患者について,ケアマネージャーを通して配食サービスやヘルパー利用を依頼する |
金銭管理能力が低く,酒の購入・飲酒のリスクが高い患者について,社会福祉協議会へ金銭管理サービスの利用を依頼する | ||
退院後の支援体制を整えるために調整を行う | 患者の退院に伴い,関係する回復施設・役所・保健センター・児童相談所・訪問看護ステーションと電話で連絡を取り合う | |
退院後の支援予定者へつなぐ | 入院中の治療や看護のポイントを引き継ぐ | 入院中の治療や看護のポイントと患者の経過について,退院後の支援予定者に伝達する |
入院中の看護のポイントが継続されるよう,訪問看護師と支援内容について情報共有する | ||
多職種とともに,退院後の支援予定者と退院に向けた支援の方向性を検討し合う | ||
訪問看護の利用に向けて調整・依頼を行う | 病院の元職員が立ち上げたステーションなど,アルコール依存症支援を得意とする訪問看護ステーションを探す | |
困難事例への訪問は,院内の訪問看護へ依頼する | ||
患者理解と顔つなぎの目的で,入院中に病棟へ出向いてもらうよう訪問看護師に依頼する |
この活動は,28サブカテゴリ,12カテゴリ,5コアカテゴリで構成された.
(1) 【家族単位で回復を支援する】看護師はアルコール依存症患者の家族に対し,家族会やCommunity Reinforcement and Family Training(以下CRAFT)を紹介するといった〈家族が回復の手段へつながるようサポートする〉活動をしていた.
「ご家族の不安がないか,外泊が始まる前に(担当看護師が)必ず家族と面談を行っていますね.その中で不安があるようならCRAFT法のご案内をしたり(a).」
また,看護師は〈患者・家族・支援者が共通の目標を持てるよう支える〉ための機会をコーディネートして,〈家族関係の修復を支える〉仲介役を担っていた.
「本人は退院したいけど家族は帰ってきてもらっちゃ困る.そういう時に担当看護師が入って,一生懸命やっているので見てあげてもらえませんか?と(h).」
(2) 【患者の自己決定を支える】看護師は,退院後の患者が酒のない生活を送れるよう〈生活維持・断酒継続能力をアセスメント〉し,〈本人のニーズに沿って就労支援施設や日中の居場所へつなぐ〉支援をしていた.また,《利用を検討している施設への見学に受け持ち看護師が同行し,退院に向けて患者と一緒に動く》など,地域の〈社会資源を患者自身が選択できるよう協働する〉スタンスで関わっていた.
「選択肢の中で,ご本人さん達に決めてもらうのが一番つながりやすいと思っているので.こちらは情報を提供に努めていますね(a).」
(3) 【断酒継続を支える】看護師は,患者を〈自助グループや回復者とつなぐ〉支援を行っていた.
「自助グループにはまず電話で連絡ですね.行く予定なのでよろしくお願いしますと伝えて,(本人へ電話を)かけてもらうとか(c).」
また,入院中に患者個人との信頼関係を築き,患者が退院後も〈病院とのつながりを継続できる信頼関係と受け入れ環境を作る〉活動を重視していた.
「やっぱり信頼関係を一番大事に取っていかなくちゃいけないので.今思っていることをまず受け止めることから始まる.(中略)何回飲んできても受け入れてくれる.本来の自分を分かってくれる.病棟はそのスタンスです(g).」
(4) 【生活基盤を整える】看護師は,高齢患者に対してケアマネージャー,金銭管理が難しい患者に対しては社会福祉協議会など,入院中から退院後の〈生活を維持するための社会資源の利用へつなぐ〉支援をしていた.さらに関係機関と電話連絡をとり〈退院後の支援体制を整えるために調整を行う〉ことで生活維持できるよう支援していた.
(5) 【退院後の支援予定者へつなぐ】看護師は,地域の支援予定者に〈入院中の治療や看護のポイントを引き継ぐ〉ことで,必要なケアが退院後も継続されるよう工夫していた.
「(他の支援者に)クライシスサインを意識してもらいたい.病棟での生活の癖とか,退院後何をしたいというのを伝えます(d).」
また看護師は,アルコール依存症患者への看護を理解しているステーションへ依頼するなど,退院後の〈訪問看護の利用に向けて調整・依頼〉を行っていた.
本研究では,看護師自身が地域とつながろうとする3つの活動が明らかになった(表2).稗田(2017)は,ソーシャルワークの視点で「四日市アルコール連携ネットワーク」を分析し,ネットワーク構築には,準備期,第1期(院内のチーム作りと専門機関との協働期),第2期(複数の医療機関とのネットワーク実現期),第3期(地域ネットワーク実現期)の4ステップがあると報告している.
本研究の【地域との連携体制を作る】活動は,関係者らがアルコール問題の現状や課題を共有する「連携の準備期」に相当すると考える.【他機関から患者情報の提供と相談依頼を受ける】活動は,「第2期」に相当する.また,「第1期」に相当するカテゴリは抽出しなかったが,実際のインタビューでは院内の体制作りに関する語りもあった.【地域支援者の対応力を強化する】活動は,地域の関係機関とのネットワークを展開する「第3期」に相当する.このように,本研究で抽出された3つの活動は,稗田によるネットワーク構築のプロセスとほぼ合致したことから,四日市の実践に限らず,このプロセスはアルコール依存症患者の退院に向けた地域連携支援が活発な病院の活動に共通する手法と考えられる.
特に,看護師が地域の支援機関に出向いて【地域との連携体制を作る】ことや,患者や家族だけでなく,地域住民や学生を対象として啓発活動を実施するなど【地域支援者の対応力を強化する】支援を行っていたことに注目したい.依存症からの回復支援は,援助職者だけではなく一般の人も一緒になって横断的・縦断的に統合された支援を提供するのがよい(松下,2015)とされる.対象看護師は,院外へ出向く活動も日常の看護の一部として実施しており,啓発活動を通じて,地域の多職種や住民と一緒に患者の回復を支援する体制を築いていたと考えられる.
2. 患者を地域へつなぐ活動松本らは,薬物依存症治療プログラムのマトリックスモデル(Obert, McCann, Marinelli et al., 2000)を基に,依存症の回復は,ステージ1(緊張期),ステージ2(ハネムーン期),ステージ3(「壁」期),ステージ4(適応期),ステージ5(解決期)の5段階で進むと位置づけている(松本・小林・今村,2011).わが国のアルコール依存症治療では,この回復モデルを用いてARPを実施していることが多い.本研究で明らかになった患者を地域へつなぐ活動(表3)について,回復ステージに沿って考察する.
わが国では,アルコール依存症患者の早期発見から早期治療のコンセプトとして国内外に定着しているSBIRT(Screening, Brief Intervention, Referral to Treatment)にSelf-help groupを加えたSBIRTS(猪野,吉本,村上他,2018)の実施が推奨されている.本研究で明らかになった〈自助グループメンバーや回復者と患者をつなぐ〉看護活動は,SBIRTSの最後のSにあたる.依存症は,近しい他者とのサポーティブな関係が得られれば回復に向かう(Steve, 2019)とされている.対象看護師は,自らがそのサポーティブな関係性を構築しつつ〈病院とのつながりを継続できるよう信頼関係と受け入れ環境を作る〉ことでSBIRTSの最後のSを実践し,【断酒継続を支える】関わりを実施していた.これは依存症回復ステージ3の「壁」を乗り越え,ステージ4への移行を支援する看護と考えられる.
また,対象看護師は【患者の自己決定を支える】ことを重要視していた.アルコール依存症患者の回復には,自己決定と自己責任の意識を持つことが大切である(松下,2015).看護師は患者に助言するだけでなく,患者と共に自宅への退院前訪問を実施したり,利用を検討している施設や自助グループへの見学に同行するなど,自らが伴走者となって患者に寄り添うことで利用可能な支援資源の理解を促し,患者が自己責任のもとで退院後の生活を自己決定できるよう支援していた.これは,今後の生活を具体的にイメージし,その生活に適応しようとするステージ4に適した看護と考える.
次に,患者の【生活基盤を整える】は,今後の生活を現実的に意識するステージ4から酒のない生活を維持するステージ5への移行支援と解釈できる.田村・森本(2016)が,在宅で生活するアルコール依存症患者に対する生活上の困難やストレス軽減の必要性を提言しているように,対象看護師も,患者の退院後の在宅生活に備えて再飲酒の引き金になりうる生活上の課題を予測し,予防的に生活維持や金銭管理のための手筈を整えることを重要と考えていたのであろう.
このように,先駆的に地域連携を行う病院では,依存症の回復段階に沿って患者を地域へつなぐ活動を行っていた.依存症患者の回復支援は,患者の回復ステージに沿って支援することが重要である(松下,2015).本研究の対象看護師が実践していたように,患者の退院に向けた地域連携支援もこのステージを意識して進める必要があると示唆された.今後,アルコール依存症患者に対する地域連携支援の強化を目指す病院において,これらの知見を活用することが期待される.
3. 結論先駆的な依存症治療専門病院において,アルコール依存症患者の退院に向けた看護師の地域連携支援には,看護師自身が地域とつながる3つの活動,患者を地域へつなぐための5つの活動があり,連携ネットワーク構築には共通した過程があること,またその看護は依存症の回復段階に沿っていることが明らかになった.
4. 本研究の限界と今後の課題本研究は,研究協力が得られた7病院の実践に限定された知見である.今後は地域連携の全国的な実態と課題を調査し把握する必要があると考える.
本研究の趣旨をご理解いただき,快くご協力下さった協力者の皆様,協力施設の皆様に心より感謝申し上げます.
なお,本研究は2017年度日本精神保健看護学会の研究助成を受けて実施した.また,本研究の一部は第29回日本精神保健看護学会学術集会において発表した.
MAは研究計画,データ収集,データ分析,論文執筆を行った.IWは研究プロセス全体への助言を行った.両著者が最終原稿を読み,承認した.
本研究における利益相反は存在しない.