日本精神保健看護学会誌
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ISSN-L : 0918-0621
研究報告
一豪雪地域で生活を継続している統合失調症を持つ人の経験
安達 寛人塩谷 幸祐田口 玲子長谷川 雅美
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2021 年 30 巻 1 号 p. 40-49

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Abstract

本研究は,一豪雪地域で生活を継続している統合失調症を持つ人の経験について当事者の語りから明らかにすることを目的として,精神科デイケアまたは就労支援事業施設に通所している統合失調症者11名を対象に半構成的面接を実施し,質的帰納的に分析を行った.

結果,本研究における豪雪地域で生活する統合失調症を持つ人の経験は,【健康維持の心がけと習慣化】【日常生活維持のための自己決定】【積雪環境への適応】【周囲の人々からの支え】【今後の生活への希望となるものの獲得】【自分の病気と療養生活の受け入れ】【対人関係における配慮】【問題や課題の保留と我慢】の8カテゴリーに分類された.積雪環境において,彼らは自身の気分変調への対処や気持ちの整理をし,周囲のサポートを受けながら【積雪環境への適応】をすることで生活を継続していることが明らかとなった.本研究では,当事者が健康を維持できるよう配慮しながら,積雪に関連した移動手段の確保や余暇活動の支援の重要性が示唆された.

Translated Abstract

The purpose of this study was to clarify the experiences of the persons with schizophrenia living in a local community with heavy snowfall, and to provide suggestions to support their community life. For this, semi-structured interviews of 11 people with schizophrenia in psychiatric daycares or job assistance facilities were conducted. The interview data were analyzed qualitatively.

In this study, the experiences of the persons with schizophrenia living in a local community with heavy snowfall were classified into eight categories: [Mental attitudes and habituation to maintain one’s health], [Self-decision for maintaining daily living], [Adaptation to the snowy environment], [Support from surrounding people], [Acquisition of hope for future life], [acceptance of illness and recuperative life], [Considerations to interpersonal relationships], and [Postponement and patience for problems and challenges]. In the snowy environment, the persons continued to live by coping with their own mood swings, organizing their feelings, receiving support from others, and adapting to the snowy environment. The findings of this study suggested the importance of securing snow-related transport and supporting leisure activities, taking into account the health of the participants.

Ⅰ  はじめに

厚生労働省は2010年に「精神障害者地域移行・地域定着支援事業」を提示し,精神障がい者の地域移行に関する施策を進めてきた.しかし,精神科病床からの退院患者の再入院率が退院後6ヶ月時点で27.5%,12ヶ月時点で35.6%であった(国立精神・神経医療研究センター,2018)ことや,退院後にサービスを利用していた重度精神障がい者が約33%であった(山口ら,2015)ことなどが報告されており,精神障がい者の地域定着の困難さがうかがえる.そのため,今後も精神障がい者の地域生活への移行・定着促進に関する知見の積み重ねや取り組みが重要である.特に,精神障がい者の中でも統合失調症の入院患者数は多く,地域移行を進めるうえで統合失調症を持つ人への支援が必要であると考える.

統合失調症を持つ人の地域生活に関する研究では,地域生活を継続するための要因(國方ら,2006古賀,2015)や退院後の生活における変化のプロセス(黒髪,2013)が報告されており,「折り合いをつける」ことや「ルーチン化した習慣化」などが要因として示されている.また,慢性精神障がい者の農村地域での暮らし方(揚野ら,2012)や出身地以外の地域で暮らす精神障がい者の地域生活過程(関根,2011)など特定地域での暮らしに焦点を当てた報告もあり,「農業の合間にデイケアを利用する」ことや「社会環境への慣れ」などの生活の様相が示されている.各先行研究で地域生活の継続に関する共通の要因が示されている一方,各研究に特徴的な要因も示されており,必ずしも一致しているわけではない.特に,対象者の居住地域が異なればその要因も異なるため,地域特性を考慮に入れた調査を行い,各地域に見合った支援を検討する必要がある.

特定地域の例として,日本の国土の約半分を占める豪雪地域がある.豪雪地域の生活環境が精神面に与える影響について,寒冷積雪環境に住む人々への影響に関する報告(吉田・白井,2006)や,季節性感情障害の報告(松田・平野・渡辺,2002)などがあり,積雪環境や季節の変化における精神面への影響が示されている.また,豪雪地域で生活する人々の生活行動と生活への影響に関連があることを示した報告(Suzuki, & Tsushima, 2013)がある一方で,冬季の外出頻度と気象の生活への影響との関連が認められなかったという報告(鳥谷ら,2006)もあり,豪雪地域の寒冷積雪環境の影響は調査対象者によって異なっている.加えて,豪雪地域で生活する人々の生活行動に関する研究は高齢者を対象とした報告が多く,精神障がい者に関する報告はない(安達・塩谷・田口,2017).環境はその地域で暮らす人々にとって密接なものであり,豪雪地域の環境は彼らの生活に何らかの影響を及ぼしていることが懸念される.

Ⅱ  目的

本研究の目的は,我が国の豪雪地域で生活を継続している統合失調症を持つ人が積雪に見舞われる時期にどのような生活に関する経験をしているのか,その語りを通して明らかにしようとすることである.これにより地域性を考慮した統合失調症を持つ人の支援の検討に資することができると考える.

Ⅲ  用語の操作的定義

1.豪雪地域:豪雪地帯対策特別措置法第二条二項(昭和37年法律第73号)に基づき,冬季の積雪の度が特に高く,かつ,積雪により長期間自動車の交通が途絶する等により住民の生活に著しい支障を生ずる地域とする.

2.経験:生活の中でその人の解釈が入った体験,また,生活を続けることで身についた知識や技能とする.

3.地域生活:病院以外の場所で生活することとし,生活の場は在宅やグループホームなどであり,家族と同居している者や独居の者も含む.

Ⅳ  研究方法

1. 研究デザイン:質的記述的研究デザイン

質的記述的研究は現象の率直な記述が求められる際に選ばれる方法であり,特に,「誰が」「何を」「どこで」起こった出来事かということについて知ることを望む研究者にとって役立つ(Sandelowski, 2000).豪雪地域で暮らす統合失調症を持つ人の経験については報告されておらず,彼らがどのような経験をしているのかを明らかにするために,質的記述的研究を採用することが適していると考えた.

2. 対象者と対象地域

対象者は,精神科デイケアまたは就労支援事業施設を利用中で,精神科に入院経験があり,現在は地域で生活している統合失調症と診断を受けた者10名程度とした.

対象地域は,全国有数の豪雪地域である新潟県の南西部に位置する上越地域の平野部とした.この地域は,人口約19万5千人(2017年3月時点),高齢化率は30.1%(2015年3月時点)である.また,例年1月と2月にはおよそ100~200 cmの累積降雪量があり,積雪量は最も深い時で100 cmを超える地域でもある.

3. データ収集方法

各施設責任者への説明後に同意を得て,対象候補者の選定および研究説明依頼書の配布を依頼した.研究説明依頼書をもって研究説明希望の有無および連絡方法を確認し,研究説明を受ける意思が確認できた者に対して直接連絡あるいは施設責任者を通じての連絡を取り,研究説明日時の調整を行った.

研究の同意が得られた対象者に半構成的面接を実施した.面接時間は1人1回30~60分程度とし,面接内容はあらかじめ対象者の承諾を得たうえでICレコーダーに録音した.調査項目は國方ら(2006)の調査項目を参考に「属性に関する項目(年齢,罹患期間,地域生活期間)」と「生活に関する項目(今までの生活について,冬期間の生活について,今後の意向について)」とした.データ収集期間は2017年2月から3月であった.毎年1月~3月は降雪・積雪量が多い時期であるため,積雪の影響を受けていると考えられる時期の面接を計画した.しかし,調査した年は比較的小雪であり,最深積雪は70 cmにとどまった.なお,調査した月の累積降雪量は83 cm(2017年2月)と27 cm(2017年3月)であった.

4. データ分析方法

データ分析は質的帰納的に行った.録音した面接内容を対象者ごとに逐語録に起こし,データを読み込んだ.対象者の生活に関する経験が表現されている一つのまとまりを持つ意味ごとの文章を抽出し,発言内容の意味を損なわないよう対象者から語られた言葉を用いてコード化した.得られたコードの意味内容の類似性と差異性に従って,サブカテゴリー化,カテゴリー化した.なお,信頼性を確保するため,分析の全過程において精神看護学を専門とする質的研究者に指導を受け,合意が得られるまで内容の確認を行った.

Ⅴ  倫理的配慮

本研究は,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に則り,新潟県立看護大学倫理委員会の承認(承認番号016-18)を得て実施した.本研究の実施にあたり,研究対象施設の責任者と対象者に研究への参加・協力の自由,同意の撤回,個人情報の取り扱い,データの保管および廃棄の方法等に関して書面と口頭で説明し,同意書への署名をもって同意を得た.面接開始前には,再度対象者に対して研究の同意に関する確認を口頭で行った.また,対象者には匿名化した逐語録を直接確認してもらい,発言内容との相違や個人情報の観点で問題がないか確認を得た.

Ⅵ  結果

1. 対象者の概要

対象者は11名(男性5名,女性6名),平均年齢51.9歳(SD = 11.6),平均罹患期間31.1年(SD = 8.9),平均地域生活期間16.2年(SD = 8.8)であった.通所施設は精神科デイケアが5名,就労支援事業施設が6名であった.平均面接時間は37.5分(SD = 11.1)であった.対象者の概要を表1に示す.

表1 対象者の概要
ID 年齢 性別 罹患
期間(年)
地域生活
期間(年)
独居・
同居(同居者)
通所施設 インタビュー
時間(分)
A 60代 43 30 独居 就労支援施設 50
B 30代 21 6 同居(父母) デイケア 27
C 60代 33 23 独居 就労支援施設 46
D 60代 39 30 独居 就労支援施設 34
E 40代 25 12 同居(父母) デイケア 35
F 60代 48 12 グループホーム デイケア 29
G 50代 35 22 同居(夫) 就労支援施設 65
H 40代 26 17 同居(母) 就労支援施設 35
I 30代 24 4 同居(父・兄) 就労支援施設 34
J 30代 19 6 グループホーム デイケア 27
K 50代 29 16 グループホーム デイケア 31
平均 51.9 31.1 16.2 37.5
標準偏差 11.6 8.9 8.8 11.1
範囲 33~67 19~43 4~30 27~65

2. 一豪雪地域で生活を継続している統合失調症を持つ人の経験

対象者11名へのインタビュー内容から,一豪雪地域で生活を継続している統合失調症を持つ人の生活における経験として語られた意味内容の類似性に沿って230コード,29サブカテゴリー,8カテゴリーが抽出された.経験の構成を表2に示す.

表2 一豪雪地域で生活を継続している統合失調症を持つ人の経験の構成
カテゴリー サブカテゴリー
健康維持の心がけと習慣化 対処方法の把握による精神面の健康維持
習慣化による精神面の健康維持
無理をしないという心がけによる健康維持
習慣化による身体面の健康維持
日常生活維持のための自己決定 対応可能な状況に対する自分なりの判断と決定
助言の受け入れによる新たな取り組みの開始と継続
生活維持のために自分のことは自分で行うという意思
積雪環境への適応 積雪による生活への影響と対処方法の実践
積雪環境に対する除雪方法の把握と対処
積雪期の気分変調と対処方法の実践
周囲の人々からの支え 周囲の人々からの助け
困った時には支援が得られるという精神的支え
仲間の存在による励み
今後の生活への希望となるものの獲得 私生活や施設での活動における楽しみの獲得
自立への希望に関連した目標の獲得
より良い生活を目指した希望の獲得
生活を継続する自信の獲得
現状の生活を維持することへの希望の獲得
自分の病気と療養生活の受け入れ 現在の療養生活への納得
自分が病気であるという自覚
療養生活の継続による病状改善の実感
現状の受け入れによる過去への意味づけ
自分にはできないことがあるという現状の受け入れ
対人関係における配慮 意識的な交流による他者とのつながりの維持
対人関係における他者への気遣い
他者との関係における距離感の意識
家族関係における役割の実践
問題や課題の保留と我慢 解決困難であることによる問題や課題の保留
解決困難であることによる不満な状況の我慢

以下,カテゴリーは【 】,サブカテゴリーは[ ],対象者の語りは「斜字(ID)」で示す.なお,語りの内容で意味が伝わりにくい場合に( )で補足して表記した.

1) 【健康維持の心がけと習慣化】

このカテゴリーは,健康維持を心がけて生活していたことで,その生活が習慣化したという経験である.対象者は,頓服薬の内服や体操,家族と話をして心を落ち着かせるなど,精神面の健康を維持するために複数の対処法を持ち合わせて対処する[対処方法の把握による精神面の健康維持]を経験していた.また,精神面の健康を維持するための内服継続や睡眠確保などの生活が習慣化したという[習慣化による精神面の健康維持]や,身体面でも健康維持のための食事制限やウォーキングなどの運動を意識的に行う生活をして習慣化したという[習慣化による身体面の健康維持]を行っていた.さらに,頑張り過ぎず無理しないことを心がけて生活を送ることが健康維持につながるという[無理をしないという心がけによる健康維持]を経験していた.

やっぱ薬は必ず飲んでる.どうしても飲まないでいるってことないよね.それがもう習慣になってる.(G)」

あまり頑張りすぎちゃったんだろうね.だからこれ(病気),ひどくなっちゃったんだろうな.ちょっとくらいはやったりなんかしないでも良いし,そういうのはわたし自覚しましたよ.うん.ちょっとくらい休まなきゃいけないんだなと思って,そんなに頑張りすぎないで良いんだわと思って,うん.(A)」

2) 【日常生活維持のための自己決定】

このカテゴリーは,対象者が自身の日常生活を維持するために自分なりの判断や決定を行ってきたという経験である.対象者は,通所施設の相談や仕事を辞める決定など自分なりの判断や決定をするという[対応可能な状況に対する自分なりの判断と決定]の経験をしていた.また,家族や支援者の助言をきっかけとした施設への通所や家事の手伝いなど,新たな取り組みを開始し継続する[助言の受け入れによる新たな取り組みの開始と継続]をしていた.さらに,買い物や洗濯など,自身の生活を維持するために必要なことはできる限り自分で行う[生活維持のために自分のことは自分で行うという意思]を持って生活していた.

(仕事先の)奥さんもほら気遣ってね,今日はここやって,あそこは明日にしても良いし,ここやって食器だけでも良いし,って言ってくれるんだけどね.なかなかそういうこともできなくてまぁ一所懸命やってたんだけどね,やりきれないんだわ.ほんで,あたし,ほら,(辞職を)お願いしたのにね,もうできないのであたし一人で掃除するわけにもいかないから.ほんで主人反対したんだけど,辞めるって言って辞めた.(G)」

デイケアいきましたよ.入って,退院する前に(グループホーム)行って,デイケアに行きなさいよって言われて,デイケア行ったんですよ.…おふくろに言われたんですよ.(F)」

3) 【積雪環境への適応】

このカテゴリーは,積雪環境という生活条件にあてはまるよう自身の考え方や行動を変化させたという経験である.対象者は,積雪期の移動制限に対してタクシー券を使用したり,車の運転を親に依頼したりするなど[積雪による生活への影響と対処方法の実践]や,除雪作業に関して自身で行うことや公的機関によるサポート体制の把握,家族への依頼などの対処をする[積雪環境に対する除雪方法の把握と対処]を経験していた.また,悪天候の日が続くことで気分の落ち込みや外出の制限による重い気分になるなど積雪期における気分変調を感じていたが,捉え方を変えることや意識的な外出,物に当たるなど自分なりの対処をしながら積雪環境での生活を送っていた.一方,雪の景色は良いと肯定的に捉え,気分変調を感じていない者もいた.

(除雪は)役所がみんなしてくれるからね.道路はまぁ,少しはまぁ良くなってますよね.昔から比べたら….昔はねぇ,道つけして,もう起きたらいっぱいほど積もってたら,道つけしたりなんかしたりして,で,ある程度のところまでなんか道つけしたりなんかして,屋根の雪下ろしもしなきゃならんかったですよね,昔はね.(A)」

(積雪期は)音楽を聴いて,絵を描いたりして気分を紛らわせてます.入院当時も,閉鎖病棟にいたんですけど,その時もスケッチブックを買ってきてもらって,それで絵を描いたり,CDを聴いてたりしたんで,その環境と同じです.外に出られない環境が閉鎖病棟の環境と同じだなって.(B)」

いろいろ景色見られたりとか,いろんな雪でもいろんな雪あるじゃないですか.その中歩いてるのもまたなんか,良いですよね.(H)」

4) 【周囲の人々からの支え】

このカテゴリーは,家族や施設のメンバー,施設のスタッフなど自身の周囲に存在するさまざまな人々に支えられたという経験である.対象者は,困った時に施設のスタッフや家族からの直接的な支援を受ける[周囲の人々からの助け]や,困った時には周囲の人々から支援が得られることによって精神的な支えを得ている[困った時には支援が得られるという精神的支え]を持って生活していた.また,自身と同様に障害を持ちながら生活を継続している施設のメンバーが頑張っている姿を見ることで励まされるという[仲間の存在による励み]を経験していた.

(施設のスタッフが)困ったとき助けてくれますね.担当の人がいて…,何でも聞いてくれます.金銭管理や悩みっていうか,これからの課題っていうか,そういう目標とか,具体的にこうすれば良いとか…今は,チェックリストってつけていて,髭剃りや,洗面や,うん,そういうことを頑張ってます.(I)」

みんな頑張ってるから私も頑張ってみようかなみたいなのはありますね.土地は違っても人はやっぱり頑張る姿に惹かれるのは一緒なので.(B)」

5) 【今後の生活への希望となるものの獲得】

このカテゴリーは,生活を継続していくうえでの希望となる望みや目標,楽しみを獲得したという経験である.対象者は,私生活での活動や施設での訓練活動に楽しみを見出すという[私生活や施設での活動における楽しみの獲得]や,就職や一人暮らしなど自立したいという希望に関連した自身の目標を得るという[自立への希望に関連した目標の獲得]をしていた.また,趣味や恋愛,歌の披露といった自己実現を目指しており,より自分らしい生活を送りたいという[より良い生活を目指した希望の獲得]をして生活していた.さらに,生活を維持・継続してきた実績から自信が湧いてくるという[生活を継続する自信の獲得]や,現状の安定した生活を維持していきたいという[現状の生活を維持することへの希望の獲得]を経験していた.

(デイケア)楽しいです.イヤなことあっても,また次の日の朝になればケロッと忘れて,また楽しみで行くから良いですね.給食もおいしいし.散歩とか抹茶会とか…あとコーヒー会とかスポーツも楽しいですね.バトミントンやったり.こないだ卓球して,けっこうおもしろかった.(J)」

できたらまた就職したいなって思ってるんですけど,それには,まぁ,遠いけど,毎日デイケア来ようと思ってます.何か…スタッフが病院から聞かれて,主治医の…何か病院のシステムが変わったのかよくわかんないけど,何日通うかって聞かれたもんで,5日って言ったら…来なくちゃいけないなって思って.(E)」

6) 【自分の病気と療養生活の受け入れ】

このカテゴリーは,自身が有する疾患や療養生活について納得したり自覚したりすることを通して受け入れるという経験である.対象者は,精神症状の出現といった状況があっても,今の自身の療養生活について自分なりに納得するという[現在の療養生活への納得]をしていた.また,障害年金の受給や内服薬の開始などをきっかけとして自身の病気を自覚するという[自分が病気であるという自覚]や,疾患を持ちながら自身の生活を継続することで病状改善を実感するという[療養生活の継続による病状改善の実感]をしていた.さらに,入院中の体験や疾患を発症したことで結婚や子育てをしてこなかったことなど過去の出来事を自分なりに振り返り,意味付けをするという[現状の受け入れによる過去への意味づけ]や,デイケアプログラムや就職面接で失敗したことで自身の現状を受け入れるという[自分にはできないことがあるという現状の受け入れ]を経験していた.

あたしまぁ幻聴かなんかさ,聞こえたりなんかしてたの昔.まぁね病気でしょ?ね,いろいろあったんだわ,いろいろあったんだけど,最近はね,まぁ,良いんじゃないかって思うようになったんだわ.聞こえてるもん良いんじゃないかって思うようになった.(G)」

(食事の準備について)日曜日は自分でまぁ自分でするって感じで.夕飯のおかずだけですけどね.自分であとはお米炊いて自分でやってるし,で,あの…朝・昼はみんな自分でやって,作ってやってる.まぁ,そうやってできるようになったってことが,病気も少し良くなって良いんじゃないかと思いますね.(A)」

7) 【対人関係における配慮】

このカテゴリーは,他者との交流において,意識したつながりの維持や気遣いをしたという経験である.対象者は,地域の集まりに参加することや施設メンバーと意識的に関わり交流を重ねることで他者とのつながりを維持するという[意識的な交流による他者とのつながりの維持]を行っていた.また,親を気遣って雪かきを行ったり他者と関わる際には怒らないようにしたりするなど,関係性を保つために他者を気遣って関係性の維持に努めるという[対人関係における他者への気遣い]をしていた.さらに,他者と接する際は距離感を意識して関わるという[他者との関係における距離感の意識]や,洗濯や買い物といった家事の分担をこなすなど,家族内での役割を果たすという[家族関係における役割の実践]を行っていた.

そうですよねぇー.ほんと町内の付き合い,地域ですね.葬式あれば…自分の世話になった知ってる人,ていうか出ますもん.あとは送迎用のバスまでねぇ,用意してくんなるからさ,それ何回か行った….(C)」

この人は無理かなとか,女性だけじゃなくて男性も,いろんな年齢の人もね.ちょっと負担になるっていうかこの人はちょっと僕に近づくと負担になるかなと思ったら,距離を置きます.距離を置かないと,大変な思いをすると思うから.そういうことよくあります.そう,距離感も覚えました.(H)」

8) 【問題や課題の保留と我慢】

このカテゴリーは,解決困難な問題や課題に対して保留したり我慢したりしたという経験である.対象者は,解決困難な問題や課題に対しての見通しが立たないために判断を保留するという[解決困難であることによる問題や課題の保留]を経験していた.また,生活に不満な状況を抱えながらも,現状の良い面を見つめながら我慢するという[解決困難であることによる不満な状況の我慢]をして生活を継続していた.

ま,パチンコのスロットだってさ,おこづかいがなくなってからやめたんだからさ,タバコも買う金なくなったら…やめられようになるかな….タバコを…食費を…なってみないとわかんない.うん.タバコを取るのか食事を取るのか.(B)」

(徒歩での)買い物はせつないけども,それくらいのは,自分で我慢しようっていうか,それくらいはしっかりして,自分の気楽な生活の方が良いじゃないかなって思ってるんで,うん.(A)」

Ⅶ  考察

1. 一豪雪地域で生活を継続している統合失調症を持つ人の経験

本研究の対象者は,自身の健康を維持しようとする意思を持ちながら生活を継続することで,自分に合った健康維持のための生活習慣を確立し,病気と付き合っていた.精神科デイケアに通う統合失調症者を対象に地域生活継続の要因を調査した古賀(2015)は,“ルーチン化した習慣化”が安定した地域生活を送る要因であったと報告している.豪雪地域で生活している対象者においても,【健康維持の心がけと習慣化】を行うことで安定した地域生活を送ることができていると考えられる.

積雪期の精神面への影響に関して,本研究の対象者からは積雪による気分変調があるという語りがあった一方で,積雪を肯定的に捉えている内容の語りもあり,必ずしも積雪環境の影響を受けるというわけではなかった.積雪環境の影響を受けている者は,対処方法を工夫することや,容易に外出できない状況を閉鎖病棟の入院環境に置き換えて現状を受け入れるという考え方の変更など[対処方法の把握による精神面の健康維持]によって,調子を崩すことなく豪雪地域での生活を継続できていることがうかがえる.また,本研究の対象者は,積雪のため外出困難になることや除雪作業の必要性が出てくるという積雪期の物理的な影響を受けながらも,家族への送迎依頼や公的機関による除雪体制・除雪方法の把握などによって解決に至っていた.中井(1991)は,精神的健康の一つの基準に“可逆的に退行する能力”があり,一時的な退行によってエネルギーを補給して再びもとの状態に戻ることができれば健康であると述べている.全て自分の力で解決するのではなく,家族や他者に頼るという行動は,豪雪地域で生活を継続するための工夫になっていると考えられる.

また,中井(1991)は“即座に解決を求めないでおれる能力”が精神的に健康であるための能力として必要であると述べている.本研究の対象者は,生活を継続する中で【日常生活維持のための自己決定】を行っている一方,自己決定に至らない解決困難な状況に対しては【問題や課題の保留と我慢】といった問題や課題への対処をしており,精神的に健康な能力を発揮していたと言える.一豪雪地域で生活をする統合失調症を持つ人にもおいても,問題や課題の保留や我慢をするといった調整をしながら生活を送っていくことは重要であると考えられる.

農村地域で暮らす統合失調症患者における地域生活継続の促進要因と阻害要因について調査した関井ら(2015)は,“将来への希望”という促進要因が抽出されたと報告している.豪雪地域で生活している本研究の対象者も,希望や楽しみ,自信など【今後の生活への希望となるものの獲得】をしており,農村地域の精神障がい者の地域生活促進要因と一致している点が見られた.加えて,ピアサポートの効果に関して松本・上野(2013)は,仲間的支援と熟達的支援の2タイプがあり,仲間的支援のタイプの中に“楽しみの提供”という効果があると述べている.本研究の対象者が語ったように,デイケアや就労支援施設での楽しみや希望を含む【今後の生活への希望となるものの獲得】によって,生活上の活力源となり,活動が制限される冬季にあっても生活を継続できていると考えられる.

本研究の対象者は,就労支援事業施設または精神科デイケアに通所しており,社会的支援を受けている人々である.精神障がい者の自立認識と自立の達成要因について駒ヶ嶺(2017)は,地域の福祉サービス事業者の存在が精神的支えとなり地域生活定着促進の一助を果たしていたことを報告している.本研究においても,対象者は通所している施設のスタッフや仲間あるいは家族など【周囲の人々からの支え】を得ることができており,豪雪地域での生活を継続する一助になっていたと考える.また,本研究の対象者は【対人関係における配慮】のように施設の仲間や支援者,地域住民とのつながりを通じた対人関係を維持しながら地域生活を継続していた.同時に,仲間との対人関係を維持する中で,同じ施設のメンバーが日々頑張っている姿に励まされていた.ピアサポートの意味について調査を行った濱田(2015)は,“他者との出会いによって固有の人生を生きること”と“他者の幸せに自分を生かすこと”の2つの意味があると述べている.【対人関係における配慮】をしながら仲間とのつながりを作り,その仲間が生活を継続していること自体が[仲間の存在による励み]となって自身の生活を継続できていると考えられる.

2. 豪雪地域で生活を継続している統合失調症を持つ人への支援

本研究の対象者は【健康維持の心がけと習慣化】のように自身の健康を意識しながら日常生活を送り,その生活を習慣化して生活を継続していた.このことから,まずは当事者自身が健康をコントロールできるように支援していくことが重要であると考える.具体的には,本研究で見られた頓服薬の内服や体操,家族と話をして心を落ち着かせるなど精神面での健康を維持するための複数の対処方法を持てるような支援,日々の内服継続や睡眠確保など生活習慣を構築できるような支援,[無理をしないという心がけによる健康維持]のように頑張り過ぎず無理をしないことで,病気が増悪せず健康を維持できるという認識を与える支援などが考えられる.

また,本研究対象者の語りから,積雪期において外出時の移動の困難さや除雪の大変さがうかがえ,その困難さや大変さの捉え方は個人によって異なっていた.そのため,例えば,車の運転ができない者の移動に関しては,冬期のタクシー券の利用や施設が運営するバスの利用といった移動手段確保の支援が必要であると考える.

さらに,豪雪地域では積雪期に入ると屋外での活動や外出自体に制限が出てくる.本研究の対象者のように,積雪による外出制限によって気分の落ち込みを表出する者もいた.槇本ら(2006)は“遊び”に着目し,地域で暮らす統合失調症者は自分なりにゆとりを持って“遊ぶ”ことで各々の生活をより豊かに生き生きとしたものに変化させ,地域社会の中でその人らしく生きていく支えにしていたと述べている.本研究対象者が[私生活や施設での活動における楽しみの獲得]をしていたように,生活の中に楽しみを持っていたり意図的に楽しみを作ったりするなど“遊び”のような余暇活動を行うことが地域生活を継続するための一つの要素になっていることがうかがえる.そのため,気軽に外出できない状況にある者に対しては,余暇活動を行うことができる活動の機会や場所の提供,支援者が余暇活動について一緒に考えることも重要な支援になると考えられる.

3. 研究の限界と今後の課題

本研究は,一地域で生活している統合失調症を持つ人で,比較的地域生活に適応している者を対象としていることに研究の限界がある.今後は,豪雪地域で生活を続ける他の精神障がい者や健常者の生活経験を明らかにし,本研究結果と比較した研究を進めていきた‍い.

Ⅷ  結論

一豪雪地域で生活を継続している統合失調症を持つ人の経験は,【健康維持の心がけと習慣化】【日常生活維持のための自己決定】【積雪環境への適応】【周囲の人々からの支え】【今後の生活への希望となるものの獲得】【自分の病気と療養生活の受け入れ】【対人関係における配慮】【問題や課題の保留と我慢】の8カテゴリーに分類された.精神面への影響が懸念された積雪環境に対しては自身の気分変調への対処や気持ちの整理をし,周囲のサポートを受けながら【積雪環境への適応】をすることで生活を継続していることが明らかとなった.豪雪地域で生活を継続している統合失調症を持つ人への支援として,当事者が健康を維持できるよう配慮しながら,積雪に関連した移動手段の確保や余暇活動の支援の重要性が示唆された.

謝辞

調査にご協力いただきました施設利用者の皆様,ならびに施設職員の皆様に厚く御礼申し上げます.なお,本研究は第38回日本看護科学学会学術集会で発表し‍た.

著者資格

HAは研究の着想から論文の作成の全過程に貢献した.KSはデータ分析および解釈に貢献した.RTは研究プロセス全体への助言と分析および論文構成,MHは分析および解釈,論文構成に貢献した.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.

利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

文献
  •  安達 寛人, 塩谷 幸祐, 田口 玲子(2017).積雪寒冷・豪雪地域における環境の影響を受けている生活行動とサポートニーズに関する文献検討.新潟看護ケア研究学会誌,3, 21–28.
  •  揚野 裕紀子, 曽谷 貴子, 川野 雅資,他(2012).農村地域で暮らしている慢性精神障がい者の語りの分析.山陽看護学研究会誌,2(1), 13–19.
  •  濱田 由紀(2015).精神障害をもつ人のリカバリーにおけるピアサポートの意味.日本看護科学会誌,35, 215–224.
  •  古賀 誠(2015).統合失調症患者が地域生活を送ること 精神科デイケア利用者からみえてきたことを中心に.健康科学大学紀要,11, 119–129.
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