2021 年 30 巻 1 号 p. 66-72
わが国の精神科医療においては,1990年代以降,入院中心の医療体制から地域生活を中心に据えた医療体制へと変換が推奨されてきた.地域生活を送る精神障碍者への支援として精神科訪問看護の有用性が示されており(萱間ら,2005;初田・石垣,2013),長期間の生活支援を提供することが可能な訪問看護ステーションによる精神科訪問看護の推進が求められている.
2010年度の診療報酬改定においては,利用者の身体的状況や暴力・迷惑行為を理由として複数の看護職員で訪問看護を行っている実態があることを踏まえ,看護の困難事例等に対して保健師または看護師と看護職員等が複数名で行う訪問看護(複数名訪問看護)の評価が新設された.その後,2012年度改定においては,同行する職員の対象職種として精神保健福祉士および看護補助者が追加されている.看護補助者は,訪問看護を担当する看護師の指導の下に,療養生活上の世話のほか,居室内の環境整備,看護用品および消耗品の整理整頓等といった看護業務の補助を行う者が想定されており,資格は問われていない.現在,診療報酬における複数名精神科訪問看護加算は,利用者または家族等の同意を得ており,医師が複数名訪問の必要性があると認めていること等が算定要件とされている.
日本における診療報酬化後の複数名による精神科訪問看護の実施状況に関する調査では,複数名による精神科訪問看護を実施しているステーションの19.0%が看護補助者との同行訪問を実施していた(初田・村瀬,2020).看護補助者は,社会福祉士,介護福祉士などの福祉職者,および資格を持っていない非専門職者である.地域生活を送る精神障碍者は,精神的な病気の有無にとらわれず,人として普通につきあえる人間関係を希求し(初田・石垣,2013),非専門職者との関係性の中で自分らしさを取り戻している(笹木,2016)ことが示されている.しかしながら,非専門職の看護補助者が同行する精神科訪問看護に着目した先行研究はなく,訪問看護やその実施内容,および利用者や訪問看護師,非専門職者への影響に関して,訪問看護師,非専門職者および訪問看護利用者がどのように捉えているのかについて明らかになっていない.そこで,本稿では,非専門職の看護補助者が同行する精神科訪問看護に関する訪問看護師,非専門職者および訪問看護利用者の認識を明らかにする.本研究により,訪問看護師,非専門職者および訪問看護利用者の認識の特徴を踏まえた精神科訪問看護の提供による精神障碍者の地域生活支援の拡充につながることが期待できる.
非専門職の看護補助者が同行する精神科訪問看護に関する訪問看護師,非専門職者および訪問看護利用者の認識を明らかにする.
複数名による精神科訪問看護の実施状況に関する調査結果(初田・村瀬,2020)から,便宜的サンプリングにて,非専門職者が同行する複数名による精神科訪問看護を実施している訪問看護ステーションを選定した.研究参加者は,訪問看護ステーションの保健師または看護師(以下,訪問看護師とする),その訪問看護師と同行訪問を行う非専門職者,およびその訪問看護師と非専門職者が行う訪問看護の利用者(以下,利用者とする)とし,すべての者から研究参加への同意が得られた場合に研究参加者とした.なお,医療・福祉の専門職者ではない非専門職の看護補助者を非専門職者とする.
利用者は,①精神疾患の診断後,治療を開始してから1年以上経過している,②主治医もしくは訪問看護ステーションの管理者等により,病状が安定しており,インタビューを行うことにより病状に悪影響を及ぼさないと判断されている,③研究の趣旨を理解し,自分の意思を言語により表現できる,の選定条件をすべて満たし,本人および代諾者の同意が得られている者とした.
2. データ収集期間2017年11月~2018年3月
3. データ収集方法訪問看護師,非専門職者および利用者に対する半構成的面接をインタビューガイドに基づいて個別に行った.
訪問看護師,非専門職者および利用者に対するインタビュー内容は,それぞれ属性に関する質問,「複数名による訪問看護実施時の各職種によるケア内容」および「複数名による訪問看護実施時の職種による相違」,「訪問看護師による単独訪問時のケア内容」および「複数名による訪問看護実施時と訪問看護師による単独訪問時のケア内容の相違」とした.訪問看護師および非専門職者に対しては,「複数名による訪問看護実施時の利用者の反応(影響や効果)」,「複数名による訪問看護の実施に伴う自らの関わりおよび利用者に対する思いの変化」を追加し,利用者に対しては,「複数名による訪問看護による影響もしくは効果と利用者としての思い」,「複数名による訪問看護への今後の期待」を追加した.
4. データ分析方法インタビューによって得られたデータを逐語録に起こした後,研究参加者の訪問看護師,非専門職者および利用者のそれぞれが認識している「非専門職の看護補助者が同行する精神科訪問看護に関する認識」を表す内容について,意味のまとまりごとに区切り,ラベルを作成した.意味内容の類似性に基づいてラベルを分類し,次のレベルのラベルを作成することを繰り返すことにより質的に分析した.次に,訪問看護師,非専門職者および利用者のそれぞれについて,最終ラベルの意味を示すテーマを抽出し,抽出したすべてのテーマの関連を検討した.
5. 研究の厳密性(信頼性,妥当性)の確保カテゴリー化およびカテゴリー間の共通点,相違点について,精神科訪問看護および看護研究に精通する専門家に意見を求めた.専門家から得られた意見に基づいて,結果を精錬し,研究の厳密性を高めた.
6. 倫理的配慮本研究は,日本赤十字豊田看護大学研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号2906).研究参加候補者に,研究の趣旨,研究参加により期待される利益および研究に伴う不快,不自由,不利益,リスク等を口頭・書面を用いて分かりやすく説明し,研究への参加・協力は参加者の自由意思であることを保障した上で,研究参加への同意を文書で確認した.利用者の研究参加にあたっては,代諾者(家族等)の同意をあわせて確認した.
複数名による精神科訪問看護を実施している訪問看護ステーションのうち,非専門職者が同行訪問をしている2箇所のステーション(A, B)に勤務する訪問看護師2名と非専門職者2名,およびその訪問看護師および非専門職者が行う訪問看護の利用者2名から同意を得た.
Aステーションは,地方の県庁所在地の市内にあり,精神科訪問看護に特化している.訪問看護師として精神科看護歴約40年で精神科訪問看護歴15年程のAステーションの管理者A1氏,非専門職者として引きこもりの経験がありアルバイトで勤務しているA2氏にインタビューを行った.A1氏とA2氏が行う複数名による訪問看護の利用者であるA3氏は40歳代の独居の男性で,精神遅滞があり対人関係に困難を抱えており,ゲーム好きである.A2氏はA3氏に引きこもりの経験があることは開示していない.
Bステーションは,首都圏にあり,精神科訪問看護に特化している.訪問看護師として精神科看護歴約20年で精神科訪問看護歴3年程のBステーションの管理者B1氏,非専門職者として引きこもりの経験があり事務職で勤務しているB2氏にインタビューを行った.B1氏とB2氏が行う複数名による訪問看護の利用者であるB3氏は40歳代の男性で,母親と同居しており,統合失調症であり幻聴とつきあいながら生活をしている.B2氏はB3氏に引きこもりの経験があることを開示している.
2. 非専門職者が同行する精神科訪問看護に関する認識非専門職者が同行する精神科訪問看護に関する訪問看護師A1氏とB1氏の認識について,173のラベルが作成され,8つの最終ラベルに統合された.訪問看護師の認識のテーマを【 】,最終ラベルを[ ]で示す(表1).
【訪問看護師の認識のテーマ】 [訪問看護師の認識の最終ラベル] |
最終ラベルに含まれる下位のラベル |
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【非専門職者の挫折経験から意思と力を育む地ならし】 [苦しみや挫折を経験した人が訪問看護師のサポートを得て,自己を肯定し,他者のために生きる意思と力を育むことで,非専門職者となる地ならしができる] |
社会に適応できず,苦しみや挫折を経験した人が自己を肯定し,他者のために生きていけると感じられる地ならしができると,看護補助者として信頼できる |
訪問看護師は看護補助者との教育的な関係をつくりながら想像力や熟考する力を育み,人としての利用者という理解を促す | |
看護補助者の存在が訪問看護ステーションの経営効率に影響を与えるとしても,同じ船の中で看護補助者を全力でサポートしていく | |
【利用者の思いを人生や生活につなげるための見極め】 [利用者の希望に含まれる思いを十分に把握し,人生や生活をつないでいけるように,非専門職者による同行訪問を行う頃合いや方法,意義を見極める] |
利用者の希望に含まれる思いを十分把握し,利用者の人生の流儀や生活を崩さないように,看護補助者による同行訪問の意義を見極める |
看護補助者による同行訪問を始めるまでに,非専門職者が手を付けることと手を付けないことを考えて,支援方法を組み立てておく | |
看護補助者との同行訪問が利用者の囲い込みにならないように,頃合いを見て社会の資源につなげていく | |
【非専門職者が存在する空間での既存の制度を越えた支援】 [非専門職者による同行訪問に特有な空間を利用者と非専門職者が共有することで,これまでの医療や福祉の制度ではまかなえない利用者の生活を支える要望に応じられる] |
看護補助者による同行訪問で,これまでの医療や福祉の制度ではまかなえない利用者の生活を支える要望に応じられる |
看護補助者による同行訪問は,訪問看護師による単独,複数名の訪問とは異なる体制や呼吸,間合い,意味がある | |
看護補助者による同行訪問において,利用者の好きなことや会話をしながら時間を過ごすことで,利用者は本音や悩みを表出し,元気になる | |
【支援チームの一員として濃厚なケアを役割分担】 [非専門職者による同行訪問であっても,他の複数名訪問看護と同じく,利用者を支援するチームの一員として役割分担をすることで濃厚なケアが提供できる] |
看護補助者による同行訪問より以前から,看護職者による複数名訪問看護の有効性を認識している |
看護補助者だからということで同行訪問を行う上での特別なミッションはなく,治療の枠組みに組み込まれる | |
同行訪問の際には,看護補助者にも訪問看護師と同じように利用者との関係構築に徹し,利用者との信頼のあるつながりを築いてもらう | |
複数名訪問看護により,複数の目で利用者を見ることで利用者のイメージをお互いに伝えやすく,異なる見立てができることがある | |
看護補助者もチームのメンバーとして訪問看護師と同じように役割分担をして利用者とその家族に同時に関わることで,濃厚なケアを提供できる | |
【利用者が身近に感じ関心を抱く非専門職者の存在】 [利用者は同行訪問に来る看護補助者を身近に感じ,仲間やあこがれの存在,気がかりな存在としてとらえる] |
利用者は看護補助者を自分と同じような体験をする存在として,仲間のように思える瞬間がある |
利用者は同行訪問に来る看護補助者の存在を身近に感じ,看護補助者ができていることを見抜いてモデルケースとしてあこがれる | |
利用者は同行訪問に来る看護補助者の存在,言動,成長が気がかりで,看護補助者を気にかける言動がみられる | |
【支援者にとっての成長や継続への活力】 [非専門職者による同行訪問において複数の支援者が関わることで,利用者だけでなく非専門職者や訪問看護師にとっても成長や継続への活力につながる] |
利用者と看護補助者の双方がその関係や関わりを通して成長する姿を見ることが,訪問看護師としての新たな学びとなる |
複数名訪問看護により利用者に粘り強く関わることで,道が開けて,利用者が良くなるという経験が自らの活力になる | |
【複数名訪問による刺激で生じる精神的・経済的負担】 [非専門職者を含め複数名で訪問することは,利用者やその家族にとって刺激となり,精神的・経済的負担につながる] |
非専門職の看護補助者は専門教育を受けたわけではないので,悪気なく利用者を不快にさせてしまうことがある |
気遣いをする利用者の家族から同行訪問のたびにもてなされるため,2人で訪問すると家族の経済的負担が大きくなる | |
複数名で訪問すること自体が利用者への刺激となり,利用者やその家族の依存につながることがある | |
【非専門職者による同行訪問の弊害となる制度上の不備】 [非専門職者による同行訪問は,訪問看護の時間や訪問者の動線,収益を考えると弊害が多く,制度が整っていない] |
看護補助者は他の役割も担っており,利用者に迷惑をかけずに訪問看護師との同行訪問の時間を調整することが難しい |
看護補助者と訪問看護師は現地で待ち合わせをする場合も多く,駐車場所を含めた動線上の問題がある | |
看護補助者による同行訪問は診療報酬上の算定が大きく制限されており,看護補助者として雇用しても収益としては赤字となる |
非専門職者A2氏とB2氏の認識について,164のラベルが作成され,8つの最終ラベルに統合された.非専門職者の認識のテーマを《 》,最終ラベルを〈 〉で示す(表2).
《非専門職者の認識のテーマ》 〈非専門職者の認識の最終ラベル〉 |
最終ラベルに含まれる下位のラベル |
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《振る舞いのさじ加減が困難》 〈専門職ではない看護補助者という立場に違和感があり,具体的な振る舞いのさじ加減が難しく,本質的に求められていることが分からない〉 |
専門職ではない看護補助者という立場に違和感があり,利用者の生活の補助はしても看護の補助をしているとは思えず,他の仕事との境目がよく分からない |
同行訪問で行っていることは利用者の希望によって決まり,時期によって実施する内容が変わる | |
同行訪問で行うことは,作業の内容についての指示はあっても,具体的には看護補助者に委ねられている | |
精神の世界で,利用者との業務的なコミュニケーションとは違う関わりのさじ加減が難しく,本来求められていることが分からない | |
《仲間や隣人のような普通の人としての存在》 〈専門職ではない看護補助者として,利用者の病気にとらわれず,利用者から求められる活動を一緒に行いながら,仲間や隣人のような普通の人として接する〉 |
専門職ではない看護補助者として,利用者の疾患にとらわれず,普通の人,対等な人として接する |
利用者の病気のこと,訪問看護の間の出来事や利用者の状態の変化を詳しく知らないまま,同行訪問に行っている | |
利用者から求められる活動を,看護補助者としてできることを活かして仲間に近い立場で一緒に行う | |
看護補助者が生活の中で得意としていることを活かして同行訪問に行くことを,訪問看護師が提案する | |
利用者とはお隣さんぐらいのつもりで挨拶をし,利用者の関心を広げるような話をするという,普通の人と普通のコミュニケーションをとる | |
《利用者の空気感のなかで精神状態の悪化を避ける関わり》 〈同行訪問の際に利用者の醸し出す空気感を受けとめ,精神状態悪化のきっかけとならないように,非専門職者として適当な言動を模索しながら関わる〉 |
同行訪問の際に利用者の調子の良し悪しが分かり,利用者の雰囲気や言動から醸し出される空気感が伝わってくる |
看護補助者として利用者の思いを推し測り,きっかけとなる地雷を踏んで利用者の精神状態を悪化させないように配慮しながら関わる | |
利用者の精神状態や訪問看護師との会話の流れをみて,看護補助者として適当な言動を模索しながら関わる | |
《機会を見つけて他の支援者と情報交換》 〈同行訪問を行う訪問看護師やその他の地域の支援者と,機会を見つけて利用者の状態や非専門職者の支援内容について情報交換を行う〉 |
申し送りや移動の際に,同行訪問を行う訪問看護師に利用者の状態や訪問時の看護補助者の行動について確認する |
同行訪問の場以外でも,他の職員や地域の支援者と利用者の状態について情報交換を行う | |
《普通の関わりから感じられる利用者にとっての敷居の低さ》 〈非専門職者は利用者と同じような立場であり,医療的ではなく普通の関わりをされることで,非専門職者に対する壁があまりなく,敷居が低く感じられる〉 |
利用者は看護補助者と同じような立場であり,利用者にとって壁があまりなく,敷居が低く感じる |
訪問看護師は医療者であり,医療的な関わりをされることで,利用者が委縮して構えてしまうことがある | |
同行訪問で看護補助者が関わることにより,普通の会話ができた利用者は笑顔になる | |
看護補助者であっても訪問看護師であっても,複数名の職員で人として対応することで,利用者の心の安定につながる | |
《利用者への関わりから培える経験》 〈非専門職者として同行訪問を行うことで,利用者への関わりによる経験を培え,他の業務にも役立てられる〉 |
看護補助者として同行訪問をし,苦しんでいる利用者に関わることで,今後役に立つ経験を培える |
看護補助者として同行訪問の中で自分の好きな活動をできることが,自分にとってのメリットになる | |
同行訪問で利用者と関わることで,利用者の具体的なイメージや情報を得られ,看護補助者以外の業務にも活かせるメリットがある | |
《多様な人々との人間関係から感じられる精神的負担》 〈利用者,家族,非専門職者,訪問看護師が同席するなかで生じる馴れ合いや依存,気遣いを負担に感じる人がいる〉 |
利用者,看護補助者,訪問看護師の三者が同席するなかで,馴れ合いや依存が生じることに嫌悪感を抱く人がいる |
利用者やその家族のおもてなしが家族の経済的負担となり,看護補助者の心理的負担にもつながる | |
《非専門職者による貢献を妨げる制度上の縛り》 〈看護補助者による同行訪問には制度上の縛りがあり,非専門職者として貢献する場が制限される〉 |
看護補助者の役割以外の業務も並行して担っており,多忙や依頼件数の減少により,同行訪問に行く機会が少なくなる |
看護補助者単独で訪問して利用者の生活を支えるために活動したいと思っても,訪問看護師と時間を共有しなければならない縛りがある |
利用者A3氏とB3氏の認識について,18のラベルが作成され,1つの最終ラベルに統合された.利用者の認識のテーマを『 』,最終ラベルを「 」で示す(表3).
『利用者の認識のテーマ』 「利用者の認識の最終ラベル」 |
最終ラベルに含まれる下位のラベル |
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『明るい雰囲気の場を共有できる普通の嬉しさ』 「馴染みのある個性的な職員が複数で訪問して場を共有することで,場の雰囲気や利用者自身が明るくなり,普通に嬉しい」 |
馴染みのある個性的な職員にいつも自分の話を聞いてもらえる |
自分の好きな活動を一緒にしてもらえることは楽しく,嬉しい | |
訪問者の人数が多いほうが場の雰囲気も自分の考え方も明るくなり,普通に嬉しい |
非専門職者が同行する精神科訪問看護に関する訪問看護師,非専門職者および利用者の認識のテーマについて,それらの関連を検討し,3つの中心テーマを抽出した.中心テーマを1)~3),研究参加者の語りを斜字で示す.
訪問看護師は【非専門職者による同行訪問の弊害となる制度上の不備】,非専門職者は《非専門職者による貢献を妨げる制度上の縛り》を認識しながらも,【非専門職者の挫折経験から意思と力を育む地ならし】や【利用者の思いを人生や生活につなげるための見極め】をして,1)縛りのあるなかでの土台づくり,をしている.
そこ(看護補助者が世の中で生きるときの自尊心を持てる)まで積み上げる,いざ利用者さんの所に出動するまでの時間がかかっていますから.私は人のために生きていけると感じてもらえる地ならしというか,土づくり.(A1氏)
《仲間や隣人のような普通の人としての存在》である非専門職者であることを活かして【非専門職者が存在する空間での既存の制度を越えた支援】を行う一方,《振る舞いのさじ加減が困難》と感じながら《利用者の空気感のなかで精神状態の悪化を避ける関わり》や《機会を見つけて他の支援者と情報交換》,【支援チームの一員として濃厚なケアを役割分担】しており,非専門職者は,2)チーム員としての役割があるなかでの普通の人としての支援のさじ加減,を行っている.
(利用者との)話の中で相手が求めている何かに当たるように.求めていないことにも当たるだろうけど.その辺,こっちもフワフワしながらのほうがいいのかなと.普通をつくる感じかな.普通とは何と言われると困るけど.(A2氏)
私が発したことで状態を悪くしてしまったらどうしようというのがあるので.精神科の方は特に,何をきっかけにしてというのが分からないので,言葉遣いは気をつけるようにしていたし,そこのさじ加減が専門家ではないので分からない.(B2氏)
非専門職者の同行訪問により,《多様な人々との人間関係から感じられる精神的負担》,【複数名訪問による刺激で生じる精神的・経済的負担】があるものの,利用者には【利用者が身近に感じ関心を抱く非専門職者の存在】,《普通の関わりから感じられる利用者にとっての敷居の低さ》,『明るい雰囲気の場を共有できる普通の嬉しさ』,支援者には《利用者への関わりから培える経験》,【支援者にとっての成長や継続への活力】となり,3)複数名訪問による負担があるなかでの普通の関わりの意義,がある.
(利用者が)夢を捨ててないというところは,身近に,(看護補助者として)実際就労しているモデルケースが目の前にあるので.そういう意味ではイメージがつきやすいのかなと思っている.(B1氏)
(看護補助者と)一緒にゲームができるのが嬉しい.(A3氏)
(看護補助者の訪問を)普通に喜んだし,「ここがつらいんだ」とか(言えるので).今もそうですけど.あまり言うとまた幻聴に言われるけど.(B3氏)
2)チーム員としての役割があるなかでの普通の人としての支援のさじ加減,として示されるように,地域で生活している統合失調症をもつ人は精神的な病気の有無ではなく人としてつきあえる人間関係を築くことを望んでおり(初田・石垣,2013),非専門職者の同行訪問はその希求に応えるものと言える.海外においても,精神障碍をもつオランダのケアファームの利用者が普通の生活や社会とつながる通常の会話といったケアとは異なる環境の意義に言及しており(Hassink et al., 2010),地域生活を送る精神障碍者に専門的な医療とあわせて‘普通’の環境を提供することも支援として有意義であると考えられる.
3)複数名訪問による負担があるなかでの普通の関わりの意義,において,利用者との関係の障壁や利用者の負担となることがある一方で,利用者にとって非専門職者との関わりが身近に感じられ,支援者にとっても成長や活力となっている.他者との関わりは精神障碍をもつ人の生活のひろがりに影響し,その影響力はプラスにもマイナスにも振れるという両側面を持っており,生活を広げていく際には重要な鍵になると言われている(笹木,2016).1)縛りのあるなかでの土台づくり,で明らかとなったように,訪問看護師は人として利用者に関われるように非専門職者を育みながら,非専門職者の同行訪問が利用者にとってどのような意義があるのかを見極めることが求められる.村瀬・村瀬(2020)は,成功と失敗は共存し,失敗から学びレジリエンスを発揮することが成功の秘訣であると述べている.この循環論的な考え方から,非専門職者が同行する精神科訪問看護によって利用者にネガティブな影響が生じた場合には,共存しているポジティブな要素を捉え,同行している訪問看護師が利用者の体験を意味づけることで,利用者にとって新たな発見につながる可能性がある.専門職者だけではなく非専門職者が訪問して利用者に関わることにより,多様な視点が投入され,関わりに広がりと深まりが期待でき,利用者と支援者双方が新たな発見を得られる体験となることが考えられる.
非専門職の看護補助者が同行する精神科訪問看護に関する訪問看護師,非専門職者および利用者の認識として,1)縛りのあるなかでの土台づくり,2)チーム員としての役割があるなかでの普通の人としての支援のさじ加減,3)複数名訪問による負担があるなかでの普通の関わりの意義,の3つの中心テーマが抽出された.
調査にご協力いただいた皆様,研究計画への助言をいただいた訪問看護ステーションの皆様に深く感謝申し上げます.
なお,本研究はJSPS科研費 JP 26861959の助成を受けたものです.
MHは研究の着想およびデザイン,データ収集・分析,論文作成までの研究プロセス全体に貢献;TMは論文作成への示唆およびデータ分析を含む研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.
本研究における利益相反は存在しない.