日本精神保健看護学会誌
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原著
精神科看護職者の看護実践能力評価尺度の作成
福田 大祐森 千鶴
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2021 年 30 巻 1 号 p. 1-11

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Abstract

本研究は,精神科看護職者の看護実践能力を評価する尺度を作成し信頼性と妥当性を検討することを目的とした.文献的統合により53項目,5件法からなる質問紙原案を作成した.4つの施設に勤務する看護職者206名を対象に質問紙を配布し,有効回答は150部であった.項目分析により3項目を削除し,最尤法(Promax回転)による探索的因子分析を行った結果,13項目が削除され,全37項目,5因子が抽出された.第1因子「患者-看護師関係を形成する力」,第2因子「専門知識を活用する力」,第3因子「患者の主体性を引き出す力」,第4因子「安全なケアを意識する力」,第5因子「自己研鑽を続ける力」と命名した.全体のCronbachのα係数は0.95(下位尺度は0.76~0.91)であった.以上から,精神科看護職者の看護実践能力評価尺度として信頼性と妥当性を確認し,看護職者の自己評価や教育への活用可能性が示唆された.

Translated Abstract

The objective of this research is to develop a scale assessing the competence of psychiatric nurses. A total of 206 registered nurses and licensed practical nurses working in four psychiatric hospitals participated in this study. A five-point Likert-type scale comprising 53 items was used to assess the competence of these psychiatric nurses. This study comprised the following two phases: (a) item analysis and (b) scale’s reliability and validity evaluation by conducting an exploratory factor analysis (EFA). In total, 150 effective answers were identified. Three items were eliminated based on the results of the item analysis, and 13 items were removed on the basis of the EFA results. Finally, the scale assessing the competence for the psychiatric nurses was developed according to five factors comprising 37 items: (i) Factor 1 (patient–nurse relationship), (ii) Factor 2 (specialized knowledge), (iii) Factor 3 (recovery and health promotion), (iv) Factor 4 (safe patient care), and (v) Factor 5 (professional development). Cronbach’s alpha coefficient was 0.95 in the total score, which indicated the scale’s reliability. These results suggest that the reliability and validity of the scale assessing the competence of the psychiatric nurses have been proven. Further studies should be conducted to establish and develop psychiatric nursing education programs so that psychiatric nurses can improve their nursing competence.

Ⅰ  はじめに

我が国の看護職者には知的・倫理的側面,高度医療への対応,生活や予防を重視する視点,看護の発展に必要な資質・能力が求められている(厚生労働省,2011).また,看護職者の看護実践能力として効果的な業務遂行に必要な個人特性,知識や技術,態度等多面的要素の保持が必要とされている(高瀬ら,2011).

精神科医療では入院中心から地域,在宅中心の医療へと転換されるなか,患者が短期の入院生活で病気の再燃を防ぎ,安定した地域生活が送れるような看護が求められている(森,2016).精神疾患の特徴として,認知機能に障害を認め日常生活や社会生活に支障をきたすようになる.患者の病識の程度は治療や症状のコントロールに影響し,再発・再燃につながる.近年は,患者が疾患をコントロールし,自分が求める生き方を主体的に追求するプロセスとしてリカバリーへの支援が重視されている(尾崎ら,2018).さらに,精神疾患の病態が徐々に解明され,根拠のある看護を提供するために最新の精神医学に基づいた患者の理解が必要になる.特定行為に係る看護師の研修制度や地域包括ケアシステムの導入により,多職種チームとの連携,地域での生活を見据えた支援も看護職に求められている.

諸外国では先行研究によると,精神科看護職者の看護実践能力として患者-看護師関係や専門知識,医療安全,ヘルスプロモーション等の要素が必要とされている(Kane, 2015RPNRC, 2014).看護実践能力を評価する尺度(Moskoei et al., 2017Bondy et al., 1997)も作成され,知識や批判的思考等の評価に使用されている.我が国では田嶋・山田(2014)により,効果的な看護実践を導く精神科看護職者の思考や行動の特性として,アセスメントや援助行動,援助の基盤等が報告されている.一方,我が国の精神科入院患者数や平均在院日数は諸外国と比べ多く,精神科医療の在り方も異なることから独自の看護実践能力について検討する必要がある.そこで,本研究により精神科看護職者に求められる看護実践能力を明らかにし評価尺度を作成することで,看護職者の自己評価や教育,また患者の主体的な生活を支援するためのツールとして活用が期待されると考えた.

Ⅱ  研究目的

本研究の目的は,精神科看護職者の看護実践能力を評価する尺度を作成し,信頼性と妥当性を検討することである.

Ⅲ  用語の操作的定義

1. 精神科看護職

精神科看護職とは,看護師または准看護師の免許をもち精神科医療施設において看護を実践する者である.精神科病院に勤務する准看護師の割合は一般病院と比べ高く,竹渕ら(2013)は職種間で職業的アイデンティティ(看護師であることや働くことの意味の観念に関連した主観的な感覚)に差を認めなかったことを報告している.そのため,本研究では2つの職種を看護職として定義した.

2. 看護実践能力(Nursing Competence)

看護実践能力とは,看護実践における専門的責任を果たすために必要な個人特性,専門的姿勢・行動,そして専門知識と技術に基づいたケア能力という一連の属性を発揮できる能力である(高瀬ら,2011).

Ⅳ  研究方法

1. 尺度原案の作成

精神科看護職者の看護実践能力の要素を抽出するために文献的統合(Walker, & Avant, 2005/2008)を行った.精神科看護職者の看護実践能力に関する研究は1997年以降に行われており(Bondy et al., 1997),1997年~2019年の期間の文献検索を行った.データベースとして,欧文はPubMedとCINAHL,Google Scholarを,和文は医学中央雑誌を用いた.欧文は,{nurse (ing) and competence (y) (ies) and psychiatric (y) or mental health and scale or measure (ment) or instrument}の検索ワードの組み合わせで該当した入手可能な文献2,135件(内,PubMedは83件,CINAHLは2件,Google Scholarは2,050件)が検索された.また和文では{看護師and実践能力and精神科}の検索ワードの組み合わせで検索した文献4件が検索された.解説・総説,会議録,主な内容が精神科看護職者の看護実践能力について述べられていない論文は除外した.最終的に,テーマや抄録内容等から,欧文14件(Chen et al., 2018Moskoei et al., 2017Cusack, Killoury, & Nugent, 2017Kane, 2015Fung, Chan, & Chien, 2014RPNRC, 2014Ewalds-Kvist et al., 2012Tanioka et al., 2011Tenkanen et al., 2011Haspeslagh, Delesie, & Igodt, 2008Kirby et al., 2004Clasen et al., 2003Ryan-Nicholls, 2003Bondy et al., 1997),和文4件(藤代・野嶋,2019関根ら,2015渡辺・阿保・佐久間,2015田嶋・山田,2014)を採用し,操作的定義をもとに看護実践能力の要素を抽出した.抽出された要素は,「患者-看護師関係」「専門知識」「チーム医療」「医療の質と安全」「リカバリー」「ヘルスプロモーション」「人権擁護」「倫理的・専門的・法的責任」「自己研鑽」であった.次に,各要素と関連するキーワードや文脈をもとに,類似した内容を集合させ質問項目を作成した.内容的妥当性は精神看護学を専門とする大学教員2名で行い,表現の明確性,質問項目配列の適切性,解答のしやすさを検討し,尺度構成のための準備項目として53項目の質問紙を作成した.程度を問う選択肢の表現は,「とてもそう思う(5点)」「そう思う(4点)」「どちらでもない(3点)」「あまりそう思わない(2点)」「まったくそう思わない(1点)」の5段階で構成した.さらに,精神科医療施設において10年以上の看護経験のある看護職者2名にプレテストを行い,質問項目の妥当性を再検討し,尺度原案を作成した.

2. 尺度の信頼性・妥当性の検討

1) 対象者

関東地方の4つの精神科医療施設に勤務する看護師または准看護師,206名を対象とした.サンプルサイズは項目間相関を0.3と予想し相関係数の95%信頼区間の幅を±0.15として150名程度が必要であると推定した(石井,2012).本研究では,基準関連妥当性を確認するために看護師および准看護師を調査対象とした.

2) 調査方法

各調査施設の看護責任者に調査の説明を行い,承諾を得てから対象者への質問紙の配布を依頼した.無記名自記式の質問紙を用い倫理的配慮について明記した説明文書と封筒を同封した.調査用紙は施設ごとに回収袋で回収し留置期間は2週間とした.調査期間は2019年11月から2020年3月までの5か月間であっ‍た.

3) 調査内容

(1) 対象者の属性

職種,性別,年齢,看護職の経験年数等を調査した.

(2) 精神科看護職者の看護実践能力評価尺度原案

文献的統合により作成した53項目,5件法から成る尺度である.本尺度は,合計得点を53~265点の範囲で評価し,得点が高いほど精神科看護職者としての看護実践能力が高いことを意味する.

(3) 看護実践能力自己評価尺度(Clinical Nursing Competence Self-Assessment Scale; CNCSS)

丸山ら(2011)により開発された一般の看護師の看護実践能力を測定する尺度で64項目,4件法で構成され,合計得点を64~256点の範囲で評価する.下位尺度は「看護の基本に関する実践能力」「健康レベルに対応した援助の展開能力」「ケア環境とチーム体制の調整能力」「看護実践のなかで研鑽する能力」であり信頼性と妥当性が確認されている.得点が高いほど看護実践能力が高いことを意味する.

4) 分析方法

(1) 項目分析

項目分析では,天井効果および床効果,I-T(Item-Total)相関,項目間相関を確認した.天井効果および床効果は各項目の平均±標準偏差(点)を確認し,I-T相関分析は0.3未満を削除基準とした.項目間相関分析は0.7以上を示す場合,項目のどちらか一方を削除した(小塩,2019).

(2) 妥当性の検証

構成概念妥当性を確認するため,項目分析により抽出された項目の探索的因子分析(最尤法,Promax回転)を実施した.Kaiser-Meyer-Olkinの標本妥当性の測定とBartlettの球面性検定を行い,尺度が因子分析に適合しているか確認した.尺度作成の選択基準は,共通性0.16以上1未満,固有値1.0以上とし,同一因子への因子負荷量が0.4未満の項目と複数の質問項目に対して高い因子負荷量(0.3以上)を呈する項目は削除対象とした(小塩,2019).項目を削除するごとに因子分析を繰り返し,抽出された因子構造の内容を解釈し命名した.適合度の評価は,RMSEA(Root Mean Square Error of Approximation)とCMIN/DF(カイ2乗値/自由度)を算出した.適合度の評価基準はRMSEAは0.08以下,CMIN/DFは3以下とした(Schermelleh-Engel, Moosbrugger, & Müller, 2003).基準関連妥当性については,職種間の各尺度得点の差をMann-WhitneyのU検定により分析した.併存的妥当性については,本尺度とCNCSSとの得点のSpearmanの相関係数を求めた.

(3) 信頼性の検証

Kolmogorov-Smirnovの検定により尺度得点の正規性を確認し,Cronbachのα係数とSpearman-Brownの係数を算出して尺度の内的整合性を確認した.各質問項目を除外した場合のα係数の変化が0.1以上は削除対象とし,信頼性係数の基準は0.7以上とした(Cronbach, 1951).データの統計解析には,統計ソフトIBM SPSS Statistics 26 for Windowsを使用し,有意水準は5%とし‍た.

3. 倫理的配慮

本研究は常磐大学研究倫理委員会にて承認を得てから実施した(承認番号100104).対象者には研究の趣旨と方法,調査協力は任意性であり,無記名のため個人が特定されないこと,結果を論文等で公表すること,データは論文等の発表から10年間保存し適切に管理すること,質問紙への回答の中断を保証した説明文書を添付した.また,質問紙に研究への参加意思を確認するためのチェック欄を設け研究協力の同意を得た.

Ⅴ  結果

1. 対象者の属性

回収された質問紙は151部(回収率73.3%)で,すべての質問項目に回答されていたものは150部(有効回答率72.8%)であった.表1に示した通り,職種は看護師が135名(90.0%)と多く,精神科看護職の経験年数は平均12.5 ± 10.1(標準偏差)年であった.配属は精神科救急と急性期病棟に勤務する者を合わせると61名(40.7%)と多く,次いで療養・慢性期病棟が36名(24.0%)であった.

表1 対象者の属性 n = 150
n %
職種 看護師 135 90.0
准看護師 15 10.0
性別 女性 79 52.7
男性 71 47.3
年齢 20代 12 8.0
30代 39 26.0
40代 58 38.7
50代 31 20.7
60代 9 6.0
不明 1 0.6
看護職の経験年数 5年未満 8 5.3
5~10年未満 35 23.3
10~15年未満 22 14.7
15~25年未満 40 26.7
25年以上 43 28.7
不明 2 1.3
精神科看護職の経験年数 5年未満 39 26.0
5~10年未満 33 22.0
10~15年未満 17 11.3
15~25年未満 42 28.0
25年以上 16 10.7
不明 3 2.0
所属部署 精神科救急 28 18.7
精神科急性期 33 22.0
療養・慢性期 36 24.0
児童・思春期 11 7.3
医療観察法 18 12.0
外来・訪問看護 8 5.3
その他 16 10.7
学歴 専門学校 132 88.0
短期大学 7 4.7
4年制大学(大学院含む) 9 6.0
不明 2 1.3

2. 項目分析

表2に示した通り,平均値が高い項目は順に項目5,38,1であり,低い項目は項目22,21,23であった.天井効果(平均値+標準偏差>5)が項目5(平均4.43 ± 0.63点)に認められ削除した.床効果(平均値-標準偏差<1)は認められなかった.I-T相関では,全項目0.3以上の相関を認めた(p < 0.05).項目間相関では,項目10と11(r = 0.74),項目43と44(r = 0.72)の2ペアが確認された.質問項目の類似性が考えられ質問の意味内容を包括的に捉えている項目11,44を採用した.

表2 精神科看護職者の看護実践能力評価尺度原案(53項目)と項目分析 n = 150
平均 標準偏差 項目間相関 I-T相関
(最小) (最大)
1. 患者や家族に自己紹介をしている 4.22 ± 0.74 0.04 0.48 0.48
2. 精神看護への興味や関心がある 4.10 ± 0.73 0.02 0.47 0.42
3. 看護職者としての基本姿勢と態度を理解している 4.03 ± 0.59 0.14 0.56 0.55
4. 患者の個人の尊厳と権利を擁護している 4.14 ± 0.61 0.11 0.55 0.53
5. 看護職者としての守秘義務や責任を理解している 4.43 ± 0.63 0.05 0.55 0.49
6. 看護ケアを行う際,インフォームドコンセントを得ている 4.07 ± 0.65 0.16 0.54 0.54
7. 患者と治療的な関係を築いている 3.84 ± 0.65 0.16 0.67 0.67
8. 精神症状の悪化の予防や早期発見に努めている 4.03 ± 0.61 0.13 0.61 0.61
9. 患者のニーズに応じた看護を行っている 3.80 ± 0.67 0.18 0.63 0.63
10. 患者のセルフケア能力の維持や向上を図っている 3.94 ± 0.58 0.13 0.74 0.56
11. 患者の健康的な側面が引き出せるようにしている 3.93 ± 0.57 0.22 0.74 0.65
12. 患者の状態に応じ,臨機応変に対応している 4.13 ± 0.54 0.15 0.58 0.58
13. 患者の精神的安寧が保てるようにしている 4.04 ± 0.55 0.22 0.65 0.64
14. 患者が自分の思いや感情を表出できるように支援している 4.00 ± 0.55 0.12 0.60 0.48
15. 患者の否認や退行,抑圧などの心理を理解するようにしている 3.86 ± 0.53 0.10 0.57 0.54
16. 気づいたことは,些細なことであっても記録し,報告している 3.91 ± 0.62 0.12 0.49 0.49
17. 精神看護に必要な理論やモデルを活用している 3.24 ± 0.70 0.03 0.60 0.56
18. 精神科医療にかかわる法律を理解している 3.60 ± 0.68 0.06 0.57 0.50
19. 精神科における薬物療法を理解している 3.69 ± 0.67 0.08 0.57 0.49
20. 精神疾患の病態生理に基づいた看護を行っている 3.60 ± 0.63 0.09 0.58 0.58
21. 文献を活用し,最新の知見に基づいた看護を行っている 3.06 ± 0.70 0.01 0.64 0.51
22. 精神疾患の診断や治療法について,最新の知識を習得している 3.04 ± 0.76 0.03 0.64 0.59
23. 心理検査や認知機能検査の結果を活用している 3.20 ± 0.78 0.03 0.54 0.52
24. フィジカルアセスメントの技術を生かしている 3.47 ± 0.72 0.15 0.52 0.52
25. チームのスタッフと患者の治療方針を確認している 3.86 ± 0.75 0.22 0.67 0.67
26. チームのスタッフとお互いの長所や短所を補い合っている 3.74 ± 0.75 0.13 0.65 0.57
27. チームの中で,看護専門職としての役割を明確にしている 3.62 ± 0.72 0.19 0.65 0.64
28. チームのスタッフと良好な関係を築いている 3.98 ± 0.70 0.04 0.60 0.46
29. 困った時はチームのスタッフへ助けを求めている 4.14 ± 0.62 0.01 0.68 0.54
30. 安全な医療について,チームのスタッフと対策を立てている 4.07 ± 0.58 0.07 0.68 0.55
31. 必要な時は,患者にカンファレンスへの参加を促している 3.38 ± 0.99 0.01 0.45 0.45
32. 患者の人権に配慮した環境を提供している 3.81 ± 0.64 0.09 0.52 0.52
33. 行動制限を行う際,患者にその必要性を説明している 4.09 ± 0.62 0.10 0.59 0.48
34. 行動制限は,必要最小限にとどめるようにしている 4.10 ± 0.64 0.15 0.59 0.56
35. 患者の自殺や自傷他害,無断離院など精神科に特有のリスクを予防している 4.12 ± 0.55 0.18 0.61 0.61
36. 急変時には迅速に対応できるようにしている 4.01 ± 0.64 0.14 0.64 0.62
37. 災害が発生した際,優先度を考えながら行動できるように備えている 3.76 ± 0.70 0.14 0.67 0.67
38. 処方された薬剤を適切に投与している 4.23 ± 0.59 0.01 0.53 0.43
39. 医療機器の取り扱いはマニュアルを順守している 3.92 ± 0.69 0.08 0.61 0.51
40. 患者が地域で自立した生活が送れるよう他職種のスタッフと支援している 3.90 ± 0.73 0.13 0.59 0.59
41. 患者が自身のストレスに対処できるようにかかわっている 3.81 ± 0.62 0.08 0.66 0.58
42. 患者が自らの健康を管理できるよう支援している 3.82 ± 0.64 0.10 0.69 0.62
43. 患者が持つ強みを最大限に発揮できるよう支援している 3.72 ± 0.71 0.18 0.72 0.64
44. 患者が人生を主体的に生きていくことができるよう支援している 3.59 ± 0.73 0.21 0.72 0.68
45. 患者が自身の病気と治療を理解できるよう支援している 3.78 ± 0.64 0.21 0.69 0.69
46. 患者が服薬を継続できるよう教育的にかかわっている 3.82 ± 0.67 0.07 0.55 0.46
47. 患者に社会資源の情報を提供している 3.46 ± 0.79 0.02 0.48 0.46
48. 看護場面を振り返り,次の看護に生かしている 3.85 ± 0.61 0.18 0.61 0.61
49. 自分の感情をコントロールしながら行動している 4.03 ± 0.68 0.16 0.57 0.57
50. 不適切な質問やハラスメントを受けた際,信頼できる人に相談している 3.66 ± 0.91 0.07 0.57 0.50
51. 自分自身の健康を保てるようにしている 3.84 ± 0.83 0.12 0.57 0.52
52. 自分に必要な経験や学習の機会を得て,自己の目標を達成するようにしている 3.72 ± 0.77 0.20 0.68 0.57
53. 自発的に研修や学会へ参加し,看護の専門性を高めている 3.54 ± 0.82 0.14 0.68 0.53

回答方法:5件法「とてもそう思う(5点)」「そう思う(4点)」「どちらでもない(3点)」「あまりそう思わない(2点)」「まったくそう思わない(1点)」

3. 妥当性の検証

構成概念妥当性の検証では,項目分析により3項目を削除し50項目で因子分析を行った.Kaiser-Meyer-Olkinの標本妥当性の測定は0.885,Bartlettの球面性検定はp < 0.001であり因子分析に適合していることを確認した.スクリープロットより5因子構造を仮定し,同一因子への因子負荷量が0.4未満の項目48(0.30),49(0.27),16(0.21)を削除した.因子分析を繰り返し,同一因子への因子負荷量が0.4未満の項目47(0.38),53(0.37),31(0.31)を削除した.また,複数の項目に0.3以上の因子負荷量を呈した項目36(0.33~0.70),24(0.32~0.49),1(0.31~0.46),26(0.33~0.46),25(0.31~0.45),28(0.31~0.40),37(0.32~0.40)を削除した.最終的に計37項目で因子分析を行い,5因子が抽出され「精神科看護職者の看護実践能力評価尺度」として作成した(表3).文献的統合により抽出した要素のうち,第1因子には「患者-看護師関係」「人権擁護」に関連した質問項目が集結した.第2因子には「専門知識」が,第3因子には「リカバリー」「ヘルスプロモーション」が,第4因子には「チーム医療」「医療の質と安全」が,第5因子には「自己研鑽」が集結した.「倫理的・専門的・法的責任」の要素は各因子に分散していた.因子の特徴として,第1因子には看護職としての基本姿勢や態度,人権の尊重,治療的な関係等,患者との関係性に関する項目が集結しており『患者-看護師関係を形成する力』と命名した.第2因子には精神疾患や治療,検査の知識,看護職の役割等,専門的な知識に関する項目が集結しており『専門知識を活用する力』と命名した.第3因子には患者の疾患の理解や管理,地域での自立した生活等,患者の自己管理や主体的な生活への支援に関する項目が集結しており『患者の主体性を引き出す力』と命名した.第4因子には医療安全や行動制限,チームとの協働等に関する項目が集結しており『安全なケアを意識する力』と命名した.第5因子には看護職者の健康管理,継続的な学習等に関する項目が集結しており『自己研鑽を続ける力』と命名した.適合度の評価ではRMSEAは0.06,CMIN/DFは1.38であり一定のモデル妥当性を確認した.基準関連妥当性では尺度の合計得点を比較し,看護師は平均141.7 ± 14.4点,准看護師は平均140.0 ± 14.3点であり有意差は認められなかった.併存的妥当性では,表4に示した通り,本尺度の合計得点とCNCSSの合計得点には強い相関(r = 0.76, p < 0.01)が認められた.各下位尺度には中等度の相関(r = 0.45~0.64, p < 0.01)が認められ,両尺度の関連性が確認された.

表3 精神科看護職者の看護実践能力評価尺度の探索的因子分析の結果 n = 150
第1
因子
(I)
第2
因子
(II)
第3
因子
(III)
第4
因子
(IV)
第5
因子
(V)
Cronbach
α係数
全体
0.95
因子負荷量
第1因子『患者-看護師関係を形成する力』
 11. 患者の健康的な側面が引き出せるようにしている 0.76 0.08 0.10 –0.02 –0.12 0.91
 13. 患者の精神的安寧が保てるようにしている 0.74 –0.04 –0.10 0.11 0.12
 12. 患者の状態に応じ,臨機応変に対応している 0.70 –0.05 –0.11 0.11 0.02
 14. 患者が自分の思いや感情を表出できるように支援している 0.70 –0.10 0.07 –0.04 0.05
 8. 精神症状の悪化の予防や早期発見に努めている 0.69 0.07 0.10 0.09 –0.27
 3. 看護職者としての基本姿勢と態度を理解している 0.68 –0.00 0.00 0.11 –0.14
 4. 患者の個人の尊厳と権利を擁護している 0.65 –0.03 0.06 0.04 –0.06
 15. 患者の否認や退行,抑圧などの心理を理解するようにしている 0.63 0.06 0.05 –0.15 0.07
 7. 患者と治療的な関係を築いている 0.61 0.05 0.02 0.09 0.05
 9. 患者のニーズに応じた看護を行っている 0.58 0.06 0.29 –0.19 0.05
 6. 看護ケアを行う際,インフォームドコンセントを得ている 0.53 0.18 –0.16 0.14 –0.02
 2. 精神看護への興味や関心がある 0.46 0.10 –0.14 0.04 0.08
第2因子『専門知識を活用する力』
 22. 精神疾患の診断や治療法について,最新の知識を習得している –0.07 0.82 0.12 –0.09 0.00 0.88
 21. 文献を活用し,最新の知見に基づいた看護を行っている –0.05 0.76 0.03 –0.12 0.06
 19. 精神科における薬物療法を理解している 0.09 0.66 –0.20 0.16 0.01
 17. 精神看護に必要な理論やモデルを活用している 0.12 0.65 –0.02 –0.20 0.17
 23. 心理検査や認知機能検査の結果を活用している –0.06 0.64 0.10 –0.04 0.01
 20. 精神疾患の病態生理に基づいた看護を行っている 0.22 0.64 –0.10 –0.00 0.03
 18. 精神科医療にかかわる法律を理解している 0.02 0.63 –0.02 0.17 –0.14
 27. チームの中で,看護専門職としての役割を明確にしている 0.06 0.41 0.12 0.22 0.02
第3因子『患者の主体性を引き出す力』
 42. 患者が自らの健康を管理できるよう支援している 0.11 –0.18 0.82 –0.02 0.09 0.88
 41. 患者が自身のストレスに対処できるようにかかわっている –0.01 –0.07 0.80 0.03 0.04
 44. 患者が人生を主体的に生きていくことができるよう支援している 0.07 0.10 0.72 –0.13 0.13
 40. 患者が地域で自立した生活が送れるよう他職種のスタッフと支援している –0.29 0.14 0.69 0.28 –0.02
 32. 患者の人権に配慮した環境を提供している –0.01 0.17 0.63 0.07 –0.27
 45. 患者が自身の病気と治療を理解できるよう支援している 0.14 –0.04 0.62 0.04 0.13
 46. 患者が服薬を継続できるよう教育的にかかわっている –0.01 –0.01 0.51 0.14 –0.01
第4因子『安全なケアを意識する力』
 35. 患者の自殺や自傷他害,無断離院など精神科に特有のリスクを予防している –0.01 0.14 0.02 0.71 –0.02 0.86
 39. 医療機器の取り扱いはマニュアルを順守している –0.11 0.09 0.03 0.67 0.07
 38. 処方された薬剤を適切に投与している 0.11 –0.24 0.07 0.65 –0.05
 33. 行動制限を行う際,患者にその必要性を説明している 0.03 –0.01 0.10 0.62 –0.07
 34. 行動制限は,必要最小限にとどめるようにしている 0.03 –0.03 0.06 0.59 0.14
 30. 安全な医療について,チームのスタッフと対策を立てている 0.18 –0.04 0.05 0.54 0.06
 29. 困った時はチームのスタッフへ助けを求めている 0.17 –0.11 –0.05 0.51 0.26
第5因子『自己研鑽を続ける力』
 50. 不適切な質問やハラスメントを受けた際,信頼できる人に相談している –0.06 0.02 0.03 0.01 0.74 0.76
 51. 自分自身の健康を保てるようにしている –0.08 0.07 0.02 0.15 0.71
 52. 自分に必要な経験や学習の機会を得て,自己の目標を達成するようにしている 0.19 0.13 0.06 0.06 0.40
回転後の負荷量平方和 10.69 7.49 8.67 7.70 5.13
累積寄与率 33.95 40.98 45.75 48.73 51.51
因子間相関
0.58 0.60 0.60 0.46
0.44 0.30 0.36
0.54 0.50
0.34

最尤法(Promax回転)

表4 精神科看護職者の看護実践能力評価尺度の因子と看護実践能力自己評価尺度(CNCSS)の下位尺度との関連 n = 150
看護実践能力自己評価尺度(CNCSS)
看護の基本に
関する
実践能力
健康レベルに
対応した
援助の展開能力
ケア環境と
チーム体制の
調整能力
看護実践の
なかで
研鑽する能力
合計得点
患者-看護師関係を形成する力 0.61** 0.53** 0.45** 0.45**
専門知識を活用する力 0.48** 0.54** 0.53** 0.56**
患者の主体性を引き出す力 0.57** 0.54** 0.53** 0.50**
安全なケアを意識する力 0.64** 0.62** 0.57** 0.45**
自己研鑽を続ける力 0.56** 0.50** 0.48** 0.53**
合計得点 0.76**

Spearman相関係数 *p < 0.05 **p < 0.01

4. 信頼性の検証

尺度37項目の合計得点(185点満点)は平均141.5 ± 14.4点(範囲100~176)でありKolmogorov-Smirnovの検定において正規性を確認した(D = 0.07, p = 0.10).尺度の全体のCronbachのα係数は0.95,Spearman-Brownの係数は0.81であり,下位尺度ごとのα係数は0.76~0.91であった(表3).各質問項目を除外した場合のα係数の変化は0.945~0.947であり,削除項目は認められなかった.CNCSSの全体のα係数は0.97であり,下位尺度ごとのα係数は0.89~0.95であった.

Ⅵ  考察

1. 項目分析について

平均値の低い項目は,最新の知識の習得(項目22),文献(項目21)や心理検査等の活用(項目23)であった.これらは,より専門的な知識や経験を必要とする能力である.そのため,対象者の属性との関連について今後検討していく必要性が考えられた.天井効果を認めた項目5「守秘義務や責任」は看護職者の倫理として項目3「基本姿勢と態度」の質問にも含まれると考えられ,また項目間に中等度の相関(r = 0.43, p < 0.01)が認められたことから削除した.項目間相関は2ペアに認められた(r≧0.7).項目10「セルフケア能力の維持・向上」と11「健康的な側面の援助」については以下のように検討した.山下(2017)は,セルフケア行動には食事や睡眠,精神症状,健康を管理し活動と休息のバランスを維持して心身の健康状態の維持・向上をはかることが必要であると述べている.患者の健康的な側面に着目し,健康の管理や維持・向上を支援することが重要であると考えられ項目11を採用した.項目43「患者が持つ強みへの支援」と44「患者が主体的に生きていくことへの支援」については以下のように検討した.千葉ら(2018)は,リカバリーの支援ではストレングス志向をもち患者のチャレンジを支援する専門職としての考え方やスキルが大切であると述べている.患者のストレングスに基づいて主体的な生活を支援することでリカバリーの促進につながることから(Xie, 2013),質問の意味内容を包括的に捉えている項目44を採用した.

2. 本尺度の妥当性について

構成概念妥当性では,尺度原案を50項目で因子分析し選択基準に沿って項目を削除した結果,37項目,5因子が抽出された.また,下位尺度の構成概念は文献的統合により抽出した要素を基盤に説明することができ妥当性が確保されていると判断した.第1因子の特徴として,患者-看護師関係を形成するために,患者の人権を擁護する態度を理解し,心理的な介入を含めた看護ケアを行う能力が求められていると考えられた.第2因子は,専門職としての役割を理解し,精神医学および精神看護に関する専門知識を習得し,活用することで根拠に基づいた看護を提供する能力が求められていると考えられた.第3因子は,患者が生活への主体性を引き出すために,リカバリーの視点から治療について自己決定できるよう自立した生活を支援していく能力,またヘルスプロモーションの視点から患者が疾患を理解して健康を保持・増進できるよう支援する能力が求められていると考えられた.成田・小林(2017)は統合失調症者のリカバリーの支援として,体調や服薬の主体的な管理により病状を安定させながら地域社会のなかで相互関係を構築するプロセスに寄り添うことが重要であると述べている.そのため第3因子は,我が国の精神科看護職者に求められる必要不可欠な能力を示していると考えられた.第4因子は,医療安全や行動制限についてチームで共有し,安全なケアの提供に努めていく能力が求められていると考えられた.第5因子は,専門職として研鑽を続けるために,自らも健康を管理し,自己の目標を達成できるよう努めていく能力,また人権を阻害されるような他者からの質問等に対し自ら相談できる能力が求められていると考えられた.さらに看護実践能力の操作的定義について,精神科看護職者の個人特性としては精神看護への興味・関心をもち患者との治療的な関係を築いていくこと,専門的姿勢・行動としては患者の人権を尊重し安全なケアを提供していくこと,また自己の専門的成長を促進していくこと,専門知識と技術としては最新の知識や根拠に基づいた看護とリカバリーの視点から患者の主体的な生活を支援していくことが関連すると考えられた.適合度の評価では,RMSEAは“accepted fit”,CMIN/DFは“good fit”の範囲であり(Schermelleh-Engel et al., 2003),概ね良好であると判断した.基準関連妥当性では,看護師と准看護師の合計得点に有意差は認められなかった.本研究では,2つの職種をまとめて分析したが,今後は職種による看護実践能力の特徴を検討していく必要がある.併存的妥当性では,CNCSSの概念(コンピテンス)として,第1因子は「看護の基本に関する実践能力(基本的責務と倫理的実践,援助的人間関係)」,第2因子は「健康レベルに対応した援助の展開能力(ケアの評価やヘルスプロモーション等)」,第3因子は「ケア環境とチーム体制の調整能力(リスクマネジメントや役割遂行等)」,第4因子は「看護実践のなかで研鑽する能力(専門性の向上と質の改善,継続学習)」で構成されており(丸山ら,2011),本尺度の因子の構成概念と関連性があると考えられた.一方,各下位尺度に中等度の相関を認めたが,質問内容に相違がみられた.特に精神科では患者の健康的な側面を引き出すことや精神症状の悪化を予防していくことは患者との関係性において必要な能力となる.また,精神疾患の診断や治療等の専門知識を活用すること,リカバリーの視点から患者の主体性を引き出していくこと,精神科に特有なリスクの予防や行動制限最小化に努めていくことも期待される.このような精神科に独自の看護実践能力の評価として本尺度を用いることは有用であると考えられた.

3. 本尺度の信頼性について

本尺度の合計得点には正規性が確認され,信頼性係数は尺度全体および下位尺度において0.7以上であり,内的整合性は保たれていると考えられた.

4. 研究成果の活用と今後の課題

本尺度は信頼性と妥当性を保つ尺度であることが確認され,尺度を活用することで,主に入院中の患者の看護に携わる精神科看護職の看護実践能力を評価し,自己の能力や課題に応じた段階的な教育に活用することができると考えられる.

本研究の限界と課題として,因子分析は調査項目の5~10倍の対象者数が必要とされている.本研究ではモデルが成立したため追加調査は実施しなかったが,今後,対象者数を増やすとともに,再テスト法による調査も行っていくことが課題と考える.看護師と准看護師の尺度の合計得点に差が認められなかったことから,職種による看護実践能力の弁別に課題があると考えられ,対象者の属性を含めた看護実践能力について分析,検討していく必要がある.さらに,看護実践能力を高めていくための教育方法ついても考えていきたい.

Ⅶ  結論

精神科看護職者の看護実践能力評価尺度を作成することを目的に,4施設に勤務する精神科看護職者を対象に自記式質問紙調査を行った.その結果,37項目,5下位尺度から成る本尺度の信頼性と妥当性が確認された.

謝辞

本研究にご協力くださいました各施設の看護職の皆様に深く感謝申し上げます.

利益相反

本研究において利益相反は存在しない.

著者資格

DFとCMは研究の着想およびデザイン,評価尺度の検討,原稿の作成,またDFはデータ収集と分析,CMは評価項目原案の検討,分析結果の検討に貢献した.最終原稿をすべての著者が読み,承認した.

文献
 
© 2021 日本精神保健看護学会
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