日本精神保健看護学会誌
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原著
困難に陥った一般病棟看護チームのレジリエンス表出による回復のプロセス
柏 美智
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2021 年 30 巻 1 号 p. 29-39

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Abstract

本研究は,困難に陥った一般病棟看護チームのレジリエンス表出による回復のプロセスを記述することを目的とした.看護師経験が6か月以上で,一般病棟に勤務する常勤看護師20名を対象に半構造化面接を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチの手法に基づき分析した.

困難に陥った一般病棟看護チームのレジリエンス表出による回復のプロセスは,【混迷】の中でチームが粘り強く耐えて【模索】し始めることで,看護師個々の相互関係を【醸成】し,さらにチームとして【強化】することで,安心空間の創出という【変容】に至るプロセスをたどったと解釈された.これら5局面において,【醸成】における〔対話の成立〕の有無がその後の【変容】にまでつながる契機となり,チームは相互作用を高めながらレジリエンスを表出して回復すると考察された.このプロセスにおいて,省察の場,つながりを求めること,経験知を蓄積していくことの重要性が示唆された.

Translated Abstract

The purpose of this study was to describe the process of recovery by resilience expression in a general ward nursing team facing difficulties.

We conducted semi-structured interviews with 20 full-time nurses who were working in general wards and had been working as nurses for at least 6 months, and then analyzed them based on the Modified Grounded Theory Approach.

The process of recovery by resilience expression in a general ward nursing team facing difficulties was interpreted to involve [exploring] persistently through [confusion] to [nurture] the interactions between individual nurses to become further [stronger] as a team in order to arrive at a [transformation] in a newly created “safe space.” Within these 5 aspects of teamwork, the presence of “effective dialogue” within [nurturing] was key to the subsequent [transformation], suggesting that the team increased their interactions to express resilience, thereby leading to recovery.

A place for reflection, seeking connectedness, and accumulating experiential knowledge were suggested as important aspects of this process.

Ⅰ  緒言

今日の医療現場は,医療技術の開発に伴う多様な検査や複雑な治療の実施により,患者には微細な医療的管理が行われ,常に緊急性と正確性が要求されて,看護師にとっても看護チームにとっても大変緊張に満ちた現場である.看護業務は多忙を極め,医療事故の危険性を常に孕んでいる(上國料・舟島,2019).一方,看護チームには看護師同士の人間関係,他職種との連携や患者と家族へのケアという点においても困難を生じる可能性があり,チーム内の相互関係のありようによっては,患者のケアの質が左右されたり(山品・舟島・中山,2017),看護師の離職につながったりする.したがって,このような困難に直面した看護チームが,レジリエンスを備えて大事にならないように,困難に耐える抵抗性や弾力性を保って回復していくことは重要と思われる.

そもそもレジリエンスは,破損や亀裂をせずに跳ね返して回復するというストレスに耐える物理的な物質の考え方に由来する概念である(Masten, & Gewirtz, 2006).現在では,危機や困難からの「回復力もしくは復元力」として個人にも集団にも使われている概念であり,看護チームの困難からの回復過程にも適用できると思われる.先行研究では,Grotberg(2003)の「レジリエンスは誰もが保有し,どの年代の人も伸ばすことができ,それは環境や体験によって変化し表出されるもの」という定義が心理学や教育学の分野で多く用いられている.看護学分野では,砂見(2018)が先行研究の概念分析から,「逆境に直面したときに回復しようとする看護師個人に内在する特性や,その過程,結果であり,変化もしくは促進できる可能性を備えているもの」と結論付け,「看護師が深刻な逆境を経験しながらも,職場に適応し,さらに成長を遂げていくプロセスに適用できる」と示唆している.關本・亀岡・冨樫(2013)も,「レジリエンスは看護師の精神的負担の軽減,職務継続,職場の協働の引き上げと関連がある」と指摘している.一方,チームレジリエンスに関する研究では,Morgan, Fletcher, & Sarkar(2013)がチームレジリエンスの特性について,グループ構造・熟達アプローチ・社会資源・集団的効力感という構成要素を示している.また,Vera, Rodríguez-Sánchez, & Salanova(2017)は,チームレジリエンスの促進資源として,集団的効力感・変革的リーダーシップ・チームワーク・組織的実践を明らかにしている.他方,看護学では,個人に最も身近な集団として,高橋(2013)が家族レジリエンスの概念分析から,その定義を「危機的状況の中での家族の相互理解を促進させ,家族関係の再組織化とともに対処行動の変化をもたらして,家族機能再構築へと成長するプロセス」としている.

レジリエンスの定義は,研究テーマや研究者によって多少異なるが,共通している点は,「困難から回復しようとする力であり,それは時間的経過の中で個人や集団が変化・成長していく態様として表出される」と言えるであろう.しかし,集団を対象としてレジリエンスを時間的経過の中で捉えた研究は少なく,本研究において,看護チームがレジリエンスによって回復していく態様に注目して,そのプロセスを記述することには意味があると思われる.それは,チームが困難から回復していく過程で,レジリエンスがどのように表出され,そのために何が重要であるかについての示唆が得られると考えるからである.

Ⅱ  目的

本研究の目的は,困難に陥った一般病棟看護チームのレジリエンス表出による回復のプロセスを記述することである.

Ⅲ  方法

1. 用語の定義

看護チーム:病棟を1つの単位とし,患者ケアの質の維持および向上という目標を達成するために,協働・連携を図る看護師の集団であり,個々の看護師の相互作用が全体に影響を与える(Salas et al., 1992を参考に定義した).

看護チームの困難:看護師が感じたチームとして職務を遂行することが難しい状況であり,適応的な相互作用が働かず,共通の目標達成のための協働・連携が図られないチームの態様.

チームレジリエンス:困難に陥った看護チームが回復していこうとする力であり,それは時間的経過の中で看護チームが変化・成長していく態様として表出される.

看護チームの回復:困難に陥った看護チームが,チームレジリエンス表出のプロセスをたどりながら変化・成長し,患者ケアの質の維持および向上という目標を達成するために協働・連携が図られるようになったチームの態様.

一般病棟:精神病床,感染症病床,結核病床,療養病床を含まない一般病床を持つ病棟(厚生労働省,2001).

2. 研究デザイン

本研究は,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Modifided Grounded Theory Approach 以下,M-GTA)を用いた質的記述的研究である.M-GTAはシンボリック相互作用論を基盤とし,研究テーマがプロセス的特性を持つとともに,その成果が実践への応用可能性があるとされている.本研究は異なるチームに所属する個人の,そのチームの相互作用を通して体験されたことやチームについての認識から,チームレジリエンス表出による回復のプロセスを記述するため,本デザインを適用した.

3. 研究参加者

参加者の選定条件は,A県内の単科病院を除く,一般病棟の看護チームに属する,看護師経験が6か月以上ある常勤看護師とした.一般病棟としたのは,病棟の目的や機能,看護師配置基準などの特徴に違いがある中で,治療目的で入院した急性期にある患者に対して,短い入院期間の中で24時間継続的に看護が行われている看護チームのレジリエンスを明らかにするためである.

参加者依頼の際には,立場や経験による相違を含め,選定条件の範囲内で方向づけをしながら理論的サンプリングを行った.参加者の募集は,A県内の一般病棟を有する病院の看護部長宛てに参加者募集のポスター貼付を依頼するとともに,研究者の知人の看護師から参加者の条件に該当する看護師の紹介を受けた.

4. データ収集方法

本研究は複数の病院の一般病棟に所属する看護師により語られた看護チームの体験をデータとしている.2017年3月から2019年1月に,研究への同意が得られた参加者に半構造化面接を実施した.質問項目は「個と個の関係」「個とチームの関係」に主軸を置いて,チームの困難と困難に陥った際の自身およびチームの状況,その状況に対する自身の認識,困難からチームが回復するまでの過程とチームの変化,チームが回復するために助けとなった資源とした.予め録音の承諾を得て,1人1回,60分程度の面接をプライバシーを確保できる場所で行った.

5. 分析方法

分析焦点者は「看護チームの困難からの回復を経験している看護師」とし,分析テーマは「困難に陥った看護チームが相互作用を通してチームのレジリエンスを表出しながら回復するプロセス」とした.面接の逐語録をデータとし,ワークシートを用いて次の手順で行った.①1名の面接が終了するごとにデータを丁寧に読み込み,分析テーマと分析焦点者に照らして具体例の持つ意味を解釈し,概念を生成した.②概念とその定義,具体例をワークシートに記載した.③生成した概念が他の類似例も説明できるか,対極例がないかを比較検討しながら新たな概念を生成した.④ワークシートの理論的メモ欄には,比較例,アイディア,概念間の関係性など思考のプロセスを記録した.⑤18名の面接が終了した時点で,2名の追加面接を行い,具体例の充実のみで新しい概念が生成されないことを確認した.⑥全例の分析終了後,個々の概念同士の関係性を検討し,意味内容が類似している複数の概念からなるサブカテゴリーを生成した.⑦さらに意味内容が類似しているサブカテゴリーを集めてカテゴリーを生成した.⑧各カテゴリーを時間性の中で捉えてチーム回復のプロセスとして作図し,各局面の関係とプロセスをストーリーラインで記した.分析の過程においては逐語録に戻りながら現象の意味を捉えるように努め,質的研究およびM-GTAの研究経験者から継続的にスーパービジョンを受けるとともに,複数の教員と大学院生による定期的な検討会で発表を行った.また,作図およびストーリーラインを研究参加者にフィードバックして,分析結果の信頼性・妥当性の確保に努め‍た.

6. 倫理的配慮

本研究は,新潟大学倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号2015-2638).参加者には,研究目的,方法,個人情報およびプライバシーの保護,同意撤回の自由等について文書と口頭で説明し同意を得た.

Ⅳ  結果

1. 研究参加者の概要

研究参加者は,男性4名,女性16名の合計20名であり,参加者の看護師経験年数は11か月から38年(平均16年)であった.内訳は,役職やチームでの役割を担っていない看護師が7名,チームリーダーが5名,副看護師長が2名,主任看護師が1名,看護師長が5名であった.参加者の勤務先は10施設であった.面接時間は,40~90分(平均60分)であった.

2. 困難に陥った一般病棟看護チームのレジリエンス表出による回復のプロセス

困難に陥った一般病棟看護チームのレジリエンス表出による回復のプロセスは,38の概念,16のサブカテゴリー,【混迷】を始まりとする5カテゴリーによって説明することができた(表1).なお,参加者から語られた看護チームの困難の契機となった出来事は,看護師のいじめ,患者や家族からの暴言・暴力,医師からの攻撃,新しい看護システムへの反対,看護ケアの不統一,離職したい雰囲気,連続的なインシデントの発生,医療事故による患者の生命危機であった.

表1 看護チームのレジリエンス表出による回復のプロセスのカテゴリー・概念一覧
カテゴリー サブカテゴリー 概念
混迷 張りつめた空気 ピリピリした空気
ナースコールが鳴るだけで緊張が走る
人の命に関わることへの恐怖 医師の苛烈な叱責に怯える
医療事故を起こすことへの恐怖
先輩からの監視の目が刺さるように痛い
抵抗と批判の蔓延 できるわけがない
新人とは組みたくない
不満と愚痴が広がる
関係の亀裂 多数に同調しない者を排除
迷いながらも強い者に従う
責任を背負い込む
耐えてケアを続ける 耐えてケアを続ける
模索 チームの停滞 チームの停滞
拠り所の見極め 舵取りできる者を頼りにする
味方の先輩に守られる
拠り所としての自覚 すれ違いの仲裁
負担の偏りの軽減
リーダー間での補完
師長としての采配の覚悟 一歩踏み出す波を起こす
医師の叱責からの保護と信頼の獲得
醸成 対話の成立 省察の場
個々の意見の掬い上げ
他者の意見に耳を傾ける
互いの了解 自分の周辺事から全体への関心の広がり
できないところを認め合う
記録に残さない重要情報の伝達
看護本来の姿への回帰 一番辛いのは本人と家族
怖い患者にも善を尽くす
強化 つながりの強化 互いを思いやる
病棟外へのつながりの実感
助け・助けられる関係
緩やかな立ち直り 患者と家族のこころの和らぎ
対策の実践に一つになる
変容 経験知の獲得 困難への対処の経験知
互いを思いやる関係の再認識
緩みへの違和感
安心空間の創出 意思疎通を図っていく
共にケアする仲間に変化

最初に,看護チームのレジリエンス表出のプロセスについてストーリーラインを記す.次に,5カテゴリーの定義を記し,説明する.結果図は図1に示す.

図1

看護チームのレジリエンス表出による回復のプロセス

以下,カテゴリーは【 】,サブカテゴリーは〔 〕,概念は〈 〉,参加者の語りは「 」で示し,語りの最後に参加者(アルファベット)を記す.さらに,研究者による説明の補足は( )で追記した.

3. ストーリーライン

個々の看護師によって語られたチームの困難は,インシデント,医療事故,人間関係など,いくつかの出来事が契機となっていたが,看護チームのレジリエンス表出による回復のプロセスは,【混迷】【模索】【醸成】【強化】【変容】という局面をたどったと解釈された.すなわち,病棟での困難の始まりには,〔張りつめた空気〕の中で〔関係の亀裂〕を憂うという二つの状況が経験され,チームは【混迷】の様相を呈す.しかし,〈チームの停滞〉の中にあって個々の看護師は〔拠り所の見極め〕をはじめる一方,頼られる側は〔拠り所としての自覚〕が芽生え〔師長としての采配の覚悟〕によってチーム再生の【模索】を始める.次第に〔対話の成立〕による〔互いの了解〕がみられるようになり,問題の捉え方においては〔看護本来の姿への回帰〕という【醸成】の局面を迎え,チームとしての力を蓄えていく.また,他職種との協働により〔つながりの強化〕が促進されて,回復への〔緩やかな立ち直り〕がみられ,チームは一層【強化】されていく.このようなプロセスを経てチームは〔経験知の獲得〕をする.同時に〈共にケアする仲間に変化〉していくという【変容】に至り,新たな〔安心空間の創出〕をする.

これら5局面は,時間的経過の中で一進一退という感覚を伴いながら,チームの適応的な相互作用を高めて螺旋を描くように回復していくプロセスとして表象された(図1).

4. カテゴリーの説明

【混迷】

個々の看護師の相互関係が緊迫し,チームとしての機能が失われかけた状態である.しかし,個々の看護師は粘り強く耐えてケアを継続すると捉えられた.

「怪しいというかピリピリした感じはありました.あまり大っぴらにみんなで喋る感じではなくて,…触れちゃいけない雰囲気でした.」(A)

「血のにじむような毎日でしたけど,よくあの時毎日行ってたなと,仕事に.何もできない看護師がぽんと事情のある患者のところにやられて….」(L)

医療事故後のチームとその病棟には〈ピリピリした空気〉〔張りつめた空気〕が漂い,〈ナースコールが鳴るだけで緊張が走る〉.ケアへの〈医師の苛烈な叱責に怯える〉ようにもなり,〈医療事故を起こすことへの恐怖〉と〔人の命に関わることへの恐怖〕が募り,次第に業務の継続にも支障をきたす.新人にとっては〈先輩からの監視の目が刺さるように痛い〉.他方,新しい取り組みに対して〈できるわけがない〉〈新人とは組みたくない〉〈不満と愚痴が広がる〉という〔抵抗と批判の蔓延〕が生じた病棟には,次第に〈多数に同調しない者を排除〉しようとする雰囲気が作られ,関係性の崩れを恐れて〈迷いながらも強い者に従う〉者が現れる.反対に,新人指導の〈責任を背負い込む〉者も出てきて,チームには〔関係の亀裂〕が拡がっていく.〔張りつめた空気〕と〔抵抗と批判の蔓延〕の中で,チームは【混迷】の様相を呈するが〈耐えてケアを続ける〉.

【模索】

混迷と停滞の中で,少しずつ頼り頼られる者としての相互関係を形成し始め,手探りしながらチーム回復への一歩を踏み出そうとする局面として捉えられた.

「何かこうした方がいいよねっていうのがあれば,納得して付いて行こうって,みんな同じ方向に向かうことができると思う.信頼できるリーダーの人だと,気持ちが違うので,この人だったら大丈夫とか,…すごい前向きになれる.」(E)

「一見波を立てているような感じには見えるんですけど,その後,必ず穏やかになる….その大きな波を起こすかどうかっていう判断はやっぱり師長なんだろうな.一人一人の力を信じてるっていうところ….」(P)

【混迷】の様相の中に〈チームの停滞〉を感じながらも,個々の看護師は〔拠り所の見極め〕をして〈舵取りできる者を頼りにする〉ようになる.〈味方の先輩に守られる〉経験も少しずつ重ねていく.一方,頼られる側は〈すれ違いの仲裁〉や〈負担の偏りの軽減〉〈リーダー間での補完〉という〔拠り所としての自覚〕を持ちはじめ,看護師長は〔師長としての采配の覚悟〕を決めて〈一歩踏み出す波を起こす〉.同時に〈医師の叱責からの保護と信頼の獲得〉を目指し,チームは【模索】の局面を迎える.

【醸成】

チームは相手の立場に立って考える柔和さを取り戻し,互いを認め合いながら,患者の看護を共に行うチームとしての態様を築いていく局面として捉えられた.

「できない子(看護師)がいるからこそ,みんなが団結するのかなっていう気もしますよね.できない子もいるから,リーダーが気に掛ける.」(R)

「(患者の)暴力も治まって,…患者さん帰ろうとしているから帰れるように頑張ろうって.結局目標に向かってみんなで頑張ってる,…これって看護師なのかなって.退院間近の時なんて,暴力のことなんて出てこなかった.」(H)

チームには,チームとしての〈省察の場〉が設けられ,リーダーが〈個々の意見の掬い上げ〉をする一方,〈他者の意見に耳を傾ける〉という〔対話の成立〕が見られるようになる.〈自分の周辺事から全体への関心の広がり〉と〈できないところを認め合う〉関係の中で,新人も含めてそれぞれが〔互いの了解〕をしていく.患者と家族への対応には〈記録に残さない重要情報の伝達〉を徹底していく.そして〈一番辛いのは本人と家族〉と気づいて,相手の辛さを自分の辛さとして感じながら〈怖い患者にも善を尽くす〉という〔看護本来の姿への回帰〕とも思われる局面が現れる.チームは【混迷】から【模索】という局面を経て,チームを【醸成】していく.

【強化】

個々の看護師の関係が,共にチームを回復していこうとする意識の高まりのもとで,一つの力として凝集されていく局面として捉えられた.

「みんな声を掛けてくれましたね.大丈夫?とか.それだけで結構(力に)なるので….」(B)

「医師,看護師,病棟を担当してくれた薬剤師も…リハビリも…クラークさんもいて,看護師だけで何とか解決しようって言ったら無理だったと思う.」(D)

個々の看護師は次第に「大丈夫?」と〈互いを思いやる〉とともに,「薬剤師やリハビリ,クラークさんもいた」というように〈病棟外へのつながりの実感〉を経験しながら,〈助け・助けられる関係〉になって〔つながりの強化〕が促進される.一方,日々のケアの中に当事者である〈患者と家族のこころの和らぎ〉を感じるようにもなり,チームはケアの〈対策の実践に一つになる〉ことで,回復への〔緩やかな立ち直り〕の様相を示す.チームは一層【強化】されていく.

【変容】

チームとしての機能を回復し,目標達成のための協働・連携による日常を創るときであり,変化・成長したチームの態様が現れる局面として捉えられた.

「1つのチームというか,目的に向かって,人それぞれの関係性をうまく業務に結び付けていこうという姿勢が見られたのは,大きな進歩かな.」(S)

「最初の頃はみんな目を光らせていたけど…どこかしらで緩くなってくる.(モニターが)動いているから大丈夫だろうという感じになってきて.」(A)

チームは〈困難への対処の経験知〉〈互いを思いやる関係の再認識〉〈緩みへの違和感〉という〔経験知の獲得〕をして,相互に〈意思疎通を図っていく〉.そして,個々の看護師は〈共にケアする仲間に変化〉し,緊張した日々から解放されて,再び〔安心空間の創出〕という【変容】に至る.

Ⅴ  考察

1. 看護チームのレジリエンス表出による回復のプロセス

【混迷】の局面におけるチーム内の〔抵抗と批判の蔓延〕は,「チームメンバーがチームの感覚を失い,より個性的で自己中心的になり,チームのダイナミクスがほつれる傾向(Alliger et al., 2015)」を示していると思われる.一方,〔人の命に関わることへの恐怖〕は,医療事故への恐怖と医療事故を契機として生じた先輩看護師や医師との関係性の亀裂による苦しみとも推測され,その苦しみが放置されたり長引く場合は,個々の看護師の心的外傷的出来事(新山ら,2006)につながるかもしれない.加えて,「危機的状況の中で,個々の人間の精神的動揺が周囲の人々にも同様な感情を引き起こす(Figley, 1995/2003)」ように,既にチームが個々の看護師にとっては安心できない集団になりつつあるとも考えられる.とりわけ〈先輩からの監視の目が刺さるように痛い〉〈多数に同調しない者を排除〉という看護チームの態様は,「共通の目標達成や職務遂行のために力動的で相互依存的(Salas et al., 1992)」なチームとしての機能を失いかけた危機的状況と捉えられる.それは,砂見(2018)が述べるレジリエンスの先行要件として理解できるが,しかし危機的状況の中で〈耐えてケアを続ける〉から推察されるのは,一秒たりとも止まることのない現場において,ひたすら患者のケアに専念してその場をしのいで耐えている個々の看護師の姿であり,それはむしろ,レジリエンス表出の始動とも考えられよう.そもそも「システムは変化が常態であり,想定外の事態でも破局的な状況には至らない(北村,2015)」と言われているように,日常的な大小の変化の経験は,大きな揺らぎに【混迷】しても簡単には崩れないチームレジリエンスを備えているとも考えられる.

【模索】の局面は,伊藤(1964)が「人間は障壁につきあたると葛藤と軋轢という緊張を生じ,自ずと緊張を解消するための行動が引き起こされる」旨を述べているように,経験も職位も異なる看護師が危機的状況において,もはや〈チームの停滞〉に耐えられず,同じ困難を負う弱い立場の者として,そこから抜け出すために互いが互いを求めあったと推察される.「人間は恐怖・不安・混乱からの自由を求めて安全・安定・依存・保護を欲する(Maslow, 1970/1987)」ことが知られているが,〔拠り所の見極め〕から〈舵取りできる者を頼りにする〉〈味方の先輩に守られる〉ことも,〔拠り所としての自覚〕から〈負担の偏りの軽減〉〈リーダー間での補完〉をすることも,実は一方向的ではなく,「自分にとっての安全地帯を見つけ出したい欲求」という点では双方向性の意識づけであったと思われる.言わば互いの弱さから絆のようなものを求めたとも理解される.そこから〈すれ違いの仲裁〉という看護師間の関係性の修復に向けた行動となり,さらに〔師長としての采配の覚悟〕から〈一歩踏み出す波を起こす〉という積極的介入が為されたのである.それはVera, Rodríguez-Sánchez, & Salanova(2017)が示した,「チームが克服できる課題としてリーダーが困難を示し,問題に対する創造的で適応的な解決策を促進し,克服する明確な目標を与える」というチームレジリエンスを促進するリーダーシップとも捉えられ,明らかに【模索】というチーム回復の一歩につながるレジリエンス表出の局面と言える.

【醸成】という局面は対話が成立した局面である.そこでは「互いが向かい合い,心がそこに立ち返ることや,今生じた状況に立ち,状況の中へ入っていくこと(Buber, 1923/1979)」に似た相互作用が働いたと思われ,例えば個々の看護師間では〈自分の周辺事から全体への関心の広がり〉とともに〈できないところを認め合う〉という意識の高まりがみられるのである.相互関係の成立は相手を認めるところから始まり,そのような認め合う関係によって対話が成立し,チームとしての〔互いの了解〕につながったと考える.それはまた,看護師と患者・家族との関係においても同様であり,〈一番辛いのは本人と家族〉であるから〈怖い患者にも善を尽くす〉看護は,当事者の立場への気遣いの現れであり,チームが看護本来の姿を取り戻し,患者ケアの目標を一つにするチームとしての機能を回復しつつある局面として理解される.

【強化】という局面は,チームを構成する個々の看護師のつながりが,単に〈助け・助けられる関係〉を超えて,「その集団を自分の集団,自分の生活根拠として感じ,その集団のために一定の役割を果たすべきもの(尾高,1981)」という帰属意識によって結ばれていく〔つながりの強化〕が図られた局面と考えられる.そのことによって,チームには「我がチーム」という意識の高まりが生まれたに違いなく,〈対策の実践に一つになる〉チームレジリエンスが表出されたと言えよう.看護師は〈患者と家族のこころの和らぎ〉の表情を見るようにもなり,それは同時に看護師の心の安寧をももたらしたと考える.このような適応的な相互作用と相互関係の【強化】からチーム機能が促進されて,看護チームとしての輪郭を明瞭に描きつつある局面と考察される.

【変容】という局面は,緊張に満ち,余裕を欠いていた初期の局面とは明らかに異なり,看護チームはレジリエンスを表出しながら変化・成長し,協働・連携が図られるチームとして〔安心空間の創出〕という日常性を回復した局面である.同時に,時間性のもとで〔経験知の獲得〕を成し,新しい看護チームの姿が現れた局面でもある.とりわけ,〈緩みへの違和感〉を持つことは新たな困難を予測するという点で経験から得られた重要な経験知とも捉えられ,チームは【変容】において困難からの回復と困難の予測というレジリエンスを表出したと考える.

2. 看護への示唆

看護チームがレジリエンスを表出しながら回復していくプロセスにおいて,チームが適応的な相互作用を高めながら変化・成長していく本結果は,チームにとって如何に人と人との関係が重要であるかを示している.とりわけ,【醸成】の局面における〔対話の成立〕は,その後のチームの回復につながる契機となる重要なレジリエンス表出の局面と考えられ,〔対話の成立〕から〔互いの了解〕を経験して個々の看護師がチームへの帰属意識を高めたとも言えよう.しかし,人と人との関係は一朝一夕に築かれるものではないため,日頃からチームの構成員が自由に発言しあえる土壌を作っておくことが重要と示唆される.なお,看護の職場は多様性を排除しがちな環境(竹熊,2018)とも言われているが,【模索】【醸成】の局面でみられたように,チームは経験の浅い者から中堅,経験豊かな者までを包含する構成によってチームとしての適応的な相互作用が働くと考えられた.Morgan, Fletcher, & Sarkar(2017)はチームの人材を含めた「集団的リソース」の活用によって,ストレッサーに耐え,高いパフォーマンスを表現できる旨を述べている.看護チームにおける職位の違い,経験の違いという人材構成への配慮と多様性は,レジリエンスの表出に重要であると考える.また,〈省察の場〉〈個々の意見の掬い上げ〉は,チームを構成する個々の看護師が意見を述べ合いながら共に考えることの大切さを意味している.すなわち,チームがレジリエンスを高めながら回復するためには,困難の只中にある看護師や患者・家族という当事者の立場に配慮し,個人の責任に帰すことなくチーム全体で取り組むことが重要と示唆される.加えて,レジリエンス表出のプロセスにおける看護チームの〈病棟外へのつながりの実感〉は,チームが【強化】される局面であり,必要に応じて看護チーム以外の病院組織に支援を求める力が重要と示唆される.そのためにも柔軟に他組織や他職種に相談や協力を求められる開放的なチームであることが望まれる.そして,チーム回復の各局面を経て【変容】に至るプロセスは,チームにとっては経験知を獲得していくプロセスであるとも考えられ,看護師が感じた〈緩みへの違和感〉は,事故への予測にも似た経験知であり,それをチームの省察の機会と捉えなおすことが重要と言えよう.それは,経験知を獲得し,【変容】に至ったチームゆえに可能な省察であるとも思われる.レジリエンスは逆境からの学習に大きく依存する(Bowers et al., 2017)と言われており,回復のプロセスで経験知を獲得していくことがさらにレジリエンスを高めることになると示唆され‍る.

3. 研究成果の意義と限界

本研究において,看護チームの相互作用および相互関係からチームのレジリエンス表出による回復のプロセスを明らかにした本成果は,今まさに揺らぎを経験しているチームにとっては,チームがたどる再生の見透しを考え,チームとしての現在の局面を確認するための道標になると思われる.一方,本成果は個々の看護師から語られた看護チームのありようをプロセスとして明らかにしたのであり,研究者が臨床の現場に参加して観察したデータからの結果ではない.しかし,困難が生じた現場に研究者が入ることは倫理的観点からも難しく,個々の看護師の語りのみによる分析となった点は本研究の限界である.なお,本研究では,看護チームのレジリエンス表出による回復のプロセスと5局面における主要な要素を記述できたが,今後は,チームの回復に影響するレジリエンスの促進要因や停滞要因について明らかにし,実践への応用可能性を拡げていくことが課題と考える.

Ⅵ  結論

困難に陥った一般病棟看護チームのレジリエンス表出による回復のプロセスは,【混迷】を耐えて【模索】する中で,看護師個々の相互関係を【醸成】し,さらにチームとして【強化】することで,安心空間の創出という【変容】に至るプロセスをたどると解釈された.これら5局面において,【醸成】における〔対話の成立〕の有無がその後の【変容】にまでつながる契機となり,早期に〔対話の成立〕に至るためにもケアの省察の場が重要であると示唆された.また,チームの【強化】には,必要に応じて柔軟に他組織や他職種に支援を求められることが望まれ,チームにはチーム内外へのつながりを求める力が重要と示唆された.加えて,〈緩みへの違和感を持つ〉ことは,新たな困難を予測するために必要な経験知であり,チームは【変容】において,困難への対処と予測というレジリエンスを獲得したと考えられた.

謝辞

本研究にご協力くださいました看護師の皆様に心より感謝申し上げます.研究のプロセスにおいて多大なご指導をいただきました新潟医療福祉大学看護学部の小山千加代教授に深謝いたします.

本研究はJSPS科研費(課題番号18K10184)の助成を受けた.また,本論文の内容の一部は,第39回日本看護科学学会学術集会において発表した.

著者資格

KMは研究の着想およびデザイン,データ収集と分析,論文の作成を行った.最終原稿を読み承認した.

利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
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