日本精神保健看護学会誌
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総説
摂食障害を持つ者のリカバリープロセスにおける文献レビュー
麦山 真純
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2021 年 30 巻 2 号 p. 1-8

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Abstract

本研究は,文献レビューを通して摂食障害を持つ者のリカバリープロセスを考察することを目的とした.システマティックレビューにより,摂食障害のリカバリープロセスに関連する文献16件を対象に,「研究年」「研究対象者」「研究方法」の概要と,文献内容における共通点をまとめた.その結果,「リカバリーのプロセス」「リカバリーのプロセス内の要素」に分類された.リカバリーを語る内容から,摂食障害を持つ者のリカバリーは,摂食障害を持ちながらも語れない時期から摂食障害を病いと認識し,現在の体験として語る時期を経て,摂食障害の体験を過去のものとして語る時期をたどるプロセスであると考えられた.そして,摂食障害の体験を過去のものとして語ることは,他者から認められる体験に繋がり,自己を受け入れることができた体験であると考えられた.また,摂食障害を持つ者が他者からの受容と自己を受容することは,リカバリープロセスのターニングポイントと示唆された.

Translated Abstract

The purpose of this study was to examine through a literature review the recovery process of patients with eating disorders. A systematic review of 16 articles on the recovery process in eating disorders was conducted. We extracted information on the research year, subject, research method, and common points in the contents of the articles. Subsequently, articles were categorized according to the process of recovery and the elements in the process of recovery. Discussions in these articles revealed that the recovery of patients with an eating disorder was a process of tracing the time from the diagnosis of the eating disorder or when they could not talk about the eating disorder despite having it to the time when they could about it as a present experience and up to the time when they could talk about it as a past experience. Talking about having an eating disorder as a past experience enables self-acceptance and acceptance by others, which are crucial to the recovery process.

Ⅰ  はじめに

近年,食行動の異常,食をめぐるトラブルとして,摂食障害は社会的にも広く知られるようになった.統計的には女性に多く,思春期や青年期だけではなく,児童期から既婚女性と年齢層の広がりをみせて増加している(切池,2012).そして,発症後は軽快と再燃を繰り返しながら長い経過をたどることが多く,高齢化も問題として挙げられる.また,低体重などの身体的問題や自殺などにより,精神疾患の中で最も死亡率の高い疾患である(和田,2012).

摂食障害が医学社会において発表されたのは1689年であり,それ以降は,心身医学,臨床社会学,臨床心理学,精神医学の分野において治療や援助の研究が行われてきた(下坂,1991岡本・奥田,2005).しかし,摂食障害に対して医学的,心理的支援における治療法やリカバリーへのアプローチは一貫性がない.また,原因を探して取り除けばよくなるという思考スタイルの専門家は多い.そのため,リカバリーへ向けた実践や考察は遅れている(切池,2003中村,2011).

摂食障害のリカバリーは,医学的定義においてさまざまな議論がある(浅野,1996).欧米では,神経性無食欲症(以下ANとする)が治療対象であった1970年代は体重減少率と月経の回復が用いられ,神経性過食症(以下BNとする)が増加した1980年代後半は食行動異常の回復が評価項目に取り入れられた(中井ら,2015).国内では,身体面と食行動の異常の回復が用いられ,体格指数が17.5 kg/m2以上で月経があり,食行動や身体像異常,行動の障害がなく,対人関係,社会関係が良好な状態を3ヵ月以上継続した場合と定義された(中井ら,2004中村,2011).一方で,摂食障害としての医学的な概念を取り入れながら自らを摂食障害と認識し,その状態からリカバリーしたと提唱する者も見られている(浅野,1996中村,2008/2011).そのため,摂食障害からの回復者がどのようにリカバリーすることができたのか,回復後の当事者自身の回顧的な語りを知ることで,リカバリープロセスを推論することは可能であると考えられる.

したがって,本研究の目的は,文献レビューを通して摂食障害を持つ者のリカバリープロセスを考察することである.

なお,本研究の摂食障害を持つ者のリカバリーの定義を,浅野(1996)による「摂食障害者本人たちが問題の解決権を獲得すること」(浅野,1996中村,2011)とする.

Ⅱ  方法

1. 対象文献の選定方法

文献の選定にあたり,The Joanna Briggs Instituteのシステマティックレビュー(以下SRとする)のアプローチを参考にし(牧本,2013),2020年3月,1980年~2019年の和文献,英文献を検索した.和文献は,医学中央雑誌Web版を用い,キーワードを「摂食障害or神経性無食欲症or神経性過食症」「リカバリーor回復」「語りorナラティブ」「経験or体験」「プロセス」とし,原著論文,分野を看護と指定した.また,英文献は,CINAHL,MEDLINEを用い,検索式は,和文献と同様とし,Abstract,Humans,Englishを指定した.

その結果,和文献は125件,英文献は1,646件であり,重複文献除去後は和文献51件,英文献980件であった.そこに,摂食障害の定義やリスク要因,治療,看護,家族やパートナーの経験,摂食障害以外の疾患に関する文献など摂食障害のリカバリープロセスに直接関連のない和文献48件,英文献968件を除外し,和文献3件,英文献12件となった.そして,取り寄せることができなかった英文献1件を除外し,和文献3件,英文献11件となった.ここで,摂食障害のリカバリープロセスに関連する文献においてSRの検索だけでは十分ではないと考えられるため(心光,2013),孫引き文献で和文献1件,ハンドサーチ文献を追加し,和文献5件,英文献11件となった(表1).

表1 摂食障害を持つ者のリカバリープロセスの概要
No 研究者(年) 研究方法①研究対象者②データ収集方法③分析方法 結果の概要
1 Beresinら(1989) ①以前にANの診断基準(DSM-III)を満たし回復したと自覚する女性13名②アンケート調査,摂食障害調査票,社会的適応尺度‐自己報告,半構造化面接③グローバル評価 13名の女性は,平均体重の91%であり,2名を除き定期的な月経があり,症状が見られていなかった.摂食障害の要因を家族との葛藤やライフイベントが重なる頃に病気になったと語られた.また,リカバリープロセス中に受けた支援は「専門家の助け」があり,セラピストと患者との間に感情表出や心理療法,集団療法や家族療法,投薬等が挙げられた.加えて,プロセスを痛々しいほど遅いものとして説明し,「自分自身をよく知ること」「自分を再び好きになるプロセスである」と語り,自己理解が強化されていた.さらに,リカバリーの重要なステップとして「自分を他人にさらしだす」ことで対人関係の構築につながっていた.一方で,リカバリー後は障害の特定の残骸が残っていることも明らかとなった
2 浅野(1996) ①摂食障害の経験を持つ女性10名(摂食障害で苦しんでいる者1名リカバリーした者9名)②非構造化面接③‍質的調査 摂食障害からのリカバリーを「自らの行為や状況を『摂食障害』と認識し,『摂食障害者』としてのアイデンティティを獲得すること」と定義づけし,女性たちが摂食障害者となるには,ダイエットと嘔吐の行為が存在し,症状の渦中は,「自らの状況や自己を定義する権利や力(パワー)を剥奪されている状態」であるとした.また,摂食障害から回復することを「脱出」とし,次の①~③の事例(回復期間は4年から12年程度であった)を通して,リカバリーの要素は「摂食障害が私たちの意識や行為を支配している認識システムによって構造化されている『社会的現実』に気づくことである」と明らかにした①小学生から始まった食事制限が大学時代には過食となったが,在学中に自らのすすむ道を見出したときに過食はなくなった②高校入学後に拒食症に陥ったが,大学入学後のミス・コンに反対する論拠を見出す過程で「ひがみとかふくめてものをいってもいい」と自らの経験や感情を言語化した③大学受験を期に拒食症となり,大学時代に女性をとりまくフェミニズムを学ぶことで摂食障害を解放することができたが,解放後も強迫的な思考回路による苦しさは残っていた
3 Garrett(1996) ①ANからの回復プロセスにある32人②半構造化面接③質的研究 32名中15名が回復したと語り,回復期間は3年から22年に渡ると述べた.ANからのリカバリーを「心と身体の再結合」「癒しの儀式」とし,リカバリープロセスは「常に進行中の非線形のプロセス」と「仏教・ユダヤ教など利用可能な精神的なもの」としていた.また,理論的枠組みとしてデュルケームの「宗教生活の原初形態」をベースに,ANからのリカバリー要素を精神的な探求(スピリチュアリティ)とし,リカバリープロセスは1「内的」2「他者」3「自然」という三重のつながりの再発見であると明らかにした.例えば,1「内的」は,「私と体とのつながりは神の一部である.」と完全に回復したと語り,2「他者」は他者とのつながりを認識することで「私は誰かと共同することができる」と語った.3「自然」は,身体との再接続は内側だけではなく外で,しばしば自然の再発見として「私は私の体から分離されていないと信じ始めた」と語った
4 D’Abundoら(2004) ①摂食障害から回復した,回復の過程にある17~46歳の女性20名②半構造化面接,参加観察,フォーカスグループの三角測量③GTA 摂食障害のリカバリープロセスは,摂食障害曲線と呼ばれるサイクリックモデル(進行するにつれて線が膨らみ,隆起した波状の形成を作り,治まると柔軟な線に戻る)を示した.摂食障害の発症は,痩せを好む不健康な態度から始まり,ダイエットから代償行動を引き起こしていた.これにより,非合理な思考,生活のあらゆる面で制御不能な気持ちを表明し,参加者や,その家族,社会との間に障壁を作り,社会的孤立につながっていた.しかし,摂食障害曲線における最高点では,病気の受容や摂食障害の影響を認知し,回復へのターニングポイントがみられた.このような受容や認知(受け入れの輪と相称)を通して,摂食障害の重症度が低下し,健康的な行動や合理的思考ができるようになった.参加者は,「食べるとコントロールできることに気づいた」と語り,生活へのコントロール感を取り戻し病気の重症度が減少していた
5 楠ら(2004) ①摂食障害で入院中の20代女性1名②ナラティブ・アプローチ③逐語録から,問題が外在化された箇所を抽出し,闘病意欲を支えることができたかを分析 摂食障害患者の体重の変化を【低体重期】【体重停滞期】【体重回復期】【体重増加期】に分類し,ナラティブ・アプローチによる行動療法を用いた結果【低体重期】【体重停滞期】では,患者は語らず問題の外在化をはかることが出来なかった.しかし,【体重回復期】【体重増加期】では,患者と語り合いができるようになり,『摂食障害という病気になった弱い自分』を認めるようになった.よって,るい痩の改善・体力の回復が身体的危機の回避だけではなく,摂食障害からのリカバリーの要因と考えられた
6 Woods(2004) ①摂食障害から回復した16人の女性と2人の男性②電子メール調査③‍GTA 摂食障害からの回復者は,回復前にDSM-IVの診断基準を満たしており,発症から回復までの期間は平均1.94年であった.リカバリープロセスとして,まず,発症には外観や減量に賛辞する両親やコーチ,ボーイフレンドにより強化され,そして,リカバリーの転換点として,母親による早期の共感的で支持的な介入,父親の感情的な嘆願などが挙げられた.また,親やボーイフレンド,友人からの持続的かつ強力的な支えによってリカバリーが維持されていた.摂食障害からのリカバリーは,最小限の臨床治療で,親または協力的で親密な他人によって早期に介入されたときに起こり得ると考えられた
7 Lamoureuxら(2005) ①以前にANと診断を受け,回復したと自己報告している女性4名②電話または対面による非構造化インタビュー③GTA ANからの回復期間を3年から24年と語り,多くの参加者はリカバリーの経験を,予測できない挫折によってさらに困難になったハードワークを伴う非常に遅く,自己を取り戻すプロセスと説明した.また,参加者は,繰り返しの入院や個別・集団療法,補完療法(ヨガ,瞑想,ボディワーク)などを体験していた.調査の結果より,リカバリープロセスは①危険を見る②食欲不振から遠ざかる③食欲不振のない曝露に耐える④食欲不振の考え方を変えることによって視点を得る⑤自己を十分に良いと発見して取り戻すこと構成され,このプロセスは前進または後退するものであった.①は,病気の固有の危険性を垣間見ることから始まり,②ANとは別のアイデンティティを形成するプロセスを開始するために,「信頼は回復の非常に多きな部分であった」と語るように他者への信頼を学ぶことはリカバリーの要素であった.③AN(という安全)を手放すにつれ,不安,無力,自分の本当の感情を示すことへの恐怖を生み出した.一方で「自分自身を取り戻す」コントロール感を得ていた.そして,④リカバリーの過程で,参加者はいくつかの戦略を採用し考え方を変え,自分自身について現実的な視点を獲得した.⑤最終的なリカバリーは他人が自分の価値を見出し,自分自身に価値を見出すことに加えて,自分が十分に良いと感じることを発見していた
8 中村(2008) ①摂食障害からの回復者で,インタビュー調査を行った3名のうち,調査後に自身のホームページを開設していた2名の女性②HP上のデータを引用③内容分析 摂食障害からの回復は,2事例(①②)あり,①ダイエットをきっかけに過食を繰り返すようになり,心や家族に着目した治療を経験するも改善されず,約12年間症状に苦しんだ.回復の契機は,精神科医による規則正しい食事摂取の教えであった.これにより自主的に入院した中で食生活を整え,退院後も食生活が乱れないように意識し,過食がなくなりリカバリーしていると語った.②‍ダイエットをきっかけに約8年間過食・嘔吐を繰り返した.インターネット上で食事へのアプローチによって回復したという回復者のホームページを読み,食生活の立て直しを始め,「まずはきちんとした食事を取り戻す.そこから心のケアを始めても遅くはないだろうし,何よりその方が効率がいいと私は考える」とリカバリーに至ったと語った.以上のことから,摂食障害からのリカバリーは,摂食障害の当事者自身が摂食障害を「食事の問題」と捉え,問題を解決しようとする「解決権の回復」であると考えられた
9 Patchingら(2009) ①摂食障害(ANorBNまたは両者)から回復した20人の女性②半構造化面接③ライフヒストリー 全ての女性が3年から25年で回復したと報告した.回復者20名のうち11名は入院経験があり,9名はサポートグループと自助文献による回復であった.摂食障害からのリカバリープロセスを3事例取り上げ,発症の時点では,参加者は自己同一性を求めており,摂食障害はこれを達成する手段と考えていた.しかし,実現しないことに気づいた時に,過食・嘔吐などの行動を放棄した.そして,「良くなることを決めた時,自分の食事のコントロールを取り戻した」とあるように,食事摂取と運動をコントロールする【コントロール】感覚を獲得し,人生や他人との再関与を【つながり】求めていた.さらに,発症に関与する思春期の葛藤や家族,仲間との外敵葛藤,自分の貧弱な感覚に対して【対立】し,摂食障害から回復する選択をし,「摂食障害のない新しい自分になりたい」という自己決定と,自分は自分自身であり「 なんらかの理由でここにいるに値する」という自己受容によって強化されていたことが明らかとなった
10 中村(2011) ①摂食障害からの回復者18名②半構造化インタビュー③質的調査 参加者の多くはダイエットをきっかけに発症しており,回復には2年から15年の期間を要した.摂食障害からのリカバリーの過程には,認識レベルでの変容【強い痩せ願望が緩和されていくプロセス】と行動レベルでの変容【一定量の一般的な食事をするようになっていくプロセス】が伴っていた.また,回復者18名の事例から,他者に受け入れられ肯定されるという経験と自分を受け入れ肯定していく「受容」や「承認」,一定量の食事を摂る「食生活の改善」,回復後の「生きづらさ」を持つことが明らかにされた.また,リカバリーとの関連は,まず「受容」の語りとして,①‍「ホームページ上での掲示版でも,摂食障害者や回復者たちの交流の場では悩み事を書くと,アドバイスが戻ってくることで元気がでる.前向きに捉えられるようになった」②「生徒がいろいろ辛かったことを言うわけで,自分も素直に子どもたちには喋れるんですよ.私が私であることがオッケーなんだからと言ってくれた」③「自分が実はこうでっていうのは,誰にもそれまで言ったことがなかったんだけど…なんか一緒に治してこうねみたいに言ってくれた人は誰もいなかったから.そういう人がひとりいれば回復につながっていくことができる」④「会社でひどい目に遭っていることを人にも言えなかったが,冷静に客観的に両親や友達にいろいろ話してみたら,おかしいよって同意してもらえた.そこら辺からハズミがついていった」などがあった.次に「食生活の改善」として,⑤「転職し,新しい職場にはダイエットをする前からの知り合いがいたこともあり,拒食や過食のことを全て話した.そうしたら向こうはすんなり受け入れてくれて,周りがそういうホッとした環境であることを感じ,自分で治さなきゃいけないのかなと思った」と語り,食生活の改善の必要性に気づいていった⑥「本当に誰にもちゃんと言ったことがなかったんで,過食しているっていうのをその催眠療法師に初めて言ったんで,それでちょっとスッキリしたとこもあった」と語り,「 回復を強く望み,吐かないで食べ物の消化を待つなどの実践が必要だった」などが挙げられた.さらに,摂食障害を食事の問題と解釈し,自らの状態を解決する権利【解決権】を獲得したと明らかにした
11 Jenkinsら(2012) ①ANの診断を受け,回復中または回復とされた15名の女性②半構造化電話インタビュー③解釈的現象論的分析 参加者の多くはダイエットを機に「強迫的,秘密」に体重減少へつながったと語った.ANからのリカバリープロセスは,①拒食症であること,②変化のプロセス,③回復中の3つの局面を示した.①は,拒食症の行動は体重減少を続けなければいけないとし,拒食症であることを否認していた.そして,ANの声に支配されていると感じ,ANが日々のトラウマに対する制御手段であった.②は,時間の経過とともに健康の改善が見られ,治療とセラピストや友人,家族からの支援を通じて自分の感情を知ることができるようになった.さらにリカバリープロセスの最終段階として,ANの影響を認め,ANの声を制御できるようになった.③回復は「トリッキー」で「難しい」と信じていたが,回復の利点が欠点を上回り,自己認識の向上や,人生の満足感や楽しむことができるようになっていた.この時点は,食事と体重への執着を終わらせ,ANの考え方を変えることであると信じていた.よって,完全なリカバリーは身体的と「目標体重には達していないものの明らかに健康である」と語るように心理的回復が組み込まれていた
12 Dawsonら(2014) ①慢性的なANから完全に回復したと評価された31歳~64歳の女性8名(回復の定義:BMI:20~25 kg/m2・摂食障害の行動的特徴の欠如・摂食障害検査の全てのサブスケールでコミュニティ基準の1標準偏差値以内)②インタビュー調査③ナラティブ・インクワイアリー ANからのリカバリープロセスは4つのフェーズにまたがる長く複雑なプロセスであった.1つ目は「準備ができていない」段階で,参加者の生活はANに支配され,苦痛の高まりが特徴であった.AN以外の生活は高く評価されず,病気の維持につながっていた.2つ目は,「変化の転換点」である.この時期は,「病気が自分をコントロールしているのではないか.それが病気なら抜け出せると実感する力があった」と語るように病気を継続するのではなく,最終的には「よくなる為に意識的な決断をした」と自己決定と自己開始によるリカバリーを追求していた.また,心理士や看護師,摂食障害を持つ他の人々との信頼関係を得ていた.3つ目は「回復の積極的な追及」の段階である.この時期は,目標設定,ANの外部化,認知的挑戦,行動的挑戦,有用なセルフトーク,自己認識,柔軟になることの学習,健康的な対処スキルの学習などが使用された.4つ目は,「反射とリハビリテーション」であり,3つ目の段階からの成果の維持だけではなく,個人的な内省,自己発見,自己受容が特徴的である.この時期は,自分を愛すること,自分を貴重な存在として発見するプロセスであり,一部の人にとっては,「摂食障害から回復できればできないことはない」と語るように失われたアイデンティティを再構築していた.この4つの局面は3~10年かかる段階的なプロセスであり,回復を終了状態または,継続的なプロセスと認識していたことが明らかとなった
13 Lindgrenら(2015) ①BNから回復した(2年間健康であると評価した)23~26歳の女性5名②半構造化面接③質的内容分析 BNからのリカバリープロセスは,進行と再発の間を行き来していた.また,リカバリーに重要な要素は,自分自身を受け入れる能力の「自己効力感」に基づいていることが明らかとなった.さらに,BNのリカバリープロセスは,「BNの人としての自己識別」と「人生は耐えられない」を含む【BNで立ち往生している感じ】,「BNのない人生への憧れ底を打って病気について聞く」と「病気の機能と結果に気づく」を含む【変更の準備をする】,「病気を後にする勇気を持つ」「新しい身元を検索する」治療を受けることとは別に,家族や友人からの「支援を受け入れて仕事をする」を含む【BNからの解放】,「自分自身を知り課題に対処する方法を学ぶ」「人として価値があると感じる」「自由自在」を含む【新しい現実をつかむ】の4つの局面で構成されていた
14 磯野(2015) ①摂食障害の自助グループに通う女性6名②非構造化面接③質的調査 リカバリープロセスとして2事例あり,①ダイエットを機に発症し,2度目の入院では,一児の母になっていたことや 回復が順調であったこともあり,家族(夫)との外出の際,「夫と二人で食べることができなければ,これからの人生は成り立たない」という決意のもと,レストランに入り高カロリーの料理を食べる経験をした.以後,家族で食事を摂れるようになった②受験を機に拒食となり,発症後10年を経て,自分とは性格が間反対の男性と暮らし始め生活が穏やかになった.男性の促しもあり,自分の思っていることを言葉にできるようになり,いつの間にか過食嘔吐をしないようになったと語られていた.摂食障害の経験からは,「過食嘔吐」「下剤の乱用」「チューイング」以外に,「過食中は何も考えなくてよい」,「過食中は悩みが押し寄せてこない」等の全人的に行為に没入しているときに人が感ずる包括的感覚である「フロー状態」が明らかにされた
15 Las Hayasら(2016) ①摂食障害から回復した女性10人②‍半構造化面接③GTA 参加者は精神医学的治療を平均7年受けており,退院後も症状に苦しむ者もいた.摂食障害からのリカバリープロセスの中で,摂食障害者は人生で全てのコントロールを失ったことを受け入れ,「医師が『食道が破裂して死ぬ可能性がある.あなたが得るかどうか考える時である』と言い,私は死にたくない」と語るように病気になったことを認める必要があること,ソーシャルサポートの取得,自分が誰であるかを把握し「全体として受け入れ,同化する」こと,「私は常に回復できると信じていた,だから未来が見えた」と語るように自分の人生の夢と目標を持つこと,生活の中で新しい習慣(絵画,ダンス,スポーツなど)を開始することが挙げられた.また,摂食障害からのリカバリーに回復力を認め,回復力の概念モデルは【人生に対する深い不満】【転換点】【受容】【希望】【変化への決意】【摂食障害に対する説明責任】【積極的な対処】【社会的支援の獲得】【自己知識の獲得】【情報の取得】が示された
16 Pettersenら(2016) ①摂食障害の診断を受け,治療後に回復した元摂食障害患者19~52歳男性15名②現象学的アプローチの範囲内でのインタビュー③内容分析 男性の摂食障害からのリカバリープロセスは,女性のリカバリープロセスと非常に一致していた.男性であってもダイエットを機に過食嘔吐や運動によって食事摂取を制御する信念から抜け出せない状態であった.リカバリープロセスの開始の段階は,摂食障害を持つことを認める「変化の必要性」の時期であった.この時期には何かがおかしいと理解し,食べ物や体重などに否定的に支配されていたことに気づき,認めるには長い時間と,問題を話すことに苦労したことが語られた.そして,治療の必要性に気づき,医療専門家に連絡をとって,「問題と体重の安定化」を重要視させた.その後,摂食障害への対処を探すことや規則正しい生活パターンを増やすなど「摂食障害をどのように残す」かに移行し,治療への期待を持つことによって摂食障害とともに過ごしていた.この頃より,「対人関係が変化」し自分のニーズを表現できるようになり,リカバリープロセスの最終段階として「摂食障害のない生活を探」していた.これは,摂食障害の年月による損失を受け入れ,新しい自分を見つける時期であった

2. 分析方法

まず,選定した16文献を研究年,研究対象者,データ収集方法,分析方法について概要をまとめた.次に,論文の内容を概観し,摂食障害を持つ者のリカバリープロセスに関連する箇所から共通点について検討した.最後に,摂食障害を持つ者がリカバリープロセスを語る場面における語りの内容を,リカバリーの視点から考察した.倫理的配慮として,研究者の研究結果の意図や解釈を損なわないよう考慮した.

Ⅲ  結果

1. 文献の概要

先行研究の動向は,1989年から断続的に発表されていた.研究対象者は,ANが5件(1, 3, 7, 11, 12),BNは1件(13),AN・BNを含むものが10件であった.これらのうち,リカバリーした者に限定した文献は10件(1, 6–10, 12, 13, 15, 16),リカバリーの過程にある者を含む文献が6件(2–5, 11, 14)であった.研究方法論は全て質的分析であった.主なデータの収集方法は,半構造化面接6件(1, 3, 9, 10, 13, 15),非構造化面接6件(2, 4, 7, 12, 14, 16)であった.主な分析方法は,カテゴリー分類5件(5, 8, 13, 14, 16),グランデッドセオリーアプローチ4件(4, 6, 7, 15)であった.

2. 摂食障害を持つ者のリカバリープロセスに関する研究の内容

1) 摂食障害を持つ者のリカバリーのプロセス

摂食障害を持つ者のリカバリーのプロセスは,「常に進行中の非線形」(Garrett, 1996)であり,リカバリー後も症状の進行と再発を行き来する者もいた.そして,プロセスは,「発症」「維持」「リカバリー」の三段階であった(1–16).「発症」の段階では,摂食障害の主な契機はダイエットであり,「気軽な気持ちで始めた」(D’‍Abundo, & Chally, 2004Jenkins, & Ogden, 2012Pettersen, Wallin, & Björk, 2016)ものや「母親から太ることに対して否定的な話を聞かされていた」(中村,2008)ものがあった.また,「自発的な」(中村,2011)ダイエットの他に,「父親からの虐待や母親の過剰な期待」(Patching, & Lawler, 2009),「母親からの愛情不足」(Beresin, Gordon, & Herzog, 1989)等も影響していた.加えて,受験等のライフイベントによるストレスが挙げられた(磯野,2015).一方で,減量によって得た外観に対する家族や同僚からの賛辞によって,厳格な体重管理に繋がっていたことも報告された(Woods, 2004).「維持」の段階では,摂食障害を持つ者に「強い痩せ願望」「自己コントロール欲求」「低い自己評価」(中村,2011)等がダイエットの継続過程で形成されており,代償行動中では「行為と意識が一体化する」(磯野,2015)ことにより,行動の自省が難しい状態であった.また,症状があることを「アイデンティティの一部として認識したり自傷行為として捉えたり」,「罪悪感や羞恥心を伴う」ことで「人に知れたら,誰も付き合ってくれない」(D’Abundo, & Chally, 2004中村,2011)と胸に秘める者もいた.さらに,厳格な食べ物と体重の管理に捉われ,食事行動を隠そうと「家を出たくない,人と話したくない」などの社会的孤立につながっていた(D’Abundo, & Chally, 2004).「リカバリー」の段階では,「強い痩せ願望が緩和されていくプロセス」という認識の変容と「一定量の一般的な食事をするようになっていくプロセス」という行動の変容が,どちらか,あるいは両方生じていた(中村,2011).Lindgren et al.(2015)は,「病気を後にする勇気を持ち,新しいアイデンティティを探すこと,周囲からの助けを受け入れて仕事をするという神経性過食症からの解放から自分自身を知り,課題に対処する方法を学ぶ」段階であり,「人として価値があり,自由であると感じ,新しい現実をつかむ」段階と述べていた.

2) 摂食障害を持つ者のリカバリープロセス内の要素

摂食障害のリカバリープロセス内の要素は全ての文献にみられた(1–16).まず,ANのリカバリープロセス内の要素として,中村(2011)は,Garrett(1996/1997)がまとめた「a 食べ物と体重への囚われを捨てること,b 拒食,過食や嘔吐に決して戻ることはないと強く信じること,c 痩せることへの社会的プレッシャーに対する批判を発達させること,d 自己の生命には-実在的,あるいは霊的に-意味があるのだという感覚を持つこと,e 自分は価値ある人間であり,自分自身のさまざまな側面も人格の一部であると信じること,f 社会関係から切り離されているという気持ちをもう感じないこと」を挙げていた.また,Lindgren et al.(2015)は,BNのリカバリープロセス内の要素として,BNによって「物を失い,人を傷つけていることに気づき始め」,「破壊的な行動が始まった理由を理解する」という語りから「病気の作用と結果に気づくこと」と述べていた.さらに,ANとBNに共通する要素は,死に直面するような恐怖を体験し,「自分の状態の重症度を認識」(Las Hayas et al., 2016)することで「病気を受け入れる」ことであった.その後,「自分の健康状態,欲求,身体イメージについて自分と向き合うことで自己理解」が深まっていた(D’Abundo, & Chally, 2004).そして,「新しい職場で,拒食や過食のことを話したところ向こうは普通にすんなり何も言わずに受け入れてくれて」「同僚には話せない悩みや辛さを生徒に話したら私であることでオッケーなんだからと言ってもらえた」(中村,2011)とあるように,それまで語られることがなかった摂食障害の経験やその体験に伴う思いや感情を語り,他者から受容されていた(Beresin, Gordon, & Herzog, 1989中村,2011).また,「友人が実際の私を見るようになった時,自分自身を受け入れた」(D’Abundo, & Chally, 2004Lamoureux, & Bottorff, 2005)や「生きる方向性が持てるようになった」「前向きに捉えられるようになった」と語られていた.さらに,「他者への信頼は回復の非常に大きな部分」とあるように,自分自身だけではなく他者への信頼感を得ていた(Lamoureux, & Bottorff, 2005Pettersen, Wallin, & Björk, 2016).加えて,食事を三食摂ることも挙げられた(中村,2008/2011Pettersen, Wallin, & Björk, 2016).

Ⅳ  考察

1. 摂食障害を持つ者の語りにおけるリカバリープロセスについて

摂食障害を持つ者のリカバリーのプロセスにおける摂食障害の体験の語りは,三段階であると考えられる.

第一段階は,語れない時期である.この時期は,摂食障害であることを恥ずかしく思い,言えなかったり,隠したり,自分を駄目な人間なのだと否定的な感情を抱えていた(中村,2011).しかし,食事へのこだわりがあったとしても,その人にとっては普通なことであり,日常的に行われている衝動行為は,食事の動作である「行為の連鎖」(中村,2006b)の一つと捉えられる.よって,語れない時期は,摂食障害という物語を生きており,自分しか存在しないと考えられる.

第二段階は,摂食障害を病いと認識し,現在の体験を語る時期である.なぜなら,「自分の状態の重症度を認識」(Las Hayas et al., 2016)し,自己への影響や他者との違いに気づくことで「病気を受け入れる」(D’‍Abundo, & Chally, 2004)からである.それは,摂食障害を持つ者が,「意識の目を他者に移してみると同時に自己内部をみること」(安永,1988)で,摂食障害という問題を外在化し,自分の中に取り込み,認識するまでのプロセスを経ることによって,摂食障害を持った自分を認めていくと考えられる.よって,この時期は,他者や社会との関わりを求めるか,半ば強制的に自己の世界に侵入されるかによって,疾患を持った自分を現在の体験として語ると考えられる.

第三段階は,摂食障害を持つ者が摂食障害の体験を過去のものとして語る時期である.摂食障害を持つ者は,リカバリープロセスにおける「リカバリー」の段階で,他者に向けて摂食障害の経験やその体験に伴う感情を語ることで,「前向きに捉えられるようになった」「スッキリした」と,自分の体験を過去のものとして肯定的に捉え直す瞬間が垣間見えた.また,「私であることでオッケーなんだからと言ってもらえた」とあるように他者に認めてもらう体験をしていた.そして,「自分自身を受け入れ」(D’Abundo, & Chally, 2004Lamoureux, & Bottorff, 2005),「人として価値」(Lindgren et al., 2015)のある自分を認めるよう変化していた(中村,2006a).これらのことから,摂食障害を持つ者は,リカバリーのプロセスで,他者に受け入れてもらう体験と,そこから自分を受け入れる体験(中村,2011)が重要で,他者に受け入れてもらうまでには,摂食障害を持った自分を過去のものとして語る体験をしていたと考えられる.さらに,摂食障害を持つ者が,聞き手との相互行為によって引き出された摂食障害を過去のものとして語る体験は,当事者にとっての摂食障害であった現実をかたちづくっていき(浅野,1996),模索しながら生きてよい実感が得られたことを意味している.それは「生きづらさの物語からの解放」(中村,2011)と捉えられる.つまり,摂食障害を持つ者にとって,摂食障害という物語の構造が変化した瞬間と考えられる.このことは,作田(1993)の論ずる「超越的存在との出会いによって,これまでの自己を象っていた物語構造は砕け,自己は剥き出しの世界に直面し,そのとき,自己と世界とを隔てていた境界が溶けて,自己と世界との差異が喪失する.このような溶解体験」に相当すると言える.

したがって,摂食障害を持つ者が,摂食障害の体験を過去のものとして語ることが,他者から認められる体験に繋がり,そこから自己を受け入れることができた体験といえる.また,摂食障害を持つ者が,他者から受容され,自己を受容することが,摂食障害からの解放を意味する瞬間であり,摂食障害を持つ者のリカバリーのプロセスにおけるターニングポイントと考えられた.

Ⅴ  結論

摂食障害を持つ者の語りにおけるリカバリーは,摂食障害を持ちながらも語れない時期から,摂食障害を病いと認識し,現在の体験として語る時期を経て,摂食障害の体験を過去のものとして語る時期を辿るプロセスであると考えられる.そして,摂食障害の体験を過去のものとして語ることが,他者から認められる体験に繋がり,そこから自己を受け入れることができた体験であると考えられる.また,摂食障害を持つ者が,他者から受容され,自己を受容することが,摂食障害を持つ者におけるリカバリープロセスのターニングポイントであると考えられる.そのため,摂食障害を持った自分を過去のものとして語る援助が必要であると示唆される.

謝辞

本研究をまとめるにあたり,ご指導くださいました田中美恵子教授に深く感謝いたします.なお,本研究は東京女子医科大学大学院看護学研究科博士前期課程における課題研究論文に加筆・修正を加えたものであり,一部は,日本精神保健看護学会第24回学術集会で発表したものです.

著者資格

MMは研究の着想から原稿作成のプロセス全般を遂行した.

利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
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