日本精神保健看護学会誌
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原著
日本の認知症高齢者を在宅介護する家族介護者の体験のメタ統合
寺岡 貴子深堀 浩樹野末 聖香福田 紀子
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2021 年 30 巻 2 号 p. 39-49

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Abstract

本研究では,日本の認知症高齢者を在宅介護する家族介護者の体験を明らかにするために,Noblit & Hareの手法によりメタ統合を行った.

対象論文は2008年以降で絞り込み,和文献9件,英文献2件を抽出した.分析の結果,家族介護者の体験は10カテゴリーに統合された.【主体的なストラテジーが構築】できる家族介護者は, 【介護を続けるための工夫】や【介護体験を意味づけ】ていた.一方,【介護をめぐる家族関係の乱れ】や【サービスの利用の難しさ】がある場合には,認知症を隠秘し,玄関を閉めるなど【被介護者の安全を守るための管理】が行われることが明らかになった.被介護者の安全と自立を守ることと,家族介護者自身の生活を守ることを両立できる家族全体のニーズに沿ったサポートを検討していく必要がある.

Translated Abstract

In this study, we performed a meta-synthesis by the method process of Noblit & Hare to clarify the experience of family caregivers who care for the older people with dementia at home in Japan. The scope of the literature search was narrowed down to papers published after 2008, and nine Japanese and two English papers were selected.

The experiences of the family caregivers were integrated into ten categories based on the results of this study. It was become clear that once family caregivers are able to “establish proactive strategies”, they would “find ingenuity to continue caregiving” and “find meaning in the caregiving experience”. Furthermore, this paper clarifies that when there is “a disturbance of familial relationships due to caregiving”, or there is “difficulty in using the service”, the caregivers will take “measures to protect the safety of care receivers” (e.g., by concealing dementia, locking the front door). Thus, examining the support in line with the needs of the whole family is necessary to strike a balance between ensuring the safety and independence of care receivers and protecting the lives of family caregivers themselves.

Ⅰ  緒言

世界中で約5000万人が認知症で(World Health Organization, 2020),日本でも増加が見込まれている(厚生労働省,2015).認知症の中ではアルツハイマー型認知症が最も多く,次いでレビー小体型認知症が多い(Walker et al., 2015小阪,2012).認知症高齢者は中核症状や行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;以下,BPSD)を呈し,不可逆的な進行性の経過を辿るため,その約7割が家族介護を受けている(認知症の人と家族の会,2012).特に徘徊などのBPSDは家族介護者にとって対処が困難で(Peng et al., 2018),負担感と関連している(Baharudin et al., 2019).さらに,日本では認知症高齢者の鉄道・自動車事故(高井,2018日本経済新聞社,2019)の責任を家族に帰する意見もあり,家族介護者は安全を重視せざるを得ない.認知症の診断前・初期段階では行方不明や交通事故が発生する割合が高く(Petersen et al., 2016),認知症高齢者・家族介護者のサポート体制の構築が課題である.

日本の認知症施策としては,認知症施策推進総合戦略によるかかりつけ医の認知症対応力向上の促進(厚生労働省,2015),育児・介護休業法改正による時間単位での休暇取得(厚生労働省,2021),家族内での役割調整(安武,2011)といったフォーマル・インフォーマルなサポートが充実してきている.しかし,英国のThe Carers Act(GOV. UK, 2016)のような家族介護者のニーズに沿ったシームレスなサポート体制は整備されていない.

日本の家族介護者の状況に目を転じると,介護保険制度によるサービスが充実する中,家族に尽くすことが美徳とされる儒教文化による敬老精神や家制度の名残があり,家族介護者は被介護者の意向でサービスの利用を諦め,介護を抱え込みやすいことが明らかになっている(Takai et al., 2013辻村ら,2010).しかし,地域包括ケアシステムが推進されたこともあり,訪問看護(Kitamura et al., 2019),サービスの利用などのストラテジー(Takai et al., 2013)がとれる家族介護者は,日常生活の安定(西岡・高木・水戸,2014)や自分らしい生き方(横山・西田,2014)が可能な状況と考えられる.日本において家族介護者の在宅介護の体験に関する質的研究が蓄積されているが,それらの研究を系統的に収集し,知見を統合したメタ統合では,家族介護者による介護量の調整(安武,2011)や,ケアの委譲による家族内の能力の高まり(辻村ら,2010)などが示されている.一方,家族介護者が社会的な孤立(安武,2011),虐待(Kishimoto et al., 2013),徘徊に伴う重大事故(高井,2018)など避けがたい事象について体験することも報告されている.さらに近年の質的研究では,介護と仕事の両立ができない(長澤・荒木田・千葉,2019),サービスの利用の強制(Takai et al., 2013)なども明らかにされている.前述のメタ統合論文にはこれらの知見は含まれていない.

以上より,認知症高齢者の家族介護者が,介護において行っている効果的な対処についてはある程度明らかになっている.しかし,困難な状況に陥る家族介護者も相当数いることが想定される.先に述べた認知症高齢者の鉄道事故(高井,2018)などにより安全を重視する傾向が強くなっていることを考慮すると,家族介護者が体験する困難な状況も変化していると予測される.これらの変化した状況を反映した新たな知見を含めて現在の家族介護者の状況・体験をより詳細に明らかにすることが課題である.本研究では,日本の認知症高齢者を在宅介護する家族介護者の体験を,既存の質的研究の知見を統合して明らかにすることを目的とする.先行するメタ統合論文(安武,2011辻村ら,2010)が存在することから2008年以降の論文に焦点を当てる.本研究から得られる知見は,変化する環境の中で,認知症高齢者・家族介護者の立場に立ったサポートを検討する上で有益であると期待される.

Ⅱ  方法

1. 用語の定義

家族介護者:認知症高齢者を介護している家族.

体験:認知症高齢者を介護する過程において家族に生じた主観的経験.

2. 研究デザイン

Noblit & Hare(1988)のメタ統合を行った.

3. 対象論文の選定

和文献の検索では,医中誌Web版を用いて「認知症」and「家族or介護者」and「質的研究」をキーワードとし,原著論文,2008年以降で絞り込み217文献を抽出し,ハンドサーチにて3文献を抽出した.英文献はPubMed,CINAHLを用いて「Dementia」and「Family or Caregivers」and「Qualitative Research」and「Japan」をキーワード検索し,28文献を抽出した(最終2020年12月1日).重複文献を除外し,244文献のタイトルと抄録を読み,日本の認知症高齢者を在宅介護する家族介護者の体験が記述されていると判断した41文献を抽出した.文献レビュー,量的研究は除外した.さらに41文献を全文精読し,データの詳細記述がない24文献と目的の相違がある6文献を除外した.研究対象以外を含む研究の場合,対象者の90%以上が家族介護者,認知症高齢者であれば対象論文とした.対象論文の質評価はJoanna Briggs Institute批判的評価ツール(2020)により5点以上を採択した.対象論文の選定はPRISMA声明(卓・吉田・大森,2011),質的研究の報告ガイドラインENTREQ(Tong et al., 2012)に沿って実施した(図1).

図1

対象論文選定のフローチャート

4. 分析方法

Noblit & Hare(1988)の7段階の手続きにより分析した.①研究者の関心の明確化では,日本の認知症高齢者を在宅介護する家族介護者の体験を関心とした.②対象論文の選択,③対象論文の精読を経て,④対象論文相互の関連の検討では,各論文の著者,発表年,論文タイトル,対象者の特徴,分析方法,結果に記述されたカテゴリー,サブカテゴリー,コード,データを整理し,記述内容から共通性や相違性を比較検討した.⑤各対象論文の成果の解釈では,各論文の知見を集めて意味内容の共通するものをコード化し,⑥解釈結果の統合では,コードをサブカテゴリー,カテゴリーとして統合した.⑦統合結果の表現では,カテゴリー,サブカテゴリーの意味内容の定義づけを行った.一連の分析過程では研究者間で討議を重ね,分析の厳密性を高めるよう努めた.

5. 倫理的配慮

対象論文の複写は著作権法第三十二条の引用,第四十八条の著作物の出所の明示(e-Gov, 2021),引用の注意事項(文化庁,2021)を遵守した.

Ⅲ  結果

1. 対象論文の概要

対象論文は和文9件,英文2件だった.家族介護者の総数は106名,女性73名,年齢20~80歳代,続柄は嫁が最多だった.被介護者の総数は106名,年齢50~100歳代だった.介護期間は6ヵ月~14年以上(記載有8論文)だった.分析方法は修正版Grounded Theory Approach4件などだった(表1).

表1 研究対象論文の概要
No 著者
(年)
論文タイトル 対象者の特徴
①年齢②性別(数)
③続柄(数)④介護期間(年)
分析方法 カテゴリー
1 渡辺(2008) 認知症高齢者を介護する嫁の介護意識の変容 ①平均57.3歳 ②女性7名 
③嫁7名 ④平均7.1年
M-GTA 有り様を綯う/関係性の転回/安定への弾み/回天/相互接近の自覚化/限界の拡大化
2 廣瀬ら(2010) 在宅の認知症患者を介護する家族の予期悲嘆とその関連要因の質的研究 ①平均64.3歳 
②男性2名.女性10名 
③妻4名.娘3名.嫁3名.息子1名.婿1名
質的帰納的記述研究 患者の大切な特性の喪失/介護者の大切なものの喪失/受けとめることができない/怒らずにいられない/やりきれない思い/自分に責任がある/不安と寂しさ/認知症を受け入れる/愛情と関心を持ち続ける/認知症患者に合わせる/喪失の中から意味を見出す/良い関係を生む要因/関係を悪化させる要因/周囲の協力と感謝/周囲への不信
3 木村ら(2011) 認知症高齢者の家族が高齢者をもの忘れ外来に受診させるまでのプロセス ①30~70代 ②男性3名.女性17名
③娘9名.嫁5名.妻3名.息子2名.夫1名
M-GTA おかしな言動への気づき/疑いつつも正常の範疇と解釈/解釈できない困惑といらだち/容認し状況に対処/疑いの増大と受診への決意/介護の危機感による支援の希求/他者からの受診の後押し/受診上の困難を感じ躊躇/納得の診断を得るまで立ち向かう
4 Takai
et al.(2013)
Family caregiver strategies to encourage older relatives with dementia to use social services ①40~70代 ②男性7名.女性9名 
③息子5名.嫁4名.娘3名.夫2名.妻2名 ④1~14年
GTA 高齢者がサービスを利用するか決定できるようにする/最も害の少ないサービスを希求し,探索する/高齢者に合わせてサービスを調整する/高齢者にサービスの利用を説得する/高齢者にサービスを合わせる/高齢者にサービスの利用を強制する/介護者の戦略の選択に影響を与える要因
5 西岡ら(2014) 在宅で認知症高齢者を介護する主介護者の日常生活を安定させるための対処行動 ①30~80代 ②男性5名.女性8名 
③娘4名.夫3名.嫁3名.息子2名.妻1名 ④平均4.2年
M-GTA 転ばぬ先の気配り/資源の発見と活用/感情の爆発/観念する/時間のやりくり/やっかいをいさめる/これまでの介護の意味づけ/未来への希望/思いやる
6 横山ら(2014) 認知症高齢者の在宅介護をしている家族介護者の自分らしい生き方を支える要因 ①平均65歳 ②記載無3名 
③記載無 ④平均2.9年
質的
記述的
研究
育っていく自分を自覚/自分流の介護の獲得
7 渡邉ら(2015) 軽度認知症高齢者との関わりの中で家族介護者が抱く気持ちの推移とコミュニケーションの変化 ①平均66.9歳 
②男性1名.女性7名 
③嫁3名.妻2名.娘2名.夫1名 
④平均5.9年
M-GTA 常に目が離せない仮性生活行動への気がかり/行動修正を促す工夫/対立を招く対応への自責/試行錯誤の無意味さの実感/家での主体的生活行動の容認
8 秋吉ら(2016) 認知症診断初期にある認知症高齢者の家族介護者の心理 ①平均66.2歳 
②男性2名.女性4名 
③妻3名.夫1名.息子1名.娘1名
質的
帰納的
研究
変化の気づき/疑念解消に向けた模索/抱えきれない困惑/安堵と焦燥感/落胆と医療への期待/現状を見守る心積もり/介護者としての家族役割の決意
9 米山ら(2018) レビー小体型認知症者を在宅で介護する家族の体験―家族が異変に気づいてから診断を受けるまで― ①20~60代 ②男性1名.女性6名 
③娘3名.孫娘1名.妻1名.息子1名.嫁1名 ④1.1~8.5年
質的
記述的
研究
生活の中での違和感/本人の変化に対する調整/幻覚症状や誤診による翻弄/認知症の可能性への気づき/認知症専門医による治療への期待
10 長澤ら(2019) 認知症の親を自宅で介護している息子が感じる困難 ①40~60歳 ②男性9名 
③息子9名 ④2~10年以上
質的
記述的
研究
要介護者と思うように意思が伝わらない/気持ちを切りかえないと介護できない/要介護者の体調管理は思うようにいかない/家事や介護には慣れない/女性物の衣類への抵抗感がある/家族と意思の疎通ができない/介護と仕事との両立ができない/将来への見通しがつかない
11 Kitamura et al.(2019) Familial caregivers’ experiences with home-visit nursing for persons with dementia who live alone ①61.4歳 ②女性5名 
③娘2名.嫁2名.烏帽子親(後見人)1名 ④5.2年
質的
記述的
研究
不安と恥ずかしさ/孤立と苦悩/訪問看護による安心感と心理的ストレスの軽減/認知症の人の病気とケアの理解を深める/被介護者の前向きな変化/適切なサポートが提供されると被介護者はBPSDを持ちながらも一人暮らしができる

2. メタ統合の結果

家族介護者の体験は10カテゴリーに統合された(表2).カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを[ ],データを「 」,補足説明を( ),文献番号を( )で示す.家族介護者は【自分なりの対処の模索】をし,被介護者との関係や周囲のサポートに応じて【介護することを引き受け】ていた.認知症によって被介護者の性格特性や言動が変容し,【介護をめぐる家族関係の乱れ】をもたらすこともあった.近隣に対して【家族が認知症であることを隠秘】することや,サポートにつながらず【サービスの利用の難しさ】を感じることもある状況で,介護を継続するため【被介護者の安全を守るための管理】として行動を制限する場合もあった.介護を振り返り,後悔や,【介護による将来的な支障への不安】を抱くこともあった.一方,【主体的なストラテジーの構築】ができる家族介護者は,生活を立て直し,【介護を続けるための工夫】を行い,肯定的に【介護体験を意味づけ】ていた.

表2 日本の認知症高齢者を在宅介護する家族介護者の体験
カテゴリー サブカテゴリー
自分なりの対処の模索 おかしな言動への気づき
自分なりの原因模索
本人の気持ちを汲み取る配慮
受診につなげる努力
良いと思うことを試す
症状や誤診による孤立無援
介護することの引き受け 介護するのは当然のこと
恩返しのための介護
先祖に受け入れられるような介護
介護するのは仕方ない
介護をめぐる家族関係の乱れ 被介護者を喪失する感覚
被介護者との力関係の逆転
やりきれない思い
怒らずにはいられない
周囲への気兼ね
口出しされることへの不満
被介護者と他の家族の間を取り持つ
家族が認知症であることの隠秘 周囲に気づかれたくない
認知症の家族の話をしない
サービスの利用の難しさ サービスに関する知識や情報の不足
被介護者のサービスを利用しない選択の尊重
被介護者のサービス利用の強制
被介護者の安全を守るための管理 先を見越した目配り
行動修正を促す工夫
安全を守るための行動制限
自分の介護に対する後悔
介護による将来的な支障への不安 健康状態の悪化の不安
介護継続のための生活の気がかり
介護と他の役割の両立の難しさ
主体的なストラテジーの構築 家族内での介護の役割分担の明確化
被介護者に合うサポートの探求
周囲のサポートによる安定方向への導き
家族全体のタイミングを計ったストラテジー
介護を続けるための工夫 介護のための生活制限
自分の生活の立て直し
被介護者が穏やかにいられる工夫
被介護者のペースに合わせた関わり
介護体験の意味づけ これまでの介護の意味を見出す
人とのつながりの実感
自己の成長の自覚

3. カテゴリーの説明

1) 【自分なりの対処の模索】

家族族介護者は被介護者の[おかしな言動に気づ]くことや,書籍やインターネットなどにより[自分なりの原因模索]をすることで,認知症を疑いつつ正常の範疇と解釈することもあった.また,やりたいことができなくなるなどの[本人の気持ちを汲み取る配慮]を行っていた.被介護者が受診に抵抗を示す家族介護者は[受診につなげる努力]を行い,治験を利用するなど[良いと思うことを試]していた.一方,医療機関につなげても,「母がどんどんどんどん悪くなってくときに,なぜかということがわからないんですね.(略)医者もわからなかったわけですけども,誰も助けてくれない,だから非常に孤独で,孤立無援な感じ,医者も助けてくれない(略)」(No. 9)のように[症状や誤診により孤立無援]となる家族介護者もいた.

2) 【介護することの引き受け】

家族介護者としての自覚や責任を認識し,これまでの被介護者との関係性により[介護するのは当然のこと]と捉えたり,[恩返しのために介護]を引き受けていた.[先祖に受け入れられるような介護]をしようとする家族介護者は「(略)お年寄りをみるのにさ,粗末にみててさ,いつか(私も)亡くなるわけじゃない.(略)あの世に行ったときにそんな粗末にしてたら,先輩たちに受け入れてもらえないような気がしちゃう(略)」(No. 5)と語った.一方,副介護者がいないことから[介護するのは仕方ない]と捉えていた.

3) 【介護をめぐる家族関係の乱れ】

家族介護者は,認知症によって性格特性や言動が変容する[被介護者を喪失する感覚]や,[被介護者との力関係が逆転]し,これまでの家族の形が少なからず乱れる体験をしていた.一方,被介護者の言動に[やりきれない思い][怒らずにいられない]状態になることもあった.他にも,家族介護者は「こっちは朝晩連絡帳書かないといけないでしょう.(略)それが気使いますね.余計なことは書けない.私が思ってる事を書いたら患者(被介護者)が主人にこぼすときがあるんですよ.その時には,そんな事書かなくてもって主人が言うわけですよ(略)」(No. 2)という[周囲への気兼ね]を語った.「妹は法事の時に夫婦で来るんですよね.何年って来ないくせして『おばあちゃんやせた』とか,4年も見なかったらやせてますよね.それと,字が書ければ『ぼけてない』とか(略)言いきるんですよね(略)」(No. 2)のように身内から[口出しされることへの不満]を抱くことや,[被介護者と他の家族の間を取り持つ]こともあった.

4) 【家族が認知症であることの隠秘】

家族介護者は[周囲に気づかれたくない]ことから,「周囲から(略)気になる言動のことは言われるが,はぐらかしている」(No. 8)といった体験や,家族の認知症の拡散を恐れて「ここでそういう愚痴を話しますと,すぐ人の噂の種になって,まともに伝わりませんよね.話す人(が)脚色して,おもしろおかしく嘘がはいります.それは,もう,今までいろいろ経験してますから絶対に話しません」(No. 2)と周囲の人に[認知症の家族の話をしない]ようにして隠そうとしていた.

5) 【サービスの利用の難しさ】

[サービスに関する知識や情報の不足]を体験したり,[被介護者のサービスを利用しない選択を尊重]したりする一方,[被介護者のサービス利用を強制]する家族介護者は,「(略)身体はとても小さいのに,力強く拒否して.とても大変でした.騙そうとしたのですが,うまくいきませんでした.他の人が待っていると伝えましたが,本人は理解できず.行きたくないと言った…だから,強制する以外にできることがなかった」(No. 4)と語った.

6) 【被介護者の安全を守るための管理】

被介護者に危険が及ばないように家族介護者は[先を見越した目配り]をしていた.周囲への迷惑になる場合には,繰り返しの説明や,紙面への記載など[行動修正を促す工夫]をしていた.徘徊などのBPSDを呈する被介護者の場合には,「安定剤,夜飲ませるんですよ.私も眠れないんで,眠れなくて困るんで」「俳徊するので私が夕食の用意をしている間,玄関を閉めるようにしとくんです」(No. 5)のように,家族介護者は[安全を守るための行動制限]をすることもあり,介護場面を振り返り,「(略)あんなことやってしもうた,あんなこと言うてしもうた,(本人が)いないときにね,かわいそうなことしてしもうたな」(No. 7)と[自分の介護に対する後悔]を感じていた.

7) 【介護による将来的な支障への不安】

被介護者の認知症の進行や年齢とともに家族介護者の心身の[健康状態の悪化の不安]や,将来の見通しがつかない[介護継続のための生活の気がかり]を抱えていた.家族介護者は「これ以上日中一人にしておけない状態にまでなると,時々泊りの出張もあるし,仕事をやめようかと考えますね」(No. 10)といった[介護と他の役割との両立の難しさ]を語った.

8) 【主体的なストラテジーの構築】

介護を続けるために[家族内で介護の役割分担を明確化]し,介護の範囲と責任,経済的負担の配分を決定していた.また,家族や地域住民,専門家など[被介護者に合うサポートを探求]し,[周囲のサポートによる安定方向への導き]をする家族介護者は「(略)ご近所の方に恥ずかしいとかっていうことじゃなく(略)ひとりで歩いていたら,あのすみませんけど知らせてくださいってことは,みなさんに言いましたね(略)送ってきてくださった方もいます」(No. 5)のように周囲の理解や協力を得ていた.他にも「病院から夫が退院したことを突然知らされました.家族みんなが,脳卒中後の認知症の夫の世話ができると思ってなかったので,最初は強制的にレスパイトを利用しました.のちに私と家族が認知症の夫を家で看れると思ったので,被介護者がサービスを利用するかどうかを決めてもらうようにしました」(No. 4)のように[家族全体のタイミングを計ったストラテジー]をとっていた.

9) 【介護を続けるための工夫】

介護を続けるために「私の自由が全くなくなって,楽しみというのがまず無くなりました.(略)お稽古事を習いに行ったりしていました.でも長時間出かけることはできないんです(略)」(No. 2)と社会的な活動を控えて[介護のための生活制限]をしていた.一方で,介護との折り合いをつけて[自分の生活を立て直し],心身ともに解放される時間を作っていた.他にも,[被介護者が穏やかにいられる工夫]や,「もう,自然に任せるみたいな気持ちになり始めたかなっていう感じですね.やっとです.大変でしたね.夜はねえ,どうしようかと思ったですね.だから,そういう時はしょうがないから,夜でもなんでもお茶でも飲みませんかって言ってね.(略)そうすると,ちょっと落ち着いて(略)」(No. 1)と[被介護者のペースに合わせた関わり]をしていた.

10) 【介護体験の意味づけ】

家族介護者は[これまでの介護の意味を見出す]ことや,「昔は,結構悪い面ばっかり考えて,全然いい面って入ってこなかったんです.(略)家族の一員としてね,あのー,おばあちゃんがいれば,ちょっと玄関の戸を開けて出かけても,鍵は閉めて行くんですけれど,何故か居てくれるっていう安心感ってあるなって(略)」(No. 1)のような[人とのつながりの実感][自己の成長を自覚]していた.

Ⅳ  考察

本研究では,2008年以降の質的研究に基づき,日本の認知症高齢者を在宅介護する家族介護者の体験として,10のカテゴリーが統合された.過去のメタ統合(安武,2011辻村ら,2010)にはない特徴的な体験として,家族介護者が【家族が認知症であることの隠秘】をし,【被介護者の安全を守るための管理】[怒らずにはいられない]体験をしていたこと,その一方で,【主体的なストラテジーが構築】できる家族介護者は[被介護者に合うサポートを探求]し,介護継続が可能となっていたことなどがあげられる.以下,本メタ統合で明らかになった家族介護者の特徴的な体験と,今後の課題について考察する.

1. 認知症高齢者の安全を守ることと相反する行動制限

【被介護者の安全を守るための管理】から家族介護者がBPSDによる徘徊防止策として玄関を閉めたり,夜間に安定剤を内服させるといった行動の制限やサービス利用の強制など,安全を守ることと相反する行動を取ることが明らかにされた.このような行動の制限は,被介護者の尊厳や安寧が守られない状況につながる可能性がある.本研究は2007年の認知症高齢者による鉄道事故後の家族への損害賠償訴訟(高井,2018)が行われた時期の論文を含むメタ統合であり,辻村ら(2010)安武(2011)の過去のメタ統合になかった被介護者の安全を重視するカテゴリーが得られたと考えられる.安全の重視には,周囲のサポートが必要となるが,本研究の結果,【介護をめぐる家族関係の乱れ】によるネガティブな体験や,【家族が認知症であることを隠秘】し,周囲に気づかれないように距離を取ろうとする体験が明らかになった.これまでのメタ統合では,被介護者の認知症により家族との亀裂(Oh et al., 2020)や,社会的な孤立(安武,2011)が報告され,これらのネガティブな体験は,本研究の【介護をめぐる家族関係の乱れ】と類似する結果と言える.【家族が認知症であることの隠秘】については,家族介護者が被介護者のプライバシーや尊厳を守ろうとする行動とも捉えられる一方で,被介護者のありのままの姿を周囲と共有できない状況を生み出し,家族介護者の隠秘や孤立を助長していたと考えられる.認知症の人と家族介護者に立ちはだかる偏見や社会的排除といった障‍壁は世界的な課題である(Alzheimer’s Disease International, 2012).これらを克服するためには,家族介護者・市民への普及・啓発,認知症の人々とその家族の地域社会への包摂など,人々の理解とサポートが必要となる.

2. 家族介護者の介護を継続するための主体的なストラテジーの構築

【主体的なストラテジーの構築】では,最初は被介護者に強制的に外部のサポートを導入していた家族介護者が,他の家族との関係性を構築し,家族が介護の自信がつくのを待って[家族全体のタイミングを計ったストラテジー]をとることが明らかになった.このようなストラテジーがとれる家族介護者は,時間をかけて被介護者を含む家族全体の生活を立て直すといった【介護を続けるための工夫】を行っていた.一方でストラテジーが困難な家族介護者は【介護をめぐる家族関係の乱れ】【家族が認知症であることの隠秘】を体験することで,相談先がわからないなどの[サービスに関する知識や情報の不足]に繋がっていくと考えられる.本研究では,韓国のOh et al.(2020)のメタ統合の結果と同様に,儒教文化による敬老精神や家制度の名残がみられ,家族介護者は介護するのは当然,恩返し,先祖に受け入れられるような【介護することの引き受け】をしていたことが示され,[介護のための生活制限]に至りやすい状況にあると考えられた.この状況への対応として,被介護者の生活を保つと同時に,介護者自身の生活を維持することが必要となる.先行研究では,定期的な余暇活動や自助グループへの参加は家族介護者の介護負担やストレスなどの介護への悪影響を減らすことが示されている(Hirano et al., 2016Schüz et al., 2015).家族介護者が【主体的なストラテジーの構築】ができるか否かが生活の維持に欠かせないと考えられる.ストラテジーがとれる家族介護者は,夜中でも一緒にお茶を飲むといった[被介護者のペースに合わせた関わり]や,[被介護者が穏やかにいられる工夫]を凝らして被介護者への生活の質を保つと同時に,[自分の生活を立て直し]ており,これらは生活の維持につながる可能性があるだろう.しかし,対象論文中では,やっとそうなった,昔は違った,との記述もあり,簡単に被介護者に合わせられるようになったわけではないことも容易に推察できる.これらの対処はただ長く介護していれば誰しもができるわけではなく,介護を継続していても[介護のための生活制限],すなわち生活の質を下げる形で生活する者もいる.そのため,表面上では介護を継続できている家族介護者であっても過度な負担を負わないようなストラテジーの構築ができるようにサポートすることが必要となる.

3. 日本の家族介護者の変わらない体験と新たに明らかになった体験

上記にも述べたが,本研究の家族介護者は自分の生活を控えて[介護のための生活制限]を体験していた.この体験は,敬老精神や家制度などの社会文化的背景に影響された家族や家を守るという以前と変わらない日本の家族介護者の特徴的な体験と考えられる.一方で,近年,上記の社会文化的背景は現在の日本では薄れ,個を優先させる家族観も育っており,日本人の家族観そのものや同一家族内でも世代間の相違が出るなど価値観の大きな葛藤が起こりやすいことが報告されている(鈴木,2012).認知症高齢者の増加に伴い事故の危険性が認識されたことからか,家族介護者が[介護と他の役割の両立の難しさ]や被介護者の言動に[怒らずにはいられない]などを感じ,周囲の協力が難しい場合に一人で介護しようと[被介護者のサービス利用の強制][安全を守るために行動制限]をしていることが明らかになった.先行研究では,介護者が周囲の評判や世間体を気にして(池添・野嶋,2009),被介護者の行動制限をしていることが示されているが,本研究で明らかになった行動制限には,認知症高齢者の事故により,安全を守るための制限となっていることが少なからず影響している可能性がある.以上のように,本研究では,日本の家族介護者に従来から見られた家族を大切にするという体験と,充実するサービスの中でサービスを強制的に利用するという新たな体験の両者が明らかになったといえる.

近年の日本の家族介護者へのサポートとして,介護者の精神的身体的な負担の軽減や生活と介護の両立の支援(厚生労働省,2015),介護休業の分割取得(厚生労働省,2021),民間企業による認知症保険の増加などがあげられる.しかし,これらのサポートは一時的なものや事故後のものが多く,家族全体の生活を継続的に支える包括的なサポートは不足していると考えられる.日本は認知症戦略や予算規模の比較において,欧米先進国に大きく後れを取っており(成松・宮野・藤井,2018),認知症の診断前・初期の段階で行方不明や交通事故が発生する割合が高い(Petersen et al., 2016).被介護者の安全と自立を守ることと,介護者自身の生活を守ることを両立できる家族全体のニーズに沿ったサポートを検討し,家族介護者が強制や行動制限を行わずに,家族を大切にすることができる環境を整える必要がある.

4. 被介護者・家族介護者の立場に立ったサポートの必要性

家族介護者は,【自分なりの対処の模索】をし,医療機関につなげるが,診断が得られずに[症状や誤診により孤立無援]になることもあった.特にレビー小体型認知症は,病初期には記憶障害が目立たず(藤城・太田・井関,2016),神経精神,睡眠など多様な症状を呈するため(Taylor et al., 2020),診断に時間を要することが指摘されており(米山ら,2018),被介護者・家族介護者の立場に立って【自分なりの対処の模索】[症状や誤診による孤立無援]の予防,【サービスの利用の難しさ】を改善していく取り組みが必要となる.【サービスの利用の難しさ】を改善するためには,英国でThe Carers Act(GOV. UK, 2016)によって介護者の権利やサポートを規定したことで,介護者が何を必要としているのかに焦点を当てたサポート,例えば,介護者が夜に十分な睡眠をとったり,孤独や孤立を減らすためのコミュニティ活動に行くことが権利として認められた自由度の高いサポートが参考になるだろう.

5. 本研究の限界と今後の課題

本研究では,家族介護者の質的研究を対象としたが,今後,認知症高齢者の体験についての質的研究が蓄積され,認知症高齢者本人の体験に基づいたサポート体制を検討していくことが望ましい.本研究で示された家族が認知症であることを隠秘することや,行動制限などは虐待とは言えないものの,やむを得ず行ってしまう不適切な介護行動であるといえる.これらの不適切な介護行動についてより詳細に明らかにし,予防やサポートについて検討していく必要があるだろう.

Ⅴ  結論

本研究の結果,認知症高齢者を在宅介護する家族介護者の体験は10カテゴリーに統合された.今後,被介護者の安全と自立を守ることと,介護者自身の生活を守ることを両立できる家族全体のニーズに沿ったサポートを検討していく必要があ‍る.

謝辞

本研究の分析対象となった一次論文の著者に深く感謝申し上げます.本研究の内容の一部は日本精神保健看護学会27回学術集会にて発表した.

著者資格

TTは研究の着想およびデザイン,文献の選定,データ分析,論文作成を行った.HF,KN,NFはデータの分析,論文作成を行った.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.

利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
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